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※「太陽と月の序曲」の続きです

春にありて酔えるもの


扉を開けて俺達を出迎えたのは、背も声もでっかい、癖毛でどっかの方言のあいつだった。オイ小太郎、なんでだよ。

「おー、待っちょったぜよ〜桂ァ」
入り入り〜と、招かれるがままに入ったここは、坂本の部屋らしかった。ここって、とても大学生が1人暮らしなんかするようなマンションじゃない、なんなんだよコイツ。

俺達以外に、すでに4人集まっていて、宴会は始まっていた。さっきスーパーで買って来た酒と惣菜は、そのままテーブルに並べられる。全部で7人になったけど、この部屋は広くて、まだまだあと5人くらいは余裕でリビングに座れる。間取りは2LDKってとこか。

「えーっと、高杉君、じゃったかのぅ?こっちは数学科の岡田、隣は法学部の武市で、飯の用意してくれとるのが、経営の陸奥と社会福祉学科の幾松さんじゃァ」

一気にそんなに紹介されたって、覚えれるかっつぅの!陸奥とかいう怖い女の人は、こないだ見たけれど。だけど、坂本は俺の憤慨なんか全然気にせず、桂の幼なじみで1年の高杉君じゃ〜と、勝手に俺を紹介しているし。

「小太郎、俺」
帰る、と言おうとしたら、すでに小太郎は武市ってやつと、何やら話し込んでいた。

「武市、刑事処罰法1はどっち取る?」
「長谷川先生は結構緩いらしいんですよ」
なんだかんだと単位くれるそうですよ、と2人が広げているのは、法学部の履修要項らしい。

「じゃあ商法2は月曜の1限かァ?うーっ!」
「桂さん、昨年取らなかったんですか?」
「落としたんだよっ!」
38度でテスト受けたら58点だぞ、有り得ないだろう?と、小太郎は長い髪の毛をかきあげて喚いている。なんか、俺に構ってるどころじゃないみたいだ。

知らない人ばかりの中に放り込まれて、俺は、どうしようもなくなってしまった。しかも、たぶん全員上級生。

「…で。アンタは何てェの?」
本当は、苗字だけは覚えてたんだけど。
「おっ、すまんのー!わしは、経営学科3回の坂本辰馬じゃァ」

どうしたらいいのかわからなくて、突っ立ったままでいたら、坂本の隣に座らされる。コイツの隣とか嫌なんだけど、助けろよ小太郎ッ!

「コレって、何の集まりなワケ?」
坂本に缶ビールを渡されたついでに聞いてみた。学部がこれだけバラバラの学生が、こんな風に仲良くなって集まったりするものなんだろうか。
「何の集まりじゃろうかの〜?」
アッハッハと大声で笑う坂本の返事は、答えにはなっていなかった。

「何ちゃーことはないぜよ、全員ただの、坂本の友達じゃァ」
出来上がったポテトサラダを運んで来た陸奥が冷静な声で言い放つ。たぶん、普通にああいう話し方なんだろうけど、怒ってるわけじゃないんだろうけど、やっぱり陸奥って、怖い。方言のせいかな。
似たような言葉遣いの坂本は、しゃべりながらヘラヘラ笑うから、まだ大丈夫なんだけど。

「そぉよ〜、みんな坂本君が好きで集まってるだけだもの」
カウンターキッチンの向こうから、社会福祉学科の女の人が口を挟んできて、俺はあまりにもビックリして片方しか見えない目を丸くして隣の坂本を見上げてしまった。なに、コイツこんなに友達いるの?あんな図々しくて馴れ馴れしくて、不躾なヤツなのにか?

「言っておくがわしはこんなモジャ何とも思っちょらんぜよ」
取り皿と割り箸をテーブルに積み上げる陸奥。

「あァ、そうだねィ、俺も別に好きじゃァないねェ」
陸奥に同意したのは数学科の…えっと、岡田、だったっけ。

「おんしらヒドイのー!そう言いながら、この3人、高校から一緒なんじゃよ〜、高杉君」
あ、そう、そういう繋がりなわけね。高校から一緒の割には、岡田だけ方言が抜けてるのは、生まれは違うのかな。

「ただの腐れ縁だろ」
「ヒドイろ〜!しょっちゅう来とるくせにの〜」
わざとらしく喚いた坂本が、いきなり泣いたフリをして俺に抱き着いてきた。

「!!…おまっ、馴れ馴れしいんだよっ!!」
思い切り、俺は坂本を殴り飛ばした。坂本は吹っ飛んで、時間割を作っていた小太郎と武市(だったかな)の間に勢いよく突っ込む。

「…ふふ、お前らしいな、晋助」
笑っているのは小太郎1人で、後の全員は呆気に取られている。図体のデカイ坂本が吹っ飛んだのだから当たり前だ。でも、坂本はこんなことくらいじゃ懲りないヤツなんだって、俺は知ってる。

「小太郎、俺ッ」
今度こそ『帰る』と言おうとして立ち上がったけど、小太郎と、調理していた幾松、2人がかりで宥めすかされた。

「まぁまぁ、落ち着け晋助」
「坂本君はああいう人なのよ、気にしない気にしない。高杉君は学部どこ?」
「…文学部デス」
「あら、頭いいわねー」
なんだか穏やかな表情の2人に流され、幾松に聞かれて素直に答えてしまった。仕方なく元の、座っていた場所に戻る。

「ほぅ、誰か文学部おったかのぅ?」
一瞬で復活した坂本が、無理矢理俺と缶を合わせてきて、乾杯させられる。懲りねェ野郎だな。

「阿音さんが文学部だろ?」
坂本と同じ様に、缶をぶつけてきた岡田。そっか、この仲間に、俺と同じ学部の先輩もいるんだ。いろいろ教えてもらえるかもしれない。

「でも、阿音さん美術史科よ〜?あそこちょっと変わってるじゃない?高杉君も美術史科ならいいんだけど」
テキパキと、調理する手は止めないままの幾松。

「イヤ、国文デス、俺」
美術史科なんて、入れるわけないだろうがっ!興味も、そんなにはないけれど。

うちの文学部が、異様な倍率と偏差値なのは、英文科と美術史科のせいだ。美術史科なんて滅多にない学科がある上に、今年は、全世界的に大ヒットした映画のせいで、例年より更に倍率は高かった。俺が文学部だって、みんな驚くけど、小太郎も入学式の時ビックリしてたけど、俺は国文科だから、そんなにそんなに、無茶苦茶頭がいいってわけじゃないんだ。

「もうちっとしたら来るじゃろうから、いろいろ教えてもらいの」

坂本に言われて、まだ集まるのかよって真剣に思った。確かに、部屋の中は余裕だけど、入れるし座るところもあるけど、一体何人集まるんだ?しかも全員コイツの友達だろ?

「お、東城じゃ…はいはい?……わかったろ〜」
かかってきた電話に出ながら坂本は立ち上がった。

「駅まで東城迎えに行ってくるろ〜。動けんらしいんじゃ」
「じゃあ、ラーメンでも作るわね」
「頼むろー幾松」
坂本が出て行った意味と、会話の内容がイマイチ理解できないけど。とりあえず俺は、ビールを飲みながら、さっき運ばれてきたポテトサラダや、小太郎と買ってきた惣菜を突いていた。

「アンタまだビールあるかィ?」
坂本がいなくなって、隣になった岡田が、時々気にして聞いてくれる。

「あ、じゃあ、次もらいマス」
制服を脱いだだけで、歳はまだ18歳のまま変わらないってのに、こんなに堂々と飲める大学生って、なんだか楽しそうだなって思えてきた。

「桂君、時間割終わったら手伝ってよ」
「ああ、何したらいい?」
幾松に呼ばれて、広げていた履修要項を片付けた小太郎もキッチンの中に入った。陸奥は、カウンターキッチンの、こっち側のテーブルの上で、さっきからずっと野菜を切っている。

「あの、俺手伝わなくてイイんですか?」
隣の岡田に小声で聞いてみた。俺1人1回(生)なのに、いいんだろうか。

「キッチンにそんなに人数いても邪魔だからね、構わないよ」
「幾松さんは料理するのが好きなんですよ」
岡田の隣の武市も飲みながらそう言うから、俺はそのまま座って飲むことにした。なにげに見つめたキッチンでは、小太郎と幾松が、なんだかすげェ、いい雰囲気で調理を続けている。

そう、小太郎は普通なんだよな。
いくら忘れようとしたって、まだ全然忘れらんない。だってまだ、あれから1週間ちょっとしか経ってなくて、なのに俺の周りの環境は、目まぐるしく変わってしまっていて。

ここには、万斉はいない。

なんだか急に泣きたくなってきて、俺は慌てて違うことを考えた。ウン、このポテトサラダおいしいぜ幾松。

泣きそうなのを、誰にも気付かれないように必死になっている間に、坂本が帰ってきた。

「ホレ、東城、とりあえず食いぃ〜」
坂本に、肩で担がれるような姿で入って来た奴は、玄関に一番近い席に座って、陸奥がどんぶりに盛ったご飯をすごい勢いで掻っ込み始めた。おかずは、ドバっとかけたタマゴ。有り得ない。そして坂本は、やっぱりまた、俺と岡田の間に座る。

「東城君、ラーメンできたわよ」
幾松が言って、小太郎が運んできたのは大盛ラーメン。

「高杉君あんなァ、コイツは外語大の東城じゃ。なんじゃったかの〜、わけのわからん言葉やっちょるんじゃ」
なんじゃったかのう?と坂本が問い掛けても、東城は食べるのに必死で聞いてない。ってか、ついに違う大学の奴まで出てきたよ。なんなの、この坂本ってヤツ。

「授業がキツくてバイトしちょらんからの、いっつもこんな感じなんじゃ〜」
「うわ、キツ…」
15分程で、どんぶりご飯と大盛ラーメンを食べ切った東城を、唖然としたまま見つめていたら、さっきまでの感傷はどこかへ行っていた。

「東城、こっちはのぅ」
「ハッ!!!」
満腹になってようやく落ち着いたのか、坂本の方を向いた東城が、いきなり俺を見て近寄ってきた。すごい勢いで。

ペタペタペタペタペタ。

(なっ…!)
東城がひたすら触ってるのは、俺の身体、胸あたり。

「い、いや、貧乳ということも…」
言いながら下の方に伸びてきた手を左手で掴んで、俺は右手をグーにして、東城を殴り飛ばした。

「俺は男だっ!」
ボーイッシュな女の子、に間違われたことがないとは言わないが。

扉の前まで吹っ飛んだ東城だけど、坂本の友達だけあって、復活が早い。

「残念至極、非常に無念!…でも、一度ゴスロリを」
起き上がって、ワケのわからんことを言いながら、また近寄ってくる東城。

「アッハッハ〜、東城は男っぽい女の子大好きじゃからの〜」
「だから、俺はれっきとした男だってェの!」
「女装でも構わな…」
両肩を掴んで迫ってきた東城をもう一度グーで殴った。男でイイってんなら話は別だけど、この東城ってヤツは、絶対そんなことはないはずだ。

「落ち着き落ち着き、高杉君」
後ろから坂本に羽交い締めにされて。
「触んな!テメェ馴れ馴れしいんだよっ!」
ちょっと過剰に反応してしまってることに自分でも気付いてる。だけど、嫌なモンは嫌だ。こいつらみんな、男同士だからって何とも思ってないんだろうけど。

「晋助、こっち来い」
散々暴れてようやく、小太郎が助け舟を出してくれた。

「こたろー!」
キッチンから出てきて、ダイニングの椅子に座った小太郎の隣にダッシュで俺も座った。ホントは泣きそうだったけど、顔を覆ってなんとか耐えた。ここは我慢だ我慢、泣くな俺。

「晋助、お前そんなに人見知りだったか?」
言いながら小太郎が、ポンポン頭を撫でてくれる。違うんだよ小太郎、俺が嫌がってるのは人見知りじゃないんだよって、言ってしまえたらどんなに楽なんだろうって思った。

顔を覆っていた俺は、そんな自分達を坂本が、すごい形相で凝視していたことになんて、気付いていなかった。

***

リビングのテーブルの周りには男ばっかりが集まって、俺は結局そのまま、小太郎や女の子達とダイニングの方にいた。

その後、Lサイズのピザを3枚運んで来た経済学科2回の服部(本当にピザ屋でバイトしてるらしい)と、美術史科2回の阿音がようやく合流したのは、夜の11時を過ぎたくらいだった。服部は、わざわざ座布団持参で、どうやら痔らしい。大変だな。俺も気をつけないと…って、今する相手いなかった。へこむ。

この分だと今日は帰れそうにないなと思って、俺は母親にメールを入れる。返事の代わりに、電話がかかってきた。『小太郎の友達ん家の飲み会誘われて』と話したら、小太郎に代われという。なんだよ、全然信用してねェな俺のこと。

小太郎とちょっと話したら、母親は納得したみたいだった。昔から優等生だった小太郎の話は、無条件で信じるらしい。仕方ないか。

「あたしあんまり国文の子が取るような授業知らないんだけど?」
「あ、あの、わかる範囲でイイんで…」
馬鹿騒ぎを始めた男達を放っぽって、美術史科の阿音に、取りやすい授業を教えてもらっていたら、また玄関チャイムが鳴る。なに、まだ来るってのかよ?

「遅かったのー近藤」
玄関まで出迎えに行った坂本のデカイ声がする。

「バイトだったんだよ、そのかわり、ビール2ケース買ってきたぞォ」
今来たヤツも、坂本に負けず劣らず、デカイ声だった。なんだろ、なんとなく、ここに集まるメンバーの傾向が見えてきたような。

ビールケースを2つも担いで入ってきたヤツは、坂本と同じくらい、身長もデカかった。

「近藤、おんし汗臭いぜよ〜」
「ああ、シャワー借りるぞ」
言いながら、リビングにビールケースを置いてさっさと慣れた足取りで玄関の方へ戻って行くデカイ奴。そいつが買ってきたビールは、幾松と陸奥が、冷蔵庫の中に突っ込んだ。

「ああ、高杉君、今のはわしと同じ、経営3回の近藤じゃ」
後でまた紹介するの、と言われ、坂本はまた馬鹿騒ぎの男達の中に戻って行く。

「何人来るんだよ…」
「近藤さんで最後だと思うわよ」
ボソっと呟いた俺に返した阿音。

「あなた、真面目に授業出るつもりはあるの?」
「あ、ハイ、もちろんデス」
「ふぅん」
何か言いたげな阿音が開いているのは、履修要項の英語の授業ばかり載ってるページ。

「毎週ホントに出るつもりならコレはお勧めよ、結野先生のBEWのa」
本当は英文の子が取るような授業なんだけど、と阿音。

「毎週授業の最後に何か書かされるけど、たいした難しくないし、それさえ出してればテストもレポートもナシ」
Basic English Writting(略してBEW)と書かれたページの履修要項を俺は読んだ。

「あと、スポーツ科学は松平先生にしなさいよ〜、出席取ったら、あとは体育館で遊んでればいいから」
あたしがわかるのはそれくらいかな、と阿音は半分くらい埋まった俺の時間割をテーブルの上に置いて、缶チューハイをぐいっとあおった。

「ありがとうございマス」
後はゆっくり、帰ってから考えればいいやと思った。
br 「坂本ーっ!着替え忘れた!貸してくれっ!」
腰にバスタオル1枚巻いた姿で出てきたのは近藤だった。

「おんし、今日は女の子もおるんじゃよー」
坂本が立ち上がって、近藤を隣の部屋まで連れて行くが、女の子は3人共、坂本が言った程気にしてないみたいだ。

「阿保の近藤の裸など見慣れたぜよ」
「そうよねぇ、近藤君、着替え置かせてもらったらいいのに」
陸奥と幾松はそんなことを言い合っているし、阿音はハナから興味なさそうだ。

(や、やべ…っ)

ちょっと、反応しちゃったの、俺だけじゃん。早く収まれっての!

さっき、坂本と並んだ時に、すぐ思ったんだ。坂本は、わかってたけど(だから尚更、馴れ馴れしくされるのが嫌なんだ)、近藤ってやつもそう。それからまだ立った姿は見てないけど岡田と武市もだ。

身長や身体つきが、万斉と同じくらいだってことに。

「アッハッハー、おんし似合わんのー」
「ほかにないのかよっ坂本ォ?」
「ないぜよー、最近はポールばっかりじゃあ」
デカイ声でリビングに戻ってきた2人。坂本の服が(ポールってことは、ポールスミスだろう)全く似合ってない近藤。

「紹介するぜよ〜、桂の幼なじみで文学部1回の高杉君じゃ〜」
坂本が俺を紹介して。

「なんで高杉君そっちにいるんだ?飲めないのか?」
「いや、今時間割…」
「飲めるんだったらこっちおいでこっち」
無遠慮で人の話なんか全然聞いてない近藤に腕を引かれて、俺は馬鹿騒ぎの輪の中に入れられてしまった。収まった後で良かった!

「おっ、このナントカってブランドの袋誰のだ?坂本の服よりはまだ…」
「俺ンだよ!触んな!」
リビングの隅に置いといた、昼間小太郎と買い物に行った時の俺の服。

「そもそもサイズ違うけど、あんたにアンダーカバーは似合わないと思うケド?」
「アンダー?なんだソレ」
言った俺が馬鹿だったのか?近藤って、さっき最初に入ってきた時の服装は見てなかったけど、洋服のブランドに興味ナシか?

「おお、ついにゴスロリ…」
「着ねェよ!」
また俺に寄ってきた東城をひっぱたく。ホントに懲りない、っつうか、しつこい。

「なんでそんなにゴスロリがいいんだよ?」
俺にはイマイチ、アレの良さはわからない。って言うか、ボーイッシュな女の子とゴスロリも繋がらないんだけど。

「うん、実は3日前風俗に行ったんだ。ゴスロリのコスプレしてくれる店があって、つい」
真顔の東城にみんな笑ってる。すぐそこには女の子もいるってのに。…あ、あの人達なら気にしないのかも。

「おんし〜、それで3日、食っちょらんのじゃろー?」
「うむ、今月はもう食費がない」
なんだよ、そこまでして風俗って行きたいモンなのかよ?金払ってまで、女としたいって気持ちが、俺には全然わからない。

「アッハッハ、まぁ週2回うちに来とったら死にはせんじゃろー」
「坂本、…電車代は貸してくれるな?」
なんだよなんだよ、もしかしてこうやって、週に2回も飲んでるのかよ?大学生ってなんなんだよ。

「坂本、電車代ついでに今度一緒に風俗に…」
「わしは行かんぜよ、必要ないからのー」
上手いことたかろうとしたらしい東城だが、バッサリと坂本は切り捨てた。

「ちょっと聞いた!?俺、殴ってイイ?殴ってイイ?」
隣でわめく近藤。ウルサイ奴だなァ。でも、気持ちはわかるけど。『必要ない』だなんて。

「殴ってイイと思う」
ボソッと呟いた俺の声は、近藤には聞こえなかったみたいだった。

時間とともに下ネタが増えていって。結局この日は朝までみんな飲んでいた。

***

帰る奴は始発で帰ったし、女の子達は奥の部屋で眠ってるし。さすがに俺も、眠くなってきたけど、坂本と近藤と小太郎は元気だった。

カクンとテーブルにぶつけかけた俺の頭を小太郎が慌てて支えてくれる。
「晋助、寝るか?」
「だ、大丈夫…」
話を聞いていたら、普段はこのまま、みんなでここから学校に行くらしい。大学生って、ハードだ…。

「わしのベッドで少し寝て帰りィ」
リビングの隣の部屋の扉を開けると、そこが、坂本の寝室になっているようだった。女の子達が寝てる部屋とはまた別の部屋。

「こたろー、俺の寝起き…」
連れて来てくれた小太郎に、それだけは言っておかなければならない。しばらく会ってない間に、忘れているかもしれないから。

「ああ、そうだったな。わかった、俺が起こす、安心しろ」
ほとんど初対面の奴が、俺を起こすのはきっと無理だから。

「小太郎、何時に帰るんだ?」
「さァな。授業も何もないから、下手したら夕方くらいまではここにいるぞ?」
それまでもしかしてずっと起きてるのかよ?と思ったけど、聞き出す気力はもう残っていなかった。とにかく、夕方まで寝てても大丈夫だってことだ。

「こたろー、おや…」
おやすみ、とちゃんと言えたかどうかもわからないまま、俺はストンと眠りに落ちていった。

***

桂が高杉を寝室に連れて行っている間。
「のぅ、似蔵。高杉君ほんに、カワエエと思わんか?」
「お前のことだから、そういう魂胆だと思ったよ。おりょう先輩はどうした?」
「あ、イヤ、…まぁ、ぅん」
らしくない、モゴモゴ言葉にならない声を発する坂本。

「でも、あの子、こっち寄りっぽいですけどね…」
静かに飲んでいた武市の言葉に、坂本は顔を上げた。

「ほうかの?わしも、ひょっとしてと思ったんじゃが」
「こっち寄りって何?何?どういうこと?なんでわかっちゃうの?」
わかっていないのは近藤だけのようだ。

「だって、東城の風俗の話、普通にスルーしてただろ?18なら興味津々のはずだぜ?」
実は似蔵のカンは正しいのだが。

「わしの〜、本気でホレたみたいなんじゃ」
というわけで似蔵!と、隣の似蔵の肩をわしづかみにする坂本。

「手ェ出すんじゃないぜよ!」
「出さねェよ!」
憤慨する似蔵だが、わざわざ坂本が釘を刺したのにはちゃんと理由があった。

「そうじゃの、おんしには武市がおるろ〜」
ハッキリ言われて、ぶーっと酒を吹き出す武市。

「ナニコレ、類友ってやつ?やっぱり?」
言ってしまってから、近藤は思い出したことがあった。
(そういえば、後輩にも一組いたんだった)

自身は全くのノンケで違うのだけれど、どうやら周りには多い。それが近藤の運命なのかもしれない。


END



しまった全蔵が一言もしゃべってない!
途中で高杉君が言ってる映画は『ダ・ヴィンチ・コード』のことです
近藤君はユニクロしか行かないと思うよ高杉君。かなり無頓着
























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