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szene2-33 A Moment like thi


昨夜は俺の方が先に寝てしまって、目覚めると郁彦が俺に左腕を回して抱きついたまま、まだ寝てた。抱きつかれてるのが嬉しくて、頭を撫でてやりながら寝顔を眺めていた。

あー、郁彦マジ美人だわー。寝顔かわいいー。髪の毛、もうちょいでいいから伸ばしてくれんかなー?手に刺さらない程度、そうそう佐々木さんくらいでいいんだけどー。つか、目細いけど二重だったんだ。
おっ、右目の下瞼に超小せぇ泣きぼくろ発見した。確かに泣きすぎだよなー、もう泣かせたくないなー。嬉し泣きはいいけどよ。

そんな幸せな時間を堪能していたら、30分くらいで郁彦が目覚めた。

「んっ。……おはよう、敦史」
頬を撫でていた俺の手に重なる、指の長い郁彦の手の体温。
「おう、おはよ。眠れたか?」
「うん、熟睡したよ」
「…そか、良かった」
疲れてるだろうから、いつもと布団や枕が変わって眠れないなんて言われたら困るなっていう心配はしてたんだけど。むしろ、疲れ過ぎてどこでも寝れる感じまで行っちゃってるなら、今日と明日はエッチ無しでだらだらしててもいいし。

「ねぇ敦史。………僕、えっちしたい」
耳元に手のひらを持ってきて、すっげー小さい声で。
エッチなしでだらだらしててもいいし、って、今考えたとこだったんですけど。
郁彦からしたいって言われるだけでもビンビンだっつぅのに、恥ずかしそうに『舐めたい』とか言われてみろ!ずーっとヤリっぱなしの今日じゃなければ、その言葉だけでだけでイってるわ。

「つか、ほんとにいいの?寝る前もしてもらったけど」
「うん」
また超小声で恥ずかしそうに敦史のが舐めたいって、ちょ、もうっ!俺一瞬死にかけたぞ、嬉しくて。

しかも、眼鏡かけて『するから座って』って言われて起き上がった郁彦はベッドの下に正座。『ここ座って』って、ベッドの端をポンポン叩くから、俺は指示されるがままそこに腰かける。

「あ、あの、そんな体勢じゃなくてもいいのよ?正座とか、足痛くない?」
「うん、大丈夫…」
したいとか言われた瞬間から元気に上を向いていた俺のに、郁彦は唇を寄せた。

自分から『舐めたい』って言ってきたけど、手つきも舌使いもぎこちなくて。すっげぇ一生懸命さが伝わってくるんですけど。

眉間にシワを寄せて苦しそうに、俺のを舐めてる耳とか首筋を撫でてやるとぶるぶる震えて、上目遣い。目は潤んでるし、時々漏れる吐息は熱いし、涙だかなんだかわかんないもので眼鏡は汚れてるし、鳥肌出まくってるし耳まで真っ赤だし。

超、えろい。いや、エロイなんて言葉で表せるもんじゃねぇ、これは。ぞくぞくする。
「んっ!!」
深くくわえすぎたのか、えづいて慌てて、手で口元を押さえて離れるけど、真っ赤な顔で涙浮かべて『ごめん』だもん。

「大丈夫か?」
「ぅん。……上手くなくて、ごめんね」
「いや、すげー気持ちいい」
数こなしゃ誰でも上手くはなるっての。これからずーっと一緒なんだから、だんだんと俺色に染まってちょうだい。

「うれしぃ」
郁彦はまた、俺のを口に含んだ。
「郁彦、大丈夫?」
俺、そろそろ入れたくなってきたんですけど。そりゃ口もいいけど、やっぱ繋がりたいじゃん。郁彦の身体次第だけどさ。

正直俺は、多少のMっ気があると、自分では思ってる。
筋トレし過ぎて立てなくなったこともあるし、腹筋が筋肉痛でなんにも食えなくなったこともあったりするけど、なんか気持ちいいんだよな、それが。
ぶっちゃけると、突っ込まれて喘がされる方が好きなのも事実。

だけど、その俺が、逆でもいいって、入れたいって、本気で思うんだから、郁彦は相当だ。

「郁彦、大丈夫なら、入れたい」
脇の下を通して背中に腕を回し、郁彦をベッドの上に引っ張り上げ、仰向けに倒れてやった。

「んひゃぁっ!!」
「ごめん、眼鏡ぶつけた?」
小さく喘いだ郁彦が左手で目を覆っている。もし挿入OKだったら眼鏡は取り上げてしまえ。

「大丈夫、ちょっと痛かっただけ」
「ごめんな」
鼻当てが当たる鼻筋のところが少し赤くなっている。髪の毛に指を通して、そのまま引き寄せた。なんの抵抗もなく重なった唇を吸って、舌を絡める。

「ん、ん、ふ…、っ」
背中とか撫でてやるけど、気持ちいいみたいだ。マジ郁彦って全身性感帯。

唇を重ねたままぐるんと半回転して、まだベッド下にあった脚を引き上げて尻を撫でた。
「郁彦、入れていい?」
とろんとした表情で俺を見つめて、それから。
「…………………うん」
郁彦は小さく頷いて視線を反らせた。照れてんのかな。超可愛いんですけど。

「ありがと」
右手で眼鏡を外して、枕元に避難させてやるとすぐに『やだっ』って声がした。

「またぶつけるぜ?」
「でも、それないと、敦史が、見え、ない」
言ってる郁彦の焦点が合ってない。俺より遥か後ろのなにもない空間を見ている。
つか、ほんとに目悪いよな。俺と郁彦の顔の距離、今50センチくらいなんだけど全く見えてないってことだろ?

「敦史だって、僕見えなきゃやだって、電気、消してくれなかっ…た」
「わかったわかった。ごめんな」
意地悪するつもりはなかったんだけど、どの辺で俺が見えるようになるのかなー?と思って、ちょっとずつ顔近づけたり顔の前で手振ってみたりしてたら、泣きそうな声を出された。30センチでも全然見えてないぞ。

眼鏡を返してやって、装着を確認してから、首筋に唇を落とす。郁彦は甘い声を上げた。
首、鎖骨、胸、肩、腕、乳首。唇を落として舌を這わせてやるだけで反応があるのが嬉しい。左手を取って舌の上で長い指を転がした。勉強ばっかしてる割に、ペンダコはないのね、意外。あ、両方使えるからか?

徐々に手と口を下半身に移動していって、内腿にキスマークつけてやった。これだけ吸ったら普通気づきそうなもんだけどな、気づかないってことは、それだけ気持ちよくて必死ってことなんだろうか?だったら嬉しい。

「そ、んなとこ、やだぁ…」
足の指の間を舐めてたら泣きそうな声を出された。つかもう泣いてるわ。

「だーめ。…俺が舐めたいの」
「くす、ぐったいよ」
「じゃーここも、そのうち感じるよーになるってことだな」
「えーっ」
開発してやるから、いっぱいいっぱい俺色に染まって。

とは言え、あんまり焦らすのもアレなんで、俺はいよいよ、今まで一度も触らなかった中心部に顔を寄せた。我慢させてたから先走り出まくり。
身体を横にして、脚の付け根から下へ降りて、袋と一番大事なとこ。今までで一番丁寧に時間をかけて舐めてやる。郁彦は、喘ぎ声を上げっぱなしだった。

本当は四つん這いになってもらった方が舐めやすいけど、それじゃ郁彦の顔が見えないから嫌。…って、今もほとんど見えてないけどさ。
枕元に出しっぱなしだったローションを取って、指を抜き差し。うわぁ、もう、中超熱いんですけど。早く突っ込みてぇ。
「ぁ、ぁあっ、あつ、し、ん、あ、ふ、ゃ」
感度良すぎだぜ郁彦。まだ指1本なんだけど。

タチやったことないってのもわかる。これだけ感じてくれたら、突っ込みたくもなるわ、誰だって。いや、何人としてるのか知らないけどさ、少なくとも前に彼氏はいたわけでしょ?そんなに数多く無さそうだけど。そういうことは、おいおい話してくれたらそれでいいのよ。
指を3本使って、じっくり時間を掛けて馴らした後、やっぱりこれも一昨日から枕元に出しっぱなしになっていたゴムの箱に手を伸ばした。

「………?」
あれ?
起き上がって箱の中身を確認した。

「…………」
うおー、俺の馬鹿っ!ここまできてゴムねーとかっ!!昨日コンビニ行ったじゃねーか!なんでそん時に気づかないのよ?つかだってさ、まだ半分以上あったじゃないのよ!……そんだけやったってことですよね、すいません。

「ど、したの?」
「いや、ゴム切れてた…」
郁彦、いきなり中出しとか嫌だろーなー。外に出しゃいいんだろうけど多分無理、俺きっとそんな余裕ない。

そりゃーいつかは生でーとか考えちゃうけどさ、物事には順序ってもんがあるんだよ。

「ある、よ…?」
「え?」
郁彦の鞄の中に入ってるって言うんだ。準備いいな!つか、なにそのいつでもヤレますどうぞ的な用意。もしかしていっつもそうなの?郁彦って意外と淫乱?あれ?なんかちょっと複雑じゃね?

リビングから郁彦のプラダの鞄を持ってくるとすぐに、薬局の紙袋に包まれた箱が出てきた。この部屋に来てから郁彦は外出していない。
「もしかして、ここ来る前に、買ってきた?」

え?それってなに、郁彦もしかして、最初から俺とヤル気満々だったってこと?準備がいいとか、そういうことじゃなくて、俺との行為のためだけに買ってきてくれちゃったりなんかしたの?つか郁彦、どんな顔して買ってきたんだよ?…って、いや別に、郁彦ならイケメンの若いお兄ちゃんだもんな、知らない人から見たって彼女くらいいたっておかしくない。別にどうってこともないか。

「郁彦もしかして、ここ来た時から、俺としたかったの?」
「そんなの、いいじゃん。聞かないでよ」
枕に口をくっつけるみたいに俯せになって、顔を背けられたけど、耳は赤いんだよな。これは肯定だよね、そういうことだよね。口より態度の方が雄弁ね。

「みなぎってきたわ」
なんだよもう、早く言えばいいのに。あの告白前の沈黙はなんだったのよ、もう!…って、今だから言うんだけど。
早速箱開けて1個出して。あー、そのうち郁彦のおクチで付けてもらおう。楽しみだなー、この先やることいっぱいだぜ。妄想が捗るわ。

まだ背を向けていた郁彦の身体を仰向けにして、唇を重ねて。念のために、もう一度指を入れてみるけど、全然大丈夫そうね。

「郁彦、入れるよ?」
真っ赤な顔で小さく頷いたのを確認してから、両脚を抱えて、ゆっくりゆっくり腰を進めていく。

根元まで全部入ってから見ると、郁彦は左手の指を噛んで、声を我慢していた。
「だーめ。声出せって」
「だっ、て、はずか、し、んぁああああっ」

噛んでたところが真っ赤じゃねーか、もう。
「こんな噛んだら後からも痛いだろうが!」
郁彦の左手と俺の右手を、指を絡めて繋いで、俺は抽送を始めた。左手封じられたら今度は右手使うかな?って思ったけど、そんなことはなくて枕を掴んだままで、郁彦は悲鳴のような声を上げた。やっぱり器用に動くのは左手の方なんだろうな。

「ん、ぁ、ああっ、あっ、あ、やぁあっ、ふぁ、んはっ」
もうね、さすがにこれだけヤってたらイイところは見つけましたよっと。

繋いだ右手を握ってくる力が強い。ま、繋いでるのが利き手同士だしな。でも多分、握力は俺の方が上だから問題ない。
ずぶっ、ぐちゅっ、ぬちゅって、厭らしい音がする度に郁彦は背中を仰け反らせて声を上げる。この声がけっこう、ぞくぞくくる。

そーいや、どうせ目瞑ってんだったら眼鏡関係ないんじゃねーの?眼鏡もいいけど、掛けてない方が美人で好きなんだけどな、外してやろうかな?って思った時だった。
「ぁ、つ、あっ、あ、っ、あつ、し、ん、はっ、ぁ、あ、好き、っ」
ちゃんと俺の顔を見ながら、郁彦が好きって、言ってくれた。

前言撤回。眼鏡ない方が美人なのは変わらないけど。
「郁彦愛してる」
胸が苦しくなって、そこからはもう、一気にラストスパート。繋いでた手を離して郁彦の前をしごいてやりながら腰をぶつけた。
ああちくしょう、キスしたいキスしたいキスしたい!でも、顔に届かねぇっ!!どうやっても胸にまでしか届かねぇっ!!

「やぁ、ゃ、あ、っあ、いっちゃ、うあ、や、あつし、出る、出るっ」
「俺、も、いくからっ」
びくんと身体が跳ねたのは、2人ほとんど同時だった。郁彦の左手は、俺の肘のあたりを掴んでて、ひりひりとした痛みを感じる。肩の傷気にしてすがりついてきてくれないかと思ってたから、嬉しいわぁ。

自然と離れるまで余韻にひたっていたかったけど、キスしたいっていう方が勝った。
郁彦自身をティッシュで拭いてやって、それからずるずる上に移動して唇を重ねた。

「はぁ、はぁ、んはっ…」
動いてた俺より郁彦の方が息上がってる。それでも長いキスをしていたら、郁彦がむせた。

「ごめん、ごめんな!?」
左手で口を押さえて咳をしながら、郁彦はぶるぶると首を横に振った。背中をさすってやったけど、なかなか治まらない。ああ、もう、俺の馬鹿。でもこれで、俺と比べて郁彦の体力がどれくらいないっのかってことがわかったから、次から絶対気をつけよう。

「ありがと、敦史」
まだ荒い息のまま、それでもようやく涙目で顔を上げた郁彦が可愛すぎてそのまんま抱きついた。
「あーもう、俺、郁彦が好きすぎて生きるのがつらい」
「……なにそれ」

くすっって、息を吐いた音が聞こえて郁彦が笑ってるんだと思った。これから先は、ずっと笑っててほしいな。
「だって、俺さー」
抱きついたまま、郁彦のことが本当に好きだって言おうと思ったのにもんのすごい音で鳴りやがった、俺の、腹が。空気読め胃袋ェ…。

「敦史、お腹すいた?…よね、そうだよね」
抱きついてる郁彦の肩が震えてる。あれ?これってもしかして爆笑レベルなんじゃねーの?郁彦が笑ってくれるんだったらなんでもいいや。
「深谷がご飯作ってくれてから、12時間以上だもんね」

なにか、食べるものないか、キッチン見てくるって、郁彦はフラフラしながらベッドルームから出て行った。そんなことしなくていいよって言おうと思ったのに朝からやることやって体力消耗して、空腹を認識した俺の身体は動かなくなってしまった。さっきまでは空腹より幸せが勝ってたから気づかなかったんだ。

「敦史、今、なんか、炊飯器が、炊き込みご飯作ってんだけど」
「はぁ?」
郁彦が言うには多分トシだろうって。米と一緒に炊飯器に入れておくだけでいい炊き込みご飯の素のゴミがあって、キッチンがちょうど今、鯛飯のいい匂いで充満してるんだって。

「深谷って、すごいね」
「これは俺も、予想外だわー」
ご飯ができるまでの時間で、郁彦に支えてもらって歩いて、一緒にシャワーを浴びた。昨夜の逆で、今度は俺が郁彦に身体触られて、洗われて。俺の右肘のところのできたてホヤホヤの傷に気がついてオロオロしてたみたいだけど『嬉しい』って言ったら、それ以上触ってもこなかった。

「だめっ!だめだって!こら!お前がそんなに触ったらまた勃つだろーがっ!」
「昨日の仕返し!」
湯は沸かしてなかったから、身体だけ郁彦に洗われて、俺が頭を洗ってる間に郁彦が自分の身体を洗う。シャンプーくらい俺がしてあげますよーって言ったのに、シャワールームから追い出された。切ない。

バスタオルを被って、キッチンに戻ったら、炊飯器のランプの色が変わってた。
いくら家事が嫌いだって言ったって、ご飯混ぜるくらいはできるんですよ。ちょっとだけつまみ食い。うおー、鯛飯うめー!!
「すごい、いい匂いだね」

首にタオルをかけたままで裸の郁彦もキッチンに来た。あれ?昨夜は裸じゃ脱衣所から出て来なかったのに。…あ、トシがいたからか。
「でも、いくら炊き込みご飯でも、ご飯だけじゃ味気ないね」
裸のまんまで、郁彦が冷蔵庫を覗いてる。

「昨日の野菜残ってるんだね、ちょっと待っててくれたら炒めるよ」
「まじ?つか俺、郁彦の手料理食っていいの?」
首を傾げた郁彦が瞬きする、数秒の沈黙。つかなんで首傾けんの?可愛くてしょうがないんだけど。
「だって、敦史、料理するの嫌いなんでしょ?……僕、深谷みたいに上手くないけど」

「幸せ過ぎて泣いてもいい?」
「…なに言ってんの」
そのまま全裸でいて欲しかったけど、落ち着かないから着るって言って、郁彦は服を着てしまった。今度エプロン買っといたら怒るかなー?郁彦の裸エプロンとか超萌えるんですけど!
俺がそんなこと考えてるだなんて全然気づいてないんだろう郁彦は、慣れた手つきでキャベツや人参を切って、冷凍庫から見つけた挽肉と一緒に炒めてくれた。挽肉は1回分ずつラップで小分けされてて、トシほんとすげーな、主婦だなって思った。

並んでソファに座って、世界一幸せな朝食を食べながら、しつこくしつこくしつこく聞いてようやく、教えてくれたのは、郁彦がわざわざコンドームを買ってきたのが、あのマセガキのせいだってこと。
「だ、だって、むね君、僕がしないなら、自分が、敦史誘惑しちゃうよ、って、言うんだもん」
「は?」

ちびちび食後のコーヒーを飲みながら真っ赤になって話す郁彦。つうか、マウントレーニア今2本目、お前コーヒー相当好きだったのね。毎食後1本ずつとかケチな計算せずにありったけ買ってきて良かったわ。
「アレに誘惑されても、俺勃たない気がするんだけどなー」
「そんなのわかんないじゃない。…だいたい、むね君、意外と、色気あるし」

こないだまで小学生だったガキに色気?うーん、想像つかん。つか、なんで、俺?
「え?なに、まさか宗則って、マッチョが好きだったりした?はっはっは、なーんてな?」
「え?」

顔を上げた郁彦が、さっきと同じように瞬きしてる。
「敦史、むね君の、好きな人、…もちろん、知ってるよね?」
「ハァ?なんで俺が知ってんだよ?俺、会ったことある人?」
「え?」

え?なに?どういうこと?なんでそんな、知ってて当たり前みたいに思われてんの?そんな身近な人?誰?全然思い当たらない。
「むね君の好きな人、まさ君だよ?気づかなかった?」
「まさ君?………まさ君って、佐々木さん?って、自分の兄貴じゃねーか!!!」
コクンと郁彦が頷いた。郁彦が嘘ついたりなんかしないと思うから、本当なんだろうけど。

「え?なに、あの2人も実は従兄弟とか?あ、義理の兄弟だったりして?連れ子同士で血つながってないとか?」
従兄弟だったら結婚できますよね、確か。連れ子同士でとかって言うのなら、エロ漫画にありふれた設定だし!っていうかその前にきょーだいって言う字はねー『兄』と『弟』って書くんですけどー?

「ううん、ホントの兄弟。両親一緒。…でも、どうせ子ども作ったり結婚できるわけじゃないし」
「そういう問題か?」
それだけの問題でいいのかよ?つか、それ、親知ってんの?いや、知るわけないよな、佐々木さん女連れて来てたし。あれ?まさかとは思うけど、宗則絶賛片思い?そういうことか。

「気づかなかった?むね君、顔と態度に出まくってるでしょ?僕でもわかったくらいだもん」
「知らん!……だって俺、あいつの見舞いに行き始めた時から、お前しか見てなかったもん」
別に胸を張って言うほどのことでもないんだけど、事実だし。
せっかく普通の顔色に戻ってたってのに、マウントレーニアのストローから口を離した郁彦の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていった。

「な、なに言ってんの、馬鹿!」
耳まで赤くして顔を背けてしまったけど、なんだよ、気づいてないのお互い様じゃん。あのマセガキには、俺が郁彦ばっかり見てるっての、バレバレだったらしいんですけど。
「ま、でもアレかー。宗則ガチムチ好きかー、なんだろな、自分がなれないから憧れんのかなー?」
まーね、ノンケでもカッコイイ、憧れるって言うやついるもんなー、こういう筋肉。そう言われたくてやってるってのが3分の1くらいあるけどよ。

「あと、背高い人も好きみたいだよ。あ、島本さんだけ例外。あの人も、背高くてガッチリしてるけど、恋敵だから」
「うん、スゲー納得した」

そんな見てたわけじゃないけどさ、飲んでる時もマリオカートしてる時も、島本さんと佐々木さんの距離なんか近くね?って思ってたわけですよ。それがアレだろ?同じベッドで寝てるとか聞いちゃったらさ。
ていうかさ、宗則に好かれて島本さんに好かれて、一緒に寝ちゃたりしてるのに女連れてくる佐々木さんって、もしかしてスーパー天然?
「今のむね君から見たら、敦史も十分背高い人に入るんじゃないのかな」
「俺、165だけど?」
ホントは164しかねーけどなっ!!

「むね君今、151しかないよ?……これから伸びると思うけど。まさ君の弟だし、叔父さんも185だし、叔母さんも、特別小さかったわけでもなかったみたいだし」
そうか、14センチも違ったら、俺くらいから上は全部『デカイ人』って扱いになるかもな。それにしてもなんだよマセガキ、可愛いところあんじゃん。だからって迫られて俺が勃つかどうかはわかんねーけど。

「つーかあれだな。あの同時送信のメールといい、コレといい、俺、本気でアイツにパフェかなんかおごってやんねーと恨まれんな」
「むね君なら、あんまり食べないから、安心だよ」
「それもそーか」

その後は、テレビ見たり、ゲームしたり、動画見たり、他愛もない話をして過ごした。
時々ちゅーはしたけど、えっちはしなかった。
顔が近づくたびに郁彦の髪から、俺とおんなじシャンプーの匂いがするとか、そんな小さなことに、幸せを感じた。

郁彦が、一番笑ったっていう、『忙しい人のための粉雪』って動画を教えてくれて、呼吸困難になるほど笑ってたら、隣からも笑い声が聞こえた。
コレも、最初に郁彦に教えたのは宗則なんだってさ。あいつほんっとGJ!今回偉すぎる!
えっちも気持ちいいから好きなんだけどさ。くっついて馬鹿みたいに2人で笑ってキスして手をつないで寝て。本当はこんな瞬間を待っていたのかもしれない。






















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