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朝っぱらから辰馬に起こされて『一緒に学校行こう』なんていわれて。意味もわからないままに、なんとか寝ぼけた頭で用意して、一緒に電車に乗って大学に到着したんだ。

光る街を見下ろして


そもそも、こんな朝早くから俺を起こすこと自体変だとは思ったんだけど、電車に乗っている間もずっと辰馬は黙ったままで。ラッシュに揺られて身体が密着してしまったのをいいことに、ぎゅうっと俺の腕を掴んで、そのまま、降りる時まで離してくれなかった。なんだなんだ、どうしたんだ?なにがあるんだ?なんて考えたけど、どうしても俺には思い浮かばなくて。

最寄り駅から学校までの徒歩5分の道のりも、本当は恥ずかしいから嫌だったけど、辰馬が離してくれないから、結局手をつないだまま歩いて行ってしまった。

俺がその、らしくねェ辰馬の行動の理由を知ったのは、大学に着いて門をくぐってすぐのこと。

『内部生大学院修士課程試験結果発表』
「おい、辰馬、お前っ…」

今日が発表なら先に言っておけってェの!俺だって心の準備ってもんが必要だろうがぁぁぁっ!!!

「晋、わし、落ちちょったらどうしよう…」
「殺ス」
「しーんーっ!」
落ちてたらどうしようじゃねェだろうが、この馬鹿っ!

まだ1限も始まらない時間のせいか、掲示板の周りに人はほとんどいない。オラ、さっさと見て来いよ、馬鹿辰馬。

「晋、一緒に来て」
「いいけどよ…」

正直あれだけ勉強してたんだから、落ちるわけないと思いたいんだ、俺は。こっそり陸奥に聞いてみたときに、『大丈夫じゃろ』って言ってたし。陸奥のお墨付きじゃねェか!…って、陸奥にしか聞けてないってのが哀しいところだけど。だって、土方に頼んで近藤に聞いてもらったんだけど、就職組の近藤は『俺には全然わからん』って言ってたらしいし。

「駄目だったらもういっかい猛勉強して一般で受けなおせばいいだろ!ほら、辰馬!」

なんとか促して掲示板の前まで引きずるように連れて行く。あー、もう、普段は頼りになるくせに、なんだってこう、時々ヘタレなんだかなぁ、辰馬の馬鹿。

掲示板には合格者の受験番号が張り出されていて。

「どうなんだ?………ほら、辰馬!」
「し、晋………」
「ん?」

もしかして駄目だったのかと思って、俺は慰めの言葉なんかを一生懸命捜していたんだけど。

「受かっちょるー!!受かったぜよぉ〜!!」
急にがばっと抱きつかれて俺はそのすごい勢いによろけてコケそうになった。

「た、たつ、苦しいっ!離れろっ!」
ってか、徐々に学生が登校してきてるから、恥ずかしいんですけど。これ以上俺は有名人になりたかねェぞ、勘弁してクダサイ。

「良かった、良かったぜよぉーっ!!わし、わし…っ!」
「朝から何をやってるんですか、あなた達は」
暑苦しい、と、吐き捨てるような声が俺の頭の上から聞こえてきて。

「た、助けて、武市…」
仰け反るような体勢になっちまってた俺の視界に入ったのは、逆さまの武市の顔。

「たけちぃぃぃぃぃっ!!!」
あっさりと俺から離れた辰馬は、今度はちょうどやってきた武市に抱きついて何度も何度も『受かったぜよぉ!』と繰り返した。

「あー、あのですね、坂本さん………」
とにかく、俺から離れてくれたのはいいんだけど、その代わりに武市にしがみついて…本気(マジ)泣きしてねェ?辰馬の馬鹿。

人前で抱きつかれたりするのは嫌だけど、だからって他の人と…ってのは、もっと見たくないかもしれない。いや、武市相手なんだから、絶対深い意味なんてないんだろうけどさ。ただのハグだ、ただのハグ。

「で、陸奥さんはどうだったんですか?陸奥さんは。まぁ、彼女のことだから、落ちるわけないでしょうが」
「おお、そうじゃった、そうじゃった」

学年首席クラスの陸奥は当然、合格していて。これで、辰馬も陸奥も来年から大学院生かぁ。まだあんまり、俺には実感がない。

1限目は授業のない俺たちは、武市とは掲示板の前で別れていつもの15号館のテラスに向かう。当然、こんな時間には誰もいない。

「しーん、頑張ったご褒美のチュウしてくれんかのー」
「馬鹿かテメェは!」

ちょっとだけ、誰もいないんだからいいかなぁ、なんて思っちまったけど、そういう時に限って、キスしてる最中に誰か来たりするもんだから。学校では絶対しないんだっつぅの。

「しーん、お願いじゃぁ」
「ヤダっつってんだろ」
そんなやり取りをずっと1時間近く続けていて。

『晋ちゃん、今日サボる!ゴメン!』
俺の携帯が鳴ったと思ったら、案の定銀時だった。

『ハイハイ。あー、辰馬、大学院受かったぜ』
一応銀時にも報告してやんねェとな。
その返事のメール代わりに電話が鳴った。

『晋ちゃん晋ちゃん、辰馬いる?代わって』
「ハイハイ。…銀時」

俺がキスもしてやらずに携帯を触り始めたからって拗ねて外を向いていた辰馬に電話を渡した。

「なんじゃ〜?」
『辰馬おめでとー!!』

ハイテンションの銀時の声は、俺にまで聞こえてきた。どうやら、小太郎も一緒にいるみたいだ。
『いつお祝いするー?さっそく今日?飲むぅ?』
今日とか言ってるけど、大丈夫なのか銀時。バイト休みかよ?

「おお、すまんのー、心配かけたのー」
拗ねて、ふてくされたような表情を見せていた辰馬だけど、銀時からのお祝いの言葉には、素直に嬉しそうだった。

「晋、銀時がお祝いしよって。今日で構わんかのー?」
「いいんじゃねェの〜?」

今日にこだわるってことは、きっと銀時は今日くらいしか空いてないってことなんだろうからな。銀時がなんでそんなにバイトばっかりしてるのかって、事情を知ってしまった俺は、なるべく銀時の都合に合わせてあげたいな、と、思ってる。

1限目が終わる時間になって、俺は一旦辰馬と別れて和歌の授業へ向かった。辰馬は、執行委員会の部室に行って、後輩達に合格の報告をしに行くと言っていた。

***

授業で当てられたもんだから、軽く意見を言ってみたら、滅茶苦茶反論してきたヤツがいて。なんだか苛々しながら辰馬との待ち合わせの喫煙所に着く。先生が収めてくれなきゃぁ、俺とそいつの言い合いで授業終わっちまったじゃねェか。なんだってんだよ、もう。 まだ辰馬は来てないみたいだったから、とりあえず煙草に火をつけて、ゆっくりと煙を吸い込んで、吐いて。せっかく辰馬のお祝いなのに、こんな眉間に皺寄せたままでなんかいたくないから。

「おう、高杉!」
深呼吸するみたいに煙草を吸っていたら、声をかけられた。土方だった。

「なんかあったか。お前?」
「べつにー」

苛々が顔に出てんぞって言われて。隣に座った土方も煙草に火をつける。話すほどのことでもないから言わなかっただけなんだけど。なにも聞いてこないから土方は楽だし、助かる。やっぱり友達だよな、わかってくれてるんだよなぁ、って思う。

「そー言えばさ、辰馬、大学院、受かったぜ。陸奥も」
「マジでか?あいつやるなー!良かったじゃねェか!これで来年も一緒だな」

ポンポンと土方に肩を叩かれて、なんだかそれだけで、自分まで嬉しくなって、さっきまでの苛々が急に激減したような気がした。なんだか、この、さり気無い土方の優しさがしみじみありがたい。


「動機が不純でも受かるもんなんだなー」
アハハッと、土方が笑って俺もつられてようやく笑えた。

「受かってくれなきゃ殺スって言ってたしなー、俺」
「そりゃ必死になるわ」

なんだか土方のおかげですごく和んだ。笑いながら話している間に、辰馬が迎えに来てくれて。

「なんじゃ、楽しそうじゃのぅ」
「いや、動機が不純でも院って受かるんだなーって、辰馬の話してた」
「なんじゃそりゃ!」

今日、うちで辰馬と陸奥の合格祝いやるからお前らも来いよと告げて。『総悟の都合次第だけどできるだけ行くわ』という土方の返事を聞いてから、俺たちは喫煙所を後にした。

***

辰馬が勉強で忙しかったり、メインのみんなが4回生で就職活動やら試験やらで集まれなかったせいもあって、『今日飲むぞ!』なんて連絡は久しぶりだったんだけど、それでも結局、ほぼ全員集まった。

主役の陸奥と辰馬には座っててもらって。その代わりに幾松さんと小太郎と、銀時がキッチンに立ってる。

武市と岡田はやっぱり2人で窓際のいつものスペース。近藤と東城は…もう脱いでる。乾杯のビール1杯目から『暑い』って言い出しやがった。さすがの俺も、あの2人の裸は見慣れちまったから今更反応することもないけどさ。

土方と沖田は後から合流予定。それから、ちょうど電話が掛かってきたから試しに呼んでみたら来るって言うから、また子もこれから増える。

「坂本さんが受かるなら私達も受けてみるんでしたかねぇ」
「全く同感さね」
「なんちゅー言い種じゃ!」

俺は一応、辰馬の近くには座っていたんだけど。主役だからみんなが交代で乾杯しにきてて。今は武市と岡田の2人に手荒な歓迎を受けているところ。

「いやぁ、本当に良かったなぁ、坂本ぉ!陸奥は心配してなかったけどなぁ!」
「みんなわしに対する言葉がヒドイんじゃなかか?」
「日頃の行い、自業自得じゃボケェ」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか、坂本よォ」

パンツ一丁の近藤が隣に割り込んできて、豪快に笑いながら一気飲みを始める。っつか、陸奥が一番早いのってどうなんだ!

「晋ちゃん!拗ねてないでこっち手伝ってよ」
「誰が拗ねてんだ、誰が」

確かに、せっかく辰馬の隣に座ってたのに、近藤に割り込まれちまったけどよ。でも、今日は辰馬が主役なんだから、辰馬のお祝いなんだから、仕方ないやって、俺だってそれくらい我慢できるわっ!

幾松さんが作ってくれたラーメンを、東城のところに運んでいったら、凄い勢いで食べ始めた。初めて会った時から東城は全然変わらない。就職したら、少しはマトモな飯食えるようになったらいいな、お前は。

玄関チャイムが鳴って、いつもなら辰馬が出るんだけど俺が出て。玄関を開けた先にいたのは遅れてきた3人。

「先輩、おめでとうッスぅ〜!!」
いきなりまた子に抱きつかれて叫ばれた。あのな、お前、近所迷惑だから、ぅん。だいたい、その前に、俺は全然おめでとうでもなんでもないんだからな。

「ちょうど下で会ったんでさァ」
「酒買ってきた。冷蔵庫入れたらいいか?」

俺がまだ、また子に抱きつかれて玄関から動けないってのに、沖田と土方の2人はずかずか部屋に入っていく。まぁ、慣れてるんだから当たり前か。

「また子、とりあえず離れろ…っ!」
「えーっ、イヤッスぅ〜」
「また子ぉぉぉぉぉっ!!」

とにかく、また子に抱きつかれたまま、リビングに歩いて行ったら、早速飲み始めていた沖田が。

「坂本ォ、嫁さんが襲われてやすぜィ」
ばっ、馬鹿沖田っ!なんつー言い方するんだっ!!

「またちゃーんっ!晋から離れるんじゃあああっ!」

立ち上がった辰馬が、猛ダッシュでこっちに向かってくるか…?という瞬間に、また子はパッと俺から離れてダイニングの席に座ってしまう。

「あたし、なんにもしてないッスよ」
さすがだ。辰馬のあしらい方、わかってんなー、また子。

「もぅ、晋、こっち来ぃ!」
辰馬に腕を引っ張られた瞬間。

「まぁまぁ、坂本!今日はいいじゃないですか、細かいことは」
お腹が脹れて満足したのか、今度は東城が辰馬の腕を引っ張って無理矢理乾杯イッキ。飲み始めて、まだ1時間だってのに、早速カオスじゃねェか。

まぁ、こんな飲み会も久しぶりだったし、これはこれでアリなのかもな。

***

俺は、土方と2人、ベランダに出て煙草をふかしていた。もちろん、部屋の中はまだまだ宴会が続いているし、部屋の中で煙草吸ったって構わないんだけど、全く酒の飲めない土方が、『臭いだけで酔いそうになってきた』なんて言うから、俺も酔い醒ましのためにちょっとだけ、一緒にベランダに出たってワケ。ベランダには、ベンチが置いてあるからさ、そこに2人並んで腰かけて煙を吐き出して。

さすがに10月の半ばとなると、昼間はまだ暑いんだけど、夜はそれなりに涼しかった。少し、肌寒いくらいかもしれないけど、お酒が入ってるから、今は平気。

「高杉よォ」
「んぁ?」
ふぅーっと、土方が煙を吐き出しながら俺を呼んだ。

「改めてだけど、良かったじゃねぇか」
「ぁあ、ぅん…」
「昨年、お前、泣いてたもんなァ…」
「は、恥ずかしいこと思い出すんじゃねェっ!」

沖田に連れられて土方の部屋に初めて行って土方と知り合って。土方がいろいろ話を聞いてくれたあの時に、俺は唐突に気づいたんだ。

―――辰馬は先に卒業してしまうんだってことに。

辰馬は卒業したら地元に帰るだろう。俺は置いて行かれる、また、捨てられる、って。ずっと、辰馬が卒業後どうするつもりなのかってことが聞けなかった。辰馬は何も話してくれなかったから、今年になって、俺が2回、辰馬が4回に進学しても、何も聞けなかった。

聞いてしまうのが、怖かったから。
だけどこれで、少なくともあと2年は一緒にいられることが確定して。

「幸せそーな顔してんじゃねぇよォ」
「う、うっせ!見んじゃねェよっ!」

だって、幸せなんだから仕方ないじゃねェか。この部屋に、辰馬の隣に戻ってきて、もう離れたくないと思ってから冬で1年だ。

「しんー、土方くんー、風邪ひくぜよ、中入りぃ」
「おっ。…2人にさせてやろうか?」
「何言って、土方…?」

灰皿に吸殻を押し付けて、土方は部屋の中に入って行ってしまった。俺はまだ、さっき火をつけたところで煙草が長い。
土方と入れ替わりに、辰馬がベランダに姿を見せた。

「晋、風邪ひくじゃろー?」
「まだ大丈夫だろ?これ吸ったら戻るし」
そこまで寒くはないだろうし。

煙草を吸い続ける俺の隣に、辰馬が座った。2人並んで、ほとんど星なんか見えない東京の空と7階からの夜景を、無言のまま見つめていた。

さっき、土方と煙草を吸っていた時には空いていた窓が、今はキッチリ閉まっていることには気づいている。

「辰馬」
「んー?なんじゃあ?」

今しかないと、思っていた。そのために、土方が気を利かせてくれたんだってことも、わかっていた。

「おめでとう」
朝からの騒ぎとか、帰ってきたらすぐに宴会が始まっちまったとか、そういったもんのせいで、俺はまだ、ちゃんと辰馬にその言葉を言えていなかった。

「晋、ありがとう」
にっこり微笑んだ辰馬の前で、灰皿に煙草を押し付けて。

「ご、ご、ご褒美の、……、してやる」
「へ?なんて?」
聞き返すんじゃねェっ!!!ただでさえ恥ずかしいんだからなっ!

「しん?」
「だからっ!」
朝、それで拗ねてたのはどこのどいつなんだっ!

「辰馬…っ」
俺は、無理矢理辰馬のシャツの襟首を掴んでこっちを向かせて。瞳を閉じて、そのままの勢いで唇を重ねてやった。

一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに辰馬の両腕が俺の肩と背中に回されて、辰馬の方から舌が入ってきて。

「晋からしてくれるとは思わんかったぜよ…」
「う、るせー!…もう、しねェかんな!」

恥ずかしくて、きっと耳まで真っ赤になっているだろう俺は、辰馬の顔をマトモに見ることすらできなくて。

俯いていたし、左が部屋側だったから全然気づかなかったんだ、見えねェから。

「おんしら、何しちょるんじゃぁぁぁぁっ!!!」

辰馬の怒鳴り声で、ハッと我に返る。部屋の中で宴会をしていたはずの全員が、窓に貼り付いて、俺達を見ていた。

「いよっ、馬鹿ップル!」
「先輩ゴメンッスぅ、バッチリ激写したッスぅ」
「俺はムービーですぜィ」
「沖田君、送ってくれるか?」
「おー。桂、赤外線できやすかィ?」
開いた口が塞がらないって、このことか?

「こらぁ、肖像権の侵害じゃあ!わしはともかく、晋は駄目じゃあっ!減るっ!」
辰馬は俺を置き去りにして、部屋の中へ怒鳴り込んで行ってしまった。

人前だと恥ずかしいからって、学校ではせずにここまで引っ張ったってのに。一体何人に見られたんだ俺は。

「高杉君、本当に風邪ひいちゃうわよ、入ってらっしゃい」
茫然と固まったままでいた俺を、幾松さんが呼んでくれた。

「い、いつから見てたんデスカ?」
さすがに手足は冷たくなってしまったけれど、顔だけは異様に火照っていて熱い。治まらない。辰馬は、写メを撮ったまた子や沖田を追いかけ回している。『その写メ、わしにもくれー』って、なんかおかしいだろ、お前。

「ゴメンね、坂本君が土方君と入れ替わりで出てってからずっとよ」
ってことは全部、一部始終じゃねェか。俺は頭が痛くなった。

「い、幾松さん、酒ちょうだい」
ああーっ、もう!今日はヤケ酒してさっさと寝てやるんだっ!そうでもしないと恥ずかしいやら照れくさいやらで死にそうだっつぅの! どうせみんなは、朝まで飲むんだろうからさ。


END



辰馬と陸奥が大学院に合格した話でしたー!申し訳ないのですが、高階は、院試なぞ受けたことありませぬ!だから全然わかってません、ごめんなさい〜!久しぶりの宴会は書くの楽しかったッスよ先輩!

あと、実は「めちゃくちゃ反論してきたやつ」は、鴨の予定でしたw いっぱい卒業しちゃうから、飲み会メンバーに新しいキャラ投入しようとしてたんですよねー。




















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