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セブンイレブンでもらった地図を見ながら。とりあえず帰る方向のことを考えて、南に向かって歩こうかって話になったんだ。

そうだ 京都、行こう・3 五条-帰都篇


明日の2限は古典の、しかも和歌の授業だから、どうしてもそれまでには帰りたいって。わざわざ言わなくても辰馬にはわかっているみたいだった。

平安神宮の鳥居からセブンイレブンまで歩いて来た道を、せっかくだからそのまま真っ直ぐ下って行く。
昨日レーザービームが出てた青蓮院に行くか?って辰馬に聞かれたけど、どうせならやっぱ青いライトアップが見たかったから素通りした。その隣は知恩院。世界最大の木造門はとりあえず写真に収めてここも素通り。
今夜来れるかどうかはわかんねェけど。

知恩院を過ぎたら円山公園だ。ここはさすがに人が多いよなァ、いつでも。辰馬は早速、屋台でカップに入った唐揚げ買ってて、俺も1つもらった。

「おっ、見つけたぜよォ」
お土産屋が並んでるあたりを、唐揚げを食べながら歩いていたら、いきなり辰馬に腕を引っ張られて。なんだろうと思ったら、辰馬が手に取ったのは『ご当地目玉の親父』だった。『ご当地キティちゃん』は有名だけど『ご当地ドラえもん』とかもあるんだなァ。ご当地キティちゃんが流行ったからなんだろうけど。

新撰組や、おたべの形になってる目玉の親父を全種類買ってる辰馬。

「それ、誰の土産?」
見つけたって言うからには、わざわざ探してたのかなって思ったら、なんだか嫉妬しちまって聞いたんだけど。

「晋、知らんがか?…桂が集めとるじゃろ?」
「はァ?小太郎がっ?」

全然初耳だった。でもアイツ、確かにちょっと変わったの好きだから、納得っちゃー納得。

「全然知らなかった」
「埃たかるーって、隠しちょるからのー」

キティちゃんでもドラえもんでもなくて目玉の親父って、そのマイナー路線は確かに小太郎らしいけどさ。なんか、土産を渡す相手が小太郎だって聞いて、嫉妬心もどっか行っちまったし。小太郎ならいいや、って。

「桂にコレ買ったら、銀時にもなんか買わんとのー」
「銀時は八ツ橋でいいんじゃね?」
あとは抹茶チョコとかさ、甘いモノ買ってやったら十分な気がする。

「それもそーじゃの、産寧坂の方行くかー」
円山公園を抜けて、結局昨日と同じ高台寺方面へ。清水寺までの参道は、とにかくお土産屋にはこと欠かないから、そっちへ登ろうってことになった。

「人力車いかがですかぁ、人力車…アレ?」
昨日キャッチに引っ掛かったところをまた歩いてたら、やっぱり人力車がたくさん並んでて。

「昨日乗ってもらいましたよねェ?」
「えっ、何?覚えてんの?」

辰馬がまた乗るって言ったらどうしようかと思ったけど、お土産買うモードになってるみたいで。

「今日はどこ回るんですかぁ?」
「今からは清水寺方面でお土産屋回りじゃき!」

声を掛けてきたのは昨日のお兄ちゃんとは違う人なのに、なんで覚えられたんかなぁ?やっぱ男2人だったからか?

「行ってらっしゃーい」
人力車のキャッチにあっさり見送られたところで辰馬が『トイレ』って。そう言えば辰馬、昨日もここでトイレ行ったよな。

辰馬が出てくるまでベンチに座って煙草を吸っていて。吸える時に吸っておかねェと、全部が全部平安神宮みたいだってことは有り得ねェからな。

トイレから出てきた辰馬は、そのまま自販機でお茶を買ってきてくれた。

「晋、地図見せてー」
「んー」

もちろん地図は2つ貰ったんだけど、両方共俺の鞄の中に入ってる。辰馬は、今いる場所を確認してから南の方へ目を向けているみたいだ。

「晋、六波羅蜜寺って、平清盛像あったのう」
「ァあ、教科書に載ってるやつな。空也上人像とかもなかったか?」

行ってみようって話になって。二年坂から産寧坂を登って、清水寺には行かずに、清水道を下って六波羅蜜寺を目指すことになった。

「そうと決まれば歩くぜよ」
「それはお前だろーがよォ」
すぐタクシー乗るって言いそうなのは辰馬の方じゃねェか。

「晋が歩けるんなら、わしは構わんのじゃあ」
「馬鹿にすんな、歩くわっ!」
体力だけなら、俺なんかより辰馬の方が全然あるはずなんだからさ。

「じゃったらえいよ」
微笑みながら頭を撫でてくれた辰馬がタクシーに乗りまくる理由が俺だなんて、その時は全然知らなかったんだ。

霊山観音とか霊山歴史館とか、清水三年坂美術館とか、地図に載ってるのだけでもいろいろあったけど、全部飛ばすことにして清水道との合流点を目指す。ただし、土産物屋にはやたら入ったんだ。八ツ橋は嵩張るからってまだ買わなかったけど。

「ちょっ、辰馬!これ、写メ撮るっ!」
俺が見つけたのは『レディスインさかた』って、旅館の看板。銀時が女装して女将やってる姿を想像してしまった。

「銀時ならほんに、やりそうじゃからのー」
「だろ?絶対小太郎も女装して手伝うぜ」
その写メは、速攻で銀時に送ってやった。

辰馬が冬だってのに舞扇堂で扇子を買って(自分のらしい)、俺にもって買えって言ったんだけど、選べなかったから俺は『今度にする』って。あとは沖田達に一味唐辛子とか、要するに嵩張らないものを買って行って。清水道との合流点で昆布のお店に入る。みんなの分の梅昆布を辰馬が買って、そこからはいよいよ下り坂。

和柄の小物とかお土産屋を見ながら歩いてるから、結構な距離来てるってのに全然辛くないんだよな。

清水道を降りたら、東大路通を渡って、まだ下る。六道珍皇寺は、小野篁があの世とこの世を行き来したっていう井戸が見れてさ、なんかすっげぇ興奮しちまって、阿倍晴明がどうとか陰陽道がどうとか言いかけたんだけど、それを辰馬に話す前に六波羅蜜寺に着いちまった。

西国三十三ヵ所の一つでもある六波羅蜜寺は、そんなに大きくない寺なんだけど(多分昔はデカかったはず)、それがかえって、清水寺みたいに観光客で溢れ返ってるってこともなくてさ、なんかスゲェ落ち着くの。

奥の銭洗弁天のところで、俺がお守りとか見てたら、おばちゃんが話しかけてきた。

「どっから来たのー?」
「あ、東京デス」
「晋、なんで恋愛のお守りなんか見とるんじゃーっ!」
「え?」
たまたま俺が手に取ったのがそうだったらしい。

「わしというもんがありながらァー!!」
ちょ、待て待て待てって!!ぎゅうって抱き着いてきて、キスくらいしてやらなきゃ治まらない勢いの辰馬だけど。おばちゃんが見てるっての!この馬鹿っ!

「たまたまだろうがっ!どんなのかなって」
「もー、わし自信無くすぜよー」

恥ずかしいからヤメロって言ってんのに、結局ズルズル引きずられて行って、銭洗弁天の事務所の裏で、おばちゃんや見えない、誰もいないところでキスされちまった。

「もーいいだろうがっ!」
おばちゃんの前の椅子に置き去りにしてしまった鞄を取りに行ったら、こんなに騒いでるのに、嫌な顔一つしないでおばちゃんは笑ってくれた。

「宝物館見た?もう少しでツアーの団体来るから、行くなら早く行った方がいいよ」
「ホントに?おい、辰馬っ!」

こっちに出て来ないと思ったら、辰馬は銭洗弁天と水子観音の説明書きを読んでいた。

本当に一瞬だけど、辰馬なら水子くらいいるのかも…なんて、思っちまった俺って最低だ。(だってあんまり真剣だから)

「辰馬、団体来るんだって。だから宝物館」
「お?ほうかー?…来たようじゃのー」
俺の頭を通り越して辰馬が見てる先に人だかり。遅かったか。

「あの団体と一緒に行けば、中で説明聞けますよ。混むけどねぇ」
「ホントに?辰馬、早く行こ!」
拝観券は先に買ってあったから。靴を脱いで団体に紛れて宝物館へ。広くはないんだけど(ってかむしろ狭い)、宝物館の中は国宝の山だった。

一通り説明を聞いて、団体が少しずつ出て行ってから、一つずつ見て回る。空也上人像の前には、ノートが置いてあって、みんな何書いてんのかなと思った瞬間、腰が砕けた。

「た、たつ!見てっ!」
平清盛像まで行ってた辰馬を呼んで。だってさ、ノートには、いかにも女子中高生が書きましたってハートマークが散乱してたんだ。

「ほぉ…」
『空也上人大好きです(ハート)』『空也様に会いたくて青森から来ました(ハート)』『空也大好き(ハート)』みたいな感じなんだって、マジで。

「えいんじゃなかか?」
にっこり笑ってノートを置いた辰馬。あれ、なんか反応が予想と違うんですけど?

残りの像も全部見て、宝物館から出る時に辰馬がポツンと呟いた。

「日本もまだまだ、捨てたもんじゃないのぅ」
「えっ…?」

辰馬の言い分では、彼氏とかケータイにしか興味なさそうな女子中高生でも、ああやって空也上人像を見に来る子がいるのだと。ああやって若い子が、昔からあるものに興味を持ってわざわざお寺に見に来てるという事実だけでも、まだまだ日本は捨てたもんじゃないって言うんだ。

「それはそーかもなァ」
でもお前さ。

「俺達だって若いと思うんだけど?」
「それもそーじゃの」

辰馬に比べたら、俺って頭堅いのかなって思った。ノート見た瞬間『大好きです(ハート)』はねェだろって思っちまったからだ。なまじ知識があるが故に、俺なんか『馬鹿にしてんのか?こいつら?』って、思いかけたからだ。

六波羅蜜寺の御本尊は、12年に1回しか公開されない秘仏だ。だから、軽くお参りしてからまた、靴を履いて銭洗弁天のおばちゃんのところに戻る。なんだか辰馬が、えらい気になってるみたいだからだ。

「おばちゃん、コレどうすんのかのぅ?」

小さい笊の上にお金を乗せて3回に分けて水をかけるんだって。もちろん願いごとしながらな。そのお金は拭いちゃ駄目で、その後も使わないんだって。鎌倉の銭洗弁天は、洗ったお金を使わなきゃ駄目らしいんだけど。

案の定、辰馬は説明を聞いて迷うことなく万券を洗ってた。願い事は教えてはくれなかったけど。2人一緒にお守りの中に包んでもらって、中に入ってたキーホルダー型のお守りは財布につけた。これが引っ掛かったおかげで引ったくりからの難を逃れた人とかもいるんだってさ。

おばちゃんに御礼を言って六波羅蜜寺を後にする。さぁ、次はどうしようかって、言ってる時に辰馬の携帯が鳴った。

「……わし、京都なんじゃけど…………なんじゃと?ほんとか?陸奥?」
電話の相手は陸奥らしい。ってことは、なんか急ぎの用事じゃねェのかな?

俺の予想は大当たり。どうやら教授が呼んでるとかって、直ぐにでも帰らなきゃならないみたい。それもそうか、辰馬は4回だから、週に2回しか授業がないんだけど、その週にたった2回のうちの1回は昨日の月曜日なんだから。

「すまんのォ、晋」

今から急いで帰らなきゃならなくなってごめんって、めちゃくちゃヘコんでる辰馬と川端通を目指した。そこからタクシーを捕まえて京都駅まで行ってしまうつもりだ。

「仕方ねェだろ。俺は、楽しかったから全然構わねェぜ」
タクシーの中で、俺がいつもしてもらってるみたいに辰馬の頭を撫でてやった。

お土産の八ツ橋は、京都駅で足りなくならないように大量に買いまくって、俺達は一番早い新幹線に乗った。またまた10号車。

***

真っ直ぐ大学に向かう辰馬とは、家の最寄り駅で別れた。辰馬が大学に持って行く以外の八ツ橋は俺が家まで運ぶって言って。本当は辰馬が、俺には重たい物持たせたくないって言って、1回帰るって言ってたんだけど、遅くなってるんだから早く行けって言ってやってさ。
そのかわり、小太郎や銀時達呼ぶからなって。2箱残しといてくれたら、後はいつもの飲み仲間連中に八ツ橋はあげてもいいんだって言うからさ。

沖田や土方にも『京都行ってきた、お土産あるからウチに来い』って連絡したんだけど、早々と遊びに来たのは、遠いはずの小太郎と銀時だった。まぁ、この2人は俺らが京都行ったの知ってるしな。

「やほーい!八ツ橋と抹茶チョコ?晋ちゃんさすがァ!」
「あ、そうそう。小太郎には、辰馬が違うモン買ってたぜ」

違うモンってのは、もちろん『ご当地目玉の親父』のこと。鞄に入れっぱなしで大学行っちまったな、アイツ。でも、辰馬が買ったんだから、辰馬から渡した方がいいよなァ。

「それは木曜日に頂くとしようか」
木曜日ってのは、唯一辰馬と小太郎が学校で会う日なんだ。

梅昆布は小太郎と銀時で一つ。ご飯に乗せてお茶かけたら、そのまんま梅茶漬けになるって優れもの。大学生には強い味方だよなァ。

「晋ちゃん晋ちゃん、京都どうだったァ?」

お土産話も聞かせてよって銀時が言うからさ。人力車に乗ったら並ばなくて良かった話とか、地図広げながら、甘味屋教えてやったりしてな。辰馬が強引に行こうって言ってくれなかったら、絶対行ってなかったと思うんだけど、とにかく楽しかったって話して。

やっぱ俺ら国文には京都は聖地だとまで言ったら、それは言い過ぎだって銀時は言うんだけど。

六波羅蜜寺の平清盛像を見てきたって話から、源平合戦の話になってさ、散々話に夢中になってから小太郎がさっきからずっと黙ってることに気がついてしまった。

「小太郎…?」
「いや、俺は聞いてるだけで十分だ」

話に入っていける程、その辺の歴史には詳しくないからってさ。そう言われて初めて気付いた。

「えーっ、ヅラがわかんない話は止めるぅ!晋ちゃん、もーマニア話終わりにしよー!」
「そーだな」

今まで散々馬鹿にしてきたけどさ、俺と対等に話してたなんて、銀時もなかなか歴史詳しいじゃねェかってこと。俺が寝てる間に俺の本読んでるらしくって、なんか専門でもないのにやたら詳しくなってる辰馬にさ、時々間違いを指摘されてる銀時がだ。国文のくせに、口癖みたいに『銀さん活字苦手〜』って言いまくってる銀時なのに。

「そーだ!晋ちゃんいいもの貸してあげる」
「なんだよ?」

銀時の鞄の中から出てきたのは『源氏占い』って本。姓名判断らしくって、俺は匂宮。

「駄目駄目ー!姫の方見なきゃ」
「ハァ?」

だから俺は男だって言ったんだけど、小太郎までが女の方見てみろって言うから仕方なく。

「晋ちゃん夕顔かァ…。どんな感じ?」

俺が読んでる横から銀時と小太郎が覗き込んでくる。『やっぱ当たってるー』『そうだな、この本やるな』なんて2人は言ってるけど、俺自身は特にそうとは思わずにページをめくって行く。むしろそんなに当たってるかなァって思いながら、『あなたの恋はどんな恋』ってとこまで読み進めた時。

俺はもう、本を持ったままパタっと倒れてしまった。

「晋ちゃんどうしたのっ?」
「しっかりしろ、晋助っ!」

なんとか2人に助け起こされて。ここ読んでみろって見せたら、次の瞬間、2人共大爆笑しやがった。

「なはははは、晋ちゃんソレ、当たりすぎじゃないのよー!!」
「まったくだな。俺や銀時でさえ、そこまで当たりは書かれてなかったぞ?」

問題の箇所はこうだ。

『いつだって恋が一番。好きな人ができたら頭の中は彼のことでいっぱいになって、勉強も仕事も二の次になりがち。』

当たってる。怖いくらい当たり過ぎてる。まさに俺の欠点中の欠点はそこだ。『あー、やっぱ俺、坂本のこと好きなんだー』って自覚してしまった昨年の春から、1日たりとも、辰馬のことを考えなかった日はない。

「お前らはどうだったんだよ?」
「えーっと、銀さんが葵の上で、ヅラは藤壷だよん」

銀時が言うには、たまたま本屋で見つけて立ち読みして。自分と小太郎が当たっていたから買ったらしいのだ。もちろん、それは姫の方で調べてなのだけれど。

「これ貸しといて!じっくり読むわ」
「いいよーん」

まさか銀時から本を借りることになるとは思わなかったけど。それから、辰馬が帰ってくるまで3人で話しててさ。辰馬が、俺達が飲んでなかったことに驚いたくらいだった。

沖田と土方は、連絡ないってことはセックスでもしてるんだろう。お土産は別に明日でもいいからな。

辰馬から小太郎に『ご当地目玉の親父』が手渡されて、小太郎の喜び方が半端じゃなかった…って言うか、ちょっとこっちが引くくらいの喜び方でさ。俺も銀時も、小太郎がそんなの集めてるって知らなかったから、スゲェ驚いてさ。小太郎は、コレクションを押し入れの中に隠してあるらしい。正確には、隠してあるわけじゃないんだけど、しまい込んでて、銀時も見たことないらしい。

「ヅラってェ、もしかして、あっちこっち出張行くために、ライターになんの?」
じぃーっと小太郎を見つめる銀時の目が厳しい。

「そういうわけではないが…」
「あやしいーっ!」

小太郎は就職後、東京本社勤務になったとしても全国あちこちに取材という名の出張があるらしい。4月からは今までのように毎日一緒にいるなんてことは、小太郎と銀時にはできなくなるってわけだ。そう考えたら、多分来年4月からもあんまり生活が変わらないだろう俺と辰馬って、恵まれてる。

拗ねてしまった銀時を小太郎が宥め始めて。痴話喧嘩なんて俺が口出すことじゃないと思うからさ、2人の様子を離れたところでニコニコ見つめながら携帯を触ってた辰馬の隣に座って、軽く抱き着いてみた。

「どーしたんじゃ?晋」
「なんでもない。…誰にメールしてんの?」
「似蔵と東城に、いつ八ツ橋渡そうか思ってのー」

陸奥にはさっき大学で会って渡してきたんだって。2箱残しておけってのはそういう意味だったのか。やっぱ辰馬って優しいよな。みんなにちゃんとお土産買って来るんだもん。

「余ったらさー、また子にもあげていい?」
「構わんぜよ。けど、またちゃん、八ツ橋なんて食べ飽きてそうじゃけどのー」
「………それもそっか」

もし万斉が実家に帰って来る度に買ってきてたとしたら、そうだと思う。

「ちょっとー、何、いつの間に2人の世界やってんのさァ!」
痴話喧嘩はあっさり終わったらしく、ソファの後ろに回ってきた銀時に俺は軽く頭を叩かれた。

「何すんだよ、馬鹿銀時!」
「銀さん達電車なくなっちゃったから泊めてよォ」
「好きにしたらえいじゃろー」

携帯を置いた辰馬が、銀時に叩かれた箇所を撫でてくれる。別に、そんなに痛くはなかったけど、辰馬の手が気持ち良かったから俺はそのままにしてた。

「晋助の部屋借りるぞ」
「借りたら返せよォ」
「アッハッハ、それは面白いのぅ」
「…そう?」

多分、1週間たりとも、辰馬と会えないなんて俺には無理だ。俺は夕顔でいいや、辰馬のことで頭いっぱいで。

***

ベッドに寄り掛かって、上半身だけ起こして座った辰馬の腰のあたりに乗って、俺は首筋や鎖骨のあたりを舐めていた。時々、ぴくんって辰馬の身体は跳ねるんだけど、くすって、押し殺したような笑い声が漏れてくるから、気持ちいいんじゃなくてくすぐったいだけなんだって思う。

だってその証拠にホラ、辰馬のアソコ、勃起してねェんだもん。
なんで同じ人間なのにここまで違うのかなーって思っちまう。俺なんか、辰馬に肌触られるだけでギンギンだっつぅの。

たまには頑張って攻めてみようかなんて思ったのに全然余裕の表情で。乳首舐めてたら、背中に辰馬の腕が回ってぎゅうっと抱きしめられた。

「晋、くすぐったい」
抱き上げられてキスされてさ。それだけでこっちの方が感じちまって。あー、なんか悔しい。

元々けっこう感度は良かったけどさ、俺は。それが辰馬と付き合ってから開発されて今じゃ全身性感帯だってのに、その逆は無理みたい。ってか、俺じゃ辰馬を開発してあげらんないのかなァ。くすぐったいところは感じるようになるって言ったのは誰だよコノヤロー。

「晋、帰って来てから言うのもなんなんじゃけど」
「んー?」

なんだかはっきりしないモノの言い方で。辰馬は俺の背中に腕を回してて、胸に押さえ付けるみたいにきつく抱かれたたまんまだから表情も見えない。

「河上君に連絡せんで良かったんか?」
「…辰馬?」

俺が万斉に会いに行きたがるんじゃないかって、とにかく紅葉が見たくなって無理に行ったはいいけれど、京都には万斉がいるんだってことを、辰馬は途中で思い出したんだって。辰馬の声は、辰馬じゃないみたいに静かで、元気がなくて、もしかしたら泣きそうなんじゃないかとこっちが心配になる程で。

「お前だけ先に帰らせて、万斉んとこ行っても良かったなァ」
「しん…」
辰馬の腕が、ほんの少しだけ震えていた。らしくねェの。

「なーんてな」
「し、晋?」

動揺したのか辰馬の声がひっくり返っている。なんだかおかしくなって、俺は笑ってしまった。

「万斉に連絡するつもりは、最初からなかったんだっつぅの」

せっかくお前と行ったんだからさ、ずっと2人でいたかったって話したら、辰馬の馬鹿、本当に泣き出しやがった。泣くなよな、泣かれたら『名前間違えられたけどよ』って嫌味が言えねェじゃねェか。
辰馬が嫉妬深くて独占欲の塊だなんてのはいつものことだけど、特に万斉のことは心穏やかではいられないらしい。

「泣くなっつぅの、馬鹿」
「じゃって、晋は…」
「それ以上言うなって!」

辰馬の口からなんて、その続きを聞きたくなくて、俺は。辰馬の頬に手を当てて唇を塞いでやった。

(まだどっかで引きずってんのはお前も一緒だろーが)

そういえば夕顔は、光源氏と恋に落ちてから、頭の中将との辛い恋は忘れちまったんだったよな。そう、元はと言えば、俺だってコイツといれば、万斉とのことは忘れられるのかもしれないって思ったんだった。
『坂本の側にいれば、なんだか楽しい』と、『坂本といれば立ち直れるんじゃないか』って思ったんだ、俺は。
告白どころかカムするつもりすら、なかったのに、それなのに好きになったのは、辰馬がそういう人間だったからじゃないか。

辰馬と一緒に、こうやっていられるんなら、他のことは二の次。どうでもいいとまでは言わないけど、こうやって抱っこされてても離れてても、どっちにしろ俺の頭は辰馬でいっぱいなんだ。

「晋、クリスマスプレゼントは何がええ?」

辰馬に体重を預けて、おっきい手が背中を撫でていく温かい感触に、しばらく黙ったまま瞳を伏せていたら、いきなり辰馬がそんなことを言い出した。

「んー。……俺、なんもいらない」
辰馬の体温が気持ちいい。冬でも辰馬の手足はあったかいんだよなぁ。

「晋は欲がないのー。何でも欲しい物言うてえいよ」
欲しい物って言われても、そんなにすぐには出てこないって。

「じゃー俺、1日中、辰馬と一緒にいたい」
できることなら裸のまんまでさ、今みたいに。エッチは別として(してもいいけど)、こうやって、ずっと抱き合ってたいなァって言ったら。ズズズって鼻水をすする音が聞こえて俺は慌てて顔を上げた。

「辰馬…?」
ちょっと待てよ、なんでマジ泣きなんだよ、辰馬?俺、なんか、そんな変なこと言った?さっきので、なんか涙脆くなってねェか?お前。 「晋、わし、感動してもうたぜよ」

抱きしめられたまま、ぐるりと視界が反転して、今度は俺の上に辰馬が乗っかるような体勢になった。つまり、辰馬に押し倒されたってわけ。

「ほんに、晋は、わしにとっては天使のようなもんじゃあ…」
「何言ってんだお前は」

お前に救われてるのはいつも俺じゃねェか。お前がいなきゃ、俺なんてなんにもできないってのに。

「晋、キレイじゃよ」
馬鹿みたいにいつもの言葉をくれた辰馬の唇が首筋に押し当てられて。正直な俺の身体はビクンと跳ねる。

「ァ…、うあ…」
結局喘がされちまうんだよな、俺が。

泊まってる小太郎と銀時のことが気になったけど、どうせあいつらも同じようなことヤってんだろって開き直った。
あとはもう、辰馬がしたいようにしてくれたら、それでいいや。

***

ヅラと一つの布団に入って、ヅラの身体触ったりしながらイチャイチャしてたらさ、聞こえてきちゃったんだよねェ。

「…あいつら、こっちにはお構いなしだね」

どうやらヅラにも聞こえちゃってるみたいな、それはもちろん、高杉の喘ぎ声。それでも晋ちゃんの割には押し殺してるみたいでさ、こっちが普通に話してたら、多分聞こえないくらいの小ささなんだけど。

「仕方ないだろう、坂本の家なんだからな」
ただでさえ、イチャついてムラムラしてたってのにさ、あんな声聞いたら銀さん収まりつかないんですけど?

でも、ここでヅラから手を出してくる可能性は限りなく低い。家ならまだしもさ、ヅラってそーゆーとこ、やたらオカタイでしょ?

(ぁっ、ぁんっ、た、つまァっ…)
あー、晋ちゃん気持ち良さそう…。

「ねー、ヅラァ」
ここは銀さんから迫らなきゃ駄目かな、やっぱり。
ヅラの長い髪の毛を踏んづけてしまわないように枕より上に纏めて。

「銀さん達もしよ」
反論されないうちにヅラの上に覆い被さって唇を塞いでやった。

「銀時、お前っ!」
「大丈夫大丈夫。怒られはしないと思うしね」
ヅラのパジャマのボタンを一つ一つ外して行って、その白い肌に唇を押し付けていった。

銀さん我慢できないから、今日はタチらせてね。

***

駅の自販機でコーラを買って。通過していく急行を見送りながら電車待ちをしていた俺は、吹き出しそうになっちまったんでさァ。

「…新手の漫才ですかィ?」
坂本におぶさるような形で、引きずられてくる高杉と、フラフラ危なっかしい銀時の荷物を持ってあげた上に手を引いてる桂。

「この2人、低血圧じゃからのう」
アッハッハと、いつものように笑う坂本は全く元気だってのに。

というか、男同士のカップル2組だって、バレバレですぜィ、4人共。坂本が気にしてねェのは今更ですがねィ。

「もー、このいかにもまだ起きてませんっちゅー、晋の顔も、かわええじゃろー?沖田君」
「相変わらず馬鹿ですねィ」

そう思うのは彼氏の勝手だけど、それを公衆の面前で、堂々口に出すから坂本は馬鹿なんでさァ。こんな馬鹿が来年は院生って、うちの大学は大丈夫なんですかィ?

いや、そもそも、ここまで馬鹿も極めたら天才と紙一重ってもんか。いい見本かもしれねェ。

「桂達は泊まったんですかィ?」
「ああ。昨夜来たのが遅かったからな。授業の準備して泊まりに来たんだ」
さすが用意周到っていうか、それが普通ってとこがこの4人なんですかねィ。

「沖田君、晋から連絡行っちょらんかのう?」
「ああ、メール来てやしたぜィ」

坂本と2人で京都行って、お土産の八ツ橋があるから遊びに来いと。そのメールを俺の携帯が受信した時は、全く気付かなかったんですけどねィ。

実は、メールを見たのは今朝だ。十四郎と一緒で喧嘩もしていない時。あまり必要のない携帯は鞄の中に入れっぱなしになっていたから。
最初の電車がやってきて、桂と銀時は乗って行ったってのに、坂本は、おかげで空いた椅子に高杉を座らせて頬をペチペチ叩いてる。起こすつもりらしい。
ってことは、坂本は今日は授業なしか?まァ、どうせ次の電車でも余裕で間に合うから問題はなくて、俺も起きない高杉の隣に座った。

「ところで沖田君、土方君は…?」
坂本がまた喧嘩でもしたんか?なんて言うから張り倒してやった。

「アイツは朝から行きやしたっ!」
「そうじゃったんかァ、すまんすまん」

まったく、反省してんのかコイツは。喧嘩したって引きずらねェんでさァ、俺達は!お前らと違ってな!

「んじゃー、今日2人で遊びに来たらどうじゃあ?せっかく近いんじゃし」
「今日は無理ですぜィ」

不思議そうな顔の坂本に『野暮なこと聞くんじゃねェ』と一言。高杉がこんなになるまで寝せなかったヤツが何驚いてやがんだか。

「…ってか、高杉、このままじゃ絶対遅刻じゃねェですかィ?」
俺が連れて行ってやってもいいが、校舎が違うし、降りる駅も違う。

「じゃのう。…次の授業は、晋の大好きな古典の和歌の授業じゃき」
どうしようと、こんなところで悩んでいるってことは、坂本は用でもあるんだろうか。

「桂は銀時で手いっぱいじゃったからのう。わしも…」
しばらく腕時計と高杉を見比べていた坂本は。意を決したように携帯を取り出してどこかへ電話をかけはじめた。

「すまん、どーにか言うとってくれんかのう…?」

遅れるからなんとか上手く取り繕っといてくれというお願いの電話。相手は同じく来年から院生になる陸奥らしい。俺も飲み会で何回か会ってるけど、あの人ならどうせ、坂本が遅れる理由なんてお見通しなんだと思いまさァ。

「しーんー!学校まで送っちゃるからのう」

今の切実な電話とは打って変わって、語尾にハートでもついてそうな声出しやがって。ただ、残念ながら高杉は、今は聞こえているだろうけど、記憶に残らないだろうってくらい寝ぼけてる。

「うっせ、馬鹿」
高杉の寝起きの悪さには、俺も最初は苦労したもんですからねィ。

「坂本!来た、乗りやすぜィ」
「おー、わかっちょる!」

高杉を引きずった坂本と、八ツ橋は後日取りに行くって話して電車で別れたんでさァ。

高杉のやつは、授業始まってから、無事に起きたんですかねィ?
ってか、あれじゃあ、恋人っていうより、親子のような気がしたのは俺だけですかィ?


END



「そうだ 京都、行こう」シリーズは、これにて完結です!!12月中どころか、年内に終わらず…(クリスマスネタとか…遅いって…)


レディスインさかたw




















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