□title list□
 ※水色部分にカーソルを合わせると
 メニューが出ます

寝正月


「くしゅん」
どうやら、自分のくしゃみで目が覚めたらしい。
裸のままの身体の上には布団が掛かっていた、はずだったが、いつの間にかずり下がった掛け布団からセイの肩がはみ出していた。

「寒いか?すまない」
同じくセイのくしゃみで起きたのだろう、カタバが布団を引っ張り上げて、肩を抱いてくれた。

カタバの広い胸に顔を埋めると、カタバの匂いに包まれる。さっき、眠りに落ちる直前まで身体を重ねていて、汗だくのそのまま眠りに落ちたのだから、お互い汗臭いはずなのに、セイはカタバの汗の匂いすら、好きだった。

「お前は甘い匂いがする。海の匂いと言われればそんな気もするんだが、それより甘い。なんとなく、スイカやメロンに近いような気もする」
冷たくなったセイの肌を擦るように撫でていたカタバの大きな手のひらがそうっと後ろ髪をすく。柔らかなセイの髪に顔を埋めて、匂いを確認しているようだ。

「あんなに汗をかいたはずなのにな」
髪や身体の匂いを嗅がれるような仕種がなんだか照れくさくてセイは身を捩った。

「それはカタバも一緒だ。お前こそ、甘い匂いする。といっても甘ったるいわけではないし、スイカでもメロンでも、ない気がする」
「一緒に暮らして、これだけ肌を重ねていても、同じ匂いにはならないということだな」

いっそ、心も身体も完全にカタバと一つに溶け合って混ざり合ってしまいたいと思っていたセイにとって、それは悲しい情報だったが、どうやらカタバはそうではないようだ。小さくため息を零したセイに気づいたのか気づかなかったのか。カタバはそれまでより強く、セイの肩を抱く。

「お前のこの匂いを一番近くで、一番知っているのは俺だということか。悪くないな」
確かにそうかもしれない。そもそも、香水でも付けていなければ、そう日本人は体臭なんてしない。体臭がしたとしても、離れていれば当然、匂いなんてわからない。
これは間違いなくカタバの匂いなんだと、すぐにわかるほど毎日一緒に、近くにいることは、確かにかけがえのないものなのかもしれない。

「セイ」
ぎゅうっと身体を抱いていた腕の力が緩んで、顔を上げるとそのまま唇が重なる。
上唇と下唇を交互に甘噛みされて、溢れた吐息の隙間から舌が交わる。二人の細胞が混ざりあった甘い甘い雫を、セイは喉を鳴らして飲み干した。

「すまん、セイ。……したい気持ちはやまやまなんだが」
キスに夢中になっているうちに、いつの間にか覆い被さるような体勢になっていたカタバが申し訳なさそうに、セイの首筋に顔を埋めた。
当然、セイはまたするんだと思っていた。熱い接吻をもらって、すっかりその気になっていた。肌の表面はまだ冷え切っていたけれど、身体の芯はもう、熱かった。

『ぐううう』
せっかくの良い雰囲気をぶち壊した上に、カタバが言わんとしていたことまですべて説明してくれる音が響く。
セイは偏食だったし、1日1食なんて普通だったし、今でもカタバが仕事でいなければ食べないことなんて珍しくない。が、カタバは違う。
朝ごはんはちゃんと作って食べる人だったし、昼や夜を抜くと動けなくなることも珍しくない。だから、食事には人一倍気を使っていたし、料理の腕前も相当のものだった。

「なにか、食べる?」
くすくす笑いながらセイは問うた。
目覚めてすぐ、お腹がすくなんてことはないセイに対して、カタバが朝ごはんを抜くことはあり得ない。とは言え、腹が減っていて勃たないというのはセイにも経験があることだった。

「それもいいが、もう少し、お前と、こうしていたい」
肘で身体を支え、軽く唇を重ねた後、隣に横になったカタバがセイをぎゅうっと抱きしめた。
「たまには挿入なしで、イチャイチャするのも悪くないだろう?」
「そうだな。正月休みだからな」
何度も何度も啄むように口吻を交わしながら、二人は寝正月を決め込んだのだった。






















このページの文章・画像は引用を含んでおり、著作権は株式会社コロプラに帰属します。 文章・画像の無断転載は固くお断りします。
All fanfiction and fanart is not to be used without permission from the artist or author.