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自分自身の中の、厄介な気持ちってもんに気付いたのは、あまりにも唐突だったんでさァ。

戻れなくても もういいの


小さい頃、それこそ幼稚園に入るよりも前から通っていた近所の剣道場にひとつ年上のそいつが入って来たのは、確か小学校低学年の時。

とにかく第一印象から俺とは合わねェなって思っちまって。俺の3つ年上で、実の兄貴のように慕ってた道場主の息子である近藤さんと急速に親しくなっていったのもますます気にくわねェって感じてた。

俺が小6の時にそいつは中1で、近藤さんは中3。俺にはわからねェ中学校の話題で盛り上がってる姿を見るだけで、相当イライラが募ったもんでさァ。ただ、どうしてこんなに、ヤツのことになるとイライラしちまうのか、自分自身でもよくわからなかった。

あれは確か、俺が中2でヤツが中3。たまたま用事があって、3年生の教室がある4階に上がって行った時。教室の前の廊下で、女の子と親しげに話してるヤツを見てしまった瞬間だった。

ヤツのそんな表情は、今まで一度も見たことがなかった。それもそうだ、初めて会ったその日からボロクソにけなして突っ掛かって、喧嘩ばかりしてて。近藤さんでさえ『どうしてお前らそうなんだ?』って頭を抱えてたし、しまいにゃ、その近藤さんにまで俺は突っ掛かって、困らせて。

「あーっ、沖田君だァ」
1年の時から全国大会に出てた俺は一方的に知られてることが多くて、最初に俺に気付いて声をかけてきた女も、俺の方からは面識がなかった。

「どうしたんだ?総悟」
正直、バレンタインにいくつチョコレートを貰ったって、女の先輩に『かわいいかわいい』とチヤホヤされたってうっとーしいとしか思えなかった俺だ。この時も最初に声をかけてきた女の方は、ウゼェとしか思えなくて。

だけど、その女さえ俺に声をかけなきゃ、ヤツは俺が見たこともないような顔で笑ってて。

きれいだと。正直に思っちまったことに、自分が一番驚いたし、動揺しちまってた。そして、その次に沸き上がってきた想いに、もしも名前をつけるのなら…。これは、嫉妬以外のなにものでもないんじゃねーだろうか。

クラスメートだかなんだか知らないが、女の前ではあんな顔をして、ガキの頃から知ってるはずの俺は、そんな顔全く見たこともなくて。 理由もわからず、何年もの間ヤツを見るだけであんなにイライラしちまってたのは、もしかして俺はヤツが好きだったんじゃないかと。近藤さんを盗られたみたいな感じで思ったことはあったけど、そうじゃなくて、逆?

(有り得ねェ有り得ねェ、絶対にそんなこと有り得ねェっ)

その後どうやって教室に戻ったのかはよく覚えていない。音楽の先生に用事があって、準備室にいると言われて4階に行ったはずなのに、それすら、どうしたのかわからない。

ただ、どうにかして自分の中の気持ちを打ち消そうと必死になればなる程、逆に俺の中ではそのことが確信を持ったようにハッキリとした形になってきて。

1ヶ月以上悩みに悩んで導き出された結論は。俺は、ヤツが、土方十四郎が好きなのだと。それはもう、否定しようがないはっきりとしたものに、なっちまっていた。

***

何か仕掛けられてやいないかと警戒する俺の手で、ありきたりな音を立ててすんなりと扉は開いた。

「総悟…?」

第2理科室は1階の一番奥にあって、そこは授業でもない限りほとんど誰も近づかないような場所で。そんなところに急に放課後呼び出されて、とにかく俺は警戒しながらその教室に入ったんだ。

「待ってやしたぜィ」

俺を呼び出したのは、小学生の頃から知ってる1つ年下の沖田総悟。初対面からどうやら俺が気にくわないらしくて、喧嘩にならずに話したことなんてなかったような、そんな関係。だから今日もきっと、たいして意味もない因縁をつけられて喧嘩を吹っ掛けられるんだろうと思っていた。だから、さっさと終わらせて帰りたいと考えていた。

「土方さん」

名前を呼ばれて振り向いたその瞬間に思い切り総悟が体当たりしてきた。見事に鳩尾に肘が入った衝撃で声も出せなくて。気がつくと俺は理科室の机の上に、押し倒されていた。

「っ、なんの、つもりだっ」
鳩尾からくる痛みで呼吸が荒い俺の上に乗っかる形になった総悟が見下ろしている。

「少し黙ってなせェ」

制服の胸倉を掴まれて殴られると思って。ぐっと歯を食いしばって目を閉じた刹那、唇に感じたのは柔らかいものだった。
あまりに突然のことで、動けずにいる俺の唇を割って、総悟の舌が入り込んでくる。絡め取られて吸われて甘噛みされて。
息もできない程、状況が飲み込めていなかった俺のネクタイを緩め、シャツのボタンを総悟はひとつずつ外していった。

「やっ、やめろっ!自分が何してっか、わかってんのかっ?」
唇の端から溢れてしまった雫すら恥ずかしくて、俺は手の甲でソレを拭いながら総悟に怒鳴り付ける。

「わかってまさァ」

しゅるっとネクタイが引き抜かれたと気付いた時にはもう、頭の上でひとまとめにされた俺の手首は縛られていて輪っかの部分を実験用の蛇口に通されて俺は逃げられなくなった。

「気付いちまったんでさァ。…俺は、アンタが好きだったんだ、って」
「ハァ?」

とうとうコイツは頭でもおかしくなったんじゃないかと思った。だけど、相変わらず俺の上に跨がったままの総悟は、未だかつて見たことがないくらい、真剣な表情だった。

「何言ってんだテメェは!冗談はたいがいに…」
「冗談でこんなこと言えると思うんですかィ?」

もう一度、総悟は唇を重ねてきて、のしかかったまま俺の身体をぎゅうっと抱きしめた。そんなこと、女の子とだって、まだしたことなかったっていうのに。なんだ、なんでだ?なんでこんなことになってんだ、俺は?

「散々悩んだけど、アンタが好きだってのは、もう、どうにもなりやせん」
「馬鹿野郎っ、俺は男だっ!…ふぁっ」

首筋を舐められて口から飛び出した声に一番驚いたのは俺だったと思う。なにもかも全てが初めてのことすぎて、思考が追い付かない、言わば、パニック状態。

「わかってまさァ」
はだけさせられた上半身の上を這っていく総悟の舌の感触に、歯を食いしばって耐えるのが精一杯で。

何がなんだかわからないまま、カチャリという金属音が聞こえて、一気に引き下ろされた制服のズボンが下着と一緒に床に落ちた。

「や、やめっ!総悟、ここどこだと思って…っ!」
「第2理科室でさァ。ほとんど人は来ねェし、鍵はかけやした」

平然と答えた総悟が少し恐くなって。そりゃ、小学生の時から総悟は知ってるんだから、一緒に風呂に入ったことくらい何度もあるけれど、こうやってまじまじ身体を見られて触られて舐められて。

「土方さん、勃ってやすぜィ」
「見るなぁっ!」

恥ずかしいやら情けないやらで、俺は泣きそうな気分だった。身体をよじって逃げようにも総悟は太腿のあたりに座ってるし、両手は固定されたままだ。

キスされて、首筋や胸のあたりを舐められて。初めて与えられる刺激にゾクゾクしちまったのも、興奮しちまったのも事実だった。
相手は総悟だけれど。

「よかった」
何がよかったのか全くわからずに、俯いたまま震えていたら、いきなり総悟が、ゆるく勃ち上がっていた俺の中心を口の中に含んで。

「なにやって、っ、ァっ、ふぁあっ」
初めて尽くし。そんな場所を、他人に触られたり舐められたことなんて、もちろんなくて。

「そう、ご、やめっ、出る…っ!」
初めて舐められるあまりの気持ち良さに、俺はあっという間に絶頂を迎えてしまった。

「やっぱ苦ェや」
総悟の口許から白い液体が垂れている。もう嫌だ、死にてェ。なんで俺がこんな目に遭わなきゃならねェんだ?

顔を合わせりゃ喧嘩ばかりしていた。
だけど、俺よりずっと前から道場に通っていた総悟には才能があって、小学生の時から全国大会に出てたようなやつで。
気にくわないと感じながらも、そこを認めざるを得なかった。ただ、きっと性格が合わないとかで、俺は嫌われてるんだと思ってた。俺らのことでは、近藤さんも悩んでいたし、いくらこっちから歩み寄ろうとしても、これだけ総悟に嫌われてしまっていては、駄目なんだと思ってた。

「好きでさァ」
「ひぁっ!」

ぐいっと俺の左脚を高く持ち上げた総悟に肛口を撫でられ悲鳴のような声が出た。

「お前っ、どこ触ってっ!」
「アンタは意外と奥手だから、知らないんでしょうけどねィ、男同士でヤル時ゃ、ココ使うんでさァ」
「な、何言って…!やめろっ、ひぁっ」

総悟がこれからしようとしていることがわかって、必死で逃げようとしたけれど押さえつけられ、おまけにさっき触られた肛口に冷たいものを塗り付けられた感覚にまた悲鳴が出た。縛られて自由を奪われた両手では総悟を突き飛ばすこともできなくて。でも、総悟が今からやろうとしていることは、明らかにセックスだ。それも、男同士の。

「やめ…、総悟、っ」
「最初は痛ェかもしれねェけど、我慢して下せェ」

大量に塗りたくられた冷たいモノの感触の後に、俺の中に入ってきたのは総悟の指。

「ぃっ、痛ぅっ」
指を回すように中を掻き回されて。

「ゃめ、総悟、っ」
「ちゃんと慣らしておかねェと、後で辛いのはそっちでさァ」
「そうじゃなくてっ!」

叫んだ瞬間、総悟の指は2本に増えた。

「痛っ、なんで、なんで…っ」

恐怖とか情けなさとか、いろんなもんが混じった感情で、気がつけば俺は泣いていたらしかった。どうしてだ?どうしてこんなことになったんだ?どうして俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ?

「あんた、やっぱりキレイでさァ」

総悟の指で涙を拭われて。ずるっと指が引き抜かれて安心できたのは一瞬のこと。膝まで下着ごとズボンを降ろした総悟の中心は固く反り返って上を向いていて。さっきまで指で嬲られていた後孔に宛われ息を飲んだ。

「やめっ、総悟っ、無理…っ!」
「もう止まりやせん」
「ァァァァァっ…!」

叫んでしまった程の激痛。わけがわからなくなる。痛い痛い痛い痛い痛い、だだそれだけ。でも、総悟の荒い息遣いの合間合間に僅かに聞こえてきた声は。

「十、四郎、…ハァ、好きでさァ」
なぜだか、その言葉を聞いた時、胸が苦しくなった。ぎゅうっと締め付けられるような。

初めてちゃんと、総悟に下の名前で呼ばれたからなのかもしれない。

***

泣きながら失神してしまった土方の手首のネクタイを外してやって。きれいに後処理もして制服も整えてやった。初めて触れたヤツの肌は、思っていたよりもずっとすべすべしてて、なにもかも気持ちよくて、夢中になった。理科室なんかでヤっちまったことを、少しだけ後悔したけれど、中学生にどこでやれってんだ。

廊下側の壁にもたれ、眠ったままの土方を肩に寄り掛からせてやる。最終下校の時間になって、先生の見回りが来ても、この教室は鍵さえ掛かっていれば中までは入って来ないってのは最初から調べてあった。

ずずっと肩から腕を滑った土方の頭が太腿の上に移動して、膝枕の形になった。自分より、ちょっとだけ広い肩を抱いて頭を撫でてやっているだけで、なんだかすごく落ち着くような気がした。

ガキの頃から、側にいて当たり前の存在だった。自分の感情が手に負えず、反発ばかりしていた。だけどこれからも、離れることなんて、想像できなかった。したくなかった。ずっと側にいてェと、思ってしまっていた。

(あの女とは付き合ってなかったんですかねィ)

誰かにとられるくらいなら、なんて。本気で演歌の世界じゃないか。

見た目よりは柔らかい髪の毛の指通りが気持ち良くて、ずっと頭を撫でたままでいたら、ピクンと肩を震わせて、ようやく土方が目を覚ましたようだった。

「ん…?」
一瞬、どこにいるのかわかっていなかったようだったけれど、起き上がって俺の顔を見た瞬間、土方の目の色が変わった。

「そ、総悟!テメェ」
言葉と一緒に突き出された拳を難無く交わして。予想通りの行動だったもんでねィ。その出された腕を掴んでそのままこっちに引き寄せた。

「は、なせっ!総悟っ!」
「嫌でさァ」
俺の腕の中で、なんとか逃げようと土方は暴れたけれど。

「アンタが好きでさァ」
耳元でそう、囁いたら、土方は暴れるのをやめておとなしくなった。

「総悟、俺は男だ」
「わかってまさァ。…俺、女にゃー興味ないんでさァ」
それは事実だった。ずっと昔から、女には全く興味がなくて。ウゼェとしか思ったことがなくて。

「俺ァ、アンタが好きなんでさァ」
もう一度言って、俺は土方の唇に自分のそれを重ねた。

***

帰ってからも、その日はなんにも手につかなかった。
『アンタが好きでさァ』

総悟に言われた言葉が耳の中でこだまする。夕食の後は真っ直ぐ、部屋の明かりもつけずにベッドに潜り込んた。
ふざけんな、冗談じゃない!という思いも当然あったけれど、初めて見たあんな真剣な総悟の表情に、ドキリとしたのも、また事実だった。それに。

(キスされて嫌じゃなかったぞ、俺)

女の子同士なら、たまにふざけてやってる姿とか見るし、仲のいい子同士なんかは、手を繋いでトイレに行ったりするのはよく見るけれど。

男同士は有り得ないと思ってた。
『女にゃー興味ないんでさァ』

同性愛という、単語だけは知っていた。そういう人達がいるんだろうということもなんとなくわかる。だけど。

総悟にキスされて嫌じゃなかった俺もそうなのか?なんであんなに、総悟に好きだと言われてドキドキしたんだ俺は?

無理矢理ネクタイで縛られて、犯されたはずなのに、憎しみが浮かんでこないのはなんでなんだ?

明日、もう一度ちゃんと総悟に会って、話せばわかることなんだろうか。

***

「沖田ァ、お前食べねーの?」
「いらねー」
「じゃあ牛乳もらいー」
「好きにしなせェ」

朝からずっと、どの授業も上の空で、気付いたら昼休みになっていた。ボーっとしてる間に、誰かが親切に運んでくれた給食も、食べる気がしねェ。

窓の外を見たって、グラウンドしか見えやしねェが、それでも意味もなく眺めていた。

いきなり最後までヤっちまって、今まで以上に嫌われたかもしんねェと。帰って冷静になって考えたら、思ってしまったのだ。でも、あの時はもう、止まらなかった。周りなんか見えていなかった。もう、後戻りなんかできねェことはわかっていた。

さっきからずいぶん教室がうるせぇなァ、人がこんな気分の時くらい静かにしやがれィ!と苛々を募らせていたら、誰かが俺の机の横に立った。

「話がある。付き合えや」
よく聞いたら、うるさかった教室の黄色い声は『土方さんだー』『土方先輩よー』って喚いてた。

「取り巻き連れてですかィ?」
思うより先に、勝手に言葉を紡ぐこの口が憎らしい。まさかそっちから来てくれるなんて、思いもしなかったと、素直に嬉しいと、どうして言えないのか。

「ちょっと来い」
のろのろと立ち上がり、俺は土方の後をついてゆく。取り巻きの女達がついて来ようとしたから、思いっきり睨みつけてやったら、廊下は静かになった。

土方に連れて行かれたのは、いつも俺達が練習してる剣道場だった。部活の時以外は鍵が掛けられているその場所の扉を開けて、土方は入ってゆく。部長だから鍵も借りやすかったのだろう。

土方の後に続いて中に入った俺は、後ろ手で鍵を閉めた。誰にも邪魔なんてされたくなかった。

「話って、なんですかィ?」
昨日のことに決まっていると、わかっていながら俺はこういう言い方しかできねェ。

「………総悟」
俺から数歩離れたところに立った土方は、思い詰めたような表情だった。

「よくもあんなことしやがったなァって、殴るなら絶好の場所ですねィ」
「総悟っ!」

思いの外デケェ声で名前を呼ばれて驚いたのは俺の方だった。

「そうじゃねェ!…そうじゃなくてっ」
いきなり腕を掴まれて。そこまでまくし立てた土方は急に勢いを無くして俯いた。そして長い沈黙の後。

「俺も、……きかも、しんねェ」
俯いたまま、ほんとに小さい声で震えてる土方。蚊の鳴くような声ってやつですねィ、まさに。

「………聞こえやせん」
「お前なァっ!……っ」

がばっと顔を上げたところを捕まえて、首に腕を回し、そのまま抱き着いてキスしてやった。
ためらうように宙をフラフラ上下していた土方の腕は、しばらくしてようやく、ぐっと俺の背中に回されて。

「十四郎、好きでさァ」
「本当に、俺でいいのか?…俺は、まだよくわかんねェ…」
「十四郎」
もう一度軽く唇を重ねて。

「キスされんの、嫌ですかィ?」
「……嫌じゃ、ねーんだよ…」
(よかった…)

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っていたけど関係なかった。

「総悟、裏切ったら許さねェからなっ」
「それはこっちの台詞でさァ」

道場の床に座って、俺達は抱き合って、何度も何度もキスを貧った。飽きることなんてなかった。
2人して5時間目はサボって、ずっとキスばっかりしてて。

「ところで総悟。今度セックスするのに逆っていうのは…」
「却下でさァ。アンタ俺をイカせる自信あるんですかィ?」
「………………」

痛ェ痛ェって泣かれてしまったことに興奮しただなんてのは、この時はまだ、俺だけの秘密でさァ。


END



そら様に捧げます!大学パロの沖土、中学生当時の初Hです! 沖土は高階の中では、まずはヤっちまってから付き合うことになる…みたいなイメージだったので、どうしてもこういう話になりました!リクエストありがとうございました! 「誰かに盗られるくらいなら〜」は天城越えでした(苦笑)タイトルも。






















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