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ホラー映画を見ようなんて言い出したのは、多分桂だったと思う。

暗闇の体温


クリスマス前の、明日は祝日という日。あんまりにも寒いからって、6人で自分と晋助のマンションに集まってコタツを囲んで酒を飲んで。6人いるのにコタツの席が3つで済んでいるのは、1人分のスペースに2人ずつくっついて座ってるからだ。もちろん晋助も自分の膝の間に座っている。

「嫌だ!絶対見たくないっ!」
晋助は嫌だと言い張っていたけれど、沖田君はノリノリで、銀時と土方君は『別にいいぜ』なんて態度。

「晋、ホラー苦手がかぁ?」
「俺、なんか駄目なんだよ、ああいう系」

ぎゅうっと腕にしがみついてきたその姿に、ホラー映画で怖がる晋助もきっとかわいいのだろうなぁなんて、思ってしまった自分がいた。

「えいじゃろ、怖くなったらこっち向いときィ」
胡座で座った自分の膝の上に晋助を座らせて。恐くて画面が見れなくなったら、自分に抱き着いてくるだろうなんて下心もありつつ。

「それじゃあ」
用意して来ていたらしく、桂が鞄の中から出したDVDをデッキの中にセットして。晋助1人が嫌だと言っても却下されてしまう雰囲気の中、よりによって桂が持ってきたのは『着信アリ2』。

かくいう自分も、実は和製ホラーが大の苦手だったのだが、今更後には引けなくなってしまった。本当は目を閉じて耳も塞ぎたいところなのだが、晋助にくっつかれている以上、そういうわけにもいかず。少しくらいは平気なフリをしていないと格好がつかない。画面に流れている映像を、見ないわけにもいかない。

嫌だって言っておけば良かったかなぁなんて後悔し始めながら、晋助の身体を抱いてやって。怖いからくっついていたいのは本当は自分の方で。あんなに嫌がってた割に、晋助は意外と普通に見ているようだし。映画が1時間くらい進んでいよいよ佳境に差し掛かってきた瞬間だった。

パチって音がしたような気がして、突然部屋の電気が消えた。

「どーしたんでさァ?」
「なんだ?ブレーカーが落ちたか?」

電気という電気、部屋中全てが消えていた。部屋の照明にテレビ、コタツにエアコン、電気ストーブなど全てだ。

ごそごそと携帯を取り出した桂と沖田君が、カメラのフラッシュの機能を使って僅かに周りが照らされる。電気が消えた瞬間に、ビクっと震えて自分にしがみつき、そこからずっとぶるぶる震えたまんまの晋助の姿も、桂や沖田君には見えただろう。

「すまんがブレーカー見てきてくれんかの?わし、今ちょっと動けんぜよ」
「どこだ?玄関か?」
「脱衣所の上じゃき」

桂と沖田君が廊下に消えて、また部屋の中は真っ暗闇になる。目が慣れるには、もう少しかかるだろうか。
そういえば、銀時と土方君の姿が見えないな…と、晋助の頭を撫でてやりながら思っていたら、桂と沖田君が帰ってきた。

「坂本、ブレーカーじゃないぞ!停電じゃないのか?」
「なんじゃと?」

この寒いのに停電。凍死させるつもりか、電力会社は。

「やっぱりそうでさァ。ほら、街灯も消えてやすぜィ」
携帯電話の光を頼りに窓際まで行き、一旦カーテンを開けて確認を取った沖田君が言いながらコタツの前に戻ってくる。

「ハイっ、ただの停電でさァ!幽霊の類じゃねェって、十四郎」
真っ暗闇の中で、唯一の光源が携帯。だからわかりにくいのだが、沖田君はコタツ布団を捲くり上げて、その中に向かって話しかけているように見えた。パンパン叩いているのは土方君のお尻か。

「い、いや。マヨネーズ王国の入り口が…」
頭からコタツに入っていたらしい、土方君は。もしかして、恐くて恐くて自分にしがみついてきた晋助よりも、もっとすごい過剰反応をしたということなのだろうか。

「おーい、銀時ぃ!どこ行った〜?」
携帯の光で銀時を探しているのは桂。

「悪ィ悪ィ、銀さんトイレよトイレ」
そう言いながら、明らかにダイニングテーブルの下から出てきた銀時。

「嘘つくんじゃねぇ!こんな真っ暗闇でトイレなんか行けるかァ!」
「なによソレっ!土方君には無理でも銀さんには行けるんですぅ!」

ようやく目も慣れてきたようで、なんとなく銀時と土方君が動いているのがわかるようになってきた。

「んだと、コラァ!!」
「んだよ、やるかァ?」
「イタタタタタっ!やめろ銀時っ、それは俺だっ!」
銀時が掴んで捻り上げた腕は桂のもの。

「あーん、ごめんヅラァ!」
「2人ともいい加減にしなせェよ…」

くだらない意地の張り合いを始めた銀時と土方君の2人を、携帯の光で照らしながら沖田君が止めに入った瞬間。
またパチっと音が鳴ったような気がして、電気が復旧した。

「あ、ついた」
それまでずっと、自分にしがみついて胸に頭を埋めていた晋助が顔を上げた。

「おー、晋、大丈夫がかァ?」
「うん。なんか今の、すげータイミングだったよなァ」

そう、停電が起こったのはまさに絶妙のタイミングだった。だから本当は、真っ暗闇の中でも晋助の体温を感じられて、おかげで怖いと叫ばずにいられたのは自分の方だ。ぶるぶる震えていた晋助よりも、自分の方が怖がってしまっていた。多分、いろんな意味で晋助のおかげで、誰にも気付かれていないけれど。

「………銀時と土方、何やってんだ?」
晋助に言われて見ると、コタツ布団の端から、2人の脚がはみ出していてバタバタ暴れている。

「いや、だからマヨネーズ王国の入り口が…」
「パフェとお菓子のお城が見えて…」

2人は、ほとんど同時に、似たような言い訳をしながら起き上がって頭をかいた。お互いに背を向けながら。

「怖いなら怖いって、正直に言ったらどうなんでさァ?高杉みたいに」
恐らく、真っ暗闇の中、土方君を捜すこともなく居場所を当てた沖田君は慣れていたのだろう。長い付き合いの2人だから。

「だっ、誰がっ!別に怖くなんかねェっ!」
真っ赤な顔で真剣に怒る土方君。その、真剣さがかえって怪しいというか、怖がっていたんだなということを裏付けている。

「銀さんだって別にー。たっ、たまたま、ホラー映画見てる最中にっ、たまたまいいとこで、停電になっただけじゃないのよ」

銀時の声も上擦っている。どうやら、銀時も土方君も、意地を張っていただけで、自分と同じくホラーは苦手と見た。しかも、もしかしたら、自分以上に駄目かもしれない、この2人。

「俺さァ、意外と平気だったんだけど」
意外な声を上げたのは、一番嫌がっていたはずの晋助だった。

「小太郎、お前さ、なんかちっちゃい頃、俺に怖いビデオ見せなかったか?」

自分の腕の中に収まったまんまで。一番べったりしている自分達に触発されたのか、土方君や銀時もそれぞれの相手にくっつき始めて。少しの間とは言え、エアコンや電気ストーブが消えていたのだから、寒いことは寒いのだ。

「世にも奇妙な物語から四谷怪談、稲川淳二の怖い話。それに国内外問わずありとあらゆるホラー映画をお前が幼稚園の時から…」

立ち上がった晋助がだーっと走って、まだ話の途中だった桂の顔面に、ソファの上のクッションが連続で飛んだ。

「どーりでっ!なんかもー、トラウマみたいにホラーって聞くだけで怖いと思ったぜっ!」

無理矢理ホラー映画を見せられているうちに、幼い頃の記憶が蘇ってきたらしい。怖い怖いって、泣いてるのに見せられたのだと晋助は話す。幼い頃にそうやって見せられていたせいか、案外記憶が戻った後は普通に見れたとも。

幼稚園児の頃は既に今と変わらない関係にあった晋助と桂。わかっていたことなのだけれど、チクリと胸が痛む。幼なじみに嫉妬したって仕方ないことだとは、頭ではわかっている。頭では。

「じゃあ、電気も来たことだし、晋助も平気みたいだし。続き見るか?」

桂はかなりホラーが好きらしい。今までそんなこと、全く知らなかった。小さい頃から嫌がる晋助に見せていたのくらいから筋金入りだ。

「えー、見るのー?」
「マジで見んのかよ」

ほとんど同時に声を上げたのは銀時と土方君。最初はあんなに平然としてたくせに、やっぱり相当恐かったらしい。土方君は沖田君に腕を回してしがみつき、銀時も桂の腕を掴んで離さない。

「すまんが、実はわしも苦手なんじゃ」
晋助が自分の膝の間に戻ってきてから正直に話すと、驚いたようにみんなの視線がいっきにこちらに集まった。

「一番駄目なんはスプラッタ系なんじゃけどのー。流血モノとか。じゃけどわし、実はホラーも苦手じゃき」
途端に元気になったのは、銀時と土方君。

「ホラ、やっぱり無理して見ることないじゃないのよ!」
「そ、そうだぜ!桂1人で見たらいいんじゃねェのか?」

沖田君は『どっちでも構わない』という態度。これには桂も、仕方ないから続きは1人で見るか、なんて言い出して、デッキからDVDを取り出すしかない。

「なんかさ」
膝の間で、晋助が振り返って自分を見上げていた。

「血が駄目って、なんか辰馬らしいよな」
クスリと笑った晋助の体重が自分にかかる。自分を背もたれのようにして、身体を預けてきたのだ。

「なんか、ホント、辰馬らしい」
そう、繰り返した晋助の口調から、『それがイイ』と言われているような気がするのは気のせいだろうか。

怖がった晋助が抱き着いてきてくれないかという下心は達成されはしなかったけれど。これはこれでいいか、なんて思いながら、コタツの熱で温くなりかけたビールを口に運んだ。

後から知った停電の理由は、あまりの寒さで雪と強い風が送電線に吹き付け、ショートしてしまったからだったらしい。電車もしばらくストップしていたみたいだった。

どうせ雪が降るなら、明後日が良かったのに。


END



唐突に、数年前ホントに12/23に停電した(大阪で)ことを思い出して書いてしまいました。要するに土方君と銀時君が怖がりまくるギャグ(苦笑←ギャグになりきってない)。あの時はねー、ホントに寒くて死にかけたって!12/23は似蔵誕生日なんで1日ずらして前日で(苦笑)23日はもちろん、もっと大人数で宴会するはずですからね、やつらは。






















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