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szene2-43 追憶の破片


「にーちゃん、ばすけしていいよ?」
4歳の弟に言われた言葉を今でも覚えている。

身体が弱くて、生まれた時からずっと入退院を繰り返している弟の病室に、その日も中学校から直行していた。
あの時、自分よりずっと背の高かった修に、毎日バスケ部に誘われていたけれど、自分は断り続けていて。

中学の入学式の日、同じクラスになって、出席番号順で、前後に並んだ。俺が落とした鉛筆を拾ってくれて、それが仲良くなったきっかけ。
修は、小学校からずっとバスケをやってて、身長も小学生で180近くて、廊下を歩くだけで『デケー』とか『コエー』なんて言われてたけど、鉛筆を拾ってくれた彼を、俺は怖いとはは思わなかった。
クラスで俺もそれなりにデカイ方だったからかもしれない。まだ170センチくらいだったけど。

なにげなく、体育の授業の時に、3Pシュートの打ち方教えてもらったら、一発で入って、それから。今でもあれは、修の教え方が上手かっただけだと思っているけれども。

「佐々木、お前、今度こっから、もう1回」
パシュッて、ボールがネットをくぐる音が心地よかった。
「入った!やったぁ!!」
「佐々木、バスケ部入れ!お前才能あるから!」
何回かシュートを打たされたけど、なぜだか素人なのに全部入ったんだ、あの時。

「それは無理。俺、部活やる気ないもん」
「とりあえずこれ全部、貸してやるから読もうか」

押し付けられたスラムダンク。面白かったけど、病気で外で走ることもできない弟を差し置いて、自分だけ好きなことやっていいのかって気持ちが消えることはなかった。それに、また続かないかもしれないし…。でも、悩んでることを、誰かに話したことはなかった。久苑にはバレてたけど。

俺は、修に弟のことを話すつもりはなかった。というか、小学校時代に色々ありすぎて、面倒臭くなっていた。小学校時代の事件は、俺と久苑の人生を変えていた。
そんなことは知らずに、諦めない修と、距離を取りたがる俺。いつの間にか久苑が間に入ってくれていた。
修は、誰かから俺と久苑が幼なじみだって聞いて色々相談したらしい。

「将大は、弟入院してるから無理だって」
「なんで!?関係ないだろ?」
「だいたい、部活入ったって、弟になんかあったらアイツ平気で休むわよ?それが試合でも」
久苑にそこまで言われても、修は諦めなかった。

「ぼく、たーいんしたらおーえんいくから!」
あの弟の言葉がなかったらバスケ部には絶対入ってなかった。

「にーちゃんるかわー!るかわなってー、るかわー!」
修に返した後で、ばーちゃんお願いして、全巻買ってもらったスラムダンクを、病室で宗則も読んでいた。漢字とか言葉の意味を、ばーちゃんに教えてもらいながら。
いきなりこんな漫画買ってほしいって言うからには、もしかして将大はバスケやりたいのかもねって、すぐに気づいたのは、ばーちゃんだったそうだ。

「えーっ!兄ちゃん仙道がいいー!仙道かっこいい!」
「えーっ?…るかわじゃなくてー?えっとーせんどーって、これだっけ?」
弟との新しい共通の会話。それだけでも十分だったんだけど。

「にーちゃん、ばすけしなよ。ぼくのぶんもして。にーちゃんならかっこいいよ!」
「ここ来る時間、遅くなるけどいいの?」
「うーん。…ぼくのせーで、にーちゃんがやりたいことできないのはいやー」
「む、ね……」

俺は弟のために生きようって決めてた。だって、俺は、宗則のたった1人の兄ちゃんだったから。ただでさえうちには母さんがいないのに、宗則に寂しい思いだけはさせたくない。
その思いは今でも変わっていない。宗則のためだったら、すべてを投げ出してもいいとさえ、思う。

父さんは快くOKしてくれて、俺は修に話した。早速シューズを買いに行って、練習に参加した。宗則にかっこいいところ見せたかったから、修と2人残って、滅茶苦茶練習した。修にガッツリしごかれた。素晴らしく飽きっぽい性格のはずの俺が、中学3年間、一度も辞めようと思わなかった。それどころか、まだ足りない、高校に行っても続けたいとまで思った。
おかげで、それなりの選手になった。
気がつくと、修は親友になっていた。何をするのも、修と一緒だった。クラスも進学も、放課後遊ぶのも。

「…………あつい」
なんだか随分懐かしい夢を見た気がする。中学の時はまさか、大学生になってもまだ修と一緒にバスケやってるだなんて想像だにしてなかった。
ていうか、どこだここ?…ベッドの中か?何時だ今?

枕元の時計を確認する。…え?14時24分に見えるんだがどういうことだ?宗則が起こしてくれなかった?それとも、起こされても起きなかった?今日は修との朝練が8時から、部活の練習が10時からのはずなんだけど。

自分じゃないみたいに急激に頭の中が覚醒していって、慌てて起き上がろうとした時、ようやく左腕の重みに気がついた。
「えっ?…むね?」

久しぶりに、宗則が俺のベッドの中に潜り込んで寝てた。もっと小さい頃は入院さえしてなきゃ毎日一緒に寝てたけれど、中学に上がってからあんまり、ベッドに入ってこなくなった。成長が喜ばしくもあり、寂しくもあった。
「にーちゃ…」
「むねっ!?」

困ったようにへらっと笑った弟の顔が真っ赤だってことには、すぐ気がついた。顔が、熱い。
「ちょっと、待ってろ」
向かいの宗則の部屋に行けば体温計がある。残念ながらこの部屋には救急箱一つ、風邪薬一つないけれども。
走って取ってきた体温計を弟の脇に挟んであげて、とりあえず修の携帯を鳴らしたけど、練習中だろう、出るわけがない。あいつ副主将だし。後で連絡するって、一言だけのメールを打っている間に体温計のアラームが鳴った。

40.2℃。だめだこりゃ、とりあえず病院に連れて行かなきゃ。…って今日、日曜か、救急だ。父さんの車って、ないわ!父さん先週から出張だった。車で行ったんだ。
じーちゃんとばーちゃんは新しい車で温泉行ったし。郁彦は笠原君とこだっけ。

「もしかしなくても今、この家、俺とむねしかいねーじゃん!」
冷蔵庫から出してきたスポーツドリンクを飲ませてやるけど、自分で飲み込む力もないほど弱ってて、だらだらと口の端から零れていく。このままだと、脱水症状一直線。
駄目だこれ、もう救急車呼ぶしかねーわ。

まず、文応大付属病院に電話して、今から弟を連れて行くけど大丈夫かどうか聞いて、了承を得てから119番。救急車を待つ間に、だんだんと呼びかけにも答えなくなっている宗則に口移しでスポーツドリンクを飲ませた。タオルで巻いた保冷剤をを首の後ろに当ててやるけど、気休めにしかならないかもしれない。
「早く来てくれ、救急車…!」

実際にはたった数分だったと思うのだけれども、玄関前で宗則を抱いて待っている時間が長くて長くて泣きたくなった。
ようやく来た救急車に弟を寝かせてから、文応大付属病院に連絡してあることを告げると救急隊員はすぐに運んでくれた。救急担当の先生に状況を説明して、宗則の点滴が始まったのを見届けた瞬間、力が抜けた。

「佐々木さん?…佐々木さんっ!!!ちょっと、しっかりしてください!」
看護師に呼ばれているのはわかっているけど、意識が遠ざかっていく。もしかして、俺の風邪が、宗則にうつった?実は俺も、具合悪い?
「佐々木さん!…誰か、男の先生呼んできて!」
自分みたいなデカいのが、こんなところで倒れたら迷惑って、わかってたけど、俺は、救急の処置室で、そのまま意識を失って、ぶっ倒れた…らしい。

*************

小学生の時、一度だけ、体調が良かった宗則を、近所の公園に連れて行ったことがある。走り回って遊ぶことはできないけど、ずっと部屋の中にいるよりはいいって言われて。

すべり台で遊んでたら、クラスの悪ガキコンビが来たんだ。
ちょうど宗則が下に滑って降りたところで、そこに悪ガキコンビがいて、凄く嫌な予感がした。
急いで下に降りなきゃと思った瞬間、お前が病気の弟かって、声が聞こえてきた。頭にきたけど、3歳の宗則に何かされる方が嫌だったからとにかく早く帰ろうと思って、残りの階段3段くらいを飛び降りた。

駆け寄って、宗則の手を引いて帰ろうとした時、思いっきり、砂場の砂をかけられた。
俺はいい、俺は。汚れるだけだから。目と口と鼻に思いきり砂が入ったけど、吐き出しゃいい話だから。
「っ、ふ、にーちゃん」
宗則は、思いきり砂を吸い込んでしまった。

「やーい、泣いた泣いたー」
悪ガキ達は、自分達がしたことの意味を、理解していなかった。砂を蹴るのをやめない。俺の弟が、身体弱いなんて知ってたはずなのに。弟が危ないって、俺、しょっちゅう学校休んでたから。
「お前ら…」
本気で、他人を殺してやりたいと思ったのは、あの時が初めてだった。

「将大!こいつらボコっとくから早く宗則君連れて帰んな!病院が先!!」
女の子達とブランコで遊んでいたはずの久苑が飛んできて、悪ガキ達の1人をぶっ飛ばしながらそう、叫んでくれなきゃ手遅れになっていたかもしれない。俺は、砂まみれのまま、咳が止まらなくなってる宗則を抱いて家まで走った。着いてすぐ、ばーちゃんが救急車を呼んだ。

夕方、1人で留守番していたら、悪ガキ達が親を連れてうちに来た。悪ガキは2人共、怪我をしていた。俺に殴られたっていうんで、親が怒って訪ねてきたらしい。

どーでも良かった。
宗則が死んじゃうかもしれないって、そっちの方がよっぽど俺には心配で、重要なことで、でも俺は兄ちゃんなんだから泣いちゃいけないって、涙を我慢するのに必死だったから。

「今うち、俺しかいないんで、帰ってもらえます?」
「なんなのこの子!うちの子に怪我させといて!!」
悪ガキ達の母親が、うちの玄関で発狂していたたけど、なんとも思わなかった。むしろ、お前らのせいで、うちの宗則死ぬかもしれないんだけどって、言ってやりたかったけど、母親達がずっと、休みなく喚いてて、口を挟む隙間がなかった。

「すいません、お邪魔します」
そこに来たのが、久苑と久苑のおじさんだった。
おばさん達の声は、近所迷惑なくらい、回りに響いていたから、おじさんも久苑も、うちに着いた段階で事情は把握していたみたいだ。

「あんたたち、女のあたしにやられたってなんで正直に言わないのよ?」
「引っ込んでろ水野!」
「そりゃー2人がかりで、女のあたし1人に負けただなんて言えないわよねぇ、恥ずかしくて」
「なんだとお!」
「違うって言うならかかってきなさいよ!」

俺んちの玄関先で、久苑と悪ガキの喧嘩が始まったけど、おじさんは止めなかった。俺はただ、呆然と見てただけだった。
おばさん2人は、何かヒステリックに叫んでた。
ものの5分もしないうちに、悪ガキ達がわんわん泣きながら、それぞれの母親に抱きついて、あっさりと勝敗が決まっていた。唇の端を切って血が出ていたけど、久苑は涙ひとつ見せなかったどころか、勝ち気な表情を崩すことすらなかった。

「奥様方、このような子どもの喧嘩より、もっと大変なことになっているのはご存知か?」
久苑のおじさんの言葉に、おばさん達はやっぱりヒステリックに喚いてるだけだった。

「その子達のおかげで、佐々木君の3歳の弟が、今まさに病院で生死をさ迷っているわけなのですが。そうだね、将大君」
「うん。…とーさんもじーちゃんも、仕事終わったら病院行くって。だから今、うちには俺しかいない」

「その子達も、佐々木君の弟の身体が弱いことは知ってたはずですな。だとすると、殺意があったと捉えられても仕方ないですな」
子どもがしたことで何を大袈裟な!って、おばさん達わめいてるけど、その、子どもがしたことで、あんたたち俺に文句言いに来たんじゃなかったの?だいたい、本当は俺じゃないし、久苑だし。

「それは法廷で聞きましょう。今日はお引き取りください。せいぜい、優秀な弁護士をお探し下さいな」
大人ってすげぇなって思った。おばさん達は文句を言いながらも、久苑のおじさんの言葉で帰ってくれたから。

「将大君、今日はうちにおいで。お父さん達、今日帰ってこれるかどうか、わからないから」
「…うん」
うちの父さんと、久苑のおじさんとおばさんは、俺らが生まれるよりずっと前から友達だった。ばーちゃんから会社で連絡を受けた父さんが、おじさんに電話したらしい。

久苑の家に行くと、久苑の3人の兄ちゃんのうち、上の2人がテレビの前で喧嘩してて、大騒ぎだった。って言うか、水野家の日常、これが。
一番上の兄ちゃんは、もう高校生になっていて、そんな年上の兄ちゃんと日々、たくましく喧嘩してる久苑に、小学生が勝てるわけがない。あの悪ガキ共が2人同時にかかっていったって、負けるのは当たり前だった。

「あほぅ、俺が野球見るんだよ!」
「今見てたのに!変えるな兄ちゃんの馬鹿ーっ!」
手加減されてるだろうけど、体育会系の高校生と殴り合いのチャンネル争いだもん、久苑。俺だって、幼稚園以来久苑とは喧嘩してないよ。ちなみに、幼稚園の時の喧嘩は負けた。12月生まれの俺と、6月生まれの久苑じゃ、久苑の方が身体がデカかったから、ひっぱたかれて俺が泣いて終わった。原因はオモチャの取り合いだ。俺が使おうと思って持ってたブロックを久苑に持っていかれたんだ。

おばさんのご飯を食べさせてもらったけど、あんまり味がわからなかった。美味しくないわけじゃない、敢えて言うなら心ここにあらず、だった。

「将大君、ゲームでもする?」
一番歳の近い、3番目の兄ちゃんが俺のところに来た。久苑曰く、この兄ちゃんが一番喧嘩に弱いらしい。

「いらない」
「そっか。…とりあえず、兄ちゃん達うるさいからこっちおいで」

俺は、黙って3番目の兄ちゃんの部屋に着いていった。
「将大君、泣いてもいいんだよ?」
突然言われたのは、そんな言葉。

「俺、兄ちゃんだから泣かないもん」
「そっか、偉いね!…でもね、男だって、泣いてもいいんだぞ?」
俺はぶんぶん首を横に振った。

「だって、宗則の方が今、苦しいもん」
「そうだね。でもね、宗則君は大丈夫だよ。最近の医学は凄いんだぞ?だからね、宗則君が帰ってきた時に、将大君がしっかり笑って、おかえりって言ってあげないと。だから、誰にも言わないから、今のうちに泣いちゃいなよ」

みんなには内緒にしといてあげるからって言われて抱っこされて。俺は我慢できなくなって涙腺がぶっ壊れたみたいに声を上げて泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いて、泣き疲れて眠ってしまったくらい、多分人生で一番泣いた。

次の日は学校を休んで久苑の家にいた。なぜか久苑も一緒に。病院に連れてってもらえなくて、いろいろ悪いこと考えちゃったけど、今考えたらあれって、単に集中治療室で面会できないから行っても仕方ないってだけだったんだよな。
久苑の家で、久苑と見たくもないテレビ見たりしてて。昼頃電話がかかってきて、宗則はもう大丈夫だって、おばさんから聞いた。

じーちゃんと父さんとおじさんは、その後、本当に、悪ガキ達とその親を訴えた。
結局はお金で和解したみたいだけど、悪ガキ達は2人共、中学に上がる前に転校していった。

「私、弁護士になろうかな」
あの時、久苑が飛んできてくれなかったらどうなっていたんだろう。
「この先も、何があるかわかんないし。馬鹿はいなくなったけど、あんなクソガキって、絶対これからも出てくると思うの。宗則君、小学校入るの、まだまだ先だし」
「…じゃあ、俺は医者、目指そうかな」

今回の件で、一番喧嘩弱い!って馬鹿にしてた3番目の兄ちゃんのことを、久苑は見直したとか言ってた。泣いたの、見られてたのかな?
「あんた医者って、頭良くないとなれないのよ?わかってんの?」
「弁護士だって一緒だろ!勉強するもん!」

確実に、あの日俺達の人生は変わった。俺は宗則のために生きようって思った。弟を守るために俺の人生はあるんだって。
久苑まで、付き合わせて悪いなと思ったけど、そうじゃないわよ馬鹿って笑われた。

今なら確実に勝てるけど、それでも久苑と喧嘩しようとは思わない。
近くにいすぎて、付き合うとか付き合わないとか、そういうのを考えたこともない。

「にーちゃん!えへへ、抱っこして!」
俺、お前が元気で笑っててくれればそれでいいよ、宗則。あとはもう、なにもいらない。

「……むね」
気がつくと、白い天井と白いカーテンに囲まれて、機械音の響く中で、点滴されていた。目の横と頬が濡れていた。恥ずかしいな、もう。
そっと、目を擦ってから起き上がって白いカーテンを開けてみると、よく知った顔があって安心した。

「起きたのか、将大君」
「すいません、都築先生。…俺、倒れましたよね」
「ああ。…あと20分くらいだな、点滴。横になってろ」

素直にもう一度、ベッドに横になった。
隣の家に住んでる都築先生。偶然隣ってだけでいろいろ良くしてくれるから助かる。宗則のことも、心配してくれるし。

「都築先生、宗則は?」
「2、3日帰れんだろうな。インフルエンザではなかったが、熱が高い」
それでも2、3日で済むなら上出来だ。

「俺は…」
「風邪と過労じゃないか?熱はあったけどな、もう下がっただろう」
過労って、そんな疲れてた覚えはないんだけど。試験期間で、ちょっと睡眠不足が続いていたのは間違いないけれども。

今、自分が寝ている隣のベッドで、宗則も点滴を受けていた。まだ意識は戻らないようだけど、命に関わるものじゃないみたい。後で病棟に移るって。
点滴が終わって針を外してもらって、とりあえず父さんとじーちゃんとばーちゃんと郁彦にメール入れた。あと、修にも。

入院手続きが終わって、病棟に移った宗則に付き添っていたら、20時頃、練習が終わった修が来てくれた。

「なに、お前も点滴されたの?」
「俺は過労だって。もう熱下がったけど、どっかで風邪拾ったみたいだわ」
「まさぁ、試験期間で練習なかったのに何で過労なんだ?」
大部屋が空いてなかったとかで、入った個室で応接セットの向かい側に座って、呆れたように修が目を細める。

「俺もそう思った」
「だよな。…で、宗則君は?」
「熱が高いからしばらくは。…でも、早ければ2、3日だって」
「そーかい。そんなら良かったわ」
修は、面会時間ギリギリまで居てくれたから、一緒に帰った。途中で定食屋に寄って。

家に着いたらまだ誰もいなかった。
「心細いなら泊まってやるぞ?」
「誰が!!」

「はいはい。ただし、俺、明日の朝は勝手に練習行くからな、起こしてやれねーぞ」
「俺も!」
「過労で病院運ばれたよーなやつは2、3日休んでろばーか」

「でも、もうなんでもないし」
「まさ。…お前練習来たら、誰が宗則君とこ行くのよ?着替えとか持って行ってやらんとならねーだろ?この家、今誰もいねーんだぜ?」
結句俺は、修に甘えることにした。修は、俺の明日のご飯も作ってくれた。

22時頃、郁彦が笠原君と一緒に帰ってきて、事情を説明した。郁彦も、明日病院に行ってくれるって言うからむねの着替えやなんかは任せることにした。多分郁彦の方が起きるの早いだろうし。
父さんとじーちゃんとばーちゃんは、こんな日に限って、仕事が終わらなかったり渋滞に巻き込まれて運転疲れたからどっか泊まるとかって、帰ってこなかった。






















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