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※「何度でも」の続きです

土方の引っ越しの日が決まって、辰馬にその話をしたら、あっという間に5人集まった。

未来予想図


メンバーは、銀時に岡田と武市、陸奥とまた子。それに俺と辰馬に土方と沖田と近藤だろ?これだけいたら十分だ。むしろ人数多すぎるくらいかもしれない。小太郎が心配して、後から来れたら来るって言ってたらしいけど、全然大丈夫だ。

車好きの岡田が、大型免許も持ってるらしくて、トラックを借りて来て、土方の部屋のモノを一気に運んでしまおうってことになったから、きっとこの引っ越し、すぐ終わるぞ。ワンボックスで来てた近藤は、銀時とまた子を連れて沖田のところへ行ってる。

「っつぅか、就活しなくていいの?」

こないだ俺は、小太郎の口から、辰馬が大学院に進学するつもりだってことをようやく聞いた。4月から、やけに忙しそうにしてたのはそのせいだったんだってことも、初めて知った。その辰馬を除いても、今日この引っ越しの手伝いに、4回生が4人もいるんだけど。小太郎みたいに、『忙しいから行けたら行く』って言うのが正しいような気がする。

「私は、今のバイト先にそのまま残るんですよ」
「へー。あ、そうなんだ」

土方の洋服を全部箱に詰めて、空になった3段ボックスに紐を掛けながら武市が答えた。

「岡田は?」
「教職次第ですけど。万が一の時は私と一緒です」
「へー」

武市と岡田の2人は、一緒に塾の講師のバイトしてたから。卒業してもどっちみち2人共先生か。
俺は力仕事はしなくていいって言われてるから、スーパーでもらってきた段ボール箱にたんすの中の洋服や食器なんかを詰めていく。

「じゃあ何?あと卒論だけ?」
「いゃあ、数学科には卒論はないからねェ」

テレビを運びながらの岡田が話に入ってくる。1人で25型運んでるよ!もちろん、液晶なんかじゃない。

「法学部もないですよ」
「え?じゃー2人共、めちゃめちゃヒマじゃん?」

ガムテープで箱に蓋をしながら。武市は横で、その箱に紐をかけて行く役目。

「ヒマってことはないけどねェ」

ちょこちょこ授業が残っているから、学校には行っていると岡田は話す。理系の校舎が離れているせいか、学内で俺が岡田に会うことなんて、ほとんどない。武市も、卒論代わりの試験がたくさんあるって言ってて、意外と4回生でも学校に行ってるみたいだった。

「わしは内定もらったぜよ」
グラスを新聞紙で包む手を止めぬまま答えたのは陸奥。キッチン関係は全部陸奥に任せてる。

「早っ!!陸奥らしいなァ」
なんだかんだいってすごく優秀らしい、陸奥は。

「ついでに経済は、卒論、書いても書かんでもえいんじゃ」

単位さえ足りてりゃ大丈夫らしい。なんだ、卒論書かなきゃ卒業できないのは文学部くらいか?

「じゃけど、おんしも院の試験受けるんじゃから、書いとるじゃろ?」
空になった食器棚を土方と2人で運ぶ辰馬。あー、なんか辰馬が外でTシャツ1枚ってのも珍しいけど、まさか首にタオル巻くとは思わなかったんだよなァ。家でくつろいでる時でさえ、シャツとかキレイ系の服装してる辰馬がだぜ?なんかちょっとなぁ…。似合っちゃってるのがまた、複雑な心境。ジャージじゃなくて、ジーパンだから、まだ良しとしとこうかなぁ。

「まぁの。書いたところで受かるかどうかわからんし、内定の1つくらいあっても構わんじゃろ」
夏休みが終わったらすぐ、内部からの進学試験があるらしい。

「いや、もしも辰馬が受かるんだったら、陸奥は絶対受かると思う」
「晋、それはどういう意味じゃー!」
「言ったまんまの意味だよ」

だって、辰馬の成績も悪くはないっつぅか、むしろいい方なんだけど、陸奥には負ける。聞いた話だけど、陸奥は、ほとんどAしかないって言うんだもんな、下手したら学年首席とかじゃないのか?あっさり内定もらって、今度は進学のために論文書くって、普通の人間にできることじゃないと思う。だって辰馬なんか、就活そっちのけで毎日勉強するのに必死だっただろ。朝は俺より早く出て行って夜も遅かったし。教授と飲みに行ってたこともあったみたいだけど、それだって勉強のうちって言ったら勉強のうちだし。

「晋、じゃけどわしが落ちたら…」
「殺す」
「しんーっ!」

辰馬が進学するのは俺のためだ。まだ2年の俺のために大学に残るって。他人から見たら、動機が不純だって言われてしまうかもしれないけど、俺は嬉しくて嬉しくて、辰馬がそこまで考えてくれてたんだって。だから、辰馬が忙しい時は、俺だっていろいろ我慢して協力してんだから、受かってもらわなきゃ困るってんだ。

テレビとか冷蔵庫っていった大きいものはあらかた運び終わって、ガムテープで蓋をして紐がかけられた段ボール箱が玄関前に並んで積まれて行く。ちょっと一服、させてもらおうかな?そう思っていたら、やたらテンションが上がってる土方の姿が見えて。えらい上機嫌でトラックの上で箱を受け取りながら岡田と話してる。そりゃ、やっと引っ越しできるし、こんなに手伝いに来てもらえたんだからなぁ…ってのはあるだろうけど、それだけじゃないに決まってる。そして、たぶんそれに気付いてるのは俺だけだ。

つまり、今日のみんなの服装は、土方にとっては思い切り目の保養だったりなんかするわけ。

「休憩していい?」
「そうじゃの」
「そうですね。あっちにも言ってきます」

陸奥も武市も賛成してくれて、換気扇を回して煙草に火を点けた。灰皿はまだしまってないからあるし、陸奥も隣で缶コーヒーを開ける。

「高杉、高杉!坂本って、絶対作業服似合うと思うんだけど!」

武市が、岡田の汗を拭いてやってる姿とか、辰馬が用意してきたお茶を渡してるところなんかをぼんやり眺めていたら、土方がこっちにやってきて俺の隣で煙草に火を点ける。辰馬や岡田達も、日陰で思い思いに座って休憩を取っている。辰馬ならこっち来るかなと思ったけど、だらんと脚を伸ばして、動きたくないみたい。

「ハァ?辰馬に作業服ぅ?絶対ェ許さねェ!」
俺は見たくないって言ったら、土方は心外だって顔をして。

「なんでだよー?アイツ、いい身体してるから似合うって!…運動部でもないのになぁ」
「いい身体してるってとこだけは、認めてやるぜ」

確かに辰馬は、運動してるわけでもないし、あんなに酒飲むっていうのに、腹筋がきれいに割れてる。お尻や二の腕とかも引き締まってて、あの腕だから、抱かれてても安心するんだけどな。まぁ、辰馬のことだから、もしかしたら隠れてどこかで鍛えてるのかもしれないけど。俺が寝た後で腹筋したり…辰馬ならやりそうだもんな。

「岡田と武市もさァ」
「あー、ハイハイ!」

土方が好きなタイプと俺の好きなタイプってのは、似ているようで微妙に違う。だって俺は、岡田や武市の、普段の服装の方がよっぽどイケる。だからって、どうこうしたいとは思わないけど。

「なんだよ、いいじゃねェか、話すだけなんだからっ!」
「お前なァ、そんなことばっかり言ってたら、沖田に殺されんぞ?」
「だから今、お前に話してんだろ」

あー、ホントにもぅ、コイツわかんねェ!辰馬に作業服着せたいって嗜好もそうだけど、だったらなんで明らかにジャニ系の沖田と6年も付き合ってんのかなァ?

そりゃあ、外見ばっかにこだわってたら大事なこと見失うとか、そんなんはわかってんだけどさ。俺と辰馬は、たまたま好きなタイプがお互いにドンピシャだっただけだって、この世界でなかなかそんなことって少なくて、俺は運が良かっただけだって、そんなことわかってんだけど。

「おまんら見ちょったら、昔思い出すのぅ」
缶コーヒーを飲みながら陸奥が隣でぼやいた。昔ってどういうこと?

「坂本と岡田も、ようそんな会話しちょったわ」
「え?辰馬と岡田が?」
「なんで?」

木陰で、岡田とさりげなくくっついて休憩してる武市と俺を交互に見た土方は、多分俺と一緒のこと考えてる。俺と武市じゃ、タイプが違い過ぎるんだから、辰馬と岡田じゃ話になんないんじゃないのってこと。さっき俺が『ハイハイ』って土方の話を遮ったよりも、もっと。

「なんじゃ、おまん知らんかったんか?岡田は元々バリタチじゃき」
「えっ?」

陸奥の口から『バリタチ』なんて専門用語が出てくるのはどうかと思うんだけど。でも、高校の時から辰馬や岡田と一緒にいたらそりゃ普通に使えるくらい覚えるよな。

「でも、今は、どう考えても岡田がネコだよな?あの2人」
「俺も、そう思ってた」

俺と土方は顔を見合わせた。いや、さ。岡田と武市がどんなセックスしてるかなんて知らないし、歳も違うんだから、そんなこと聞けちゃう程仲がいいわけじゃないんだけど。

だけど、2人で話してる姿とか見たら、岡田は完全に武市に頼っちゃってる感じでさ、たぶん俺や土方が普段、辰馬や沖田に甘えてるのと一緒じゃないかって思ってるんだけど。さっきだって、岡田が頭に巻いたタオル直してあげてたのは武市だったし、お茶のペットボトルのキャップだって。

「しかもアレじゃ。昔、岡田と坂本はタイプがそっくり被っとってのぅ」

陸奥が言うには、岡田は東京に出てきてから少し性格が変わったらしい。丸くなったんだって。昔はよく、辰馬と岡田は殴り合う勢いで男の取り合いをしてたらしい…って!何その衝撃の告白!

「それじゃ、もしかして岡田って、高杉のことなんか…」
「その気になりゃーなんぼでもイケるじゃろうの」

今は武市がおるからその気にならんだけじゃろって、平然と言えちゃう陸奥がすごい。さすが辰馬が一番最初にカミングアウトの相手に選んだだけのことはある、俺らの世界、理解しすぎ。

「おまんが初めて坂本んとこの飲み会に来た時ものう」
俺が大学生の酒の飲み方についていけなくて寝ちゃってから、辰馬が『似蔵、絶対手ェ出すんじゃないぜよ』ってスゲェ顔で迫ってたって。

「高杉、それっていつの話?」
「昨年の4月。オリエンテーションの後」
「早っ!!………坂本って、本当にお前に一目惚れなんだなァ」
「やめろって、土方」

人からそんな言い方されたら恥ずかしいじゃねェか。だいたい、辰馬とは夏休みまで何にもなかったんだから。あ、最初は俺が辰馬に慣れてなくて、デカイ、ウザイ、ウルサイって嫌ってたせいもあるか。

「岡田はのぅ…。今は武市とおるとあんなんじゃけどの、昔なら有り得んぜよ」
穏やかな顔つきで、微笑みながら武市と辰馬と3人で話してる岡田をマジマジと見てしまった。あんな顔で笑ったことなんか高校まででは一度もないって陸奥が追い打ちをかける。

「でも、なんで…」
「人は変わるもんじゃき。おまんじゃって、あんなに坂本嫌っとったじゃろうが」
「そっ、それはもう、いいじゃねェかっ!」
「え?なに、お前嫌ってたの?」

でも、お前から告ったんじゃなかった?って驚いた顔でそれまで見ていた向こうの3人から俺に視線を移す土方。

「放っとけよ…」
だって、初対面であんな気にしてること連発されたらさ。

「まー、あれは坂本が悪いぜよ。嫌われても自業自得なこと言っちょったの」
そうか、陸奥は俺と辰馬の初対面の現場にいたんだった。あの時、すげー怖い人だなって思ってしまった陸奥の印象も、今は相当和らいでいる。

「さて、もう一気に終わらせてまうぜよ」
休憩は終わりだと陸奥が仕切って、土方は段ボール箱をトラックに持って行った。外にいた3人も立ち上がって動き始める。

最後は、土方から鍵を預かった俺と陸奥が残って掃除をして2人で電車に乗って土方と沖田の新しいマンションに向かった。不動産屋にこの鍵を返すのは後日らしい。

***

総悟は近藤さん達と先に新しいマンションに到着してて、荷物も運び終わっていた。総悟は実家から、着替えや勉強道具を持ってきただけだったから、相当荷物は少ない。
洋服をかけておくハンガーラックや、本棚にするのに買ってきた3段ボックスを銀時が組み立てて、総悟が家具の配置を決めて近藤さんが移動させる横で、また子ちゃんがゴミをまとめていた。この4人は、余計なことは一切話さず、淡々と作業を進めていたようだ。

「晋助センパイは?」
「陸奥と後から来る」

玄関に一番近い部屋は俺と総悟の寝室に決まったらしくて、リビングの隣の方が、勉強部屋。総悟の机なんかがもう入っていて、俺は逆のつもりだったんだけど…、まぁ、総悟がそう決めたのならいいか。

とりあえず荷物を全て部屋の中に入れて、岡田がトラックを返しに行ってくれてる間に高杉と陸奥が到着した。さっき箱に詰めて行ったのとは逆の作業。キッチン周りなんかはまた子ちゃんに任せてたけど、そこに陸奥が入ってくれてあっという間に片付いてしまう。やっぱり女の子ってどこか違うんだよな。

岡田が戻ってくる頃には、もう部屋の中は十分人が2人住める状態になっていた。あとは、すぐには使わないようなものだけしか残っていない。

「のぅ、せっかくみんな集まったんじゃ、うちで引越し祝いでもせんか?」

そう言い出したのはやっぱり坂本。6月だから、まだまだ外は明るい夕方6時。ちなみに、このマンションから坂本達のマンションまでは近い。駅を挟んで反対側になるから、歩けば20分から30分近くかかるかもしれないけれど。

「そうこなくっちゃ!働いた後の酒は美味しいよォ」

賛成の声を上げた銀時を筆頭に、誰も異論を唱える者はいなかった。手伝ってくれて、お祝いまでしてくれるなんて、ホントこいつらいいやつだよなって。口には出さなかったけど、俺も総悟も思っていた。

***

近藤の車に、2回に分かれて俺と辰馬のマンションに全員移動した。2回目の方で来た土方と沖田が、途中でスーパーに寄ってビールやアテになりそうなものを大量に買ってきて。『今日はありがとうございました』なんて2人で頭下げるもんだから笑っちまった。

「辰馬ァ、今からヅラ来てもいいよねぇ?」
「構わんぜよー」

玄関に電話しに行った銀時が笑顔で陸奥と一緒にキッチンに立っていた辰馬に声をかける。2人は、冷蔵庫にあるもので、みんなが食べるようなものを作ってくれていた。銀時の話では、小太郎もお祝いには駆け付けるって言ってるみたいだけど、アイツ飲んでて大丈夫なのか。銀時に『来て』って言われたら『嫌だ』って言えないんだろうけど。

ソファに座ってる俺の横にべったりなのはまた子。辰馬が怒り出さないかどうか、ちょっとヒヤヒヤなんだけど。窓側にいつも通り2人並んで静かに飲んでる岡田と武市、テーブルの前に、沖田を真ん中にして3人で話してる土方と近藤。もちろん、土方だけは烏龍茶。

「センパイ、ここに桂さん来たら、異様な雰囲気になるッスね」
「なんで?」
「男ばっかり4カップル、そうそう見れるもんじゃないッスよ」
「それもそーだな」

こないだまた子と描いたビバヒル状態の相関図を思い出す。あれだけぐちゃぐちゃなのに、こうやってみんな上手くいってるって不思議だよな。

「センパイ、坂本と陸奥さんって、なんもないんスか?」
「えっ?俺は知らないけど………」
また子に言われてキッチンの2人を見たけど、確かにいいコンビに見えなくもない。

辰馬は女でもいいんだし、陸奥に恋人がいるって話は聞いたことがないし、ましてや高校から一緒で、受かったら大学院まで一緒。

「センパイ、今陸奥さんに嫉妬したッスね」
「何言ってんだテメェは!」
俺は缶ビールを思い切りぐいっと煽った。

「センパイはわかりやすいッスよ」
「何言ってんだテメェ」
「だってセンパイは、めちゃくちゃ顔に出るッス」

口数は少ないけどって。何年も俺を見てるまた子がそう言うんならきっと本当にそうなんだろうけど、それってまた子だけが気付いてることなのかどうかが心配になっちまった。

「できたぜよぉ」
辰馬が運んできたのはサラダとじゃがバタと青椒肉絲。さっき土方達が買ってきてくれたフライドポテトや鶏のから揚げと一緒にテーブルに並べられる。

「はい、センパイあーん」
「あ?」

また子に呼ばれて何気なくそっちを向いたら、口の中に辰馬手作りの青椒肉絲が入ってきた。

「し、晋ーっ!何やっとるんじゃあっ!」
ついついまた子に食べさせられてしまった俺を見て、テーブルの前で辰馬が立ったまま固まっていた。

「邪魔じゃ!…えいじゃろ、あれくらい」
辰馬に蹴りを入れながら自分のビールを持ってきた陸奥がダイニングの椅子に座る。

「良くない!良くないぜよっ!」
言いながら箸を持った辰馬がまた子と同じように俺の口の前に青椒肉絲を持ってくる。これは、いくら恥ずかしくても食べなきゃ辰馬が治まらないだろう。

「なんか晋ちゃん餌付けされてるみたーい」
「うっせ、銀時」
「餌付けしてるッスよ!」

笑ったまた子が詰めて、3人掛けのソファに俺を真ん中にして辰馬も座る。なんだよ、ここだけどーなってんだよ、まったく。
小皿に盛りつけた分を全部食べてさせなきゃ気が済まないのか辰馬は尚も俺の口の前に青椒肉絲を持ってきて。

「わしから2口食べたからの、晋の餌付けはわしの勝ちじゃき、また子ちゃん」
何をくだらねェことを張り合ってんだ?と言いたくてとりあえず口の中の青椒肉絲をビールで飲み込んで。

「何言ってるッスか、ねェ、センパイ」
その通りだとまた子に同意しようと思って左を向いた瞬間、唇に柔らかい感触があった。

一瞬にして、それぞれが勝手にしゃべっていてうるさかったリビングが静まり返る。目の前にあるのは、また子の顔。

「ごちそうさまッス。今日のバイト代」
してやったり、って顔でニヤリと笑ったまた子はたぶん俺を通り越して辰馬を見ていたけど、反応できなかった。いや、また子とキスしたのは2回目だけど。

「何やっちょるんじゃあーっ!!」
沈黙を破ったのは辰馬の叫び声。同時に、動けずにいた俺は、身体ごと抱き抱えられて辰馬の膝の上に座らされていた。もちろん、後ろからぎゅうっと抱かれたまんま。

「いくらまたちゃんでも、今のは許さんぜよ!」
「でも、晋助センパイは嫌がってないッスもん」
「駄目じゃ!駄目じゃ駄目じゃ駄目じゃ駄目じゃーっ!晋はわしのっ!」
「そこまで誰も否定してないッス。でも、センパイが女もイケるよーになったらアタシと付き合うんスよ」

硬直したまんま動けなかった俺の言い分なんてそっちのけかよ、2人共。

「なんで晋ちゃんばっかモテんのかなァ」
「あれはモテてるんじゃないでさァ。遊ばれてんですぜィ」
「ま、それもそっか」

銀時と沖田が勝手なこと言ってるのは聞こえたけど、突っ込める状況じゃない俺。

戯れのフレンチキスくらいいいじゃねェか、また子なんだし、って辰馬には言ってやりたいんだけど、そんなこと言ったら辰馬は泣きそうだし。また子はまた子で、本気で辰馬と張り合うつもりなんかないに決まってる。

「あれくらいで怒るなって、辰馬」
なんとか2人を収めなきゃって思って言った俺の言葉は逆効果だったらしい。

「あれくらいとはなんじゃ、あれくらいとは!」
「そうッスよ!そんな軽いつもりでしたんじゃないッス」
「じゃあどういうつもりなんじゃーっ!」
「あたしだってずーっと前からセンパイが好きなんスよ!」

カンベンしてよ、ちょっと。誰か助けてよって思ったけど、岡田と武市の2人や、陸奥なんかはここぞとばかりに知らん顔だ。
視界の端で、沖田が土方に何か言ってるのが見えた。『俺が?』とか言ってるのが聞こえた後に土方が立ち上がって。

「高杉」
ソファの後ろから回った土方が、辰馬に抱かれたままだった俺の顎を掴んで唇を重ねてきた。また静まり返るリビングの中。

「んっ、ァ…」
なんだよコレ。なんで人前で立て続けにキスしなきゃなんねーんだよ俺。今日は厄日か?しかも土方、舌入れんじゃねェっ!

「もーわかったッスよ、今更そんなん見せなくても」
また子の声が聞こえて土方の唇が離れた。力が抜けそうになったけど、辰馬が俺を抱き抱えたままだったから、体勢を崩さずに済んで。

「センパイが女に興味ないことくらい、お前ら全員の誰より最初から知ってるッス」
言いながらまた子はソファを降りて沖田の隣に行ってしまった。こそこそと小さい声で、何言ってんだろうとは思ったけど、それより、辰馬が怒ってないかどうかの方が大変だし心配だった。

「土方君、貸しとくぜよ」
晋の唇は高いぜよーって意外なことに辰馬は笑ってた。

「それは総悟にツケといてくれよ」
土方も笑って応えながら、近藤の隣に戻って行く。

あ、そうか。辰馬の思考では、この中で一番土方が安全パイなわけね。女のまた子よりも。だって俺と土方じゃ、どう頑張っても舐めっこくらいしかできねェもんな。
俺も土方もバリウケのネコだから。それがわかってて土方に行かせて丸く収めた沖田っていうのがまた。
やっぱりSの心理はドSが一番良くわかるものらしい。きっと沖田は、たとえ俺と土方がイチャついてても浮気とは認定しないんだろうな。…辰馬は、暴れそうだけど。

「辰馬、ちょっと、降ろして」
「イーヤーじゃ」
「なっ、お前なァっ!!」

ますます俺をぎゅうっと抱きしめる力を強くした辰馬。みんなの前で何やってんだっつぅの!後から2人でいくらでもこんなのできるだろーがっ!

バタバタ暴れようにも辰馬の力には敵わない。
「とりあえず離してやれよォ、坂本」
みんないるんだからって助け船を出してくれたのは近藤だった。目のやり場に困るだろーがってノンケらしい意見ありがとうございますっ!

「でもさー、晋ちゃんは喜んでんだよ?辰馬に束縛されんの好きなんだから」
「何言ってやがんだ銀時っ!」

3人座った時に、下に除けてあったクッションを掴んで俺は銀時に投げつけた。変な体勢から投げたから、呆気なくキャッチされちまうけど。

「もー、辰馬。怒んなって」
俺にはお前だけだからって辰馬の耳元で囁くように言って。他の人にそんなの聞かれたら恥ずかしいじゃねェか。それでようやく、辰馬は俺を膝の上から降ろしてくれた。

「坂本さん、私達はお先に失礼させていただきますよ」
電気を遮ったデカイ陰がふたつ、と思ったら、岡田と武市だった。

「なんじゃあ?今日はえらい早いのぅ、武市」
「あなた達がくっつき過ぎだからです」
岡田を促してさっさと玄関に向かってしまう武市を、辰馬と俺で追い掛けた。

「なんじゃ、おんしら早よ帰ってヤリたいがかァ?」
「坂本っ!!」
無遠慮なことを平然と言った辰馬は岡田に殴られた。それは自業自得だろ、お前。

「今日はありがとうございました」
沖田と土方の2人も玄関に出てきて頭を下げる。そうだよな、今日の引越しがあんなに早く終わったのは岡田の大型免許によるところが大きい。

岡田のマンションは隣の駅の商店街の先で、うちから歩けないことはないから、2人は酔い醒ましも兼ねて歩いて帰るみたいだった。それじゃあと、帰って行った2人が、自分達も一緒に暮らそうかなんて話していたって聞いたのは、もっとずっと、後の話。

***

日付が変わる時間になって、俺と総悟は坂本と高杉のマンションを後にした。近藤さんがソファにひっくり返って寝てて、あとのやつらはまだまだ全然元気に飲み続けてる。明日月曜日だってのに。

近いとは言え、やっぱり駅を挟んで反対側の俺達のマンションは、歩けば20分くらいはかかっちまうみたいだ。だけど、もう電車も残り少ないこの時間の住宅街。スーパーだって閉まってて人はまばらで。俺は歩道の縁石の上を歩く総悟の手をそっと握ってみた。15センチから20センチ高いところを歩いているせいで、総悟の顔が自分より上にあるってのがなんか新鮮で。

「何してんでィ」
「いいじゃねーか。誰もいねーんだし」

嫌がるような口をききながらも、総悟は手を振りほどいたりはしなかった。
結局そのまま、新しい俺達2人の部屋に着くまで手を繋いだまま歩いていって。真っ暗な部屋の電気のスイッチの場所がわからなくて2人で手探りで探した時までずっと繋いでた。

「なんでィ、廊下のこれでさァ」
「あ、ホントだ」

明るくなったリビングの端には、まだ片付いてない箱が少し。これの中身だけは、置いといてくれって頼んだんだ、恥ずかしいから。後で本棚の奥に隠すつもり。だけどあとは、買ってあったカーペットも敷いてもらえてるしテレビも見れるし、ガスも繋げたし、今日引越して来たなんて思えないくらいキレイなもんだ。

「何突っ立ってんでさァ」
テーブルの前に、座布団を敷いて座った総悟が俺を呼んだ。きっとこの、座る位置なんかも、いつの間にか決まって落ち着いていくんだろう。

「総悟」
「なんですかィ?」

座布団の上に正座した俺を不思議そうな目で見つめた総悟は、自分も身体ごとこっちを向いてくれた。

「改めて、今日からよろしくお願いします」
頭を下げた俺に、総悟は返事の代わりに優しいキスをくれた。

今日からここで、俺達の新しい生活が始まる。今日からはずっと一緒だ。喧嘩しながらでも一緒に住んでる高杉と坂本が、『うらやましいな』なんて思うこともないんだ。

早速寝室に布団を敷いて、1枚の布団で、俺達にしては珍しく抱き合ってくっついて。しばらくしたら、大きめの布団でも買って来ようと思ってたけど、総悟は細いから必要ないかもしれない。

「十四郎」
「ん…?」

こうやって、Hもなにもしないのにくっついて寝る時だけは、俺と総悟は逆で、俺の方が腕枕する側だったりする。なぜって、それはただ単に、俺の方がデカイからだ。だけど、総悟はあんまり、この体勢は好きではないらしくて、普段は手だけ繋いでいることの方が断然多いんだけど。でも今日の総悟は、おとなしく俺の腕の中に収まっていて。だから、総悟の声は俺の胸のあたりから小さく聞こえてきた。

「好きでさァ」
「総悟…」

付き合い始めてから、もう何年にもなるっていうのに、こうやって側にいられるってのは、総悟だからなんだろうなと考えて。

「俺だって、愛してんだよ、バーカ」
「馬鹿とはなんでィ、馬鹿とはっ!」

ぷいと拗ねて後ろを向いてしまった総悟を抱く腕の力と同時に、このままずーっと、いつまでも一緒にいたいという思いを強くしながら俺は眠りの中に落ちていった。

***

また子と陸奥は俺の部屋の布団。小太郎と銀時は、リビングに布団を敷いて、近藤は沖田や土方達が帰る前からソファにひっくり返って眠ってる。

そして、俺と辰馬はいつも通りベッドにいた。

「幸せそうで良かったのぅ、あの2人」
俯せになって、携帯を触っていた俺の上から降ってくる座っている辰馬の声。

「沖田からノロケメールが来るのと、喧嘩したって愚痴メールが来るの、どっちが早いかなって感じだけどなァ」
「ほんに、晋は仲ええのぅ」

自分にはそんなメールは来たことがないって辰馬。だってお前は、なんだかんだ言っても俺や土方の2つ年上なんだからさ。俺が、岡田や武市と、いくら仲がいいって言っても今日の辰馬みたいな軽口叩けないのと、多分一緒。

「晋、したいって言うたら、怒るかの…?」
「はァ?…無理言うな!あっちにみんないるんだぜ」
俺の部屋なら離れてるけど、今はリビングに3人いるっつぅの。近藤は絶対起きないだろうけど。

「それもそうじゃのー」
あっさりあきらめた辰馬は俺の背中の上に身体を重ねて乗ってきた。

「重てェ」
「今だけじゃ」

本当はこの辰馬の重みでさえ心地いいんだけど。ウェブで最新ニュースを見ていただけの携帯は取り上げられて指を絡めて手を繋がれて。

「晋、好きじゃ。愛しとる」
「どーしたんだよ、お前?」

好きだなんて。聞き飽きてもおかしくないくらいは毎日言われてるんだけど。

「いんや。晋と一緒に住めて良かったーと思うてのぅ」
「お前が呼んでくれたからだろ」

そう言えば、一緒に暮らし始めてちょうど1年じゃねェか、俺達。夏休みのお盆までは、ただのルームシェアだったけど。

「辰馬」
「んー?」

俺の背中から降りて、横に回った辰馬に抱きしめられた。

「愛してんぜ」
「しん……」

今頃は沖田と土方も、こうやって1つの布団で抱き合ってるのかなぁって思ったら、自然と頬が緩んでしまった。

今日からの新しい生活、幸せにな。


END



ついに沖土まで同棲を始めてしまいましたよ!(次は武似?)高階の頭は腐っているようです(苦笑)難産すぎてスランプにまで陥ったドリカムシリーズ(最後2つはタイトルだけですが…)はこれにて終わりでゴザイマス!


※液晶じゃないTVなんていまどき珍しくなっちゃったね…w






















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