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「どうだろう、これからみんなでご飯でも行かないか?」
言い出したのは先生だった。

眠るまで愛を語って


ゼミってわけでもないんだが少人数のクラス。全員で10人くらい。ほとんどみんな就職も決まっていて、卒業試験も順調で。

「先生、ソレ賛成ー!」
「いいですね!」

みんなノリノリだったようだから、俺も行くという返事をした。ご飯くらいならと思ったからだ。

「先生、どうせなら、飲みに行きませんかァ?」
「それいいーっ!」
(…え?)
ノリがいいってのは時には困りもので。

「その後カラオケにも行きたいなァ」
「賛成賛成〜!オールでカラオケぇ!」
「ちょっ、ちょっとそれは…」
「桂君も来れるよねぇ?」

それは困るんですけどって、言うより早くみんなの視線が集まって、俺は断りきれなくなった。最初に、ご飯に行くと言ってしまっていたから尚更だ。

「よーし、じゃあみんな、5限のあと、駅前の『武蔵』に集合なァっ!」
早速携帯を取り出して予約を入れてしまった長谷川先生。ハァと、小さく溜息をついていたら、隣に座っていた武市が心配そうに声をかけてくれた。

「なにか用事、あったんじゃないんですか?桂さん」
「ああ、いや。そうではないのだが」
今日は珍しく、銀時がバイト休みの日だったんだ。

***

「のわぁぁぁぁーっ!」
3限目が終わって、次の教室へ移動する準備中。教科書やなんかを鞄に入れていた銀時が、突然携帯を握り締めて叫び出した。

「なんだなんだ、お前」
「しーんちゃーん、銀さんかわいそうーっ」

机の上に頭を乗せてこっちを向いて。駄々っ子みたいに身体を揺らしてる。

「銀さん今日休みなのにィ!バイト1コもないのにィ、ヅラに用事できちゃったってェ〜」
銀さん可哀相すぎるーって、半泣きの銀時を引きずるように次の教室に移動した。

「銀さん、バイト1コもないのって、月に1回か2回なんだよ?今日は帰ったら速効ヅラとヤリまくりーってェ、期待してたのにィ、楽しみにしてたのにィ」

ウゼェ。かなりウゼェ。気持ちはわからなくもないが、次の教室に移動してきて尚、銀時は机に突っ伏していじけたままだ。

「銀さん寂しいーっ!1人でどうしろってのよー」
「うっせーな、伯母さんとこでも手伝っとけってことじゃねーの?」
「えーっ、ヤダよぅー。ねェねェ、今日晋ちゃんとこ行っていいー?」
「ァあ?…いーけど、今日辰馬いねーぞ」

今日は辰馬はバイトの日だ。学校終わってから真っ直ぐ行って、お客さんとご飯食べて同伴なんだって。結局、何回俺と揉めたって、辰馬は頑としてバイトを辞めてはくれなくて。最近は、もう言うのすらやめてしまった、俺が。お客さんとご飯食べて同伴するったって、正直に俺に話してくれてるんだから、いいんじゃないかと思っちまう。これは慣れか?

「別にィ、辰馬目当てとかじゃないんですけどォ」
さすがに銀さんだって辰馬のこと吹っ切ったってばーってケラケラ笑う銀時。もう、今は友達以上の感情はないんだって。

「ヅラのおかげだよ。…だからねェ、銀さん、絶対ヅラだけは大事にするって、ヅラだけは守るって決めてんの」
それなのになんでェ〜って、またウダウダ言い出す銀時。1人じゃ寂しいから晋ちゃん遊んでようーって。
まさか銀時が1人じゃ寂しいなんて言うようなタイプだって、最初は思いもしなかったんだけどな。

「わかったわかった、今日はコレ終わったら真っ直ぐウチ来いって」

とっくに授業は始まってる。大教室で、100人以上が同時に受けてるような授業だからこそ、こうやって話してても何にも注意されないだけで。その分、ちゃんと聞いてないとさっさと授業は進んで行ってしまう。質問やなんかがあっても聞いてくれない。

俺は銀時との会話を強制的に終わらせて授業に集中した。

***

「晋ちゃん、鍋しよ鍋!」
4限が終わって、とりあえず一服して帰ろうと、喫煙所に向かう俺の後を、腕を掴んだり肩を組んだりとベタベタしながら銀時がくっついてきた。

「鍋もいいなァ」
最近急に、めっきり冷え込んできたからな。実は俺の部屋はもう、電気ストーブを出したんだ。

喫煙所の扉を開けたら、そこには土方がいてベタベタしながら入ってきた俺達を怪訝な顔つきで見てた。

「ネコ同士で何イチャこいてんだ?」
「銀さんリバですからァ!」
一緒にしないでよう!と、ようやく俺から離れた銀時と3人で1つの灰皿を囲む。

「晋ちゃん、今日なに鍋するぅ?」
「買い物しながら決める」
「なんだ、お前ら今日鍋か?」

何人で?と聞いてきた土方にとりあえず2人って答えた。
辰馬はバイトだし、小太郎は何か用事があるんだって。小太郎が用事なのに銀時がバイト休みで暇だって聞いて、ようやく土方は銀時が俺にベタベタしていた理由がわかったみたいだった。
もしかしたら、俺以上に甘えたがりかもしれないのが銀時の本性で。ずーっとずーっと銀時は隠してたんだって、今では俺も土方も知ってるし、わかってる。
ずっと、銀時が隠してた家の事情とか、ようやく話してくれた時に、なんだか色んなことが納得できたのを覚えてる。小太郎だけは知ってたみたいなんだけど、俺らにも話したら、銀時は楽になったみたいだった。お前の本性見たくらいじゃ、ベタベタ甘えられるくらいじゃ嫌いになんかならねェって言ってやった時に、銀時に泣かれたのは、今でも忘れらんない。

「俺も行っていいか?今日、総悟もバイトなんだわ」
「えっ?マジー?土方君も来るー?3人でやろやろっ!」

同期なんだから気がねなくやろうよう!と、はしゃぎだした銀時にその気にさせられて。俺達は3人で鍋パーティーをすることになった。

***

それぞれ一旦家に帰って、1時間後に駅前のスーパーに集合。俺と土方は歩ける距離だけど、銀時は遠いから間に合うかなって思ってたけど、原付きだったからか時間通りに3人集まった。

「なに鍋する〜?」
「まー、寄せ鍋でいいんじゃねェ?」

お鍋のダシを買って。それから野菜や茸類から順番に籠の中に入れて行く。今更気付いたけど、この中で味覚がマトモなのって、俺だけじゃねェか!

「晋ちゃん、水菜多すぎじゃね?」
「ハァ?食うだろ2束くらい?ってか土方ァ、しめじどんだけ食うんだよ!」
4パックは多いだろ?いくらなんでも。

「マヨネーズかけて食べたら美味しいんだぜ」
「あ、そぅ」
「まいたけとか椎茸も入れようよぅ」
えのき2袋にネギ1束に白菜2分の1。続いて魚コーナーへ。

「うおっ、あんこうあるじゃねーか!これ入れようぜ!」
「えーっ、銀さんあんこうなんて食べたことないィ」
「じゃあ食ってみろって!美味いよなァ、高杉?」
「いや、俺も食ったことねェ」
じゃあ食ってみろって土方は籠の中に入れてしまった。ダシもでるからって。

見た目が駄目なモンには手出ししないようにしてるんだ、俺は。味覚はこの中で一番マトモだけど、好き嫌いの激しさも一番かもしれない。

「晋ちゃん牡蠣はァ?」
「絶対無理っ!」
「マヨネーズかけたら美味しいぜ?」
「お前だけだろーがっ!」

マヨネーズかけたら何でも食えるんじゃねェのか土方のやつは。牡蠣は見た目に加えてあの『ふにゃ』っていう食感が駄目だ。辛うじて、牡蠣フライにしてくれたら、ビールで流し込めば食べれないことはない。そこまでして食べる必要があるのかどうかはわからないが。 辰馬なら、喜んで生牡蠣の貝むしとか食べるんだけど。

「晋ちゃんホント、見た目で決まるのねェ。鱈くらいしか入れるモンないじゃん」
「鱈は大丈夫だぜ」
パックの鱈が2つ、籠の中に入る。1つだけ豆腐を買って、お肉コーナーへ移動。

「晋ちゃん、そー言えば肉って駄目じゃなかった?」
「カタマリは駄目。ミンチとか、しゃぶしゃぶ用とかなら平気」

牛肉は、なぜか3人共素通りして豚肉のところへ。貧乏学生たる所以かな。辰馬なら問答無用で牛肉の一番高いやつを買うんだろうけど。いや、そもそもスーパーに来ないか?デパ地下しか行かないか?

「金かかんなくていいなァ、高杉」
「よく言われる」
だって、ステーキとかの塊の肉が一番高いんだからな。

「晋ちゃん、だから太んないんだよー?辰馬に食わせてもらえって」
「だーかーら、嫌いなのっ」
豚しゃぶ用ってシールの貼ってあった肉を1人1パックの計算で3パック籠に入れて、それから鷄のつみれも。

「こんなもんかァ?」
「銀さんうどんでシメたい〜」
これだけあったら十分じゃないかって考えてた俺と土方はうどんはナシ。

「何、銀さん1人?うどん」
「あんまりうどんって食わねェんだよなァ」
「銀時、お前西の方に住んでたからじゃねェの?」
「あ、そっか。2人共東京出身?」

小さい頃から転々としてた銀時が、東京に出てくる前は京都だったってのは、昨年から知ってる話だった。京都って言われたら、やっぱりうどんのイメージがある。京都の宇治には茶蕎麦って名物があるんだけどさ。西日本の人は、俺ら東日本の人よりうどんを食べるらしい。俺らは、どっちかってと蕎麦。

「俺はずーっと東京。親とかも」
「うちの親は山口なんだけどなァ。俺はこっちだから、蕎麦ばっかり」

それじゃあ1人分なら、茹でてあるのでいっかァと適当に取って籠に入れようとした銀時。

「待てっ、58円があるっ!こっちの方が安い!」
最初に銀時が手に取ったのは68円だった。さすが土方、毎日料理してるやつは違う。そういう俺も、買い物はほとんど毎日してるんだけどな。

「58円が一番安いね!いいよコレで!決定!」
「あとは…、酒はうちにあるし…。あ、マヨネーズとか生クリーム買うなら買えよー」
「大丈夫だ、マヨネーズ持ってきた!」
さすがだ、土方。きっと業務用とかなんだろう。

「銀さんおはぎ買ってきたから大丈夫〜」
途中でコンビニ寄ってきたって。銀時もしっかりしてやがんなァ。

「ねー晋ちゃん、酒ってビールと焼酎だよねェ?」
「ああ、お茶と烏龍茶が大量にあるから割ればいいんじゃねェか?」
レジに向かおうとしたら、その前のドリンクコーナーに立ち止まった銀時。

「お茶とか烏龍茶じゃ飽きそうだから、甘いの買っとくー」
そう言って銀時が持ってきたのは500mlのペットボトルでカルピスだった。

「それで割るのか?有り得ねェっ!だいたい、自分で出しゃーいいじゃねェか」
甘いものが嫌いな土方が突っ込んでるけど。オイオイ、お前な。

「え?出そか?こんな感じ?」
銀時も悪ノリしてカルピスのペットボトルを下半身に持って行って前後に手を動かす。

「でも銀さん、溜まってるから濃いよ〜」
「どーせ酒で割るんだからいいじゃねェか」
「聞いてねェっての、お前らっ!!」
「晋ちゃんはいいよねェ、結構すぐ出るもんねェ。土方君は?」
「俺、普通だと思うけど…」
「もういいって!」

レジに並んでる俺ら3人注目の的なんですけど。

とにかく、俺がまとめて払って3で割って。こんなに大量に買ったのに1人2千円ちょっとって、多分物凄く安い。
3人で分担して持とうと思ったけど、銀時の原付きのハンドルに引っ掛けたら、ほとんど持たなくて良くなった。
クダラナイことを話しながら、俺達3人はタラタラ歩いて俺と辰馬のマンションへ。

キッチンで土鍋の用意をして。カセットコンロを出したけど、その前に一回こっちで温めようか。

「晋ちゃん、どっちでやる?」

ダイニングテーブルか、それともリビングの方かって。脚伸ばしたいからそっちでやろうぜって俺は応えた。どうせこの3人なんだからさ、わざわざ椅子に座って気ィ遣うこともねェだろう?
白菜やネギから切って鍋とザルに入れていってたら、土方が手伝いにきてくれた。

「包丁もう一個あんだろ?」
「じゃー、その辺よろしく」

土方はきのこ類担当。えのき茸を切って裂いてある程度鍋の中に入れたら、後はザルの中。

「銀さん座ってていい?」
「取り皿と箸出してくれたらいいぜ」
「はいよォ」
食器棚のところに来た銀時は何か四角いものを口にくわえていた。すんげーぶどうの匂いがしてる。

「銀時、お前、何食ってんの?」
「んーんと、寒天タピオカ…」
「寒天…?ってなんだァ?」
下を向いたまま、しめじを裂いていた土方が尋ねた。

「寒天ってアレだよぅ!トコロテンみたいなやつ!」
ぶーっ、って吹き出したのは俺だけじゃない。土方も。

「お前、誰が寒天ってなんだ?って聞いてんだよっ!寒天くらい知っとるわっ!」
「あー、アレだよ土方。ウィダーインゼリーみたいなやつ」
「そう言えよ最初っからっ!」
「だってェ、土方君が寒天って何?って聞くからァ」
銀時が食べていた寒天タピオカゼリーを俺と土方の目の前に持ってきた。

「銀時お前さ、トコロテンって言いたかっただけだろ?」
「え?…バレた?晋ちゃん」
「言いたかったのかよテメェはっ!」

コンロに火をつけて。鍋に入りきらなかった食材はテーブルの上に運ぶ。

「ねー、正直な話、トコロテンってしたことある?」
銀さんまだなんだよねェ〜と、食材を運ぶのを手伝いながら銀時が肩を落とした。

「お、俺は、ほとんど毎回…。イキっぱなしとかになるから…」
赤くなりながら正直に答えた土方。この3人しかいないからって、安心してんのかもしれねェけど、お前が答えたら、俺まで言わなきゃなんねーだろうが!

「え、マジ?土方君スゲェ!晋ちゃんは?」
ホラ、やっぱりそうきた。

「2、3回…かな、多分。ないことはナイ」
「うっそー!!どんな感じ?やっぱ気持ち良い?」
「そりゃーお前、なァ?」
俺に振らないでくれよ土方。頼むから。

「いいじゃんいいじゃん!この3人なんだから、ぶっちゃけようってー」
教えてよぅーってケツ触りながらベタベタくっついてくる銀時。

「ケツ触んなっての!」
「晋ちゃん、ほんっとお尻ちっちゃいよねェ〜」
「悪ィのかよっ?」
「いや、なんか肉、薄すぎてパンパンやったら痛そう…なんて」
「お前とすることなんてないんだから放っとけよ!」

基本的にはタチ寄りのリバだった銀時だけど、元はノンケの小太郎とヤルのに受けに回ることが多いなんて、考えたら普通のことだ。多分最初っから受けしかやってない俺達より経験が少ないからわからないってのも考えたら当たり前の話。

「で、トコロテン、どんな感じよぅ?」
「俺は、初めてトコロテンした時、失神しちまいました。これでいいか?」
話してる間にお鍋が吹けてきた。もうこれで食べれるはず。

「失神する程気持ち良かったってことだよねェ?いいなァいいなァ!…それって、相手は辰馬?」
「そうだっつぅの!」

カセットコンロの上に鍋を運ぶ。おたまと缶ビールを2本出して、それから土方は烏龍茶で。

「ってか、銀さん、エッチで失神したことなんてないわァ!土方君ある?」
「俺かァ?…俺は、痛すぎて痛すぎて、それが気持ち良くて飛んじまうことなら…」
「あー、なんかわかる気がする。痛いのと気持ち良いの同時に来るんだよなァ」
「頭ん中真っ白になるだろォ?」
「なるなる。もー何も考えらんねーの」

土方がドMだとか、沖田とはいっつもSMセックスしてるだなんて、俺も銀時も百も承知だから土方も隠さない。
そういう俺だって、しっかりドMだしな。辰馬に縛られたいとか噛まれたいとか泣くまで責められたいとか我慢させられたいとか、普通に思っちまうんだから。

当たり前だけど俺がそう思うのは辰馬限定で、土方は沖田限定。

「やっぱSMの世界に足を踏み入れるしかないのかァ…」
「でもお前、絶対Sだろ?」
土方が言って俺も同意した。

「多分小太郎も無自覚にSだから、お前ら無理じゃね?」
「そうなのー?ヅラってSぅ?」
「桂、Mではないだろうな」
「Sだったら、Mにもなれるはずなんだけどなァ」

俺と土方はMだから絶対Sにはなれねェよな、って話しながら俺が真ん中で右に銀時、その向かえに土方が座る。

「俺はもー無理。Sにはなれねェ。総悟に蔑まれるだけで勃っちまう」
「あー、わかる!辰馬に『淫乱』とか『変態』って言われるだけでギンギンだもんなー、俺」

最初は『絶対俺は違う!』なんて思ってた俺だけど、一度開き直って認めてしまったら案外、土方はわかってくれてこうやって話せるし、辰馬は無自覚にSだったし、楽になったような気がする。

「辰馬、そんなこと言うんだァ…、意外」
晋カワイイ、晋キレイーって感じかと思った、って銀時。確かに、そういうのもあるんだけどさ。

「とりあえず、カンパイ」
蓋を開けたら、適当にやったにも関わらず、鍋はかなり美味しそうだった。

「晋ちゃん、コレ、イケるよ、かなり!」
「適当にやっても上手くできるもんだなァ」

猫舌の俺は、まだふーふーしてて食べてないってのに、銀時はどんどん取り皿に入れていく。土方は土方で、取り皿の上にマヨネーズかけるし。

「アレ?2人共猫舌?…ネコだけに?」
「うるせー」

取り皿に入れるだけ入れて少しビールを飲んで冷ます。ちょっとずつしか食えない。それでもあっという間に半分くらい鍋の中身はなくなって、食材を足してゆく。

「アンコウ入れようぜアンコウ。ダシも出るぞー」
「じゃあ鱈も入れよーって」
「白菜と椎茸も入れるぞー」

がさって、白菜と椎茸を手づかみしてドバっと山盛り入れてしまった土方。意外とお前って、そういうとこ男なのな。

「今気付いたけど、晋ちゃん女座り?土方君は?」
「え、俺も」

銀時だけが胡座だった。

「やっぱ女だよねー、2人共」
だって楽じゃねェかって、俺と土方は顔を見合わせた。

「でも、今の土方の野菜の入れ方、男っぽいと思ったんだけど」
俺ならちょっとずつ入れちまうから。

「そうかァ?俺なァ、料理は結構、男の料理って感じだぜ」
「そっかァ、そういえば土方君、毎日作ってんだよねェ?」

おおざっぱな味付けしかしないんだって、土方の料理は。まぁ、作った本人が、それに山ほどマヨネーズかけて食うんだから、どうでもいいんだろう。沖田は沖田で、アイツあんまり味付けにこだわりないからな。自分は絶対に料理したくないから食えりゃいいって感じ。だから上手くいってんだろう、この2人は。

「晋ちゃんは絶対、調味料とかキッチリ計るタイプでしょ?」
「ああ、うん。当たり前」

辰馬が料理好きだからって、ほとんど俺は作ったりしないけど。辰馬の料理も、男の料理って感じがしてさ、けっこう俺は好きなんだけど。たまに野菜炒めのキャベツが繋がってたりするのも味だと思う。

「ヅラも意外と計るタイプなんだよねェ」
幼なじみって似るのォ?なんて言いながら銀時は笑ってる。

「お前は?料理できんの?」
マヨネーズまみれの物体を、美味しそうに口に運びながら土方が尋ねた。

「できないことはないよォ。だって銀さん、自分の身の回りのことは自分でやってたからさァ。やらないと生きていけなかったしィ?」
散々してきたからもうやりたくないのよと銀時は笑った。

それを話して、悪いこと聞いたって思われて、気まずくなるのが嫌なんだって銀時は言ってたし、俺だってやってたから特別なことだとは思わない。親がいないってのは、特別なのかもしれないけど。

「やってたぜ、俺も。親共働きでいなかったからよォ、小学生からほぼ自炊」
「俺も高校から1人暮らしだからなァ」
テストの時なんか洗濯してらんねェの!って土方も笑った。

「……なんか銀さん、だからお前ら好きなのかも」
普通は結構、『カワイソウ』とか言われんのよって銀時は少し笑った。

「可哀相なんて思ってたら、割り勘で鍋なんかできねェだろ」
そうだそうだって土方も同意して。

「だいたいなァ、そんなん言ったら俺や高杉の方がよっぽど可哀相だっつーの。どうあがいたって女じゃ勃たねーし、子どもは産めねーし。1人っ子だぜ俺ら?…あ、お前もか」
お前ならまだ、女も好きになれんじゃねーかって、土方。

「でもさー、銀さん最近、女に興味なくなってきたわァ」
「仕方ねーんじゃねーの?男と付き合ってんだし、このメンバーだしよ」

土方の言う通りだと思う。いっつもここに集まってるメンバーはゲイばっかりだから。ノンケも女もいるけどさ、やっぱり一番出席がいいのはゲイ仲間なんだもん。辰馬の呼び掛けで飲み会やっても、阿音さんとか服部なんか、欠席が多いもんな。

「でもさー、話戻るけど、辰馬の子ども産みたいなーとは思うよなァ…」
どう頑張ったって無理だってわかってんだけどさ、そんなこと。

「じゃー晋ちゃんってさ、もしかしていっつもナマ?」
「99パー。中出しされてェもん」
辰馬も着けるの面倒みたいだしな。俺が生がいいってのは、面倒だからとかってそんな理由じゃないんだけど。

「嘘、マジで?…総悟は、ほとんど着けてる。中出し経験ないかも…」
「沖田はなァ、しょーがないんじゃねェ?」
未だに3人くらいはパパがいる(らしい)沖田だから。

「そう、なのか?」
「うん、そう。…これ以上は言えねェけど」

どこで何もらってくるかわかんねェからって、絶対着けてるんだ。
自分がなるのは仕方ねェけど、十四郎にだけは絶対うつしたくねェって話してたのを俺は知ってる。
多分、土方には、そういうこと絶対話してないんだろうから、俺も言わないけど。でも、土方だって沖田のバイトには薄々感づいてるはず。今、土方が『ほとんど』って言ってたけど、100%じゃないのは、大丈夫って確信がある時だけ、着けてないってことなんだろう。

「なんかさァ、辰馬の身体から出たモンだからさァ、なんつぅかもう、愛おしくてたまんねェっつぅかさァ」
「ァあ、それじゃーさ、総悟が俺の口に出したのをさ、俺が飲んじまうのと一緒かァ?」
「そーだと思う」

辰馬が俺の口に出すことなんて滅多にないから、っていうかあんまり舐めさせてももらえないから、俺は飲むことは少ないけど。

「正常位でヤってる時にさ、こう、ポタポタ落ちてくる辰馬の汗とかもさ、もうたまんない」
「ァあ、うん。俺、縛られてなきゃ総悟に抱きついちまう」
俺も土方も、宙のどこか一点をしばらく見つめて、溜息をついた。考えてることは、ほとんど一緒のはず。

「2人共、そーゆぅトコは男だよねェ。女の子はさ、嫌がるよォ、汗なんて」
好きで付き合っててもさ、汗が嫌だとか終わってから言われるんだよね、って汗を嫌々拭うジェスチャーつきで銀時。実際の経験なんだろうな、たぶん。女の子ってそうなんだ。…そうだったっけ?もう忘れちまった。

「でさァ、中出しするとさァ、なんか『征服したァ』って気になるんだよねェ」
銀時がしみじみ言うんだけど、『する方』の心理は俺や土方にはわかんないから応えようがない。

「お前、桂とはどーしてんだ?」
「んー?今ァ?ヅラは100パー着けてるよォ。やっぱ元がノンケだから、着けることに抵抗ないみたいなんだよねェ」
たまーに逆する時もヅラに中出しするわけにいかないから着けてるって銀時。

「なんか晋ちゃん羨ましいなァ…。今度ヅラに種付けしてもらおっかなァ?」
話しながら食べているだけで鍋の中身はどんどん減っていく。俺は、鷄のつみれをスプーンで一つ一つ鍋の中に入れながら銀時の話を聞いていた。

「でもよ、高杉。病気とか気ィつけろよ?だって坂本はさ…」
浮気するからって土方は言いたいんだろうけど。わかってますって俺だって。

「俺、夏にHIVかもしんねぇっての、あっただろ?あれで反省して、今は毎月検査行ってるぜ」
もちろん辰馬も一緒にだ。浮気してるしてないに関係なく、強制的に連れて行ってる。検査してくれなきゃセックスしねェって言って。

「ちょっと晋ちゃんっ!もーなんか、そのつみれの入れ方、苛々すんだけど?」
暫く黙ってるなと思ったら、銀時は俺の手元を凝視してたみたいだった。

「団子の形にしなくたっていいっての!食べたら一緒よ!貸して!」
パックごとスプーンを取り上げられて、俺の目の前で銀時は一口サイズに取ったつみれをガンガン鍋の中に入れてゆく。俺は一個ずつ、きちんと丸い形を作ってたんだけど。

「銀時、お前も男の料理だよなァ」
あっという間にパック全部のつみれが鍋の中に投入された。

「晋ちゃんが女すぎんのよ!」
そんなこと言われてもなァ。性格だっつぅの。俺は結構、几帳面なタイプなんだっつぅの。俺のノート見てんだからわかるだろお前は。

「おっ、もうアンコウ食えると思うぜ!食ってみろよ2人共!」
土方が俺と銀時の取り皿に白身の魚を入れてくれた。

「…土方君、これ、どーやって食べんの?」
「そのまんま。プリプリだぜェ」
恐る恐る俺もアンコウを口に運んでみた。確かにプリプリで、味は普通に白身魚。

「なっ?美味いだろ?」
「けっこーイケるじゃん?初めて食べたァ」
ねェ晋ちゃん?と、銀時に同意を求められたけど。

「俺、この食感は苦手かも」
「なんでよォ!プッチンプリンみたいじゃない〜?」
結局甘いモノと一緒になるのかお前は。

「そうかァ、俺は好きなんだけどなァ」
「いや、味は好きだけどな。プリプリしすぎて、なんかさ…」
「無理して食わなくていいぞ、俺が食うからさ。俺は好きだし」
「んじゃー任す」
そこからは暫く黙って3人で黙々と食べて。あんこうとか鱈とか、骨のあるものが中心だったから口数は自然と減る。

「ちょっとダシ足して、残りの野菜全部入れるかァ?」
買ってきたダシは使い切ってしまったから、俺はキッチンでほんだしを水で溶いて味を見る。まぁ、なんとかなるだろう。

「高杉ィ、一服するぞォ?」
「構わねェよォ」
ダシを足して野菜と茸類を全部入れて。鍋の蓋を閉めてコンロの火を強くした。

「銀時ィ、まだビールでいいかァ?」
「んじゃー焼酎もらうー」

まだ使ってなかったグラスに氷を入れて。土方の烏龍茶にも。2リットルパックのいいちことマドラーを用意して俺はまた席に着いた。俺も煙草吸おうっと。

「ねー、2人共、お肉のこと忘れてないよねェ?」
「大丈夫だ、俺はメインだと思ってるから」
ふぅっと煙を吐き出しながら応えたのは土方だ。

「俺も。まだ全然、腹半分だけど?」
「あれ?そうなの…?銀さん8分目くらいまできてるけど?」
言いながら銀時も煙草を吸い出した。この3人の中では、多分銀時が一番1日の本数は少ないんだけど。

「お前、ご飯代わりにおはぎ食ってっからだろーが」
鍋におはぎ。絶対に合わない組み合わせだと思うんだけど、そんなこと言ってたら銀時とご飯なんて食べれない。

「お前こそ、うどんあるんだからなァ、お前だけは」
「わかってますぅ。肉、ガンガン食べてよね、2人でさ」
「おう」
一服の休憩を終えて、再び俺達は煮えた鍋の蓋を開けて箸を口に運び始めた。

マドラーなんて出してきたけど、焼酎をお茶で割って、いちいちキッチリ混ぜるのは俺だけだった。
銀時は食べながらそのまま箸で混ぜちゃうし、土方は烏龍茶だし。ホント、飲み物ひとつ取っても個性って出るもんなんだよなァ。

「そろそろつみれ、イケんじゃなァい?」
「大丈夫かァ?まだ生じゃねェのかァ?」

銀時が言って土方が応えた一瞬の沈黙の後。3人が3人共、同じタイミングで溜息を着いた。

「やっぱナマがいいよねェ、土方君」
「俺も今度、総悟に話してみようかなァ」
なんだよなんだよ、俺が99%生だって言ったのが悪かったみてェじゃねェか。

ちなみに俺の溜息の理由は、生でいくらヤったって子どもできねェんだよなァっていう、そっち。

「どうせする前にシャワー入るだろ?洗っときゃ問題ねェじゃねーか」
病気の問題だけクリアしておけばの話だ。

「いや、シャワ完はするけどよー、総悟がなんて言うかなァ」
確かに、あんまり言いたくないんだけど、沖田の気持ちもわからなくはないから、俺は。いろいろ知っちゃってるだけに余計だ。沖田は、土方には言えないようなことも、俺には話すから。俺も、辰馬に言えないこと沖田に話したりしてるんだけどさ。

「ねェ、聞いてくれる?」
真剣な顔で焼酎を煽ったのは銀時だった。

「ヅラにさ、シャワーも浴びてないのに、いきなり脱がされて、いきなり始まる時あるんだけど」
どうしたらいい?って。

「あー、そうか。桂って元はノンケだから」
「そうっ!女とは違うのよ!いきなり雰囲気で始まるのって、いいっちゃーいいんだけど、やっぱシャワー浴びたいんだけど?」

そりゃあヅラは毎回着けてるわけだし、逆する時だってあるんだから問題ないのかもしれないけどさ、って。

「お前が教えてやったら?…シャワ完」
「えーっ?銀さんがっ?…そんなん言えないよォっ!」

だってヅラさ、言葉も知らないよってわめいてテーブルに突っ伏した銀時をよそに、俺と土方はメインの肉を鍋の中に入れ始めた。

「それを言ったら、辰馬だって知らなかったぜ」
「マジかよ、高杉?」
肉にはポン酢の方がいいかもなと思って、俺は新しい取り皿とポン酢をキッチンから出してくる。

「だって辰馬バリタチじゃん?することねェじゃん」
だから最初、一緒に風呂入って、俺だけ後から上がるって言ってんのに納得してくれなくて、説明したぜ、俺は。

「やっぱ銀さんが教えなきゃ駄目〜?」
「小太郎をこっちの世界に引きずり込んだのはお前だろ?」
小太郎はノンケだったのにって言ってやったら、ますます銀時はへこんだみたいだった。

「ねー、土方君はァ?」
しゃぶしゃぶ用の肉だから、すぐに火が通って俺と土方はポン酢で食べ始める。あ、土方はポン酢マヨネーズだけどな。

「俺はだって、総悟にやり方習ったからよ」
「沖田って、なんでも知ってるよなァ…。俺、KY初めて見たの、沖田ん時だもん」
「そりゃどうも」
「ごめんって。土方には悪いと思ってっからさ、今でも」
「もういいって」

俺と沖田がヤった時ってのは、則ち土方から見れば彼氏の浮気ってことになるから、言われていい気がしないのは当たり前なんだけど。それでも俺の話聞いてくれて、『俺もその立場だったら同じことしてたと思う』って言って俺を許してくれて。今はこうやって一つの同じ鍋突いてんだから不思議なもんだ。人間どう転ぶかわかんねェ。

「銀時、肉なくなんぜ?」
「いいよー。じゃあ銀さんうどん投入するからさァ」

俺と銀時だってそうだ。元は今付き合ってる相手の逆が、お互いに好きだったなんて笑えてくる。こうやって、鍋囲んでられるのは、3人が3人共、今は幸せだからなんだ、きっと。

「もうちょっと水菜あっても良かったなァ」
俺と土方は箸を置いて。銀時だけが1人でうどんを食べている。

「お前どんだけ野菜食いよ?だから細ェんだぜ」
「でも俺、けっこー食ってんぜェ?」
ポコンと飛び出たお腹を土方に触られた。

「あ、お前胃下垂じゃねーか」
だから太らねーのかァって納得顔の土方。

「なーんか胃がな、この辺にあるんだよな」
言いながら自分で撫でてみるけど、やっぱり食後に脹れてるのはオヘソの辺りとその下らへん。

「太りにくいのって羨ましいわァ」
「オメェは甘いモンとりすぎだろーが」
土方が言った言葉に納得して俺も笑った。
完全に空になった鍋を洗ったりしてる間、土方と銀時はテレビをつけていて。

「うおっ、ラグビーやってる!」
それはスカパーのスポーツチャンネルだった。

「ねー、土方君って、この人達、ことごとくイケんの?」
「イケるぜェ。ことごとく全員タイプだなァ!高校野球なんか天国だぜ」

銀時が指差したテレビ画面を見ながら『抱かれてェ』とか言っちゃってる土方。今更だから何にも言わないけどさ、俺も銀時も。言ってるだけだしな。

「俺は無理。この体型、1人でも目の前に現れたら、どうなるかわかんねェ」
錯乱しちまうかもしれない。怖い。テレビに映ってるくらいなら、今は平気だけど、しばらくの間はフラッシュバックしちまって、テレビの映像や写真すら駄目だった。

「晋ちゃんは仕方ないよ。大丈夫だって、そういう時は着いててあげるからさ」
「あ、ごめんな高杉。チャンネル変えようか?」
「テレビだけなら大丈夫だって。いいぜ、見とけよ」
洗い物を終わらせて俺も煙草に火を点けてテーブルに着いた。

ボーっとルールもわからないラグビーを見てたんだけど、ヤバイ。やっぱり吐き気してきた。選手が何人かアップで映った瞬間だ。

「うっ…」
「晋ちゃん大丈夫?ヤバイって、土方君チャンネル変えて!」
慌てて俺の後ろに回った銀時がぎゅうっと抱いてくれた。

「ごめ…」
「悪ィ、ごめんな、大丈夫か高杉?」
すぐにチャンネルを回した土方もガタガタ震える俺の手を握ってくれて。

「晋ちゃん息吸って!ほら、大丈夫だから、なんもしないから」
昨年の秋に、俺を集団でレイプした連中ってのが、揃いも揃ってあんな体型だったんだ。

無理矢理地面に叩きつけられて脱がされて押さえつけられて慣らしもしねェで順番に突っ込まれて。口にもくわえさせられて、噛み付いてやったら寄ってたかって殴られて蹴られて、殺されるんじゃないかと思った。
ボロ雑巾みたいになって、抵抗する気力もなくなって、されるがままだった俺を犯すのに夢中になってた奴らはさ、全員隙を突いた沖田に殴られて、木の棒でボコボコにされて、ついでに股間蹴られて金まで盗られたんだけどさ。

「ぅっ…、ふっ、ゃだっ…」
「大丈夫だからね、晋ちゃん、大丈夫」

だからそれ以来、俺は無条件であの体型の人が恐い。その時のことが甦ってきちまって、学校でも何回か倒れてる。
1年以上経ってるって言われたって、死ぬかもしれねェとまで思ったあんな恐怖、忘れられない。

それでも、事情を知ってる2人に抱きしめられて、誘導されるままに深呼吸を繰り返していたら、身体の震えも吐き気もだんだん、治まってきた。

「ごめんな、もう大丈夫だ」
こっちこそごめんなって土方は謝ってくれたけど、別に土方が悪いわけじゃねェからな。むしろあの時、土方には助けてもらったと思ってんだから。

「晋ちゃんと土方君ってェ、意外とタイプ被ってる気がしたけど、こうなるとやっぱ違うねェ」
俺が落ち着いて安心したのか、のんびりとした声を上げたのは銀時だった。

「タイプ合わねェから、こうやって友達になれんじゃねェの?」
「それもそうだよなァ。ってことは銀時、お前は?」
どんなんが好きなんだ?って聞いたのは土方。それを聞くかお前。

「聞くなって、土方」
「銀さん?んー実はァ、密かにフケ専だったりなんかして」
「えっ?マジ?」

だから聞くなって言ったんだ。そんなの銀時見てりゃわかる。銀時がカッコイイって言うのはたいてい、40代以上なんだから。要するに年上に甘えたいんだろうなって考えりゃ、ひどく納得がいく。

「フケ専って言うかねェ、見た目が20以上年上だったらいいんだけどォ、ま、要するにおじさん好き」
優しくされたいじゃん?カワイイカワイイって言われたいじゃん?って。小さい頃から親がいなかった銀時だから、お父さんってのに憧れてるんじゃないかと、俺はこっそり思ってる。

「桂みたいなキレイ系が好きなのかと思ってた」
「キレイ系が好きなのは晋ちゃんだよね?」
そういう土方君だって、沖田君は全然タイプと違うじゃない、ジャニ系じゃないって返す銀時。

「総悟はいいんだよ!総悟だけは特別!」
土方も言い返すけど、わかってるって土方。それは何回も聞いたから、俺は。

「だから、銀さんもヅラだけは特別なの。だってヅラはさァ、銀さんが甘えても怒んないんだもん」
「だから小太郎は天性のお兄ちゃんなんだっつぅの」
俺が言ったら銀時は嬉しそうな顔で思い切り頷いた。

「うん、晋ちゃんが好きだったのもわかっちゃったよ、銀さん」
ヅラと一緒にいると安心すんのーって。でれーっとした顔でなんだか銀時、幸せそうだなァ。昨年は、銀時がそんな顔するなんて、想像もできなかった。

「俺だってなァ、総悟とはもう長ェし、俺のことは全部わかってくれてっし」
今更離れることなんか想像もできねェって土方。

「お前らいいって、もうわかったって」
まったく、なんのノロケ大会だよお前ら。

だから言ってんだろーが。タイプが被らないから友達になれるんだって。被ってたら大変だぜ?『アイツとヤったの?』なんて、それだけで一喜一憂してさ、恨んだりするかもしれねェしさ。だからって、俺達3人の間に、全く色恋がないかっつぅと、そうでもないんだけどよ。

「ぶっちゃけ、タイプがそっくり被ってるのって、俺と沖田だと思う」
「あ、そうかもしんねェ!」

俺がイケるって思うキレイ系のお兄さんは、たいがい沖田もイケるはずなんだ。ただし、俺と沖田じゃ、考えることは全く逆だけど。

「だから晋ちゃんと沖田君って仲いいの?」
「別に、それだけではないと思うけどよ」
辰馬みたいなあんなデカイの見て『突っ込みてェ』って思うらしいから、沖田って。

だから、沖田が土方のことが好きだなんて当たり前なんだ。俺だって、土方がもう少し背が高かったら、理想って言ってたかもしれない。ま、タチるの無理なネコ同士じゃ69くらいしかヤれねェけどさ。

「総悟にしてみたら、知り合った当初の高杉が、可愛くてしょーがなかったんじゃねェかなァ?」
もちろん沖田はジャニ系だから辰馬もイケるに決まってんだけど、Sのバリタチ同士じゃどうにもなんねェんだよな。
いや、どうにもなってくれなくていいんだけどさ。

「どーゆうこと?それ、土方君」
「だって俺、沖田と知り合った時、何にも知らなかったもん」
「知らなすぎて放っとけなかったんじゃねェかなァ?」

俺はまさに、田舎から出て来た子ってのと変わらなかった。二丁目も行ったことなかったし、掲示板で人と会うってのだって、ビクビクしまくってたし。

「総悟のことだからよォ、本当は1回ヤれりゃあイイってくらいにしか思ってなかったはずなんだけどな」
「土方君、平気でソレ言えちゃうのってどうなのよ!」
銀時が先に突っ込んでくれたけど、俺も同じこと思った。

「あん時喧嘩してたからな、俺ら」
1週間はしてなかったんじゃねェか?俺が意地になってたからよ、そりゃ溜まるって、って土方は笑った。そうやって、笑ってもらえるのが俺には救いだ。だけど。

「土方ァ、お前、俺と沖田が初めて会った日とか、知ってんの?」
「ァあ?総悟な、お前と会った日はキッチリ手帳に印付けてたんだぜ?だから、全部聞いた」
「ま、マジでか…?」
沖田って、意外とマメなんだな。…ってことはだな。

「2週間に1回くらいはヤってただろ、コノヤロー」
「ご、ごめんって!だってっ!」

俺としては話だけ聞いてもらえたら、セックス無しでもいいって思ってたくらいなんだけどっ!彼氏と別れたばっかで寂しいとか、周りにはゲイだって隠してるとか、ノンケ好きになっちゃったどうしようとか、どうしても誰かに聞いて欲しくてっ!だけど、だけどなんかいつの間にか会ったらヤル会ったらヤルって感じになってて!ヤリ出したらなんか疼いちまって!どうしてもヤリてェ時は俺から連絡したこともあったけど!って。なんかスゲェ言い訳みたいだな俺。最低。

「気にすんなって。あの頃俺が大学入ってさ、すれ違い増えてた時期だったし」
自分がゲイだってことを、誰にも言えなかったんだったら、お前だって総悟がいなきゃ辛かっただろって。総悟にしがみついて泣いたことだってあったんだろって、土方が言ってくれて泣きそうになった。

「それに、疼くからって、誰でもいいとは思わなかったんだろ、お前は?」
ある意味総悟だけを信用してくれてたんだよな、ありがとな、って。土方、お前って、どこまでいいやつなんだよ。マジで泣ける。

「晋ちゃんさー、話してくれても良かったのにさァ」
銀さんと辰馬なんて、初対面でカミングアウトしたんだようって銀時は笑いながら言ってるけど。

「だってお前がバイだなんて知らなかったもん。合コンとか誘ってくるしさ、お前」
だいたいあの頃は、銀時が何を考えてるのかってのも、よくわからなかった。今なら、辰馬のことが好きだった銀時は、俺に一目惚れした辰馬のために俺のこと探ってたんだって理解できるんだけど。

「お前だって自分のこと全然話さなかったじゃねーか、銀時」
土方が突っ込んだ時、俺も気がついて言葉を重ねた。

「そうだ!お前だって、自分のことは話さなかったじゃねェか!」
「あれーェ、今度は銀さんが責められる番ー?」

親がいないとか仕送り貰ってないとか学費まで自分で払ってるからバイトしなきゃなんないとか。もっと早く話してくれたら良かったのにって思ったのはこっちの方だっつぅの。それならノートくらいいくらでも貸してやるし、授業に出れなかった分の勉強くらいなんぼでも教えてやるっての。

***

散々ダラダラ3人で話したけど。俺の瞼が重たくなってきたからそろそろ寝るぞって言って。家は近いけど土方も泊まっていくことになった。順番にシャワーを浴びて、土方には辰馬のスウェットを上下貸してやる。最初に俺のを着たら袖から丈から裾からなにもかも短くて駄目だった。銀時はうちに着替え置いてるから平気だけどな。

「布団敷くの面倒なんだけど?ここ、3人寝れるかァ?」
俺と辰馬がいつも寝てるダブルベッド。どうせ辰馬が帰ってくるのは明日の朝か昼近くだから。

「大丈夫じゃねーかァ?」
「全然イケんじゃなァい?晋ちゃん一番ちっちゃいんだから真ん中真ん中」
銀時に言われて真ん中に横になった。仰向けになって右に土方、左に銀時。毛布と掛け布団はみんな共有で。

「ほーら、これで川の字じゃない?」
「お前な…」
ちょっと呆れたけど、銀時が『林間学校みたいー』ってはしゃぐから言わないことにした。

「川の字ったらよー、やっぱ親子でするもんだけどなァ」
左腕を枕代わりにしてこっちを向いた土方がぼやく。

「ホントだよなァー。辰馬の子ども欲しいなァ…」
俯せになって枕に顔を埋める。あ、辰馬の匂いがする、この枕。なんか幸せ。

「そんな、悩んでもしょーがないじゃないのさ、晋ちゃん」
産めないもんは産めないんだから、って銀時の言う通りなんだけど。

「女になりてェって意味じゃねェけどさァ、もしさー、俺が女だったらさー、さっさと子ども作って辰馬と籍入れてさァ。そうなったら、辰馬は浮気やめるような気がする」

ああいうタイプは、お父さんになった瞬間に、ピタッと嘘みたいに遊ばなくなりそうなんだけど。

「あー、ありそうだよねェ、辰馬。意外と子ども溺愛しそう」
「だろー?子どもできたら豹変しそうじゃん?」

だから、精神的にはまだ女と浮気されてる方がマシっちゃマシなんだけど。もしも辰馬が遊びでヤっただけの女に妊娠させたら…って思うと気が気じゃないのは事実。せめて女とする時だけはゴム着けてくれって、なんかおかしいな。そもそも浮気すんなよな、辰馬の馬鹿。

「次から次へと問題ばっかだなァ、お前らは」
坂本が浮気しなきゃいいだけの話なんだけどな、って土方が言う通りなんだけどさ。

「男なんて浮気するもんだからさァ」
「1回、味しめたら癖になるって言うからなァ」

なんか、俺だけじゃなく土方まで泣きそうになってる。ごめんな土方、沖田の浮気相手は俺だ。俺は今、土方にしてしまったことの報いを受けてんのかもしれない。

「でもさー、晋ちゃん。あれでも辰馬、ずいぶん落ち着いたって言ってたよ、ヅラは」
「俺も小太郎に言われたけどさ、そんなの知らねェもん」

俺と出会う前の辰馬は、ホントに誰に聞いても酷い。ワンナイトスタンドところの話じゃないんだから。『お前のおかげで坂本は変わったんだよ』って言われるのは、悪い気しないんだけど。

「悪ィ、俺、限界!」
そう言い出したのは土方だった。

「夢ん中でガッチリ兄貴に抱かれますよーにっ!」
「お前、何言って…」
「じゃあ銀さんも!夢の中で優しいおじさんに甘えさせてもらえますようにっ!」
「お前らな…」
何言ってんだこいつらは。沖田や小太郎には言ったりしねェけどよ。夢の中なんか自由なんだし。

「晋ちゃんにはわかんないよーだ。ねぇっ、土方君!……土方君?」
「…土方寝てるわ」

自分が好きなタイプに愛されてる晋ちゃんにはわかんないよ、って銀時が。そうかもしれねェけどさ、それじゃあなんか、俺だけは顔や見た目で男選んでる…みたいな言い方じゃねェか。そんなことねェぞ。

「まー、深く考えないでよ。銀さんも土方君も、満たされてるから言えんのよ」
「そういうモンか?」
じゃあ俺が言えないのは満たされてないからなのか?よくわからない。

俺もそろそろ寝るって言って、会話は終わりになった。
でもやっぱり俺は、夢の中でも辰馬と一緒がいいなぁ。

***

3人で鍋パーティーするなんてメールがきてたもんだから気になって。いつもより早く上がらせてもらって、早朝に帰ってきた。

いつも晋助と2人で寝ているベッドに3人並んで、3人共丸くなって眠っている姿を見つけた時、思わず頬が緩んでしまった。膝を抱えるくらい小さくなっているのは真ん中の晋助。銀時は枕を抱いて膝を折って、土方君は自分の身体に腕を回して頭が晋助の背中にくっついている。

(なんじゃ、3人共、かわええのぅ)

静かに携帯を取り出して、椅子の上に立ってズームを調節する。まずは3人並んで寝てる全体図を撮影して、それから1人ずつ寝顔のアップ。

何時まで話していたのか、カメラのフラッシュにもシャッターの音にも、3人は起きる気配がなかった。

椅子を部屋の隅に移動させてベッドの下に布団を敷いて。晋助だけは下に連れて来ようかと思ったが、せっかく3人並んで可愛いのだからやめにした。

布団に潜り込んでから、写真を添付したメールを作成する。送信相手はもちろん、桂と沖田君。

『なんじゃ、たまには同期3人で好きにさせてみるのも、えいかもしれんのう』

メールを受信した2人も、和んでくれたらいいなと思いながら。

「でもやっぱ、晋が一番かわええのぅ」
写真をロックフォルダに移動させる。これで間違って消すことはないだろう。

「たつっ、それは…俺んだ…っ」
寝言だろうか。呼ばれた名前はきっと自分。晋助は、寝てる時まで自分の夢を見てくれているのかと思うと嬉しくなる。

「そのハーゲンダッツ俺んだっ!」
(アレ…?)

だいぶ前に、勝手にアイスを食べてしまったこと、まだ根に持っているのか、晋助は?

同じのが2つあるからいいだろうと思って食べてしまったら、1つは銀時のだった。甘い物を好まない晋助が、ほとんど唯一食べれるのがハーゲンダッツのサンドだとかって。

(そういえば、あれから買ってきちょらんかったのう)

明日にでも、10個くらい買ってきてあげようと思いながら。坂本も眠りの中に落ちていった。


END



同期3人で鍋!会話の内容はほぼ実話です(苦笑)書いてて楽しかったわァ!






















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