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※『さくら、さくら』の続きです

すき


「晋、大丈夫がか?」
しばらく動けずにいた俺をおぶって連れてきてくれた辰馬が心配しまくっている。

「大丈夫だ、折れてはいねェと思うし」
そうは言っても、痛いものは痛い。俺の靴も靴下も脱がせた辰馬の両手が俺の右足首を包み込む。

「晋、腫れとるぜよ」
「イテェっ!」
足首を動かされた瞬間、激痛が走った。

「し、晋助!今から病院じゃあ!救急車っ!」
「んな、大袈裟なっ!」
「しんーっ!!」
「大丈夫だっつぅの!!」

レジャーシートの上で、今にも俺を抱き抱えて救急車を呼びそうな勢いの辰馬と、それを阻止すべく暴れる俺。

「捻挫くらいで救急車呼ぶな馬鹿っ!」
「折れとったらどうするんじゃ!」
「折れてはいねェって!」
「やかましいわっ!!」
俺達2人の間に入って、一喝で黙らせたのはやっぱり陸奥だった。

「モジャモジャがうるさいからとりあえず病院行って来るんじゃ。わしらもお開きにして、坂本んトコに移動するぜよ!」
有無を言わせぬ強い陸奥の口調に、誰もが無言で従った。やっぱり陸奥って怖ェかも。

「ほんじゃァ、晋、ちっくと待ってての」
救急病院を調べるからと言って、辰馬はどこかに電話をかけ始めた。そこまで過保護にしなくてもいいのにな。

小太郎と武市は、今来たばっかりだったけど、日も暮れてだいぶ寒くなってきていたから、文句も言わずに片付けを手伝い始めている。

靴下を履いて、靴を履こうとしたけれど、思ったより足の腫れが酷くて紐を全部緩めないと入らなかった。珍しく今日はスニーカーだったんだけど、ちょうど良かった。

「晋助、大丈夫でござるか?」
ようやく靴を履けた俺の手を取って立たせてくれたのは万斉だった。辰馬はまだ電話中。

「だっ、大丈夫だっつぅの!」
辰馬がまた、嫉妬して怒りだすんじゃないかってヒヤヒヤで、俺は慌てて万斉から離れる。

「痛ェっ!」
右足に体重が乗らなくて、倒れかけたところを左右両方から支えられた。万斉と、辰馬だった。

「なんで高杉ばっかりそんなにモテるわけー?」
レジャーシートをたたみながら銀時がわめいていた。ウルセェ、頼むから放っといてくれ。黙ってろよ。

「…河上君も、一緒に行くかの?病院」
辰馬の口から出て来たのは、一番有り得ない言葉だった。やべェよ、胃が痛い。

辰馬は、陸奥にマンションの鍵を預け、みんなは荷物を持ってぞろぞろ帰って行った。
俺は、なぜか辰馬と万斉に挟まれてタクシーで救急病院に向かってる。3人で共通の話題なんて思い付かなくて、沈黙したままなのが気まずい。
ああ、俺にどうしろって言うんだよ?

結局、タクシーの中で一言もしゃべらないまま病院に着いて。
辰馬が電話を入れていたおかげで俺はすぐに診察室に通された。外科の先生が軽く足を診た後はやっぱりレントゲン。
待ち合い室に2人きりになっている辰馬と万斉のことが気が気でならなかったけど、レントゲン室まで歩くのにいっぱいいっぱいで、覗けなかった。
頼むから喧嘩とかしないでくれよお前ら。

***

土方君と喧嘩したらしい沖田君は、マンションへは行かずに、自分のバイト先へ飲みに来た。巻き添えをくらった近藤と一緒に。

「今日のメンバーはいつも通りなんですかィ?」
「ほとんどそうじゃよ〜」
阿音と服部が欠席で。あとは、学祭に来ていた晋助の友達の河上君と妹さんも呼んだんじゃけど、と言った時に沖田君が一瞬見せた動揺は、確信を持つには十分だった。

河上君を呼んだと晋助に告げた時の反応、学祭の時に河上君が自分に言った一言。

「沖田君。…河上君は、晋の元彼なんじゃろ?」
気付いたらそう、口に出してしまっていた。

「えっ?そうなの?そうだったの?」
「近藤さんは黙ってて下せィ」
「総悟、ヒドくない?」
半泣きの近藤はちょっと悪いけど無視だ。

「…坂本、いつから気付いてたんですかィ?」
深い息を吐き出しながら、それでも沖田君は知っていることを教えてくれた。
自分達が付き合うよりも前、晋助が自分のことを必死になって隠していた数ヵ月間。沖田君は晋助にとって一番の相談相手だったのだと言う。

「のぅ、河上君」
2人きりで話してみたくて、病院に誘ったのだ。晋助が診察に行っているこの時間を逃したくなかった。

「河上君は、まだ晋助のことが好きなんじゃろ?」
まどろっこしい言い方をしてる暇なんてないと思って、単刀直入に尋ねてみた。

「今も変わらず、愛してるでござるよ。でも拙者、今更ヨリを戻すつもりはないでござる」
その言葉を聞いて心底安心してしまった。だけど。やっぱり晋助も河上君も、お互いがお互いを引きずっている。

「晋助も、きっとまだ、河上君のこと吹っ切れてないぜよ」
昔好きだったという桂や元々セフレだった沖田君と自分が一緒にいても平気なのに、河上君の時だけは明らかに態度が違う。
そわそわして落ち着かない。一言一言にやたら気を遣って、余計なことは言うまいと黙りこくってしまう晋助の姿なんて初めてだった。

「拙者達、嫌いで別れたわけではないでござるからな」
「…そう、らしいの」
その話も沖田君に聞いた。『遠距離に耐えられなかった』と、『足枷になりたくなかったのだ』と。
別れを切り出したのが晋助からだということも。

「別れる前の1年、けっこう泣かしてしまったんでござるよ拙者」
一瞬ギクっとした。けれど自分の話ではない。冷静を装うフリをして黙って話を聞いた。しょっちゅう晋助を泣かせてしまっていることは、もはや否定できない自分。

「会いたい会いたいって、電話がかかってくるんでござる」
泣きながら電話をかけてこられても、どうしようもなかった。いくら頑張っても、連休や長期休暇の時にしか、帰ってこれなかった。

普段はそんなこと、絶対に表には出さないくせに、寂しがりやで甘えたがりな晋助が可愛くて可愛くて仕方ないのは今も同じだ。そして、たぶん坂本も。

「晋助を、頼むでござるよ」
「河上君…」
結局、自分の心配は、取り越し苦労だったのだろうか。

「そのかわり、お主らが、別れるなんて話になったら、すぐに晋助を掠いに来るでござる」
その時こそ、2度と離さないと万斉は真剣な表情で語る。アッハッハーと坂本は笑った。笑い飛ばしたかった。

「大丈夫じゃア、わしは、一生離すつもりはないぜよ」
「その割には、よく泣かせてるみたいでござるなァ」
「…っ」
どこから聞いて知ったのだろうか。やはり、自分の知らないところで晋助が相談していたのだろうか。土方君のように。

「浮気は程々にするでござるよ」
何も言い返せないのは自業自得なのだけれど。
拙者も遠距離の間は浮気したから何も言う資格はないと河上君も笑った。

「お前ら、何喋ってんだよ?」
レントゲンを終えた晋助が廊下の向こうから声を張り上げた。足を引きずるように、看護士と共に歩いてくる。

「晋、終わったんかァ?」
「まだだよ、馬ァ鹿」
再び診察室の中に入って行く晋助。

「あの分だと、折れてはいないみたいでござるな」
支えを必要とせず1人で歩けていたのだから。

「でも捻挫の方が長引いたり、くせになったりするじゃろ〜?心配じゃあ」
来週までは春休みだからいいとして、と呟く坂本は、大学が始まったら、毎日おぶって登下校しそうな勢いで。
過保護すぎると言えばそうなのだけれど、晋助にはそれくらいがちょうどいいのかもしれない。

「坂本殿、拙者そろそろ帰らせてもらうでござるよ」
「え?ウチには来んがか?」
いい曲が浮かびそうだからと万斉は笑った。

「ああ、妹は適当に帰ると思うでござるから、少し置いてやってほしいでござる」
「それは全然構わんぜよ」
どうせこのまま、何人かはしばらく居座るだろうから。

タクシー乗り場まで河上君を送って、また待ち合い室に戻ってきたら、ようやく晋助が診察を終えて出て来たところだった。さっきまでよりも随分楽に歩けているような気がする。

「あれ?万斉は?」
「いい曲が浮かびそうじゃって、帰ったぜよ〜」
「あ、そう」
(ベッタベタのラブソングとか書きそうだなアイツ…)

精算が終わるまで、俺は辰馬と並んで待ち合い室に座っていた。2人で何を話していたのかが気になるんだけど、どうやって聞いたらいいんだろう。

「なんじやァ?元彼と、もっと話したかったんかぁ?」
「!!」
目を見開き口をパクパクさせて、何も言えずにいる俺に辰馬は微笑んだ。

「色々聞いてしもうたきに、もう隠さんでええよ」
「お前っ、いつから気付いてっ!!」
最初に会った時から疑ってはいたけれど、確信を持ったのは昨夜沖田君が飲みに来て話してからだと辰馬は言う。

「ホラ、晋、計算できたみたいじゃよ」
動揺を隠し切れないまま俺はお金を払って処方箋をもらった。どっかの薬局で、湿布を貰わないと。普段なら、病院の真向かいの薬局が開いてるらしいんだけど。

「晋、歩ける?痛くないがか?」
「アイシングしてもらったから、今は全然平気」
今はあんまり気にならず、結構普通に歩けている。今のうちに、マンションに辿り着きたかった。だけど、その前に、これだけは言っておかなければ。

「言っとくけどな、辰馬。俺が、俺がお前に、好きだって言えたのは」
万斉が応援してくれたからだ。万斉が話を聞いてくれて、背中を押してくれたからだ。だから、辰馬には余計な嫉妬とかしてほしくないし、それに。

「辰馬がいなきゃ、俺は、俺はまだ、万斉のこと…」
「晋、わし、何にも言っとらんよ」
大通りに出て、タクシーを拾いながら辰馬は困ったように俺を見た。

「だってお前」
5年も前に、俺が小太郎のこと好きだったって、それだけで小太郎に嫉妬してたじゃねェか。だから俺は、こんなに必死になって、ただの友達だって言って、隠したんじゃねェか。

「でも、わしは河上君に晋助を譲るつもりなんかサラサラないからの」
「何言ってんだよ、馬鹿」
だから、俺だって、今はお前が一番好きだっつうの!でも、そんな言葉は、恥ずかしくて声にはならなくて。

「俺だって、お前と別れるつもりなんか全然ねェからなっ!」
タクシーに乗り込んで、運転手に見えないようにこっそりと手を繋いだ。

(辰馬、少し変わったのかな)
色々聞いたって、何を話したんだろう。絶対万斉は、今でも俺のことが好きだとか、言っちゃってるに決まってる。だけど、辰馬が怒ってるようには見えない。

近所の薬局も閉まっていたから、処方箋は明日にして、俺達はマンションに帰った。

***

2人で手を繋いで帰ったら、リビングが目も当てられない状況になっていた。

余った酒や緑茶や水がテーブルの上にあって、てんでバラバラに飲んでいる。
キッチンで弁当箱やなんかを片付けている小太郎と幾松に、レジャーシートや紙コップをまとめて棚にしまっている陸奥。そこまではイイ。

「だからこうだって!」
「いや違うっ!俺の方が正しいっ!」

テレビで流れているのは、なぜか聖闘士〇矢のDVDで、見ながら暴れて技を掛け合う銀時と服部。

ソファに2人並んで座って、完全にカヤの外になってる武市と岡田。
そして、沖田とまた子は並んでバディを読んでいた。2人が一冊ずつ持ってるってことは、もしかして俺のかソレっ?
その横で東城は、興味はあるんだけど怖いモノを見るような…といった感じでチラチラ盗み見していて。

「おかえりぃ〜!辰馬ァ、これ辰馬の?」
「そうじゃけど…」
聖闘士〇矢のDVDは辰馬のモノらしい。俺も知らなかった。いつ買ったんだ?

俺と辰馬は、座る場所がなくて、仕方なくカウンターキッチンの椅子に座った。

「辰馬、今度全巻貸して〜」
「構わんぜよ〜」
「馬ァ鹿、ホントに好きなら自分で買えぇ!」
「銀さんお前と違って貧乏なんだよっ!」
そう言って、また技を掛け合う銀時と服部。

「ああ、そのDVD持ってまさァ」
「マジッスか?」
「なんなら貸してあげやしょうか?」
「いや、SMじゃない方がいいんスけど」
「沖田っ!お前っ、また子に何見せてんだよっ!!」
慌てて俺はまた子からバディを取り上げたんだけど。

「見られたくなかったら隠しておけばいいッスよ、先輩」
俺の部屋の引き出しの中に普通に置いてあったと言いながら、また子にバディを奪い返される。
そりゃお前、俺の部屋なんだから、いいじゃねェかよ。ってか、勝手に引き出し開けるんじゃねェ!

「晋助先輩、ホントにもう女に興味なくなっちゃったんスね〜」
「お前、ウルサイ」
一中の高杉と言えば有名だったのにィなんてまた子がぼやくもんだから、俺はもう1回また子からバディを奪い取った。また子が男なら殴ってたところだ。

「一中の高杉かァ!懐かしい響きだなァ」
キッチンの向こうから口を挟んで来たのは小太郎。ああ、もう1人いたよ、かつての俺を知ってるヤツが。頭痛ェ。

「河上は?帰ったのか?」
「兄貴は明日、朝から仕事ッス」
帰ると思ってたとあっさり言い放つまた子。

「坂本ォ、ベッド借りやしたぜィ。トシが寝てまさァ」
「近藤はバイト行ったぜよ。それと、阿音はもうすぐ着くそうじゃ」
片付けを終えた陸奥がリビングに合流して俺達の前に座る。

「晋助先輩、アレは持ってないんスか?えっと、えっと…」
兄貴の部屋にはいつも、バディとはまた違うゲイ雑誌があったとまた子は言う。

「ああ、コレじゃなかかァ?」
一旦寝室に入って行った辰馬が持ってきたGメン。これもまた、ゲイ雑誌。

「これッス、コレ!」
兄貴がいっつも、引き出しの下や箪笥の裏に隠してたッス!と言いながら普通にページをめくり始めるまた子。

「辰馬お前っ、女の子に何見せてんだよっ!!」
「大丈夫じゃろ〜?だって、また子ちゃん見慣れてそうじゃけど?」
確かにそれはそうだろうけど。だって、万斉のやつ、俺と付き合ってる時からまた子には隠してなかったからな、全然。

(そう言や、おかげでまた子にヤってるトコ、何回か見られてるんだった)
敢えて忘れようとしていたことまで思い出してしまって、俺は急に顔に血が昇るのがわかっていながら止められなかった。

「でも、坂本がGメン持ってるってのが意外でさァ」
河上が持ってたってのもそうだけど、タイプじゃねェだろィ?という、細かいところを突っ込んだのは沖田。そう言えばそうだ。

「…辰馬って、ホントはああいう系がイイのかよ?」
短髪、身体はガッシリ、野郎系。何から何まで俺とは正反対。岡田や武市ならともかく、万斉が持ってたってのも、不思議な話だ。
本当は、万斉も野郎系の方が好きだったのかもしれない。

「安心し。酔っ払って、間違って買ったんじゃよ」
良かったらまた子ちゃんにあげるぜよって言いながら、辰馬は俺の頭を撫でてくれた。

「アタシが貰っても、しょうがないッスよ?もれなくおこげの腐女子で回し読みするくらいッス」
パラパラページをめくりながら、どうせくれるんならバディの方がイイッスなんて言うまた子。
お前なぁ。確かに、また子はなぜか腐女子とか呼ばれる子達と仲良かったし、バディならイケメンホストのグラビアとかもあるけれど。

「じゃア辰馬、銀さんにちょうだい!」
プロレスまがいの技をかけられながら叫んだのは銀時。有効利用するからァ!と。

「おう、持って帰り〜」
「坂本っ!」
立ち上がったのは東城だった。

「普通のエロ本はないのか、普通のっ!」
東城らしいって言えば東城らしい。だけど、普通の男女のエロ本なんて、辰馬持ってるのか?当然俺は、持ってないし、買ったこともない。

「ほうじゃの、東城にはコレやるぜよ」
言いながらまたまた寝室から辰馬が持ってきたのは、厚さ5センチはあるかというような風俗雑誌だった。

「…お前、なんでそんなモン持ってんの?」
「コレはのぅ…」
「俺が買ってきたヤツじゃないかぁっ!」
東城の叫び声で、そんなモノがうちにあった理由はすぐに判明した。

よくよく見たら、風俗雑誌は昨年のものだった。さっさと捨てろよな。

「東城が一緒に行こうって買ってきたんじゃけどー」
「コレは全部見たし、こんな古いのじゃ役に立たないっ!」
「仕方ないじゃろ、わし風俗行かんもん」
また子が興味津々でページをめくると、リアルに割引券が数枚切り取ってあった。なんか、嫌だもう。

「なんか、昼間っから飲んでると、みんな壊れっぱなしね」
「本当にそうだな」
キッチンの横に座布団を敷いて、小太郎と幾松が2人並んで座って飲んでいた。
モジモジと幾松が小太郎に近づいて行ってるんだけど。駄目だ、小太郎のヤツたぶん全然わかってない。
手握ったくらいじゃ小太郎は気付かないぜ幾松さん!ガンバレ!

そこで、玄関チャイムが鳴って。あんまりにもうるさくて、近所の人が文句言いに来たのかと思ったら遅れて来た阿音だった。

「うっわ、みんなテンション高すぎ!」
「昼間っから飲んどったらこんなモンじゃあ」
小太郎と幾松を跨いで、陸奥の横に座った阿音は、すごい荷物の量だった。買い物でもしてきたらしい。

「坂本君、アタシにもお酒ちょうだい!」
「ああ、ビールがええがか?」
焼酎ならテーブルの上に出てるから。冷蔵庫へ向かおうとして立ち上がった辰馬の足が、俺の右足を踏んだ。

「痛ェっ!!」
「ああっ!晋、すまんっ!」
あんまりにも近づいて座っていたからだった。
足を踏まれたくらいで…と阿音は思っただろうけど、辰馬が脱がせた靴下の下に、包帯が巻かれているのを見て心配そうに見つめてきた。

「ゴメンゴメン、ビールくらい自分で出すわよ。高杉君、どうしたのソレ?」
痛みを堪えている俺よりもよっぽど泣きそうな表情の辰馬が代わりに答える。

「捻挫したんじゃよ〜。今度こそ折れたかもー」
「そんな簡単に折れるかァ!」
半泣きでひざまづいた辰馬は俺の足首をさすっている。

「大丈夫だって、辰馬」
心配し過ぎな辰馬の頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
万斉のことがあって言い忘れてたけど、全治3週間って言ってたから、そんなにヒドいわけじゃないんだ、本当に。骨にだって異常なかったし。

「坂本、俺らお腹空いたからご飯行ってくるさね」
まだひざまづいたままだった辰馬の肩を岡田が叩いた。

「あーっ、銀さんも行く行く〜!」
「いつもいつも、幾松さんに作ってもらってばかりでは悪いですからね」
そういえば、花見に遅れて来た小太郎と武市は、お弁当に当たっていないはずだった。

「アタシも行くッスぅ〜」
「おう、みんなで行って来ィ」
「アタシ、食べて来たからパス」
「トシが起きてからでいいでさァ」
歩きたくない俺と辰馬もパス。後は全員で駅前のファミレスに出掛けていった。

「モジャ!わしはそのまま帰るぜよ」
「おー、了解じゃあ陸奥〜!また連絡するぜよ〜」
「せんでええわっ!」
みんなが出て行ってから。『きっと岡田と武市もそのまま帰るよな』なんて、残った4人で言い合った。

「桂と幾松も、2人で帰ったら上出来なんじゃけどの〜」
俺の右足を、膝の上に乗せてずっとさすったままの辰馬が呟いた。
やっぱり辰馬も、2人の様子に、っていうか、幾松からあんなに近づいてるのにわかってない小太郎に、気付いていたみたいだった。だけど。

「残念ながら、小太郎の鞄、ココに置いてあるぜ」
俺がリビングの隅を指さすと、阿音や沖田までもが深い溜息を零した。

「ってか桂、このまま銀時あたりに食われて、目覚めちまう方が早いんじゃねーですかィ?」
「な、なんだよソレ?沖田!」
「ちょっと待ってよー!ますますホモ率高くなるワケ?」
阿音が頭を抱えてる。悪かったな。

「っていうか、俺のカンだと、銀時と桂は、もう1回はヤってまさァ」
どっちがどっちかは知らねェが、と言い切る沖田。

「高杉も中2の時、頑張ってみれば良かったのに」
ニヤニヤ笑いながら酒を持ってカウンターキッチンに移動してきた沖田に言われて、俺は顔を逸らして俯いた。
辰馬の前で言うんじゃねェ、馬鹿野郎!それに、俺は中2の時は、男同士でどうヤルかなんて知らなかったんだっつぅの!お前と一緒にすんなよな!

「えいんじゃよ」
俯いたままでいたら、辰馬が俺の頭を抱き寄せてくれた。

「晋は、今のままでえいんじゃよ」
「あーん、アタシも幾松ねーさんかまた子ちゃんあたりに迫ってみようかな〜」

だらんとテーブルの上に腕を伸ばして阿音は突っ伏した。
「なんで陸奥の名前は出ないんでさァ?」
「なんかー、鼻で笑われて終わりそうだもんー」
「そうかもしれんのー」
いつも通り辰馬は豪快に笑って、阿音と沖田もつられてる。

「でも、阿音さんは、なんかそういうイメージないよ」
俺の言葉に、一瞬笑いが止んだ阿音だけど。

「あったり前よ!馬鹿な男に貢がせるのが一番楽しいんだからっ!」
今日の買い物も、全部向こう持ち!って、やっぱ女って逞しいなァ。

「ほどほどにするんじゃよ〜。あんまり貢がせると、刺されるぜよ」
「あら、アタシ坂本君程じゃないけどー」
今日のコレなんて、所詮全部で10万弱よと言い切る阿音に、言い返せずにいる辰馬。

「タグ・ホイヤーだったっけ?アイルトン・セナ限定モデル。おいくら万円貢がれたんだったかしらァ、坂本君」
「………辰馬、お前って、そんなスゴイ時計してたの?」
確かに、辰馬がいつもつけてる時計は、高そうだなと思っていた。
だけど、着る物も全てブランドばっかりなボンボンの辰馬のことだからって、全然気になんかしてなかったんだ。

「そう言えば晋はいつも時計しとらんの!今度買い物行こうかの!」
慌てる辰馬の前で、阿音は沖田にこっそり辰馬の時計の金額をバラしているようだ。『さん』って聞こえたから、30万か?どこの誰に貢がれたんだよお前っ!!

「俺、あんまり時計とか、わかんねェし」
辰馬みたいなボンボンでもなんでもない俺が、そんなのに詳しいことの方が、おかしな話だ。

「カップルで時計のプレゼントすると別れるって言うから、やめた方がいいわよ〜、坂本君」
相変わらずだらしなく突っ伏したままで阿音が忠告した。あ、そうなんだ。

「高杉だって、カワイイ顔してるんだから、上手く変態親父騙せたら、時計くらい簡単に貢がれますぜィ」
「沖田、お前な…」
しらっと言ってのける沖田だけど。
土方のマンションに置いてあるPS3やwiiが、まさにその貢がれモノだって知ってるのはたぶん俺1人で。
俺と辰馬がまだ付き合う前、俺と沖田がセフレだった頃。高校生のくせに飲み代やホテル代を出してくれる沖田に理由を聞いたからこそ、俺は知ってるんだけど。

「沖田君は、どこでそんな変態親父捕まえとるんじゃア?」
「秘密でさァ」
「辰馬、聞くな!それだけは!」
一瞬不満げな顔を見せた辰馬だけど、きっと考えてみればわかるだろうと思って、俺はそこから話を逸らした。

「辰馬も沖田も、昨夜から飲みっぱなしで眠くないのかよ?」
「俺は坂本の店で爆睡しやしたぜィ」
沖田はすんなり答えたけれど、辰馬はまだ前の話題を引きずってるみたいだ。

「坂本もたぶん店で寝たんだと思いまさァ」
一番最初に爆睡を始めたのは近藤さんだけどと沖田。

「晋!」
いきなり辰馬が、真剣な表情で俺に向き直って両肩をがしっと掴んだ。

「晋は、そんなトコで働いたら絶対に駄目じゃからの!」
なんだよお前、今頃わかったの?

「行かねェよ、馬鹿」
「そんなトコって、何?…あー、アタシ知らない方が良さそうねェ」
阿音は空になった缶を持って立ち上がりキッチンへ向かった。冷蔵庫の中の酒を選んでいる。

「大丈夫でさァ。高杉は1日で『無理』って泣いて辞めてるから」
「沖田っ!!!」
最低だ、沖田のヤツ。いくら酔っ払ってたって、そりゃねェだろう。今までずっと秘密にしてきたのに。

「晋、わし、嫌じゃあ」
いつの話か知らんけどって言いながら、辰馬は本気で泣いていた。

「だからっ」
俺には無理だったの!だから1日で辞めたんだっつうの!…身体を売るなんて。

「そんなに泣くなら、お前こそ浮気やめろよな」
つられて泣いてしまいそうで、俺はわざとキツく辰馬に当たってしまった。

「あー、もうっ、とりあえず仲直りに一発ヤったらどうですかィ?」
「沖田っ!!元はと言えばテメェが悪いんだろうがっ!」
余計なコトばっかり言うからっ!

「阿音、あっちの部屋で飲みやすぜィ!おっと、銀時達に電話入れないと」
早速携帯を取り出した沖田。お前、何考えてんだ?

「すまんのう、沖田君、阿音。2時間くらい、あっち行っといての」
言いながら辰馬は俺を軽々と抱き上げた。

「せめて1時間半で終わらせなせェ」
「頑張るぜよ〜」
「馬鹿っ!離せ、辰馬っ!」
「あー、ごゆっくり〜」
いくら暴れても辰馬は離してくれなくて。そのまま、昨日から布団が敷かれっぱなしの俺の部屋に運ばれて。

「みんながおるから、ずっと我慢しとったんじゃ」
「お前、最低っ!」
俺の憎まれ口も何のその。唇を重ねてきた辰馬に着ていたものを全部脱がされて。

「ヤルならその前にシャワー浴びさせろよ馬鹿っ!」
「構わんぜよ、くっつきたいだけじゃから」
結局、いつもみたいにあちこち舐められて喘がされて。俺も辰馬の中心を舐めたり扱いたりはしてたけど、駄目だ、やっぱり気持ち良さに負けてしまう。

足首が痛い俺のために、いつもより辰馬は慎重になっていたみたいだった。悔しいけれど、そういうところも大好きなんだよな、なんて。霞んでいく意識の中で、ぼんやりと辰馬の体温だけを感じていた。


END



時間がないため、2人は挿入はしてません(何?)辰馬vs万斉が書きたかったのでした。あとは下ネタ(爆)
時間外診療で病院行ったら、処方箋じゃなくてその場で薬くれるよ!…ってことに気づいたのは、書き終わってしばらくしてからだったそうな。






















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