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szene2-38 Kiss Kiss


籠に山積みになっていた洗濯物を手際よく分けて、洗濯機に放りこんだ後、英輔は『すいません』って言ってダイニングで持ってた弁当を食べはじめた。腹減ってたんだ。
俺は、あんまり近くにいたくなくてリビングで仕方なくテレビをつけてるけど、英輔が気になって、内容が全然頭に入ってこない。ま、バラエティだからどうでもいいけど。

英輔は、こんな時間にマンションで洗濯機回していいのかって心配してたけど、夜中に回しても苦情来たことないから大丈夫だって言ったら、安心したみたいで、洗剤を投入してスイッチオン。近所の心配ができるなんて、案外マトモな神経してるなって、驚いた。
洗濯の工程が、たったそれだけだってのは俺もわかってる。つうか、そこまではいいんだそこまでは。干すのが嫌いなんだって。

「お弁当食べ終わったんで、今から皿洗いますねー」
「お、おう」
警戒してみたけど、意外と英輔はなんにもしてこない。いや、でもさっき、いきなりキスされてるからな、油断大敵だ。

キッチンから鼻歌が聞こえてきて、ちゃんとやってんのかな?って、気になって覗きに行ったら、もう半分終わってた。すっげー手慣れてる。
「どうかしましたかー?」
「いや、別に」
なんか、そんな簡単に片付けられるとなー。こんなことすらできない自分は駄目なやつだって言われてるみたいじゃん。軽くへこめるよね。
ちょっとでもしつこい汚れとかあるとさ、皿投げたくなるのよね。使ったあと、すぐに洗えばそんなに残らないでしょって、いっつもトシに言われるけど、それができるなら溜め込まないっての。

「敦史さん、食洗機買えばいいのにー」
「しょくせんき?」
「食器洗い機。うちにあるけど便利ですよー?あれあったら、こんなに溜め込むことなくなるんじゃないですかー?」
「あ、そうか!…お前偉い!」
全然考えたこともなかったぜ。テスト期間終わったら郁彦に付き合ってもらって買いに行こう。

「洗濯機だって、最近のは乾燥までやってくれるでしょ?」
「古くもない洗濯機買い換えるの嫌じゃん、もったいねぇ」
「新しければ、リサイクルショップで買ってくれると思うんで、新しいなら新しいほどいい気もしますけどー」
「うるさいなー。乾燥までやってくれる洗濯機高かったの!だから、いいやって思ったの!放っといてよ!!」

俺が家事嫌いなのは前からだけど、やらなきゃならないモノはやるかなって思ったんだよ、4月の時点では。
まさかここまで嫌いだとは、自分でも思ってなかったの。まさか干してる途中でイライラしてシャツ破くほどだとは。

「あ、でも、敦史さんがこうやって、溜め込む度に洗いに来れるなら、そっちの方が俺は嬉しいから却下。今の忘れて下さいねー」
「なっ!あほかっ!お前なんかもう呼ばんわ!いつもはなぁ、友達が来んの!テスト前でそいつ来れなくて溜まっただけなのっ!」
「友達?彼氏じゃなくてー?」
最後にシンクの汚れをきれいに拭いて、布巾を洗って絞って、皿洗いが終わった。洗濯の後で片付けてくれるって。

「家事しにきてくれるやつは友達。郁彦もできるけどそんな暇ないだろーがよ」
言ってからやべーと思った。けどきっとこいつ、俺の恋人の名前くらい知ってるよな?いや、それより今俺、すげーこと言っちまった。頼むから気づかないで、突っ込まないで。

「じゃー、俺もー、その家事しに来てくれる友達のうちの1人にしてくださいよー」
「はぁ?…あほかお前は」
「酷いなぁ、本気なのにー」
英輔が洗濯機の様子を見に行って、とりあえず話題が違う方向に流れたことに安堵した。郁彦が家事やる暇ない、じゃあなにやってんの?俺ともしようとか言われたらどうしようかと思った。

「終わってたんで2回目回してきましたー!どこに干しますかー?」
終わった洗濯物を籠に入れて、英輔がキッチンに戻ってきた。リビングの隣の、ほとんど使ってなかった部屋の天井に、トシが物干し竿吊るしてくれたから、そこに干してもらうことにした。
外でも、天気は大丈夫そうだけど、取り込むのが面倒くさい。室内干しなら、たたまずに干してあるところから着ていけばいいんだからな。

何気なく部屋の入口から覗いてたら、ちゃんとシャツの皺とか叩いて伸ばしてくれてんのな。やっぱり鼻歌なんか歌っちゃって、洗濯がそんなに楽しいかねぇ。
「敦史さん、黒多いっすね」
「ん?まぁ。…駄目?」
「いえ、敦史さんなら、何色でも似合うんだろーなーと思ってー」

なに言ってんのこいつ。俺は、基本的に濃い目の色しか着ない。こいつくらい身長あれば、何色でもいいんだろうけどさ。
「それはお前だろーが」
「いや、俺、意外と限定されるっすよー」
「ふーん」
あんまり興味ないからそんな返事しかできない。

「そーいえば敦史さん、テスト前ってさっき言ってましたよね?勉強してていいですよ?2回目の洗濯、まだかかるしー」
「あ、ああ、そうだな」
確かにその通りなんだけど。トシみたいに、何回も来てて勝手わかってるやつと違って、ほとんどなんにも知らない英輔じゃ、気になって仕方ない。
ベッドの横の机に向かってみたけど、これっぽっちも集中できなかった。

洗濯機が回ってる間、なにしてんのかなと思ってこっそりリビング覗いたら、リビングでテーブルの前に座って、テレビ見ながら俺が夕方買ったビール飲んでやがった。
「ちょ!この未成年!」
「敦史さんだって、まだ19でしょ?」
「大学生と高校生は違ェだろーがっ!だいたい、何勝手に飲んでんの?」

「ちゃんと買って返しますからー!」
「あたりめーだっ!!」
ん?あれ、ちょっと待て。
「…お前、もしかして、もう1回来る口実作りのために飲んだんじゃねーだろーなぁ?」

「医大生ってやっぱ頭いいんスね!すげー!」
このガキ。
こいつなら、デカいしガタイ良さそうだし、一発くらい殴っても大丈夫だよねぇ?年下だけど。

「もう部屋覚えたんで、いつでも来れますから。洗濯でも皿洗いでも掃除でも料理でも、なんでも呼んでくださーい」
「いい加減にしろっ!」
ペース乱されっぱなしで、動揺してるのもあって、俺は思いきり、英輔の襟元を掴んで右腕を振りかぶった。

もちろん、反撃はそれなりに予想してた。殴り合いなら上等だ、かかってこいって。
だけど、俺の右拳をあっさり受け止めた英輔は、そのまんまその腕を身体全体で倒れながら引っ張って。上に乗ってると思った瞬間にはもう、ぐるっとひっくり返されて、英輔に押し倒されたような体勢になっていた。

「敦史さん積極的っすね」
「て、テメー!どけっ!」
「嫌です」
力ずくでどかそうと思ったけど重い、体勢が悪い。そりゃそうだ、こいつ16センチも身長違うし、郁彦みたいに細身ってんじゃないし。今気がついたけど、手首の太さ、俺と同じくらいあるんじゃねーの?分が悪いなんてもんじゃない。

両肩押さえつけられたまま、唇が重なって舌が入ってきた。
ちゅ、くちゅって音が耳に入ってきてだんだん変な気分になってくる。だってさー、郁彦ともう2週間してないんだぜ?付き合うって決まって、月曜の朝まで一緒いた、あれ以来やってないんだぜ。おまけにこいつ、なんかキス上手いんですけど。相性?ちょっとそれは困るんだけど。ああ、でも気持ちいいわ、どうしよう。ふわふわしてきた。

「はぁ、はぁ…やめ、テメー」
「やめろって顔じゃないですよ?…こんなんなってるしー」
「ふぁっ!…触んなっ!!」
股間を撫でられて声が出た。指摘された通り、俺の息子はガチガチになっている。

「嫌です」
もう一度唇を塞がれて、そのまま英輔の手がベルトを外し始めたのがわかった。抵抗しなきゃ、逃げなきゃって思ってるのに力が入らない。
下着ごと全部下ろされて、英輔の手が直に俺を触る。

「やめっ、馬鹿…」
「無理ですよ。俺、どんだけ敦史さんのこと好きだと思ってんです?」
「おまっ、ぁ、っ…」
好きって言えばなにしてもいいわけじゃねーだろーがぁっ!!!!!
と、叫びたい気分だったけど、熱くなったものを口に含まれて文句が言えなかった。

シャワーも浴びてねーのに。
あー、やべー、裏筋気持ちいいー。
デカイ身体縮こませて、なんだか嬉しそうだし。

…なんで俺なんだろ。
腹筋使って上体を起こしてみた。

こいつは、宗則のおかげで、俺のこといろいろ知ってるのかもしれないけど、俺は全く知らない。
そりゃ、俺だって、郁彦には一目惚れだけどさ、その後仲良くなって、いろいろ知ってますます好きになって…って段階があるわけじゃん。
あれ?もしかしてこれって、俺、ますますこいつに好かれるフラグ?
いやいや、いろんなこと知った結果嫌われるってことだってありうるじゃん。俺としては、そっちの方が望ましいんだけど。

「敦史さんすいません、俺、も、破裂しそう」
「はぁ?」
いきなり起き上がった英輔が、ベルトを外して下着を下ろして自分のと俺のを擦り合わせてきた。

「ちょ、お前、こらっ!」
立派なモノをお持ちですこと。…つか、下もそんな色なのね。
「敦史さん…っ」
切羽詰まったような表情。目うるませて耳まで赤くしちゃってなんだよお前、やっぱガキだな。
そう気づいたら、なんだか余裕が戻ってきた。

「英輔」
ハッとなって上げた首の後ろに腕を回して引き寄せて唇を重ねた。すぐに、頂点はやってきた。
英輔のデカイ手の中に、2人分の濃いものが、出た。

「………はぁ、はぁ、…いきなり、名前呼ぶとか、反則です、敦史さん」
「なにがだよっ!!」
「だって、俺、さっき、宗則君と電話してたあの時に、初めて敦史さんにちゃんと名前呼ばれたんですけどっ?」
あれ?そうだっけ。そー言えば前に会った時は、『変態』とか『お前』としか呼ばなかった気がする。
「嬉しすぎて、心臓止まるかと思ったんですけどっ」

なに言ってんだお前は。
「名前呼ばれただけで死ぬわけねーだろーが、ドあほう」
「ひどいなー。そりゃそうなんですけど、もののたとえでしょー」
テーブルの下のティッシュを見つけて、手と、俺のを拭いながらしれっと言ったコイツがにくい。俺のは自分で拭くから、自分の拭きなさいよ、もう。

「敦史さん。……したいです、ダメですか?」
「い、今出しただろーがっ!!!」
「もう復活しそうですけど」
そして、実は俺も、溜まってたせいで、もう1回2回くらいなら余裕でできそうだったりする。

「あ、洗濯終わってますね、ちょっと、先に干しますねー」
「そ、その前に手洗えっ!!」
「洗いますよ、当たり前じゃないですかー」
立ち上がって、下着だけ上げた姿で微笑んだ英輔はリビングから出て行った。素直に綺麗な顔だと思った。

俺も下着を上げて、それから。
英輔連れて帰ってきたせいでジャージに着替えられなくてずっとそのまんまだったけど。
もういいよね、シャワー浴びよう。
また、籠いっぱいに英輔が洗濯物を持って現れたけど、さすがに平日だから、こいつ、泊まっていくってことはないよね?家近いし。






















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