□title list□
 ※水色部分にカーソルを合わせると
 メニューが出ます

やけに緊張気味の辰馬に、ホテルのディナーに誘われたのは、だんだんと春らしくなってきた3月末のことだった。

この夜が明けたら


ホテルの最上階。予約を入れていたらしくて、俺達はすんなりと、夜景が見える窓側の席に通された。

(今日ってなんかの日だっけ…)

俺と辰馬が初めて出会ったのは大学の入学式の時だから、来週だし。
白ワインで乾杯して、最初から頼んであったらしいイタリアンのコース料理が順番に運ばれてくる。

(なんだろう…)

辰馬がやけに無口で、らしくないその態度になんだか不安になる。
前菜のサラダを食べ終わってから、無言のままなのに耐えられなくて、俺は外の夜景に目を向けた。
地上37階から見る東京の夜景。

「きれいじゃろ?…晋に見せたくて」
ようやく口を開いた辰馬の声が、なんだか震えているような気がする。

「辰馬、今日って…」

なんだかもどかしくて、俺は自分から辰馬に尋ねてみた。辰馬にこうやって、時々豪華な食事に誘われることは今までにもあったんだけど。普段、家や定食屋で安く済ませている分、たまにはいいものを食べようっていうのが辰馬の言い分で。それには俺も賛成だし、辰馬はボンボンだけあって、さすがにいい店をたくさん知っていたし。

「のぅ、晋…」
「どーしたんだよ?」
そんなに改まって。お前らしくねーな。

「晋も、とうとう来年卒業じゃの」
「え?あ、ぁあ」

大学1年の時に知り合って、一緒に住んで付き合って。一度別れたけどやっぱりまた戻って、それからもずっと一緒にいて、この4月から、俺もとうとう大学4年になる。

「晋、…結婚しよう」
「…!!」
真剣な表情で、俺を真っ直ぐ見つめた辰馬の言葉が、俺の頭の中をぐるぐる回ってる。

「結婚って…お前…」
現在の日本じゃア同性同士の結婚は認められてなくて、パートナーシップ制度みたいな法律も全然遅れてて整備されてなくて。だから、エェト、エェト…。

「あ、NLGR…か?」
俺の頭に真っ先に浮かんだのは、6月の名古屋のイベント。

「それも考えたんじゃけど」
じゃあ、なんだ?まさか、まさかお前。

「ハワイで2人で挙式したいとか言わねーだろうな?」
どこぞの芸能人みたいに。いや、これは噂の話だけど。

「…晋は、その方がえいの?」
「いや、いや、そうじゃなくてっ!」

そう、とどのつまり辰馬が言ってる『結婚しよう』ってのは、『結婚式をしよう』ってことだ。

「せっかくじゃからの、わしはみんなに祝ってもらいたいんじゃけど」

みんな。そう、俺が大学2年の時までは、今は卒業して就職してしまった小太郎とか、近藤とか岡田とか武市とか、みんなで辰馬のマンションに集まって毎日のように飲んで馬鹿騒ぎをやっていた。もちろん、俺達が男同士で付き合ってたって気にしないって言うか、俺達のこと理解してくれてる奴と、同じ『仲間』ばっかりで。

正直、あの頃が一番楽しかったかもしれない。今でもここに来るのは、俺の同期の銀時や土方と1つ下の沖田やまた子くらいだから。

「わし、結婚記念日は、晋の誕生日がえいんじゃけど」
「俺の…誕生日?」

8月の俺の誕生日に合わせて結婚式がしたい。そのために、これから準備するために、辰馬が今日話してくれたんだっていうことが、俺はこの時ようやく理解できて。

「辰馬、お前…」
いつから考えていたんだろう。そこまで、俺との関係を真剣に。いや、辰馬が真剣だってことは、わかっていたんだけど。辰馬が大学院に進学したのは、俺のため、だから。俺と一緒に暮らし続けるため、だから。

「晋、結婚しよう」
辰馬がもう1回、最初の言葉を繰り返して。テーブルの上に小さな箱を差し出した。

こういうのって、ドラマの中でしか有り得ないと思ってたんだ。

箱の中の、俺のための指輪を手に取って。辰馬が俺の左手の薬指にはめてくれる。サイズはもちろんピッタリで。

「…はい」

言葉は素直に俺の口から出てきたけれど、恥ずかしくて、照れくさくて、俺は辰馬の顔を見ることができなかった。

***

辰馬にプロポーズされてから。2人で式場を探したり、招待状を発送したり。もう4年だから、週に1回しか大学に行かなくていいとは言え、それからの4ヵ月はけっこう忙しかった。真っ先に祝いの電話をくれたのはやっぱり小太郎で、平日にも関わらず仕事を休んで来てくれるって。また子は、いきなり何の連絡もなく、招待状の返事代わりにウチを訪ねてきた。

「晋助センパイーっ!!ついに坂本のモノになっちゃうッスかァ〜!!」
辰馬の前だってのに、俺にしがみついて泣いたフリで離れないまた子。さすがに2年以上付き合ってると辰馬も余裕の表情で(以前なら有り得ない)また子を子ども扱いだ。

「また子ちゃんの分まで幸せにするからのぅ」
「お前となんか喋ってないッスよ!坂本!」
「おー、それはすまんかったのう」
「また子、お前な…」

結局また子って、俺が高1の時に知り合って、そこからずっと俺が好きだって言い通したんだから、コイツ根性あるよなァ。でも、俺が普通にノンケだったら、知り合ってなかったかもしれないってのがまた皮肉だけど。

「また子、万斉は…?」
「ああ、兄貴ッスかァ?」
レコーディングで日本にいないとかほざいてたッス、とまた子が肩を竦めた。

「でも本当は、晋助センパイの結婚する姿なんて、悔しくて見たくないから、わざと海外行くに決まってるッスよ」
あの馬鹿兄貴、散々泣かしといてまだ晋助センパイが好きらしいッスとまた子が笑う。

…こんな話も、以前なら辰馬の前では絶対タブーだったと思う。なんだろう?笑いながらまた子の話を聞いている辰馬からは、余裕みたいなものが感じられる気がした。

別に区役所に婚姻届を出すわけでもなんでもないんだけど。だから、結婚したって、戸籍上は俺達は今までと何等変わりないんだけど。 それでも、『結婚する』って区切りをつけることって、なんだかすごいことなんだなァって思えて仕方なかった。だから、それを決断してくれた辰馬に、俺は本当に感謝した。

***

8月9日の夜。

明日は早いんだから、さっさと寝ればいいのに、なんだか俺達は2人揃って眠れなくて。結局日付が変わりそうな時間まで起きていたもんだから、辰馬の発案で2人でコンビニにお酒を買いに行った。コンビニだから、カフェパくらいしか置いてなかったんだけど、それでも2人で、日付が変わった瞬間に、ささやかな俺の誕生日祝いをして。

「あんまり酔いたくないから、ちょうど良かったかもしれんの」
カフェ・ド・パリの小ビンを空けてしまってから辰馬が呟く。

「そう、だな」
グラスを回しながら、透明な黄金色の炭酸を見つめていた俺の手を取った辰馬が。

「晋、誕生日おめでとう」
「…………うん」
ありがとう、と。返すより早く、俺は辰馬に抱き抱えられて唇を奪われて。飲み込んでしまった声は結局言葉にはならなかった。

「晋、これからも、ずっとずっと、よろしくの」
「それはこっちの台詞だ、馬鹿」

この夜が明けたら、いよいよ俺達の結婚式。


END



結婚式までは書くのは止めですー!!いや、皆様で好きに妄想した方が楽しくね?って高階が思っちゃったからさ…。とにかく、坂本君の飲み友達はみんな来てくれたと思いますよ!!




















No reproduction or republication without written permission.