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戦神に戻った後のはなし・後日談 R-18


ちゃらちゃらした見た目や言動に反して、スクナというあの医者の腕は確かだったようだ。
数日後には、セイは普通に起き上がって行動していたし、なにやら庭で、スオウと走り回っている姿も見た。戦場へはまだ出していないものの、確実に元気になってきているようだ。

スクナは、セイがなにか悩んでいたのではないかという診断結果を出したが、本当にそうだったのか、だとしたらなにを悩んでいたのか。
それが、セイの口から語られることは未だなかったが、無理に聞き出したところで、おそらく意味はないだろうと考えたカタバは敢えてなにも尋ねなかった。

セイが家出をしたあの事件以来、少し変わったところが何点かある。
まず一つ目は、スクナの口から、他の神々へと今回のことが伝わったらしく、いろいろな神が協力を申し出てくれるようになった。
特に、和歌を詠むだけで巨大な黒い霧を一瞬で無に還してしまった和歌の神と、その友達だという必中乙女。この2人に関しては、戦神より強いのではなかろうか。

ただ、和歌の神の方は、何度か、誤字って逆に、敵を増やしてしまったらしいが。
おかげであんなに毎日大量に、カタバの元へと運び込まれていた文書は、徐々にではあるが減ってきている。

それから、あの事件の翌日、セイの私室を取り上げた。
当然、セイが反発するだろうという予想はできていた。が、今回ばっかりは譲る気がなかった。

セイが自室で寝ると言ってきたあの日。自分が引き止めてさえいれば、あんなことにはならなかったのだ。その場合、まだスクナに話が行ってないかもしれないとか、セイの体調が悪いままかもしれないというのは置いておいて、とにかく、体調がよくなるまでとでも言いくるめようと思っていた。セイを部屋に呼んで、決定したことだから曲げられないのだという意思を込めてそれを伝えた。

いいとも嫌とも、セイが答える前に、突然カタバの部屋の襖が開く。
「いいんじゃねーの?…っていうかさー、なんでお前ら、今まで部屋別だったの?」
どうやら立ち聞きしていたらしい。

ただ、お節介なスオウが口を挟んできたことに、これほど感謝したことはなかったかもしれない。
「な、なに言って…」
驚いて言葉をなくすセイを尻目に、部下たちが何人も襖を全開にして、スオウの横から顔を出した。

「そうですよ!セイさん戻って来たんだからてっきりって思ってたのに!」
「まだ喧嘩してんのかなーって気になったよなぁ!」
「な、何の話だっ!!」
セイが真っ赤になって怒鳴るが、スオウも部下たちも、むしろ顔を見合わせてキョトンとした表情だ。

「あのよ。お前ら、隠してるつもりかもしれねーけど、バレバレだぞ?」
「おっと、一緒に出て行ったときは何も知らなかったスオウさんが偉そうだぞ?」
「うるせえよ!その話はナシだ!しょーがねぇだろ!?」
どっと笑い始める部下たちに、カタバは怒る気もしなかった。ただ、セイが真っ赤な顔のまま俯いているのだけが気になった。

「あー、お前たち。とりあえずもう行け。これは二人の間の話だ」
「はーい」

からかうだけからかって気が済んだのか、部下たちはあっさりと襖を閉めて下がっていった。ただ、スオウだけが
「セイ、カタバと喧嘩したら俺の部屋来ていいからな!」
と、余計な一言を残して行ったけれども。

「セイ」
相変わらず俯いているセイの名を呼んで、顔を上げさせる。
部下の皆に、自分たちの関係が知られている原因の一つはお前の酒グセにあると言うべきかどうしようかと一瞬悩んだが、結局言うのはやめにした。

「異論はないな?」
「……わかった」
小さい声ではあったが、はっきりとそう答えたのを確認してから、その後は二人でセイの私物をカタバの部屋へ運んだ。
私物と言っても、たいしたものはなく、それ自体はすぐに終わる。

ほとんど帰っていなかった自室より、もともとこの部屋にいた時間の方が長いだろうに、所在なげに立ち尽くすセイを呼んで、自分の前に座らせた。なんだか頬が赤い気がする。そんな風に意識されると、こっちまで今更恥ずかしくなってくるではないか。

ただ、言おうと決めていた言葉だけは言わねばならぬ。カタバは未だ俯いたままのセイの手を取った。
「セイ、約束しろ。…もう二度と、一人で勝手に、いなくならないでくれ」
「………カタバ?」
セイの声が少し震えている。

「もし万が一、この先、お前に何の力もなくなったとしても、それでも私にはお前が必要だ」
「だけど!」
それでは役目が果たせないとでも考えているのだろう。セイは真面目だから。しかし、セイが自分の隣にいるということの意味は、同じ戦神としての立場一つじゃない。

「セイ。…俺の側にいてくれないか」
おそらくは。過去にもこれに似たような類の言葉は言ってきただろうが、今一度改めてというところか。
セイが見つかるまでの間、気が気じゃなくて、自分のほうが先に死ぬんじゃないかと思ったくらいだったあの日を思い出して。

セイはそのまま、無言でしがみついてきた。震えていると思ったら泣いていたようだ。
後から褥の中で、嬉しかったと伝えられて、けっこう素直に好きだ愛してると口にだして伝えていたつもりだったのに足りなかったのかと、カタバは密かに反省していた。

そんなわけで、再び同じ褥で寝るようになって一週間ほどになる。
元々入り浸っていたカタバの部屋だ。セイもすぐにおかしな緊張はほぐれて、寛いだ表情を見せるようになった。
体調が戻るまでという条件付きで、戦場へも行かないものだから、昨日あたりからはカタバの仕事も手伝うようになっている。

「カタバ、ただいま」
片付けた書類の束を、持って行ってもらったセイが戻ってきたとき、ちょうど一段落着いたところだった。持って行ってもらったと言っても、社の入り口までナゴミという鳥族の神が取りに来てくれるのだが。

「どうしたんだ?セイ」
すたすたと自分の隣まで歩いてきたかと思うと、昼間だというのに珍しく、セイは座り込みカタバの背中にくっついた。
ぐりぐりと頭をカタバの背中に押し付けて。

「ナゴミに、噂で聞いたより元気そうだって言われた」
噂とはなんの話だ?と一瞬思ったが、すぐに神々の間の連絡係をやってくれているナゴミが女性であったことと、スクナのことを思い出してなんとなく察した。
「元気そうだと言われたなら良かったんじゃないのか?」

しかし、勝手な噂が出回っている原因を想像することはできても、今セイが取っている行動はさっぱり理解ができない。
「復縁して良かったですねって言われた」
「…は?」

「なんか、スクナから聞いたって。戦神の頭領自ら俺を助けるために出て行って魔物と戦ったって。愛ですねーとか言われた」
噂には必ず尾ひれがつくものであり、真実が正しく伝わっているとは限らない。あの時魔物を倒したのは正直言って、ミコトだ。ただ、今大切なのはその、真実じゃない。
「正直、もう体調も前と変わらないし、そろそろ戦場に出れるかなと思ってたけど…。どうしよう」

要するにセイが恥ずかしがっているのだということは理解した。だが、自分たちの関係が公になってなにか困ることはあるだろうかと考えてしまうのがカタバである。
そして、『別に堂々としていればいいだろう』などと言ってしまって、セイを怒らせてしまうのもいつものカタバである。

一体、どうしたらいいのだろう。
いや、セイに抱きつかれているのは悪い気分ではない。だから、どうこうしたいということもないのだが、何か言ってやるべきだろうとは思う。

「セイ。…人の噂も七十五日というではないか。…人ではないのだが」
結局そんな言葉しか言えなかったけれど、怒鳴られも殴られもしなかった。どうやら合格点だったらしい。

「もう少しでまた、祭りの時期になる。そうすればきっと、噂なんてものは移り変わっていくと思わないか?」
「そうだとは思うけどー」
自分に抱きつく腕の力が強くなって、背中からふてくされたような声が聞こえた。そろそろ我慢の限界だ。

「セイ。…こっちに来い」
自分のお腹の当たりに回された腕を取って、そうっと振り返ってみる。逃げられはしなかった。
ひょいと抱き寄せて、開いた脚の間に座らせる。予想通り、頬が赤い。

セイの体調が安定しなかったこの1週間は当然のことながら、よくよく考えてみればその前も、自分が忙しかったせいでほとんどしていない。というより、もう、いつからしていないのか覚えていないくらいだ。
熱を持った頬を両手で包み込んでやると、なにをされるのか察したか、セイは静かに両の瞳を閉じた。

そうっと静かに、触れるだけの口付けを2回ほど落としたところで、たまらなくなってカタバはセイの細い肩を抱きしめた。
「セイ。…欲しい」
あまり言われたことのない、直接的な言葉に、驚いて目を見開いたセイだったが、やがておずおずとカタバの背に腕を回す。

「俺も。…したい」
「セイ、体調は…?」
「もう大丈夫だから、俺も、したい」
答えた瞬間、ふわっと身体が浮いた。抱きかかえられているのだと理解する頃にはもう、隣の部屋の褥の上に寝かされていて、今まで見たことがないくらい、熱っぽい表情のカタバがセイを見下ろしていた。

「セイ、好きだ」
耳元で囁かれた言葉に、身体が震えた。

柔らかい唇が触れ合う感触があって、数回甘く噛まれたかと思うと、ゆっくりとカタバの舌が入ってくる。それに応えるように、そうっとセイも舌を差し出すとゆるゆると絡め取られて、キスがだんだん、深く、激しく変わってゆく。舌先をなぞられ、捕まえられた舌を甘噛みされ、余すところなく口腔内を貪られて、二人の細胞が混ざりあった雫がセイの喉を鳴らす。

「ん……っぅ」
「セイ」
「んっ、カ、タバ…」
言葉を遮るように、再び唇が塞がれて、するすると着物の帯が解かれていくのを感じる。胸元が外気に触れたかと思うと、唇が離れ、首筋の感触にびくっと身体が跳ねた。

「ぁっ、アっ、ひゃぁっ」
耳、首筋、喉、鎖骨。順番になぞるようにカタバの唇が押し当てられて、セイは悲鳴のような声を上げっぱなしだった。久しぶりのせいだろうか、いつもより身体が敏感な気がする。余計に感じる気がする。

カタバの手のひらが、ゆっくりゆっくりと肌の上を滑ってゆく。久しぶりに肌を重ねるのだ。カタバも、徐々になじませるように触れ、時間を掛けて、セイの身体をほぐしていった。
「あ、いや、だめ、ダメっ、カタバ、今だめえっ!」

カタバの手と唇が、セイの下半身に降りていったとき。勢いよくセイの中心から白濁した液が溢れだしていた。
「ば、馬鹿っ!!…俺、だけっ!」
久しぶりの上に、感情が入りすぎていた。

死を覚悟したあの時。自分を助けにきたカタバは夢でも幻でもなかったが、あの瞬間に自覚したのだ。やはり自分にはカタバしかいないのだと。
そのせいもあって、今日はカタバに触れられるのが嬉しかった。愛されている実感はいつも以上だった。
それゆえに、時々手のひらを握りしめたりしてなんとか耐えていたのだが、直接触れられた瞬間にもう、限界を迎えてしまった。自分だけ先にいくなんて絶対に嫌だったのに。

「セイ、泣くな」
優しい口付けが頭の上に降ってきたかと思ったら、顔を覆っていた手を取られた。

手のひらを包み込むようにして、カタバはそこにも唇を落とす。それから、まだぐずぐず泣いているセイの目尻に、瞼に、頬に。
「泣かなくていいから」
もう一度優しい声で言われて、セイはたまらなくなってカタバの首に腕を回して自分から唇を重ねた。

セイはキスが好きだ、というのは、紛れも無い事実だと思う。
軽くついばんでやると僅かに開いた唇の隙間から柔らかい舌が顔を出して、吐息が溢れる。
背中に左腕を回し、右手で頭をなでながら舌を貪っていると、さっきまであんなに泣いていたのが嘘みたいに、セイは与えられる口づけに夢中になった。

どれくらい唇を味わっていただろうか。すっかりまた、とろんとした表情に戻ったセイに、ひとつ触れるだけの口付けを落とし、カタバは下半身へと手を伸ばす。

「ぁっ、やだっ、あぁんっ、うん…」
小さく身体を跳ねさせながら喘ぐセイの身体に赤い跡が残る。
すっかりまた、主張を始めたそこには一切触れず、太腿の内側にも赤い跡を残しながら、カタバはゆっくりと、セイの中に指を押し込んだ。

先ほどセイが出したものが潤滑油代わりにもなっているが、足りなければ軟膏でも塗ればいい。それはいつものことだから問題ない。
ひとつ問題があるとすれば、まだろくに解してもいないのに、早くここに入りたいと思ってしまう自分自身の心だろうか。

「かた、ば、やだ、もう、きて、っ、ぁっ」
セイに無理をさせてはならぬと必死で耐えているところにこれである。何度かまた、唇を塞いでやって、じっくりと解してやったあと、ようやく破裂しそうなほどに張り詰めた己自身をセイの中へ推し進めた。

「んあっ、あっ、ぁあアっ!」
焼け焦げて灰になってしまうのではないかと思わせるほど熱いセイの内壁が、カタバを芯から包み込む。両腕でセイの細い腰を抱いてやると、やっぱりまた、キスをせがまれた。

「セイ、好きだ、セイ」
多分もう聞こえていないだろうと思ったけれど、それでも何度も何度もキスの合間に好きだ、愛してると繰り返しながら、カタバも真っ白い快楽の中に溶けていった。

************

目覚めた時、まだ外が真っ暗だ、夜なんだということしかわからなかった。
ほのかに行灯に火が灯り、全身に気だるさが残っている。そして。

「起きるのか?」
セイの身体を抱きしめるような格好で寝ていたカタバは、なにも身につけていなかった。もちろん、自分もだ。
上体を起こしてみると、この暗がりでも、うっすらと自分の身体のあちこちに、赤い跡が残っているのがわかった。

「今って、何時くらい?」
どうせ自分より先に目覚めていたのだろうし、行灯に火を灯したのもカタバなのだろう。セイが尋ねると、まだ丑三つ時だという返事が帰ってくる。

「身体は?つらくないか?」
その言葉で、久しぶりに一つになったのだという喜びと嬉しさと、それから照れくささや恥ずかしさのようなものがいっぺんに溢れてきて、セイは褥に潜り込み、カタバの広い胸に顔を埋めた。

「大丈夫、なんでもない」
「そうか。だったらいい」
ぎゅうっと肩を抱いてくれる腕が頼もしいと思う。愛おしいと思う。

「なぁ、カタバ。…もっかい、する?」
それは、なんと答えるのだろうという、純粋な興味だった。セイ自身、途中からわけがわからなくなっていたせいで実際何度したの覚えていないが、多分それなりにはし続けていたとは思う。それでも、できなかった期間の長さを考えると、全然足りないような気もする。

「いや、さすがに今日はもういい。…少し、無理をさせたんじゃないかと心配していたくらいだ」
返ってきた言葉は、少し、予想外だったかもしれない。ただ、カタバは、セイの好きな、穏やかな表情で微笑んでいた。なんとなく、彼も今、自分と同じくらい満たされているのかなと、思ってもいいんだろう。

「そんなことないし!……俺も、したかったし」
ぎゅうっと一旦、セイを抱く腕の力が強くなって、それからちゅっと音を立てて、額に唇が押し当てられた。

「だったらいい。今は俺も満足している。それに、お前の肌を触っているだけで、気持ちいい。すべすべで」
「…なんか、すごい、恥ずかしいこと言われた気がする」
「そうか?」
どこか、ほわほわしたような雰囲気のまま、吐息を重ねながら、共に二度寝を決め込んだ。

二人がもう一度目覚めたのは、太陽が空高く昇った時刻になってからだった。






















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