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いくら夏休みだからって、この時間になっても起きてこないなんてだらけすぎでさァ、なんて。思って様子を見に行った真夏の午後の昼下がり。

夏風邪、手料理、抱き枕


昼の2時って言ったら、ピークに熱い時間帯で、エアコンの設定温度を22度にまで下げながらリビングで引きこもりしてた。こないだ引っ越してきたばかりのマンションで、とうとう2人暮らしを始めた俺と十四郎。お蔭で大学は近くなったし、いつでも一緒にいられるし。って言っても、良いことばっかりでもねェんですけどねィ。

『いいことばっかりでもねェんだぜ?』
男同士のカップルで同棲って意味では、俺らより全然先輩の高杉が、引っ越しを手伝ってくれながらぼやいてた。

『今だって一緒に住んでるみてェなモンなんだから平気でさァ』
当時、週の半分以上は、土方のワンルームから大学に通っていた俺は高杉の言葉に呑気に応えていたんだけど。こないだのテスト期間に、高杉が言ってた意味は嫌っていうほどわかってしまった。毎日会える、隣で眠る。それなのにお互い余裕がなくてなんにもできねェって、どんだけ生殺しかと思ったもんでさァ。

それでも、また別々に住むなんてつもりはねェんですけどねィ。

「こら土方っ!いつまで寝てるんでさァ?いい加減起きなせェ」

夏だってのに頭から布団を被って丸くなった土方の身体を揺さぶる。もーお腹すいたって。なんでもいいから昼ご飯作ってくれっての!え?俺が自炊なんざ、するわけねーだろィ?

いつもなら、俺が起こせばすぐに目覚めるはずの十四郎が、今日に限ってなかなか起き上がらない。昨夜はヤってないんだから、起き上がれない程身体がツライってことはないハズなんですけどねィ。

「ごめ、…総悟」
「こらっ、昼間っから襲いやすぜィ」

土方が被っていた掛け布団を引きはがして、腰のあたりに乗っかった。放置プレイですかコノヤロー、って思いながら無理矢理こっちを向かせるために、十四郎の顔に触ったんでさァ。

「えっ?………えええええーっ??」
十四郎の頬が異様に熱い。確かめるように額に手の平を当てても、やっぱり熱い。しかも、変な汗でべっとり濡れていて。

「おいっ、コラ、トシっ!」
慌てて十四郎の身体をガンガン揺さ振って、無理矢理目を開かせたら。

「悪ィ。…なんか熱あるみてェだわ」
だから寝かせてって、辛そうな表情と虚な瞳。俺は頭の中が真っ白になった。

***

「辰馬ァ、ちょっと出掛けてくるわ」

もしかしたら帰らないかもって言った途端、辰馬の顔色が変わってみるみるうちに不機嫌になった。読んでいた経営学の本をテーブルに置いて、俺の腕を掴んだ辰馬に思い切り抱き寄せられる。

「わしを置いてどこ行くつもりなんじゃ?」
今にも怒り出しそう…ってか、もう半分怒ってるよ、辰馬。嫉妬深いのもたいがいにしてくれって、いつも言ってんのに。

「沖田んトコ。土方が熱出したみたいで、沖田がパニクってるからさ」
さっきまで、部屋を片付けていた俺のところにかかってきた1本の電話はそれだった。

「沖田君がパニクっちょる?あの沖田君がか?」
信じられないって顔を見せる辰馬。そうだよな、普段の沖田しか知らなかったら想像もつかないよな。

「アイツ、土方に何かあると人が変わんの。誰かと一緒で」
誰のことじゃ?なんて惚(とぼ)けてるけど、お前のことだっつぅの!辰馬だって、俺に何かあったら、例えばちょっと指を切ったとか、そんくらいで別人みたいに取り乱すじゃねェか。なぜか喧嘩の怪我だけは見慣れてるみたいだけど。

「晋、わしも一緒に行こうかの?」
もしも病院に連れて行かなきゃならなくなった時、俺と沖田じゃあ土方を運ぶのは難しいだろって言った辰馬の言葉も一理あるんだけど。

「じゃあ、もしそうなったら呼ぶわ」
あいつらが引っ越してきたおかげで、前よりは全然近くなったんだから。なんたって最寄り駅が一緒だからな。駅を降りてから歩く方向は逆だけど。つまり、土方と沖田が住んでるマンションは駅の向こうってワケ。どうせならこのマンションにおいでって辰馬は言ってたけど、空いてなかったらしい。

「なんでじゃ?晋、本当は…」
「あのなっ!!」

お前じゃねェんだよって言ってやりたくなった。

「沖田はプライド高いんだから、取り乱してるトコなんか見ねェでやれよって!それだけだっつぅの!」
そうこうしている間にもオロオロ部屋を行ったり来たりしている沖田の姿が、俺にはハッキリ浮かんでるってのに。

「わかったぜよ、気ィつけるんじゃよ」
「大丈夫だって、すぐそこなんだから」

すぐそこってわけでもないんだけど。歩いて20〜30分くらいはかかるからな。
信用できねェんなら、なんかあったら沖田の携帯に電話しろって言って。ようやく納得した辰馬を置いて、俺は自分達のマンションを後にした。

***

「で。土方何度あるんだよ?」
『体温計がないんでさァ』
「風邪薬は?飲ませたか?」
『見つかんねェ』
「何か食わせたのか?」
『俺が自炊なんかするわけねェだろィ?』
「じゃあ何?お前も朝から何にも食ってねェの?」
『そう。お腹すいたでさァ』

万事この調子。マンションに向かう前に、ミネラルウォーターやスポーツドリンク、レトルトのお粥に体温計と風邪薬と冷却シートを買う。コンビニも便利になったもんだよな、なんでも揃うんだからなァ。

30度越えの真夏日炎天下、大量の買い物を持って汗だくになりながらようやくマンションに到着すると、案の定沖田はオロオロどうしたらいいかわからずにいたみたいで。すぐに走って玄関を開けにくる。

「お前、すっげぇ情けない顔してんぜ?」
「し、仕方ねーだろィ!」

本当は少しくらいは涼みたかったけど。あんまり沖田が不安そうだから、とにかく真っ直ぐ2人の寝室になってる部屋に入れてもらう。

「高杉…、来てくれたのか?」
変な汗をいっぱい出しながら真っ赤な顔の土方の額を触ったけど。確かにこりゃ熱いわ。沖田が動揺するのも無理はねェかも。

「悪ィな」
起き上がろうとする土方を止めて、とにかく体温計を渡す。

「タオルどこ?あー、沖田、土方の着替え用意しろー」
土方が熱を計ってる間に洗面所で濡らして絞ったタオルを用意して。本当はシャワーか風呂の方がいいんだろうけど、土方にそんな元気なさそうだったからな。

38度3分。予想通り高熱を表示した体温計を片付けて土方のTシャツを脱がす。濡らしてきたタオルを1枚沖田にも渡して、2人で土方の身体を拭いてやった。さすがに相手が俺だと、裸見られんのも平気みたいで、土方はされるがままになっている。

拭いてる途中、リビングで沖田の携帯が鳴りだして、2人になった隙に俺は土方に尋ねてみた。

「お前痩せただろ?いつから具合悪かったんだ?」
「そんなにわかるか?…実は2、3日前からちょっとおかしいなと思ってて」

沖田が出してきた新しいシャツを着せてやって、額に冷却シートを貼ってやる。

「総悟に言うなよ。アイツ心配しすぎるから」
「お前らな…」

横になる前に買ってきた風邪薬を飲ませて。俺が思い出したのは3月の沖田の合格発表直前のことだ。あの時、土方は沖田から連絡がないってへこんでて。俺から沖田にメールしたら、風邪だから、土方は心配しすぎるから黙っててくれって、今の土方とおんなじこと言ってたっけ。なんだよ、長く付き合ってると思考が似てくるってのか?だって、性格は全然違う2人だろ?

「高杉ィ、坂本ですぜィ?………あ?代わんなくていいんですかィ?」
携帯で話しながら沖田が戻ってくる。辰馬のヤツ、本当に沖田に電話するか?

「坂本、何の用だったんでィ?」
不思議そうな沖田に仕方ないから説明してやった。俺が本当にここに来てるのかどうか、辰馬は確かめたかっただけだと思うって。

「相変わらず束縛されてんなァ、お前」
横になったままの土方が赤い顔で苦笑いを浮かべてる。

「ホントでさァ!アイツ自分は遊ぶくせに!」
沖田の言葉を全然否定できないのがなんだか哀しかったけど。

「いいんだよ。それに辰馬、最近浮気してねェと思う」
「なんですかィ、それは女のカンってやつですかィ」
「女じゃねーから」

だけど、そう。カンみたいなものだ。いつからだろう、辰馬の身体や服から、誰かの香水の匂いがすることもないし、今日みたいな熱い日に、帰って来てあんまり汗かいてないってことも少なくなった。辰馬が浮気してないんだったら、多少束縛されたっていっか、なんて。思っちゃってる俺がいる。

「高杉ィ、悪ィけど適当になんか総悟に作ってやってくれないか?」
「わかってるって」

もちろんハナからそのつもり。土方がこんな調子なんだから、我慢してカップ麺でも食えっつぅのにさ。

「冷蔵庫勝手に開けるからなァ」
とりあえず、寝なきゃ治らない土方を寝室に残して、スポーツドリンクを1本置いて、俺と沖田はリビングに行った。

土方の汗を拭いたタオルを片付けて、コンビニで買ってきた残りの水やスポーツドリンクや冷却シートを、相変わらず業務用マヨネーズが陣取った冷蔵庫に入れて。タマゴと冷凍された残りご飯があったから、沖田にはチャーハンでも作ってやることにする。

「お前も簡単な料理くらい覚えたら?」
「嫌でさァ」

即答する沖田にちょっと呆れたけど。まー、別に俺が口出しすることじゃないからいいか。俺だって家ではほとんどやったことないし。でも、できないのとしないのでは、こういう時に差が出るモンなんだけどな。…あ、そうか、だから俺に電話かかってきたのか。どうせ俺ならバイトもしてねェし、都合良く近くに住んでるしってことか。

「そんなお前でも用意できるように、レトルトのお粥買ってきたからな」
温めるだけなんだからそれくらいやってやれよって言ったら、思いの外沖田は素直に頷いた。

「んで?お前はどんくらいマヨネーズ掛けんの?」
「いらねェよっ!!」
出来上がったチャーハンを皿に盛って、マヨネーズのキャップを開けながら言ったら、沖田に本気で怒鳴られた。

「なんの嫌がらせでさァ!」
「いやぁ〜、一緒に住んでたら、味覚も似るんじゃねェのかなァと思って」

わざとそんなふうに言ってやると、本気で怒ったのか、沖田は俺からチャーハンの皿を引ったくるように奪ってテーブルにつく。

「絶対ェ似ねェ!…ってか、味覚『も』ってなんなんでさァ、味覚『も』って」
俺は沖田の前に座って。そこまで言っておきながら、重度のマヨラーの土方に、毎日ご飯作らせてる沖田ってどーなんだかなァ?ご飯の時に喧嘩にならねェのか?って思っちまった。

「だってお前ら、考え方似てきてんぜ」
「どこがでさァ!」
俺の作ったチャーハンを凄い勢いでかき込みながら沖田が膨れてる。

「それは言えねーけどよ」
「なんでィ、言えねーなら言うんじゃねェ」

俺が来たことで少しは安心したのか、沖田はいつもの調子を取り戻していってるみたいだった。俺が来るまで、どれだけテンパってたのかが想像できたから、あんまりいじめないでおいてやろう…って。ああ、俺って優し。

沖田が食べ終わったのを見届けてから煙草に火を点ける。やっぱりこの2人を放ったらかして帰るわけにはいかないよなァ、何にも持って来なかったなァ、なんてぼんやり考えていたら、急に沖田が俺を呼んだ。

「高杉ィ…。十四郎、大丈夫ですかねィ」
ホントにお前はあの沖田総悟かよっ?って言いたくなるくらいの弱気な声。

「お前な…。その顔写メに撮って土方に見せんぞ?」
「るせー!」
憎まれ口にも全然覇気がねェんだから。

「大丈夫だっつぅの。あそこまで熱が出たんだから、あの熱さえ下がりゃーすっかり治るって」
むしろ熱が出ない時の風邪の方が長引く。明日になっても熱が下がらなきゃー、病院に連れて行けばいいんだし。土方なら、普段から身体鍛えてるし、案外明日になったらケロっと治ってそうなんだけどなァ、って俺が話しても、沖田は全然納得してないみたいな顔つきで。

「そんなに心配なら抱き枕にでもなってやれっつぅの」
「……それ、いいかもしれねェでさァ」
(え…?マジ?)
笑わせよーと思っただけなんですけど?

「十四郎〜っ!」
だーっと沖田が走って行った寝室から、ぎゃーっていう土方の叫び声が聞こえてきた。お前な、病人にダイブすんな病人に!

沖田を追い掛けて寝室を覗いたら、土方の上に乗っかった沖田が無理矢理唇を塞いでた。

「えっ?なっ、なに…?」
状況を把握できてない土方の顔が真っ赤なのって、熱のせいだけじゃねーな、こりゃ。

「高杉ィ、晩メシの用意よろしくでさァ。それから、今夜近藤さんに野球見に行くぞって誘われてたんですが、無理だって断り入れといて下せェ」
「あっ、近藤さんに電話しなきゃ!」

自身の腰の上に跨がっていた沖田を支えながら、上体を起こして取り出した携帯を開く土方。薬が効いてきたのか、さっきまでよりは全然楽そうなんだけど。スポーツドリンクも、けっこう飲んだみたいだし。

「そんなの高杉に頼めはいいじゃねーですかィ」
「そういうわけにはいかねェだろ?……あ、もしもし、近藤さん?」
「お前な、俺はなんだ?お前の召し使いかよっ!」

布団の上で、土方と向かえ合わせに座った形になったままの沖田の頭を後ろから殴ってやった。

「痛ェ!テメ、何すんだ高杉コノヤロー!」
「自業自得だろーがっ!」
「お前らうるせェっ!……あぁ、悪ィな近藤さん……また誘ってくれよ」

俺と沖田が騒いでる横で土方はさっさと電話をかけ終えたようだった。

「なんなんだよお前ら?うつるからあっち行ってろって」
「高杉がァ、抱き枕になってやれって言ったんでさァ」
「だからな、お前な…」
「総悟?」

笑わせようと思っただけなんだって、説明しようとした俺の言葉は土方によって遮られた。『本当か?』っていう困惑の表情を見せた次の瞬間、土方はニヤっと笑った。

(うわっ、今の顔、沖田仕込み?)

「じゃあ、よろしく」
ぎゅうーっと沖田の腰と背中に腕を回した土方が、そのままの体勢でぱふっと後ろにひっくり返った。

「高杉、悪ィ。もうちょっと寝かせて」
「あーハイハイ」

きっと今頃、確信犯で熱のせいにした大胆な土方に抱きしめられて、声も出せないくらいテンパってんだろーなァ、沖田のヤツ。先手を取られると弱いんだ。

あいつらがあのまま起きなかったら、どうしようかなァ?やっぱり辰馬にも来てもらおうかなぁ…とか考えながら、俺はぼんやり、暗くなるまでリビングでテレビを眺めていた。


END



ひじーが熱出してテンパってるオッキーを書きたかっただけなんですが。グダグダすぎてすいません






















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