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この日は、2限から5限までビッチリ授業が詰まっていて。

Lachenalia


もうすぐ11月。
さすがに18時半ともなると空は真っ暗で。
俺は、なるべく人に会わないように、会わないようにとキョロキョロしながらあんまり足を踏み入れたことのない、経済学部棟へ、辰馬を迎えに来た。
1人では電車に乗れなくなっている俺のために、登校も下校も毎日一緒なのに、今日は授業が終わっても全然連絡がなくて、電話にも出ない。

扉が開いている教室を、ひとつひとつ覗いてみても、辰馬は全然見つからなかった。

(どうしようかな…)

先に1人で帰るのは、やっぱり怖い。あの事件から1ヶ月半が過ぎて、だいぶマシになったからこそ、こうやって1人で経済学部棟なんかに来れたんだけど、それでもやっぱり、まだ1人で電車に乗れない俺がいる。
辰馬は、それをわかっているから、可能な限り俺についててくれてるはずなんだけど。
3階の、ある教室を覗いたらちょうど出てきた女子学生とぶつかりかけた。

「あ、ゴメンナサイ」
「おんし、坂本の」
え?と思って、足を止めると、よく飲みに来ている小柄な長い金髪。

「あ!」
「モジャモジャ探しとるがか?」
入学式の時、辰馬に説教していた小柄な金髪。なんだかんだと辰馬の文句を言いながら、よく一緒にいる陸奥だった。

「モジャモジャなら、あそこのエレベーターから7階上がって、先生の研究室に行ったぜよ」
「そう、なんだ。アリガト」
初めて見た時は、20センチ以上の身長差をものともせず辰馬に説教する姿を見て、正直『怖い』って思ったはずだったんだけど。辰馬で慣れたせいなのか、方言もあまり気にならなかった。

「おんしも大変じゃの」
「何が?」
「…いや」
辰馬がきっと、何か俺のことを話しているんだろうと思った。
たぶん、1人で電車に乗れないこととか、特定の体型の人が恐くて、過剰反応したり倒れちゃったりすることとか。全てトラウマなんだけど。

「研究室なんて、俺行っていいのかな?」
経済学部の学生でもないのに。せっかくだから、陸奥に聞いてみた。他に聞ける人もいないことだし。

「大丈夫じゃろ。来週の課題がどうこう言っとっただけじゃし。701のはずじゃ」
「ありがとう」
俺は言われた通り、エレベーターで7階へ上がった。701研究室は、すぐに見つかって。

扉をノックしてみても返事がない。もう、いないのかな、なんて思いながら、何の気なしに、俺はノブを回して扉を押してみた。
鍵がかかっていなかった扉は、たいした抵抗もなく、すんなりと簡単に開いて。

「……………………」

俺は、扉を閉めて、そのままダッシュでエレベーターに乗って、1階まで降りた。

5号館の出口まで、必死で走って走って走って。
外に飛び出そうとした時、玄関の横の喫煙所で、のんびりタバコをふかす土方を見つけた。

「高杉じゃねェか。どーしたんだ?」
文学部の俺が、1人でこんなところにいるのが不思議なんだろう。

「ひじ、かたっ…!土方ァーっ!!!!!」
あまりにも突然で、びっくりして煙草を落としかける土方に抱きついて、俺は号泣した。

2人がけのソファに、けだるそうにナナメになって横たわっていたあれは、あの研究室の主、つまり先生なのだろうか。
違う学部の先生なんて全然知らないけれど、20代後半から30代頭くらいの、そこそこ美人というか、スタイルが良さそうな感じの先生だった。
その先生のスーツのブラウスは、これでもかという程はだけていて、下着が見えていた。

その、先生が横になっていたソファの隣の、病院によくあるような長椅子に座って、下はパンツ1枚で、見つめ合ってコーヒーカップを口に運んでいた辰馬。
あれが情事の後でなくて何だと言うのだ。

どっちからどう迫ったのかなんか知らないし、どうでもいいけれど、辰馬の馬鹿、先生にまで手ェ出すなんて。なんだよ、それだけ年上の女から見ても、辰馬って魅力があるっていうか、ヤリたくなるっていうか、要するにそういうコト?

辰馬は、絶対無理矢理手を出すなんてことはしないし、したくない性格だし、何より、俺に気付いて不思議そうな表情を見せる前のあの先生の、一瞬見えた頬を上気させて辰馬を見つめていた顔は。

先生は、絶対辰馬のコト好きなはずだった。どういう意味でかは置いといても。そして、たぶん、俺と辰馬のことは知らないんだろう。『誰?』って顔してたし。

なんで、なんで辰馬は俺なんかと付き合ってんだろう。俺なんかと一緒に住んでんだろう。やっぱり、俺なんかじゃ物足りないんだろうか。元々、辰馬の性欲に、ヤリたいって気持ちに、完全に応えてあげられる体力なんて俺にはないし、今の俺は、まだちょっと、セックスするのが恐くて。相手は辰馬なんだって、大丈夫恐くないって、頭ではわかってるつもりなんだけど、それでも、前みたいに毎日なんて、できずにいたから。

泣くばっかりで、事情も話せない俺に困り果てながらも、土方は俺の肩を抱いて、泣かせてくれていた。ゴメン土方。なんかいつも、甘えてばっかりで。

「晋!…晋助!」
ようやく7階から降りてきた辰馬の声が、廊下に響き渡った。

「晋、ごめんっ!」
まだ、土方に抱きついていた俺に気がついて、駆け寄ってきた辰馬の最初の言葉。俺は、泣きじゃくって土方に抱きついたまま、返事をすることもできない。

「坂本…、お前今度は何ヤったんだよ?」
俺の肩を抱いたまま土方が厳しい口調で辰馬に尋ねた。

「…浮気、しました。ごめんなさい」
「お前なァっ!!!」
辰馬に怒鳴りながら、土方は俺を、ますます強く抱いて辰馬とは反対側に庇うみたいにしてくれる。

「なんだよ、お前もしかして、学内でしたのかよ?」
辰馬を問い詰める土方に、抱きついて顔も上げられないまま、そこは俺が答えた。

「せん、せ、だよ、ぅ、土方」
「はァ?」
一瞬目を見開いて、瞳孔全開で辰馬を睨みつける土方。

「もうっ、俺も浮気するっ!沖田とスルっ!」
「晋助!」
「高杉!」
辰馬と土方が同時に叫んだ。

「高杉ィ、あの、さ。総悟とは…やめてくれないか?」
「晋、ごめん!もう、せんから!許して!」
辰馬の『もうしない』は信用できないけど、沖田とスルのは、やっぱり土方に悪いかなと思った。
でも他に相手いないしなァ。俺は、辰馬みたいにモテるわけじゃないし。いや、正確に言うと、かなりの変態親父にならモテるんだ、俺とか沖田って。沖田は、変態親父がドMでさえあれば全然OKどんと来い!なんて言ってたけど。

「じゃ…土方、しよ?」
抱き着いたまま、俺は土方を見上げて言った。

「えっ?」
いや、あの、その…と土方がまごついている。そりゃそうだよな、だって俺も土方もネコだし、タチるの無理だし。

「とりあえず帰ろう土方」
「晋〜!」
「お、おう。あ、高杉お前電車か?」
俺のトラウマを知ってる土方は俺の横を歩いてついてきてくれて。

「辰馬なんかシラナイ」
「晋ー!!」
さっさと歩き出した俺達の後ろを、半泣きの辰馬が追いかけてきた。半泣きで謝るくらいなら、最初から浮気なんかするなっつうの馬鹿っ。

ぐしゃぐしゃ泣いたまま歩く俺を、宥めてくれている土方と、その後ろから謝りまくりながら追い掛ける辰馬の3人は、駅までの道でやたら注目を浴びていたけれど、それでも俺の涙は全然止まってくれなかった。

駅のホームで泣きながら小太郎に電話して、俺は土方に付き添ってもらったまま急行に乗った。
もちろん辰馬も追い掛けてきてたけど。
この後すぐバイトがあるって言う土方とは、小太郎の家の最寄駅のホームで別れて。9時過ぎたら電話出れるから、何かあったらかけてこいって土方は言ってくれた。たぶん、今日中に沖田にも伝わるんだろうな、この話。

「晋助、ごめん!」
ホームから改札への階段を降りる時、辰馬が近づいてきて俺の腕を掴んだんだけど。

「触んな!」
俺は、怒りに任せて、そのまま辰馬の腕を振り払ってしまった。

「し、ん…」
ビクっと身体を震わせたのがわかった辰馬の顔を見たくなくて、俺はダッシュで階段を駆け降りて、定期で乗り越した分を精算して改札を出た。
改札の前までは、小太郎が迎えに来てくれていた。

「晋助、お前1人で来たのか?大丈夫だったのか?」
もちろん、俺が1人で電車に乗れないことは小太郎も知っている。

「土方と一緒だったケド、辰馬もついて来てた」
小太郎は俺の後ろの改札内を見回しているんだけど。

「…いないぞ、坂本」
(!?)

もしかして、もしかして俺がさっき、手を振り払ったから。

「だって、今、階段までついてきててっ…」
脳裏に甦るこないだのコト。『晋助に嫌われたら、もう生きていけん』って、飛び降りようとしてた辰馬。

「小太郎、俺っ、俺っ」
こないだのこと、小太郎は話に聞いてしか知らないんだけど。それでも、俺に『嫌いだ』と言われた辰馬が取った行動はちゃんと俺から話してあって。

「ちょっと待ってろ。あー、…そこの、駅員さんの近くにいるんだ!」
「ムリ…っ、小太郎…」
こんなとこに1人で置いて行かれたら。

「すぐ戻って来るから!」
何かあったら駅長室で休ませてもらえと言い残して、小太郎は定期で改札の中に入って行った。ここは急行が停車する大きい駅だけあって、人通りも多い。帰りのラッシュの時間になっていたから、尚更利用客は多くて。何かあったら、駅員に言えって、小太郎は言ってたけど、そこまで歩くのが辛い。改札から出てくる人にぶつかる。

「あっ…」
そんなに強くぶつかったわけではないんだけれど。脚が縺れて倒れてしまった俺に誰もが無関心で。

立てない。息が、息が苦しい。

「大丈夫ですか?」
通りすがりの女の人が声をかけてくれたんだけど『助けて』って声が出ない。

「ハァ、ハァ、ハッ、はっ、はっ…」
息が苦しい。

「駅員さん、この子過呼吸!」
女の人が抱き起こしてくれて、改札の横から駅員が出てきて。
俺の周りに人が集まってきた。周りの人の1人が、口元にビニール袋を当ててくれて、大きく息を吸えとか言われてるけど、苦しい、苦しい、苦しい。

「晋助!!」
改札から飛び出してきた小太郎の姿が見えたけど、助けてって声はやっぱり出なくて。手を伸ばしたら小太郎が掴んでくれた。

「大丈夫だから、落ち着け!大丈夫だから!」
小太郎が周りの目も気にせず頭を抱いて撫でてくれて俺はようやく、少しずつ呼吸ができるようになってきて、落ち着いてきた。

最初に俺を助けてくれた女の人や駅員が変な目で俺達2人を見ていたけど、小太郎は上手く『弟なんです』ってかわしてくれた。確かにそんなようなモノだけど。

俺がようやく落ち着いて、立ち上がれるようになって。お礼を言ったら、駅員は戻って行ったし、女の人も帰って行った。
俺は、小太郎に腕を引っ張られて、駅前のスターバックスに連れて行かれた。ちょっと寒いけど、煙草を吸う俺のために、席は外。

「小太郎…た、辰馬…は?」
俺の前の席に座った小太郎に、小さな声で尋ねてみる。

「一旦帰らせたぞ。お前はどうする?」
「俺は…」
どうすると聞かれても、言葉が出てこなかった。

「坂本が、…浮気したんだろ」
まだ何にも話してなかったけど、泣きながら俺が電話をかけた時点で何があったのか小太郎はわかったみたいだった。

「小太郎…、辰馬は、なんで、なんで…」
なんで浮気するんだろう。そんなに、俺じゃ駄目なのかな。確かに、もう3日くらい、辰馬とはしてないけど。セックスできない俺なんて、いらないんだろうか。俯いたまま、いろんなことを考えていたら、また涙が溢れてきて。

「晋助…。そんなに辛いんだったら、別れてもいいんだぞ?」
「!!…小太郎!」
「お前と坂本が別れたって、あのマンションに集まる飲み会はなくならないから。昼休みも、いつも通りだ」
桂は、高杉と長い付き合いだけあって、周りのことを先に心配してしまう性格をよくわかっていた。

「お前が、どうしたいかだ、一番大事なのは」
「俺が…?」
俺が、どうしたいかなんて言われても。

「俺は、俺は…」
ちゃんと自分の気持ちを考えようと思ったって、頭に浮かんでくるのは辰馬の顔ばっかりだった。いつもの笑顔、ちょっと照れた顔、勉強してる時の真剣な顔、青ざめて『もう生きていけない』って言った時の顔。

馬鹿野郎、死にたいのはこっちの方だ。

「小太郎…。俺、俺はっ」

それでもやっぱり辰馬が好きだって言葉は泣きすぎてちゃんと声にはならなかった。

「…わかった」
それでも小太郎は、自分の飲み干したカップを捨てて、ほとんど口をつけてない俺のコーヒーを持ち、俺を促すとマンションの方に向かって歩き始める。そして、歩きながら電話をかけた。

「坂本か?…ああ。お前、迎えに来る気があるなら迎えに来い。…ああ、俺の部屋だ」
「小太郎!」
電話が終わった小太郎の腕を、衝動的に掴んでいた。

「あんな人目のあるところで、話すよりはウチの方がマシだろ?」
ごめん。…あと、ありがと、小太郎。

***

30分もかからずに辰馬は小太郎のマンションまで俺を迎えに来た。
ベッドの上に座っていた俺に辰馬はいきなり土下座した。

「晋助、ごめんなさい」
辰馬がこうやって、土下座するのって、何回目だったっけ。

「辰馬は、セックスできない俺なんか、いらないんだろ?」
「晋っ!」
「前みたいに、毎日できないから、だからもう、いらないんだよな」
辰馬を見ているのが辛くなって横を向いたら、小太郎も口許を手で覆って壁の方を向いていた。いきなり生々しい話になったからかな、小太郎ノンケだし。俺らがヤってるとこなんか…そうだよな、想像したくもないよな。

「晋、わし、そんなこと、思ったこともないぜよ」
「じゃあ、なんでっ!!」
怒鳴るような声を上げながら顔を正面に戻したら、辰馬の両目からボロボロ涙が零れ落ちていた。

「晋、ごめん」
そんなのってズルイ。泣きたいのはこっちだ。さっきまで、散々泣いてたけど。

「お前、ズリィよ」
そうやって泣かれたら、文句も言えねェじゃねぇか。

「小太郎、酒!」
俺は立ち上がって、勝手に冷蔵庫を開けた。

「おい、高杉!」
ビールくらいはあるだろうと思ったけど、小太郎の冷蔵庫にはチューハイしか入ってなくて。まァ、とりあえずはコレでいいか。俺は冷蔵庫の前に立ったまま、缶チューハイを一気に飲み干した。

「足りない」
「し、晋…」
辰馬が泣いたまんまの顔で固まっていた。だけど、そんなこと知らない。

「ワインしかないぞ?」
「もう、なんでもイイ」
小太郎が冷蔵庫の野菜室から取り出したのは、タオルでぐるぐる巻きにされた赤ワイン。さっさと栓を抜いて、俺は戸棚から適当に出したグラスについでぐいぐい飲み始めた。

「高杉、ワイングラスあるんだぞ?」
「そんなんじゃなくてイイ」
ちょっと呆れた顔の小太郎が自分のグラスにちょっとだけワインを注いで。辰馬にも促してたけど、辰馬は断っていた。

赤ワインはあっというまになくなって、次に小太郎が出してくれたのは白。どっちだって、なんだってイイ。味わいもせず、俺が一気に飲み干すもんだから、この2本目もどんどん減っていく。

「高杉!もっと味わって飲めっ!もうコレで最後なんだぞ?」
「じゃあ買ってきて」
手を出す小太郎に財布を渡して。このマンションの隣のマンションの1階は、実は酒屋さんになっていた。近くのコンビニも酒は置いている。だから、小太郎は焼酎と、ワインを2、3本、それから500mlのビールを1本だけ買って5分もしないうちに戻ってきた。

冷えてないから、という小太郎が、ワインをタオルに巻いている間に、空になったグラスに氷を入れて、そのまま焼酎を注いだ。『神の河』だった。

「ないよりはマシだろ?」
1本だけ買ってきたビールを辰馬の前に置きながら小太郎も、新しいグラスに氷と焼酎を入れて。

「桂、わし、飲みに来たんと違うんじゃけど…」
「仕方ないだろ。それに、潰れるつもりだぞ、高杉。連れて帰れよ」
さすがにイイ気分になってきて、辰馬と小太郎が何を話しているのかがよくわからない。聞こえているんだけど、なんだか上手く、認識できなくなってきた。

「晋助、飲み過ぎじゃよ!」
「うるせェ!浮気者!」
俺の怒鳴り声に、辰馬が一瞬ビクっと身体を震わせた。

「俺の気も知らねェで浮気ばっかりしやがって!」
俺はロックのままの神の河を一気に煽った。

「これだけ浮気されても、まだテメェが好きだなんて。俺、もう、どうしようもねェよ!大馬鹿野郎だよ!」

そこまで一気に言い放って、泣き崩れた高杉に、酒を注ぐフリをして水だけを入れたグラスを渡してやる桂。
酒の勢いを借りなければ本音を言えなかった高杉の素直じゃない性格なんて、桂は慣れっこだった。

「坂本、お前は?」
高杉の背中を撫でながらどうなんだ?と問うた桂に促され、展開についてゆけず固まっていた坂本は、ビールを一気にぐいっと煽った。

「晋助、ごめんなさい」
さっき、駅の階段では拒絶されてしまったけれど。坂本はゆっくり、ゆっくりと高杉に近づいてゆく。

「わしが、本当に愛しとるのは、晋だけじゃ」
そっと、顔を覆っていた手を握ってやると、ぐしゃぐしゃの泣き顔のまま晋助は顔を上げて。

「俺、前みたいに毎日なんかできねェぞ」
ああ、晋助に、そこまで悩ませていただなんて。

「俺だってしてェけどっ!なんかっ、なんかが浮かぶんだよ頭ん中にっ!」
こわい、と呟きながら、また両手で顔を覆って泣き出した晋助の細い身体を抱いてやった。

***

わんわん泣き続ける高杉が、泣き疲れて眠ってしまうまで坂本はずって抱きしめて頭を撫でていて。もう放っておいても大丈夫と判断した桂は、空き缶や空き瓶を軽く片付け、1人でゆっくりと酒を飲んでいた。

完全に高杉が眠ってしまったのを確認した坂本は『わしにもくれんかの?』と酒を要求して。高杉の身体を抱いて離さない坂本と俺は、2人で静かにグラスをぶつけ合った。

「坂本。…やるならバレないようにやれ」
「すまんかったの…桂」
巻き込んでしまってと頭を下げる坂本。
コイツに浮気をするなと言うのが無理な話で、言うだけ無駄なことは最初からわかっている。それでも坂本は、晋助と出会う前に比べたら、その手の噂は相当減った。
一番すごいもので、『男も女も、クラス全員とヤったらしい』というのがあったが、俺や陸奥を筆頭に、坂本の友達は全員『アイツならやりかねん』と納得したくらいだったから。

「お前は、高杉が好きなんだろ?」
どれくらい?と尋ねたら、坂本は少し赤くなって目を逸らした。

「言葉では、言い表せんくらいじゃよ」
ずーっとずーっと一緒にいて、ジジイになって、わしが死ぬ時は、晋助に看取ってほしいのう、と坂本は晋助の頭を撫でながら、穏やかな表情で静かに語った。

「だったら泣かすな、馬鹿者」
「わかっとるぜよ」
晋助に無理させたくなくてヨソに行ったのに、裏目に出てしまったぜよと、困ったような顔で呟いたそれが坂本の本心なんだろう。

「とりあえず、一休みしたら帰ってくれよ。俺は課題をやらなきゃならないんだ」
「わかったぜよ。すまんかったのぅ」
しばらくして、坂本は眠ったまんまの晋助を背負って帰って行った。きっとタクシーに乗るだろうから、大丈夫だと思う。

晋助のやつ、あんなに泣いて、明日は昼過ぎまで学校に来れないだろうな。顔がパンパンに腫れて。
とにかく、あの2人が仲直りできたのなら、それでいいと思いながら、酔い醒ましにシャワーを浴びた後、俺は学校の課題に取り掛かった。


END



LOGにあった突発文に加筆修正しました。タイトルLachenalia(ラケナリア)は花の名前で、花言葉は「移り気」です。
うちの辰馬は、どーしようもないんです、スイマセン(汗)今回の話、時期はIHBAの直後くらいでした






















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