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※また子が高校に入った時の話

borrowed heaven


うちの兄貴は、本当に無駄に、女にモテる要素をたくさん持って生まれて来たと思う。

「ちょっとまた子見た〜コレ」

休み時間に、友達のハム子が持って来た1枚の紙。なぜだか中学の時から仲のいいハム子は、本当は公子だけど、ずっとハム子って呼んでる。本人は嫌がるけど。
そのハム子に見せられたのは、フリーぺーパーみたいな、そんな感じのもの。

「なんなんスかソレ?」
そんなものの存在すら知らなかったあたしは、差し出されるがままにソレを見た。
『新1年生が選ぶカッコイイ先輩ベスト10』
そこにはそう、書かれていて。

「アンタのお兄さん、もう大人気よ」
デカデカと、1位としてそこに名前が載っていたのは3年A組河上万斉。つまり、あたしの兄貴だ。そして第2位が、2年E組高杉晋助。ずらずら並べられた、3位以下なんてアタシには見えなかった。

「こんな人気投票いつやってたッスか?」
「アレ?あんた知らなかったの?ごめーん、あたしも河上先輩に入れちゃったんだ」

ぽっちゃり…というには度を越えてしまっている身体を揺らしてハム子が言った。その、告白自体は別にどうでもいいことなんだけど。

「また子、あんた気をつけてね。また、妬まれちゃうわよ」
「まったくッスね」

あたしが、ハム子とつるんでいるのは、コイツのこういうところがたぶん好きなんだと思う。
兄貴がいくら後輩女子に人気あったって、本当にアイツには無駄なんスけどねェ…。

入学当初から、金髪だったアタシは、早速『不良』みたいな、そんなレッテルを教師に貼られ、ならばと、嫌いな奴は徹底的に嫌ってやることにした。次は頭の固い英語教師の授業。そんなもの出てやらないッス。

屋上に行くと、きれいに晴れた青空の下に、サボりの男が2人いた。っつうか、学校で膝枕はどうかと思うッス。

「イチャイチャするなら帰ったらどうッスかァ?」

膝枕させていた方の赤い髪の2年生がビクっと身体を硬直させたのとは対照に、膝枕されていた方は、だらんと手足を伸ばしたまま、呑気にあたしを呼んだ。

「どうせここに来るのはお前くらいでござるよ、また子」
この、寝転がっていた方が、あたしの兄貴だ。

「ビックリさせんじゃねェよ!」

そして、こっちの赤い髪が、人気投票で2位だった、高杉晋助先輩。
「こんなの知ってるッスか?」

あたしは、さっきハム子にもらったフリーペーパーを2人に見せた。
「おっ、拙者の勝ちでござるな」
「どーでもいいだろ、そんなもん」

結果を見て、ちょっとムッとした顔になった晋助先輩の隣に座る。

「あー、晋助、拗ねない拗ねない」
起き上がった兄貴は、晋助先輩の頭を撫でて、そのまま引き寄せてキス。
「機嫌直ったでござるか?」

硬直していた晋助先輩は、数秒遅れて猛烈に怒りはじめた。
「テメェ!また子の前だっつうの!」
耳まで真っ赤になった晋助先輩が口許を抑えている。きっと、兄貴の唇の感触が残っていて、まだ恥ずかしいやら照れ臭いやらで、大変なんだと思う。

「晋助先輩ー、こんなアホエロ音楽馬鹿とはさっさと別れてあたしと付き合って欲しいッスぅ」
あたしは、晋助先輩に抱き着いてやった。二の腕に胸を押し付けても、特に反応はないんだけれど。
この2人が、人気投票でワンツーフィニッシュを決めたところで全く無駄な理由。それは、2人共、女には全然興味がないからだ。しかもこの2人、実は付き合ってたりなんかする。もうすぐ1年。

顔はいいと思う。
背だって高いし、スポーツとかも、何やらせてもできちゃうし、おまけにバンドなんかやってるから、追っ掛けの女なんてのもいて。

それだけ条件を満たしていながら、兄貴は生粋のゲイだ。
小さい頃から、すごく仲が良かったあたし達兄妹だけど、それを打ち明けられたのは、あたしがまだ、小学生の時だったから、たぶん兄貴は、目覚めたのが相当早いはずだ。

モテないわけがない兄貴に、女の陰が全くないことは、一部の馬鹿な女達の中では「河上先輩は硬派だから」とかいうことになっているらしい。

そんな兄貴の毒牙にかかってしまった晋助先輩も、すごくキレイな顔だちで、細身で小柄(と言ったら本人は怒るけど)で、どちらかというと、先輩に放っておいてはもらえないタイプだと思う。
晋助先輩は、左目が不自由で、いつも眼帯をして、長めの前髪でそれを隠していたけれど、それすら、晋助先輩には魅力の一つになっているように思う。

あの、ミロのヴィーナスが、両腕を失ったことで、完璧な美を手に入れたことに、似ているかもしれない。

最初、兄貴が無理矢理、カワイイ後輩を襲ってテゴメにしたんじゃないかと思ってかなり怒ったが、実は晋助先輩も、兄貴と一緒だったらしい。
これにはちょっとどころじゃないくらい驚いた。だって、一中(第一中学)の高杉って言ったら、三中のあたし達ですら、その名を知らない奴なんていない、っていうくらいワルで名を轟かせた存在で。
噂では、同じ女を連れてたことがないとか、何人孕ませたとか、そりゃあもう、ヒドイものばっかりで。

だけど、素のまんまの晋助先輩を見ていたら、噂なんてあまりアテにならないものだということが、よくわかった。

女取っ替え引っ替えしてたのだけは、事実みたいだけど。本当は男が好きな自分を受け入れられなくて、と兄貴に告白した時、晋助先輩は泣いていたらしい。

そんなこんなで、2人が付き合ってることを知ってるのは、たぶんあたし1人だ。
2人共(特に兄貴)、あたしが知ってるからって、あたしの前でイチャつくのやめろッス。

「だかっら、お前…っ、また子の前だって…っ…んっ」

あたしが晋助先輩の右腕を掴んで離さないからって、兄貴は左から、晋助先輩を抱きしめて、そのまま首筋に顔を埋めている。たぶん、他人から見たら、不思議な光景だろう。

「ちょっと、あたし相手にムキになってどーするんスか?この馬鹿兄貴」

昨年兄貴が家に連れてきて、あたしは初めて晋助先輩に会った。
兄貴の恋人だって、付き合ってるって最初からわかってたけど、あたしは晋助先輩を好きになってしまった。
自分に何か問題があるわけでも何でもないけれど、晋助先輩があたしを好きになってくれることはなくて。
それがわかっていたからこそ、余計に辛くて。

だけど、兄貴のおかげで、あたしは晋助先輩の横にいることができる、特別なポジションを手に入れたこともまた事実。
だからはっきり言ってやった。「晋助先輩が好きッス」と。
最初は冗談か何かだと思われていたみたいだけど、本気なのがバレて、暗くてどんよりした雰囲気になるのが嫌だったから、それからは毎日のように言ってやることにした。

「拙者の晋助から離れろでござる、また子」
「嫌ッス!今は兄貴のものでも、いつかあたしのモノになるかもしれないッス!」
「お前らな、俺はモノじゃねェんだよ」

間に挟まれた晋助先輩が、兄貴の首筋キス攻撃に赤くなりながら抗議した。
「晋助先輩こんな美人なんだから、兄貴なんかそのうち捨てられるッスよ!」

とは言ったものの、本当に捨てられてしまったら、きっとあたしの方が耐えられない。あたしは、どうすればいいのかがわからない。

「美人なんて言われても嬉しくねェんだけど」
「そうなったら拙者が泣くでござる」
「うわ、キモッ!兄貴の泣き顔なんて、10年以上見たことないッスよ!」

3人でこうやって、ウダウダサボって、馬鹿なことを言い合ってる時間の、なんと楽しいことか。3人でいると、本当に時間の経つのを忘れてしまう。

「晋助、帰ろうか」

イチャイチャしている間に、多分我慢できなくなった兄貴が言った。

「…うん」

火照った顔で晋助先輩も小さく頷く。そんじょそこらのカップルなんか目じゃないくらい、この2人って、ラブラブなんスよ、実は。
3人で楽しく過ごした後に、1人でサボってるのも、なんだかつまらないから、あたしも仕方なく教室に戻ろうかと思う。そうだ、どっか遊びにでも行こう。

学校はもう昼休みになっていて、晋助先輩を間に挟んで、屋上から降りてきたあたしに、1年の女子達の視線が痛かった。

教室に戻ると、あたしの鞄がなくなっている。ハム子を探したけど、食堂にでも行ったのか見当たらなくて。ポケットから携帯を取り出すと、ハム子からメールが届いていた。

『化学実験室の掃除用具入れだと思うわ(-"-メ)』

クラスのムカつく女達が、あたしの鞄を隠しに行ったのを、つけていってくれたみたいだ。

『ハム子、午後サボろう?』
『ハム子じゃないから!公子だから!いいわよ〜↑↑』

化学実験室に鞄を探しに行ってあたしはハム子と玄関で落ち合った。
ちょうど、兄貴と晋助先輩が、チャリンコに2人乗りで、帰って行く姿が見える。サングラスマニアの兄貴は、学ランだっていうのに、最近一番お気に入りのグラサンをかけて、いつものヘッドフォンは首にかけて。
あたしと歩く時は、容赦なく爆音で音楽聴いて、あたしの話なんか聞かないくせに。

晋助先輩は電車通学だから、2人乗りはいいんだけど、兄貴の腰に、両腕を回してる姿ってのは、やっぱりおかしいと思うのは、あたしが全部知ってるからなんだろうか。

「先輩達ホント仲いいわよね〜!ほほえましいってカンジ?」

ハム子が言って、知らない人にはそう映るのかと思った。アレじゃあバレバレじゃん?なんて思うのは、考えすぎか?
それに、ほほえましいなんて言っても、あの2人、ヤルことはヤってるッスよ、それこそ毎日のように。

下駄箱で靴を履き替えようとしたら、ローファーに画鋲が入れられていた。

「なんでそんなことするのかしらねっ!」

慣れっこになってしまったあたしより、ハム子の方が怒っている。そんなに怒れるのは、時々自分もとばっちりを受けるのも気にせずあたしと仲良くできるのは、たぶんハム子が、恵まれた環境で育ったからなんだと思う。

「心の貧しい奴ってのは、どこにでもいるモンなんスよ」
「でもー、河上先輩の妹なのって、またちゃんのせいじゃないじゃない?先輩にフラれた腹いせなんてヒドイよー」
「そうなんスけどねー」

いちいち気にしていたら、あたしは生きてなんていけない。

「フラれた方が悪いのよ!アタシみたいに可愛けりゃ、そんなことないんだから」

堂々と宣ったハム子のおかげで気が晴れた。ハム子本気ッスからね。

「もうちょっとヤセた方がいいッスよ」
「何言ってるのよ!ガリガリより、ぽっちゃりの方がモテるんだから!」

またちゃんももう少し太りなさいよーと言われながら、あたし達は学校を出て行った。

***

遅刻ギリギリで学校に着いたら、上靴の上に、濡れた雑巾が乗っかっていた。さすがにコレはちょっとヘコむ。
今から帰る気にもなれなくて、中庭やグラウンドの方をプラプラ歩きに行ったあたしは、教室で騒ぎが起きていることには、まだ気付いていなかった。

***

「テメェら何やってんだ」

その日たまたま、また子を探しに来た高杉は、1Cの教室にいた。
「そこ、また子の席じゃねェのか?」
油性ペンで、机に落書きしていた女達を捕まえて、高杉は声を荒げた。
まさかいきなり教室に現れるとは思っていなかったのであろう女達は、言葉もなく俯いている。

「テメェら、いつからこんなことやってやがんだコラァ」
ガンっと、物凄い音をたてて蹴られた机が吹っ飛んだ。
「チッ」
黙ったままの女達に痺れを切らせたのか、携帯を取り出した高杉は繋がった相手に短く一言だけ告げた。

「万斉、今すぐ1C来い」
それから、1分もしないうちに、猛ダッシュの万斉が4階に駆け上がってくる。
「万斉、この女共なんだ?」
倒れた机の落書きと、高杉の形相、それから気まずそうに立ち尽くす女達を見て、万斉は10秒もかからずに、事態を理解した。

「文句があるなら、拙者に直接言えばいいでござるよ」
朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴って、このクラスの担任がやって来たが、元々サボり魔の2人はお構いナシ。
「君達、なんなんだ?」と止めに入った教師を、高杉は思い切り殴りつけた。

「すっこんでろ!カスが!」
その姿に、最近すっかりおとなしい高杉が、あの『一中の高杉』だったことを思い出した生徒も少なくない。
「妹は関係ないでござろう?これ以上こんな真似したら」
暴れる高杉と対象的に静かな万斉。でも、その静かさが、むしろ不気味だということに気付いている者が何人いただろうか。

「お前ら全員、2度と外を歩けないようにしてやるでござるよ?」
「甘ェよ万斉、ぶっ殺せ!」
「いいや。死んだ方がマシだと思えるくらいの屈辱を与えてやるでござる」
『変態』と呟いた高杉の声は、誰にも聞こえることはなくて。

その時、遅刻をしたハム子がようやく、教室にたどり着いた。
教室内を探し慌てて廊下に出て携帯を取り出す。
「またちゃん大変!お兄さんと高杉先輩が教室で暴れてるわよ!」

***

用務員の長谷川ってオッサンと、なぜか学校に住み着いている定春ってデッカイ犬(犬なのか?)と、中庭でダラダラしていたら、ハム子からの着信があって。あたしは慌ててローファーのまま教室へ走った。

晋助先輩を、教師が3人がかりで押さえつけていて、それでも先輩は、自分を押さえつける教師に蹴りを入れていて。兄貴はそれを止めることなく、教師達と、廊下に出された女達を見下ろしたまま、両手をポケットに突っ込んでガムをくちゃくちゃ噛んでいる。引きずられるようにして廊下に運ばれて出てきたのは完全に伸びている担任だ。

「またちゃん!」

ハム子が、教室の後ろのドアから呼んでいる。
晋助先輩の叫び声で、事情はだいたい察することができたけど、ハム子が何があったかを説明してくれた。

その晋助先輩が、ようやくおとなしくなったのは、先輩の担任の吉田先生が駆け付けてからだった。
あたし達はみんなまとめて(なぜかハム子も)生徒指導室に連れて行かれた。

***

「あのカス教師、知ってたんだろうがよォ!」
あたしとハム子は、職員室の隣の、教師の休憩室みたいな部屋で、なぜだかお茶まで出されていた。晋助先輩の怒鳴り声はここまで聞こえてくる。ムカつく女達は、また違う教室に連れて行かれたみたいだった。

日頃から、あたしより怒っていたハム子が、これまでの仕打ちをべらべらしゃべるから、あたしは楽だった。
「校長じゃ、晋助は止められませんでしたかね」

なぜかあたし達の前にいる吉田先生は、ハム子の話が一段落したところで、やわらかく微笑んだ。
吉田先生は、自分のクラスの生徒をみんな名前で呼んでいるのだろうかと、場違いなことが頭をよぎる。

「2人はゆっくりしていって下さいね。私はちょっと、晋助を止めてきます」
「でも、先生」

悪いのは晋助先輩じゃないッスよ!と叫んだあたしに、吉田先生はやっぱり優しく微笑んで。
「わかってますよ。晋助でも河上君でもありませんが、晋助はちょっとやりすぎですね」
にっこり笑った先生の顔を見て、この人なら、悪いようにはしないんじゃないかと思えた。教師なんて全く当てにはしてなかったんだけど。

「先輩、退学とか、ないッスか?」
「退学?…なるわけないでしょう?」

それだけ言い残して、吉田先生は休憩室を出て行った。
「なんか、あの吉田先生ってェ、初めて話したけど、変わってるわねェ」
おもいっきり身体を伸ばしたハム子に言われて、あたしもようやく、肩の力が抜けた。

***

事件の後、登校停止の処分をくらったのは、ムカつく女達の方だった。
最近はいじめとか、マスコミがうるさいからかな。もちろん、見て見ぬフリを続けてきた担任も、教育委員会に通告されたらしい。
あたしが、自殺したわけでもなんでもないから、マスコミは来なかったけど。

あれ以来、嫌がらせは全くなくなったものの、やっぱりあたしにはハム子しか友達はいなくて。
ハム子には、あたし以外にも友達がいたから、時々1人になった。
教室でボーっとしていたら、自分の名前を呼ばれたような気がして、何気なくそっちを見てみると、アニメとか漫画が好きで、その仲間達だけでいつも集まっていて、他にはあまり干渉しないグループの方からそれは聞こえてきた。

「…だから、あの左目も、実は河上先輩を庇ってさ、ホラ」
「やー、でも、高杉先輩の受けって、エロすぎる!」
「そこに惚れてるんだってばァ!」

ひとつの机に集まって、絵を描きながら話しているグループ。あたしは、何の気無しにそれを覗いてみた。

「か、河上さん!」
「ごめんね、なんでもないの、これは!」

慌てて絵を隠す女の子達。でも、あたしはしっかり見てしまって。見てしまったものを、じっくり思い返したら、急に笑えてきた。
「アンタ達、イイッス」

自分の兄と、その友達の「やおいネタ」を見てしまったというのに、笑い出したまた子を見て、腐女子のグループはキョトンとした顔になる。
「アンタ達、嫌いだったけど、アンタ達が一番、よく見てるッスよ!最高ッス!」

ごく普通の金髪ギャルのあたしは、こうして、全く違う趣味を持ったグループの、仲間の1人になってしまった。
会話の内容には、時々ついていけないけれど。

***

吉田先生に「やりすぎだ」と言われた晋助先輩は、あれから一週間、放課後残って写経という罰が下されている。
特に手を出したわけではない兄貴は3日間。元が仏教系の学校であるウチならではのお仕置きだ。

「もう、無理でござる」
すぐに投げ出した兄貴の横で、文句を言いながら、それでも達筆な文字をすらすらと綴っていく晋助先輩。

「なァ〜、晋助」
「テメェ、とっとと書いて、少しでもその煩悩なくしやがれっ!」
肩を抱いてきた兄貴を睨み付ける晋助先輩。だから馬鹿兄貴、あたしもいるんスけど?

「無理でござる。写経なんかしたって、煩悩は消えないでござるよ」
言いながら、懲りずに唇を寄せる兄貴に、晋助先輩の鉄拳が飛んだ。
「それ以前に、また子の前ではやめろっつってんだろ!」
いやいや晋助先輩、それって、正しいようで間違ってるッス!そもそもここは学校ッス!

「もー、さっさと終わらせてくれないと、あたし暇ッスよ!」
教室の窓枠に座ったままでぼやいた。
「じゃあ先に帰ってくれていいでござるよ」
「あたしが帰ったら、兄貴は晋助先輩にやりたい放題でしょう!そんなの許さないッス」
とにかく写経を終わらせてもらえないと、3人では遊べないのに、わかっているのかこの兄貴は。
外と2人を交互に眺めていたら、携帯が鳴った。

「…やっぱりあたし、先に帰るッス」
「おい、また子!」

ニヤリと笑った兄貴と、一週間分の写経を3〜4日で終わらせてやるつもりだった晋助先輩の反応は全く逆で。
「晋助先輩ごめんッス!あたし渋谷行ってくるッス」
鞄を掴んで玄関に行くと、自分達を『腐女子』と呼ぶ、新しい仲間がまっていた。

「またちゃん、先輩達は?」
「いつもどーりよろしくやってるッスよ」
この子達は、仲間以外の人間とは接触を持ちたがらないから、2人のことが校内に広まるというようなことはなかった。むしろ、あたしと晋助先輩が付き合っているという噂が流れたくらいだった。
おもいきり、呼び捨てであたしを呼んで、あたしの為にキレたからだ。嬉しい反面、なんだか複雑。

「あのね、またちゃん、あたしたち、行きたいお店があって」
遠慮がちに言ってくる時は、たいてい、そういう系のお店。
「わかったッスよ!さすがにそこまでは付き合えないッスから」
ファーストフード店でダラダラ喋って、ゲーセンでプリクラを撮って。こんなのもなかなか楽しいと思える最近。

『兄貴、すっかりバレてるから、カモフラージュに女作った方がいいッスよ』
あたしと噂になっている晋助先輩はいいけれど。
『晋助が泣くから無理』
サボっているのだろう、メールを送ったら、すぐに返事が来た。
『晋助先輩泣かせたら、兄貴がこれまで好きになった男子全員の名前、屋上から叫ぶッス』


END



すごい書くの楽しかったッス




















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