□title list□
 ※水色部分にカーソルを合わせると
 メニューが出ます

※高杉君が、大学に入学する直前の話です

雨が降ればいつもよりも寄り添い
笑い合っていたのにね…

RAIN


「倍率11.5倍。よく頑張りましたね」

春休みの職員室で、先生にそう誉められて、なんだかスッゴク嬉しかった。
俺に大学に行けなんて言ってくれたのは、教師では先生1人だけだったから。

本当は、もっとゆっくりして行きたいんだけど、今日は3月30日。後期日程で大学の決まった俺には、はっきり言って時間がない。

「松陽先生、また来るから」

先生にだけ挨拶して、後の教師達には無視を決め込んで。俺は卒業したばかりの母校を後にした。

あいにくの雨の中、駅に向かう途中で、歩きながら電話をかけたのは、1つ年上の恋人の、河上万斉。春休みで、こっちに帰って来ているはずだった。

『晋助、どうだった?』

開口一番がソレ。万斉は万斉なりに、前期の受験に失敗した俺を心配してくれていたようだ。

「心配かけたな」
『良かった…』

受話器の向こうからでも、万斉が胸を撫で下ろしたのがわかった。

『晋助、今から会えるか?』
「うん」

自由にできる時間はもう、今日しかない。だから、俺は、先生のところからさっさと帰ってきたんだ。

『迎えに行くでござるよ』
「わかった」

そのまま母校の最寄駅で待っていたら、けたたましい音をたてて、万斉の大型バイクが走ってきた。

「お前なんでバイクなんだよ?雨降ってんだぞ?信じらんねェ」
「仕方ないでござる。車は、親が乗って行ったみたいで」

仕方なく、渡されたヘルメットを被って、後ろに跨がった。俺よりデカイ万斉の背中に頭をつけて、ぎゅっと腰にしがみつく。

「しっかりつかまってるでござるよ」

万斉はバイクを走らせて、家へと向かった。昼間はほとんど誰もいない、俺の家ではなく、万斉の実家へ。

「今日は拙者しかいないから」

うちでいいだろう?と言われ俺は頷く。どこだって構わない。
家の中に入るとすぐ、靴も脱がずに万斉は俺の肩を抱き唇を重ねてくる。

「晋助、しようか」

ようやく唇を離した万斉が俺の身体を抱きしめたまま囁いた。

「万斉、俺話あるんだけど!」

靴を脱いで、さっさと部屋へ行くべく手を引いた万斉に俺は慌てて言った。

「その話、拙者は聞きたくないような気がするでござるよ」

なんとなく、気付いているのだろうか。万斉は、自分の部屋まで俺の腕を引いていくと、そのまま乱暴にベッドに押し倒した。

「万斉、聞け」
「嫌でござる」
「万斉っ…んんっ!!」

力で組み伏せられ、無理矢理くちびるを塞がれて。駄目だ、こんなことじゃ、また俺流される。
言えずにいる想いは涙となって、俺の頬を伝っていった。

「晋助…」
「万斉、…万斉、俺」
「泣かれたら、なんにもできないでござろうが」

グズグズ泣き止まない俺を起こして、万斉はぎゅっと背中に腕を回してくれた。今なら言えるかもしれない。
顔が見えないうちに、伝えてしまおう。

「万斉、俺、遠距離とか、耐えらんねェ」

お前が卒業して、京都に行っちまってから、この1年間が、どれだけ辛かったか、お前にわかるか?俺達学生にとって、東京と京都の距離は、あまりにも遠くて、あまりにも離れすぎで。

「晋助、拙者は距離なんて関係ないと思ってるでござる」

この1年だって、毎日のように電話していたし、3連休や長期休暇の時は帰って来ていたし。
確かに、離れてから、会ったらヤル、会ったらヤル、みたいな流れになってしまっていたことは否定できないし、晋助は、セックスよりもむしろ、もっといろいろ話したがっていたことにも気付いてはいたが。

「晋助、なんで後期は、こっちの大学受けたんでござるか?」

前期は京都まで受験に来ていたのに。万斉には、そもそもそれが不思議でならない。一緒に暮らそうと、昨年自分が旅立つ時に言った言葉は嘘でも偽りでもなかったのに。

「2次試験の、科目の都合」

まだぐしゃぐしゃ泣きながら、俺は答えた。でも、本当は、これは半分嘘だ。
音楽の道に進みたいと、好きな学校を選んだ万斉。俺と一緒に住むのはいいけれど、俺が4年制の大学に行けば、3年になる時に、万斉は卒業になる。きっと万斉なら、俺のために、上京(帰京?)を2年遅らせるくらいのことはやりそうだった。それじゃあ、俺はお前の足枷にならないか?俺は、お前の未来を壊してしまわないか?
俺と過ごす日々の中で、俺はお前の邪魔になんかなりたくない。

「晋助、拙者は別れるつもりはさらさらござらんよ」

無理矢理顔を上げさせられて、噛み付くようなキスをされた。

***

些細な事でいつもケンカしてた
その度に止まっていた
大事な時間 無駄なやりとり
わかってても 素直になれない

お互いが輝ければ良かったはずなのにね

***

「んァァっ…ッ…んっ…ふっ」

俯せの状態で、腰を掴まれ、万斉は激しく俺の中を突いてくる。悔しいけれど、俺は腕力では万斉には全然敵わなくて。力で押さえつけられたまま、喘がされる。

「や、やめっ…万、斉っ…ァあっ」

こんなのは嫌だ。こんな抱かれ方は嫌だ。そう思っていても、身体は勝手にビクビク跳ねて、声が抑えられなかった。
まだ全然止まらない涙を、枕に押し付け、これが最後だと、自分に言い聞かせた。

「晋助、好きでござるよ」
「万、斉…っ」

俺もすきだと言いそうになって俺は唇を噛み締める。それじゃ駄目なんだ。

中学の時から、どれだけ女と付き合っても、どれだけ女と関係を結んでも、何かが違うとずっと思ってきた。いや、何かが違うんじゃない、『何が違う』のかは、本当はハッキリわかっていた。わかっていたけど、自分でそんな自分を認めたくなかったんだ。

みんなでAVを見ていても、女優より男優に目が行く自分に気付いていた。考えてみたら、一番最初に好きになったのは、『キスしてェ』と『抱きしめてェ』と思ったのは、幼なじみの小太郎だった。

何で俺だけこうなんだ?と悩んだし、認めたくなかったし。
そんな俺は、高校に入ってからも悪くて、サボってばっかりで。屋上でたまたま一緒になったのが、1つ上の万斉だった。

万斉は、最初の時からこうやって強引で。俺がカミングアウトしたわけでも何でもないのに、いきなり学校でキスしてきて。自分のことを初めて話して付き合ってくれることになって。うちに泊まりに来てくれた時に、万斉は『痛い、無理だ』って泣く俺を組み伏せて。俺はその時、男に初めて抱かれた。あの万斉の強引さがなければきっと、俺は未だに、自分を認めてあげられなかったかもしれない。だからその、強引なところも、すごく好きだった。

「ァアっ…も、う…万斉…ッ、無理っ…!!」

限界を訴えると、繋がったまま小刻みに震える俺の身体を抱き上げて、その体勢のまま、首だけを後ろに引き寄せられた。

もう、脚にも腰にも力が入らない俺の身体を支えながら、万斉は深く唇を重ねる。初めて取らされた無理な体勢と、そのせいで押し寄せる激しい快感に、俺の頭の中は真っ白になって。深く穿たれた俺の中の万斉だけを感じながら、万斉の手の中で果てると同時に、意識を手放した。

***

君は涙も見せずに
そっと手を振り歩いてゆく
これ以上邪魔はできない
寝たふりの私にキス残してく
優しさも全部
もう二度と途切れさせた想い
胸に秘めて…

***

目が覚めると、俺はちゃんと服を着ていて、万斉の部屋の万斉のベッドの上で。俺の煙草をまずそうに吸いながら、万斉はベッドの下に座っていた。

「万斉…別れて、くれ」
「……」

起き上がろうとした時の、腰や太腿や背中や腕の痛みがなければ、あれは夢だったんじゃないかと思ってしまう程の静寂が流れていた。

「…駅まで、送っていくでござるよ」

否定も肯定もしない。だけど、その言葉だけで十分だった。
万斉の顔を見ることができない。ちょっとだけ、今だけは、万斉より背が低くて良かったと思った。

(違う道を選んだのは俺の方だったのにな)

駅までの15分が永遠のように感じられた。手も繋げない、それが本当にどうしようもない気持ちにさせて。雨の日で良かったと思った。お互いの傘の分だけ、自然と離れられるから。

切符を買って、改札の前で振り返ると、万斉に頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

「頑張るでござるよ、大学」

最後に一言、年上らしいことを言って、万斉は帰っていった。

「万斉、ごめん」

止まったはずの涙がまた、溢れてくる。

こんな愛し方しかできなくて、本当にごめん。
もう2度と、いつものわがままも、言えないんだな。

駅のホームで、俺はまた、1人で泣いた。
いつかちゃんと、いい恋をしたと、言える日は来るんだろうか。

もう一度わがまま 言いたかった…


END



倖田來未のRAINモチーフの万高別れ話でした。あー、こんな心臓に悪いモン書くもんじゃないねー!高杉君、大学に行けば運命の人が待ってるよ






















No reproduction or republication without written permission.