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◎注意(必ず読んで下さい)

この話は、他の話とは大きく内容が変わったものになっています。
正確にいうと、『STD』を取り扱った話になっています。

銀魂原作4巻で陸奥が坂本に「また病気うつされるろー」なんて言ってますが、あんな笑えるものではありません。

もちろん、「なぜそんなものを書くのか」、「なぜそこまで書くのか」という、批判もあると思います。たかだか一個人の同人サイトに載せてるだけの話でここまで踏み込んで、批判がない方がおかしいとも思います。

ただし、私がこの話を書いた理由は決して、いたずらに対象の方々や、関係者の方々を傷つけたかったからではありません。
面白おかしくネタにして笑うためでもありません。
いい加減な気持ちで取り扱ったつもりも全くないし、私自身には偏見もありません。
そこだけははっきりと明記させていただきます。

私自身、いえ、『リアリティにこだわりたい』なんて発言をしていた私でさえ、以前は『どこか他人事』と思ってしまっていたことが、そっちが現実だったからです。

正直、何もできない自分がもどかしかった。自分には何ができるのか、考えて悩んでももわからなかったし、今も答は見つかっていません。

ただ、私が今、これを書くことによって、たった1人でもいい、関心を持ってくれた方がいらっしゃったとしたら、私はそれで十分です。

とにかく、最後の方まではひたすら重たい内容になっておりますので、それを踏まえて納得していただけた方のみ、次へお進み下さい。

そして、次へ進んで下さる方は、できることなら、一番最後のあとがきまで読んで下さい。










LIVING TOGETHER


『桂、聞いてくれェ〜っ!!』
猛暑猛暑って、なんだか最近、毎年聞いているような気がするのはやっぱり地球温暖化の影響なんだろうか。辰馬からヅラのところに電話がかかってきたのは夏休みが始まったばかりの8月頭。
で、ホントにもぅ、暑くて暑くて堪んねェって、2人でヅラの部屋でエアコン全開にパンツ一丁で引きこもってた午後の4時。ピークが過ぎたとは言っても、都会のヒートアイランド現象じゃ夕方になったところで暑くてたまんないのは変わらない。今夜も絶対熱帯夜。

自分達が出掛けて行くのは絶対に嫌って暑さだったから、ヅラは話があるって辰馬を部屋に呼んだんだ。仕方なくTシャツだけは着てさ。
30分もしないうちに辰馬はヅラのマンションにやってきて。ちゃんとキンキンに冷えたビール持ってきたあたりはさすが辰馬って思ったんだけどね。

「晋ともう、3日もしとらんのじゃあー」
テーブルに突っ伏してぐしゃぐしゃの顔で泣いてる辰馬。ただ単に『ヤってない』んじゃなくて、高杉に『初めて拒まれた』ってのが、辰馬をここまで泣かせてる原因らしい。

「お前、また浮気でもしたんじゃないのか?」
それに感づいているんじゃないかって言ったのはヅラ。銀さんも、同じこと考えちゃった。

「断じてしてないぜよ!怪しまれるようなことも!」

だいたい4日前のカラオケの後、ホテルにお泊りしてから昨夜まで、どこにも出掛けてなくて、ほとんどずっと一緒にいたんだからどうしようもないって言うのが辰馬の話。あ、お前らあの打ち上げの後は泊まったのね。

「ただ単に体調悪いとかじゃねェの?」
この暑さにやられて、もうこれ以上汗なんかかきたくないとか。銀さんとヅラが今日はしてないのって、まさに理由はそれだからね。

「じゃあなんで、暫くできんとか言うんじゃあ?」
「そんなん言われたの?お前」

ついに晋ちゃんに愛想尽かされたんじゃね?なんて、軽口をきいてやりたかったけど、辰馬は本気でビービー泣いていたから、なんだか言いにくかった。

「晋助、生理か?」
「おいおいヅラァ」
「冗談だ」

確かに銀さんも、高杉におんなじこと言ったことあるんだけどさ。一応アイツはアレでも男だっつーの。生理なんてないっつーの。っつかお前、辰馬がこれだけ本気で泣いてんのに、よく冗談言えたよな。やっぱそれって、辰馬に友情以外のものは感じてないヅラと、銀さんの差だったりするのかな。それとも笑わせようとしてわざと言ってハズしちゃった?

「そんで、晋ちゃんは今、どーしてんの?」
「朝から出掛けて行ったぜよ」

行き先も告げずに黙って出て行ったんだって。電話をしても出ないって、そっちの方が重要なんじゃねーの、辰馬。

「おっ、晋じゃ!」
携帯が鳴って、鳴り分けのおかげですぐに相手がわかったらしい辰馬は、語尾にハートでもついてそうな声で携帯を開いた。メールだったらしい。

なんの心配もいらねーんじゃねーかって、ヅラと顔を見合わせたのは一瞬。

「やっぱりわし、晋に嫌われたんじゃあーっ!!」
またテーブルに突っ伏して泣き出した辰馬の手からヅラが携帯を奪い取って。

「どれ。『悪ィ、今日帰らねーから』か。坂本、やっぱりお前、晋助に何かしたんじゃないのか?」

何も言わずに出て行って、今度は理由も告げずに『今日は帰らない』だなんて。確かに、高杉らしくない。
辰馬は高杉を束縛しまくってんだけど、だからと言って高杉が『それが嫌だ』とか『重たいんだ』なんて言ってるのは聞いたこともなかったし。
ってかむしろ、束縛されて心配されてっての、喜んでるようなフシさえあるんだけど、高杉には。あの子Mだからね。

「辰馬、お前ホントに心当たりねーの?」
ズルズルとティッシュ1箱分、ごみ箱が山になるまで鼻水をかんだ辰馬が首を横に振った。

「ないからこうやって相談に来とるんじゃあ」
俺もヅラも、顔を見合わせたまま溜息をつくしかできなかった。

***

たまたま先月、辰馬と一緒に買い物に出た時、ショッピングモールの前に献血車が来てた。急いでるわけでもないからしていこうかって、言い出したのは辰馬。そして、忘れた頃に葉書が届いたのは2日前。何も考えずにそれを開いた瞬間、頭の中が真っ白でなんにも見えなくなった。

それから、じわじわと頭の中に浮かんできたのは最悪の結末。
辰馬は自分の部屋で勉強してたから、そのまま俺の部屋に入ってパソコンでこっそり検索してさ。
辰馬に何話しかけられても上の空だったし、夜は当たり前のように誘ってきた辰馬を断ったのは断ったんだけど。何て言ったか覚えてない。

ほとんど眠れなくて、朝からマンションを出てきて、誰にも会わねェようにって、わざわざ北区の保健福祉センターまで来たってのに、なんだって俺は運が悪いんだよ。

「こんなところでどうしたんでさァ?」
もっとも、今日の結果いかんでは、不運とか、そういうレベルじゃねェとこまでいっちまうんだけど。

「そーゆぅお前こそ、何してんだよ?」

あー、ちくしょう。血なんてとっくに止まったんだから、採血の後に貼る白い四角いシールみたいなやつ?さっさと剥がしておくんだった。夏だから半袖の腕から見えてんじゃん。きっと気付かれてんじゃん。

「バイトでさァ。1日デートコース」
このクソ暑いのに、と肩を竦めた沖田が示したのは俺が今から水でも買おうと思ってた駅前のコンビニ。オッサンはトイレだって。俺に気付いて出てきたらしい。

「お前、まだやってたのかよ」
「割がいいんだからしゃーねーだろィ?お、じゃーな、高杉」

コンビニから出てきた壮年の男性はあまり見ないようにして。俺は入れ違いにコンビニの中に入ってミネラルウォーターを2本買った。そのうち1本はすぐに全部飲み干したけど。水分取らなきゃ脱水症状になっちまう。

「これから、どーしよ」

とりあえず家の方向には向かうけど、今はまだ帰りたくない。帰って辰馬の前で、いつも通りに振る舞える自信がない。どこに行ってきたのかって、辰馬には絶対聞かれるけど、何て話したらいいのかわからない。まだ言えない。

とりあえず漫画喫茶でも行って夜まで潰して、少し飲んで帰ろうかな。
いや、朝まで飲んでもいいかもな、こんな時くらい。

***

漫画喫茶で個室を取って。薄暗くて静かで涼しいこの場所に1人でいると、ちゃんと冷静にいろんなことを考えられそうだった。そんな、気がした。

考えなくたって、もしも陽性だった場合の感染源なんてわかりきっていたけれど。昨年9月にレイプされたアレだ、間違いない。浮気なんてしてないし、遊んでるわけじゃないし、他に、理由なんて思い当たらない。

(なんで俺だけ…)

そう、思わずにはいられなかった。レイプされて人が恐くなって電車も1人じゃ乗れなくて。みんなのおかげでやっとここまで回復してきたってのに、今度はこれか?

もしも陽性だったら辰馬にも絶対うつってるだろうし。沖田は…アイツとは毎回着けてたから大丈夫か。アレ…?そー言えば沖田の命令で土方が俺の飲んでなかったっけ?あー、それから春に酔っ払った勢いで小太郎に乗っちまったんだっけ?あとは…、あ、銀時に1回ヤられたよな?あん時生だったよな?万斉は…どっちだっただろう?ぶっ飛んでたからわかんねェ。

最悪の場合、俺のせいで俺の周りのみんな危ねェんじゃねーか。

(最低…)

感染=発病じゃねェことはいくら俺でも知っている。今は薬の力で、けっこう長生きできるらしいとかってのも一昨日ネットで調べた。だけど、『先進国で唯一感染者が増えてる』なんて言われたって、俺には全然関係ねェって思ってた。2日前の葉書を見るまでは。

リクライニングの広い椅子に膝を抱えて座っていたら、勝手にどんどん涙が溢れてきて。

(辰馬になんて言おう)

結果が出るまで1週間。その1週間、どうしろって言うんだ、俺に。一緒に住んでる辰馬に、どんな顔してろってんだ。

もっと早く検査しとくんだったとか、あの時辰馬と喧嘩してなけりゃとか、沖田と待ち合わせる場所を違うとこにしてりゃ良かったとか。
いくら自分を責めても考えても答は見つからず俺は、とりあえず今日は逃げることにした。

『悪ィ、今日帰らねーから』

まだ理由なんて話せねェ。辰馬が怒るか泣くか、そのどっちかだってのがわかっていながら、俺はたった1行のメールを打って、携帯の電源を落とした。

明日には帰るから。ごめんな、辰馬。

***

一晩中飲み明かしたって全然酔えなくて。気が張ってるせいだと諦めて俺がマンションに帰ったのは、サラリーマン達がランチに出てくるような時間だった。
きっと辰馬は今日も勉強してるだろうからって、そーっと鍵を開けて忍び足で玄関から一番近い俺の部屋に真っ直ぐ向かう。俺と辰馬の部屋が逆じゃなくて良かったってこの時程思ったことはない。逆だったら、どうあがいたってリビングを通らなきゃ部屋に入れない。

「晋?」

そろそろと扉を開けて部屋に入ろうとした瞬間、俺が帰ってきたことに気付いて出てきた辰馬に名前を呼ばれた。

ビクっと震えてしまった後で、ゆっくりと顔を上げて恐る恐る声のした方を向く。リビングに繋がる扉を開けた状態でそこに立った辰馬の目は少し腫れていて疲れた表情。どうやら一晩中、寝ないで俺の帰りを待っててくれたみたいだった。

「こがな時間まで何やっとったんじゃ…っ」
(怒ってて当然だよな)

殴られても仕方ねェって思って。大股で近付いてきた辰馬の腕が振り上げられるのを、俺はやけに冷めた目で見つめていた。どこか、別の世界の中の出来事みたいだ。

「心配したじゃろうがっ!!」
ああ、ひっぱたかれるんだと思ったのに、勢いよく降ってきた辰馬の腕は俺の背中に回されて。

「しん…し、ん…」

部屋の前に突っ立ったままの俺をきつく抱きしめながら、辰馬は泣いていた。心配したんじゃ、と何度も繰り返しながら。

辰馬の腕に抱かれるのは、やっぱり一番落ち着くし安心する。だけど、その辰馬に、一番のリスクを負わせてしまったのは俺だ。こんなに好きなんだからこそ、こんなに大事なんだからこそ、本当は一番気をつけなきゃならなかった。

辰馬のあったかい体温と、反比例するように急速に冷めて行く俺の心の中のなにか。心が痛い、痛すぎる。

「離せ、辰馬」
「嫌じゃ。どこ行っとったんか話してくれるまでは嫌じゃ」
「離せっつってんだろっ!」

どんっと激しい音がするほど強く辰馬を廊下の壁に突き飛ばして。

「頼むから、もう放っといてくれよ!」
俺はそれ以上辰馬の顔を見れないまま、部屋に駆け込んでがっちりと鍵を閉めた。

「晋、晋!…晋助!」
ガチャガチャとノブを回して鍵がかけられたことを悟った辰馬がドアを叩いて呼んでいる。だけど俺はどうすることもできなくて。

「晋、晋っ、晋!」
俺は扉の前で、いつまでも俺を呼び続ける辰馬の声を聞きながら、膝を抱えて泣いた。

***

「………、お前、また浮気でもしたんじゃねーの?」

夕方になっても暑い。マヨネーズをぶっかけたアイスを食べながらそう言ってやったら、電話の向こうからは怒鳴り声が返ってきた。

『絶対ない!絶対にないぜよっ!』
耳が痛ェっつーの。リビングで俺の横に座ってテレビを見てた総悟もびっくりしてんじゃねーか。

『土方君か沖田君、何か聞いちょらんかのう?』
「俺は知らねェぜ?」

明らかに泣きながら電話してきたのは坂本だった。昨日から高杉の様子が変なんだって。理由も話さず今日の昼まで1日以上帰って来なくて、今は鍵をかけて部屋に閉じこもってるらしい。もっと言えば、一昨夜、初めてセックスを拒否られたって、何の話なんだか。

「総悟は?なんか聞いてるか?」
今、坂本から聞いたいきさつを話してやって尋ねたけれど、総悟も首を横に振る。

「総悟も聞いてねーってよ」
俺や総悟じゃないんなら、桂や銀時の方に相談してんじゃねェか?って言ってやったら、そっちは昨日の朝高杉が出て行った後に相談済みらしい。珍しいな、とは確かに思った。何かあったことは明白なのに、高杉が誰にも相談してないなんて。

「その分だと、ねェと思うけど。なんか連絡あったら言うわ」
『頼むぜよォ、土方君』
通話が終わって。溶けそうなアイスを慌てて食べ始めた時、総悟が立ち上がった。

「十四郎、パソコン借りやすぜィ」
「おー」

まだ総悟のは買ってないから、うちにはパソコンが一台しかなくて。前期のレポートの時は、なるべく学校で打って仕上げだけ交代で使ったんだ。

共有で使うことになるってのは最初からわかっていたことだから見られて困るようなものもないし。って言うか俺の設定で立ち上げる時のパスワードなんか総悟の誕生日だから見放題だし。

ただ、このタイミングで立った総悟が今からネットで調べようとしているものがなんなのか。
俺は特別な意味があるとも思わなくて、その時はとくに、関心も持つことはなかった。

だってまさか、総悟が唯一、何かを知りかけてた人物だっただなんて。さっき首を横に振ったのを見た俺は夢にも思わなかったんだから。

***

一週間、ほとんど俺は部屋から出なかった。出たのはトイレとシャワーだけ。だから、辰馬とも顔を合わせなかった。

数時間に一度、俺がこっそりトイレに立つと、扉の前にはおにぎりやサンドイッチと一緒に2リットルのペットボトルで水が置いてあって。辰馬にこんなことまでしてもらう資格ねェのになって思いながら、部屋に引きこもって1人で泣きながら食べた。

そして結果が出るこの日、俺はこないだと同じく朝早くから辰馬に黙ってこっそり家を出た。

一週間悩んだけど、結局はどんな結果であれ、それを受け入れるしかないんだと思った。もしもの時は今日中にでも辰馬にちゃんと話さなきゃならない。小太郎や銀時にも。みんなにも検査に行ってもらわなきゃならないし、今度は逃げられない。正直に話しても、みんなが今まで通り俺を受け入れてくれて、普通に接してくれるのかどうかはわからなかったけど。

……辰馬は、それでもまだ俺を、好きだと言ってくれるのだろうか。

軽蔑されたり、縁を切られたりする可能性だって、考えておかなくちゃ。もちろん、結果的に一番危険な目に遭わせてしまった辰馬には、捨てられるかもしれない。いくら辰馬の懐が広いって言ったって、今回はさすがに受け入れてもらえないかもしれない。こんな形で、こんな理由で辰馬と別れなきゃならない日が来ることなんて、考えたくなかった。

そんなことを思いながら、ふらふらと駅まで歩いたところで、改札前に沖田の姿を見つけてしまった。こんな朝早くから券売機の前の日影のところに座ってる。

「よぅ」
「お、はよ…」

そんなとこに座って何してんだとは聞けなくて。先週も沖田に会っちまったんだよな。しかもここから電車に乗って1時間以上離れたあんなところで。あの時は、何も聞かれなかったし、それからも一切話してないんだけど。

「保健福祉センター、ですかィ?」
「!!」

何も話すことが見つからず、黙ったままだった俺に、小声で沖田が告げたのは。俺はその場からダッシュで逃げたくなった。できなかったのは、先に沖田が腕を掴んだからだ。

「高杉ィ」
「は、なせっ…」

やっぱり先週、不自然すぎる形で普段絶対行かないようなあんなところで会っちまって。おまけに採血の跡、そこからバレたんだと思った。何を言われるのかわからなくて、俺は唇を噛んでないと今にも泣きそうな限界。沖田の顔が見れない。軽蔑されたり、するんだろうか。

「高杉、よく聞きなせェ。お前に何があろうとお前はお前でさァ。お前は何も変わらねェ。これからもずっと俺と十四郎の友達でさァ」

「………おき、た?」
「十四郎にもまだ何にも話してねェ。一緒に行ってあげまさァ」
「おま…、それって…」

ボロボロ零れた滴がアスファルトの地面に染みを作ってゆく。泣くんじゃねェって、沖田に軽く頭を叩かれた。

「泣くのは早ェだろうが」
「う、うんっ…」

俺は沖田と一緒に電車に乗って、1時間以上かけて北区を目指す。

電車の中で、俺が朝帰りならぬ昼帰りした日に、辰馬が心配して土方に電話をしていたこと、その電話の前に辰馬は俺の様子がおかしいと小太郎や銀時に相談していたこと、あの日沖田と1日デートをしていたおじさんはあの辺りに住んでいて保健福祉センターがあると知っていたこと、ネットで調べた電話番号にかけて一週間後に結果が出ると聞いたことを沖田は話してくれた。

「悪かったなァ。年が明けたら調べに行けって、俺が言うべきでしたねィ」
「でもお前、受験だっただろ?」

8週間から12週間が潜伏期間。あれは9月だったから。

「そう。俺にしては必死だったんでねィ。忘れちまってたァ」
「沖田のせいじゃねェよ」

土方にも相談せずに、沖田は1人で俺にかける言葉を考えてくれていたらしい。それはやっぱり、唯一俺が、あんな目に遭った場所に居合わせたからで。そんな必要ないのに責任を感じてくれているみたいで。

俺が辰馬と付き合い始めてからは一切遊んでないとか、辰馬と付き合う前だって高校時代は万斉しか知らなくて、別れてからだって関係を持ったのは沖田だけで、その後の浮気だって万斉と1回だけだとかって、いろいろ知ってる沖田だから。あれがなければ隠れて検査に行く必要もないし、俺がそんなに結果に脅えたりしないんだろうって考えて、わかってくれた沖田だから、できたことだった。

「俺はここで待ってまさァ」

駅に座ってた時と同じように。センターの外に腰を降ろした沖田に見送られて。
「どんな結果だろうと、心配しねェでいいから行ってきなァ」
「ありがと、沖田」
俺はセンターの中へ入って行った。

もう、涙は止まっていたし、覚悟はできていた。

***

「…へ?」

あっさりと渡された結果を見た瞬間、俺は間抜けな声を上げてしまった。

「全部陰性。HIVに梅毒、クラミジア。全部大丈夫ですから」
個室に連れて行かれて『HIV陽性です』って告知と一緒に、拠点病院を紹介されるんだと思ってた。

「どうしたんですか?」
全部陰性だったのに、固まったまま動けなかった俺に、担当の人が不思議そうな顔をしてる。

「だって、俺っ」
献血の後に来た葉書で俺の血は駄目だって、輸血には使えないみたいな結果が出てたってまくし立てたら、『それは貧血じゃないの?』と言われた。

「もしくは痩せすぎ、とか」
「へっ…?」

痩せすぎ?痩せすぎ、痩せすぎだとぉっ?俺のどこが痩せすぎだってんだぁっ!

「とにかく全部大丈夫ですから。だからって油断しないで下さいね」
俺ゲイだって言ってないのにな。ノンケぶってみたけど仕種でバレたかな。いや、みんな言われることなのかもな。

とにかく、大丈夫だったんだって言われて、それがハッキリ書いてある結果表をボーっと見ていたら実感が沸いてきて。
一週間の悩みが全部吹き飛んで。
「沖田、沖田ぁっ!」
俺はセンターの外に飛び出した。

「早かったですねィ」
よっこらせって感じで立ち上がった沖田に結果を見せるより早く俺は抱き着いて、わんわん泣いた。

「大丈夫だった…、俺、俺っ、全部、陰性だっ…てっ」
「大丈夫だったってのに、なんで泣くんですかィ」
「だって、俺っ、俺…っ」

駄目だと思ってたんだ。絶対辰馬にもうつしてるって、思ってたんだ。これから帰って辰馬に話すのに、沖田にも一緒に来てもらいたいって、本気で思ってたんだ。

「良かったじゃねェですかィ」
まじまじと結果表を見ながら俺の背中を撫でてくれていた沖田は、携帯を取り出して発信ボタンを押す。

「あー、坂本?アンタちょっと出て来なせェよ」
「お、お前っ、いきなりかよっ!」

なんでお前から辰馬に電話してんだよ?って怒鳴った俺の声は、電話の向こうにも聞こえたらしい。ずっと引きこもってた俺がいなくなってることに、辰馬が気付いていてもおかしくないくらいの時間は過ぎている。

『晋、晋か?そこにおるんか?』
沖田が黙って渡してくれた携帯を耳に当てて。俺は一週間分の気持ちを込めた。

「辰馬、心配かけてごめんな。ちゃんと話すから」
『晋…。わしはどこまで迎えに行ったらえいんじゃ?』

辰馬は、ちょうど中間点になるところまで迎えに来てくれることになった。

***

駅からは少し離れた喫茶店で一番奥に3人。俺の前に座った辰馬に、さっきもらったばかりの結果表を見せて『俺、絶対駄目だと思ってたんだ』と。献血結果の葉書を見て、慌てて検査に行ったんだって。心当たりもあったし、誰にも会いたくなくて、わざわざ北区まで行ったんだって、なのに沖田に会っちまったって。この一週間のことを全部話した。

「絶対、辰馬にもうつしてると、思ってた」

陽性だったらどうしようと。辰馬に話さなきゃならないことはわかっていたし、話すつもりだったけど、どうやって切り出したらいいかわからなくて。結果が出るまで不安で不安で、辰馬と普通に接することはおろか顔も見れなくて引きこもたんだって話したら、辰馬は俺の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。

「ごめんの、晋」
一週間も1人で悩んで辛かったじゃろ、気付いてやれんでごめんねと言われてまた、じんわり涙が溢れてきた。
何にも話さず顔も合わせなかったんだから、辰馬がわからなかったのは当たり前なのに。

「じゃけどの、晋」
辰馬は身を乗り出して両手で俺の手を包み込むみたいに握って、俺の目を見つめながら静かな声で語った。

「この結果が、違うものじゃったとしても、の。わしが晋を想う気持ちは、なんら変わらんぜよ」
病気くらいで変わる程の軽い気持ちじゃないし、むしろ晋の病気なら、いくらでも貰っちゃるって言われて俺はまた泣いてしまった。

「だけどっ、コレは治んねェじゃん…っ」
「晋にうつされるなら構わんぜよ」
むしろ本望じゃあと言って微笑んだ辰馬は本気で馬鹿だと思った。だけど、その言葉がどれだけ嬉しかったかわからない。

「沖田君もそう思うじゃろー?」
「本望だとまでは言いやせんけどねィ」
でも俺も、十四郎になら今の坂本と同じこと言えまさァって言い切った沖田。十四郎の病気なら貰ったって構わねェと。

「高杉のは無理ですけどねィ」
「もー、沖田君は冷たいのう」
「そんなことねェって、辰馬」
もちろん辰馬が、わざと言ってるんだろうって、俺だってわかってたけど。

「俺ァ冷たい人間で結構でさァ」
「何言ってんだよ、沖田」

俺は沖田が今朝、駅で言ってくれた言葉だけで十分だ。あれのおかげで覚悟が決まったようなものだから。あんな言葉を俺に言ってくれる沖田みたいな友達を持てただけで、俺は不幸なんかじゃないと、本当に思ったんだから。

「っつーか。つけなせェよ、アンタら」
「ええっ!?…だってっ」

ずずーっと、ストローの音を立てながら氷も溶けて残り少なかったジュースを飲み干した沖田が呆れ顔。

「まー、坂本のがデケェのは知ってやすけどねィ」
「ちょ、沖田っ!」

まだ昼間だっつーの!しかもここは普通の喫茶店で、ゲイバーじゃねェっての!

「俺は毎回、100パー着けてますぜィ」
「じゃけどのぅ」
「辰馬っ!!」

困ったことに、辰馬も昼間っから下ネタ平気なんだよな。辰馬の場合、明るく笑いながら言っちゃうから、いやらしい感じはあんまりないと思うんだけど、それでも俺は無理だっつぅの!

顔が熱くなってきて、なんとか止めようとしてる俺を気遣ってくれたのか、辰馬は身を乗り出すようにしてテーブルに肘をついて。俺と沖田も辰馬の口許に耳を寄せる。そして、聞こえるか聞こえないかくらいの、限界まで小さな声で。

「晋は、中に出されんの好きなんじゃもん」
「ぶっ…」

同時に吹き出した俺と沖田だけど理由は全然違う。

「な、何言ってやがんだ辰馬ァっ!」
「あははは、ほんっとに高杉、Mですねィ」
「黙れ沖田っ!」

だいたいなんで知ってんだよ辰馬の馬鹿!俺、それを直接口に出して言ったことなんか一度もねェぞ!

「だったら坂本、アンタも検査しときなせェよ」
今日中に結果出るとこ知ってまさァって、まだ笑ってる沖田が携帯の時計を確認してから言った。

「わしは大丈夫じゃろー?」
「念のためって言葉がありまさァ」

自信満々な辰馬を連れて今度は3人で病院へ。夕方5時には結果が出るらしい。こんなとこあるって知ってたら、1週間も悩まなくて済んだのかな。

「沖田君はなんでも知っちょるのぅ」
「辰馬、それは聞かないでやれ」

不思議そうにしてる辰馬だけど。沖田がこんな病院を知ってる理由なんて決まってる。仕事上の都合ってやつだ。売れっ子がなかなか辞めれないのは、職種は違えどお前だって一緒だろうが。

***

さすがに夕方の結果を取りに行くまでは沖田は俺達には付き合えないと。先に帰って、今は辰馬と俺の2人。

「坂本さーん」
お薬出てますからぁ、来週また来て下さいねェって。聞こえたのは俺だけじゃなかったよな?
とりあえず病院の中で暴れるわけにはいかないから、黙って外に出て、すぐに辰馬の検査結果を引ったくった。

「アッハッハー、なんじゃ、出ちょったみたいじゃのう」
処方されてたのは一週間分の抗生物質。

「てんめェ、どこで貰って来たァァっ!!」
俺に殴られた辰馬が盛大に路上を吹っ飛んで自動販売機に激突した。

先週俺が、検査に行った日の、3日くらい前にホテル行ってからずっと、俺と辰馬はヤってない。っつぅか、この一週間は、顔も合わせなかったんだ。そして俺は、陰性だったんだから感染源じゃない。なんだお前、まさか俺が悩んでた間、溜まってたからって浮気したのか?

「自覚症状はないんじゃけどのー」
「……っ」

笑ってごまかそうとしたところでもう一発。辰馬がなってたこれは、男とか女とか関係なく、全世界で一番流行してるやつ。自覚症状に乏しくて、7割の人が症状を感じないって言われてるの知ってますかー。

「いつだ?テメェいつ浮気したっ?正直に言えっ!」

俺が悩んで引きこもりしてたこの一週間の間に浮気されてたんだろうかって思ったら、なんかもう、耐えられなかった。

「し、試験期間じゃき」
「試験期間?」

晋が忙しいのはわかっちょってんけどーって半泣きで謝る辰馬だけど。わかってんなら2週間くらい我慢しろよ。俺だって我慢してんだからさ。

「治るまでセックス禁止だっ!」
思い切り叫んでしまってからここが路上だったことを思い出して慌てて口を塞いだけど、周囲の人の視線が痛い。恥ずかしくてとりあえず、その場から離れるべく歩き始めた俺に辰馬が引きずられるみたいにしてついてくる。

「無理じゃ!もう破裂するっ!」
もう10日もしてないってあのな、それはお前だけじゃねェだろうが。

「もういい、今から俺、沖田んとこ行ってくる!沖田としてくる」
「嫌じゃあっ!絶対嫌じゃあっ!」
晋に浮気されたら生きていけんって、引きずられたまま泣き出した辰馬の頬に三発目の平手打ち。

「じゃあ、なんでテメェはしてんだよっ!」
「晋、ごめんなさい…」
「本当に反省してんのかテメェは!」
「ごめんなさい」

毎度毎度のことながら、泣きてェのは俺の方だっつぅの。

でも残念ながらこれが、惚れた弱みってやつなんだよな。俺に殴られて真っ赤な頬のままボロボロ泣いてる辰馬を見たら、それ以上は責めれなくなって。

だって辰馬って、浮気はしてもそれはあくまで遊びで。二股だけはかけたことないんだよ。バイってけっこう、彼氏と彼女両方同時に作ったりするらしいんだけど、俺と一緒に住んでるせいか、辰馬にそんな素振りは見られない。遊びじゃなくて本気、二股が発覚したら、いくら俺だってきっと耐えられない。

「とりあえず、帰ってから話し合いだっ」

辰馬が試験期間に浮気したとして。その後ホテルに泊まって思い切りナマでヤってんだけどな、俺ら。今回は陰性だったけど3つしか調べてないんだし、もう1回、俺も検査行って全部徹底的に調べてもらおうかな。

処方箋を薬に変えるのに薬局に寄ったついでに辰馬が買い物してたけど、俺は敢えて知らん顔をしてやった。しょーがねェやつだな、ほんとに。自分が悪いくせに来週までも我慢できねェってのか。

でも、そんなやつだから好きなんだよな、俺は。どっちもどっちか。

沖田に報告したら、電話の向こうで大笑いしやがった。

『高杉ィ、もっかい検査行くなら、口ん中も調べてもらいなせェよ』
「わかってるっつーの」
一週間引きこもっていろいろ調べてる間に、俺もだいぶ詳しくなっちまった。

『でもよー、クラミジアで良かったんじゃねェですかィ?』

笑っちまってごめんと謝りながら沖田が言った言葉が胸に刺さった。確かにそうだ、一週間も抗生物質飲んでりゃすぐ治るからな、アレは。辰馬も今回ばっかりは本気で反省してるみたいだし。薬局を出てから俺が一言も口をきかなかったから。

今だって俺はリビングのソファだってのに辰馬は床に正座してる。

これに懲りて今度こそ浮気やめてくれるんならいーけどさ、男って浮気の味しめたらなかなか抜け出せねェもんな。そこら辺は俺だって男なんだよな、わかるんだ。それでも最近は、昨年に比べたら減ったよなって、ちょっと安心してたのにさ。

『高杉ィ、ちょっと十四郎に代わりまさァ』
「ああ、うん」

沖田と電話を代わった土方は、先週辰馬が俺を心配して電話してきたんだって話をしてくれて。お前大丈夫か?何かあったのか?いつもならすぐ俺に電話してくんじゃねェか!俺にも言えねーようなことあったのか?って、ちょっと怒られた。

「ゴメン、土方」
『お前ずっと電源切ってただろーが!銀時のヤツも心配して、こっちに電話来てたんだぜ』

そう、だったんだ。銀時から土方に電話する程ってことは、小太郎なんか心配しすぎて3キロくらい体重減ってるかもな。あ、銀時と一緒にいれば大丈夫か。銀時がすぐに気付いて、小太郎に何か食べさせてくれるだろうな。銀時に心配されるんならって、小太郎も素直に食べるだろうし。

「ごめん土方。沖田に聞いて。俺、今から銀時に電話するわ」
『おー、わかった』

最後にもう一回、沖田に相手が代わって土方に話してやってくれって頼んで通話を終えた。辰馬はその間、一言も口を開かず、黙って俺の仕種を見つめていた。正座したまま。

「辰馬」
隣に座れって意味でソファを叩いたら、おどおどしながら一番端の方に、浅く腰を降ろして。デカイ身体を限界まで小さくしてんだもんな。

「こっち座れ」

ラチがあかないから俺が今まで座ってた真ん中を指さして。俺は一旦立って、辰馬が移動したのを確認してから、辰馬の膝の上に横向きに座ってやった。

「今度浮気したら、俺も浮気すっからな」
両頬に手を当てて、目を見ながら宣言したら、辰馬の目尻に涙が滲んでた。

「しん…」
今度浮気したら別れてやるって言うよりも、どうやらこの方が効果的みたいだ。何があっても別れたくないって思ってるのはきっとお互い様だから。

ごめんって、言いながら俺の腰に腕を回した辰馬に体重を預けて。どーしようもねェ俺と、どーしようもねェ辰馬は約10日ぶりのキスをした。

「今から銀時に電話するけど。後はお前、誰かに相談してないか?今回のこと」
辰馬の口からは陸奥と岡田の名前が出てきた。その2人にはお前から『解決しました』って話しとけって言って俺は銀時の携帯を鳴らす。
バイト中だったのか、繋がらなかったから小太郎にかけ直して、とにかく心配かけてごめんって謝った。今朝も、引きこもってたはずの俺がいなくなったって、辰馬は小太郎に電話してたみたいだった。

小太郎との電話が終わって辰馬も陸奥と岡田にかけ終わった頃。物凄い勢いでうちに駆け込んで来たのは土方だった。辰馬が玄関を開けた瞬間にリビングに走ってきて、ソファに座ってた俺の胸倉を掴んで怒鳴られた。

「お前っ、そういうのこそ俺に話せよっ!」
そんなもんで今更変わると思ってんのか?何があったって俺はお前の味方だ、もしもこの先そんなことがあっても、俺は線香上げるまでお前を見捨てたりしねェって、一気にまくし立てた土方は肩で息をしていた。

「ひじ、かた…」
目尻に涙が浮かんできてたけど、泣いてたのは膝をついて俺にしがみついてきた土方の方だった。

「馬鹿野郎…っ」
なんのために近くに引っ越して来たと思ってんだって。俺だっていつもお前には何でも話してんだろうって、土方が泣くもんだから、俺も我慢できなくなった。

「晋、土方君」
俺の隣に座った辰馬が俺と土方の肩を両方包むみたいに抱いて撫でてくれる。

やっぱり人って、1人じゃ生きていけないんだって、俺の頭にぼんやり浮かんだのはそんなこと。1人じゃないって、実感できたのって、すごいこと。

「鍵開いてたから入りやしたぜィ」
土方は、1人で走って来たみたいだった。5分くらい遅れてきた沖田の息が土方ほど乱れてないのは、きっと沖田だけチャリだったから。

「落ち着けって言ったんですけどねィ」
沖田は、俺にしがみついたままだった土方の腕を自分の方に引っ張って抱きしめてやっていた。土方はまだ鳴咽が止まらないみたいだ。

結果がどうあれお前はお前だって言ってくれた沖田と、俺が誰にも言えずに悩んでた理由を聞いただけでこんなに泣いてくれた土方と。それから、気持ちは変わらないって言ってくれた辰馬と。

本当に俺は、いい仲間に巡り逢えたなって、今日ほど実感した日はなかったんだ。

今度もし俺が、逆の立場になることがあっても、俺だけはお前らを裏切ったりしねェって。今の俺なら、自信を持って言えるような気がした。そんな、確信があった。


END



以下は独り言と後書きです
HIVを持ってる人も、
そうじゃない人も。
ぼくらはもう、この街でいっしょに生きている。
REAL
LIVING TOGETHER


この広報を初めてみた時に泣けてしまったことを、今でもはっきり覚えています。
厚生労働科学特別研究事業「エイズ予防のための戦略研究」
の広報でした。
(よろしければhttp://www.gay-map.net/をご覧下さい)
お気づきのように、今回のタイトルも、このキャンペーンの言葉から取ったものです。

どうせなら、自分にしか書けないリアルな物語を形にしたい!という衝動から始めた大学パロも、読んで下さる方々のおかげで50作を越え、喜怒哀楽、たいがいのことは文章にしてきたつもりでしたが、唯一踏み込めずにいたのが、今回扱ったSTDの部分でした。
今回踏み切るに至ったのは、堂山のとあるゲイバーで飲んでいた時に、そこのミセコ(従業員)に言われた一言にあります。
その子は、当サイトのことも知っていて、よくネタについて話してたりもしてました。

「アンタだったら、これだけ現実知ってるんだから、1回くらいは書いてもいいんじゃない?」
「でも救いようのない話はやめてよね」

結果、この言葉は後押しになりました。
言われるまでもなく、救いようのない話にする気は全くありませんでしたけどね(そんなものは現実だけで十分です)。

2006年(1月〜12月)の日本全体のエイズ発生動向によると、HIV感染者報告数952件、エイズ患者数報告数406件、いずれも過去最高の数値になります。
この数字を見て、どう受け止めるかは人それぞれだと思います。
私は、「ぼくらはもう、この街でいっしょに生きている」という言葉を実感することになりました。
そして、今更で申し訳ないのですが、検査に行きました。(2007年9月の検査で陰性)
保健福祉センターなどへ行くと、無料・匿名で検査を受けられると、相当前から知っていたにも関わらずの、今更でした。

http://www.gay-map.net/にアクセスしていただくとわかるのですが、「誰もが暮らしやすい街って、どんなところだろう?」という問い掛けが表示されています。

私が男の服装で歩いていても誰も何も言わない、女らしくしなさいとも言われない。その心地よさから、堂山に飲みに出るようになって早5年。

男だったり女だったり、異性が好きだったり同性が好きだったり、体と心の性に違和感を感じたり。そんな人達が普通に歩ける街は、このままずっと永久に、限られたエリアだけでいいのでしょうか?

今回、敢えて私がこの問題を取り扱ったことで、1人でもそのことに関心を持ってくれた方がいてくれたら、私はそれだけで、今回のことに意味があると思っています。


長々と書きましたが、読んで頂いて、ありがとうございました。
一番書きたかったのは『誰も1人じゃないんだよ』ってことでした。


2007/11 高階千鶴






















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