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※「What's on your mind?」の続きです

雨のち晴れを待とう


提出期限ギリギリに、教務課へレポートを3本提出して。まっすぐ待ち合わせの居酒屋へ向かった。

「悪ィ、遅くなった!」

坂本の名前で予約されていた座敷に着くと、まだ付き出しも出ていなくて、みんなちょうど入ったとこなんだとわかった。

「大丈夫ぜよ〜、今からじゃァ」

笑いながら手招きする坂本の隣に座る。いつもは坂本の部屋で飲んでいるのだが、前期が終了したこの日くらいは、飲みに出ようという話になって、わざわざ居酒屋を予約したのだった。

「はいはい、とりあえずビールね、何本いる?」

飲み放題の酒メニューを見ながら、もう飲む気満々の銀時。テスト期間と準備に充てたこの2週間、1度も4人では集まらなかったから、なんだか久しぶりの気がする。たった2週間なのに。

「とりあえず瓶ビール10本!」
「銀時、いくらなんでもそれは!」

俺の前に座った小太郎が銀時を止めた。オーダーを取りに来た店員も、慌てて食べ残しや飲み残しの注意を始める。

「大丈夫だって!辰馬1人で5本は飲むだろ?高杉が3本で…10本で足りなくね?」

4人の中では一番酒が弱い(と言っても、かなり飲める方だ)の小太郎でも、たぶん2時間あれば3〜4本は飲めるだろう。

「とりあえず10本で」

ちょっと引き気味の店員が去って行くと、コース料理が順に運ばれてくる。
ずらっと並んだビールをそれぞれコップに注いだ。

「じゃ、無事に前期を乗り切ったことに」
「乾杯!」

小太郎が仕切って、みんなでグラスを合わせた。

坂本なんかは、コップ1杯のビールくらい一口だから、その後はてんでばらばらに自分でビールを注いで勝手に飲む。正直、徹夜明けですきっ腹の身体に酒はキツかったけど、またこうやって4人で集まれるのが嬉しくて。
この2週間は、一緒に住んでいる坂本とすら、ほとんど顔を合わせられなかった。

「高杉ィ、世界の文化3のテストどうだった?」
「んァ?…お前ノート貸してやっただろ?」

バイトばっかりで、授業にほとんど出ていない銀時に、俺は仕方なくノートをコピーさせてやっていた。

「ヤマ張ったら外れたんだけどォ!」
「お前馬鹿だろ?」

ほとんどノート取った中から出たじゃねェか!と笑ってやった。

「まァまァ、今日はそんな話はやめるぜよ〜」

俺の隣で、銀時の前に座った坂本がさっそく瓶を1本空けて間に入った。

「高杉、夏休みはどうするんじゃ?」

どんどん出てくる料理を銀時と2人で片付けていたら坂本に聞かれた。俺はかなり少食なんだけれど、昨日の昼から全く何も食べていないから。

「まだあんまり決めてねェんだけど。とりあえず明後日1回帰るけど」
「なーによ、彼女のために帰ってやれよォ」
「違うっつってんだろーが!」

まったく銀時の野郎。お前らは?と逆に尋ねたら、そのままのノリで銀時が真っ先に答えた。

「そんなもん、バイト三昧に決まってるだろー。実家なんて帰らねェよ」
「お前はホントにバイト好きだな」

小太郎が呆れている。

「いーじゃん。今更休めねェし」

金に困っているとかそういうことではなく、銀時は半分くらい、好きでバイトばかりしてる、らしい。もちろんお金も欲しいのだろうけれど、その辺のことは、よくはわからない。

「銀時、そーいやお前って実家ドコ?」

そう言えば、聞いたことなかったような気がする。俺達は、積極的に話したがらないことは聞かないから。

「んー、今は京都の上の方」
「きょうと…?」

その単語に、ズキっと、胸が疼いた。

「なーにィ?高杉京都に何かあんのォ?」

顔には出さなかったつもりだけど。

「何にもねェよ!」

あ、ムキになって否定したのが、余計怪しかったかも。でもまさか、元彼が今住んでるなんて言えないから。

「上の方って、舞鶴とか福知山の方がかァ?」

坂本が話を変えてくれて助かった。

「そそ、その辺」
「おー!福知山にのぅ、かき末って牡蠣が旨い店があってのォ!みんなで冬は銀時んち泊まってフルコースじゃの!」

いつものようにアッハッハと笑った坂本に、なんでそんなこと知ってんだこのボンボンが!という視線を3人で送ったが、本人は全く気付いていない。

「辰馬はどーすんだよ?」
「わしか?」

すっかり牡蠣に思考を持って行かれている坂本が表情を戻した。

「わしは遠いからのー、お盆のあたり1週間だけ帰ろう思っちょるぜよ」

当然のように順が回ってきて次は小太郎。

「俺は近いからな、予定次第で行ったり来たりだな。お前らと飲む時はこっちにいるし」
「そうじゃの、夏休みも、いつも通りこうやって集まりたいのー」

いつも場所や飲み代の半分を提供している坂本がそう言ってくれて、なんだか嬉しかった。たった2週間会わなかっただけで久しぶりな気がするのに、2ヶ月も集まらないなんて、想像できなかったから。

瓶が軽く20本は空いたところで、だんだんビールに飽きてきた。

「銀時、メニューくれ」

飲み放題だと、やっぱりビールとかチューハイとか梅酒くらいしかないんだよなァ。

「とりあえず、ゆず」
「なんだよ高杉、もうペースダウン?」

こういう時に真っ先に突っ込んでくるのは銀時だ。

「違ェよ。ビール飽きてきた」

既に、1人で5〜6本は空けているはずだから。坂本は、それ以上余裕で空けているが。

「もう、料理はこれだけかのう?」

ひと通り飲んでから食べる派の坂本が物足りなさそうにしている。俺ら残り3人は、食べながら飲む派だから、ほとんど料理が残っていない。

「どうせ4人で割るんだからさ、頼んじゃえよ。別料金でいいしよ」

メニューを渡しながら銀時が坂本に告げた。俺もそれには同意だ。

「いいよなァ小太郎…小太郎?」

さっきから口数が少なくなっていた小太郎がガクンと頭を落としかけた。

「すまん!」

その瞬間に目覚めた小太郎は、すぐに謝罪の言葉を口にするが、また、こっくりこっくり眠そうにし始める。

「ヅラぁ〜、眠そうだなァ?」

手からコップを取り上げ、銀時は小太郎の身体を自分にもたれさせた。

(あ、なんか羨ましい)

自分も徹夜明けで眠くなってもおかしくないはずなのに、久々に集まれた嬉しさの方が、今は勝っている。自分も、眠くなったら、隣の坂本は同じことしてくれるだろうか。

「高杉、何か食べるがか?」

銀時と小太郎の様子などあまり気にならないのか、坂本は平気でメニューをめくっている。あれ?もしかして、俺って過剰反応?……そうだよな、男同士だからとか、コイツら関係ないんだよな。意識してんの、俺だけだよな。

「食べ物はいいから、俺焼酎飲んでいい?」
「おう、飲み飲みィ」

ちょうどゆずチューハイもなくなりそうだし。こうなったら飲んでやろうと思った。
坂本に通常のドリンクメニューをもらって俺は焼酎をロックで頼んだ。坂本の部屋に、各地の酒があるせいか、どうも最近焼酎にハマり気味だ。なんだろう、こんなところまで、俺は坂本の影響を受けてしまっている。

「高杉、お前顔赤いけど大丈夫なの?」

さっそく運ばれてきた『れんと』を飲んでいたら、銀時にそう言われた。

「本当じゃのう?いつもは全然変わらんのにの?」
「大丈夫だぜ?そんなに赤いか?」

徹夜明けで、ちょっと身体が弱っているとは言え、あれだけ食べたのだから大丈夫なはずだった。

いくら飲んでも俺は顔には出ない。むしろ、見た目だけなら、潰れるところまで行ってても変わらない。だから、酒を飲み始めた最初の頃は、よく周りのペースに合わせて飲んでしまっていきなり潰れていた。『まだいけるだろう?』と言われてしまうと、自分でも大丈夫だろうと思い込んで、つい飲んでしまっていた。

「大丈夫だろ」

だって、れんとの味わかるし、こんなにウマイし。
そう言っていると、店員が、飲み放題のラストオーダーを告げに来た。

「じゃ、ビール5本」
「5本もいるかァ?」
「辰馬が飲むだろォ」

ラストオーダーと言うことは、店を出なきゃならない時間まであと30分。30分あれば坂本なら飲むかな、5本くらい。俺もまだいけるし。
銀時もそれなりに飲んでいたが、飲むより食べる方に集中し始めた坂本の酒は、意外と進まなかった。

「おい、やっぱり5本は多かったんじゃないか?」

あっという間に30分が過ぎ、伝票を持ってきた店員に坂本がとりあえずまとめてお金を支払った。

「わしこれ1本飲むぜよ〜」

言いながら、まさにグビグビ飲み始める坂本。

「しゃーない、1本ずつ責任とっか、高杉」
「仕方ねェな」

俺と銀時は、余ったビールをほぼ一気に飲み干した。

***

一応起こしたものの、まだフラフラしている小太郎を、銀時が肩で担いでいる。

「とりあえず辰馬ん家行くしかねェよなァ、コレ?」

銀時の言葉に、俺も坂本も同意。酔ってない、大丈夫だと、うわごとみたいに繰り返す小太郎。酔ってないって言う奴が一番酔ってんだよ、まったく。

「辰馬ァ、お前ん家カシスまだあった?」

飲み放題メニューに、甘い酒が少なかったせいか、ビールしか飲んでいなかった銀時はまだ飲み足りないらしい。俺は、もう、けっこうお腹いっぱいで、ちょっといい気分になってきている。

「買っといたぜよ〜」

いつものように笑う坂本も、まだ全然平気なようだ。

「とりあえず、駅まで行こう…ぜ?」

歩き出そうとしたら、いきなり何もないところでコケてしまった。最低だ、俺恥ずかしい!

「大丈夫かァ?高杉」
「大丈夫だよ!」

すぐに立ち上がったものの、バランスが上手く取れなくて。また、ペタンとアスファルトの上に、尻餅をついてしまった。

(なんだコレ?)
「あーもう、高杉お前、足にきてんじゃん!」

銀時が何か言ってるけど、思考がついていかない。あー、周りがぐるぐる回ってる。

「高杉、大丈夫かァ?」

両手を掴んで立たせてやると、一応は立ち上がるものの、力をなくしてそのまま自分の方に倒れ込んできた。高杉が、肩にかけて持っていたトートバッグが下に落ちる。

「銀時ィ、わし、カマかけられとるわけじゃないんじゃな?」
「違ェだろっ!どー見てもフツーに酔っ払ってんだろうが!」

自分に体重を預けてフラフラしている高杉を支えながら、落ちた鞄を拾ってやると、異様なまでの重さだった。

「なんじゃァ?こんな重たいの持っとったんかァ?」

分厚い布でできたトートバッグごしにわかる本らしきものの感触が3〜4冊。

「銀時もこれくらい真面目に勉強せェ」
「意味わかんねェこと言うなよ!それより、どーすんだよ?電車、無理っぽくねェ?」

潰れたのが桂1人ならまだしも。それに、桂の場合、途中からほとんど飲んでいなかったから、潰れたというよりは、きっと眠いのだ。

「仕方ないじゃろ、タクシー止めてくれんかの?」

桂を肩に担いだまま、銀時は道路の方へ歩いて行った。

「高杉、もうちょっとじゃから、歩いてのー」

桂をタクシーの一番奥に押し込んだ銀時が手招きをしている。

「まったく、おんしが倒れたの初めてじゃのう?」

聞こえているのかどうかなんてわからないが、話し掛けながら引きずるように歩く。

「……き」
「え?」

高杉が、ボソッと何か呟いた。『好き』と聞こえたのは果たして空耳だろうか?いきなりそんなことを言われてしまっては、自分の心臓がうるさくなってしまうのは止められなくて。

「高、杉…?」
「…すきずきしう、あはれなることなり……」
(は?)
「……だからそれは…」

経済学部の自分には、さっぱり何のことだかわからないが、間違いなくこれは古典だ。

(まーだ勉強しとるんじゃろうかの)

一緒に住むようになったからこそわかる。この子が本当に、地元で一番悪い不良だったのかと疑いたくもなるような、真面目で勤勉な姿。それが二面性とかいうやつなのだとしたら。その、両方を、もしも見せてもらえたとしたら。自分は、今よりもっと、高杉に惹かれてしまうのだろうなと考えながら、坂本はタクシーに乗り込んだ。

***

タクシーを降りて、坂本のマンションへ入ってゆく4人。

「辰馬、お前ソレ恥ずかしい」

タクシーを降りたところから、高杉を抱き抱えている坂本。背中と膝の裏に腕を回して、いわゆる『お姫様抱っこ』というやつだ。普段なら、絶対にそんな姿は許さなそうな高杉だが、すっかり眠ってしまっておとなしく坂本の腕に収まっている。

「えいじゃろ。…2人だけの秘密じゃよ、銀時」
「お前ねェ」

2人だけの秘密は嬉しいんだけどさ、と銀時は桂を支えていない方の右腕で坂本の顔をぐっと引き寄せた。
一瞬近づいた顔と顔。狭いエレベーターの中にチュッという音だけが、やたら大きく、卑猥に響いたような気がする。

「どうせ秘密つくるなら、コレくらいしてよね」

至近距離で見つめあったまま、銀時は囁いた。

「まったく…おんしは」

長身の坂本が、身をかがめて、銀時に唇を重ねた。
唇を重ねるだけの、ほんの軽いキスを何度か繰り返す2人。

「とりあえず部屋入るかの」

エレベーターを降りて坂本の部屋へ。潰れてしまった2人は、まっすぐ坂本のWベッドの上に運んで寝かせた。

「ほんに、かわええの」

丸くなって眠る高杉の頭を撫でながら微笑む坂本。カシスリキュールとグラスを用意していた銀時は、その呟きを聞いてしまっていた。

「お前さァ、銀さんとキスしといて、そりゃーないんじゃないの?」

言ってやると辰馬は、悪びれた様子もなく寝室を出てきた。

「なんじゃ、焼きもちがか?」
「違ェけどさ…。辰馬、お前らもしかして、まだ何もないの?」

一緒に住み始めて、もう1ヶ月になるはずだ。

「何もないもなんも、高杉彼女おるんじゃろ?」

高杉の口から、直接その話を聞いたことはないがの、と坂本は自分の酒も用意し始める。
「まァね…。俺だけじゃなくて、ヅラも目撃してるからね」

いっそ俺と付き合おうぜ、と言いかけた言葉を銀時は飲み込んだ。それで、今のこの4人の関係が崩れてしまうのは嫌だし、何より坂本は、高杉が好きなんだ。それは間違いない。
大学に来たんだから彼女の1人や2人くらいは欲しいわぁ!と思っていた銀時だが、最近はそれすら、だんだんどうでもよくなってきている。
4人でいる方が、女なんか作るより全然楽しい。そう、感じてしまっていることは、もはや否定できなかった。

***

「気ぃつけての」

あの飲み会から2日。俺は、一旦実家に帰ることにしていた日を迎え、坂本の部屋の玄関で靴を履いていた。

「親御さんによろしくの」

わざわざ見送りに出てくれた坂本が廊下に立っている。

「まぁ、近いし、そんな心配いらねぇし」

なんたって、こないだまで、そこから大学に通っていたくらいの実家だから。

「2、3日で帰ってくるから、また電話するわ」

特にこれといった荷物も持たず、いつもの鞄ひとつで俺は、坂本の部屋を後にした。

***

電車で片道1時間の距離なんてのは、音楽でも聞きながらぼーっとしていれば、あっという間なもので。
テスト期間は帰らなかったから、俺は約2週間ぶりの、地元の駅に降り立った。8月の暑い陽射しに、脳みそまで溶けるような、そんなけだるさを感じながら、さっさと家に向かおうとした。

「…ンパーイ……」

大音量で流していた音楽の、イヤホンごしに何かが聞こえる。

「しんすけセンパーイ!!!」

(は?)

こんな風に俺を呼ぶのは、世界広しと言えどもたった1人しか思い出せなくて。
一旦実家へ向けた足を、ふと止めた。

「先輩、迎えに来たッスよ!」

イヤホンを外しながら振り返ると、キャミソールにミニスカート。ヒールの高いサンダルで、携帯だけをにぎりしめたまた子が立っていた。

「何でお前…」

俺が今日帰ってくるって知ってんだよ?ヒールのせいで、俺よりデカくなったまた子がちょっと憎い。

「何言ってるんスか?先輩メールくれたッスよ?一昨日」

一昨日?…あ、あの潰れた日じゃねェか。全然そんな、メールなんてした憶えがない。

「先輩、あのね」

また子が携帯しか持っていない時点で予想はついている。女の子は、男とは違って、必ず鞄くらいは持っているものだ。

「兄貴と来たッスよ」
「ああ」

逃げるわけにもいかないし、避けては通れないのだと思った。

「もしもし?…俺。あのさ、もう着いたんは着いたんだけど、寄るとこあっから、晩飯までには帰るから」


END



当初の予定と大幅に内容変わった…(泣)まだ続くわコレ…
「このままこの手を離さないで」に続きます

「すきずきしう、あはれなることなり」は枕草子です




















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