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※高校時代の万高

今、妄りに其の頑質を矯めば、人と成らざらん。
−−安政6(1859)年、吉田松陰の高杉晋作宛て書簡より。

夏の終わり


俺も万斉も、ごくごく普通の高校生だと思う。

「あれ?アイツまだなんだ…」
2年A組の下駄箱で、万斉の上靴がまだそこにあるのを確認した俺は、フラフラと静まり返って人気のない校舎1階を歩いていた。人気がないのは、とっくに2時間目の授業が始まっているからだ。2学期が始まって9月の終わり。昨夜から降り出した雨は今日もやまなくて、まだ暑いってのに湿気でベタベタで、今日のコンディションは最悪。

俺達は普通で平凡だと、自分達では思っているんだけど、敢えて『人とは違う』ことを挙げるとするならば、俺も万斉も、遅刻しまくりで、尚且つ授業サボりまくりな点。

それから。俺も万斉も、両方共『男』でありながら、俺達は付き合っているという、この点。この2つかな。

普段は2人、仲良く屋上でサボっているんだけど、今日みたいなこんな雨の日はそれができない。万斉なら、迷わず音楽室なんだろうけどさ(どうやって作ったのか知らないけど合鍵持ってんだぜアイツ)、俺1人だったら、こういう時は図書室と決めている。開いてっかな。高校の、この校舎の中で、俺が一番気に入ってるのが、屋上と図書室だったんだ。

どーでもいいことだから俺も言わねェけど、A組なんて、理系の超進学クラスにいてサボり魔なんて万斉だけだと思う。多分、校内史上でも、前代未聞なんじゃねェの?万斉のクラスのヤツはみんな、医学部とか目指してんだぜ。

でも俺は、万斉のそんな、ちょっと常識から外れちゃったようなところも好きだったりする。あ、余談だけど俺は文系だから。昔っから本読むのは好きだったからさ。

図書室の一番奥の窓側にさ、ちょうど本棚と壁の隙間が50センチくらい空いてるところがあって。窓側だからカーテンもあって、そこでダラダラ本を読む…ってのが、俺としてはスゲェ楽しい。
背中と右が壁で(右の壁の上は窓)、左は本棚の側面。つまり、三方すきな方に寄り掛かって、両脚は投げ出して…、って。行儀がいいとはとてもじゃねェが言えねェけど、図書室の一番奥であることから、そこなら静かでさ。誰にも邪魔されないから何時間でも居れるんだよな。

電気がついてるってことは司書の先生いるから開いてるなって、嬉しくなって。それでも静かに、こっそり図書室の扉を開けたらさ。扉から一番近いテーブル席に、運悪く教師が座ってた。

(あちゃー)

目の前で扉を開けたサボりの生徒に気付かないはずはない。当然のように顔を上げたのは、これまた運の悪いことに、いつも見逃してくれる司書の先生じゃなくて俺の担任。いや、担任だったってことは、俺の運、悪くはないかもしれない。むしろいいんじゃねェの?どうせサボりが見つかるなら、ってやつだ。

「おはようございます、晋助」
にこっと笑って俺の名前を読んだ松陽先生は、そのまままた、読んでいた本に視線を落とす。ほらな。普通だったらウルサイこと言うもんなんじゃねェか?

「オハヨーゴザイマス」
俺は扉を後ろ手に閉めて、特等席の一番奥に向かいながらチラっと先生が読んでる本に視線を向けた。

「せんせ、何読んでんの?」
古典の先生らしく、何かの古典を読んでんだってことはわかったんだけど。

「大鏡ですよ」
「ふーん」

ああ、そうか。今授業でやってる伊勢物語はもうすぐ終わる。確かその次に教科書に載ってたの、大鏡の、道長と伊周が弓の勝負する話だったよな。

「せんせ、道長って好き?」
「どうしたんですか、急に?」

先生が本を置いて、テーブルの横に立った俺を見上げたからさ、俺は反対側に回って先生の隣に座った。

「俺は嫌い。だって、調子に乗りすぎじゃね?」

『この世をばわが世とぞ思ふ望月のかけたる事も無しと思へば』なーんて言っちゃうからさ、翌年からエライ目に遭うんじゃねーの?ただでさえみんなに怨まれてんのにさ、って言ったら先生は黙って俺の話を聞いてくれた。

大鏡ってのはさ、歴史物語だから、史実にもとづいて作られた物語で、言ったら歴史書みたいなもんだろう?歴史を作るのはいつも勝った方なんだから、そりゃー大鏡には道長のいいことばっか書いてあるよって俺のぼやきを先生は真剣な顔で聞いてくれる。
そりゃ、道長はすごい人だったんだとは思うけど、胸の病気に眼の病気だよ?最終的には出家して仏に縋ってさ。この世の中は自分のものだなんて言った勢いはどこ行ったんだよ。

なんでまだ授業で習ってない大鏡のことを、俺がそんなに知ってるかっていうと、実はもう、全部読んじゃったんだ。
だってここ、図書室にある古典は片っぱしから読んでんだもん、俺。だいたい、『この世をば〜』の歌も、道長が胸の病気になったって書いてあんのも大鏡じゃねェし。『この世をば〜』は有名だから、常識だと思うけどな、俺は。

「晋助、それは授業で発表してもらってもいいですか?」
「えっ、やだよ!絶対嫌!」

いいじゃないですか、と笑う先生に、俺は絶対嫌だ嫌だ嫌だっ!と意地を張り通してさ。俺が予習してんのは、授業で発表したいからだとか、カッコつけたいからじゃないんだからって。結局3時間目もそのままサボって(先生も授業なかったみたいだから)、次の休み時間まで、先生と古典の話してたんだ。

大鏡だけ見ると、スゲェ情けない人にしか見えないんだけどさ、俺は、どっちかってーと、負けちゃった伊周の方が好きだし、紫式部より清少納言の方が好きで枕草子なんか大好きだって。伊周だって、日本で一番二番の権力を争うところにいたんだから、本当はすごい人だったはずだよ?って、それが俺が思ったことで。そんなことを、世間話かなんかでもするみたいにずっと話してたんだ。

最終的には『晋助は本当に古典が好きですね』って先生が笑ってくれるまで自分の意見とか思ったことを話してたんだけど。

(先生が教えてくれるから、こんなに好きになったんデス)

さすがにそれは言えなくて。

だってさ、俺さ。こんなに真面目に勉強してんの、古典だけだよ。動詞活用表なんて見ても、中学の時はちんぷんかんぷんだったなんて先生に言ったら、笑われるかな。なんでそんな一生懸命かっつぅとそれはさ、俺は先生のことが好きだからで。
ちょっとの下心も、そりゃあるんだけど。
でも、先生のことが好きだっての、どっちかって言ったら憧れとか、そういうのに近いかもしれない。こうやって、話してるだけで、結構満足なんだもん。

***

雨の日のチャリ通学は最低でござる。

どれだけ頑張って髪の毛をセットしても、この雨では潰れてしまって、本気で納得が行かぬ。仕方ないと、諦めて学校へようやく到着したのは、3時間目の授業が始まっている時間でござった。この雨なら、とりあえず音楽室で昼寝でもしようかと階段を昇っている途中の3階で話し声が聞こえてきたでござる。それも、よく知った声。

『せんせーさァ、御嶽詣での話知ってる?枕草子の』

授業をサボって枕草子とは。こんな生徒は、校内中を探しても、晋助しかいないでござる。
あ、晋助は拙者の恋人なんでござるよ。拙者も晋助もれっきとした男だが、拙者、女には全く興味がないんでござる。屋上でサボっている間に仲良くなって。少し、思うところがあって、さり気なく晋助にその話をしたのが6月。
まさかとは拙者も思ったし驚いたのだが、晋助は、女を好きになれず、むしろ男である幼なじみと『キスしたい』と思ってしまう自分のことを、誰にも言えず1人でずっと、悩んでいたらしいのでござる。

悪戯心でキスしてやったらそのまんま、晋助は拙者を好きになってくれたようで。拙者もフリーだったし、最初は軽い気持ちで付き合うことにしたんでござるが…。
何たって何も知らないから、まっさらですごく素直で。今は拙者の方が、晋助にハマっていると思うでござる。

きっと図書室だと思って、こっそり扉の窓から覗いてみたんでござるよ。

扉に一番近いテーブル席に並んで座って、なにやら分厚い本(どうせ古典でござろうが)を広げて、話していたのは、予想通り晋助とその担任の、吉田先生だったでござる。

『みたけもーで』が、なんのことだかはサッパリ拙者にはわからんが、何やら楽しそうに話している姿。完全に晋助は、授業をサボっているというのに、吉田先生はそれを咎める様子も見られぬ。柔らかく微笑んで、先生と話す晋助の表情に、拙者、ちょっとだけ、嫉妬を覚えたでござる。

吉田先生というのは、学年が違う拙者には全く接点のないお方であるが、晋助にとっては担任だ。ただ、晋助があんなに懐いているのは、ただ担任だというだけではないと思うでござる。

拙者の中の吉田先生は、『相当の変わり者』というイメージが強いでござる。自分が担当しているクラスの生徒全員を、下の名前で呼んでいると晋助から聞いたそれだけでも相当なのだが、晋助と2人でサボっているところを見つかっても、あの人にだけは、怒られたことがない。

『時間を無駄にしてはいけませんよ。3年間、意外とあっという間なんですからね』

それだけでござる。

もう一つおまけで言うと、入学直後から授業をサボり出した晋助に対しては、『出たくないのなら構わないが後悔はするな』というようなことを言ったらしい。

正直、晋助が吉田先生のことが好きなのではないかと、そんなものは拙者、晋助と付き合う前から気付いていたでござるよ。好きと言っても、子どもが親に甘えるような感情なのだと。しかし、それでも、拙者の前では見せてくれることのない柔らかな微笑みに、なんだか苛々してしまったでござる。

音楽室での昼寝はやめにして、無表情のまま2年A組の教室へ入った。ちょうど数学の授業中で、教室内は一瞬静まり返るのだが、拙者と目が合った数学教師は、慌ててなにごともなかったかのように授業を再開する。別に、睨んだつもりはなかったのでござるが。

ベクトルだかなんだか知らないが、つまらん。

結局、拙者は一言も言葉を発しないまま、昼休みになったでござる。

***

4時間目は先生に言われてちゃんと授業に出て、昼休みに万斉の教室に迎えに行ったんだけど、なんでか万斉は物凄く不機嫌だった。いつもだったらさ、『ご飯食べに行くでござるよ』って、4階まで迎えに来てくれるのは万斉なのに、それが全然来なかった…って時点で、俺は気付けばよかったのかもしれない。

「拙者、今日はいらぬでござる」
たった一言、それしか言われなくて、冷たい視線で見下ろされて。

「わかりました、ごめんなさい」
本当はすごく苦しかったけど、それだけ言って自分の教室に戻ってきたんだ。俺達が付き合ってることって極秘だからさ、一応敬語で頭を下げて。2人きりだったら、こんな言葉遣いしねェよ。

途中で、2年生の女の先輩達に『高杉、一緒にご飯食べよう』なんて誘われたんだけど。ごめんなさいって謝って、自分の席に直行した。
机に突っ伏して、本当は泣いてしまいたかったけど、ここは学校だからって、必死で我慢してさ。そのまんま午後の授業が始まったんだけど、顔上げる気にもならなかったから。多分みんな、俺は寝てると思ったんじゃないかな。

万斉に、あんな冷たい態度を取られたことが今までなかった俺は、本気でどうしたらいいのかわかんなかった。

(俺、なんかしたのかなァ…)

朝、起きてすぐに『おはよう』ってメールした時には、普通に返事が返ってきてたのに。学校に来るのに、電車で30分かかる俺と、自転車で20分の万斉。どう考えても、俺の方が遠いのに、万斉の方が学校に来るのは遅かったよな。なんかあったのかなァ?

考えても考えてもわかんないまま、ホームルームまで終わって放課後になっちまった。もう俺、さっさと1人で帰った方がいいのかなって気はするんだけど、でも、どうにも踏ん切りがつかない。万斉と帰りたいなァってのはもちろん、もし、俺がなんかやらかしてんのなら、ちゃんと謝らなきゃってことで、頭いっぱいで。

『ごめんなさい、俺、なんかした?』
万斉にメールを送ってみても、返事がない。やっぱりって言うかきっと、俺がなんか悪いんだろうなァ。

電話なんかするよりは、とにかく直接顔を見たくて、もう一回3階に降りて行った。

3年A組の教室は、扉が開けっぱなしになっていて、もう万斉1人しか残っていなかった。さすがA組、みんな塾とか予備校行ってんだろうなァ。

「……万斉」
窓の外を見ながら、ヘッドフォンでガンガン音楽を聴いてる万斉は、俺の声なんか聞こえていないらしい。

「なァ、万斉」
一番後ろの万斉の席に、恐る恐る近づいて行って肩を叩く。肘をついて掌に顎を乗せたまんま顔を上げた万斉は。

「帰るでござるよ」
たった一言そう言って、自分の鞄を持って立ち上がった。もしかして待っててくれたのかなって喜んだのは一瞬。そのままスタスタと、万斉は出口に向かって歩いて行ってしまった。1回も、目を合わせてくれなかった。いつもの万斉なら絶対そんなことしねェのに。

もう限界。昼休みからずっと、今まで我慢してたけど。
俺はその場から動けなかった。

***

『やってしまった』と思う時というのは、たいがい手遅れで。

くだらぬことで、いつまでも嫉妬しているのは見苦しいと、だから気を取り直して晋助と一緒に帰ろうと。音楽でも聴いて気分を変えようと、そう考えていた矢先に、肩を叩かれて振り返ったら、晋助だった。

ちょうどいい、さっさと教室なんか出て、今日1日全く話せていない分、晋助の家でも行って話そう、ついでにやることもやれたらいいなと、立ち上がって廊下に出た。

「なァ晋助…」
名前を呼びながら振り返ったら、晋助がいなかったでござる。

「晋助?」
まだうちの教室かと思って、戻って覗いてみると、晋助はさっき、拙者の肩を叩いた時と同じ場所に立ち尽くしたままで、右手で口のあたりを押さえて、小さく震えていた。

「晋助…?」
どうしたというのか。呼ぶと、ピクリと反応したものの、こちらを向く気配はない。大股で近づいて行って、両肩を掴んで自分の方に向かせると。

思い切り手を払いのけられて、また拙者に背を向けるでござる。

(泣いてる…)

拙者、激しい自己嫌悪に陥ったでござる。恐らく昼休みのあれ以来、午後はずっと悩んでいたのではなかろうか。晋助のことだから。 ヤバイでござる、こういう時は、どうしたらいいんでござるか…?

***

じわーっと湧き出るみたいに、俺の右目からは涙が溢れてきた。情けねェ、こんなことで泣くなんてさ。とてもじゃねェけど、万斉には見せられなくて。自分だって経験あるもん、女に泣かれたらどうしようもない。スゲェ困るし、結局自分が悪くなくても謝らなきゃなんねェし。

つまり、今俺が、万斉がいるのに泣いちまってるのって、そういうことだ。さっさと教室を出て行ったけど、そのまま先に帰ってくれって思ったくらいだった。迎えに来たくせに。

でも万斉はやっぱり戻ってきて。俺の名前を呼びながら近づいてくる。やだ、今は来るなって。せめて5分待って。

「晋助?」

両肩を掴まれて、正面を向かされた時、反射的に万斉の腕を払いのけてしまった。最低だ、これじゃ万斉が視線合わせてくれない以前に、俺が万斉の顔、見られねェ。

泣いてることはもう、バレちまっただろうから。背中向けてる俺に、困ってんだろうなって思う。俺だったらたぶん『もう知らねェよ、好きにしなっ』って、吐き捨ててちゃっちゃと帰ると思う。

って言うか、それでいいと思った。早く帰ってくれよ万斉。今さ俺、お前に見せれるような顔してねェからさ。ちゃんと明日、覚悟決めて話聞くし、謝るから。

だけど万斉は。いきなりぎゅうっと、俺の細い肩を後ろから抱いてくれた。

(お前、ここ学校だって…)
放課後で、今は誰もいないって言ったってさ。いつ誰が来るかわかんねェ。

「晋助、すまんでござる」
なんかしたのは俺の方じゃなかったのか?

「晋助ごめん」
そのまま、また正面を向かされて。今度は逃げられないようにしっかり腰を掴まれてる。思い切り、後ろの壁に、背中を押し付けられた。

「ばん…さい?」
身長差があるんだから、有り得ないはずの超至近距離にあった万斉の顔が、ますます近付いてくる。

(ちょっ、お前…)
何も言わせてもらえないまま、俺の唇は、万斉のそれで塞がれていた。

***

万斉が家まで送るって、俺と一緒の電車でうちまで来た。送るだけじゃすまなくて、絶対俺ん家入るし、もしかしたらコイツ帰りそびれるんじゃないかとか思ったけど、万斉がいいならいいか。

7月に付き合い始めてから、約2ヶ月。今まで何回泊まってるかわかんねェし。夏休みなんか、ほとんど毎日一緒にいたから。

俺ん家に到着して、俺の部屋に2人で入って。それからようやく、万斉は今日1日、自分が機嫌の悪かった理由を話してくれた。それを聞いた時、まさに俺は『開いた口が塞がらない』という状態だった。

「…………お前、馬鹿だろ?」

口を突いて出てきたのはそれだけ。ベッドの上に座ってる俺と、床に置いてやった座布団の上で胡座すわりの万斉。まさかそんな、くだらないことで、万斉が嫉妬したとか、俺は俺でいろいろ悩んじまって大変だったとか。そんなのって有り得ないと思った。もう、言葉もねェ。

「でも、拙者の前では晋助は、あんな表情見せないでござるよ」

万斉が学校に着いた時、俺と松陽先生は図書室で古典の話をしてた。その時の、俺の顔が楽しそうで幸せそうで嫉妬したって。あのな、お前な。

「万斉にも古典の話してやろーか?」
「いらんでござる」

拙者はどうせ『みやけもーで』の意味すらわからんでござるよって万斉が拗ねたように言い出して。ちょっと考えたけど『それって、御嶽詣でだろ?み・た・け・も・う・で』って直してやった。

御嶽詣でってのはな、吉野の山に詣でることなんだけど…と、解説をしようとした瞬間にもう、万斉は眠そうなんだもん。これでどうやって、お前に古典の話しろって言うんだよ?確かに、俺が嬉しそうな顔してたんだろうなってのは認める。
だって、松陽先生と2人っきりで話してたんだし。だけどこれで、話の内容が、全く興味のないことだったら、そこまで俺だって楽しそうにしてねェと思うんだけど。万斉だって、音楽の話してる時、スゲェ楽しそうな顔してんじゃねェか。

「晋助」
万斉が身を乗り出して来て、ベッドに座った俺の腰にしがみついてきた。

「拙者に古典は無理でござる」
第一理系だしってお前な、A組一の問題児が何言ってんだか。

「拙者だけが知ってる晋助の顔が見たいでござる」
「は?…っ!!」

何のことだと聞くより早く、ベッドに押し倒された。

「ちょ、ばんさ…、んっ」
制服の、シャツの裾から万斉の手が入ってくる。押さえつけられて唇を塞がれているから、声は出ない。舌を絡めるだけで気持ちが高ぶってくる。

いや、遅かれ早かれ、ヤルだろうとは思ってたからいいんだけどさ、シャワー浴びてないぜってだけの話なんだけど。

「ァっ、んっ、万斉っ」
ようやく唇が離されて、制服のシャツのボタンが外される。あらわになった肌の上に万斉は唇を落として行く。

「晋助。古典はわからぬでござるが、晋助のその顔は拙者だけのものでござる」
「っあ、何、言ってんだ、馬鹿」

そんなもの当たり前だろうが。こんな恥ずかしい顔、お前以外に見られることなんか、あるわけないだろ?
いくら松陽先生が好きだって言ったって、俺が身体触って欲しいのは、セックスしたいのはお前だけなんだから。

全裸にされて、シックスナインの体勢で、俺は上になって万斉のを舐めてる。万斉は万斉で、指で俺の入口をじっくり時間をかけて解してくれていて。

「んああっ、ソコだめぇっ」

前立腺をぐりぐり押し潰されて、カクンと腕から力が抜けた。2ヶ月で、ずいぶん変わっちまった、俺の身体。指を入れられるだけで、痛くて痛くて、叫びながら泣いてたの、ついこないだなのに。

「ちゃんと慣らさないと、痛いのは晋助でござろう」
「ひっ、んふ、ァあんっ、ああっ、ふあ」

指が3本に増えた。ああもう、どうせ慣らしたって全く痛くないってわけじゃないんだから、早く万斉の入れてくれりゃーいいのにっ。

いくらケツが感じるようになったって、所詮はやっぱ、入れるようにはできてない場所なんだ。
しつこいくらい、じっくりと入口を慣らした万斉は、ようやく俺をベッドの上に仰向けに寝かせてさ。

「晋助、入れるでござるよ」
「ぅん…」

俺はぎゅうっと瞼を閉じて、内側が拡げられる衝撃に堪える。入れられた瞬間の痛みってのは、いつまで経ってもずっとなくならないような気がする。特に、その日の1回目はめちゃくちゃ辛い。

「ん…く、」
ゆっくりゆっくり腰を進めてきた万斉が、深いところまで繋がってからキスしてくれて。俺は万斉の首に腕を回して必死でしがみついた。

「動いて、大丈夫でござるか?晋助」
「ゥン、万斉、きて」

万斉には、もう痛くないから大丈夫だって言ってるんだけど、本当は結構痛いのがバレてんだろうなって思う。入ってくる瞬間に思い切り眉間にシワ寄ってるのは見られてるだろうし。だから毎回、『動いていいか?』って聞かれるんだと思う。

ああ、キツイっ。なんでそれなのに痛いって言わないかって?そりゃ、あんまり痛がって万斉に気ィ遣われたら嫌だから。俺は万斉が好きだから、万斉とセックスしたいんだから、少し痛いくらいは我慢しないといけないかなって思う。だって、俺が我慢しないと、万斉と身体、繋げられねーじゃん。気持ち良くもなれねェじゃん。

最初はゆっくりと動いていた万斉の律動が、だんだん激しくなる。もう俺も、喘ぎ声なんて我慢できない。まだ半分くらいは痛いから悲鳴みたいなもんなんだけど。

「んァァっ、ぁっ、ぁあっ、んあっ、ふああっ、ァあん…っ」

好きな人とするセックスって、痛いの差し引いても、なんでこんなに気持ちいいんだろー。セックスだけじゃない、万斉がしてくれるキスとかも、スゲェ気持ちよくて、とろけそうになる。万斉と繋がったまま、前を触られるのも、最近やっと慣れてきてスゲェ気持ちいい。万斉が抱いてくれてるんだって、万斉と一つになってるんだって思ったらさ、幸せすぎて涙出てきた。

「晋助、イクでござるよ」
「ぁっ、ァあっ、んあっ、えっ、ちょ…」

俺、まだなんだけどっ。やっと痛くなくなってきたとこなんだけど。

ビクンって万斉の背中が仰け反って、ああ、万斉がイっちゃったんだなぁってのがわかった。やっぱりまだ、入れられたまんまイクのは俺には難しいや。いくら前触ってもらってても、気持ちいいってのにイケねェんだもん。

「すまんでござる、拙者だけ…」
ぎゅうっと俺の上に乗っかって抱きしめてくれる万斉の体温が心地いい。

「晋助、おいで」
抱き起こされて、それからはいつものパターン。イケなかった俺のために、万斉が俺のを触ってくれるんだけど。後ろから抱えられて片方の手で扱かれながら、もう片方で胸の飾りとかいじくり回されて。首筋や耳には舌が這わされる感じまくりの3ヶ所同時攻め。

「ぁあっ、ァっ、んあっ、あ、あ、あんっ、ばん、さいっ、で、出るーっ」

万斉に触られてる時ってさ、入れてなければめちゃくちゃ早い気がするのは俺だけかなぁ。自分で触るより気持ちいいのは当たり前としても。

くったり、そのままの体勢で万斉に甘えていたら、暫く経ってから、また身体を触られて、舐められていじくり回されて。いっつも3回くらいはイカされちまうんだ。

感じすぎて身体が出来上がってくるとさ、なんか多少万斉に強く乳首を噛まれても、痛くないどころか気持ちいいのって、気のせいなのかな。でも万斉さ、絶対わざとこれ、歯当ててんだろ?

「ひっ、あ、ァあっ、んはっ、万斉、入れてよォっ!」
「今は駄目でござる」

俺の上に覆い被さって、中心と中心を2本擦り合わせてる。気持ちいいのは気持ちいいんだけど、やっぱ繋がりたいよ。

イっちゃってから、ゴム切らしてたからシャワー浴びなきゃ入れらんないんだってのはわかったんだけど。なんかお尻、疼いてんだけど。どうしよう。ああ、入れて欲しいよう。

結局というか、案の定というか、万斉は『帰るのやめた』って言い出して。

俺が作った晩ご飯を2人で食べて、今度はちゃんと風呂に入ってからセックス。晩ご飯作ってる間も食べてる間も、ずっと万斉が股間触ってくるから全然我慢できなくて。裸エプロンで料理してほしいって、お前変態だろ?実は。

お風呂では、死にそうなくらい恥ずかしいんだけどさ、万斉に教えてもらったばっかりの『中』の洗い方。まだ1人じゃちゃんとできなくて、手伝ってもらったから、俺は風呂場から前立腺を攻められまくってあんあん泣かされて。

「ヤダもぅっ、万斉入れてっ!指じゃヤダぁっ!足りないよォっ」

湯船の縁に膝立ちでしがみついて恥ずかしいことを口走ってるのはわかってんだけど、もう止まらない。

「晋助はいつからそんなにエロくなったでござるか?」
「ゃあっ、だって、だってっ」

風呂場で立ったまま後ろから抱かれて、思い切り万斉の精液を中に出されて。万斉のモノを中で直に受け止めたことで、なんかこれで完全に、俺は身体の中まで俺は万斉のものなんだーって気がして幸せを感じてしまった。

当たり前だけど、この日は夜中までヤリすぎて、翌日は2人揃ってまた遅刻。

「万斉、2時間目、何?」
「英語でござる。帰ってないから辞書がないでござる」
「じゃーサボるー?」
「晴れたでござるしな」
晴れの日は屋上なんて決まってるからさ。

「あ…」
屋上へ続く扉を開けたら、なぜかそこに松陽先生がいた。

「おはようございます、晋助、河上君」
明らかに屋上にサボりに来た俺達に、他には何も言わないんだよな、松陽先生は。

「晋助。…拙者、イマイチ吉田先生はわからんでござる」
「うーん…」

でもさ。俺は俺のままでいいって、先生は言ってくれたんだよな。俺の個性は俺の個性なんだから大事にしろって。だから俺は、先生が好きなんだ。

屋上のベンチで本を読んでる先生の後ろ姿を見つめていたら、万斉の視線がちょっと恐かった。今は、先生がいるから絶対何にもしてこねェはずだけど。

心配すんなって、馬鹿万斉。俺はさ、早くお前の入れられたまんまでもイケるようになりたいなァとかさ。そんなことばっかり、毎日考えてんだからさ。

どーしてくれんだよ、こんなに好きにさせて。責任取れよな。


END



なんだかよくわかりませんが、ラブラブ万高です。まだ、付き合い始めてからの日が浅いから、2人共相手の様子を伺ってる感じ。万斉が不機嫌だと、晋助はどうしたらいいのかわかんなくて(好きすぎて泣いちゃう)、万斉も「これくらいなら言っても大丈夫だろう」と思ってたのに晋助が泣き出しちゃって大慌て。
でもヤリたい盛りの高校生なんで、ヤルこたァちゃんとヤってます。まだ付き合って2ヶ月だから玩具も薬も使わないけど、万斉はこっそりドSの本性出しかけてます。
しかも晋助は自分では気づかないままにMに目覚めかけてます、みたいな(笑)
あとは松陽先生かなー。冒頭の吉田松陰の書簡とか見てたら、この人がモデルなら、松陽先生は、晋助が男の方が好きで、女を好きになれないことを悩んでるのもなんとなく気付いてていいんじゃないかと。
多分晋助は、図書室でこっそり性同一性障害の本とか読んで「ちょっと違うかなー」とかやってるはず(笑)多分、それを松陽先生に見られたんじゃないのかな(そのシーンとかも入れたかったんだけどさっ)。
万高の関係には、がっつり気付いてますが、このままずっと、また子が高校卒業する時まで何も言いません、松陽先生は(「さくら、さくら」参照)。

しかし万斉って…。医歯薬系だったのね(笑)






















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