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何度か行って知っているオカマバーに高杉を連れて行って「好きなだけ飲め」と言ってやった。高杉は、遠慮なくガンガン酒を煽った。

IHBA・3


「高杉ィ、アンタ潰れるつもりですかィ」
「飲めって言ったの沖田だろォ〜」
高杉は、そこそこ酒に強い。だからと言って、ほぼストレートのままの酒を、思い切り飲みまくっているのはどうだろうか。

「飲みたい気分だったのは俺でさァ」
とボヤいたが、知らんぷりだ。いくらなんでも、ペースが早過ぎる。…気持ちは、わからなくもないけれど。

だんだん、いい気分になってきたのか、高杉は一息ついて煙草を吸った。
「沖田ァ…。なんか、もう、俺、どうでもよくなってきたァ」
「何ワケわかんねェこと言って…」
まだ、火のついたままの煙草を持った状態で高杉がガクっと、落ちた。

「危なっ!!」
力が抜けて、潰れて眠ってしまった高杉の指から煙草を抜いて灰皿に押し付けた。

「沖田君〜、この子どうしたのよォ?」
呆れながら、すっかり残り少なくなったボトルを見るのはこの店のあずみ。

「ついさっき、彼氏の浮気現場を目撃したんでさァ」
「そりゃー荒れるわねェ」
眠ってしまった高杉の頭を膝の上に乗せてやる。『どうでもよくなってきた』と言いながら目尻に涙が浮かんでいるではないか。

「っつぅか、コイツの彼氏、俺も知ってるんですけどねィ、あずみも何か知りやせんかィ」
「何よ、この街のオトコ?」
「C's Barの辰っちゃんでさァ」
「え?」
あずみの反応から、やはり坂本は、それなりに知られているのだろうということがわかった。世間は狭い。ましてや、この街は異様に狭い。知り合いの知り合いがやっぱり知っている人だった、なんてことはザラにある話だ。

「沖田君、この子、本当に、辰っちゃんと付き合ってんの?」
「それは本当ですぜィ。同棲してまさァ」
「あらっ!」
あずみの反応には心当たりがあった。『辰っちゃん』の話は、自分でさえ、耳にしたことがあったからだ。

「あずみィ、ぶっちゃけますけどねィ、コイツの彼氏、目茶苦茶モテるんだろィ?」
「そぉよ!…でも、沖田君にはあんまり関係ないわよね」
「コイツのことがなけりゃーねィ」
なぜかというと、自分も坂本も、受け身に回るつもりは一切ないからだ。

『ここだけの話よ』と、あずみは小声で、知ってることを全部、ぶっちゃけてくれた。

C's Barの辰っちゃんと言えば、毎晩違う相手と寝ると有名なのだという。筋金入りの浮気性だとわかっていて、それでも、一晩だけでいいからと求める相手は後をたたず。しかも男も女もないらしい、と。辰っちゃんは、特定の相手は作らないのだと、来る者拒まずなのだと有名らしい。

「そんなにイイんですかねィ」
と、口にしてから、高杉があれだけやりたがるんだから、そうなのかもしれないと思ってしまった。まぁ、高杉はセックスは好きな方だと思うけれど。坂本と付き合う前、俺と会ったら絶対ヤってたからな。それも必ず複数回。

「なんかねー、イイもの持ってるらしいわよ〜」
「結局そこですかィ」
「それに、絶倫だって」
「そりゃ…毎晩できるんだったら、そうでしょうねィ」
そこまで話して、アレ?と思った。

「それって、最近の話ですかィ?」
確か、高杉のあの事件まで、毎晩してたとか、高杉は言ってなかったか?

「最近は毎晩ってことはないみたいだけど。なんせ辰っちゃん本人が、春から2日おきくらいにしか、この辺に来なくなったでしょ?…まー、他でどうだか知らないけど」
あずみの話を信じるならば(あずみの話は、あくまでも噂だというから)、高杉と付き合って毎晩しつつ、2日おきに2丁目ということか。その分だと、2丁目に来ない日は、大学あたりで相手を見つけているというところか。男だろうと女だろうと構わないのなら、あの坂本なら簡単だろう。

「…高杉ィ、アンタも大変な奴に惚れましたねィ」
高杉が、どうしようもない程、坂本を好きだということはわかっている。さっき、嫌という程わかった。

「ねぇ、沖田君、この子、同棲までしてるんなら、大丈夫とは思うけどォ」
実は遊ばれてる、なんて可能性も、あるかもしれないとは、あずみじゃなくても考えること。

「俺も今、同じこと考えてやしたけど、…でも辰っちゃんって、めちゃめちゃ嫉妬深いですぜィ」
「えぇ?どういうこと?」
確か、坂本と付き合うようになった高杉が、初めて自分の呼び出しに応えて出てきてくれたのは、幼なじみの小太郎とかいう奴と、一緒に写った5年も前の写真に嫉妬したからだったはずだ。

「コイツ、中2の時、幼なじみのことが好きだったんでさァ。そんで、その幼なじみってのがまた、一緒の大学にいて、辰っちゃんの友達なんですがねィ」
3週間前の事件を、かいつまんであずみに話してやる。もちろん、高杉が襲われた話は上手く避けて。

「…辰っちゃん、ついに本命見つけたのかしらねェ」
呟きながら、眠る高杉をまじまじと見つめるあずみ。

「キレイな顔はしてるわよね、この子」
「性別、間違って生まれて来たんですかねィ、高杉は」
眠ったままの高杉の頭を撫でてやる。サラサラの髪が指を滑る。なんだか、くせになりそうだ。気付かないうちに、十四郎にもしてしまいそうな。

そうそう、十四郎は、そろそろバイトが終わる時間じゃないだろうか。
「ちょっと、電話してきまさァ」

酔い潰れた高杉を、1人で連れて帰るのは無理だ。十四郎に迎えに来てもらおう。そうだ、十四郎から、近藤さんに電話すれば、坂本の連絡先がわかるかもしれない。高杉は、電源を切ってしまっていたし。

こうなった以上、坂本が、どう思っているのかが知りたいと思った。俺は、十四郎とは違う。十四郎は、自分を差し置いても他人の心配ができる性格だけど、俺は違う。よそのカップルのことなんて、一切気にしない、どうでもいいと思える人間だったはずなのに。

今日、終電で帰れない理由を話した時の、十四郎の反応は目に見えていた。
メールを読んだのか、十四郎は『今から電話しようと思っていた』と、駅にいるらしいザワザワした中で、すぐに電話に出た。

***

「まァ、正直なところを言うと、まさかあんなところで、見つかるとは思わんかったんじゃ」
喫茶店で、休みなく煙草を吸い続ける土方君を前に、何故か言い訳をさせられていた。晋助がどこに行ったのかわからない以上、今は土方君を頼るしかないのだけれど。

土方君に自分の番号を教えたのは近藤で、電話がかかってくるまで気付いていなかったけれど、近藤からは
『俺の後輩の土方が、またこないだみたいな剣幕で怒ってるから坂本の電話番号教えたけど、俺、行かなくていいよね?いいんだよね?(T_T)』
というメールが入っていた。

「お前、ほんっと馬鹿だな」
どうせやるなら、絶対見つからねェように、もっと上手くやれよ、と土方君は煙と一緒に深く息を吐き出した。

「まさか晋が、あんなところにいるとは思わなくての。でも、なんであんなとこにいたんじゃろ?」
もしかしたら、晋助も沖田君と?いや、まさか。だって晋助は、事件以来、ようやく昨夜、やっと1回できたばっかりなのだ。いきなりそんな、浮気なんて。でも、晋助と沖田君が、どういう知り合いなのかがわからない今は、どうしても疑ってしまう。

「何か知らねェけど、今日はな、総悟が目茶苦茶機嫌悪くてな。終電まで、飲みに行って発散してくるって、高杉は総悟に付き合ってやってたんだよ。あの辺は近道なんだろ?」
「そうなんか。飲みに出るなら、連絡もらえることになっちょったからのぅ」
総悟の機嫌が悪かった理由は自分も結局知らないのだと、土方君は言った。

「沖田君が、土方君にも言えないようなことを話せるって…、晋と、沖田君は、どういう関係なんじゃ?」
土方君は、一瞬驚いて、でもすぐに、視線を宙へと泳がせた。

***

5年も前の、幼なじみと写った写真に嫉妬する彼氏に、高杉が、自分達のことを詳しく話さないのは当たり前だと思った。でも、ここは、言ってやろうと思う。
「総悟と高杉は、元はネットで知り合ったセフレだぜ」
案の定、坂本の顔から笑みが消え、凍り付いた眉間にシワが寄る。

「でも、誤解すんなよ。あいつら、お前と高杉が付き合い出してから、1回もヤってねぇし、それどころか、会うのだって、お前らが付き合いだしてからは、こないだの時が初めてだ」
ホッとしたような、安堵の表情を浮かべると同時に、坂本は『土方君はえぇんか?』と呟いた。

「いいわけねェだろうが!だけどなっ!」

俺は最初、高杉のことを、「2丁目の店子」として、聞いていた。『なんかカワイイ奴なんでさァ、トシとも、たぶん気が合うぜ』と。もしかしたら、セックスしてるかもしれないなんて、そりゃ疑ったけど、証拠も何もなかったから、問い詰められなかった。あいつのことだから、きっと浮気くらいしてるだろうとは思っても、総悟は、証拠を一切残さなかった。いつものように喧嘩して、総悟が出て行って。後から何をしていたのか尋ねても、つじつまの合わないところはひとつもなかった。

高杉が、実はネットで知り合ったセフレだと知ったのは、総悟が高杉を連れて来た、あの日の朝の、1本の電話でだった。

「それで…、それでも、晋を1週間も置いてくれてたがか?」
「仕方ねェだろっ?」

総悟が連れて来た、憎いはずの総悟のセフレは、顔や身体中に痣や傷を作り、1人ではマトモに歩けもしない程、ボロボロの状態で俺の前に現れた。そんな奴を、いくら憎くても、追い出せるはずがなかった。

「高杉の怪我ってか、痣ってか…。テメェ、ほんっとに酷かったんだからな?」
一瞬だけ、本当に一瞬だけ、ドSの総悟がヤリすぎたのではないかと思った。だけど、高杉の傷は、無理なSMプレイなんかでできるものとは、明らかに異なっていた。

見るからに、殴られ、押さえつけられた傷と痣。加えて、大声に敏感に反応して怯えて泣く姿。思い出したのは、…2年前の自分。いや、たぶん、傷や痣から察するに、高杉は自分の時より酷くやられていた。自分の時はまだ、総悟が助けてくれるのが早かったのだ。

「し、ん…」
俯いたまま話していた俺は、震える坂本の声に気付いて顔を上げる。坂本は、口許を押さえて、泣いていた。

「高杉の奴、彼氏が怒ってるから帰れないとか言うだろ?それどころじゃねェくせに」
目の前に現れた彼氏のセフレ。だけど、そいつは、総悟がかなり気に入って、よく話してくれてた相手でもあった。複雑だった、だけど、置いてやることしかできなかった。

総悟が高杉を気に入った理由は、俺にもすぐわかった。なんでこんな奴が、ネットなんかで相手探すんだ?って、本気で思ったくらいだった。それとなく聞いてみたら『俺、周りに一切言ってなかったから』という返事が返ってきて。『沖田にいろいろ聞いてもらえたし、あっちこっち連れて行ってもらったし。だから、ネット使ったの、あれ1回だけなんだ』と。

進学を機に彼氏と別れた話や、大学に好きな奴ができたとか。とにかく高杉は、誰かに聞いて欲しかったんだろうと思った。

「高杉って、悪いのは寝起きだけで、あとはめちゃめちゃイイ奴だろ?なんかもう、いいやって気になった。彼氏できてからは総悟とはしてねェって言うし」
寝起きの話で、坂本はちょっとだけ、微笑んだ。

「テメェ、何でまた、泣かすようなことしてんだよ?」
笑ってる場合じゃねェだろうが!と怒鳴り付けると、喫茶店の店内がしいんと静まり返った。深夜でも、場所柄それなりに客はいる。

「わしな…、晋に出会うまで、とある先輩のことが、ずっと好きだったんじゃ」
それがどうした、と言いかけたが、坂本の思いがけない真剣な目付きに、俺は黙って話をきいた。

「一度はっきりフラれたんじゃけど、それでも、どうしても好きでのう。…晋に出会うまで、その反動で、毎晩違う人と寝とったんじゃ」
「毎晩ってな、お前…」
なんだ、こいつの三大欲求のほとんどは性欲かよ?と思いながら、俺は坂本の話を聞いていた。

***

『近藤さんに番号聞いて、俺が坂本の言い訳聞いてやる』

事情を話した十四郎の行動は、やっぱり思った通りだった。止めても無駄なことくらいわかっている。しばらくして、ここからすぐ近くの喫茶店に、坂本を呼び出せたとメールが入った。

「ねぇねぇ、沖田君」
電話から戻ると、高杉に膝掛けをかけてくれていたあずみが真面目な顔で言った。高杉が、完全に眠っているのを確認した上で。

「辰っちゃんの浮気癖って、たぶん一生治らないと思うんだけど。この子、大丈夫なのかしら」
この先、いちいち浮気くらいで酔い潰れる程落ち込んでいては、坂本とは付き合えないということか。

「最近辰っちゃんがこの辺に来る回数が減ったって言ったでしょ?それが、この子のせいだとしても、やっぱり辰っちゃんは、時々はこの辺来るんだし、それに」
辰っちゃんのこと狙ってるオカマも、相変わらず多いわよ、とあずみは言った。

「そうなんですけどねィ」
でも、コイツも、どうしようもない程、彼氏のこと、大好きなんでさァと、俺は溜息をついた。

***

毎晩、どころの話ではなかったと思う。
昼に大学でして、夜にはまた違うところで相手を見つけて。たぶん、おりょう先輩は、そんな自分に気付いていて、ますます距離を置く。拒否されればされる程、自分は酷くなる悪循環。しかも3月で先輩は卒業し、前のように、会うことすら叶わなくなって。晋助に出会ったのは、そんな時期だった。

『お、まえ…1丁目の小太郎か?』
『お前、晋助っ!?』

入学式の日に、執行委員会のブースで、裏で陸奥に怒られていた時に聞こえてきたそんな会話。桂の知り合いが入学してきたのだろうと思って、何の気無しに覗いて見た。

一目ぼれだった。あの一瞬、先輩のことを忘れた。

「なんかの、上手く言えんのじゃけど…。晋のことが、好きすぎて、どうしたらいいかわからんのじゃ」

桂の幼なじみだったおかげで、一緒に飲むような仲間になった。先輩とのことにけじめをつけ、上手いこと一緒に住む話になって。とんとん拍子でそこまで進んでも、自分からは何も言えなかった。 晋助に、好きだと言われた時、舞い上がった自分が何を言ったのか、あまりよく覚えていない。とりあえず、後先考えずにキスして押し倒して。それから、ようやく、晋助には彼女がいたんじゃなかったかと思い出した。そうしたら、それは違うのだと、元彼の妹だと言われて。

「なんかの、晋だけは特別すぎるんじゃ。しなくていいって言うか、壊したくないと言うか」
キスして頭を撫でてやって。くっついてるだけで幸せというか。

「お前なァ!壊したくないとか言うけど、アイツが壊れるようなことやってんのお前だろ?泣かしてんのも」
土方君が呆れたように口を挟んだ。

「それに、しなくていいとか言いながらヤルことヤってんだろうがよォ」
「そりゃそうじゃけど。でも」
わしが本当にやりたいだけ晋としてしまったら、晋は死んでしまうぜよ。

「…性欲のカタマリかお前はっ!この絶倫男っ!」
「あっはっは〜、わしには普通なんじゃけどのぅ」
「お前さ…」
笑っていたら、土方君が真剣な顔で、静かに言葉を紡ぎ出した。

「それはわかったけどさ、アイツが今、どういう状態か、わかってんだろ?だから、毎日、学校までついてってやってんだろ?」
なんで今、このタイミングで他の奴とするんだよ?こういう時くらい、ちょっとくらいも、我慢できねェのかよ?と。

「自分じゃ駄目なんだって、できないから駄目なんだって、アイツの性格なら思うはずだろ?絶対。わかるだろ?」
土方君は一気にまくし立てる。どうして、3週間前に知り合ったばかりの晋のことがそんなにわかるのかと思いながら、わしは静かに告げた。

「この2週間、本当に何にもしてないんじゃ」
授業中とトイレのそれ以外全ての時間、できる限り晋助の側にべったりくっついていた。晋助が怯えて泣き出した夜以来、したいとも思わなかった。本当に、晋助とは、しなくても満足だったし、他の相手のことなど、頭に浮かびもしなかった。

「2週間も禁欲したのなんて初めてじゃ」
「その2週間で、お前は限界ってことなのかよ?」
「いや、そうじゃのうて。…実はの」

昨夜、晋助とようやく繋がったんじゃ、と正直に教えた。1回してしまったら急に、忘れていたものが溢れてきて、我慢できなくて。だけど、晋助には無理はさせたくなかったのだと。

土方君は、唖然とした表情で「俺は2ヶ月くらい無理だったはず」と呟いた。その呟きの意味がよくわからない。

「土方君…?」
「ァあ…、」
苦渋の表情で土方君は小さく言った。

「俺も、あんだよ。…集団、レイプ」
「土方君?」
「だから、どうしても、俺」
「土方君っ!!」
もういい、いいから!

煙草を持っていなかった方の手を握ってやった。

「大丈夫だ、俺は。だいぶ昔の話だし。だからお前よォ、こういうこと、高杉にしてやれよ」
自分の手の上に乗せられた坂本の手を土方はテーブルの上に戻した。

「総悟が高杉に構うのも、たぶん俺の時のこと、思い出してんだと思う」
…あの2ヶ月間、自分とできない分、総悟だってきっとどこかで浮気してたんだろう。ヤリたい盛りの高校生だったのだから、お互いに。だけど、それは絶対、俺にはバレないようにしてて、自分のことでいっぱいいっぱいだった俺はわからなかった。してたんだろうなと、思えるのも、今だからだ。

「お前もさ…我慢できねェんなら、バレねェようにやれよ」
「全くその通りじゃ」
何だか、話が違う方向に行ってしまっている気がする。でも、坂本が、どうやっても我慢できないと言うのなら仕方ないことだろう。坂本が上手くやって、俺が高杉には黙っていればいい話だ。

「お前さァ、…高杉のこと、どう思ってるワケ?どんくらい好きなんよ?」
眠っていても、坂本の名前を呼びながら涙を流していた姿を俺は知ってしまっているから。それだけは聞いておかないと、総悟達のところへは連れて行けないと思った。

「あ、真面目に答えろよ。答次第で、この後が決まるからな」
土方君の視線が鋭く自分を射抜いていた。慎重に、言葉を選んで。正直な気持ちを伝えようと思う。

「わしは、晋は、…運命の人だと思っちょるぜよ」
もう、一生、離したくないと、側にいてほしいと、それだけは切に願う。

思いもよらず真剣な目で真っ直ぐ俺を見つめた坂本は、信じてもいいのではないかと思った。

「おっ前なァ、だったら浮気すんじゃねェ!」
「ど、努力するぜよ」
しないと言い切れないところが坂本の坂本である所以か。でも、努力すると言うのだから、まずまずとしてやろう。

「それから、お前は嫉妬しすぎだ。もう、こないだみたいなことはねェだろうなァ?」
「…それは、無理じゃ」
静かだけど、ハッキリとした否定。

「なんでだよッ?テメェは浮気するくせに、高杉は束縛すんのかよ?」
俺はまた、深夜の喫茶店であることも忘れて怒鳴っていた。

「自分勝手と言われるかもしれんがの、晋が他の奴と、って考えただけで、気が狂いそうなんじゃ」
(コイツ、そこまで高杉のこと…)
でも、だけど、コイツの愛情表現はどこか歪んでる。

「できれば、もう沖田君とも会ってほしくないの」
「ふ、ざけんじゃねェっ!」
気付くと手が出ていた。

土方は、立ち上がり、坂本の頬を思い切りひっぱたいていた。

「俺も総悟も、お前が何て言おうと、高杉の友達やめねェからなっ!」
これからも会うし、連絡するし、総悟と高杉は飲みにも行くだろうし。
「なんだよ、お前は、高杉が人形かなんかだとでも思ってんのかよ?違ェだろ?」

あんまり悔しくて、なんだか涙が出てきた。俺と総悟が喧嘩した時、俺達が感情に任せたくっだらないメールを送っても、ちゃんと読んで、ちゃんとそれぞれに返事をしてくれて、俺達の間に入ってくれるくらい、高杉はいいやつなのに。あんなやつ他にいないのに。逆に、俺達が間に入ってやることって、できないのかもしれない。

「土方君は、晋のために泣けるんじゃな」
「なんだよっ?」
泣いて悪ィかよ?俺は悔しくて、情けねェんだよ。

「土方君が、そこまで晋のこと、思ってくれてるのに、わしが、どうこう言っても仕方ないことじゃの」
「坂本…?」
「土方君と、沖田君に嫉妬するのは、なるべく、やめるぜよ」

2人は特別だと、思うようにする、と坂本は言った。高杉には、これから友達なんて、いくらでもできるだろうと思いながら、それでも、コイツにとっては、さっきまでと比べたら、ずいぶんな進歩なんじゃないだろうか。泣いた甲斐もあったということか?計算して、流した涙でもなんでもないけれど。

「土方君…。そろそろ、晋のところに、連れて行ってくれんかのう?」
晋に会わせて欲しい、と坂本は言う。

俺は、無言のまま携帯を取り出して、総悟に電話をかけた。


To Be Continued



4に続きます






















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