※「雨のち晴れを待とう」の続きです
坂本が実家に帰ると言っていた日が明日に迫っていた。
自分の実家と坂本のマンションを行ったり来たりしながら、夏休みを過ごしている俺は、明日坂本を見送るために、今日こっちに帰ってきた。
高校時代から赤かった髪の毛を、今更バイトのために黒くするのが面倒くさくて、結局たいしたバイトもしていない。短期で1日だけのバイトとかなら、たまに行ったけれど。たかが髪の毛くらいで、面接でグダグダ言われて、頭にきた俺は、そのままの勢いでメッシュを入れてやった。
ベランダに出て、先日実家に帰った時に、万斉にもらったCDをイヤホンで聴いていた。
(明らかに俺のこと歌ってるよなァ…)
特に2曲目。『君』との別れを前向きに受け入れて、『自分の幸せを祈っていいよ』と相手の背中を押すような、新しい世界への門出を見送るような、そんな歌詞。これを作詞した時点で、きっと万斉は、俺との別れをちゃんと、受け入れていた。
もう、何度も何度も聴いたけど、覚えてしまうくらい聴いたけど、それでも全然聴き飽きない。
「高杉…高杉?」
他の音を全て排除するよう大音量で聴いていたせいか、俺は坂本に肩を叩かれるまで、呼ばれていることに気付かなかった。
「あ、ごめん、坂本」
イヤホンを外して立ち上がる。
「わし、明日帰るから、冷蔵庫の中味…と思ったんじゃけど、高杉…」
何かあったんか?と頬に手を当てられて、坂本の親指で右目の下を拭われて、俺は初めて自分が泣いていたことに気がついた。
「何か、悩んでるなら、ホントに、何でも話して欲しいんじゃけど…」
ふるふると首を横に振ると、ますます坂本は心配そうに顔を覗き込んでくる。
「わしじゃ、頼りないがか?」
「そんなことねェし」
「じゃあ、話してくれんかの?」
言ってしまったらどうかという、万斉の声が聞こえた気がした。
「坂本…本当に、何でも話していいのか?」
「おう、何でも言ってほしいぜよ。せっかく、一緒に住んどるんじゃから」
頬から降ろされた、俺の涙を拭ってくれたデカイ手を取った。
「引かない…?いや、引くなってのが無理かもしんねェ話なんだけど」
その先を言うのが苦しい。辛い。本当に、言ってしまっていいのだろうか?でも不安だらけの心の中に、ほんの少しだけ、知ってほしい、わかってほしいって気持ちがあるのも事実で。
「あのな、俺な、…俺な、あのな、あのな」
時間をかけて、覚悟を決める俺を、坂本はただ、黙って待っててくれている。俺に手を握られたまま。
「…俺な、……俺、は、坂本が、好きだ」
その一言を絞り出すのが、精一杯だった。
「たか、すぎ…?」
「俺は、お前が好きなんだよ!」
言ってしまったら、後から後から涙が溢れてきた。俺は、坂本の手を離して、込み上げる鳴咽を少しでも抑えるために両手で口を覆った。
「ごめん、気持ち悪いよな。ごめんな、坂本、ごめん」
「高杉。わしも、わしも高杉が好きじゃ」
しゃくりあげて泣いている俺に、多分坂本は困っている。だからきっと、そんな風に言ってくれるんだ。
「違うんだよ…。俺が好きだって言ってるのは、そういう意味じゃねェんだよ!俺、俺、………ゲイなんだよ!だから、俺っ、お前のことっ」
恋愛感情で坂本を見ていたなんて。やっぱり言わなきゃ良かった。有り得ないだろうし、気持ち悪いだろうし。たぶんこれでもう、一緒になんか住めないし。やっぱりカミングアウトなんかするんじゃなかった。
耐えられなくなって、部屋に走って戻ろうとした俺の腕を坂本が掴んでそのまま抱きしめられた。痛いくらいきつく。
「逃げんといて、高杉!」
「離せよ…」
「わしも、初めて会った時から、好きだったんじゃ」
耳元で囁かれて、そのまま唇を重ねられた。
「た、戯れでそんなことするのやめろよぉっ!…っく」
銀時としていたキスの音が蘇る。なんで俺はあの時、起きちまったんだろう。本当はたとえ戯れでも冗談でもなんでも、嬉しいはずなのに。
「戯れなんかじゃないぜよ?なんでそんなこと言うんじゃ!」
「っ…こないだ、銀時ともしてた…っ…ひっく…っ」
坂本の腕に抱きしめられたまま、涙と鳴咽が止まらない。
「…起きとったんか?」
尋ねられて、俺は泣いたままコクンと頷いた。
額に手をあてたり俯いたり上を向いたり。一通り周りを見渡した後、坂本はもう一度、高杉に唇を重ねた。
「本気なのはこれだけじゃ」
「さか…も、と?」
顔を上げて固まったままの高杉の腕を掴むと、坂本はそのまま自分の部屋へ引っ張り、抱きしめて、口付けて、押し倒した。
「やっ、やめっ!…坂本っ!」
「高杉、愛しとるよ」
嘘だ、そんなの嘘だ!
「お前、こないだ女にフラれてっ!なんでっ!」
両腕と両足を使って抵抗するけど、身長差もあって坂本には敵わない。
「高杉、…おんし、もしかしてそれで悩んどったがか?」
俺の肩を押さえ付ける腕を離して、坂本はベッドの上に座り込んだ。
「違うのかよっ?俺、お前には、言っちゃいけないと思ってて…っ」
両手で顔を覆って、押し倒されたその体勢のままで俺は泣き続けるしかできなかった。
***
「高杉、わしな?」
泣いている高杉をできるだけ優しく抱き起こし、頭と背中を撫でて抱きしめてやる。
「確かに先輩のこと好きじゃったんじゃ。本当に好きじゃったんじゃ。前に一度フラれても、それでも好きじゃったんじゃ」
だけど、高杉がいてくれたから、ちゃんと諦めようと思ったんじゃ、と耳元で囁くように語ったら、鳴咽が少し小さくなった。
「そもそも、男とか女とか、細かいことは気にならんのじゃよ、わし」
それって細かいことなのか?全然細かくもなんともない、根本の話だと思うんだけど?だから俺はこんなに悩んで。
「お前…もしかして、バイ?」
坂本はゆっくりと、でも確実に頷いて。
「…じゃあ、銀時としてたのは、どう説明するんだよ?」
「あー、うん…」
すまん、と坂本はコツンと高杉に額を合わせた。
「銀時とするのは、挨拶みたいなもんじゃよ」
「挨拶だァ?」
「高杉が嫌ならやめるぜよ。だからの」
坂本は、高杉の額に唇を落とす。そして、一言一言を噛み締めるようにゆっくりと囁いた。
「わしと、付き合ってくれるかの?」
「…お前、そんな言い方ずりィぞ」
手の甲で、ゴシゴシ涙を拭いて、睨みつけてやった。こんな、ぐしゃぐしゃの顔じゃ、きっと何の効果もないだろうけど。
「ずるいのは高杉じゃろー?わしゃてっきり彼女がおるもんじゃと思って」
「だからずっと違ェって言ってんだろ!」
「じゃあ」
坂本が一旦言葉を切った。いつになく真剣な眼差しで、視線の高さを俺に合わせてくる。
「噂になっとる女子高生はなんなんじゃ?」
言わなきゃ駄目かよ?という視線を返したが、坂本は言わずに納得してくれそうな雰囲気ではなかった。
「銀時が見たのは、あれは、元彼の妹だ」
「元彼…?妹…?」
「そうだよ、高校の時に付き合ってた男の妹で、俺達のこと、全部知ってんだよ、あいつ」
兄貴とヨリを戻せとか、駄目ならあたしと付き合ってとか。そうは言われながらもこの間3人で遊んだのは、久しぶりに昔に戻ったみたいで楽しかった。
「でも俺、女じゃ駄目だから。だからアイツにもっ」
「そう、じゃったんか」
坂本が、ふわっと安堵したような笑顔を見せた。つられて俺も笑いそうになったら、背中に腕を回されて、キスされたまま倒された。
「晋助って呼んでいいかの?」
返事の代わりに、辰馬の首に腕を回して、自分から唇を寄せた。
「晋助、話してくれて、ありがとう」
そう微笑まれて、胸のつかえが取れたような気がした。
一歩を踏み出すことは、すごく大変なことだけど。踏み出さなければ、何も変わらないのだと思った。
その、俺の背中を押してくれたのが、別れた元彼だというのは複雑な気持ちにはなったが、ちゃんと報告しようと思った。
別れてから、俺から連絡するのは初めてになるけど。
辰馬の腕に抱かれて、何度も何度も好きだと囁かれながらひとつになって。俺の身体の上にポタポタ落ちてくる、辰馬の汗すら愛おしいと感じた。
なんだかすごく、遠回りをしてしまったような気もするけど、これでよかったんだと、今ならハッキリ言える。
***
『なァ、ヅラぁ…。連絡取れたァ?』
銀時からの着信があって、電話に出ると案の定その話。
実家に帰る辰馬の見送りに、空港まで行こうと誘われたはいいものの、かんじんの飛行機の時間がわからなくて、坂本に電話したが出なかった。
忙しいなら忙しいで、着信を見たらすぐにかけ直してくる奴から、結局1日中電話はなくて。俺と銀時は、交互に、坂本と坂本と一緒に住んでいる晋助に電話をかけ続けた。
そして、予定の日は過ぎ、既に連絡が取れなくなって3日が経つ。
坂本のマンションにも行ってみたが、当たり前のように鍵がかかっていて、いくらチャイムを押しても、何の反応もなかった。
何かの事情があって、俺達に連絡する間もなく実家に帰ったのだろうか。それならそれで、後で理由を話してくれればいいが、晋助までもが、音信不通になる理由がわからない。何か、事件や事故に遭遇してなければいいのだが、と桂は本気で2人の心配をしていた。
1年の銀時は知らぬこととは言え、坂本はこの前の正月まで、実家に帰ってさえ、今日は家族でどこに行ったとか、マメに写メールを送ってくる奴だったのだ。
その坂本から、一通のメールすらない。
「まったく…どうしたっていうんだ…」
『俺にもわかりませーん』
へらっと言う銀時だが、銀時は銀時なりに、相当2人の心配をしているくらい、自分にかかってくる電話の回数でわかっていた。
***
行為の最中に飛んでしまった意識が戻ると、俯せになったままの身体の上に、辰馬が乗っかっていた。
体格のいい辰馬だから少し重たいけれど、その重みがまた心地いい。しっかり5本の指を絡めて手を繋がれ、身体もまだ、ぎりぎり繋がったままで。
「たつま」
名前を呼ぶと、背中と首筋に口付けられた。
ずるっ、ともぐちゅ、ともいう音がして、身体を動かしたことで、通常を取り戻した辰馬自身が俺の中からずるりと抜けた。
「ァ…っ」
小さく呻くと、覆いかぶさるように身体を少し上に移動させた辰馬に、後ろを向かされ、唇を重ねられる。
無理な体勢と、酸素不足でぼぅーっとする頭の中で、辰馬だけを感じていた。
「ぎゅって、して」
俺の上から横に移動した辰馬が、足を絡めてきつく抱いてくれる。
汗だか精液だかローションだか、もうなんだかわからないもので2人共全身ぐちゃぐちゃだったけど、どうでも良かった。
「辰馬、今日って、何日?」
「さぁ…わからんの」
今が昼なのか夜なのか、それすら全くわからない。俺達の周りだけ、この部屋だけ、時間の流れは止まっていた。
時々携帯が鳴っていた気がするけど、どうでもいい。
辰馬の広い胸に顔を埋めて、抱きしめられている時は、どちらからともなく、いろんな話をした。
自分のことや、家族のことや、これまでのこと。
辰馬は、男が好きだって気付いたのは、俺より全然早くて小学生の時で、お姉さんだけには言っちゃってるらしい。
それから、辰馬が、週に1回行っているバイトが、新宿2丁目のゲイバーだったことを、俺は初めて知った。
辰馬の紹介で、銀時がやっぱり2丁目で女装してニューハーフの店で働いているとか、時々、イベントの日に小太郎がヘルプで銀時に引っ張られて入っているだとか。
銀時もバイで、辰馬と銀時は、初めて会った時に、お互いすぐ気付いてカミングアウト済みだったらしい。
俺もそういうところでバイトしてみたいと言ったら『晋助は売れるから絶対にだめじゃ』と強く言われた。
「なんでだよ!」
「晋助に、イロで来る客、殴ってしまいそうじゃ、わし」
「お前なァ」
そういうお前はどうなんだよ。金には困ってないボンボンなんだから、どうせバイトって言っても、半分以上は趣味なんだろ?お前のことだからモテそうだもんな、しかもお前バリタチなんだよな、この世界ネコばっかりなんだよなと拗ねたら、なんなら今度行ってみる?とあっさり言われて。
そんなにオープンなんだったら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ、と怒ったら、聞かれなかったから、と困ったように笑われて。
コンパも行かない、女の影もない俺のことを、辰馬も銀時も、最初あやしいな、とは思っていたらしいけど、そんな時に銀時が、また子といる俺を目撃して、小太郎が俺の昔の、女遊びのヒドかった話を思い出して。
その小太郎も、俺とまた子が一緒にいるところを見てしまって(辰馬に言われるまで、小太郎に見られていたことを俺は全然知らなかった)。
俺が隠していたこともあいまって、『言わない方がいい』という結論に達したらしい。
もっと早く言ってくれたら、俺はこんなに悩まなかったのに、と隠していたことも棚に上げて俺は笑いながら怒った。
「そんなん言うけどのー、だいたい、好きでもないモンに、一緒に住もうなんて言うわけないじゃろー」
俺に一目ぼれしたと告白しながら辰馬は言った。
そんなこと言っても、お前なら優しいから、俺じゃなくても、小太郎や銀時でも言ったんじゃねェの?と返してやったら、暫く悩んで、辰馬は『そうかもしれないの』と応えた。
「お前な、そこは嘘でもいいから否定しろよ、馬鹿」
「焼きもち焼かんの」
桂や銀時を好きじゃっていうのと、晋助を好きなのは、全く別モンじゃから、と言われて頭を撫でられてキスされて、なんだか上手く丸め込まれたような気分になった。
「俺だってそうだっつぅの」
お前と、初めて2人っきりになった夜、何で眠れなかったと思ってんだ。俺の気も知らないで、くっついて寝やがって。俺は、お前に一目ぼれしたわけじゃないけどな。だって、俺にとって出会いの瞬間は最低だったから。
そう膨れたら、あの日は晋のおかげで癒されたぜよ、なんて微笑まれた。
俺の身体を抱いたまま、辰馬はベッドの上を転がって、また乗っかるような体勢になる。
互いの舌を絡めながら、このまま溶けてしまいたいと思った。
辰馬のセックスはすごく優しくて慎重で痛いことなんかひとつもなくて頭の中が真っ白になるほど喘がされてそれでいて、肌が触れているだけでこんなにも幸せだと思えるんだと感じた。終わった後はそれなりに身体の筋があちこち痛くてダルくてそこは普通どおりなんだけど、それでもやめたいとは思わなかった。
キスすればするほど、身体を重ねれば重ねるほど、繋げれば繋げるほど、俺の中の辰馬が好きだという想いが、とめどなく溢れて大きくなっていくようだった。
このままずぅーっと、永遠に繋がっていたいとすら思った。
***
2人と連絡が取れなくなって一週間。桂と銀時は、喫茶店で会い、どうしたものかと悩んでいた。最近ここ2日くらいは、2人とも携帯の電源すら入っていない。
「まさかァ、2人で旅行でも行ったとか、ないだろうねぇ?」
チョコレートパフェを食べながら銀時がぼやく。
「それはないだろう?坂本は実家で忙しいとして、問題は晋助だ」
昔相当悪かっただけに、何かのトラブルに巻き込まれてはいないかと心配になる。喧嘩に明け暮れ、血まみれで夜中にうちに転がり込んできたこともある晋助だから。もう100メートルも歩けば、自分の家だというのに。
「捜索願いでも出した方が…」
言いかけた時、桂の携帯が鳴った。
「銀時…坂本だ!」
***
まだ実家に帰っているはずの坂本から、マンションに来れるかと言われて、2人で一も二もなく駆け付けた。
真夏の暑い日だというのに、エアコンはつけず、全ての窓を開け放して、不自然な程に香るファブリーズの匂いの中に、気付いてしまった僅かに残る精の臭い。
いつも必ず玄関で出迎える坂本に、開いているから入ってきてと言われて、最初に目についたのは、テーブルの上の食事の後と、ソファの端に座る坂本と、その坂本のひざ枕で小さくなって眠る高杉の姿。
カウンターキッチンの椅子に座りながら、ベランダに干された、坂本愛用の防水シーツを見た時、桂の疑いは驚きとともに確信に変わる。
「お前ら…まさか、ずっとココにいたとか言わないだろうなァ」
青筋を立てて拳をふるふる震わせる桂の怒りもなんのその、いつもの調子で坂本はアッハッハと笑った。
「すまんのぅ、まさか一週間も経っとるとは思わんかったんじゃァ」
すぅすぅ眠る高杉の頭を撫でながら坂本は笑い続ける。『晋助がカミングアウトしてくれたんじゃ』と、『わし、諦めんでよかった』と。
「え?何?じゃァお前ら、もしかして、まさか一週間セックスしてたワケ?」
「銀時、言い方が直接的過ぎる!」
2人の怒鳴り声で、眠っていた高杉が呻き声をあげながら身じろぎした。もちろん3人共、高杉の寝起きの悪さは承知の上だから、あまり気にしない。
「お前ら…捜索願いまで考えてた俺達を何だと思ってるんだっ!」
桂が怒鳴る。この一週間どれだけ心配したと思ってるんだ。
「た…つま」
桂の怒鳴り声に、ビクっと身体を震わせた高杉が、ごそごそ起き上がって坂本の腰のあたりにぎゅうっと両腕を回す。それだけで、たった一週間で、2人の関係が、すっかり変わってしまっていることに、桂も銀時も気がついた。
「…ゃァ、…離すな…っ」
「大丈夫じゃよ、離したりせんよ」
指を絡めて繋いだ手を頬に寄せた坂本が高杉の耳元で囁く。
「そんなわけで、わしら、付き合うことになったんじゃ」
嬉しそうに微笑む坂本を見ていたら、桂はなんだか、怒っているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「もー、なんなのよっ!銀さん糖分足りないっ!」
立ち上がってキッチンに向かい冷凍庫からハーゲンダッツを持ってきてバクバク食べ始める銀時。
「お前、さっきパフェ食べてただろ」
「全然足りないからっ!」
桂とは対照的に銀時はまだ複雑な感情と怒りが収まらないようだ。
「でも、良かったじゃないか。お前達、ちょっともどかしかったからな」
高杉は何かにつけお前を特別視していて、本当は想い合っていたくせに、と腕を組みながら桂は坂本を見た。まさか高杉がゲイだとは知らなかったから、俺は何もできなかったが、と。
「何のことじゃァ?」
キョトンとした顔で桂を見返す坂本。
「お前、自分で気付いてないだろうけどな。お前が奥手になるのは本気の時だけだ」
「えっ?嘘、マジ?そうなの?辰馬?」
あんなに辰馬らしくないとイライラさせられた行動は、まさかそのせいか?と銀時。
「言っておくが、お前が本気じゃなかったら、俺はお前達の付き合いに反対してる」
「ヅラ、それどーゆぅ意味?」
「浮気性の坂本に、高杉は任せられんよ。高杉は、俺には、弟みたいなものだからな。それだけだ」
いつの間にか、桂が高杉を呼ぶ、呼び方が変わっていることに坂本も銀時も気付いている。
「安心し。わしはもう、何があってもこの手は離さんぜよ」
繋いだままの手に唇を寄せて、坂本は、もうしばらくはちゃんと目覚めない高杉の細い身体を、しっかりと抱きしめた。
END
やっとラブラブです
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このままこの手を離さないで
坂本が実家に帰ると言っていた日が明日に迫っていた。
自分の実家と坂本のマンションを行ったり来たりしながら、夏休みを過ごしている俺は、明日坂本を見送るために、今日こっちに帰ってきた。
高校時代から赤かった髪の毛を、今更バイトのために黒くするのが面倒くさくて、結局たいしたバイトもしていない。短期で1日だけのバイトとかなら、たまに行ったけれど。たかが髪の毛くらいで、面接でグダグダ言われて、頭にきた俺は、そのままの勢いでメッシュを入れてやった。
ベランダに出て、先日実家に帰った時に、万斉にもらったCDをイヤホンで聴いていた。
(明らかに俺のこと歌ってるよなァ…)
特に2曲目。『君』との別れを前向きに受け入れて、『自分の幸せを祈っていいよ』と相手の背中を押すような、新しい世界への門出を見送るような、そんな歌詞。これを作詞した時点で、きっと万斉は、俺との別れをちゃんと、受け入れていた。
もう、何度も何度も聴いたけど、覚えてしまうくらい聴いたけど、それでも全然聴き飽きない。
「高杉…高杉?」
他の音を全て排除するよう大音量で聴いていたせいか、俺は坂本に肩を叩かれるまで、呼ばれていることに気付かなかった。
「あ、ごめん、坂本」
イヤホンを外して立ち上がる。
「わし、明日帰るから、冷蔵庫の中味…と思ったんじゃけど、高杉…」
何かあったんか?と頬に手を当てられて、坂本の親指で右目の下を拭われて、俺は初めて自分が泣いていたことに気がついた。
「何か、悩んでるなら、ホントに、何でも話して欲しいんじゃけど…」
ふるふると首を横に振ると、ますます坂本は心配そうに顔を覗き込んでくる。
「わしじゃ、頼りないがか?」
「そんなことねェし」
「じゃあ、話してくれんかの?」
言ってしまったらどうかという、万斉の声が聞こえた気がした。
「坂本…本当に、何でも話していいのか?」
「おう、何でも言ってほしいぜよ。せっかく、一緒に住んどるんじゃから」
頬から降ろされた、俺の涙を拭ってくれたデカイ手を取った。
「引かない…?いや、引くなってのが無理かもしんねェ話なんだけど」
その先を言うのが苦しい。辛い。本当に、言ってしまっていいのだろうか?でも不安だらけの心の中に、ほんの少しだけ、知ってほしい、わかってほしいって気持ちがあるのも事実で。
「あのな、俺な、…俺な、あのな、あのな」
時間をかけて、覚悟を決める俺を、坂本はただ、黙って待っててくれている。俺に手を握られたまま。
「…俺な、……俺、は、坂本が、好きだ」
その一言を絞り出すのが、精一杯だった。
「たか、すぎ…?」
「俺は、お前が好きなんだよ!」
言ってしまったら、後から後から涙が溢れてきた。俺は、坂本の手を離して、込み上げる鳴咽を少しでも抑えるために両手で口を覆った。
「ごめん、気持ち悪いよな。ごめんな、坂本、ごめん」
「高杉。わしも、わしも高杉が好きじゃ」
しゃくりあげて泣いている俺に、多分坂本は困っている。だからきっと、そんな風に言ってくれるんだ。
「違うんだよ…。俺が好きだって言ってるのは、そういう意味じゃねェんだよ!俺、俺、………ゲイなんだよ!だから、俺っ、お前のことっ」
恋愛感情で坂本を見ていたなんて。やっぱり言わなきゃ良かった。有り得ないだろうし、気持ち悪いだろうし。たぶんこれでもう、一緒になんか住めないし。やっぱりカミングアウトなんかするんじゃなかった。
耐えられなくなって、部屋に走って戻ろうとした俺の腕を坂本が掴んでそのまま抱きしめられた。痛いくらいきつく。
「逃げんといて、高杉!」
「離せよ…」
「わしも、初めて会った時から、好きだったんじゃ」
耳元で囁かれて、そのまま唇を重ねられた。
「た、戯れでそんなことするのやめろよぉっ!…っく」
銀時としていたキスの音が蘇る。なんで俺はあの時、起きちまったんだろう。本当はたとえ戯れでも冗談でもなんでも、嬉しいはずなのに。
「戯れなんかじゃないぜよ?なんでそんなこと言うんじゃ!」
「っ…こないだ、銀時ともしてた…っ…ひっく…っ」
坂本の腕に抱きしめられたまま、涙と鳴咽が止まらない。
「…起きとったんか?」
尋ねられて、俺は泣いたままコクンと頷いた。
額に手をあてたり俯いたり上を向いたり。一通り周りを見渡した後、坂本はもう一度、高杉に唇を重ねた。
「本気なのはこれだけじゃ」
「さか…も、と?」
顔を上げて固まったままの高杉の腕を掴むと、坂本はそのまま自分の部屋へ引っ張り、抱きしめて、口付けて、押し倒した。
「やっ、やめっ!…坂本っ!」
「高杉、愛しとるよ」
嘘だ、そんなの嘘だ!
「お前、こないだ女にフラれてっ!なんでっ!」
両腕と両足を使って抵抗するけど、身長差もあって坂本には敵わない。
「高杉、…おんし、もしかしてそれで悩んどったがか?」
俺の肩を押さえ付ける腕を離して、坂本はベッドの上に座り込んだ。
「違うのかよっ?俺、お前には、言っちゃいけないと思ってて…っ」
両手で顔を覆って、押し倒されたその体勢のままで俺は泣き続けるしかできなかった。
***
「高杉、わしな?」
泣いている高杉をできるだけ優しく抱き起こし、頭と背中を撫でて抱きしめてやる。
「確かに先輩のこと好きじゃったんじゃ。本当に好きじゃったんじゃ。前に一度フラれても、それでも好きじゃったんじゃ」
だけど、高杉がいてくれたから、ちゃんと諦めようと思ったんじゃ、と耳元で囁くように語ったら、鳴咽が少し小さくなった。
「そもそも、男とか女とか、細かいことは気にならんのじゃよ、わし」
それって細かいことなのか?全然細かくもなんともない、根本の話だと思うんだけど?だから俺はこんなに悩んで。
「お前…もしかして、バイ?」
坂本はゆっくりと、でも確実に頷いて。
「…じゃあ、銀時としてたのは、どう説明するんだよ?」
「あー、うん…」
すまん、と坂本はコツンと高杉に額を合わせた。
「銀時とするのは、挨拶みたいなもんじゃよ」
「挨拶だァ?」
「高杉が嫌ならやめるぜよ。だからの」
坂本は、高杉の額に唇を落とす。そして、一言一言を噛み締めるようにゆっくりと囁いた。
「わしと、付き合ってくれるかの?」
「…お前、そんな言い方ずりィぞ」
手の甲で、ゴシゴシ涙を拭いて、睨みつけてやった。こんな、ぐしゃぐしゃの顔じゃ、きっと何の効果もないだろうけど。
「ずるいのは高杉じゃろー?わしゃてっきり彼女がおるもんじゃと思って」
「だからずっと違ェって言ってんだろ!」
「じゃあ」
坂本が一旦言葉を切った。いつになく真剣な眼差しで、視線の高さを俺に合わせてくる。
「噂になっとる女子高生はなんなんじゃ?」
言わなきゃ駄目かよ?という視線を返したが、坂本は言わずに納得してくれそうな雰囲気ではなかった。
「銀時が見たのは、あれは、元彼の妹だ」
「元彼…?妹…?」
「そうだよ、高校の時に付き合ってた男の妹で、俺達のこと、全部知ってんだよ、あいつ」
兄貴とヨリを戻せとか、駄目ならあたしと付き合ってとか。そうは言われながらもこの間3人で遊んだのは、久しぶりに昔に戻ったみたいで楽しかった。
「でも俺、女じゃ駄目だから。だからアイツにもっ」
「そう、じゃったんか」
坂本が、ふわっと安堵したような笑顔を見せた。つられて俺も笑いそうになったら、背中に腕を回されて、キスされたまま倒された。
「晋助って呼んでいいかの?」
返事の代わりに、辰馬の首に腕を回して、自分から唇を寄せた。
「晋助、話してくれて、ありがとう」
そう微笑まれて、胸のつかえが取れたような気がした。
一歩を踏み出すことは、すごく大変なことだけど。踏み出さなければ、何も変わらないのだと思った。
その、俺の背中を押してくれたのが、別れた元彼だというのは複雑な気持ちにはなったが、ちゃんと報告しようと思った。
別れてから、俺から連絡するのは初めてになるけど。
辰馬の腕に抱かれて、何度も何度も好きだと囁かれながらひとつになって。俺の身体の上にポタポタ落ちてくる、辰馬の汗すら愛おしいと感じた。
なんだかすごく、遠回りをしてしまったような気もするけど、これでよかったんだと、今ならハッキリ言える。
***
『なァ、ヅラぁ…。連絡取れたァ?』
銀時からの着信があって、電話に出ると案の定その話。
実家に帰る辰馬の見送りに、空港まで行こうと誘われたはいいものの、かんじんの飛行機の時間がわからなくて、坂本に電話したが出なかった。
忙しいなら忙しいで、着信を見たらすぐにかけ直してくる奴から、結局1日中電話はなくて。俺と銀時は、交互に、坂本と坂本と一緒に住んでいる晋助に電話をかけ続けた。
そして、予定の日は過ぎ、既に連絡が取れなくなって3日が経つ。
坂本のマンションにも行ってみたが、当たり前のように鍵がかかっていて、いくらチャイムを押しても、何の反応もなかった。
何かの事情があって、俺達に連絡する間もなく実家に帰ったのだろうか。それならそれで、後で理由を話してくれればいいが、晋助までもが、音信不通になる理由がわからない。何か、事件や事故に遭遇してなければいいのだが、と桂は本気で2人の心配をしていた。
1年の銀時は知らぬこととは言え、坂本はこの前の正月まで、実家に帰ってさえ、今日は家族でどこに行ったとか、マメに写メールを送ってくる奴だったのだ。
その坂本から、一通のメールすらない。
「まったく…どうしたっていうんだ…」
『俺にもわかりませーん』
へらっと言う銀時だが、銀時は銀時なりに、相当2人の心配をしているくらい、自分にかかってくる電話の回数でわかっていた。
***
行為の最中に飛んでしまった意識が戻ると、俯せになったままの身体の上に、辰馬が乗っかっていた。
体格のいい辰馬だから少し重たいけれど、その重みがまた心地いい。しっかり5本の指を絡めて手を繋がれ、身体もまだ、ぎりぎり繋がったままで。
「たつま」
名前を呼ぶと、背中と首筋に口付けられた。
ずるっ、ともぐちゅ、ともいう音がして、身体を動かしたことで、通常を取り戻した辰馬自身が俺の中からずるりと抜けた。
「ァ…っ」
小さく呻くと、覆いかぶさるように身体を少し上に移動させた辰馬に、後ろを向かされ、唇を重ねられる。
無理な体勢と、酸素不足でぼぅーっとする頭の中で、辰馬だけを感じていた。
「ぎゅって、して」
俺の上から横に移動した辰馬が、足を絡めてきつく抱いてくれる。
汗だか精液だかローションだか、もうなんだかわからないもので2人共全身ぐちゃぐちゃだったけど、どうでも良かった。
「辰馬、今日って、何日?」
「さぁ…わからんの」
今が昼なのか夜なのか、それすら全くわからない。俺達の周りだけ、この部屋だけ、時間の流れは止まっていた。
時々携帯が鳴っていた気がするけど、どうでもいい。
辰馬の広い胸に顔を埋めて、抱きしめられている時は、どちらからともなく、いろんな話をした。
自分のことや、家族のことや、これまでのこと。
辰馬は、男が好きだって気付いたのは、俺より全然早くて小学生の時で、お姉さんだけには言っちゃってるらしい。
それから、辰馬が、週に1回行っているバイトが、新宿2丁目のゲイバーだったことを、俺は初めて知った。
辰馬の紹介で、銀時がやっぱり2丁目で女装してニューハーフの店で働いているとか、時々、イベントの日に小太郎がヘルプで銀時に引っ張られて入っているだとか。
銀時もバイで、辰馬と銀時は、初めて会った時に、お互いすぐ気付いてカミングアウト済みだったらしい。
俺もそういうところでバイトしてみたいと言ったら『晋助は売れるから絶対にだめじゃ』と強く言われた。
「なんでだよ!」
「晋助に、イロで来る客、殴ってしまいそうじゃ、わし」
「お前なァ」
そういうお前はどうなんだよ。金には困ってないボンボンなんだから、どうせバイトって言っても、半分以上は趣味なんだろ?お前のことだからモテそうだもんな、しかもお前バリタチなんだよな、この世界ネコばっかりなんだよなと拗ねたら、なんなら今度行ってみる?とあっさり言われて。
そんなにオープンなんだったら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ、と怒ったら、聞かれなかったから、と困ったように笑われて。
コンパも行かない、女の影もない俺のことを、辰馬も銀時も、最初あやしいな、とは思っていたらしいけど、そんな時に銀時が、また子といる俺を目撃して、小太郎が俺の昔の、女遊びのヒドかった話を思い出して。
その小太郎も、俺とまた子が一緒にいるところを見てしまって(辰馬に言われるまで、小太郎に見られていたことを俺は全然知らなかった)。
俺が隠していたこともあいまって、『言わない方がいい』という結論に達したらしい。
もっと早く言ってくれたら、俺はこんなに悩まなかったのに、と隠していたことも棚に上げて俺は笑いながら怒った。
「そんなん言うけどのー、だいたい、好きでもないモンに、一緒に住もうなんて言うわけないじゃろー」
俺に一目ぼれしたと告白しながら辰馬は言った。
そんなこと言っても、お前なら優しいから、俺じゃなくても、小太郎や銀時でも言ったんじゃねェの?と返してやったら、暫く悩んで、辰馬は『そうかもしれないの』と応えた。
「お前な、そこは嘘でもいいから否定しろよ、馬鹿」
「焼きもち焼かんの」
桂や銀時を好きじゃっていうのと、晋助を好きなのは、全く別モンじゃから、と言われて頭を撫でられてキスされて、なんだか上手く丸め込まれたような気分になった。
「俺だってそうだっつぅの」
お前と、初めて2人っきりになった夜、何で眠れなかったと思ってんだ。俺の気も知らないで、くっついて寝やがって。俺は、お前に一目ぼれしたわけじゃないけどな。だって、俺にとって出会いの瞬間は最低だったから。
そう膨れたら、あの日は晋のおかげで癒されたぜよ、なんて微笑まれた。
俺の身体を抱いたまま、辰馬はベッドの上を転がって、また乗っかるような体勢になる。
互いの舌を絡めながら、このまま溶けてしまいたいと思った。
辰馬のセックスはすごく優しくて慎重で痛いことなんかひとつもなくて頭の中が真っ白になるほど喘がされてそれでいて、肌が触れているだけでこんなにも幸せだと思えるんだと感じた。終わった後はそれなりに身体の筋があちこち痛くてダルくてそこは普通どおりなんだけど、それでもやめたいとは思わなかった。
キスすればするほど、身体を重ねれば重ねるほど、繋げれば繋げるほど、俺の中の辰馬が好きだという想いが、とめどなく溢れて大きくなっていくようだった。
このままずぅーっと、永遠に繋がっていたいとすら思った。
***
2人と連絡が取れなくなって一週間。桂と銀時は、喫茶店で会い、どうしたものかと悩んでいた。最近ここ2日くらいは、2人とも携帯の電源すら入っていない。
「まさかァ、2人で旅行でも行ったとか、ないだろうねぇ?」
チョコレートパフェを食べながら銀時がぼやく。
「それはないだろう?坂本は実家で忙しいとして、問題は晋助だ」
昔相当悪かっただけに、何かのトラブルに巻き込まれてはいないかと心配になる。喧嘩に明け暮れ、血まみれで夜中にうちに転がり込んできたこともある晋助だから。もう100メートルも歩けば、自分の家だというのに。
「捜索願いでも出した方が…」
言いかけた時、桂の携帯が鳴った。
「銀時…坂本だ!」
***
まだ実家に帰っているはずの坂本から、マンションに来れるかと言われて、2人で一も二もなく駆け付けた。
真夏の暑い日だというのに、エアコンはつけず、全ての窓を開け放して、不自然な程に香るファブリーズの匂いの中に、気付いてしまった僅かに残る精の臭い。
いつも必ず玄関で出迎える坂本に、開いているから入ってきてと言われて、最初に目についたのは、テーブルの上の食事の後と、ソファの端に座る坂本と、その坂本のひざ枕で小さくなって眠る高杉の姿。
カウンターキッチンの椅子に座りながら、ベランダに干された、坂本愛用の防水シーツを見た時、桂の疑いは驚きとともに確信に変わる。
「お前ら…まさか、ずっとココにいたとか言わないだろうなァ」
青筋を立てて拳をふるふる震わせる桂の怒りもなんのその、いつもの調子で坂本はアッハッハと笑った。
「すまんのぅ、まさか一週間も経っとるとは思わんかったんじゃァ」
すぅすぅ眠る高杉の頭を撫でながら坂本は笑い続ける。『晋助がカミングアウトしてくれたんじゃ』と、『わし、諦めんでよかった』と。
「え?何?じゃァお前ら、もしかして、まさか一週間セックスしてたワケ?」
「銀時、言い方が直接的過ぎる!」
2人の怒鳴り声で、眠っていた高杉が呻き声をあげながら身じろぎした。もちろん3人共、高杉の寝起きの悪さは承知の上だから、あまり気にしない。
「お前ら…捜索願いまで考えてた俺達を何だと思ってるんだっ!」
桂が怒鳴る。この一週間どれだけ心配したと思ってるんだ。
「た…つま」
桂の怒鳴り声に、ビクっと身体を震わせた高杉が、ごそごそ起き上がって坂本の腰のあたりにぎゅうっと両腕を回す。それだけで、たった一週間で、2人の関係が、すっかり変わってしまっていることに、桂も銀時も気がついた。
「…ゃァ、…離すな…っ」
「大丈夫じゃよ、離したりせんよ」
指を絡めて繋いだ手を頬に寄せた坂本が高杉の耳元で囁く。
「そんなわけで、わしら、付き合うことになったんじゃ」
嬉しそうに微笑む坂本を見ていたら、桂はなんだか、怒っているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「もー、なんなのよっ!銀さん糖分足りないっ!」
立ち上がってキッチンに向かい冷凍庫からハーゲンダッツを持ってきてバクバク食べ始める銀時。
「お前、さっきパフェ食べてただろ」
「全然足りないからっ!」
桂とは対照的に銀時はまだ複雑な感情と怒りが収まらないようだ。
「でも、良かったじゃないか。お前達、ちょっともどかしかったからな」
高杉は何かにつけお前を特別視していて、本当は想い合っていたくせに、と腕を組みながら桂は坂本を見た。まさか高杉がゲイだとは知らなかったから、俺は何もできなかったが、と。
「何のことじゃァ?」
キョトンとした顔で桂を見返す坂本。
「お前、自分で気付いてないだろうけどな。お前が奥手になるのは本気の時だけだ」
「えっ?嘘、マジ?そうなの?辰馬?」
あんなに辰馬らしくないとイライラさせられた行動は、まさかそのせいか?と銀時。
「言っておくが、お前が本気じゃなかったら、俺はお前達の付き合いに反対してる」
「ヅラ、それどーゆぅ意味?」
「浮気性の坂本に、高杉は任せられんよ。高杉は、俺には、弟みたいなものだからな。それだけだ」
いつの間にか、桂が高杉を呼ぶ、呼び方が変わっていることに坂本も銀時も気付いている。
「安心し。わしはもう、何があってもこの手は離さんぜよ」
繋いだままの手に唇を寄せて、坂本は、もうしばらくはちゃんと目覚めない高杉の細い身体を、しっかりと抱きしめた。
END
やっとラブラブです
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