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最初に『みんな飲んだら目茶苦茶になるから』って、桂さんが言ってたじゃない。あれの意味を、銀さんがようやく理解したのは、日付が変わってからだった。

知らへぬ恋は2


けっこう銀さんも飲んでてさ。弱くはない方だとは思ってたけど、みんなすごいの。ビールが箱でなくなっていってる。
1箱24本、だよね、確か。途中から、パックの『いいちこ』が2本と2リットルの水とお酒の一升瓶がテーブルに置かれてさ。グラスや氷は各自キッチンで入れるようにって。その酒も、みるみるうちに減っていく。

玄関チャイムが鳴って、こんな時間にまだ増えるのかよ?12人目?なんてほろ酔いの頭で思ってたら、玄関から聞こえた声は『ニンニンピザでーす』って。さすが都会は、こんな遅くまでピザ屋やってるんだ…って、感心したのは一瞬。
迎えに出た辰馬と一緒に、ピザ屋の兄ちゃんまで入ってきたんだもん。

「ホレ、東城、近藤。服部来たぜよォ」

ソファの裏と、ダイニングテーブルの横でひっくり返っていた東城と近藤がムクっと起き上がって、待ってました!って。食べ過ぎで横になってたんじゃなかったの?

「服部ィ、国文1回の坂田銀時君じゃあ」
辰馬が紹介してくれて。ピザを持ってきた彼は、経済学部2年の服部全蔵。本当にピザ屋でバイトしてて、閉店間際にピザを焼いて、帰る時に持ってきてくれるんだってさ。ピザ屋の兄ちゃんまで友達にしちゃったんだ、辰馬ってスゲェや。

「銀時、なくなるぜ」
こっちのテーブルの上に出されたピザはLサイズ3枚。いくらなんでも…って思ったけど、高杉に呼ばれて見たら、マジだった。もう既に2枚目の半分以上ありません。ダイニングテーブルの上は、1枚しか置かれてないけどまだ全然残ってるのに。

ちなみに、4人掛けのダイニングテーブルは、女の子3人と桂さんが囲んでる。だんだん名前も覚えてきたよ。
桂さんの隣は社会福祉学科の幾松さん。その前の小柄な子は辰馬と同じ経営学科の陸奥さん。銀さん達が入ってきた時に、東城と近藤を蹴ってたのはこの人ね。一番小柄だけど一番怖いかもしれないってのは高杉の言葉。陸奥の隣は銀さんや高杉と同じ文学部の阿音さん。
だけど、阿音さんは美術史科だって。頭良すぎっ!だって美術史科って、余裕で偏差値70超でしょ?銀さん達国文なんかそれに比べたら…。
でも、高杉が時間割作る時に、いろいろ教えてくれたのは阿音さんなんだってさ。

「なんか食ったら暑くなってきたなァ!」
デカイ声で笑いながらすごい早さで、それこそ『パパッ』て感じで近藤が服を脱ぎ始めた。…っていうか、パンツまで脱いじゃった横で『そうですね』って、やっぱり全裸になる東城。

唖然として声も出なかった銀さんの視界の端で、高杉の口から火のついた煙草がポロっと落ちるのが見えた。

「あ゛ぢーっ!!」
「高杉ッ!すいません、誰か冷たいタオルっ!!」
急いでティッシュを3枚くらい掴んで、火のついたままの煙草と火種を拾う。床は焦げてはいないみたいだけど。桂さんが濡らしたふきんを持ってきてくれて高杉の太腿を冷やしていた。

「これ、買ったばっかりだったのにィ!」
最初に煙草が落ちたところが、小さくだけど穴開いちゃってた。
「ズボンより火傷の心配をしないかっ!ほら、脱いでみろ!」
「やだっ!あんな風になるのはやだっ!」

あんな風って、高杉に指を指されたのは、もちろん近藤と東城。辰馬が『パンツだけは履いておきィ』って、履かせてるとこだった。

っていうか、男2人全裸になったってのに、女の子3人、無反応じゃなかった?普通『キャー』とか『イヤー』とか、言わないかな?それどころか『またか』って、陸奥さんか阿音さんの声が聞こえた気がしたんだけど、気のせい?

仕方なくって感じでパンツだけ履いた近藤と東城。2人共、堂々と脱ぐだけあっていい身体してるわァ。筋肉すごいもん。ちょっと抱かれた…、いやいや、銀さんは辰馬がいいですって。

「晋助、着替え持ってきたんだろ?あっちの部屋で着替えてくるか?」
「…そうする」

自分の鞄の中からスウェットパンツを取り出した高杉が廊下の方へ向かうのに、なんでか桂さんも一緒に立ち上がって。

「坂本、火傷の薬はあるか?」
「別にそんなんいらねェよ!」
「おー、高杉ィ、わしが塗っちゃるぜよォ」
「死ね!!」

銀さんだったら、桂さんもいいけどやっぱり辰馬だなァって思うのに。桂さんに宥められた辰馬はショボンとしながら、桂さんに火傷の薬を渡して、高杉と桂さんは2人で廊下の向こうに消えた。
「アイツは相変わらず、報われない男だねェ…」
「全くですよねェ」

隣から、岡田と武市の呟きが聞こえてきて、それがなんだか、ものすごく耳に残っちゃった。

(相変わらず報われない?誰のこと?)
銀さんじゃないよねェ?だって銀さん、まだ誰にも、自分のこと何にも話してないよ?確かに銀さんもめちゃくちゃ報われない男ですけどっ。

「友達運は強いんですけどね」
「恋愛だけは、ことごとく駄目だねェ」
「半分以上は自業自得ですけどね」
「違いないさね」

それって、もしかして辰馬のことですか?って、岡田と武市に聞こうと思ったら、その辰馬が銀さんの隣に座った。

「銀時、飲んじょるがかァ?」
「あ、うん。かなり」
実はこれ以上飲んだら多分、フラフラになっちゃってヤバイよーってくらいは飲んでるんだよね。

「若いんじゃからもっと飲みィ」
いいちこの水割り(相当薄い)が入ってた銀時さんのグラスに、辰馬は日本酒を入れちゃった!

(ま、マジ…?)
「お?焼酎じゃったかの?すまんすまん」

いいちこ水割りの日本酒割りを一気に飲み干した辰馬は、新しく氷を追加して、すっごく濃い水割りを作ってくれた。

「ホレホレ、飲みィ」
それから、自分のグラスを出してきて、自分はロック。

「乾杯ー」
その言葉と同時に辰馬は一気飲み。こんな濃いの飲まなきゃ駄目なんですか?って半泣きでグラスに口をつけて。銀さんはそこで、辰馬と間接チュウしてるってことに気付いちゃったんだ。

(ちょっ、コレってさ…)
「んー?やっぱ濃かったかの?」

多分真っ赤になってるだろう銀さんを、酒のせいだと思ったのか屈んで心配そうに見上げてくる辰馬の上目使いに銀さんの心臓は限界なんですけど。

(は…鼻血でそう…)
「だっ、大丈夫っ!」
「ちっくと薄めようかの」

辰馬は、また銀さんのグラスに口つけて、酒を半分くらいまで飲んで。減った分はお水を足してくれた。

「テメェ坂本っ!だからなんでそこに座んだよっ!」
スウェットパンツに着替えてきた高杉が顔を見せた瞬間に怒鳴り声を上げる。

「えいじゃろー、ここに座りたいんじゃー」
「じゃあ俺こっち行く」

自分のグラスを確認して取った高杉が座ったのは、さっきまで桂さんが座ってたダイニング。

「銀時、お前も迷惑だったら離れろよ!」
「あ、イヤ…。銀さんは大丈夫」
「あっそ」

高杉に席を取られた形になった桂さんが辰馬の隣に来て。銀さんここでいいです。ってか、この席がいいです。

だって辰馬の隣だし、その横桂さんだもん。目の保養だよ、目の保養。

「見事に嫌われたものだな、坂本」
溜息をつきながら桂さんが困ったような顔を浮かべてる。

「わしが悪いんかのう?」
何があったんですか?って、聞いてみたかったけど。辰馬が本気で落ち込んだ顔してるから、銀さんには言い出せなかった。聞いちゃいけないことってのは、存在するのよ、世の中に確実に。

「銀時」
「はいっ?」

落ち込んだ辰馬の顔もカッコイイなァって。ほとんど病気みたいに辰馬ばっかり見てたら、急に桂さんに名前を呼ばれた。

「晋助はあんなんだが、コイツ…坂本は悪いヤツではないからな」
「あ、ハイ。…そう思います」

いや、悪い人じゃないってより、むしろめちゃくちゃいい人でしょ?辰馬は。だって、銀さんに優しくしてくれるんだもん。

「俺にとってはどちらも大事だからな。仲良くしてもらえると助かるんだが…」

あんなに辰馬のことを嫌ってる高杉だけど、桂さんから誘えばついてくるらしい。ってか、桂さんと高杉って、小さい頃から本当の兄弟みたいに仲良くて、高杉ってめちゃくちゃお兄ちゃん子だったんだって。小学生くらいまでは、高杉はずっと桂さんの後ろ着いて歩くような子だったみたい。

いいよなァ。銀さんにはそんな幼なじみ、当然いないから。

「坂本!わしら寝るぜよ」
「おー、好きにしィ」

ダイニングに座ってた女の子3人が立ち上がった。廊下の向こうにもう一つ部屋あるみたいだから、そっちに行くんだって。そりゃそうだよね、女の子だもん。男はきっと、ここで朝まで飲みながら雑魚寝なんだろうな。

女の子が3人寝ちゃったら、ダイニングは高杉1人になるんじゃない?と思ったら。椅子を降りてこっちに寄って来た高杉がとろんとした目で桂さんにくっついた。

「小太郎、俺も寝る」
お姉さん座りで桂さんの肩に顔押し付けてさ。なんか高杉、可愛くない?ってか、お姉さん座りってどーなのよ?

「坂本、こいつベッドに寝せても構わないか?」
「構わんぜよォ!」
一番奥でのぅって笑いながら辰馬は桂さんに引っ張られる高杉を見てる。

「銀時、高杉の寝起き知っちょるがか?」
「えっ?知らない」
一番奥で、とわざわざ辰馬が言ったのは、高杉の最低最悪な寝起きに原因があるらしい。

「起こした人間、殴る蹴る暴れる当たり前でのう。暴言吐きまくりなんじゃ」
わしも1回しか見ちょらんが、30回は『死ね』って言われたのぅ、だって。うわァ、銀さんソレ、知っててもマジへこみしそうで見たくない…っつぅか、高杉起こしたくないんですけど。

「でも、そこもなんじゃ、かわえくてのぅ」
(ズキン)

今、辰馬、高杉の最低最悪の寝起きが可愛いって言った?それってもしかして、銀さんが落ち込んだ辰馬もカッコイイな、なんて。思っちゃったのと一緒?

「そういうことばかり言ってるから嫌われるんですよ、坂本さん」
もしかして、いや、もしかしなくても辰馬って、高杉が好きなの?って、聞こうとしたけど銀さんには口にできなくて。横から呆れたように口を挟んできたのはやっぱり武市と岡田。

「ただでさえノンケ恋なんてイバラ道、早いとこ諦めるんだねェ」
(今、ノンケ恋って言わなかった?)

ノンケ恋の意味くらい銀さんだって知ってる。だって銀さんバイだもん。それくらいの用語は知ってるよ。

「うるさいぜよ!なんじゃなんじゃ、似蔵じゃって元は可愛い子が好きじゃったろーが!いつから変わったんじゃ!」
「そんな昔のことは忘れたねェ」
「いいんですよ似蔵さん。私は、今の似蔵さんが好きなんですからね」
「武市さん…」
(ちょっと待ってって)

今さ、さらりと惚気なかった武市さん?いやいや、カップルだろうとは思ってたけどさ!ってか、顔真っ赤ですよ、岡田さん!

「なんじゃおまんら、イチャイチャしよって、わしへの当て付けかの!」
プリプリ怒りながら辰馬は日本酒を一気飲み。これだけ飲んでるのに顔色ひとつ変わらない。スゲェ酒の強さ。

「あのー」
銀さんは思い切って聞いてみることにした。これだけ確信を持てたんだから、大丈夫だと思って。

「武市さんと岡田さんはカップル…なんですよねェ?」
うわ、緊張しすぎて声が上擦っちゃった。変な意味に取られたらどうしよう。

「実はそうなんですよ。男同士なんて珍しいでしょう?」
武市さんが答えてくれて、銀さんは思いっ切り首を横に振った。

「気持ち悪くなったかィ?」
「全然っ!」

今度は銀さんが赤くなる番だった。だって、初対面でまさかカミングアウトすることになるだなんてさ!

「ぎ、銀さんもバイなんですけど…」
武市と岡田と、グラスに酒を注いでた辰馬までが驚いて銀さんに注目してる。とうとう言っちゃった。

「ほーかァ!銀時、わしと一緒じゃのー」
アッハッハーって辰馬が大きな声で笑いながら銀さんの肩をバシバシ叩くもんだから。空気が和んで銀さんもすごく安心した。そうか、辰馬ってバイだったんだ。だからあんまりゲイオーラ出てないんだ。

「安心しィ、ここにいるモンみぃんな、偏見もなんもないからのー」
「何を騒いでるんだ?」
寝室から出て来た桂さんに、辰馬がデカイ声で言っちゃった。『銀時、バイなんじゃって』って。

「ほォ、そうだったのか」
だけど、辰馬が言った通り偏見はないみたいで。桂さんは普通に『こっちはノンケなんだがな、気にしなくていいぞ』って。ちなみに『こっち』ってのは、床にひっくり返って寝てるパンツ一丁の近藤と東城と、ほとんどしゃべらず飲んでる服部プラス桂さん。

「そんなもん気にしてたら来れないだろうがよォ」
あの女の子達も全然気にしてない子ばっかりだからって話に入ってくる服部。

「あー、あと晋助もそうだな。ただ、晋助だけ、唯一何にも知らんなァ…」

高杉がここの飲み会に来たのは、実は今日が2回目らしい。体質的に寝ないと駄目で、今日みたいに早く寝ちゃうってのもあるんだけど、わざわざ『メンバーの半分セクシャルマイノリティーです』って、高杉に説明することもなくなっちゃってるくらい、ここではLGBTは普通のことになってるんだって。つまり、誰も特別なことだと思ってないから、言うの忘れてた、って感じ。

(こんなことってあるんですか?)

ゲイとかバイの男だけでつるんでるならわかるんだけど、そうでもなくて、全くのノンケも女の子も混ざってみんなでワイワイ仲良くやってるなんて。こんな世界があるなんて、銀さん夢にも思わなかったよ!だってこれってさ、理想の世界じゃない?

「銀時、お前からも言ってやれよ、そこの馬鹿に。ノンケ恋は報われないってねェ」
岡田が言った言葉で銀さんは今度こそ完全に確信持っちゃった。辰馬は高杉が好きなんだ。

「うん、ホントイバラ道だと思うよ。だって辰馬、ネコには見えないし…」
「ようわかったのう、わし、バリタチじゃき」

やっぱりね。銀さんのゲイ感知センサーもなかなかやるでしょ。辰馬は絶対タチだと思ったんだ。
つまりさ、辰馬がバリタチってことは、もしも高杉を口説き落とせても(今の状態じゃ有り得ないと思うけど)、高杉とセックスするってことはイコール高杉が受け身になるわけでしょ?それって一番厳しい道じゃないのよ。まだネコがさ、ノンケ好きになって抱かれたい…って方が、可能性はあるよね。
ノンケ男にとっては、相手が女から男になるだけで、やることはあんまり変わらないんだからさ。

「おんしはどっちじゃ?タチ顔しちょるけどのー」
「銀さんリバ。相手に合わせるよ」

だって、銀さんとしてくれる子なんて少ないんだからさ、どっちかしか駄目だなんて贅沢言えないじゃない?

「おんし人生楽しんじょるのー」
バイリバなんて一番オイシイのうって辰馬は笑うけど。そんな楽しんでもないんですけど。だって銀さん、辛い恋しかしてきてないよ?

「お前がモテないのはお前の自業自得だろうがよォ」
さっきから、一番辰馬に言いたい放題なのは岡田の気がするんだけど。あ、高校から一緒だって言ってたっけ?

「辰馬ってモテそうなのに」
「駄目駄目。コイツ、ヤルだけなら誰でもいいくせに、好きになるのはジャニ系と決まってんのさ」
「ジャニ系?マジで?趣味わ…」

趣味悪いって言いそうになっちゃって、慌てて言葉を飲み込んだ。人の好みなんてとやかく言うもんじゃないでしょ。

「似蔵っ!おんしじゃってジャニ系好きじゃったろー!」
「そんな昔の話は忘れたよ」

そっぽを向いてしまった岡田だけど。ああ、なんか今、高校生の岡田と辰馬で可愛い男の子の取り合いしてる姿が見えちゃった。『俺が最初に見つけたんだ!』『わしが最初に声かけたんじゃ!』って、やってたんだよ、きっと2人で。

「坂本さんは女の子もボーイッシュな子が好きですからね。ジャニ系が趣味悪いとは言いませんけど」
武市が訳知り顔で説明してくれたんだけど、言ってんじゃん!ジャニ系好きだなんて趣味悪いって!

要するに辰馬は中性、男っぽい女の子と女っぽい男の子が好きなんだって。それって本当に変わってるよ辰馬。

ってか、辰馬が、そういう子が好きなんだったらさ、つまりは銀さんなんて、いくら頑張ったって辰馬の好みのタイプにはハマらないんだよね。高杉くらい小さくないと駄目ってことだよね。
あーあ、銀さん早速、失恋しちゃった。いいよ、慣れてるからさ。
銀さん、本当に好きになった人に、本当に好きになってもらえたことって、今まで1回もないもんね。付き合っても身体目当てだったり銀さんが貢がされたりとかなんだもん、本当報われない運命なんだよ。だから早いうちに失恋しといてよかったのかもしれない。

でも、さ。

「あのさー、辰馬って高杉が好きなんでしょ?」
なんであんなに嫌われちゃったの?って。好きな人に嫌われるようなこと、普通しないよね?

「な、なんでわかったんじゃ?」
「いや…見てればわかるよ…」

ただ見てただけじゃ『もしかして?』って感じだけど、『ノンケ恋』だとか『ジャニ系好き』だって聞いちゃったらさ、それがまんま答みたいなもんじゃないのよ。

「それがなァ、銀時」

その先は桂さんが説明してくれた。辰馬は初対面で高杉に『ちっこい』『めんこい』って連発しちゃったんだって。辰馬にとっては褒め言葉だったんだけど、身長の低さを気にしてる高杉にとっては侮辱…って言うか、要するに逆鱗に触れちゃったらしい。
「もー桂、その話やめるろー」
デカイ身体を縮こませてさ。もう泣きそうなくらいへこんでんの、辰馬。

「でもお前、まだりょう先輩とも連絡取ってんだろ?二兎を追う者は一兎をも得ずって知らないのかィ?」
『りょう』って名前でどっちかなって思ったんだけど、その先輩はどうやら女の人らしい。

「銀時、気をつけろよ。坂本は手が早いからな。油断すると食われるぞ」
俺も何回も襲われかけたんだーって桂さんが笑ってる。襲われかけといて、しかもノンケで、それでも桂さんは辰馬のこと大事だって、さっきハッキリ言ってたよねェ?桂さんが寛容なのか、それとも辰馬が、そんなことがあっても水に流せるくらいイイやつなのか。多分両方だよね。

ってか、銀さんは、銀さんでいいなら辰馬に食われたい…デス。

「おんしら、わしの話ばっかりやめるろー!自分らどうなんじゃ?」
「仕方ねェんじゃねェの?だって坂本、お前ネタの宝庫だもんよ」

はたから見てるだけの俺でも楽しいぜって笑うのは服部。あんまり積極的には会話に入ってこないけど、聞いてるだけで面白いんだって。

「わしは漫才師じゃないぜよ!」
「いや、お前、下手な漫才より面白いよォ」

芸人にでもなりな、だって。すごい言われよう。納得する部分もあるんだけどね。銀さんも、すごく楽しい。

わかったことは、さっきからキツイことたくさん言ってる岡田や武市の2人も含めてさ。みんな辰馬が好きでここに集まってるんだってこと。そして辰馬が、自分自身がバイだからってのもあるけど、セクシャルマイノリティーには全く偏見がなくて。辰馬がこういう人だからこそ、そこに集まってくるノンケの桂さんや服部までみんなみんな、偏見も何もなく付き合えるんだってこと。

大学生になったら、バイだってことは隠して、なるべく女の子好きになろうって決めてた銀さんの考えは、あっさり3日目で崩れちゃったけどさ。おまけに失恋もしちゃったけど、自分のことを隠さなくてもいいんだってのはすごく楽チンで。

辰馬や岡田と武市、服部とも電話番号やメルアド交換してさ。きっと高杉に誘われなくても、またここに来ちゃうんだろうなって思った。 携帯に登録する時に、名前の横に特徴を入れてたんだけどそれを辰馬に見られてさ。

「メガネ?モジャ?ヅラ?」
「見るなって!馬鹿ァっ!」
「アッハッハー!わしも、おんしの名前の横に天パって入れるぜよォ!」

自分の名前の横に『モジャ』って入ってるの見ても辰馬は全然怒らなくて。ってか、銀さんはやっぱり『天パ』なんだ。

「ヅラ…?まさか俺のことか?」
やっべ、桂さんの顔が引き攣ってない?

「ヅラじゃない、桂だ!」
「ご、ごめんなさい…」
でもなんか、そこまで力いっぱい否定されると、余計『ヅラ』って呼びたくなるんですけど?

「…ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ!」
またおんなじ台詞で否定する桂さん。いやもうコレ、あだ名で決定でしょ?

「武市は何て入れたんじゃー?」
銀さんとヅラのやり取りに笑いながら辰馬がまた携帯を覗き込んでくる。

「まだ決めてないんだよね」
「武市はロリコンで服部はジャンプじゃよ」
「私はロリコンじゃありませんよ、フェミニストです!」

力いっぱい否定した武市は、自分はゲイで、女の人には興味がないからこそ親切にしなきゃならないとかなんとか、訳のわからない持論を展開してた。酔ってますよねロリコンさん。服部は文句なしみたいだからジャンプで決定。ってか、銀さんも毎週ジャンプは買ってるんですけど?話、合うかもしれない。

途中眠くなったりはしたんだけどさ、話してるのが楽しくて楽しくて、眠ってしまうのがもったいなくて。
結局みんなで明るくなるまで飲みながら話してた。

昼前に岡田と武市が帰っていって(岡田ん家は歩いて帰れる距離なんだって)、ようやく、銀さんはヅラと服部と3人で、テーブルを押し退けて床に転がったんだ。

明日学校行けるかなァ?なんて思いながら。


END



ENDってか続きますけどね。坂銀H!まではこのシリーズ書きますからァっ!!






















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