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総悟が受験で忙しくなって、会えなくなってから1ヶ月以上。最後に会ったのは、初詣。

迷子の子猫


1人暮らしの俺のマンションに、これだけ長いこと総悟が来なかったことなんて、今まで1度もなかった。ここに総悟が来てないだけじゃなくて、本当に、ずっと会えていない。
会えていないのだから当たり前なのだけれど、もちろん、セックスだってできない。
お蔭さまでウチにはエロDVDが増える一方だ。

しかも、SMモノばかり。
男×男にしか興味はないから、ゲイショップでそこそこイケるタイプの顔をジャケットで探して、尚且つSMってなると、かなり限られるんだよなァ。
何度も見てしまったモノは、もう展開がわかっている以上、全然ヌけない。それに。

自分でヤル時でさえ、ある程度痛みがないとスッキリした気にならない俺の身体。
ああー、まったくもう、総悟のヤツ、責任取れってんだ!こんな身体になったのは総悟のせいなんだからなっ!
受験が終わったら、アイツが疲れて根を上げるまで責めてもらわなきゃ、気が済まない。

「っ、…くっ」
テレビ画面の中で、縛られて吊された男優が、バラ鞭でバシバシ叩かれて、真っ赤に腫れ上がった肌の上に蝋燭を垂らされている。

『あっつい、あっつい、あっついっ!』

って、涙混じりの悲鳴。身体をいくらよじっても、縛られて吊されてちゃ逃げられない。そして、それだけ泣き叫んでいるのに、モザイクごしのアソコはガン勃ちだ。

ワンルームの都合上、あんまり、ボリュームを上げることはできないけど。ああ、俺もあれくらい叫びたい。ワケわかんなくなるくらい、ぐちゃぐちゃに責められたい。
ただし、総悟じゃなきゃイヤだ。

「んっ、ふっ…」

総悟が気に入ってた上級者用のバイブをケツの穴に突っ込んで、乳首に洗濯ばさみをつけて。画面の中の男優と自分を重ね合わせるように頭の中で妄想しながら中心を扱く。

だけど、バイブのスイッチを、限界まで上げたって、こんなもんじゃ全然足りやしない。先がギザギザになってる洗濯ばさみだけど、こんなモンの痛みにはもう慣れちまった。いつだったか、クリップの先に、紐で未開封の缶コーヒーを括りつけて乳首にぶら下げられたことはあるけど。あの時はマジで、引き千切れるんじゃねェかってくらい痛くて痛くて、死にそうなくらい、気持ち良くて。総悟はよくこんなこと思い付くなァ、なんて。今それをしないのは、総悟に絶対禁止、されているからだ、1人の時にソレをやることを。

(総悟、総悟…っ)

あの綺麗な顔で、蔑んだように俺を見下して。

『この淫乱、変態』
『本当に、お前はどうしようもないでさァ』
『イきてェんだったら勝手にイきなせェ』
『今度この淫乱乳首に、針でも刺しますかィ?』
(そんなこと、…されたいっ!)

あの声じゃなきゃ駄目だ。俺の、意識が無くなる寸前まで痛めつけられて、我慢を強いられて。でも、ちゃんと俺の限界をわかってくれてる総悟だから、いくら泣いたって叫んだって、そう簡単には許してはくれないんだ。
俺が本気で、限界までちゃんと頑張って耐えることができたら、総悟は必ず俺を救ってくれる。身体の芯、奥の奥まで痺れるような物凄い快感が、全身を突き抜けて、目の前で何かが弾けて真っ白になる。それはもう、この空間に、俺と総悟の存在しか感じない特別な世界。

「総悟…っ、そう、ご…っ」

なんとかして、あの感覚を必死で思い出しながら、俺は自身を扱いて扱いてでもそんなんじゃ全然足りなくて、先っぽに爪を立ててぐりぐり抉って。洗濯ばさみの上から乳首を締め付けてローターを当てて嬲って、ようやく。

先っぽから白い濁液がどろりと溢れ出た。あーあ、はしたねェ身体。

総悟の責めに耐えられなくて、失神しちまった俺が、意識を取り戻すと、いつも全身の戒めは解かれていて。総悟は俺の頭を膝の上に乗せてそっと汗を拭いてくれてたり、顔を撫でてくれてたり。全身ぐったりで動けない俺を甘やかしてくれて、丁寧に介抱してくれる。

『十四郎、ごめんな』

きっとまた、俺が飛んじゃったせいで総悟は満足にイケてないってのに、そんなことは微塵も態度には出さないんだ。

総悟は優しいから、そんな時は絶対に俺を責めたり追い詰めたりはしなくて。逆に優しく、普段ならプライドの高い総悟が絶対言わないような愛の言葉を俺にくれるんだ。
スイッチを止めてバイブを抜いて洗濯ばさみを外して。なんだか重く怠い身体を床の上に投げ出す。ロフトまで上がる気力なんてないし、メニュー画面に戻ったDVDを消すのも面倒臭い。

(高杉はいいよなァ…)

ぼんやりと頭に浮かんだのは、9月に総悟を通して知り合った友達の高杉のこと。しょっちゅう彼氏の浮気で泣かされてるけど、それでも一緒に住んでんだもんなァ。
総悟が、俺と同じ大学を受験するって言い出して、真っ先に思ったのは『一緒に住みたい』ってことだった。

思えば、高校の時からずっと住んでるこの部屋は、大学に通うにはちょっと遠くて乗り換えも不便だ。それでも引っ越さなかったのは、卒業した高校に近いからで、総悟が週に2回くらいはここに来るからで。

総悟も大学生になった暁には、この部屋にこだわる必要は、もうない。
高い天井を、ぼんやりと見つめていたら、テーブルの上の携帯が鳴った。

総悟だった。

『ヤリたくてヤリたくてたまんねェよ!もう、今日はイライラするから寝てやりまさァ。おやすみ』

どこまで本当なのかはわからないけれど。そう言ってくれるだけで嬉しいだなんて、俺って相当イカれてる。

『俺も、もう少ししたら寝るから、おやすみ』
短くそう、返信したら、またすぐに携帯はメールを受信して。

『オナニーはしてもいいけど、浮気すんじゃねーぞ、十四郎!』
俺だって我慢してるんでさァ、なんて。膨れっ面の総悟の顔が思い浮かんでしまった。

『ハイハイ。浮気なんかしねーよ、総悟じゃなきゃ無理。イケねぇ』
イケないことはないのだけれど、なんだかスッキリしないんだから、イってないのと一緒だと思う。だってほら、今だって出したばっかりだってのに、俺のためのメールを打ってくれてる総悟のことを想像したら…、ああ、勃ってきちまった。なんて身体なんだ。

受験勉強で忙しいはずなのに、こうやって、1日に1回は電話かメールをくれるのって。俺って愛されてるなぁ…なんて実感。

昨年の俺は、切羽詰まってたから、それどころじゃなかった気がする。当然、とっくに総悟とは付き合ってたんだけど、メール…してたかなぁ?それすら危うい、昨年の記憶。

俺が総悟の浮気を許せたのも、ちゃんと愛されてるって自信があったからだ。高杉と知り合ったのは総悟を介してってのは、とどのつまり高杉は総悟の浮気相手だったわけ。

本当は許せなかったし、辛かったし。
『今からセフレ連れて行きまさァ。しばらく面倒みてやりなせェ』

そんな電話1本で浮気相手をうちに連れて来た総悟に対してブチ切れた部分もあったんだけど。
だけど、どっからどう見ても『強姦されました』って痣だらけ傷だらけで、マトモに歩けもしないようなヤツに当たることができなくて。
結局、いつも通りに喧嘩を始めた俺達を、そのボロボロの身体で泣きながら必死に止めに入ったような。高杉は本当にイイ奴だった。…寝起きだけは、ちょっと勘弁してほしいけど。

話を聞いたら、学校でも家でも自分はゲイだってことはひた隠しにしてて。唯一心を許してた元彼とも3月に別れて、それからずっと、話せるやつはネットで知り合った総悟しかいなかったらしい、高杉には。

『沖田の彼氏には、ホント悪いって、わかってたんだけど…』

ごめん、ごめん、ごめんなさい、ごめんって、何回も何回も泣きながら謝られたら、それ以上怒れなかった。だって、俺がその状況でも、同じことしたんじゃないかって、総悟に頼ってしまったんじゃないかって、思えたから。それに、そんなヤツを見捨てることが出来なくて、一晩、たった1回ヤルだけのつもりだったのが、ズルズル会っちゃってた…って。なんだかそれは総悟の優しさだと思ったから。

逆に、そんな高杉にようやくできた新しい彼氏ってのが、こんなボロボロの状態の高杉を放っぽって、何やってんだ?って。怒りの矛先がそっちに向いたくらいだった。高杉に聞いたら、ウチに来て2日も3日たつのに、連絡ねェって言うし。高杉が家出してきた理由を聞いて、ついつい『もうお前、帰らなくていい!ずっとウチにいろよ!』なんて叫んでしまったくらい。

そろそろ上に上がって寝るか、…って思ってたら、また携帯が鳴った。今度はメールじゃなくて着信。噂をすればなんとやら…じゃないけど、高杉だった。

「おぅ、どーしたぁ?」
『ひじっ、かたぁーっ』

第一声からいきなりもう泣いている。こんな時はもう、内容はわかりきっている。

「また彼氏に浮気の疑いアリか?」
『だって、だって、辰馬今日っ』

ちなみに『辰馬』ってのは、浮気ばっかりで困った野郎の高杉の彼氏の坂本辰馬。どうしても我慢できねェんなら、バレねェようにやれって、俺からも散々言ってるってのに。

『今日、陸奥と出かけるって言ってたのにっ、っく、今、陸奥から電話あってっ』
「待て待て、陸奥って誰だぁ?」
まぁ、坂本の友達かなんかなんだろうけど。高杉とも共通の。

『陸奥ってのはっ、辰馬のっ、高校の時からの同級生で、女の人なんだけどっ』

坂本って、確か女もイケるはずだよなァ、なんて思いながら俺は高杉の話を聞いてやる。バイセクシャルは性の探求者だって、言ったのはどこの誰だったか忘れたけど、俺が知る限り坂本は全くその通り、見本みたいなモンだからな。

『陸奥がっ、辰馬にっ、連絡取れないってぇ。今日、一緒にっ、出かっ、けるっ、約束なんかっ、っく、してないって』

絶対またどっかで浮気してるーって言いながら高杉は電話の向こうでしゃくり上げる程わんわん泣いている。

つまりだ。陸奥って人と出かけることにして誰かに坂本は会いに行った。だけど、その陸奥本人から高杉に電話があって、見事にアリバイは崩れたってわけだ。

わざわざ嘘ついてまで出かけるくらいなんだから、また浮気なんだろうって、高杉が考えるのも無理はない。なんたって坂本には前科がありすぎだ。俺と知り合って、僅か半年で、俺が知ってるだけで…何回あった?

『きっ、っと、辰馬、俺とっ、陸奥、がっ、電話、番号っ、交換して、るって、知らなくてっ、だからっ』

その話が本当ならば、陸奥から高杉に連絡が入って、一番驚いているのは坂本自身かもしれない。後で陸奥に一言告げさえすれば、崩れるはずのないアリバイだったんだろう。

『なんでっ、なんでっ、…俺じゃっ、駄目なのっ?』

そんなに泣くなら別れちまえよ、って言えたらどんなに楽なんだろうって毎回思う。だけど、高杉は。俺の総悟に対する気持ち以上に、どうしようもないくらい坂本に惚れちまってる。坂本のことが、好きで好きでどうにもならないんだってことを、俺は知って、しまっている。そして、坂本自身もそんな高杉の気持ちはわかってるはずで。いくら浮気してもこの子は自分から逃げないって、確信犯でやってるんなら最低だけど、そこまで坂本が頭を回してるようにも見えないんだよな。

「お前は悪くねェって。坂本だって、お前と別れるつもりなんか全然ねェんだからよォ」

こんなことしか言ってやれないんだよな、結局。高杉じゃあ駄目だとか、高杉が悪いことなんてないと思うんだけど。坂本の浮気癖はもはや病気だ。いや、きっと坂本にとってはライフワークなんだ。

『だけどっ、俺っ、俺っ、自信っ、ない、しっ、辰馬、はっ、モテるっ、しっ…』
「高杉ィ、とりあえず明日、バイトの時に聞いてやるからさァ」

総悟と一緒に住みたいなぁって思った俺は、春休みの暇な時間を使ってバイトを増やした。春休み限定で、昼間にそこそこ入れるバイト…って探してたら、都合良く大学の情報処理室で、大学のホームページのデータ入力のバイトがあった。情報処理の授業さえ履修してる学生なら誰でもOKで早い者順ってなわけで、俺は頑固に赤い髪のまま、特にバイトもしてなかった高杉を誘ったんだ。

『ぅっ、ぅっ、…土方、ごめ…っ、ごめん、…っ』
「俺には謝らなくていいっつーの」

つい最近まで、もっぱら高杉の相談相手だった幼なじみの桂が、就職活動で忙しくなったとかで、高杉の電話の相手はほとんど俺になってきている。総悟はもちろん受験だし。

『だけっ、どっ、っく、ごめっ、ごめっ、ごめんっ、ひ、じかたっ、ごめんっ』

自分が辛くて辛くてどうしようもなくて泣いてしまって。我慢できなかったから俺に電話してきたことなんて火を見るより明らかだってのに。そんな時にまで俺に気を遣うなって言ってやりたいけど、これが高杉の性分なんだよな。ホント、コイツ馬鹿がつくくらいイイ奴すぎ。

「お前、そんなに泣いたら明日、目ェ腫れるぞ?」
『ぅ、んっ、冷やっ、して、寝るっ』
「おー。じゃあ、また明日なァ」
『うんっ、おや、すみっ』

高杉の方から通話は切れた。

(まったく…。何やってんだ坂本のヤツ)

坂本に電話してやろうかと思ったけど、やめた。だって、まだ浮気確定ってわけでもないんだし。限りなく黒に近い灰色だ…とは思うけれど。

あいつらに比べたら、受験っていう、どうにもならない理由がちゃんとあって、しかも昨年は俺の方が総悟に我慢させてたわけであって。1ヶ月以上ヤってないから辛い…なんて俺の悩み、たいしたことないのかもしれない。総悟からはちゃんと連絡があるし『浮気するな』なんて言われちゃうくらいは、会えなくても大事にされてるわけだし。

一緒に住んでて浮気されるのと、全然会えないけど大事に想われてるのが伝わるの。
どっちがいいのか、俺にはわからなくなりそうだ。

今度こそロフトベッドに上がって、俺は寝ることにする。
とりあえず明日、高杉の話聞いてやらなくちゃな。


END




土方君のオナニーが書きたかっただけなんだけどなァ(最低)ドMは大変ょ。タイトルは、子猫とネコをひっかけてマス。「お節介の効能」に続きました。






















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