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※「このままこの手を離さないで」の翌週です

幸せすぎて、夢みたいだ、と思った。

これがしあわせ


夜中に突然目が覚めて。顔を上げた俺の視界に入ったのは、辰馬の寝顔だった。

枕になってる辰馬の太い左腕は肩まで回されて、右腕でしっかり背中から腰までを抱かれて。エアコン全開の寝室で辰馬のベッドでしっかり布団を被って寝てた。
規則的に聞こえる辰馬の寝息。それから、実は俺達2人共、布団の中の姿は全裸。
俺1人だったら、エアコンつけっぱなしなんかで寝たら、いくら布団被ってたって翌日全身怠いは風邪はひくは身体は死人みたいに冷たくなるわ…なんだけど、辰馬にくっついてたら、あったかい。

(やべ、幸せ…)

じんわり込み上げてくるものがあってさ。俺は辰馬の広い胸に顔を埋めていっそう強く抱き着いた。もちろんしっかり脚を絡めて。

まさかこんなことになるなんて、2週間前までは思ってもみなかったから。

『せっかく一緒に住んどるんじゃから、なんでも話して』

って、辰馬に迫られて押し切られたような感じだった。絶対言わないつもりだったのに、なんでかその時に限って万斉の言葉なんかが頭に浮かんできて。
もちろん、坂本ならいいやつなんだから、こんな明るいやつなんだから、もしかしたら受け入れてもらえるのかもしれないって、そう感じてしまったってのが一番大きかったんだけど。
ホラ、前に銀時とキスしてたじゃねェか!とか、いろいろあって。

俺は、人生で生まれて初めて、自分から好きだという告白をしちまった。後から冷静に考えたら、人生初の告白には『自分はゲイなんです』ってカミングアウトつきでさ。どこまで無謀なんだ俺は、っつぅか、そこまで切羽詰まってたってことなんだけどな。

…辰馬が好きに、なりすぎて。

まさかこんなに辰馬が好きになるだなんて、一番夢にも思わなかったのは俺だって。
だってな、俺は最初、辰馬のことが大嫌いだったんだから。

初対面で『ちっこい』とか『めんこい』なんて言いながらベタベタ触ってきてさ。小さいのなんかバリバリ気にしてるしさ、今も。それに、あの入学式の時はアレだぜ。俺は、万斉と別れてから、まだ1週間ちょっとでさ、寂しいは辛いは苦しいわ人肌恋しいわ…ってのをなんとか堪えてるような期間でさ。初対面の辰馬が知りようがなかったとは言え、他人にベタベタ触られるってことに、一番敏感になってた時期だった。

本当はもう、あの場で泣きたかったんだからな。

でも、後からわかったことだったんだけど、辰馬はあの瞬間にはもう、俺に一目惚れしてたんだって。だからつい、触っちまったんだってさ。あれが大学の中じゃなくて、最初からゲイだってことがわかるような場所、例えばゲイバーとかでの出会いだったらさ、もうそのまんま、キスまでしてたって辰馬は話してくれた。なんかビックリだよな。

そんな、俺にとっては最悪の初対面のせいで、それからずっと、小太郎にここでの飲み会に誘われて来たって『寄るな』『触るな』『ウゼェ』って、嫌いまくってたにも関わらず辰馬はメゲなかった。
何回殴っても蹴っても、またヘラヘラ笑いながら俺の隣に辰馬は座った。そのうち諦めて『もういいや、放っておこう』って思って、気にしないようにし始めた頃。偶然にも俺は、辰馬の真剣な表情ってやつを見ちまった。いつも馬鹿みたいにヘラヘラしてる印象は完全に消え失せ、別人みたいな顔をした辰馬に、なぜだかドキっとした。いっつもその顔してりゃいいのに、とまで思って、それから何が『いい』んだ?って、恐ろしいくらいの自己嫌悪に陥った。

なんだなんだ?坂本がいつもあの表情だったら好きになれるとでも言うのか自分?

必死で押し止めようとしたけれど、それでも心の中から溢れてくる感情は止まらなかった。

何もかも押し殺したまま一緒に住むことになって。だけど、俺は俺でちゃんと部屋を一つ与えられたんだから、学部も学年も違うし、そんなに顔も合わせないだろうし大丈夫だ!…そう言い聞かせてたけど、俺は甘かった。いっつもヘラヘラ大声で笑ってた辰馬のあの顔は、みんなに見せる表の顔だったんだということを、1人でいる時の辰馬の顔は俺の好きなあの顔なのだと、俺は思い知ることになってしまった。

バイトの面接で髪色のことをグダグダ言われて、ムカついて帰り道に美容室入ってメッシュ入れてやった時も。
大声で笑うかと思いきや、坂本は一言『似合っちょるよ』と。そう言って、見たこともねェくらい柔らかく微笑んだだけだった。
ああ馬鹿、あんなに嫌ってたのに、あんなに殴る蹴るしちまったのに。本気で好きになりそうじゃねェかって。ただでさえお前は、俺が『カッコイイ』って思えちまうタイプにハマってんだからさ、やめてくれよ!って。苦しくて苦しくて仕方なかった。

そう、きっと。あの時俺が告白できたのは、いっそ完全に拒絶されてしまえば諦めもつくだろうって、そんな後ろ向きな気持ちもあったんだと思う。

(それが今はこれなんだもんなァ)

アレだ。まさにもぅ、幸せ過ぎて自分が怖いってやつだ。この先、俺の人生に、いいこと一つもないかもしれねェなァ。

(でもいいや)

辰馬に抱かれてる今が幸せだから、そんな先のこと考えるの止めちゃおうと思って、ちょっと頑張って身体を伸ばして辰馬の唇にキスしたら、『んっ』って辰馬が低く声を上げた。舌なんか入れてないけど、もしかして起こしちまったのかな?

「晋」
案の定、俺を抱く腕の力を強くした辰馬の瞼が開いて。

「今、キスしたじゃろ?」
「あ、…うん。ゴメン」
起こしちゃってゴメンって意味な、もちろん。勝手にキスしちゃった…ってのもあるけど、辰馬はきっと、そんなことじゃ怒らない。

「謝らんでえいよ」
顎を掴まれて今度は辰馬から、深くて甘いキス。とろけるって、こういうことなんだと思う。

「晋からキスしてくれるなんて、わしは世界一の幸せモンじゃのう」
怒るどころかこっちなんだよな、辰馬は。

身体の上を、辰馬のおっきい手が這っていってピクンと反応してしまう。

「晋、抱いてもええ?」
「んっ、おま…」
寝る前にも3回したんですけど?

いや、そりゃあだな、俺が辰馬に告白してだな、辰馬も実はバイなんだってカミングアウトしてくれてさ。
それから、俺には一目惚れしてたんだって話になって。当然、実は相思相愛だったわけだからセックスになったんだけど。もうなんか、辰馬に抱かれてるだけで気持ち良くて離れたくなくて、ずっと繋がってたいとまで思って。
お腹がすくのとか、そんなんもどうでもよくて、ベッドから動きたくなくて、挿入されてない時は抱き合ってキスして身体触って寝て。起きてまたその繰り返しって。

気がついたら一週間経ってて、小太郎と銀時が捜索願いまで出そうとしてたような俺達にとっては、たった3回なのかもしれないんだけどさ。

「んァ…、ん、ふ」
覆い被さった辰馬の唇が首筋を這っていく。ってか辰馬さ、絶倫すぎんだけど?

「んんっ、ぁっ、ぉまっ」
鎖骨の下辺りに吸い付いてた力が強くて一瞬チクっとしたんですけど?今の絶対、跡ついただろー?

「わしのって印じゃき」
どうやら『強く吸いすぎて跡付いちゃった』んじゃなくて、確信犯だったらしい。柔らかく微笑んでみせた辰馬は、胸の横にもうひとつ、いわく自分の物って印をつけた。
そんなことされなくたって、俺はお前のモンだっつぅの。

辰馬のセックスは、涙が出てきそうなくらい優しかった。文字通り全身にキスをして、全身に舌を這わせて。
ほら今も、俺の右足を持ち上げて、内腿から膝のあたりをじっくり舐めてる。なんでそんなところが気持ちいいんだろう?背中までゾクゾク伝わってくるような快感に身体が震えて、恥ずかしい喘ぎ声が漏れてしまうのを必死に我慢してるんだけど。

「晋、きれいじゃよ」
言いながら辰馬が舐めたのは俺の踵。ちょっと、そんなとこ!って言うより早く、足の裏を這っていった舌が親指に到達して。口の中に含まれた。

「んっ、ん…」
くすぐったいからやめてほしいのに。でも、なんでだろう?そんなとこすら、相手が辰馬だったら気持ちいい気がする。

「ゃぁっ、もぅ、たつ、まっ」
「ほんに晋はかわええのぅ」
反対の足を取って、同じように舐めた辰馬の唇が上がってくる。そろそろ俺に舐めさせてって思うのに、辰馬はなんにもさせてくれない。

「晋、おいで」

俺の身体を抱き上げて、左腕1本で支えた辰馬は、唇を塞いだまま、軽く舐めた指で俺の中を掻き回す。わずか数時間前、寝る前にヤったばっかりだから、ローションなんか使わなくても俺の入り口はすぐに解れた。

「んー、んんっ、…ァあっ、たつ、っ」
「晋、触って」

辰馬の首にしがみつくように回していた腕を1本取られて、俺は辰馬の中心を左手でぎこちなく扱いていく。辰馬のってさ、すっげぇデカいんだぜ。こんなデカイの初めて見たもん。こんなの入るのか?って思っちまうけど、入るんだよな、これが。しかも、辰馬は慎重だから、ちゃんと痛くないようにしてくれるんだ。

「晋、入れよっか」

長い脚を広げて座ったってことは、座位ですんのかな。小さく俺が頷いたのを見届けてから、腕だけの力で軽々俺を『お姫様抱っこ』で抱き上げた辰馬は。
「入るまで捕まっといてのぅ」

辰馬の首にぎゅうっとしがみついた俺の後孔に自身を宛って、ゆっくりと俺の腰を降ろしていく。『お姫様抱っこ』のまんま、繋がっちまった。
「んんっ、んっく、ぁっ、ハ…」
「晋、苦しくないがか?」

腹ん中いっぱいに辰馬が満たされてるのがわかる。けど、嬉しいと思いこそすれ、痛いとか苦しいなんてことは全然なかった。
「うん、大丈夫」
「ほうか。…晋、愛しちょるよ」

幸せすぎて、涙が溢れてきた。柔らかく微笑んだ辰馬が下から突き上げを開始して。俺の背中と膝の裏に腕を回してしっかり抱えたまま、辰馬に唇を貧られる。

「んっ、んぅっ、ふっ、んふ」

頭の中が真っ白になるっていうのは、こういうことなんだと思う。ちゃんと、辰馬の首にしがみついてなきゃならない体位だってのに、気持ち良すぎて腕に力が入らなくて、それすらままならない。でも、ちゃんと辰馬は支えてくれるって、任せて大丈夫なんだって。わかってるから安心して俺は抱かれることができるんだ。

「た、たつ、もぅ、出そ…っ!!」
「えいよ」

膝の裏に通していた右腕を持ってきて辰馬は俺の中心を扱いてくれる。強弱をつけて裏筋には親指を当てて。

「たっ、つ…!んあああ…」

今日だけで何回目かわからない俺の射精は、もう出るモノもほとんどありませんって感じだったけど。ちなみに『寝る前に3回』の3回は、俺じゃない。辰馬の回数で3回。俺は、多分その2倍から3倍。しょうがねェだろ、辰馬より先にイっちまうんだから!

俺の呼吸が治まるのを待って、辰馬は俺の身体を仰向けにベッドに横たえる。もちろん繋がったまま。
好きな人とする時は正常位がいいって、一番好きだって言ったのは俺だ。だって、いつでも辰馬の顔が見えるし、キスだってできるし(これは身長差によると思うけど)。

「晋、好きじゃ」

脚を抱えて動きを再開した辰馬の口からでてくるのは熱に侵された時の譫言みたいな言葉。それも1回2回じゃない。

「晋、ほんに好きじゃァ」
「ァん、ぅあっ、あっ、ぁっ、アっ、俺、っ、も…」

俺も好きだと、辰馬だけが好きだと言いたいけれど、喘ぎ声に掻き消されて、ちゃんと言葉にはならなかった。
「晋、イクぜよ…っ」

額や顎の下からポタポタ汗を垂らしながら、苦しそうに呟いた辰馬が背中を仰け反らせるのと同時に、俺は身体の中に辰馬の熱い飛沫を感じた。

崩れてくる辰馬に頭を抱えられて唇を貧られて。今の俺は、世界一の幸せ者だと思う。

***

目覚めた時、完全に時間の感覚はおかしくなっていた。

「仕方ないじゃろー。じゃって、晋寝ちょるんじゃもん」
『お前らヤリすぎだっつーの!何時だかわかってんの?』
「しゃーないじゃろー、好きなんじゃもん」
『お前らが好きなんはセックスでしょーがっ!この馬鹿っ!』

辰馬は誰かと電話してるみたいだった。ってか、俺にまで聞こえる電話の向こうの声は、銀時っぽいな。
声の方を向いたら、辰馬は裸のまんまベッドに座ってて。俺は這うように近づいていって、辰馬の膝に頭を乗せた。

「お?…ほら、おんしがデカイ声出すから晋が起きてもうたじゃろー」
『馬鹿じゃねェの!声がデカイのはお前でしょーが!もういいよ、切るからねっ!』

何の用事だったのかはわかんないけど。言っとくけど銀時、辰馬は俺んだぞーって、寝起きの頭で思ってた俺がうっすら目を開けたら、目の前にあったのは、辰馬の『モノ』だった。そりゃ今は通常の大きさになってんだけどさ。

チュッ

「悪かったって言うちょるろー!……しんっ?」
『わかったよもう、……どーしたよ?』

最初からずっと、俺が攻められてばっかりで、舐めさせてももらえない辰馬の中心に唇を寄せて。キスしてから舐めてやった。
先端の方から舌を這わせてさ。ペロペロ舐めてたら、だんだん大きくなってきた。昨日からあれだけヤってるってのに反応いいなァ。あ、でも、舐めてるのに反応なかったら俺がへこむか。

「すまん銀時、また電話するぜよ」
辰馬が乱暴に携帯を放り出した音が聞こえてすぐに、俺は辰馬に抱き上げられた。

「こんなんなってもうたじゃろ?」
「だって、舐めたかったんだもん」
辰馬が全然させてくれないから、って。

「晋は体力ないから心配なんじゃよ」
俺を脚の間に座らせた辰馬が、腰を限界までくっつけてくる。

「掴まっちょって」
俺の両腕を取って自分の首に回させて。それから辰馬は両手で、俺の中心と自分の中心をまとめて擦り合わせた。

「んァっ、あっ、ぁぅ…っ」
「晋、キス…」

両手が塞がってる辰馬に、俺から頑張って背伸びして唇を重ねて。もちろん辰馬も屈んでくれたけど。
辰馬に触られてるだけで気持ちいい。やだもう、俺、いつからこんなにエロくなったんだよ。

「ゃっ、ゃだ辰馬っ、イク、出る…っ」
「晋、一緒にいこ…」
気持ち良すぎて力が入らなくなって離れた唇を、今度は辰馬から貧られた。

「んっ、んぅっ、んんーっ!!」

俺がイクのと同時に、辰馬の手が止まって、辰馬もイったんだなァってわかった。さすがに2人共、出る量はすっごく少ないけど。

「…わし、晋とじゃったら、一生ヤリ続けてまいそうじゃあ…」
イカ臭いティッシュをごみ箱に放りながら、身体がだるくて横になった俺に辰馬は覆い被さって。

「晋、愛しちょるよ」
俺を一番幸せにしてくれる言葉を、啄むように何度も何度も口付けながら飽きもせずに繰り返した。

「…俺も」

辰馬が好き過ぎて、死んじゃいそう。


END



坂高以外の話を続けて書くと坂高欠乏症になるんです。そうやって今まで何本突発エロを書いたことか。これもそのうちの一つ。























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