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szene2-28 もいちどキスして


夕方になって、深谷から敦史の携帯に連絡が入った。
『22時過ぎていいんなら、2人分のコピー今日持っていくけど、一食分引いていいからメシ食わせて。寮の晩ごはんに間に合わないのっ!』
「今日バイトかー?いいぜー、今日来いや」
あっさり今日来いって敦史言っちゃったけど、僕、ほんっとに起き上がりたくないんですけど。結局さっきは2回イカされた。

「郁彦、ちょっとナナメ向かいのコンビニ行ってくるけど、なんかいるもんある?」
とりあえず敦史は現金を下ろしに行きたいらしい。
その後、僕の回復状態や、深谷の希望を聞いて、晩ごはんをどうするかは決めようと。僕が元気だったら3人でどこかに食べに行くパターンがひとつ。深谷に買い物してきてもらって作ってもらうってのがひとつ、もうひとつはまた出前。どれにしたって、現金は必要だからって。

「んと、マウントレーニアのコーヒー、わかる」
「マウントレーニア?…なんだそりゃ」
「わかんなかったらいいや。…もし、わかったら、エスプレッソ2つくらい買ってきて欲しいな」

「店員に聞くわ!」
「僕がいつも昼に飲んでるカップのコーヒーだから、多分行けばわかると思うけど…」
「了解!」

敦史がコンビニに行っている間に、僕はむね君に電話しておこうと思った。むね君は電話を触っていたのか、コール1回ですぐに応答した。
『なーにー?…僕、ふみ兄は今日も帰ってこないって、父さんに言ってあるよー?』
「もう言ってあるの?なんで!」
むね君の後ろがざわざわしている。外にいるみたいだ。

『だーって、敦史と付き合うんでしょー?どうせなら月曜の朝までイチャコラしてたら?』
「そ、そんなの、身体もたない…」

『ねー、………………………………………』
急に声が遠くなったのは、誰かと話してるからみたいだ。会話の内容までは聞こえないけど、明らかにむね君じゃない人が、もう一人携帯の向こうにいる。
『もう、ふみ兄のえっち!!』

「な、なにがだよ!」
『動けなくなるほどえっちしてんでしょー!もう、月曜の朝教科書だけうちに取りに来ればいいでしょ!そう言っとくから!』
「ちょ、ちょ!むね君!」

『お幸せにっ!』
『あ、ちょ、ちょっとー!英輔君!もー!………………ごめんねふみ兄、じゃ、月曜の朝ねー!ばいばーい!』

そのまま、むね君は通話を終わらせてしまった。
突然割り込んできたのは、むね君と一緒にいる人だろうと思う。むね君の声で『エイスケクン』って聞こえたけど、僕の知らない人だ。
むね君に友達ができるのはいいことなんだけど、『お幸せに』ってなに、むね君僕らのこと話してんの?やだ、恥ずかしい!帰ったら問い詰めないと!

敦史が帰ってきて、僕が頼んだコーヒーを10本以上買ってきてくれた。そんなにいらないのに、今度から切らすことなく冷蔵庫に入れておくって言うんだ。

さっそく飲もうと思ったのに、『お礼のちゅーして』って言われて、キスしていたら、飲む前に押し倒されちゃった。
「むりー!しばらく、休憩!もう腰、むり!」
「入れないから!郁彦に触りたいの!」

ベッドの上でお互いの身体触ったりキスしたりしてたら、むね君どころじゃなくなっちゃったけど。
敦史の肌きれいだなー。すべすべしてて、気持ちいい。

こんな、傷痕だらけの身体を、敦史は、それでもキレイだ、好きだって言ってくれて、僕はまた、泣いた。

************

『ふみ兄と敦史くっついたよー』って、英輔君にメールしたら、『今日会おう』って返信が来たから、僕たちはまた、駅前のファーストフード店にいた。
「あれー?宗則君私服?」
「今日学校行ってない」
「えーっ」

驚いたみたいだったけど、それでも英輔君は『行かなきゃダメだよ』とかは、全然言わなかった。
「英輔君、今日の戦利品。すっげーレアモノ手に入れたから、帰ってから見て」
僕は焼いてきたCDを英輔君に渡した。

「なになに〜?」
「画像1枚しか入ってないけど、すごいから」
「期待しちゃうよー!?ありがとー」
「それ見たら、多分超元気でるから!」
ハードディスクと携帯から消せって言われたけど、USBメモリやSDカードから消せとは言われてないもんね、ふっふっふ。
英輔くんは、渡したCDを鞄の中にしまった。

「時間の問題だとは思ってたけど、とうとうくっついちゃったかー。…ねぇ、宗則君、お兄さんの写メとかないの?見せてよー」
「いいけどー、英輔君の方がイケメンだよー?」
「あんまり嬉しくなーい」

まぁ、確かに。英輔君目立つよね、何処にいたって。僕も最近慣れてきたけど、ハンバーガー食べてるだけなのに指とかさされるのは嫌かもしれない。
「確かー、昨年一緒に撮ったプリクラあるよー」
どこに入れたんだったかなぁ?ピクチャフォルダの中の…えっと、フォルダ何番だったっけ?…と思っていたら、そのふみ兄から電話がかかってきた。
「ふみ兄なんだけど出ていい?」
「出ればー?」

「なーにー?…僕、ふみ兄は今日も帰ってこないって、父さんに言ってあるよー?」
『もう言ってあるの?なんで!』
なんでってなんだよ!じゃあ、この電話、今から帰りますっていう内容だったとでも言うの?絶対そんなことない。

「だーって、敦史と付き合うんでしょー?どうせなら月曜の朝までイチャコラしてたら?」
『そ、そんなの、身体もたない…』
からだもたないってどういうこと?

「ねー、英輔君。ふみ兄身体もたないって言ってんだけど、どういうこと?」
僕は、携帯の通話口を塞いで英輔君に尋ねた。

「えーっ、それって、エッチしまくりってことじゃーん、動けなくなるほど敦史さんにイカされてんじゃないのー?羨ましいー!」
「もう、ふみ兄のえっち!!」
『な、なにがだよ!』
なにがじゃないよ、もう!そうだよね、そういうことだよね。ふみ兄エッチしたがってたもんね、敦史と。夢に見るほど。

「動けなくなるほどえっちしてんでしょー!もう、月曜の朝教科書だけうちに取りに来ればいいでしょ!そう言っとくから!」
『ちょ、ちょ!むね君!』
電話していた僕の手を、いきなり英輔君が掴んで引っ張った。

「お幸せにっ!」
「あ、ちょ、ちょっとー!英輔君!もー!」
それだけが言いたかったみたいで、英輔君はすぐに手を話して携帯を返してくれた。

「ごめんねふみ兄、じゃ、月曜の朝ねー!ばいばーい!」
とりあえず、ふみ兄との通話はそれで終わりにした。

「郁彦さんいいなーーーーーーー」
英輔君は、両肘をついて、手のひらの上に顎を乗せてため息をついていた。
「えーっとね、とりあえず………あった!はい!昨年だけど、僕とふみ兄!」
僕は英輔君に昨年のプリクラを見せてあげた。

どれどれ?って、興味津々で携帯を覗きこんだ英輔君は、3秒後にへこんでテーブルに突っ伏した。なんかこの姿も見慣れたなー。
「あーダメだーーーーーーー、俺にこの可愛さはないー!」
「可愛さ…って、ふみ兄が可愛いってこと?」
「うん、可愛いよー。宗則君もちっちゃくてかわいいけど」
「どうせ今でも小さいですー」

確かにふみ兄より英輔君の方がデカイけど、年上だってわかってても、それでも可愛いって使うものなんだ。
「そっかー、敦史さんこういう可愛い系が好きなのかー!くそー俺にはどう頑張っても手に入らないー!」
やっぱり人間ってないものねだりなんだなって思った。

「英輔君のイケメンっぷりが羨ましい人なんて、たぶん世の中ゴマンといると思うんだけどー」
「じゃーあげるよー!だって、俺、日本人なんだよー?フツーに黒い髪で黒い目が良かったー」
「でもー、そうしたら僕みたいにチビだったかもよー。補導されるよ?」
「その時はー、青い目でイケメンの宗則君が手引っ張ってファミレス連れてってくれるんでしょ?」
「そうかも!」
僕達は声を上げて笑った。なんか、そんな風に知り合っただなんて嘘みたいだ。

「ねー英輔君。……えっち、って、そんなに、いいの?」
「んー?」
ぐちゃぐちゃいじけていた英輔君が起き上がった。

「ふみ兄ね、超奥手なんだよ。どれくらい奥手かって言うと、えっと、敦史に、好きって言うのに2日かかったくらい!…そのふみ兄がしたいって言うんだから、そんなに、いいのかなって思って…」
僕はしたことないから、想像ばっかり大きくなっちゃって。って話したら、英輔君は綺麗に微笑んだ。

「じゃー宗則君、俺とするー?」
「えっ?……いいの?」
「うん、いいけどー、宗則君、どっちしたい?」
「ええっ!……どうせなら、された、い…かな」

「そっかー。宗則君、身体小さいからなー」
「な、なんか、関係あんの?」
「あるよー!」
手招きされて、顔を近づけると、英輔君は僕の耳元で小声で囁いた。

「だって、俺のおっきいんだもん」
想像して僕は、一瞬でぼんっって、赤くなってしまった。そうだよね、これだけ見た目が外人さんなんだから、そうか、アソコも、当然、そうだよね。
「宗則君、かわいーね」
「な、なにがっ!!」

なんか、コドモだって言われてるような気がして。事実、どうせまだガキだけど。
「宗則君、今、身長いくつ?」
「僕?…んと、5月に病院で測ってもらったのが151.3」

「病院?」
「うん、僕、入院してたから」
「そういえば、入学式出れなかったって聞いたかも。5月ってことはそんな1ヶ月以上入院してたの?」
「2月の中頃に発作起こしてー、すぐ良くなったんだけど、元気だったからって病院の中走ってー、また発作起こして死にかけた。結局4ヶ月くらい入院してたのかなー?ま短い方だったけどー」
春はいっつも病院で、いっつもスタートは出遅れるんだって言ったら、英輔君はくしゃくしゃっと頭を撫でてくれた。

「じゃ、宗則君の身長が、160センチ超えたら、しよっか」
「ほ、ほんとに?」
「うん、約束」
「ぼ、僕、今日から毎日牛乳飲むっ!!」
「うん、頑張って!」

あの父さんの息子で、あの兄ちゃんの弟なんだから、僕だって頑張れば身長は伸びるはずなんだ!
「…でも、ホントに最初が俺でいいのー?宗則君、好きな人、いるんじゃないのー?」
「んー。…でも、兄ちゃん待ってたら、永久にしてもらえないような気もしなくないから、英輔君ならいいっ!」

「兄ちゃん?宗則君の好きな人って、郁彦さん?」
「違う違う、もう一人の、上の兄ちゃん。ふみ兄はホントは従兄弟なんだ。うちの家族みんな、3人兄弟だと思ってるし、父さんなんか本当にそうしようとしてるけど」
はいって、僕は兄ちゃんの写真を携帯の画面に表示して、英輔君に見せてあげた。兄ちゃんの写真は、専用フォルダがあるからすぐに出てくる。これは、前に試合観に行った時に、超格好良く撮れたやつ。

「バスケやってんの?…背、高そうだねー」
「うん、兄ちゃん197!超カッコイイよ!」
「そっかー。…宗則君、背、高い人、好きなんだ」
「…えっ?………そうかも、しれない」

そっか、だから英輔君も好きなのかもしれない。もちろん、それだけじゃないけど。

「お兄ちゃんと仲いいの?」
「うーん、悪くはないと思うけど…。なんか、本人目の前にすると、ついついばーかって言っちゃうんだ。…昔はこんなんじゃなかったのに」
なんでだろう、本人のいないところでは、素直に兄ちゃんが好きって言えるのに。

「宗則君、超ツンデレ!萌える!」
「英輔君が萌えてどうすんのー!…兄ちゃん、ツンデレとかよくわかってないっぽいんだもん。バスケ一筋だから」
「ガンバレ!宗則君まだ若いんだから大丈夫!」
「そうかな?」
英輔君に言われると、本当にそうかなって気がしてくるから不思議。

「じゃー宗則君、そろそろ帰るー?今日も歩きー?」
「今日はけったで来たー!」
「けったってなにー?」
「名古屋弁で自転車!かっこよくない?けったマッシーン!!なんか変形してロボットになりそう!!!」
くすくす笑いながら、英輔君はトレーを持って立ち上がった。

「宗則君って、時々歳相応になるよね」
「えっ?」
「可愛いよ」
ぎゅっと肩を抱かれて、え?って思った瞬間にはもう、英輔君の顔が目の前にあった。
トレーを落とさなかった自分って、偉いと思う。

こんな公衆の面前でいきなりキスして、それが絵になっちゃうっていうのは、英輔君の見た目が英輔君だからだよっ!!
なにが黒い髪と黒い目が良かっただよ、もう、このイケメンっ!!絶対自分の外見、わかっててやってるだろう!
「じゃ、俺、地下鉄乗るねー」
ゴミを片付けたら、そのまま行っちゃいそうだったから、慌てて腕を捕まえて、出口へ引っ張った。

「もっかい!」
自転車置場のところまで行くと、僕達の他には誰もいない。
「うーん、大人のキスがいい?」
僕は何度も大きく頷いた。こないだのと同じのして、って。

英輔君の大きい手が僕の両頬を包んだから、僕は腰のあたりにぎゅうってしがみついた。
ゆっくり英輔君の顔が近づいてきて、唇が重なって、舌が入ってきて。

たっぷり1分以上、舌を絡めていたんじゃないかと思う。
「じゃ、宗則君。また、敦史さん情報あったら教えてね!」
いつものように、ばいばーいって言って、英輔君は帰っていった。

「た……勃っちゃった……」
キスされただけなのに。
「と、とりあえず、帰って牛乳飲もう!!!」
目標、次の春までに身長160センチ越え!






















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