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今日は火曜日。体育館の男子更衣室。スポーツ科学の授業前。

行住坐臥


さっさと着替えを終えて、上履きの靴紐を絞めていたら、ようやく銀時が更衣室に姿を見せた。

「あと2分しかねーぞ、お前」
「わかってるってばァ」

駐輪場から走って来たのだろう息をきらせた銀時は、とりあえず着ていたジャケットやシャツを脱ぎ、ロッカーの中に放り込んでいく。下着1枚と靴下だけになっちゃってから、Tシャツとジャージを下だけ履いて、あっという間に銀時の着替えは終わり。ロッカーに鍵をかけたら上履きを引っ掛けて2人一緒に更衣室を出た。

「ねェねェ晋ちゃん、ヅラ、内定出たらしいよ」
「マジでか?…ってか、アイツ何になるんだ?」

体育館の入口近くに2人で胡座で座り込んで。もうすぐ先生も来るだろうけど、今はまだみんな遊んでるって感じ。女子の輪の中に入っていったり、バレーのボール出してきて投げあったりさ。女子はほとんど、2〜3人の塊を作って喋ってるだけだけど。高校までの体育と違うのは、男も女も一緒に混ざってやるってことだ。

ちなみにわざわざ胡座座りなのは、それなりに気を使っているからであって。人前でお姉さん座りなんかできっかよ。

「なんかァ、受かった会社だったらモノ書きになるんだって。ねェねェ、これでさァ、もう、銀さん、遠慮なくヅラのとこ毎日行けるよねェ」

自分のことのように喜んでいる銀時の、本当の理由はそっちなんだと思う。どっちみち、バイトで毎日忙しいヤツだけど、それでもなんとかして作った休みは小太郎と一緒に過ごしたがって家に行っているらしい。
それが、今までは『銀さん休みなのにヅラは明日試験なんだってェ』って半泣きでウチに来てたこともあったから。そういう時くらい伯母さんとこ帰れって、俺は言うんだけど、辰馬は優しいから3人でご飯食べたりするんだよな。

「毎日って、お前ら、同棲状態じゃねェか」
先生が体育館に入ってきて、出席を取った後はバスケをやることになる。あーあ、あんな身長でどうにかなるスポーツやりたかねェんだけどなァ。やってないヤツはチェックされてるしなァ。

「晋ちゃん晋ちゃん、同棲状態ってことはさァ、銀さん、ヅラに家賃半分くらい入れなきゃ駄目かなァ…?」
暫く黙ってると思ったら、銀時はそんなことを悩んでいたらしい。

バスケに使えるコートは2つ。だから、一度にプレイできるのは20人で今日は10分ずつ。とりあえず俺と銀時はさっさとプレイだけしてやろうって、人数を合わせてたコートの中に入って行く。

「それは2人で決めたらどうなんだ?…俺は、辰馬に1円も入れてないぜ」
笛が鳴ってゲームが始まった。ドリブルくらいは俺だってできるんだけどよ、ああもうっ、デカイやつに塞がれたらシュートなんか打てっこねェだろうが!

銀時は、そこそこ活躍してるみたいだ。パスを回してやったら3ポイント決めやがった。やるじゃんお前。

「晋ちゃんナイスパス!」
「お前こそ」

いくら授業で半分遊んでるのと変わらない感覚だから(意味があるのは出席してるかしてないかだけで、勝ち負けは多分成績に関係ない)って言っても負けるのは絶対嫌だ。
俺がボールを奪ったら、運んで銀時に回してシュート。そんなパターンで俺達は、たった10分の間に18点を叩き出した。

時間が来た後は、違うチームが試合を始めるから俺達は休憩。体育館の端に座り込んで、またダラダラ話の続きが始まる。

「晋ちゃんとこ、家賃いくら?」
「知らねー。…ってか、辰馬も知らないんじゃねェの?」

自分で払ってないなんて言ってたからな、辰馬。契約してきたのも親で、自分で決めたわけじゃないらしいから。

「うわ、さすが…。辰馬んトコよりは絶対安いけどォ、ヅラんとこいくらかなァ…」
自分のバイト代と入れられる可能な金額を考えて銀時が悩んでいる。

「参考になるかどうかわかんねェけどよ」
俺は辰馬に家賃を入れる代わりに、掃除と洗濯は全部やってるって話をしてやった。ついでに、料理だけは辰馬が好きで自分で作るから、俺はやってないけど、食材をスーパーに買いに行くのは俺だって。
もちろん、ほとんど俺の金で。ほとんどってのは、たまに辰馬に『今晩はパスタにするからバジルペースト買っといて』ってお金を渡されることがあるからだ。

「晋ちゃん、そんなマメなことやってたの?」
「だって辰馬さァ」

色物も手洗いの物も、全部ごっちゃにして洗濯するからさ、色落ちとか延びちゃうとか当たり前なんだよな。ほとんど全部、家では洗えないような高い服ばっかり着てるくせに、洗濯だけは異様に無頓着。ジャケットが洗濯機に突っ込んであるのを見た時は焦ったぜ。

「それに、ウチでの飲み会の酒だって、俺がまとめ買いしてんだぜ」
もちろん、1人2千円ずつ集めるんだけど。あの大酒飲みばっかり集まって、それで足りるわけがねェ。焼酎や日本酒飲んでくれりゃーいいのにビール党ばっかなんだもんな。

「晋ちゃんっ…!なんか銀さん感動したっ!晋ちゃんって、偉かったんだねェ」
「お前なァ…」

俺としては、いくら辰馬が『いらない』って受け取ってくれなくて、しかも辰馬が自分で払ってなくたって、おんぶに抱っこは嫌なわけだ。家賃だけじゃねェ、光熱水費すら、辰馬は自分では払ってないんだけど、それでも全く出さないのって気が引ける。ただでさえ、2人で買い物したり、なんか食べに行ったりしたら辰馬は出してくれるってのに。

羨ましいとか言うヤツもいるけどさ、別に辰馬が金持ちだから好きになったわけじゃないし、ましてや金目当てで付き合ってるわけじゃないんだから、俺としては『してもらったこと』を返すのに必死で大変なんですけど?って言いたい。
辰馬に迫られたときも、なるべく断らないようにしているし、『もう一回』って言われた時だってさ、俺が体力の限界でも、できるだけ応えてあげようと思ってるし。
まァ、やっぱ好きだから、身体を求められるのって、いくら浮気したって飽きもせずまた抱いてくれるのって、それなりに嬉しかったりするんだけどな。こんな俺の、骨と皮と筋しかないような身体を抱いてて気持ちいいって、辰馬は言ってくれるんだからさ。

「銀さんもお金はカツカツだからなァ…。なんか、他のことでヅラに返さないとなァ…」

呟くように言った銀時は、ちょっとへこんでるみたいだった。あんなに毎日毎日掛け持ちでバイトしてて、どうしてそんなにお金がないのかなんて俺は知らない。銀時が話したがらないから聞かないけど、多分、仕送りもらってないんじゃねェのかなって、俺はこっそり思ってる。

正直、もう1年以上こうやってつるんでるんだから、話してくれたっていいのになって、思うこともあるんだけどさ。
でも、どうしても話したくないことなんて、きっとあるだろうなとも思う。俺だって、黙ってんのが我慢できなくて苦しいくらい辰馬のことが好きになってなきゃ、今でもゲイだって、隠してたと思うから。

***

もう5、6回ゲーム形式でバスケやって。たった10分ずつでも真剣だからヘトヘトで。俺と銀時は、次が昼休みで時間に余裕があるから、シャワーを浴びることにして、それから構内のコンビニに向かう。

「晋ちゃん、今日何食べるー?」
「俺Aランチ」

コンビニに来たのはいちご牛乳を買うためなんだからさっさとしてくれって思ったんだけど、銀時はパン売り場の前でなんだか悩んでる。

「何してんの、お前」
「銀さん今日の昼ご飯代200円しか出せないからァ、チョコパンとジャムパンで悩んでんのォ」
俺が溜息をつくしかできなかったのなんて言うまでもない。

「そんなんで足りねェだろ?両方買えよ」
俺はポケットの中に入ってた小銭を出して、銀時に100円やった。

「晋ちゃんっ!」
ありがとう、お礼に銀さんチュウしてあげるって。いらねェからさっさと買ってこいってんだ!

「晋ちゃん晋ちゃん、クリームパンも食べていい?」
学内で、両手を握られて見つめられたらたまったもんじゃねェ。ただでさえ昼休みでコンビニの中は学生がたくさんいるってのに、目立ちたくないんだよ俺は。

「さっさと買ってこいっ!」
ポケットの中に入ってた500円玉を銀時に押し付けて、俺はさっさとコンビニから外に出て煙草に火を点けた。

さっきの様子を見てたんだろう学生が、チラチラ俺を見て、コソコソ話しながら通り過ぎてゆく。どっちみち辰馬のおかげで、学内で男同士でイチャこいてるって、有名になっちまってるから、あれくらいはいいんだけどよ。
でも、これ以上目立ちたくないとか、頑張ってるんだけどなァ。興味本位のヤツらに話しかけられるのもうっとーしいし。

俺があげた小銭でパンを3つも買えた銀時はご満悦だった。っつぅか、結局600円もやっちまったんだから、学食で定食くらい食えたんじゃねェの?って思ったけど、定食より甘いモノだからな、銀時の場合。

「晋ちゃん、今日、辰馬来てんの?」
「いんや、大江戸学院大学じゃねェか?」
研究所に勉強しに行くとか言ってたから。

「ヅラも来てないからさァ、食堂でいっかァ」
昨年、あんなに毎日4人で集まってた15号館のテラスも、今年はこんな調子で。Aランチのトレーを受け取って、喫煙席の空きを探したら、土方と沖田が2人で座ってた。その横に座らせてもらう。

「お前、なんでこっちにいるんだよ?」
今更言うまでもなく、沖田は理学部だから理系校舎のはずだ。向こうとこっちじゃ、どんなに頑張ったって歩けば片道20分以上かかっちまう。

「1個だけこっちであるんでさァ」
おかげで前後入れらんねェんでさァってぼやきながら土方の頭を突いて遊んでる沖田は、もう食べ終わったらしい。土方は、相変わらず、多分元は焼きそばだったんだろうマヨネーズまみれの物体を口に運んでる。もちろん、マヨネーズは自分で業務用を持ち込みで。

「土方君、沖田君。一緒に住むのはどんな感じィ?」
ジャムパンを頬張りながら銀時が茶化すように尋ねた。土方が引越してから、まだ一週間経ってない。

「別に。そんなに今までと変わんねェよ」
家事やるのは俺だしなァって答えた土方。うん、沖田が料理作ってる姿なんて想像できねェ。土方がマヨネーズ掛けちまう前に半分に分けたらいいんだもんな。掃除や洗濯だって、沖田がやるわけがない。

「俺はァ、やっぱ近くなったから楽でさァ」
1時間は長く寝れるようになったからって。わかる、俺も実家から辰馬んとこに移った時に、一番はそれだったもんな。

「学校近くなってさァ、やっぱする回数とか増えたァ?」
銀時のヤツは何を聞いてんだ?周りの席は、ほとんど埋まってるんだから、学生たくさんいるっつぅの。でも、そんなこと気にしてるのは、きっと俺と土方だけなんだけど。

「あんま変わりねェですぜィ。だってコイツ、痛めつけねェとイケねェから、時間かかんでさァ」
「総悟っ!!」

真っ赤になって怒鳴り付ける土方もなんのその、沖田は『土方の時間割見ながらじゃねェとできやせん』とか、そんなこと暴露しちまってるし。

「2回になったらサボっていい授業減ったとかってさァ、昨年なんかサボりまくってたくせにねィ」
「お前のせいだろうがっ!」
「もっともっとって泣くのは誰なんですかィ?」

また喧嘩が始まっちまった。まー、沖田と土方って、顔合わせりゃこの調子だから、いいんだけどさ。

「晋ちゃん、銀さんなんか、変なこと聞いちゃったかなァ?」
「気にすんな」

どうせこいつらはいっつもこんなんだァって、俺は気にもせずAランチのハンバーグを口に運ぶ。『喧嘩する程』って言うだろうが。それでなきゃ6年も付き合えるか。

「もういいでさァ!そこまで言うなら、今から高杉とヤってやりまさァ」
「……ハァ?」

ぷいと顔を逸らした沖田を暫く見つめた後の、土方の俺に対する視線が怖いんですけど。

「沖田君、銀さんもいるよーん」
「銀時っ!」

沖田と土方の喧嘩なんて、いつものことだとは言っても、ややこしくなるから煽るなっつぅの!

「土方君でもいいけどォ、銀さん、土方君をイカせてあげられる自信ないからなァ」
縛ったりしなきゃ駄目なんでしょお?って、声がデケェよ銀時コノヤロー!

放っておけば1時間かそこらで収まるはずの沖田と土方の喧嘩は、おかげで昼休みが終わっても収拾つかなくて。3限が始まってすぐに、俺の携帯は土方からのメールを受信した。

『総悟のヤツ、お前んとこ行くみたいだから、今日は頼む』
(あのなァ、土方ァ…)

もしかして、こういう事態を想定して、近くに引越して来たんじゃねェのかこいつら。そんなことを思いながら、バイトでサボる銀時と別れて4限目の教室に移動している間に今度は沖田からの着信。

『高杉、一緒に帰りやすぜィ』
「馬鹿、俺はまだ4限があるっっぅの」
『教室どこでさァ?』

大教室だったら潜り込むってお前なァ。でも、土方と喧嘩の続きされるよりはマシかと思って。幸いなのかどーなのか、出席も取らない教養科目の授業で、けっこうな人数のクラスだったから(だから銀時はサボったんだ)、俺は沖田を1号館に呼んで。

「ワケわかんねェかもしんねェけど、静かにしてろよ!」
理学部のヤツに都市国家の話なんか教えても無駄だと思うしな。

「大丈夫でさァ。終わったら起こしなせェ」
教室に着くなり机に突っ伏して、あっという間に沖田は眠ってしまった。
ま、騒がれるよりはマシか。

***

『もう少しかかるかも』っていう辰馬からのメールに、『沖田と土方が喧嘩して、沖田がうちに来てる』って返したら、『今すぐ帰る』ってまた返事が来た。そのメールから、30分もしないうちに、辰馬はうちに走り込んできて。うるさい沖田のためにキッチンで早めの夕食の用意をしていた俺は、ちょっとだけ驚いた。

「辰馬もなんか食べ…」
「晋っ!!」

いきなり腕を掴まれて、廊下に引っ張られてさ。玄関前の壁に押し付けるように両肩をガッシリ捕まえられて真剣な顔で。

「何にもしちょらんじゃろうの?」
辰馬が慌てて帰ってきた理由はほかでもない、それだった。

「するわけねェだろうがっ!」
辰馬の馬鹿、未だに俺と沖田のこと疑ってやがんのか?

「ホントじゃな?確かめてもえいか?」
「確かめるってなん…んァっ」
いきなり首筋に唇を押し当てられて、後ろの方から下着の中に手を突っ込まれて。

「ゃっ、やだっ、やめっ、辰馬っ」
「潔白なら嫌がることなかろー?」

敏感なところを直に撫でられて力が抜ける。立っていられなくなって辰馬の袖を掴みながら床にへたり込みそうになったところで背中を支えてくれたけど。

「おまっ、いい加減に…」
「そこまでしなくても何にもしてやせんぜ」
リビングから続く扉を開けて呆れ顔を覗かせたのは沖田だった。

「そーみたいじゃのー」
俺を抱き上げて立たせながら辰馬は涼しい顔だ。

「お前、もう少し俺のこと信用しろよっ!馬鹿辰馬っ!」
沖田だから今更とは言え、恥ずかしいところを見られて取り繕うために怒鳴って辰馬の手を振り払って。沖田のために余り野菜で作ってた野菜炒めを仕上げるためにキッチンへ戻る。

「怒らせてもぅたかのー?」
「当たり前でさァ。俺が高杉なら、とっくに嫌んなってますぜィ」

束縛しすぎって沖田に言われて辰馬がしゅんとなってるけど、そういう沖田だって自分のこと棚に上げて、土方の浮気は絶対許さないで束縛してるって、俺は知ってる。土方は性格的に浮気なんかするタイプじゃねェってのにさ。どーにもなんねェな、このバリタチ2人は。 いや、それでも好きで好きで離れらんない俺達の方か?どーにもなんねェのは。

意外と大量になっちまって、大皿に山盛りに盛りつけた野菜炒めを沖田が座ってたテーブルの前にドンと置く。あとは冷凍庫にコロッケが残ってたかな。沖田野菜食べなさそうだから、ほうれん草のおひたしも出してやれ。野菜攻めだ。

「こんなにいらねェでさァ」
「誰も全部食えなんて言ってねェ。辰馬もいるだろ?」

ご飯も一応あるけど俺はいらない。晩ご飯の時は飲んじゃうからほとんどおかずだけで、ご飯無しなんだ俺は。缶ビール3本と箸を出したら、また辰馬がぼやきだして。

「タダで晋の手料理が食べれるなんて、やっぱ沖田君は特別扱いじゃのー」
「…あのな」

意地になって凄い勢いで辰馬が食べようとするけど、元々『お腹すいた』ってうるさかった沖田も負けてない。野菜炒めもコロッケも、あっという間に消えてゆく。俺の食う分なんて残ってねェの。後で夜食でも作るかァ。

「辰馬が料理は自分がするって言ったんだろ?そんなんで良かったらいつでも作るけど?」

朝は起きれないから無理だけど、晩ご飯くらいならさ。特に、進学を決めてからの辰馬は忙しくて、俺より遅いことの方が多いんだからさ。

「し、晋!ほんとがかっ?」
「そりゃ、だって、お前…」

俺なんて、辰馬と付き合ってなきゃただの居候じゃん?100パーセント辰馬の好意で住まわせてもらってるだけなんだからさ。

「晋の手料理かー、わしゃ幸せもんじゃのー!早速明日から頼むぜよォ」

椅子ごと移動して後ろからぎゅーって抱き着いてきて、今にもキスしちゃいそうな勢いで頬ずりしてくる辰馬。沖田の前とか関係なしだなコイツ。沖田だからいいけど、これが学校なら暴れてる。

「……俺、帰りまさァ」
ぐいっと缶ビールを煽った沖田が静かに立ち上がった。

「え?いいのか、沖田?」
「お前ら見てたら、イライラするんでさァ」

辰馬の腕を振りほどいて、さっさと自分の鞄を持って玄関に行ってしまった沖田を追い掛ける。辰馬はあっさり『気をつけてのぅ』って送り出すだけ。辰馬が何考えてるのかなんてわかりきってるけど。沖田が今日、ウチに泊まってしまったら、今夜は何にもできねェじゃん?いや、できないことはないけど、しにくいだろ?

「じゃー、またな、高杉」
「おぅ、気をつけろよ」

って言っても沖田と土方ん家は、ここから歩いて帰れる距離なんだけどさ。

沖田がいなくなって、気兼ねなくイチャつけると思ったのか(いや、最初から気になんかしてねェんだろうけど)、ソファで俺を膝の上に乗せようとした辰馬を押さえて、とにかく土方に電話をかけた。沖田が今帰ったからってことを伝えるために。

***

その日の夜遅く。

しっとりと汗をかいた肌の上を、緩やかに辰馬の掌が撫でてくれている。辰馬の左腕を枕にして、辰馬と脚を絡めて、辰馬の広い胸板に頬を当てて、辰馬の体温を感じながら、まだ少し早い辰馬の心臓の音を聴いているだけで、これ以上ないくらい安心する。辰馬の腰のあたりに腕を回してぎゅうってしがみついて甘えて。結構、それだけで幸せかもしんない。

「晋は優しすぎるから心配なんじゃ」
辰馬が言ってるのが、夕方の沖田のことだってのはわかるんだけど。

「そんなん言ってもお前さー」
銀時がウチにご飯食べに来て、そのまま泊まって行くことには何にも言わねェじゃねェか。

「銀時と沖田君は違うろー」
「そりゃそーだけど」

確かに沖田は俺の元セフレだ。でもそれは、俺と辰馬が付き合う前の話じゃねェか。辰馬が、自分も遊び人の浮気性であるが故に、沖田の貞操観の無さに、本能的に気付いているのだとしても、相手が拒否ってるのに無理矢理してくるようなヤツじゃない、沖田は。あ、土方だけはいろんな意味で例外な。

「銀時はのー、二度と晋には何もせんと約束したからのー、わしと」
「まァ、確かにな」

一回無理矢理ヤラれちまったけどさ、銀時には。でも、あれはもう済んだことだし、俺も忘れようとしてる。第一、銀時は俺が好きだったわけじゃない。辰馬が好きで、その辰馬との約束なんだから、絶対に守ると思う。

それに、銀時って意外と、付き合い始めたら一途なんだよな。辰馬や沖田とおんなじような人種かと思ってたけど、小太郎と付き合い始めてからコロっと変わって、今まで知らなかった一面を見たような気がしてるんだ。

今日だって、小太郎に家賃の半分くらい入れなきゃ駄目なのかって、真剣に悩んでてさ。あんな姿、昨年は想像もできなかったのに。

「確かに沖田はさァ、辰馬の次くらいには浮気性かもしんねェけどさァ」
「晋ー、その言い方はないじゃろー」
「事実だろ」

お前以上にどうにもなんねーヤツ、見たことねェぞ、俺は。『なんでこんなヤツ好きになっちまったかなァ』とまでは言わねェけどさ。

「沖田がいなきゃー今の俺もないかもしれねーんだからさ、もうちょい信用しろよ」
「それも妬けるの」

上半身を起こした辰馬が俺の顎に手をかけて唇を重ねてきた。ねっとり絡まる舌に頭がボーっとなってきて、ただでさえ眠くなりかけだった俺の意識は、ねこそぎ辰馬に持っていかれる。

「晋、もっかいできるかの…?」
「えっ、…え?」

もう、おやすみって言いかけてたんだけど。でも、辰馬がしたいんならいいか…。
まだ火照ったままの身体、敏感な部分を見逃さずに這っていく辰馬の唇。
「晋、キレイじゃよ…」
「ん…、ァ」

明日起きれないかもなーなんて予感はあったけど、辰馬が望むんだったらさ。好きなんだから仕方ねェだろ。

***

高杉から連絡があって、それから20分くらいで総悟は帰ってきた。途中でコンビニに寄ったのか、6缶パックのビールとつまみを買ってきて1人で飲んでる。高杉のところで少しくらいは飲んできたんだろうなってのは、全く飲めない俺にはすぐわかったけど黙ってた。

ま、酒飲みの高杉と坂本んとこ行って、総悟に飲むなって言う方が無理な話か。だから今日は、泊まるんじゃないかと思ってたわけだし。俺じゃ酒の相手だけはしてあげられないから、高杉はそこんとこ、わかっててたまに総悟に付き合ってくれている。
どうやら束縛しまくりの坂本がちょっとうるさいらしいけど、総悟と高杉にはもう何にもないって。坂本だっていくらなんでも話せばわかるだろうし、やっぱり近くに引越してきたのは正解だったと思う。

総悟が、飲んでたにも関わらず、帰ってきた理由もなんとなくわかる。多分坂本が帰って来て、遠慮なく高杉とイチャつきだしたんだろう。

人前だろうとなんだろうと、『好きだ』ってのを全面に押し出して、抱き着くわキスするわ膝の上に乗せるわ頭撫でるわ…っていう坂本のいつもの行動は、性格上総悟には絶対出来ないことで。俺もそんなもん望んじゃいないし、構わないんだけど、総悟にとっては見せつけられてるみたいで苛々するんだろう。もちろん、坂本に見せつけているという意識は全くない。
アイツは馬鹿だから、自分がやりたいことをやってるだけなんだ。だから、どっちかと言うと、坂本的には『見せびらかしてる』って言う方が当たってる。学校やなんかで、平気で抱き着いたりするのもそのせいだ。
『こんなカワイイ子は世界に2人といない。それが自分の恋人なんだ羨ましいだろう』の類のことを、坂本は平気で言いまくる。それこそ、相手が男だろうと女だろうとノンケだろうとお構いなく。ある意味羨ましいけど、あの性格の高杉には…災難かもな。
客観的に見たら、男も女も関係なくモテまくる坂本が自分にゾッコンなんだって、世間に見せびらかしたらいいのは高杉の方だと思うんだけどさ。

さして興味もないくせに、バラエティー番組なんかつけて1人で飲んでる総悟の姿が、なんだか拗ねてるみたいでかわいいなと思っちまうのは俺の贔屓目だろうか。惚れた弱味ってやつか?

「総悟、チーズあるけど食うかァ?…カマンベール」
晩ご飯は食べてるって、高杉が言ってたけど。俺のここまでの想像が当たっているなら、昼間のくだらない喧嘩なんかとっくに、総悟はどうでもよくなっているはずだった。

「いらねェでさァ」
こっち来いって呼ばれてから、俺は烏龍茶をコップに注いで総悟の隣に座る。

俺の肩を背もたれみたいにして寄り掛かってきた総悟。視線は合わせてくれないんだけど、これが総悟の精一杯なんだと思うと。セックスの時は完全に立場逆転するのにな。

俺は脚を開いて総悟を自分の前に座らせて。腰の前でぐっと抱き寄せたら、そのまま黙って体重を預けてきた。

やっぱり総悟は年下だし、俺よりは小さいからかわいいし、綺麗だし、俺のことは全部わかってくれてるし、気分の浮き沈みが激しい性格なのにそれでもちゃんと、どんな状態でも俺のことは見ててくれるし、どんなに嫌なことがあっても俺には心配かけまいって気遣ってくれるし、八つ当たりなんか絶対しないし、友達思いで優しいし…って、総悟のいいところなんかいくらでも出てくるんだ。これ以上挙げてもキリがないから止めておこう。

暫く、2人共無言のまんまでそうやっていたんだけど。総悟が3本目の缶ビールを飲み干したのを機に俺は声をかけてみた。

「総悟、好きだ」
「…熱でもあるんですかィ?」
「違ェよ」

ホントのこと、ってな。どうせ2人しかいないんだけど、総悟にしか聞こえないくらいの小さな声で耳元で囁いた。

「十四郎」
そんなふうにちゃんと名前を呼んで貰えることは、そんなにないんだけど。身体を捻ってこっちを向きながら首の後ろに総悟の腕が回されて、キスされた。

じっくり唇を吸われて柔らかく舌を絡めて。瞳を閉じて唇の感触だけに全てを委ねる。セックスの時は、お互いにスイッチが入っちまってるから絶対こんなキスはしないんだけど、たまにしかしてくれない、だからいいのかもしれない。

たっぷり5分は総悟とのキスを貧って、ようやく唇が離された時には、なんだか頭がボーっとしちまって、変な気分になっていた。

「たまには普通にしやすかィ?」
「え…?」

それで、総悟が満足するんならいいんだけど、俺は。
今となっちゃはるか昔、中学生の時だ。一番最初に、ネクタイで縛られて無理矢理ヤラれた時のことがどうしても忘れられなくて、総悟に縛って欲しいってお願いしたのは俺だ。身動きできない状態で総悟に抱かれてるってのがたまらなくて、総悟も縛られて痛がってる俺の姿に欲情してるってことがわかって。
それから、俺達にはマンネリも倦怠期もなくなった。

「総悟がそれでいいんなら…」
「んー、そりゃ十四郎のマジ泣きの方がいいんですけどねィ」
「…だろ?」

俺自身も痛いのは好きだけど、総悟が満足してくれないんだったら意味がない。おかげで、俺としてはちょっとばかり厄介な身体になっちまったけど。痛みがなきゃイケねェだなんて、当然自分1人じゃ満足できないから、総悟がいなかったら大変なんだ。

「明日必修でしたねィ」
「うん。…まァ」

じゃあやっぱり1日お預けって。きれいに笑った総悟の顔を見たら、なんだか余計にやりたくなってきちまった。

「総悟、風呂、入るか?」
「一緒に入りてェんですかィ?」

引越して風呂も広くなったんだからそれもいいかなと思って。高杉と坂本だって、忙しくなければ一緒に入るって言ってたよな。

「一緒に入ろうぜ」
身体洗ってやるよって言ったら、馬鹿言ってんじゃねェって小突かれたけど、そのまんま抱き寄せて、今度はこっちからキスしてやった。 真っ赤になってテンパってる姿を見られないように必死になって隠そうとしてるとこも大好きだなんて、どうかしてっかな?

***

就職の内定が出たと思ったら、今度は卒業試験の勉強だって。
真剣な顔で机に向かってるヅラの邪魔なんてしたくないからさ、テレビもつけずに黙って本でも読もうかと思って。高杉に借りっぱなしでずっと鞄に入ってた『いまだ解けない日本史の中の恐い話』って本を読んでたんだけどさ、怨念だとか呪いだとかばっかりで、マジで恐くなってきちゃったんだけど。
もー、高杉もなんでこんな本貸してくれんのかなァ?確かにコラムみたいになってる一つ一つの話は、せいぜい3ページだから、活字が駄目な銀さんでも簡単に読めるんだけど。

恐くなって本を閉じてテーブルの上に置いて。それでもなんだか不安で、勉強してるヅラの足元に座って太腿の上に頭を乗せた。

「すまんが、もう少し待ってくれ」
ヅラの声が上から降ってきて、銀さんは頭を太腿に乗せたまま小さく頷いたんだ。
暫くそのまんましてたらさ、10分くらい経ってヅラが軽く頭を撫でてくれて。

「どうしたんだ?」
勉強は、まだ終わってなかったみたいなんだけど、銀さんが動かないから気になったみたい。

「なんかあの本、ちょっと恐くてさァ」
そう言った、自分の声が自分でもビックリするくらい震えてたんだよね。

「どれ…。お、懐かしいなァ!」
「懐かしいってどーゆぅこと?」

どうやらその本は、ヅラが中学生の時に高杉の誕生日プレゼントに買ってあげたものらしかった。

「晋助は小さい頃から歴史の話とか、好きだったからなァ」

言いながら、勉強を中断してテーブルの上の本をめくり始めるヅラ。お前さァ、いくら歴史好きな子だって、小学生に怨霊とか呪い関係の雑学本ってどーゆうプレゼントなのよ!ってか銀さん恐い系、全く駄目なんですけど。

「長屋王の変、橘逸勢、菅原道真。習ったなァ…」
ヅラが懐かしそうに、声に出して読んじゃう勢いだったから、頭を膝に乗せたままぎゅうってしがみついちゃった。

「銀さんちょっと、怨霊とか苦手」
ヅラは椅子から降りてきてくれて、銀さんの横にピッタリ身体をくっつけて座って、しっかりと抱きしめてくれた。

銀さん1人だったらさ、こんな本読んだら間違いなく恐い夢とか見ちゃいそうなんだけど、ヅラがいてくれるから大丈夫だって思えるんだよね。

「一段落着いたから風呂でも入るか」
「いや、いい…」

抱きしめられたまま首を横に振って。スポーツ科学の後にシャワー浴びたからいいって言ってるのにヅラは納得してくれない。

「どうしたんだ…?一緒に入るか?」
「…だってさァ、銀さん、ガス代払えないもん」

お金カツカツだから出せないんだって。恥ずかしいから顔をヅラの肩に押し付けたまんま話したんだ。

「そんなこと気にしてたのか?」
ヅラは銀さんの頭を撫でながら静かな口調で、だけどハッキリ言ったんだ。

「年下からなど、一円たりとも貰うつもりなんかないから安心しろ」
「でも…っ!」

それじゃあ銀さんの気が治まらない。毎日来ていいって言われても来れないよ。

「銀時お前、あれだけバイトしてて、どうしてそんなに生活厳しいんだ?」
事情があるなら話してみろって。お前、仕送り貰ってないんじゃないのか?って、トドメを刺されて、銀さんは小さく頷いた。
「お前がそうして欲しいのなら、誰にも言わない」

俺にくらいは話してもいいんじゃないのか?俺はそんなに頼りないか?って言われてさ。ちょっと悩んじゃったけど、ヅラが正しいよね。だって、俺達付き合ってんだもん。ヅラはただの友達じゃない、銀さんの彼氏なんだもん。

「じゃあさー、絶対『カワイソウ』とか言わないでくれる?」
そう言われると、なんだか惨めな気分になっちゃうんだ。

「わかった」

お姉さん座りでヅラに寄り掛かって頭撫でられたままで。
大学に来てからまだ、誰にも話したことなかった自分のことを話し始めた。
ヅラの読み通り銀さんは仕送りなんて貰ってない。それは、仕送りをしてくれるはずの親が、両方共いないから。物心ついた時は施設にいて、それから親戚の家とか行ったり来たり。一番長く置いててくれたのは、京都の叔父さんなんだけど、高校を卒業したら出て行くって約束してた。仕方ないよね、中学生2人いたからさ、そっちの方大事だよね。

今住まわせてくれてるお登勢伯母さんってのは、銀さんの産みの母親とは親子くらい歳が離れてて、どーやら腹違いでほとんど交流はなかったんみたいなんだけど、たまたま叔父さんの助けで探して会いに行ったら『来たけりゃ来なァ』って言ってくれて、伯母さんのとこから通える大学を探したんだ。大学受験が駄目だったら、フリーターでもなんでもいいから、とりあえずバイトするつもりだった。

幸い受験は受かったし、晋ちゃんが勉強教えてくれるおかげで奨学金も問題ない成績が取れてる。ただ、奨学金は学費に充ててるから、バイトしなきゃ生活費がないのよね。給料前なんか本気で、お昼ご飯食べれない感じだから。今日は晋ちゃんが600円くれたから助かったんだけど。

銀さんがそんな、身の上話をポツポツ語ってる間、ヅラはずーっと頭とか背中を撫でてくれてて。

「銀さんもさー、晋ちゃんみたいに、洗濯とか掃除しようかなァ」
そう呟いたら、ヅラの腕の力が強くなった。

「晋助にあれができるのは、アイツがバイトしてないからだろう」
「……そーかも」

掃除洗濯買い物。毎日するとなったら、結構時間かかるよね。そうか、だから晋ちゃんはバイトしないのかってわかっちゃった。バイトして遊ぶ金稼ぐより、辰馬のために何かしてあげたいんだって。

「そうだな、俺からの提案はこれだな」
バイトが休みの日はキッチリ休むこと。休める時はなるべく休むこと。そして、休みの時は俺と一緒にいる時間を作ること、って。

「そ、そんなんでいいの?本当に?」
銀さんはヅラの肩に伏せてた顔を上げて、マジマジと見ちゃったんだけど、茶化してる様子はない。って言うか、あの真面目でお堅いヅラがこんな時に冗談を言うとも思えなかった。

「就活も終わったんだ、前よりは俺は暇になったからな」
それが守れなくなった時は、家賃半分貰うからなってヅラは言ってくれて、銀さんは唇を噛み締めた。そうしてないと、泣いちゃいそうだったから。

「そうと決まったら、風呂に入って寝るぞ。頑張り過ぎで倒れられたらかなわんからな」
ヅラに手を握られて立ち上がって。それが一緒に入ろうって意味なのはすぐにわかったんだけど。

「2人で入るには狭いんじゃないのー?」
「じゃあ先に入るか?」

シャツのボタンを外し始めたヅラが手を止める。どっちかっつーと、銀さんが後の方が出てからのアレコレには都合が良かったんだけど。

「やっぱ一緒に入るっ」
優しいヅラに、今日は思いっきり甘えちゃおって。だってヅラは、銀さんがめちゃくちゃ甘えても、本当に怒らないっぽいんだもん。

小さい頃から親がいなかったからさ、正直、付き合い始めた時にヅラに『甘えてくれていいからな。俺はその方が楽だ』って言われても、どうやって甘えたらいいのかわかんなかったんだけど。
晋ちゃんが辰馬にやってるようなの真似してくっついたり、手繋いだりしてみたらさ、なんかヤバイの。銀さん新しい扉、開いちゃったみたい。
ベタベタくっついてみたらさ、言い出したはずのヅラがビックリしたり、戸惑ってたくらいだったからね。

さすがにもう2ヶ月でしょ、さっきみたいに勉強してる膝に頭乗せて抱き着いたくらいじゃ、もうヅラは動じないんだけど。

やっぱちょっと狭いから立ったままなんだけど、泡だらけになってお互いの身体を洗いっこして。
その後はもちろん、ベッドでいっぱいキスしてもらって、優しく(激しく?)抱いてもらっちゃった。

まだするか?って尋ねられて、すっげぇ後ろ髪引かれる思いだったけど、明日起きれなくなったら嫌だから今日はここまでで終わり。だって、明日は水曜日で、ヅラも授業がある日だから、一緒に登校したいでしょ?銀さん、高杉程じゃないけど低血圧だから、朝には弱くてさ、起きれなかったらヅラは1人で先に学校行っちゃうんだからさ。

ヅラの細い身体に抱き着いて抱きしめられて。指に絡まる長い髪の毛の感触も気持ちいいなぁって安心感に包まれながら銀さんは、世界一幸福な眠りの中に落ちていった。


END



タイトル『行住坐臥』とは、まんま『日常』って意味です!






















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