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診断メーカーのお題回収です。
寝る直前、相手が静かになったので自分も寝ようとした瞬間、愛しそうに抱き寄せられ、聞いた事のない真剣な声で「ずっと一緒にいたい」と言われて、固まってしまうセイ
https://shindanmaker.com/597297

※カタセイ付き合い始めてから三ヶ月くらい。まだ一緒には住んでません

ずっと一緒にいたい


街路樹達が色づき始めた季節、金曜日の夜。
カタバと駅で待ち合わせをして、一緒に中華料理を食べて、一緒にこの部屋に帰ってきた。

ちょっとだけ飲もうって言われて、コンビニで買ってきた温泉卵と、カタバが作ったパプリカのピクルスをつまみに話しながら飲んでいたところに事件は起こった。

深い溜息を一つこぼして、ソファの上で膝を抱えた俺は、一瞬廊下の方を振り返って、それからまた、足元に視線を戻した。

この場所から、ちょっと振り返っただけですぐに見えるような場所にカタバがいるとは思わなかったし、それよりなにより、話し声が聞こえないんだから、きっと電話は繋がっていない。案の定、カタバはすぐに戻ってきて、ソファの俺の隣に座った。

「すまん、セイ。繋がらなかった」
「…………」

応えない俺は、実を言うと今少し、不貞腐れていたりする。
「金曜の夜だ。どうせどこかで遊んでいるのだろう。…セイ、もし今日繋がらなくとも、絶対に、断っておくから、機嫌を直してくれないか?」

さっきから、カタバが電話を掛けている相手に、俺は会ったことはないけれど、カタバから聞く話から判断するに、そうなんじゃないかと俺も思う。
とにかく派手好きで、女好きで、金持ちで、週末になると毎度、複数の女性を連れて飲み歩いている。カタバから聞かされたスクナさんの印象はそんな感じだ。

遊び人だとは言っても、本人の肩書は社長だし、仕事中は別人みたいに厳しいらしいし、カタバの会社にとっては重要な取引先みたいだし。なによりフルクマグループって言ったら、俺だって知ってるくらいの財閥だし、そんな人に、テニスに誘われたから来週会えませんっていうのは仕方ないと思うんだ。

所詮社会人と学生なんて立場が違うし、カタバが時々、仕事を持って帰ってきて俺が寝てる間にやってるのも知ってたし、それくらいは我慢しようと思う。
たとえそれが、実は大学の時からずっと、もう10年もカタバのことをこっそり好きだったスクナさんだとしてもだ。

「なぁ、セイ」
「……俺が、行かなくていいんだったら、別に、イイ」

そもそも、俺と付き合うようになる以前は、4人くらいの社長仲間でよく、ゴルフに行ったりテニスに行ったり、冬はスキーに行ったりしていたんだそうだ。

そこに突然、俺っていう恋人ができて、土日はきまって俺と過ごすようになって。そろそろ『最近付き合い悪いな』って言われそうだから一回行っておかないとっていうカタバの思惑もあって、誘いに乗ることにしたらしい。そこまではいい。

『ああ、そーだカタバ君!セイ君も連れておいでよ』

あまりにも予想外の言葉に、呆気にとられたカタバが何も言えずにいるうちに、話題が変わり、断る暇がなかったのだという。

「もちろん、セイが人見知りなことはわかっている。だから、断るつもりだったけれど、いまさら蒸し返すのもというくらいに話題が変わってしまってな…」

いつになくカタバの歯切れが悪い。『そもそも、いきなりのスクナの思いつきだったし、あれだけすぐに流れたということは本気じゃないんだろうと思って放っておいた』というのがカタバの言い分で、そのまま終わってくれるなら俺もなにも聞かなかったんだろうけど、そうじゃなかった。

一時間位前だろうか。『来週セイ君に会えるの楽しみにしてるね!』という趣旨のメールが、カタバの携帯に届いたんだ。
そこで初めてこの経緯を聞いて、それからずっと、俺は不貞腐れているというわけ。

そもそも、いくらカタバの友達でカタバが一緒にいたって、見知らぬ人だらけのところになんて行きたくないし、ましてやテニスなんて一度もやったことがない。

更に言うなら、ずーっとカタバのことを好きだった人なんかに、できれば会いたくない。俺のいないところでカタバとスクナさんがっていうのも確かに嫌だけど、仕事でほぼ週に一回は会うっていうし、テニスには2人で行くわけじゃないっていうから、そこは仕方ないから我慢する。

「セイ」
名前を呼ばれて、視線だけを隣に向けると、恐る恐る伸びてきた手が、一旦躊躇うように引っ込んで、それから。

「俺が好きなのは、セイだけだ」
そうっと頬を撫でられた。
俺が振り払わないことに安堵したのか、そのまま距離を詰められてぎゅうっと膝を抱えたまま横から抱きしめられる。

「セイ、好きだ。…すまなかった」
カタバは優しい。
俺の嫌がることはしないし、言わないし、こうやって何回も、好きだって言ってくれる。

自分の好きな人が、自分を好いてくれていた。それだけで、空も飛べるほど嬉しいのなんて最初だけだ。そこから、一週間、二週間、一ヶ月、二ヶ月…と時間が経てば、当然それだけじゃない感情だって生まれてくる。

本当に俺でいいのかな。カタバこんなにカッコイイんだからやっぱり普通に彼女作った方がいいんじゃないのか?ただでさえ俺は、なんにもできないただの学生だし。カタバは多分気にしてないだろうけど、やっぱりそこは、歳の差とか、格差っていうものを、感じずにはいられない。週末は、一緒に何処かでご飯を食べてから、この部屋に来るっていうのが、いつものパターンになりつつあるけれど、俺がお金を出したことなんてないわけだし。

普段の生活で接点のない俺達は、当然会えない日の方が多くて、毎日声を聞いていたって、メールのやり取りをしていたって、それだけで満足できるわけがない。せめて、こうして一緒にいるときくらいは、不安とか、恐れなんて考えないようにできたらいいんだけど。

なにかを感じているんだろうか。カタバは俺がそんなくだらないことを考えている時には必ずといっていいほど、抱きしめて好きだと言ってくれた。けれど、それでもこの不安が消えることはないんだろう。

「セイ、こっち向いて」
体ごと、横から抱きしめられているのが心地よくて、体重を預けていた俺の耳にカタバの声が届いて、そっと顔を上げると柔らかいくちづけが降ってきた。
ぎこちなく唇を啄んでいたカタバからのキスがだんだん深くなってきて、俺はたまらなくなって、抱えていた膝を下ろしてそのまま両腕でしがみつく。

「ん…、ぁ」
初めてくちづけを交わしたあの日から変わらない、なぜだかカタバとのキスは、嫌なことを全て忘れさせてくれるくらい、気持ちがいい。それどころか、すればするほど、気持ち良くなっていってる気さえする。正直、キスしている時と、セックスしている時だけは、全ての憂いから解放されて、カタバだけを感じることができた。

力が抜けた身体を、太い腕でぐいっと支えてくれたカタバに甘えてこのままずうっとこうしていたいなんて気になってくる。
「セイ。…今日はもう、寝るか」
「……まだ、10時だけど?」

いつも、そろそろ寝ようかって寝室へ行くのは日付が変わる頃。することをするのはもちろんその後だったりする。
「たまにはいいだろう?今日は早く寝て、明日はどこかへ、出かけようか」
「どこかって、どこ?」

こんな時間から寝るのが嫌なわけではないのだけれど、出かけるよりは、一日中こうやってくっついていたいなぁなんて思っている俺がいる。
「うーん。…水族館、とか?」
「それはちょっと、行きたいかも」
「水族館なら、セイも喜んでくれるかなと思って、考えてあったんだ」

自分の喜ぶことを考えてくれてたってのが嬉しくて、俺はカタバの首に腕を回して抱きついた。とりあえず、もう、今日は、スクナさんのことを考えるのはやめよう。今カタバと一緒にいるのは俺なんだから。

「それじゃあ、ちょっと片付けるよ」
口ではそう言いながらも、カタバは俺の頭をそっと撫でてくれていて、無理に離れようとはしない。

2度、3度。唇を重ねてから、ようやく俺は、カタバから離れて、テーブルの上に出しっぱなしだったお酒の瓶と空っぽの自分のグラスを持った。

「お酒、いつものところでいいんだよな?」
「ああ、グラスも、置いておくだけでいいから」
自分のグラスに残っていたお酒を飲み干して、空になった温泉卵とピクルスの器を持ってカタバも立ち上がる。

寝室に入って、ベッドの上に座っていたら少し遅れてやってきたカタバに肩を抱かれて、一緒に布団の中に入った。腕枕でぎゅうっと抱きしめられて、脚を絡ませる。少しずつ寒くなってきて、朝晩はぐっと冷え込むこの季節、少し熱いカタバの体温は、俺にとって、本当に安らぎと心地よさを与えてくれるものになっていた。

この調子だと、多分今日はするつもりないのかなと考えてから、さっきまで自分が、散々不貞腐れて返事もしなかったことを思い出した。

あれだけ俺が、むすっとしてたんだ、カタバはきっと、まだ気にしてる。キスと、絶対に断るからっていう言葉で、すっかり機嫌なんて直っていたけれど、俺が口に出していないから、そんなこと、わかるはずがない。結局スクナさんに電話が繋がっていないんだから、尚更カタバは気にしているだろう。そんな状態でセックスなんて、カタバがするわけなかった。

だからと言って、もう機嫌直ってるからしようなんて、俺の口からは言えない。カタバとすることばっかり考えているなんてバレたら、恥ずかしくて死ねる。

「セイ」
背中をゆるゆると撫でられている心地良さを感じていたら、不意に名前を呼ばれて顔を上げた。顔を上げたところに、唇が降ってきて軽く、触れるだけのくちづけを交わす。

「こうやって触れているだけで満たされるのは、なんなんだろうな」
「満たされる…?」
背中を撫でていたカタバの大きな手のひらが、頬を撫でて頭を撫でてそしてまた、するすると肩から背中をたどっていく。

「一週間の仕事の疲れが一気に吹っ飛ぶようだ。…実は案外、俺は仕事が好きでな。月曜日が嫌いだなどと、今まであまり、思ったことがなかった」
まだ付き合って三ヶ月だったけれど、カタバが仕事人間だっていうのはなんとなくわかる。だから、俺は黙って聞いていた。

「明日どこかへ行こうと、言っておかなければ、一日中、ずっとこうしていたくなる。案外俺は、駄目な人間だったのかもしれん」
「…カタバが駄目だなんてことは、ないと思う」

そんなこと言われたら、俺だって月曜が来なければいいと、毎週思ってるし、1日中こうやってくっついていたいだなんて四六時中思ってるし、このまま時間が止まればいいとまで思ってる。もっと言うなら、エッチだって毎日したいし、毎日こうやってカタバに抱きしめられて眠りたい。

そうやって、自分の気持ちを冷静に分析できて、正直に言葉にできる分、少なくとも俺よりカタバの方がマトモだと思う。俺なんて、心や身体だけじゃなくて、カタバの、全部が欲しい。

カタバが毎日着ていくスーツになりたい、カタバが持っている鞄になりたい、カタバが会社で使っているパソコンになりたい、今カタバが呼吸している、その空気になりたい。こんなに自分が重症だなんて、気づきたくなかった。

「そうか。…セイが、そう言ってくれるなら、それでいいかな」
きゅっと、カタバの腕の力が強くなって、俺はそのままカタバの広い胸板に顔を埋めた。

そのまましばらく言葉は途切れて、静寂だけが広がるけど、不思議と嫌な気はしない。今日はこのまま寝るのかな?俺も寝ようかなと思って静かに瞼を下ろしたとき。

「セイ。……ずーっと、一緒にいたい。…好きだ」
聞いたことのない真剣な声が耳に届いて、俺は固まってしまった。

なんて答えたらいいのかわからなくて、今聞いた言葉が信じられなくて、動けずにいた俺の耳に、更にカタバの声が届いた。
「もう眠ってしまっていたかな。…好きだよ、セイ」
頭の上にキスされた感触があって、そして。しばらくすると、静かなカタバの寝息が聞こえてきた。

俺でいいのかどうかなんてわからない。
このまま一緒にいていいのかもわからない。

けれど、カタバが好きだって言ってくれるうちは、俺自身が、こうしていたいと思ううちは、離れたくないなと、そんなことを考えながら、俺も眠りに落ちていった。






















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