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※「寫真」の続きです

BLEED LIKE ME


今日は飲み過ぎたー、と思いながら部屋に帰ると誰もいなかった。

(どうせ桂のとこでも行ったんじゃろ)

がらんとしたままの晋助の部屋を覗き、そう考えたら、なんだかまた、どろどろした気持ちが溢れてくる。テーブルの上には、自分が出掛ける前に、置いて行ったままの写真が残っている。さっさと持って帰ればいいものを。

自分の中の、醜い感情をさておけば、中学2年当時の晋助は、銀時が言うように、本当に小さくて可愛い。ここに、自分がいないことが、これほどまでに悔しいことだとは。
とりあえず、今日も学校がある。
坂本は、さっさとシャワーを浴びて、久しぶりに1人で眠るベッドに潜り込んだ。

***

『高杉が学校来てない。電話出ないしメールの返事もない』

銀時からのメールで、すぐに坂本に電話をかけたが、まだ怒っているのか取ってくれなかった。
「坂本に連絡したか?」
銀時に電話して尋ねたら、辰馬も出ねェのよ、と返事が返ってきた。

『あいつ、引きこもってんのかなー?でもさ、あの古典馬鹿が、古典と日本史の授業に来ないって、有り得なくねェ?』
「銀時…、晋助って、古典馬鹿なのか?」
『お前、幼なじみならそれくらい知っとけよ!』
いや、晋助の昔の姿を知っているだけに、そう簡単には信じられないだけなのだが。

『あー、俺があんな写真持ってったからだよなァ〜』
まさかこんな大事になるとは思わなかったのだろう銀時が、電話の向こうで溜息をついたのがわかった。

「お前のせいじゃないだろう?」
お互い学内にいるのに、このまま電話で話しているのも勿体ない。桂と銀時は食堂で落ち合った。

***

朝になって、ラブホから出る時、お金は全額沖田が払ってくれた。寝起きの悪い上に、身体が言うことをきかない俺のせいで、かなりの延長料金が加算されていたというのに。

「高杉をヤってた奴らから盗った金だから、気にしなくていいでさァ」
「お前な、それって犯罪だろうがよ」
「それを言うなら強姦だって犯罪でさァ」
ケロっと笑う沖田。まぁ、そんくらい、俺だって中学の時やってたから一緒かァ。ってか、やられたのは俺なんだから、その金俺によこせよな。

「高杉、この後どうしやす?」
あー、アンタと会って何にもしなかったのなんて初めてでさァと、太陽に向かって大きく伸びながら沖田が言った。もう朝の通勤ラッシュが終わっている時間で、でもまだランチには早い時間で、繁華街の道路は閑散としていた。たった一晩寝たくらいじゃ、当たり前だけど身体は治らなくて。俺は所々、沖田に支えてもらいながら休み休み、とりあえず駅の方へ向かって歩いていた。

「んー。どうしよ」
本当は学校に行きたいんだけど。一応教科書は持っているが、身体のあちこちが痛くて痛くて、90分座っていることなんて、絶対無理。

「アンタ友達いないんですかィ」
沖田に呆れたように笑われて、俺はムッとなった。

「いるけど、いろいろあって行けねェんだよ。まだ帰りたくねェし」
こんな時、1人暮らしの方がいいかなァとは思ったケド、こんな、くだらない喧嘩、2度としたくないし、やっぱり夜は辰馬と一緒に寝たいし……って、俺ってホントにどうしようもない馬鹿だ。だいたい、今回のは喧嘩でもなんでもない。

「ちょっと待ってなせェよ」
言って、一時俺から離れた沖田はどこかへ電話をかけはじめた。わーわー言い合いながら、それでも最後は納得したように通話を終える沖田。

「OKでさァ。好きなだけいればいいでさァ」
「って、お前、どこ連れてくんだよ?」
「…十四郎ん家」
「は?」

意味がわからないまま俺は、沖田に身体を支えられて、歩かされていた。

「お前、恋人ん家に俺なんか居座っていいのかよ?」
俺なら絶対に有り得ない。そんなことしたら…辰馬が何するかわからない。信じてないわけじゃないけれど。それに俺は、友達じゃなくて浮気相手なんだ、沖田の恋人から見れば。
「大丈夫でさァ。高杉もトシも、どうせネコネコだから。心配はいりませんぜ」
電車の中でこっそり耳打ちされて俺は何も言えなかった。そういう心配じゃなくてよ、とは思ったんだけど。

「赤くなるなんて、高杉はカワイイですねィ」
「うるせー!こんのガキがっ!」
「1つしか変わりやせん」
完全に沖田のペースに飲まれたまま、俺は沖田の恋人の、土方が1人暮らしをしているというマンションを訪れた。

***

「テメェ、どういうつもりだコラァ!!」

扉を開いて、俺達2人を招き入れた土方の、第一声がそれだった。大声を出されてビクっと震えた俺をすぐに沖田が抱きしめてくれる。当分、怒鳴られるのとか、無理かもしれねぇ。怖い。トラウマってやつになっちまったかも。

「でけぇ声出すんじゃねェ」
身体の震えが収まってくると、やっぱり来ない方がよかったんじゃなかろうかという思いが頭をよぎる。浮気相手を彼氏と会わせるなんてやっぱり、どうかしてる。来ちまった俺も俺だけど。

土方は、俺達よりは背が高くて(でも辰馬程デカくないな、と思ってしまってへこんだ)、第一印象は、とにかく目つきが鋭いということだった。

「なーんだ、ほどいちまったんですねィ」
俺が落ち着いたのを確認して、へらっと笑いながら、ズカズカと先に部屋に入って行った沖田が手に取ったもの。それは、そっち系の写真やなんかでよく見る、赤いロープだった。
ああ、やっぱりこのドSの恋人はドMかよ。

「高杉ィ、遠慮しないで入りなせェ」
玄関で立ち尽くしていた俺を沖田が呼ぶ。遠慮するなと言われても、ここはお前の家じゃないだろうが。それにそのロープ持って『解けたか』って、なんなんだよお前!お前、どんな状態で出てきたってんだよ、昨夜!

「スイマセン、お邪魔します」
なんとか脱いだ靴を揃えて、中に入ろうとしたら、しゃがんだ時に、腰や背中が痛みを訴えた。
「うっ…」
やべ、立てない。そりゃそうだ、今朝だって、沖田になんとか抱き起こしてもらったんだから。靴だって履かせてもらったし。

「おい、お前、大丈夫か?」

玄関先で、呻きながら倒れた俺を揺する土方の手首に、やっぱり縛られた痕が残っていた。なんだよ、縛ったまま放置プレイでもやってたのかお前らは?

「総悟、お前ヤリすぎじゃねェのかっ?」
「俺じゃーありやせんぜ、何言ってんでさァ!」
馬鹿土方!と言いながら、走ってきた沖田と土方は、2人で俺を部屋の中に運んでくれた。土方の部屋は、ロフトつきのワンルームで、ワンルームとは言ってもそこそこ広い。ベッドがないところを見ると、きっとロフトで寝てるんだろう。沖田が、俺の身体の下に、座布団やらクッションやらを宛がってくれた。

「総悟、お前一晩何やってたんだ!」
「何もしてねーよ!今回はそれどころじゃなかったんでさァ!」
「何にもしてねェなら、なんでコイツこんなボロボロなんだよ?」
「コイツじゃねェ、高杉でさァ!」

立ったまま言い争いを始めた土方と沖田のパンツの裾を、なんとか手を伸ばして引っ張った。

「土方、本当になんにもしてねェから」
ごめんと、口に出したらなんだか泣けてきた。

「コラ土方、高杉泣かすんじゃねェ!気に入ってんだから!」
「なんで俺のせいなんだ総悟ッ!」
「高杉は考えすぎでさァ。だいたい、土方はドMだから、俺達がヤってるのは、かえって燃えるんですぜィ、なァ、土方」
「っ…!!うるせェっ!んなわけねーだろーがよ!!」
「って言いながら、興奮しねェで下せェ」
2人の言い合いは止まらない。

ああ、こいつらって、こうやっていつも、言いたいこと言い合って、なんだか羨ましいなと、泣きながら思った。俺は辰馬に、言いたいことの半分も、ちゃんと言えたことがない。

「泣くんじゃねェ高杉。後で俺が、土方痛めつけときまさァ」
俺の頭の近くに腰を降ろした沖田は、なんでか俺の頭を膝の上に乗せてくれた。
「総悟…」
ふいっと拗ねたように顔を背けながら土方が、俺の足元あたりに座った。

「結局、お前ら何やってたんだよ?」
「それくらい察しなせェ」
沖田が言い放って、土方は黙りこくる。時間が余ってたから、公園で煙草吸ってたら強姦されましただなんて、できれば言いたくない。だけど、口許だってまだ腫れてるし、Tシャツの裾からは痣が見えてるし、どうせすぐ想像がつくだろう。

「高杉、アンタ昨夜も寝ながら泣いてましたぜィ?本当に大丈夫ですかィ?」
沖田に髪の毛を触られて、ようやく泣き止んで顔を上げた。でも、沖田は俺を見てはいなくて、黙って背を向けて煙草を吸う土方を見つめている。あ、本当だ、コイツ、きっとヘビスモだ。吸い方が違う。

喧嘩して、飛び出した沖田が俺を呼び出すのはきっと、煙草を吸う俺の姿を見て、土方を思い出せるからなんだろう。あとは、素直じゃないところが似てるとか言ってたけど。沖田のことだから、セフレは俺だけじゃないに決まってる。

「総悟、お前学校は?」
「今日は行きやせん。高杉と一緒にいたいんでさァ」
お前じゃなくてな土方、なんて沖田は平然と言うけれど、わかってる。

「お前らさァ、…言いたいこと言いあえて羨ましいよな」
俺が呟いた言葉に、2人共驚いたようだった。

「高杉のとこは違うんですかィ?…あぁ、アンタ、土方より素直じゃねェですからねィ」
「うっせェなァ」
「事実でさァ」
沖田が笑って、起き上がるに起き上がれないままの俺も土方もつられて笑った。

「とりあえず、俺は毎日は来れねェけど、何日でもここにいなせェよ」
土方の確認も取らずに沖田が言った。
「いいのかよ?」
いきなり初対面の相手の部屋に転がり込むなんて、さすがの俺でも、身体がこんな状態でも気が引ける。さっき消したばかりなのに、また新しい煙草に火をつけた土方を見ながら俺は尋ねた。

「構わねェよ」
ぶっきらぼうに答える土方に、本気で感謝した。本当なら、ちゃんと起き上がって頭を下げたい。
「当たり前でさァ。こんなボロボロの高杉を追い出せる土方じゃないですぜィ。2、3日はあそこで寝てなせェ」
言いながら沖田が顎で示したのは、この部屋のロフト。今の俺に、あの梯を昇れるかどうかは疑問だが。

俺と沖田は何度も会っているけれど、俺と土方は初対面だ。とにかく、沖田が間に入って、話すような形にはなったが、沖田は普通に『ネットで知り合った』と土方に言ってしまっていた。それを聞いた土方も、普通に聞き流している。俺と辰馬の間でなら有り得ない。だって、小太郎に嫉妬する奴だぜ?幼なじみに。
辰馬も異常だと思うけど、こいつらも、たぶん普通じゃない。

「高杉は、恋人は?」

土方の問いに、なんとか身体を起こした俺は頷いた。
「あ、でも、沖田と知り合った時はまだ付き合ってなかったし、付き合うようになってから、昨日が初めて会った」
それは事実だし、俺としては、それで土方に誤解されて、また2人の言い争いが始まるのが嫌だった。

「駄目でさァ高杉。土方はドMなんだから、俺達の仲をこうやって、見せ付けてやった方が興奮するんでさァ」
言いながら、斜め後ろから俺を抱きかかえた沖田に唇を塞がれた。それも、深く深く。馬鹿、何考えてんだ、恋人の前で!

「…んァ…っ」
ようやく唇を離されて、飲み込みきれなかった雫を口端から垂らしたまま土方を見ると、真っ赤な顔で俯いていた。怒ってはいないようだ。

「どうですかィ?土方。話に聞くだけより、実際に見る方が、興奮するだろィ?」
「…っ、んなことねェっ!」
ふるふる震えていた土方が、真っ赤なまんまの顔を上げて怒鳴った。俺はまた、ビクっと身体を震わせて、沖田にしがみついてしまう。怒鳴られるのが怖い、大声を出されるのが恐い。

「怒鳴るなって言ってんだろィ?罰として、高杉の舐めてやりなせェ」
「おい、沖田?」
正気かと思った。でも、俺を抱きかかえたままの沖田の顔は真剣で。『さっさとやりなせェ』と追い打ちをかけられた土方は、躊躇いがちに俺のジーパンのベルトに手をかける。

「やめろって土方!オイ、沖田!」
「噛み付いたりしないから大丈夫でさァ」
そうじゃなくて!

俺を抱いていると言うよりは、逃げられないように捕まえているという様相になってきた沖田のせいで、俺は土方に下着ごとジーパンを降ろされた。自分でも、目を背けたくなる程の痣と傷に、やっぱり土方も驚いたみたいだったけど、怖ず怖ずと俺自身を口に含んでいく。

いくらボロボロの身体でも、そんなことされたら絶対反応する。
口の中全体と、舌を上手く使われて、俺の中心はだんだん熱を帯びて勃ち上がってきた。

「んァ…っ、ふっ…」
舐められてるだけなのに、声を抑えることができない。やべェ駄目だ、土方上手い。いつも沖田にさせられているんだろうけど。俺は、いつのまにか沖田にしがみつく腕に力を込めてしまっていた。

「ャあ…っ、やめ、っ…」
「コラ、土方」
土方に与えられる快感の中で震えていたら、沖田の鋭い声が飛んだ。

「誰が自分の触っていいって言ったんでさァ?」
「そう…ご…」
俺から口を離した土方が、辛そうに沖田を見つめている。

「さっさと高杉気持ち良くさせてやりなせェ」
言われて土方は、先走りやなんやらで、すっかりヌルヌルになった俺自身を再び口に含む。

「まぁーたく、タチ泣かせとは高杉のためにあるような言葉ですねィ」
いや、そんなことないから、と言おうとしたけど言葉は喘ぎ声にしかならなくて、俺はふるふる首を振った。
そりゃ、言われたことはあるけど。何回もあるけど、デカイって。だけど辰馬には全然敵わないから。辰馬のはさ、なんつぅかさ。

(…………………)

考えてたら、萎えてきそうだからやめよ。
「高杉ィ、顔上げて」
言いながら俺の顎を掴んだ沖田に口付けられた。瞳を閉じていてもわかる、土方の視線が痛い。
「んんっ…んーっ!!」
沖田にキスされたまま、俺は土方の口の中に精を吐き出した。

***

ますます体力を持っていかれて、下着もつけずにぐったり横になる俺の前で、沖田と土方がヤリはじめた。

「ほらほら、ちゃんと高杉にも見てもらいなせェ」
「ァっ…いや、だっ…そうごっ!」
「身体は正直みたいですけどねィ」
わざと上体を起こし、俺からしっかり、繋がった部分が見える体位で、沖田は後ろから土方の中を激しく突き、指で胸の飾りを弄ぶ。

「うわ…すっげ…」
そんな体位も、こんな他人のセックスも、あんまり見たことなくて、思わず呟いてしまった言葉に、土方の身体が反応した。
「見んな…よォ、ァあ、んくっ…」
乳首に爪を立てられて、半泣きで喘ぐ土方を見ていたら、なんだかまた、下半身が熱くなってきた。でも、ただここで、自分でするってのもな、と考えて、俺もとんだ淫乱だと笑えてきた。

這うように2人に近付いていって身体の下にクッションを敷く。
「沖田、座ってできるか?」
俺の意図に気付いた沖田は、座位の姿勢になって、土方の腰を支えて突き上げる。自分の体重が、全て繋がった箇所に集中して、土方は身体をのけ反らせた。
全然、触れられてもいないはずなのに土方自身は、パンパンに張り詰め、透明な雫を垂らしている。俺といい勝負だな、土方の身体の感度。

「さっきのお返し、してやるよ」
言って俺は、痛いくらいに主張する土方自身を喉の奥まで深くくわえてやった。左手は、自分のモノに添えながら。
前後から同時に与えられる刺激に、土方の嬌声が高くなって。
俺達は、それぞれに絶頂を迎えて、床の上に倒れ込んだ。

***

「ちょっとヅラ!!高杉って、マジで引きこもってるだけじゃなくね?」

昼休み。いつものテラスで蕎麦を食べていたら、駆け込んできた銀時が開口一番にそう言った。
いつも4人で集まっていたここのテラスも、ここ3日間は2人のことが多い。

「何かあったのか?」
ほとんど同じような心配をして、自身も独自に動いていた桂は、いつもとは様子の違う銀時を、とりあえず座らせて尋ねた。

「今日の2限、枕草子よ?先生と対等に話す高杉が、来てないのは絶対におかしい!」
「…坂本に、直接聞きに行くか」
あのことがあってから、テラスにも顔を出さなくなった坂本を探すため、桂と銀時は、さっさと昼ご飯を食べ終えると経済学部棟へと向かう。
坂本は、すぐに見つかった。長身のせいだけではない、あの特徴的な笑い声が、教室のひとつから聞こえてきたのだ。

「坂本!」
桂と銀時の姿を見るなり、坂本から笑みが消える。
「なんじゃ?わし今忙しいんじゃけど」
昼飯を食べながら、女の子と話していただけの坂本は言い放った。

「辰馬、高杉は?」
桂に話をさせるとややこしいと、銀時が桂を制して問う。
「一体何のつもりじゃ?」
「辰馬、俺達が、あの写真持って行った日から、俺達は高杉に会ってないし、電話も繋がんない」
正確に言うと、昨日の昼まで携帯は繋がっていたのだ。ただ、出てもらえなかっただけで。それが、今は電源が入っていない。

「どういうことじゃ?わしゃてっきり桂の家にでも行ったと思って」
坂本の目付きが、あからさまに変わったことに2人共気付いたけれど。
「だったら、俺達わざわざこんなとこ来ねェよ!」
叫んだ銀時を押し退けて、桂は座ったままな坂本の襟首を掴んで坂本を殴りつけた。

「俺が憎けりゃ憎んだらいいだろう?だがな坂本。アイツの手を離すつもりはないと言ったのは、どこの誰なんだ、貴様っ!」
あー、普段大人しい奴がキレたら恐いって本当ね、と思いながら銀時は、とりあえず桂を引きはがす。

「銀時にも言ってなかったが、俺は昨日、あの女子高生にも会いに行ったんだ」
「え?お前そんなワザ使えたの?」
銀時が驚いて桂を抑えていた手を離す。

「どっかで見たことがあるとは思っていたからな。河上の妹だとわかれば簡単だ。俺にとっても後輩なんだから、高校に行ってきた」

坂本も銀時も、黙って桂の話を聞いている。

また子も、高杉に聞いて桂を知っていたから、話しやすかった。
また子が言うには、8月の頭から高杉には会っていなくて、最近この辺りで見掛けたという話も聞かないらしい。また子からも高杉に電話してもらったが、やはり、電源が入っていないものは繋がらない。

「兄貴にも聞いてみるッスよ」

また子は、今こっちに帰ってきているという万斉にも電話をかけてくれたが、万斉は万斉で、テレビや雑誌の仕事が忙しくてそれどころではないらしい。先週デビューシングルが出たばかりなのだと、だからこっちに戻ってきていても、実家には顔を出さず、ホテル暮らしなのだとまた子が教えてくれた。

「その足で高杉の実家にも行ってきたが、そっちにも帰っていない」
「俺もさー、それとなく授業でよく見る奴に聞いてみたけど、やっぱり高杉見つかんねェよ」
桂と銀時が知る、高杉の交友関係は全て調べ尽くしたのだ。ただ単に、坂本のマンションで引き込もってくれていたら、どんなにいいと思ったか。

「辰馬、お前どっか知らないの?」
いなくなったのが、銀時や桂や坂本なら、こうも心配にはならなかっただろう。最近流行りの『自分探しの旅』とやらにでも出たんかなァ、で済む話だ。一応、もうハタチ前後の大人なんだから。でも、高杉だけは、どこか危なっかしい、何か事件にでも巻き込まれてやしないかという疑問が、常について回る。普段が、自分から外へ出て行くタイプではないだけに。かつて、地元で一番悪いと言われ、捻くれていた過去があるだけに。

茫然としたままの坂本は、2人以上には、高杉のいそうな場所を探せない自分に気がついていた。


END



これまた続く!皆様おわかりでしょうが…、世間って奴は、意外と狭いもんなんです。次で思い知ったらいいよ…ふふふ… 「今は抱きしめて」に続きます




















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