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雨がやまない


「あ…雨だ…」

だいぶ遅い朝食の準備をしていたら、そう呟く声が聞こえた。確かに今日は朝から雨だ。家の中にいてもわかる程の激しい雨が窓に叩きつけている。

「晋、前くらい隠しィ」

全裸のまま、2人の寝室にしている自分の部屋から出てきた恋人の姿に、やや呆れながらおはようと声をかけた。
年の瀬も迫った12月の終わり。大学はとうに冬休みになっており、坂本は寝起きの悪い高杉を1回だけ起こしに行き、あとは勝手に起きてくるまで放っておいたのだった。
まだ眠そうに欠伸しながら高杉は浴室に向かう。

「あ、晋、風呂は駄目じゃ」

坂本が慌てて追いかけるより早く、高杉は風呂場の扉を開けていた。

「なんで閉めてん………こたろー?」

寝起きで働かない頭でも、普段使っていない時は開けっ放しにしているはずの浴室の扉が閉まっていることに少しだけ疑問を感じたが、そのまま開けると、濡れた長い髪の毛を頭の上でひとつにまとめた桂がシャワーを浴びていた。

「お前、やっと起きたのか」
「なんでお前がいるンだよ?」

驚きながらも、高杉は気にせず風呂場の中に入ってしまう。

「晋ーっ……」

まだ寝ぼけていたのかもしれないとは言え、桂が入っているにバスルームに平気で入ってしまった高杉を見て、複雑な心境になる坂本。

「おんしら、なんで一緒に入るんじゃァ!!」

放っておこうかとも思ったが、やっぱり我慢できなくなって、閉められたばかりの風呂場のドアを思い切り開けた。
2人は、1つしかない(当たり前だが)シャワーヘッドを取り合っていた。

「…なんでって言われても、昔からよく一緒に入ってっし」
「すまんな坂本、俺が上がる」

全く違う反応を見せた2人。僅かに身体に残っていた泡を洗い流し、桂は坂本の目の前で風呂場を出る。

「見ての通り、何にもしてないから安心しろ」
「わしは何にも言っとらん」

ふいっと顔を背けて坂本はまた、キッチンに戻って行く。

(めちゃくちゃ怒ってるじゃないか)

タオルで身体と頭を拭きながら、桂はどうしたものかと真剣に考えた。
おそらく、寝ぼけている上に、相手が自分なら問題ないはずだと考えている高杉には悪気も他意も全くないだろうし。
頭からタオルを被り、やはり全裸のまま、高杉が風呂場から上がってきた。

「悪ィ、小太郎。おもっきり寝坊した」

がしがし頭を拭いた後は、そのタオルを腰に巻き、リビングのソファーに座って、タバコに火を付ける高杉。どうやら、やっと目が覚めて、頭が働き始めたらしい。

「だから迎えに来た」

もうすっかり、衣服を整えた桂は床に座って新聞を広げている。

「それよりお前、坂本に謝れ」

桂がキッチンの坂本に聞こえないように声を潜めて、新聞で2人の頭をキッチンから隠しながら高杉に告げた。

「…なんで?」

やはりそうだ。高杉は、さっきの行為に全く悪気がない。もしかしたら、記憶にもないかもしれない。

「恋人の前で他の男と一緒の風呂に入るやつがあるか」
「え?お前だぜ?」

どうやら記憶だけはあるらしい。言ったことややったことを、ほとんど覚えていないくらいに高杉は寝起きが悪い。

「関係ないだろうが」

あきれた桂がため息をついた時、にこりとも笑わない坂本が、高杉の分の朝食を運んできてテーブルに置いた。いつもなら、カウンターキッチンで2人並んで食べるのに。

「サンキュ。…なァ、辰馬。怒ってんの?」
「わしは出掛ける」
高杉の問いには答えず、せっかく作った朝食も自分は食べず、さっさと坂本は部屋に行ってしまった。

「ほら、な」

桂が眉をひそめた。いつも底抜けに明るい坂本が、笑わないなんて、怒ってる以外の何ものでもない。
年末のこの日、高杉は桂と出掛ける約束をしていた。坂本は用があると言うことで、2人で遊びに行くつもりだったのだ。しかし、いつまで待っても高杉は待ち合わせ場所に訪れず、電話も出ないしメールの返事もない。
これは間違いなくまだ寝ているなと思った桂は迎えに来たのだが、この日の豪雨に加えて強い風。坂本のマンションを訪れた時、傘をさしていたにも関わらず、桂はびしょ濡れになっていた。

「晋ならまだ寝とるぜよ」

と、自身も起きてシャワーを浴びたばかりという姿で部屋に桂を迎え入れた坂本。びしょ濡れの桂に、高杉が起きてくるまでシャワーでも浴びておけ、という話になったのだ。
自分自身は浮気性のくせに、独占欲の強い坂本の性格には慣れたつもりでいた。なんせもう大学に来てから3年目の付き合いだ。

「坂本は、今日は何の用事なんだ?」
「あァ、なんか先生のとこ行くって」

今日2人で遊びに行く理由はそれである。銀時は、いつものようにバイトだが。

「だったら尚更、ヤツが出掛ける前に謝ってこい」

桂はまだ納得していない高杉を立たせ、坂本の部屋の入り口まで引っ張って行った。

小太郎に背中を押され部屋に入ると、辰馬が今にも、鞄を持って出掛ける所だった。

「もう行くから、どいて」

まだ、タオル1枚腰に巻いた姿の高杉は、扉の前に、寄り掛かるように立っている。

「辰馬、怒ってんの?」
「怒っとりゃあせん」
「待てよ」

横をすり抜けて部屋から出ようとする辰馬の腕を掴む。

「怒ってんだろ」
「怒ってないぜよ」
「怒ってるだろ」
「……」

気まずい沈黙が2人の間に流れる。

「小太郎相手に嫉妬すんなよ」

小太郎はあくまでも『お兄ちゃん』であって、そういう対象じゃないって、何度も言ってきたのに。

「わしが悪いんか?」

にこりとも笑わない坂本は、普段なら絶対しないくせに、遠慮なく高杉を見下ろした。
いや、だから誰もそんなこと言ってねェし。こういう時の辰馬は頑固だし、本気で怒ってるし、どうしたらいいかわかんねェし。ああ、もう。怒る理由がくだらなすぎるだろ?思わないのかよ、自分で。

「こんなことで、怒んなよ」
「わし、時間ないんじゃけど」

まだ高杉が腕を掴んでいるため、坂本は部屋から出れずにいる。
この手を、無理矢理振りほどかれないだけまだマシだと思っていいのだろうか。

「辰馬」
「だから、なんなんじゃ?」
「…………」

きた。正直今のは心臓にきた。苦しい、痛い。くそ、泣くな俺。

「わかったよ、大学でもどこでもさっさと行っちまえよ、引き止めて悪かったな!!」

思い切り怒鳴って掴んでいた手を離し高杉は部屋から出て行こうとした。その手を、今度は逆に坂本が掴む。

「離せっ!!」
「いやじゃ」
「時間ねェんだろうがっ!!」
「晋…!」

急に抱きしめられて、高杉は言葉を失った。
出掛ける準備万端でコートまで着ている自分とバスタオル1枚の晋と。なんだか急に、可笑しさが込み上げてくる。
「そんな顔されたら、出掛けられないぜよ」
「テメェのせいだろうがっ!」

精一杯虚勢を張った言葉だが、それでも声には涙が混じってしまっていて。

「晋、ごめんの」
「馬鹿辰馬!」
「不安になるんじゃ…」

晋が好き過ぎて、と辰馬は耳元で囁いた。

相手が桂じゃなくても、一緒に風呂に入ってしまわれるのではないかと。

「俺は、テメェだけだっつってんだろ」
「晋…ごめん」

どうしても心穏やかには過ごせない自分に反省。
晋助が、桂のことをどう思っているかなんて、何度も聞かされてわかっているはずなんだけど。それでも、いざという時に頼るのは、自分だけにしてほしいとか、自分だけであってほしいとか考えてしまう。幼なじみが共有してきた時間の長さには、とてもじゃないけど敵わないから。

そして重ねた唇は、仲直りのしるし。

唇を離して、まだボロボロ溢れている高杉の涙を拭ってやる。
泣かせるつもりなんてなかったのに。こうなってしまったら、大学どころじゃない。…自分が。

「桂ァ、そんなわけじゃから、30分だけ、耳塞いどってくれんかの?」

坂本は、扉の向こうで聞き耳を立てているであろう桂に聞こえるように叫んだ。

「ちょ、お前、学校は?」

慌てたのは高杉の方。その言葉に、扉の向こうの桂の声が重なった。

『本当に30分で済むんだろうな』
「あっはっはー、頑張ってみるぜよー」
「ちょっ、馬鹿っ!小太郎、テメ、それでいいのかっ?止めろよこの馬鹿をっ!!」

扉の向こうに怒鳴っている高杉の唇をもう一度塞いでやった。

「後で先生には謝っとくきに」

実はもう、どっちみち遅刻なんじゃ、と言いながら、高杉を抱えた坂本はそのままベッドへ移動した。

「テメェ、明日早いからって、昨日1回しかしなかったくせに遅刻かよ」
「回数の問題じゃないろー」

言いながら、結局朝こうやってしてんだから、やっぱり回数なんじゃないかと言ってやりたくなる。いや、何回でもしたいのはお互い様だから言わないけど。

「いつまでも、そんなカッコしとる晋が悪いんじゃ」

ベッドに押し付けられて唇を塞がれたまま辰馬の脱いだコートが床に落ちる。
俺が風呂上がりにしばらくタオル1枚でいるのはいつものことだろうが。

「んふっ…ァ、…ぁあっ」

30分と言い切ったせいか、辰馬はいつもより性急に俺を攻めてくる。いつもと違って、同時に何箇所も触られて、舐められて。小太郎が向こうにいるっていうのに、声を抑えることができない。

「ンァ…ぁっ…ァっ、ふぁッ」
「晋、……」
「馬…、鹿、…んんっ」

小太郎に嫉妬する前に、自分の浮気癖なんとかしやがれってんだ。

***

(あ〜、ハイハイ)

坂本の部屋、つまりは2人の寝室が静かになって、桂は、余計な声が聞こえてくる前にと、高杉の部屋へ移動した。
リビングを間に挟んだ間取りの2LDKだから、こっちにいればきっとたいした音は聞こえないだろう。それでも、一応本棚から適当なCDを選んで大音量で流し始めた。高杉がロック好きでよかったなァなんて、どうでもいいことを考えながら。

***

『…というわけで暇なんだが、しばらく付き合ってくれ、銀時』

バイト中のコンビニで、いきなり受信したメールを見て、銀時は頭を抱えた。いきなりのメールが嬉しかったのは嬉しかったんだけど。辰馬と高杉の報告されてもなァ。

「あのなァ、銀さんはバイト中なの!お前らみたいに暇じゃないの!」

付き合いきれないという意味で送ったメールに、すぐまた返事がくる。

『返信が早いな。どうせこの雨で暇なんだろう』

あー、しまった。くそ、バレちゃったじゃないのよ。
どうせこの雨で、客なんてほとんど来ませんよ!弁当だっていっぱい余ってますよ!…ハイキになるやつ貰って帰ろう。

「この雨ん中、お前らどこ行くつもりだったワケ?」

今日なんかね、暇なら家でゲームでもしてた方がマシですよ。辰馬んちにいるなら、PS3でもwiiでもなんでもあるでしょーが。

『俺は、武士の一分が見たいと言ったんだが、高杉はNANA2だと言ってきかないから、まだ決めてなかった』
「あー、映画ですかそうですか。で、この雨ん中やっぱり行くの?」

確かに雨なら空いててどっちの映画にしろ、見易いとは思うけどさ。

『いや、無理だろう。本当に30分で終わったとしてもな。たぶん高杉が動きたがらない』

じゃあお前なんで辰馬ん家にいるわけェ?銀さんと遊んでよ!たまには俺のお兄ちゃんもしてよ!…あ、俺バイト中だった。

「じゃあ今日は辰馬ん家でダラダラすんの?」
『一応坂本にも聞いてみるが…。それでよかったら、バイト終わったらお前も来るか?』

まじでまじでまじでまじでまじでまじで?行っていいのかよ?ヅラの方から誘われちゃったよ!…まぁ、ヅラは俺のこと、何とも思ってないんだけどさァ。わかってんだけどさ。

「行く行く!テキトーに酒買って持って行くわ」

それでも今すぐ早退して向かいたいくらいだよ!酒の領収書は、いつもどーり辰馬に押し付けりゃいいし。
あとは、問題は、この暇すぎるバイトの時間を、どうやって潰すかだよなァ。辰馬達のコトが終わっちまえば、ヅラからのメールもなくなるだろうしさ。
あと4時間。俺は、溜息をつきながら、バケツをひっくり返したような勢いで降り続ける大荒れの空をコンビニの中から見上げた。


END



結局辰馬が大学行った後に銀時が来て、3人でゲームしまくってるところに辰馬が帰ってきて、4人で朝まで飲んでたらいいと思う

つか、『武士の一分』とか『NANA2』に時代を感じるwwww




















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