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しょーもないことで、喧嘩しちまった。

ここでキスして


2人で横浜でも行こうって話になって。めちゃくちゃ嬉しくて、洋服選ぶのとかも気合い入れてさ。張り切って出てきて。…そこまでは良かったんだ。

だけど、誰もが知ってる通り、辰馬は人前だとか、電車の中だとか、そういうの関係ナシにベタベタしたがるだろ?そりゃァ俺だってしたいけどさ、俺達男同士なんだぜ?いちいち人が怪訝な顔でこっち見てくるし、ヒソヒソ囁かれてるし、何より恥ずかしいっての。

何も、今しかベタベタできないわけじゃねェんだから、たまに出掛けた時くらい我慢してくれって。一緒に住んでんだから、帰ってからいくらでもできるだろって。何回言っても辰馬は納得してくれなくて、ちょっと油断したら、すぐ手なんか繋いでくるからさ、とうとうキレちまったんだ。

「晋は、そんなにわしのことが嫌いがか?」
「なんでそうなるんだよっ!」
「否定せんのじゃな」
「お前、馬鹿じゃねェの?」

もう、まさに売り言葉に買い言葉。

「どうせわし、馬鹿じゃもん」
「ああ、そうかよっ」

せっかくのデートが、もう最悪。結局、横浜まで、行くだけ行って、またすぐ電車乗って帰ってきた。何しに行ったんだよ?往復1時間ちょっと、電車乗っただけ?しかも、帰りは一言も、口をきかなかった。

これで帰る家が一緒ってのがやり切れない。電車を降りてから、家までの徒歩7、8分。いつもなら並んで歩くのに、辰馬はさっさと自分の歩幅で歩いて行っちまった。足の長さが違うんだから、俺の方が歩くの遅くたって仕方ねェだろ?もう、本気でUターンして、沖田と土方んとこ行こうかと思ったくらい。

辰馬から2、3分遅れて部屋に着いた俺は、真っ直ぐ自分の部屋に引きこもった。部屋の隅に鞄を投げ捨てて、膝を抱えて椅子に座って。
…涙、止まんない。

「…ふぇっ、…っく」
最初は声なんか出さないでおこうって思ったのに、いつまで経っても涙が止まらなくて、いつの間にかしゃくり上げていた。

(辰馬のバカ辰馬のバカ辰馬のバカ辰馬のバカ…っ)

ずずーっと1回鼻水をかんで、それからまた膝に顔を押し付ける。

俺がお前のこと、嫌いなわけがねェじゃん?嫌いなヤツのために、こんなに服装頑張るか?だけど恥ずかしいじゃん?俺が女だったら、絶対気兼ねなんかしてねェ。たまに見掛ける、駅で抱き合ったりキスしてる馬鹿ップル。絶対アレになってる自信がある。

だけど、俺、男なんだぜ?

なんでわかってくれねェんだよってぐっしゃぐしゃの顔で俺は泣きまくっていた。もう最低。きっと今、ヒデェ顔。今のうちに、部屋に鍵かけておこ。だってこんな顔、辰馬に見られたくねェもん。

まァ、今は来ねェと思うけどさ。辰馬怒ってっし。

無意識に服の袖で涙を拭いてから微妙な後悔しちまった。だから、今日着てるコレ、結構高かったし、スゲェ気に入ってるんだって。いつもどーりパーカーなんだけどさ、背中の柄は特殊加工だから万越えてんだって。特殊加工のおかげで家では洗えねェし。でも、辰馬も『似合ってる、カワイイ』って言ってくれて、気に入ってたんだって。

でもなんかもう、全部どうでもよくなって、部屋着に着替える気力もなくて、鍵をかけようと思って立ち上がった瞬間、俺の部屋の扉が開いた。

「しん…?」
手の甲で、顔半分隠しながら恐る恐る振り向く。当たり前だけど、扉を開けたのは辰馬だった。

「なにっ、しにっ、っく、来た、ん、だよ…っふ」
しゃくり上げてるせいでちゃんと喋れない。っつぅか、こんな泣き顔見んな。早く出て行けよ。どうせまだ怒ってんだろ?だって辰馬、自分が悪いとは思ってなさそうだもん。

「晋、ごめん」
扉の前に突っ立ったまま、一歩も部屋には入って来ない辰馬が。その一言だけ言った後はずっと、唇を噛んでいた。

「どせ、っ、俺がっ、悪ィん、だ、ろ?」
椅子の前に立ったまま俺も動けなくて。相変わらずしゃくり上げたまま涙は止まんないし。もうだからさ、早く自分の部屋行けっての。

気まずいどころじゃねェ沈黙が流れてる。響いてんのは、俺がしゃくり上げる声と、漏れてしまう鳴咽だけ。

「入ってもえいかの?」
「く、んな…っ」

俺の言葉、無視すんなら最初から聞くなっての。一応ココ、俺の部屋なんだからな。お前ん家だけど。
ゆっくり近づいてきた辰馬に、ぎゅうっと抱きしめられた。

「ごめんの、晋」

辰馬の腕ん中にすっぽり収まって、俺は広い胸に顔を押し付けた。辰馬のジャケット(またこれがン万円とかするはずなんだ)に、涙がつくけど、そんなの知らねェ。今風に言うなら、『そんなの関係ねェ!』ってやつ。

「泣かんといて」
誰のせいでこんなに泣いてると思ってんだよ?俺が、お前のこと以外でこんなに泣いたことあるか?

「そんなに泣かれるとは思わんかったぜよ」
なんかそれじゃあ、泣いた俺が悪ィみてェじゃん。やっぱり辰馬は、自分が悪いとは思ってないんだろうな。きっと、俺が泣いてるから『悪かった』って思っただけなんだ。

「お願いじゃから、泣かんといて」
俺の背中から腕を離した辰馬に肩を掴まれて。少し屈んで、視線の高さを合わせた辰馬に、キスされた。

しゃくり上げてて、マトモに呼吸できてねェからさ、辰馬の唇はすぐに離れたんだけど、離れて視線がぶつかり合ったらもう一回。軽く舌を絡めて、離れてもう一回。

「ふぇっ…、っ、っ、っく」

泣き止めない俺の、腰とケツを支えて、抱き上げた辰馬はそのまんま床に座って。俺は辰馬の太腿の上に降ろされて、背中を支えられたまま、またキス。

セックスの時のような、濃厚で官能的で、息が上がっちまうような激しいキスではないけれど、柔らかくて、あったかくて。ゆーっくり口の中をなぞられていくような、それでいて、すぐ離れてしまうんだけど、物足りないって、思うより早くもう一度唇が重なる。上唇と下唇を、交互に繰り返し吸われて、今度は舌と上の歯の間に挟まれて、それから、舌を掬われて。

いつの間にか俺の鳴咽は治まって、辰馬に与えられるキスに夢中になっていた。

吸われて舌を引っ張り出されたところで離れて今度は甘噛み。ぐちゃぐちゃ掻き回されたかと思ったら、静かに唇を重ねるだけ。上顎の方から奥まで舌を突っ込まれて、苦しいって思う寸前で離される。

ああもう、本当に悔しいけど辰馬、キスは上手い。キス『も』かもしれねェけどさ。
だってさ、さっきからずっと、延々キスばっかりしてんのに、止めたくない。どうしよう。

止めたくないって、思ってんのが伝わったのかどうかは知らないけど、辰馬の左腕は俺の背中を支えてるだろ。右手は、髪の毛に指を通してみたり、頭を撫でられたり。それ以外の場所は、一切触ってこないんだ。

いつもだったら、とっくに脱がされてておかしくない時間は経過してるはずなのに、辰馬はキスを貧るだけ。
そして俺も止めたくない。
延々1時間はずーっとキスだけしてて。最後に一つ、唇に触れるだけの、フレンチキスを落とした辰馬は。

「晋、ごめんの」
片方しか出てない俺の瞳を、見つめて、真剣にそう言った。

「馬ァ鹿」
もう、とっくに。喧嘩なんかどうでもよく、なっていた。


END



拾萬度第四弾「キスしてるだけ」の坂高です!喧嘩ってオマケもついたけど…(爆)これ以上のキスのテクニックは書けませぬ! ってか、ちゃんと話し合いしとかないと、また次のデートで同じ喧嘩しますよね、この2人…(爆)






















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