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szene2-27 ずっと一緒にいよう


全身が怠くて、おまけに内腿とかお尻が筋肉痛になってて。どうしても動きたくなかった僕達は、今日も2人揃って深谷に甘えることにした。
ごめんなさいメールを送ると、僕には『うん、いいよー!お大事に!』という返信、敦史には『今日は4コマ×代返&ノート×2でよろしく!』っていう返信がそれぞれ返ってきた。

「…どういう意味?」
「んあ〜?俺な、トシに代返とノート1回につき千円払ってるんだよ。ま、定食大盛り2回分奢るから頼むって言ったのが発端だけどよ。……あ、そーだ昨日の、預かってるぜ」
あぶねーあぶねー、忘れるところだった、って言いながら、敦史が、深谷が置いてったっていうコピーの束を渡してくれた。

「深谷、昨日来てたの?」
「おうよ。お前と電話した時はいたぜ。キッチンで皿洗いしてた」
「…じゃあ、あの、深谷って、もしかして、僕が今、ここにいること、知ってる?」
「えっ?まずかった?つーか俺、今、『郁彦とイチャコラしたいから今日も休ませて』ってトシにメールしたんだけど!」
「ちょ…」

ああもう、なんだよそれ。僕は、『体調悪いからごめんなさい、休ませて』って深谷にメールしたのに。僕は、黙って、送信済みフォルダを、隣に裸で転がってる敦史に見せた。
「ちょ、郁彦ー!先に言えよ!」
「なにもそんな、ハッキリ本当のこと、いうことないじゃないか」

恥ずかしいよ、もう。だいたいイチャコラってなんだよその言葉。明日…は休みか、来週から、どんな顔して深谷に会えばいいんだよ。僕は枕を抱えて、敦史に背を向けた。
「郁彦ぉ…。なぁ、……ごめんって。……怒った?……なぁ、なぁ?」
敦史が背中にくっついてくるけど、なんて応えたらいいのかわかんない。怒ってるわけじゃないけど、なんて言うか、恥ずかしいとか、照れくさいとか、困ってるとか、そんなの全部混ぜ合わせたような感情。

「なぁ、なぁ、郁彦ぉ…」
だんだん敦史の声に力がなくなってきている。なんか答えなきゃって思うのに、こういう時なにを言ったらいいかわからない。どうしようどうしようどうしよう。
「トシなら大丈夫だって。俺が郁彦のこと好きなの知ってるし、あいつ、これくらいでなんとも思わないって。なぁ?」
「こ、れくらい、って、なに?」
どういう意味?

でも、違う、本当はそんなこと言いたいんじゃなくて、違うのに。
「だ、だから、あの…」
敦史が明らかに困ってるのがわかる。どうして、どうして僕はいつもこうなんだろう。もう嫌だ。
「う…、っふ……」
「郁彦?……ええええっ、ちょ、郁彦っ!!あわわわわわ、どうしよ、ごめん!俺が悪かった、マジで!ほんっとごめんって!」

言葉の代わりに溢れてきたのは涙。僕は、いつもこれだ。
「ごめんね、敦史。…違うんだ」
「いやいやいや、俺が悪いのはわかってるから!もう、ごめんって!いや、なんかほら、トシならいっつもいろいろ頼んでっからさ、大丈夫かなと思ってつい…っていうかさ。ほんとごめん」
敦史が僕に、覆いかぶさるみたいにして、指で涙を拭ってくれた。僕は、首を横に振ることしかできなかった。

「ごめ、ん…。な、んで、僕は、ちゃんと、言いたいこと、言えない、んだ、ろ」
「郁彦ぉ」
敦史は、さっきまでと同じく、僕の横に並んで転がって、横から頭と肩を抱いてくれた。

「時間かけていいから。お前が、言いたい言葉見つけるまで待ってるから。どうしようどうしようって思ってたら、余計なにも言えなくなるだろ?」
僕は、敦史の言葉に、頷くしかできなかった。

「焦らなくていいから。…って、今のは俺のせいで焦っちまったよなー、ごめんなー。いいよ、俺待ってっから。約束する。ゆっくり、言いたい言葉、見つけて、しゃべってくれたらいいから」
敦史はそう言ってくれるけど、本当にそんなことしてたら日が暮れてしまう。敦史が好きっていう結論を出すだけで、むね君の助けを借りても2日かかったってのに。

「ありがと、敦史」
「…うん」
いつか、ちゃんと人並みでいいから、話せるようになりたいと思う。話し上手ってやつじゃなくていいから、せめて、自分の気持ちくらいは、ちゃんと言葉に出して、好きな人には伝えたい。

「深谷、は、僕が女駄目ってのも、知ってる?」
「ああ、ごめん。宗則から聞いた次の日には話しちまった」
「そっか。…………やっぱり。………だから、か」
時々、僕と敦史のこと『デート』なんて言ってたのはそれでなんだ。むね君が言う、『知らなきゃおかしい行動』ってやつなんだと思う。

「敦史は、深谷とは、いつから知り合い?」
「あ?俺ら?授業始まったばっかりの頃に俺が、郁彦とトシまとめて声かけたのが最初」
え?その割には、随分仲いいじゃないか。

「正直、お前がいなきゃトシに声なんてかけてなかった。あ、トシには秘密な。って、もうバレてそうだけどさー。…俺、郁彦に一目惚れだったんだ」
「!!!!!!」
なんで?僕のなにが良かったの?って言うか、それじゃあ、敦史が僕のこと好きだったのって、もしかして最初から…?

「顔も身体つきも髪も、声も。全部好きだったけど、中身とか性格知った今は、もっと好き。もっといっぱい、郁彦のこと知りたい」
「そ、そんなの、困るよ」
なんのためらいもなく、自分の心に正直に『好き』と言える敦史が羨ましかった。そんな敦史を、僕も好きなんだと思った。

「ちょっとずつでいいからさ。とりあえず今回、身体はいっぱい知ったぜ!感じるとことか!」
「ばば、ば、ばかっ!」
そういうこと、どうして口に出すんだよもう、恥ずかしい。

「もしかしてお前さ、トシと俺の仲気にしてんの?」
そんな気持ちを知られるのはイヤだったけど、本当のことだったから、僕は仕方なく小さく頷いた。
「あのさー、お前はさー。一緒に住んでるのに、佐々木さんより宗則の方が仲良いことない?」
え?そんなこと言われたらそうだけど。

「だって、むね君のお見舞い、毎日行ってたし…」
「単純に一緒にいる時間長いからだろ?俺とトシもそういうこと。トシは俺んちに家事のバイトしに来るし、それにお前、最初の頃昼休みも放課後も、速攻消えてたじゃん」
それは否定できない。友達なんて作るつもりはなかった僕は、昼休みも、放課後も、授業が終わると真っ直ぐ、病棟のむね君のところに行っていた。

「これからはお前との時間の方が長くなっちゃうけどねー!ま、だいたいな、一緒にメシ食ってりゃいろんなこと話すって」
「そ、そうかな」
「そーいうもんだ」
確かに、僕が、本当は左利きだとか、話したのはご飯食べながら、だった気がする。

「なぁ、郁彦。…腹減らない?」
「あ、うん。ちょっと…」
「起きれるなら、なんか食いに行こーぜ」
「ごめん、あんまり、動きたくない。けど、食べなきゃ敦史、動けなくなるよね」

どうしよう。よく考えたら、昨夜もなんにも食べてないじゃないか。ずーっと、エッチしてたから。
うわうわ、一晩中とか、なにやってんの僕?何回した?何回イカされた?今更恥ずかしくなってきた。

「こーゆー時のための出前だろーが。…ぎゃー!現金ないー!…郁彦ぉ、ピザでいい?」
「あ、うん」
リビングに行って、財布を確認したんだろう敦史が叫び声を上げた。
どうしてピザ?と思って、起き上がってリビングを覗いたら敦史はパソコンを起動していた。

「ネットでピザ注文すればカード使えんだぜ」
「そう、なんだ」
「郁彦好き嫌いある?」
「特にない」
「りょーかーい」
敦史は、適当にLサイズ3枚とサイドメニューをいくつか頼んでた。

「配達のにーちゃん来るからパンツ履くかー。仕方ねーな」
「あ、う、うん」
敦史はベッドルームに戻ってきて、昨夜脱ぎ捨てたままになっていた下着を拾う。そーいや僕は下着どうしたっけ。あ、お風呂場だ。

「やっぱ新しいの出そ。…郁彦は別に、裸のまんまでいいんだぜ?目の保養になるし」
「恥ずかしいから嫌」
目の保養ってなんだよもう、敦史のばかっ。僕がヤンデレで、むね君がツンデレだったら敦史はなに?こういうのなんて言うの?
…デレデレ?

そんなことを考えながら、僕は下着と、着替えに持ってきたスウェットパンツを履いた。上は長袖Tシャツで。敦史も似たような服装になった。…っていうか、敦史、昨日から思ってたけど、それって、高校のジャージ?
2人並んでソファに座る。ああ、身体痛い。首を回したらポキポキ音がなった。

「そーいや郁彦、自動車学校ねーの?」
「うん。…体調悪いって、全部来週以降に変えてもらった」
「ごめんなぁ、テスト期間と被らねえか?」

「え?最初から、被ってるよ?」
「大丈夫なのかよ?」
「え?うん、多分。…てゆーか、テスト期間だからって、特別なことはないよ?」
だって。どーせ趣味が勉強しかないようなものだし。むしろ運転技術をテストされる方が怖い。
なんかつまらない人間だよなぁ、僕。どこが良くて好きだなんて言ってくれるんだろ、敦史。

「やっぱ頭いーやつは違うんだなー」
「それは僕のことじゃないと思うよ」
「……まー、いーや。…免許取ったら、俺と、ドライブデート、してくれる?」
え、えっ?もしかして、ふ、2人で?そうだよね、一昨日だって、敦史は最初は、僕と2人でって言ったのに、僕が嫌がったからみんなで行くことになってたんだもん。まだ誰も誘ってなかったけど。
だけど一昨日と今じゃ事情が違う。深谷もむね君も、2人で行ってこいって言いそうな気がしない?

「ふ、2人で、だよね?」
「だ、駄目ならみんなで、でもいーけど」
「ぼ、僕、免許取り立てだよ?」
「俺だって取ってから1回も乗ってねぇって」
「あ、あの、えっと…」
言葉を詰まらせてしまった僕だけど、さっきの約束通り敦史は、黙って僕が続きを話すのを待っててくれた。僕の手を握って。

「郁彦指長いなー、いーなー。…あ、ごめん!つ、つい心の声がダダ漏れにっ!」
その敦史の言葉を聞いたら、なんだか急に、おかしくておかしくて笑えてきた。

「おおおおおお、怒った?ごめん、ごめんな!俺っ、自分から約束したのにっ!」
僕としては笑ってるつもりなのに、敦史には怒ったように見えるのかな。
どうしてこう、何もかも正反対なんだろ、僕たちは。

「敦史」
「はいいっ!」
なにその返事。おかしいの。なんで直立するの?

「敦史、好き」
「ふ、郁彦…」

どうしようどうしようって、焦っていた敦史が直立したと思ったら、今度はそのまま固まってる。

「ふ、ふ、郁彦ぉ!…俺、愛してるからっ!!」
今度は座って、泣きそうな顔で、僕の両手を握った。忙しいやつだなぁ、敦史。

「うん。僕も」
キスして欲しくなってそのまま瞼を閉じた。だんだん敦史の顔が近づいてくる気配がある。

ぴんぽーん

「あ、ピザ」
唇と唇が触れ合う1秒前に、見事に玄関チャイムが鳴った。
「ったくー!空気読め、ピザ屋コノヤロー!」
今度はプリプリ怒りながら、それでも愛想よく、敦史は玄関でピザを受け取った。

ほんと、忙しいやつ。
届いたピザを、僕達は2人で一緒に食べた。
半分以上食べてるの敦史だけど。僕も頑張って、7きれ食べた。Mなら多分、1人で1枚食べれるけどLは無理。

先に食べ終わって、敦史が入れてくれたコーヒを飲んでいたら、突然名前を呼ばれて。
「郁彦」
敦史の方を向いたら、いきなり唇を重ねられた。肩を抱かれて舌が入ってくる。

「ん…。んん、っ」
こ、コーヒー溢れるーっ!!

「悪ぃ、食い終わるまで我慢できなかったわ」
なんだか身体の力が抜けてしまった。コーヒーカップは、間一髪のところで、敦史が取り上げてくれた。

「食い終わったら、もっかいえっちしよーな。ちょっと待ってて」
「ちょ、ど、どうして、敦史は、そう…っ!」
「んー?俺、なんか変なこと言ったか?」

敦史はまた、平然とピザを食べ始める。い、いや、いいんだけど、どうしてそう、えっちとか平気で口にするの恥ずかしいっ!!
そ、そりゃ、したいのは僕も一緒だけど。

はっ!?
し、したいんだ、僕。やっぱり欲求不満だったんだ。昨夜からあんなにしたのに、まだしたいだなんて、なんていう淫乱ぶり。もう、やだ、なに僕って、こんなエロかったの?

「俺、なんか気にさわるよーなこと、言った?」
食べながら、敦史が不安そうに見上げてくる。僕は慌てて、首を横に振った。

「じ、自分に、なんか、失望した」
「なんでよー?そんな可愛くて頭よくて背も高くてなにが不満なのー?贅沢言い過ぎー」
ちょっと待って、今なんか、言われたことない言葉が聞こえたんですけど。

「か、可愛いって、なにが?」
「なにがって、郁彦が、だよ。見た目も可愛いけど、性格もっと可愛い。いっぱい気持ちよくなってな。いっぱい声出していいから」
「な、な、な、ななな…」
なんでそういう恥ずかしいこと平気で口に出すわけーっ!!!!!

「やっべ、昨夜の郁彦のイキ顔思い出したら勃ってきた」
「お、思い出さなくて、いいから、そんなのーっ!!!」
敦史は、付いてきたお手拭きで両手を拭った。まだピザはあと3きれ残っていたけど。

「郁彦」
落ち着こうと思って口にしたコーヒカップをまた、取り上げられて、僕は敦史に、ひょいと抱き上げられた。
「あ、わわわ、ちょ、ちょっ!」
「暴れんなって!」

10センチ以上、僕の方が背が高いのに、敦史は僕を、難なくお姫様抱っこしていた。
「お、お、重く、ないの?」
「俺、普段スクワットで130キロ上げてんだけど」
ぼ、僕2人分じゃないか。

「つーか郁彦軽いわ。もっと食えよ」
「た、食べてるよっ!だいたい、東京来てから5キロも太ったんだからっ!」

「はぁ?」
驚きながら、敦史が僕を下ろしたのはベッドの上。

「お前、どんだけ痩せてたん?…あーでも、宗則もガリガリだよなー。そういう体質か?でも、佐々木さん違うよなー」
「筋肉質なのはおばあちゃんとまさ君だけ。叔父さんも、おじいちゃんも、若い頃はガリガリだったらしいよ」
今は年齢もあって、叔父さんもおじいちゃんも普通体型だけど。叔母さんがどうだったのかはわからない。うちの母親も、もう覚えていない。

「そーっかー。まぁいいや。俺、この身体大好き。感度サイコーだもん」
「え?あ、ちょ、何言って、んあっ」
押し倒されて、首筋に唇を押しあてられて声が出た。

「ちょ、あつ、待って、そんな、急に」
「いーや。お預けくらったら俺のチ×コ破裂すんぞ?」
ぐりぐり押し付けてきた敦史のは、確かに硬くなっていた。

「だって、そんな、まだっ」
心の準備が。そりゃ、昨夜何回もしといて今更かもしれないけど。
「だーめ」
敦史は僕の眼鏡を取り上げた。もうこれで逃げられない。敦史の顔も見えない。目隠しされてるのと変わらないと思う。

「郁彦」
ぎゅうっと手を握られたかと思ったら、敦史の顔が目の前にあった。
「ずっと、一緒にいような」
「あ、つし…」
そのまま唇を塞がれて、僕の瞳からは涙が溢れた。

敦史は、僕が一番欲しかった言葉をくれた。

「えーっ、なんで泣いてんのー?そんな嫌だったかー?」
唇を離した敦史が驚いていた。僕は首を横に振る。
そして、覆い被さっていた敦史の首に腕を回して。

「敦史が、嫌、だって、言っても、…僕、離れ、ない、から」
頑張って頑張って頑張って、ようやくそう、言い切った。昨日からもう、頑張りすぎだ。2日で、1年分くらいの会話労力、一気に使ったかも。

「馬鹿モノ!…俺が嫌だなんて言うわけないだろ?死んでもだ!」
僕の返事を聞くことなく、敦史はTシャツをまくりあげて、僕の身体に舌を這わせた。

「ん、はっ、ぁ、ゃっ、ふあっ」
敦史曰く、僕は全身性感帯らしい。そんなの知らない。好きな人にだったら、どこ触られたって感じるんじゃないの?知らないけど。

敦史の太い腕と分厚い胸板に挟まれるみたいに抱かれて。
僕は今、生きている幸せを噛み締めた。






















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