□title list□
 ※水色部分にカーソルを合わせると
 メニューが出ます

大学受験の前期日程も終わったある日。

大切だよと伝えること


情報処理室でのバイトが続いている春休み。この期間は一緒にバイトしてる土方と毎日食堂で一緒に昼食を取っているのだけれど。

「土方ァ、お前なんか今日元気ねェな?」
前の席に座って、食後の一服中の土方の、口数が、今日は極端に少ない。
俺もそんなにしゃべる方じゃないから、沈黙が続いてしまって。別に、今更気心も知れているし、だから気まずいという程のことでもないのだけれど。

「発表まで沖田には会えないのか?」
「あぁ、…うん」
きっと土方が落ち込む原因は沖田のことなんだろうなって、見当をつけて尋ねてみる。
昨年俺はどうだったかな…?と思い出しながら。あ、俺は前期の時万斉のトコ泊まったんだった。それから、後期の発表まで会えなかったけど。

「総悟から連絡ねェんだよ」
深く、紫色の煙を吐き出しながら、土方が呟いた。

「忙しいんじゃねェの?まだ終わってねェんだし…」
「いや、でも」
正月から会ってはいないけれど、毎日連絡は取り合っていたのだと土方は言った。
沖田の方から、毎日必ず電話かメールがあったのだと。それが、ここ3日間、音信不通で、電話をかけても出ないし、メールを送っても返事がないらしい。

(放置プレイとかじゃねェの?)
一瞬思ったけど、土方の真剣に落ち込む顔を見たら、口には出せなかった。

「まさかとは思うけど、めちゃくちゃ緊張して全然駄目だったとかねェかなァ…」
「沖田って、そんなタマじゃねェだろー?お前1年前どうしてた?この期間」
土方なら、試験本番は目茶苦茶緊張して、実力発揮できなくなるタイプかもなぁなんて考えながら。

「俺かァ?…後期に向けてまだ勉強してたなァ」
合格発表の瞬間にやめたけど、と土方は笑う。開放された気分だったよなァと。

「俺も。彼氏に連絡するどころじゃなかったぜ」
俺は前期落ちたから余計なァ、と笑ってやると土方もつられて笑った。

「お前、後期かよ。なんだァ?前期は余裕ぶっこき過ぎたんかァ?」
「違ェよ!前期はB判定だっつうのに京都まで行ったんだよ。ホラ…」
「ぁあ…」
京都と言うだけで土方はすぐにわかってくれて。

「お前なァ、受験の前日に彼氏とヤってて受かるワケねーだろーが」
「してねェよっ!!」
…イヤ、したケド。
…1年間遠距離だったし、会うの久しぶりだったし…って言うか、ホテル取るの面倒で泊めてもらったし…。
と小声で呟いたら、呆れたのか土方の表情はかなり柔らかくなって。

「ま、ホラさ。沖田が受かったら合格祝いしようぜ。たぶん辰馬なんか張り切ると思うからよ」
お前らに任せたらひたすら飲むだけだろーがよォ、と土方がぼやいて。

「でも、お前は飲めなくても沖田はめちゃめちゃ飲むじゃねーかよ?」
喜んで来ると思うんだけどなァ。

「まー。…坂本ん家でやるなら行ってもいいけどな…」
酔っ払っても寝る場所あるからな、と土方は呟いて。

「そろそろ行くかァ」
俺達は、空になったトレーを持って一緒に立ち上がった。

お節介なことはわかっているんだけど、後で沖田にメール入れてみようと思いながら。

***

『風邪なんでさァ』

3日も連絡がない、と土方がへこんでいたのに、俺のメールにはすぐ返信してくれた、沖田からの返事はそれだった。
データ入力のバイトをしながら、音もバイブも切った携帯でこっそりと返信を送る。
「土方が連絡ないって心配してたぜ」
『トシのヤツは心配しすぎるから、言わねェで下せェ』
「じゃあメールくらいしてやれよ。お大事にな。それから、まだ終わってないんだから早く治せよ。お前なら前期で決めるだろうけどよ」
土方が血相を変えて沖田の心配をする姿が思い浮かんでしまった俺には、それしか言うことができなかった。

最近ずいぶん風邪やインフルエンザが流行っていて、身体が弱いのか風邪をひきやすい俺はかなり気をつけている。
沖田の言う土方じゃないけど、俺が風邪なんかひこうものなら、辰馬が過剰に心配するのが目に見えているからな。
ちょっと紙で指を切ったりするくらいで大騒ぎだもんなアイツ。血見て卒倒しそうなくらい青くなるなら、手当てくらい自分でするっつうの。

結局俺は、沖田と連絡が取れたことを土方には言えないまま、この日はバイトから帰った。

***

東城がまた空腹でぶっ倒れたらしいからと言って出掛けて行った辰馬は、まだ帰ってきていなかった。
なんだか疲れが溜まっているような顔をしていたのだけれど、それでも電話1本で駆け付けるんだもんな。辰馬が友達多いのは面倒見がいいからなんだろうと思う。
それに辰馬は、友達が多いとは言ってもちゃんと選んでいて、イマドキのチャラ男みたいなヤツは仲間には1人もいなくて。一緒に住み始める前からも、俺は打ち解けやすかったし、俺達が付き合い始めた時も、男同士だっていうのにみんな受け入れてくれてありがたかった。

辰馬と高校から一緒の岡田と、小太郎と同じ法学部で仲良くなった武市が、ココでの飲み会で知り合って先に付き合ってたってのもあるかもしれないけど。

きっと辰馬は東城と何か食べて来るだろうから、先に晩御飯にしようかなと思ったけれど、まだあんまりお腹が空いていなかった俺は、とりあえず風呂に入ることにした。

辰馬と毎日のようにセックスしているせいか、1日に何度も風呂に入るのが普通になってしまっている。一緒に入って、そのまま突入なんていつものことだし。辰馬はいっつも、俺の身体洗うって言って触ってくるからな。撫でるように。

…あーヤベ、そんなこと考えながらシャワー浴びてたら勃ってきた。いつからこんなエロくなったんだ俺はっ!
(辰馬はいつも上から順にこうやって…)
「ァっ…はっ…」
自分で触ってるだけなのに、辰馬のこと考えてるとスゲェ気持ちいいのはなんでだろう。

結局俺はシャワーを浴びながら自家発電してしまって。エロ本もDVDも、何にも見ずに抜けるなんて、やっぱ俺の脳みそはちょこっと女寄りに出来てるんだろうな。男は想像だけではイケないって、脳のつくりがそういうふうにはできてないって聞いたことあるんだけど。

そんなくだらないことばかり考えてないでさっさと上がろうと思ったら、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。辰馬帰ってきたのかな。
俺は急いで頭を洗って風呂から上がった。

***

身体を拭いてタオル1枚でリビングに行くと、辰馬の鞄だけがソファの下に置いてあって。

「辰馬?」
トイレでも行ってるのかなと思ったけど、トイレはバスルームの隣で、身体を拭いている間にそんな気配はなかったから。

「辰馬、もう寝てんの?」
寝室の扉を開けると、ベッドの上に辰馬が横になっていた。

「辰馬…具合悪いのか?」
「晋、入って来ちゃいかんぜよ」
俺に背中を向けたまま強い口調で言われて、俺はちょっとひるんでしまった。

「なんでだよ…そんな…」
理由もわからないまんまじゃ拒絶されたみたいで、納得なんてできなくて。

「今日は向こうで寝るんじゃ…ゴホッゴホッ」
「辰馬!?」
俺は、バスタオル1枚のままベッドに乗って、咳込み出した辰馬に覆いかぶさって顔を覗き込んだ。

顔が赤い。額や頬が異様に熱い。

「晋にうつるじゃろ!近寄るんじゃないぜよ」
パシっと手をはねのけられて泣きたくなる。

「何言ってんだよお前…。薬飲んだのかよ?」
「飲んだぜよ。うつるからもうあっち行き!」
とにかくいくら辰馬に体力があるって言ったって、寝なきゃ治らないだろうと思って。今俺にできることは何だろうって考えた俺は、とにかく氷枕を用意して寝室に持って行った。
体温計で熱を計ったら38度を軽く越えてしまっていて。

「ポカリとか、買ってこようか…?」
「寝てれば治るから、ほんに心配せんで」
「心配くらいさせろってんだよ馬鹿」
俺がいつもしてもらうみたいに頭を撫でてやったらようやく辰馬は微笑んでくれた。

「前のコンビニで冷えピタとアクエリ買って来てもらっていいかの?」
「お、おう!そんくらい任せろよな」
こんな時くらい、具合の悪い時くらい、辰馬に甘えて欲しかった。いつも俺が甘えてばっかりなんだから。

俺は携帯と財布だけ持って、マンションの向かいのコンビニに向かった。

***

エレベーターを降りてすぐ、俺は小太郎に電話をかける。

『ハーイ、銀さんでーす』
小太郎にかけたのに、電話に出たのは銀時で。

「なんだよ、何でお前が小太郎の携帯に出るんだよ?」
『ヅラは風邪で寝込んでんだよ。銀さんお見舞いっつうか、買い出し係?お前からの電話なら出てもいっかなって思ってさ』
「小太郎もかよ?」
俺が驚いた声に、銀時もビックリしたみたいだった。

『「も」ってなんだよ「も」、って。まさかお前、辰馬も風邪かよ?』
まさかって銀時が言いたくなるのも無理はないよな。だって、一番元気なはずの辰馬だもんな。

「そーなんだよ。38度6分あって今寝てる」
どうしたらいいんだろうって小太郎に教えてもらおうと思ったのに、その小太郎まで寝込んでいるなんて。辰馬が寝込むことなんて、考えたこともなかったから、何をしたらいいのかが全くわからない。

『とりあえず、睡眠と栄養と水分だァ。辰馬なら寝てりゃ治るだろー』
「そうだよな…」
銀時にそう言われて、ようやく俺は少しだけ元気が出た。

『なんか料理でも作ってやったらァ?お前ホントはできんだからさ』
「そーする」
俺は、銀時との会話を終わらせて、アクエリと冷えピタと、アイスをいくつか買ってマンションに戻った。

「辰馬…」
寝室に入ると、辰馬はぐっすり眠っていて。辰馬の額に冷えピタを貼ってやって、枕元にアクエリを置いた俺はリビングに戻った。

本当は、滅多に見れない辰馬の寝顔をずっと見ていたかったんだけど。

30分から1時間おきに辰馬の様子を見に行って。枕元のアクエリが減っているだけで少し安心したけれど、テレビを見ていても本を読んでいても、全然集中することなんかできなくて。
辰馬は、俺の部屋で1人で寝ろって言ったけど、本当にあっちで寝なきゃ駄目かなァとか、一緒に寝たいのになァとか。さすがにもう、うなされることはほとんどないのだけれど、それでもやっぱり、辰馬にくっついて寝たいのは、どうしようもないくらい好きだからだ。

(辰馬の風邪くらいもらったっていいのにー)
どうしても落ち着かなくて、ソファの上でウダウダしていたら、玄関チャイムが鳴った。こんな夜遅くに誰だろう。誰でもいいけど、今日は飲み会なんかできないんだけど。

「お邪魔するわよ〜?あ、やっぱり『どっちが病人?』って顔してるわね、高杉君!」
スーパーの買い物袋を下げて訪ねて来たのは幾松だった。

「なんで知ってるんデスカ?」
幾松は慣れた様子で(実際何度も来てるから慣れているんだろうけど)キッチンに向かい、買ってきた食材を冷蔵庫に入れてゆく。

「東城君よ東城君。風邪で動けなくて、ようやく坂本君呼んだはいいんだけど、東城君インフルエンザだったみたいよ」
「えっ?」
40度以上の高熱の東城を、救急車で病院に運び、親戚が来るまで辰馬は付き添っていたらしい。
点滴のおかげで熱の下がった東城は、ただでさえ風邪気味だった辰馬のことが気になって電話をしたけど辰馬は出なくて。
小太郎に電話して、やっぱり寝込んだことを(たぶん銀時から聞いて)知ったらしい。

「坂本君が風邪なんて滅多にないからねぇ。東城君も慌ててたわよ」
その東城が、あちこちに電話したものの、小太郎は風邪だし、他のメンバーも風邪だったり、バイト中だったり実家に帰っていたり…と。この時間になってようやく、幾松が来れたらしかった。

「そんなわけで、坂本君インフルエンザの可能性もあるから、高杉君はうつらないようにね」
「なんでだよっ!」
と憤慨しては見せたものの、幾松が言いたいことはわかっている。

「高杉君じゃ、絶対入院しなきゃ治らないもの」
俺が細くてちっこくて、体力がないって言いたいんだろう。…事実だけど。

「高杉君は来ちゃ駄目よ〜。アタシは予防接種してるけど、あなたしてないでしょ?」
言いながら寝室へ入って行った幾松は、手の中に何かを隠していた。
しばらくして。辰馬の悲鳴のような叫び声が少し聞こえた後、幾松は寝室から戻ってきて。

「明日には熱は下がると思うわよ」
ケロっとした顔で言う幾松。たぶん、辰馬のパンツ脱がせて座薬入れたんだと思うんだけど。

『幾松っ!わし、後ろは処女なんじゃっ!』
『うるさいわねっ!黙ってお尻出しなさいっ!』
『無理じゃ無理ーっ!』
『アンタ指まで突っ込むわよっ!』
『ひぃ〜っ』
『力抜きなさいって!』
聞こえてきてしまった会話を思い返したら、とてもじゃないけど問い詰める気にはならなかった。
あの、たぶん俺がその状況になっても、スグ入るから大丈夫デス、はい。ってか、自分でできますから幾松サン!

「高杉君、お腹空いてるでしょ?」
キッチンに戻り、手を洗いながら幾松が言って、俺はようやく、昼から何も食べていなかったことを思い出した。

「あなたが元気じゃなきゃ、気になって気になって、坂本君もゆっくり休めないわよ」
この時間だからうどんでも作るわねと、幾松はいつものようにさっさと料理を始めていく。
初めて会った時も、幾松はこうやって料理作ってたんだっけ。あれから、もうすぐ1年になるけど、俺と俺の周りの状況はいろいろ変わっていってるんだけど。

「ハイ、お待たせ!月見わかめうどん!」
「…ありがと」
こうやって、普通に接してもらっていると、ついつい現実を忘れたくなる。

「足りなかったら言ってね。高杉君が元気にしてないと、坂本君大変なんだから」
あなたのことになると人が変わっちゃって、と幾松は笑った。

「なァ…幾松さん」
俺はうどんをすすりながら聞いてみる。女の人から見たら、俺達ってどう映るのって。

「あたしは、って言うか、あたし達は最初から坂本君が男も女も関係ない人だって、知ってるでしょ?」
だから何とも思わないわよ、それが幾松の答。

「むしろ、坂本君が先輩と上手く行かなくて荒んでた時期を知ってるから、高杉君のおかげで落ち着いて、良かったなァって思ってるくらい」
俺の横に座った幾松は、テーブルの上に頭を乗せて、俺をじぃっと見上げてきた。そんなに見られたら、食べにくいんですけどっ!

一番ヒドイ時期の坂本君は、人間全てを憎んでいるみたいな感じで、そりゃあたし達とは飲み会したり、笑ったりしてくれるんだけど、それでも目だけがいつも笑ってなくて。
坂本君はきっと自分でもわかってて、人と会う時は必ずサングラスかけてたわ。最近サングラスなんて全然してないでしょ?

「ウン、俺ほとんど見たことない」
一緒に出掛けていた時に、あまりにいい天気で眩しくて、俺に断ってからかけたことがあるくらいだ。

「高杉君はさ、飲み会やってる時も、結構早く寝ちゃうじゃない?」
「ウン」
だって、起きてらんないって言うか、寝ないと、確実に次の日起きれないというか、身体がもたないというか。

「高杉君が寝ちゃってからの坂本君のノロケ話聞かせてあげたいわぁ」
「へっ?」
アイツ、俺が寝てから何喋ってんだよ?一体?

「わしは世界一の幸せもんじゃぁ〜、から始まるのよ、たいがい」
幾松の話を聞いて、俺は顔が熱くなるのを抑えることができなかった。辰馬の野郎、俺の知らないところで何言ってんだっ。

「食べないと延びちゃうわよ〜」
顔を見つめるのを止めてくれた幾松に言われて、俺はまた箸を動かしてうどんを食べ始める。
『なんか飲もうー』と言いながら幾松が冷蔵庫から出してきた缶ビール2本。幾松がここに来てくれた時間で終電くらいだったから、今日は最初から泊まるつもりで来たんだろう。
男2人が住んでる家に女の人が1人でって言ったって、俺なんか超安全パイだし、世間が何と言おうと問題はない。

「あたしさ、高杉君は偉いと思うのよね」
「え?何が?」
ようやくうどんを食べ終わって、ビールを飲み始めた俺は、いきなり言われた言葉の意味がわからなかった。

「大事な人に、気持ちを伝えるのって、本当は凄く難しいことで、それって、男も女も関係ないと思う」
「そっ、それはっ」
確かに俺から言ったのは言ったけど。あの時、俺が辰馬に好きだって言った時。きっかけを作ってくれたのは辰馬で、辰馬がちゃんと聞いてくれたからこそ言えたのであって。

「あたしなんか結局ダラダラもうすぐ4回よ〜」
(…え?)
ぐいっとビールを煽った勢いのままに言った幾松の言葉。俺、ソレ、聞いちゃってよかったの?

「なんて言うか、どーも煮え切らないって言うか。何考えてるのかなぁって思ったりなんかしてね」
「あのさ、それってさ…」
小太郎の、ことなんだよな?と、口に出すより早く、唇の前に人差し指を立てた幾松に止められた。

「高杉君、気付いてた?」
「ウン」
だってさ、初めてここで会った時から、いい雰囲気だなァって思ってたから、俺は。

「4回になっちゃったら、きっとそれどころじゃないから、もういいかなぁ、なんて思っちゃってるのよね」
だから高杉君は偉いんだよと、もっと自信持ったらいいよと言われて俺は、俯いたまま首を横に振った。

「そんなこと言ってくれる人、あんまりいないから…」
後ろ指を指される。心ない言葉を突き付けられる。俺にとってはそっちが現実で。

辰馬はオープンだから、学校でもどこでもくっつきたがるんだけど、おかげでなんだか俺は有名で。
ずっと隠し通したまま生きていたら、こんなことはなかったのかと思わないわけじゃない。

『男同士ってどうやってすんの?』
『お前ってやっぱり男のチン●舐めたりするワケ?』
『女じゃ勃たねぇの?えーっ』
俺も、何か言い返してやればいいんだろうけど、ああいう奴らには何を言っても無駄なような気がしてしまう。

『いくら男好きでもお前らみたいな馬鹿相手じゃ銀さん全然勃たないわよ〜』
『偉そうなコト言ったって、お前らみたいなチャラ男にくっついてんのはパン子だけだろーがよォ』
って、銀時みたいに言えたらいいのかもしれないけど。それか『言いたいヤツには言わせとけ』って、辰馬みたいに全く気にしないか。

結局俺にはどっちもできなくて、1人で抱えて自分を責めてばかりで。
「大丈夫よ!世の中そんな馬鹿ばっかりじゃないから!」
ぐいっと幾松に引き寄せられた頭が膝の上に乗る形になって。

「あ、あの…」
女の人の、柔らかい太腿が、なんだか少し新鮮な感じがした。

「そろそろ眠いんじゃないかなァと思って」
言われて時計を見たら、随分話し込んでしまったらしくて、もう4時近かった。

「でも俺さ、辰馬に好きだって言ったことは後悔してないから」
「それでいいのよ」
言わないままで、後悔するよりもね。

(あたしみたいに)
「ウン…」
あー、女の人って、いい匂いするんだなぁって思いながら、幾松に頭を撫でられて。
俺はいつの間にかウトウト眠りに落ちていた。

***

「起きてるんでしょ、坂本君」

高杉が完全に眠ってしまったのを確認してから、幾松は扉の向こうに向かって少し大きい声を出した。
「バレちょったかの」
照れくさそうに、頭を掻きながら寝室から出てきたのは、まだ顔の赤い坂本。横に座る坂本の額に手を当てると、だいぶ熱は下がったようだけれども。

「まだ寝てろって言いたいところだけど、坂本君なら大丈夫かもね」
東城君も明日には退院できるみたいよと、幾松が言うと坂本は安心したようだった。

「ちくっと喉やられちょったからのー、東城のもらってしもうたぜよ」
アッハッハといつものように笑う坂本だが、声が少し掠れている。

「大流行よ。桂君も風邪だし、服部君も喉が痛いって言ってたわ」
目尻に涙を浮かべたまま眠る高杉の頭を撫でながら幾松は続けた。

「おんし、桂んとこ行かんでいいがか?」
こんなところにいていいのかと問う坂本の真意はわかっている。

「…いいわよ」
少しの間を置いて、幾松は呟くように答えた。

「桂君とこには銀時君が行ってるみたいだから、大丈夫と思うわよ」
桂は、たとえ風邪で動けなくても、誰かに電話して助けを求めるような性格ではない。だからきっと、偶然訪れた銀時が発見して、そのままついてやっているのだろう。

「ほうか。おんしがえいんなら、えいんじゃけど」
坂本とて、もどかしい桂と幾松の関係には気付いているのだ。

「…晋の、話聞いてくれてありがとうの」
高杉が残した、少し温くなったビールを飲み干して坂本は言った。

「晋は、わしには何にも話してくれんのじゃ」
学校で、嫌な目に遭っていることなんかは、ほとんど銀時からしか耳にすることはなくて。

「きっと、坂本君だから言いたくないのよ」
「…かもしれんの」
自分なら、晋助にそんなことを言う奴を許してはおかないだろうから。どこの誰なのかがわかったら、ボッコボコにシバきに行っているに決まっている。

「簡単に食べれるもの買ってきといたから。あたし、朝になったら勝手に帰るわよ」
膝枕で眠る晋助を抱き抱えたら、大きく身体を伸ばした幾松がそう言って。

「ほんに、すまんの幾松」
「ま、困ってる時はお互い様なんじゃない?」
2人が寝室に入っていくのを見届けてから、幾松はいつも通り高杉の部屋に布団を敷いて眠った。

寝過ぎたかなァというくらい眠って朝の9時、帰ろうとしたら、朝食を前に座った高杉が(一応着替えさせられてはいる)、全然起きなくて坂本に揺さぶられているところで。

「晋、晋!土方君が迎えに来るぜよ!」
「むーん…」
たった一晩で坂本は完全復活を遂げていた。

普段は、坂本のマンションの最寄り駅のホームで待ち合わせて(土方は通り道)、バイトに行っている2人だが、いつまでも高杉が起きなかったため、早いうちに坂本は土方に電話をかけていた。

「晋!…晋、起きるんじゃ!」
一応テーブルの前には座っているのだけれど。

「坂本君、誰か来たけど?」
玄関チャイムに反応したのは、いつでも帰れる状態で、2人を見ていた幾松。

「たぶん土方君じゃァ。幾松、ちょっと晋起こして」
離れればそのままコテっと倒れて眠ってしまいそうな高杉を揺さぶるのは幾松に頼んで、坂本は玄関へ走る。

「すまんのぅ、まだ起きとらんのじゃあ」
「まだ早いからいいけどよ」
おーい高杉ィ!と、坂本に伴われて土方がリビングに入ってきた。

「起きろって高杉!聞けよ高杉!」
「…んー?」
半分しか開いていない瞳で土方を見上げる高杉。きっと、それが土方だとは認識できていないのだろうけれど。

「総悟のヤツ受かったってよ!」
自分のことのように喜びの声を上げる土方だが、高杉はわかっているのかいないのか。

「おおっ、ほうか!そんじゃ、お祝いせなならんのぉ!」
初対面の幾松と土方を紹介することも忘れて喜ぶのは坂本。これでまた、集まって飲む理由ができたではないか。理由なんかなくたって飲むことには変わりないけれど。

「とりあえず高杉、バイト遅れるから、行くぞっ」
「んー」
結局ほとんど朝食もとらないまま、土方に引きずられるようにして高杉は家を出て行った。

「辰馬、辰馬、沖田が大学受かったんだって!」
と、坂本のところに、高杉から喜びの電話がかかって来たのは昼休みの話。

「もう知っとるぜよ〜」
「何でお前が知ってんだよっ?」


END



幾松さんは大人のお姉さんです!桂君はニブいんだよ幾松さん。自分の気持ちにも気付いてないんだよ。
「沖田君合格祝い飲み会」に続く






















No reproduction or republication without written permission.