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szene2-26 この夜に包まれて


俺の部屋を訪ねて来た郁彦は、いつもより鞄一つ多かった。
「あ、…あの。……むね君が、今日は、帰ってくるなって、言うから。……あの、泊めて、ください」
「は、はい」
要するに、着替えってことか。服なんかいくらでもうちにあるのに。でも、宗則ナイスー!!ありがと、今度パフェでもおごってやるからなー!!

いや、でも、待てよ?
これから話す内容次第じゃ、そんな喜んでばっかりもいられないんじゃね?
『今まで通りお友達でいてください』とか言われて、黙って泊めなきゃならんのか、俺は?

「と、とりあえず、ドゾ」
なんか緊張する。右手と右足が同時に出るほど、緊張しながら、俺はリビングに郁彦を招き入れた。
「こ、ここ、こ、コーヒーでいい?」
「あ、うん」

ちょこんと、ソファに座った郁彦に、とりあえずインスタントコーヒーを出した。
トシが持ってきて置いてったやつだけど拝借。それしかなかったんだ。
「砂糖とミルク、置いときます」
「ありがとう。いらないから大丈夫だよ」
ぶ、ブラック?郁彦大人!そーいや宗則もブラックで飲んでたな。
俺は、郁彦の左ナナメ前に座った。うちソファ一個しかないから絨毯の上にあぐらでな。

「あ、あの、話って」
「…うん」

2人の間に流れる長ーい沈黙。やっぱり、俺に好きって言われるのは迷惑だって?友達のままでいて欲しいって、そういう話なんじゃねーの?うお、まだなんにも聞いてないのに泣けてきた!トシ、お前とのエッチ確定しそう。

「あ、あの」
「あのさ…」

沈黙が苦しくてなんとか言葉を絞り出そうとしたらよりによって、声が重なっちまった。どうしてこう、声をだすタイミングが悪いのよ馬鹿馬鹿、俺のバカっ!沈黙の方がずっと長いのに!

「か、笠原から、どうぞ」
「い、いや、郁彦からで」

そして続く沈黙。
なに、なんなの、この部屋だけ重力強くなったんじゃね?誰でもいいからこの空気、なんとかして。

沈黙が、軽く20分は続いた後、その『誰でもいいから』は現れた。
俺と、郁彦の携帯が、同時に鳴ったんだ。
「ちょ!誰だよ、もうー!……え?宗則?」
「え?なんで?」

郁彦の携帯を鳴らしたのも、宗則だって。郁彦は、鳴り分けしてたから、携帯を確認するまでもなく、宗則からのメールだってわかったんだそうだ。
それが、俺に来たメールも宗則だって知って、なんで同時に?って思ったらしい。その理由はメールの本文で判明するんだけど。


To:ふみ兄;あつし

お話進んでますかー?進んでませんよねー!ああ、重たい空気が目に見えるようです(´;ω;`)ブワッ

とりあえずふみにーはヤンデレの上にツンデレで素直じゃないことが判明してますので、ゆっくりゆっくり話聞いてあげてください。
あつしはお調子者だけど、それくらいの忍耐はあると信じてます゚+。ゥフフ(o-艸-o)ゥフフ。+゚

ふみ兄、なんなら明日も帰ってこなくていいからねーd(-∀-*)ネッ
2人共、幸せになりやがれコノヤロー!!ヽ(=´▽`=)ノ

あ、このメールは、同じ内容を2人に、同時送信しております(゚◇゚)ゞ
親切な宗則君より愛をこめて(`・ω・´)v
じゃ、ガンガッテ(,,゚Д゚) ガンガレ!


「な、なに考えてんだあいつ!!」
と、口では言ってみたものの、なんにもなければホントに、息が詰まりそうだった。助かったってのが本音。
「笠原、ヤンデレって、意味、わかる?」

携帯を閉じた郁彦が、最初に言ったのはその言葉だった。
「お、おう、なんとなく。宗則がさ、いっつも郁彦のこと、『ヤンデレだーヤンデレだー』って言うからさ」
「僕も、むね君に言われて、初めてそんな言葉、知ったんだけどね。…でも、僕、ホントにそれなんだ」

郁彦は、急にすっと立ち上がって、シャツのボタンを1つずつ外し始めた。
え、ちょっと待て、なにー!?いきなりそんな、積極的すぎない?ちょ、待って、俺にだって、心の準備ってものが!!
「見て欲しいんだ。…僕、ホントは、こんなんなんだ」

するするっと、シャツを床に落とした郁彦の、上半身が顕になった。
こんなんってなんのことよ!って思った俺だけど、右腕の肘のあたりに、比較的最近のものだろう赤い筋があるのはすぐにわかった。
それから。郁彦の腕や、胸や脇腹に、無数に白い線が走っているのが、ようやく見えた。

「太腿とかにも、いっぱいあるんだ。…今は、自分だけで済んでるけど、僕は、いつ、これを、他人に向けるか、わかんないんだ。…自分でも、知らないうちに、気がついたら、いつの間にかやってるから」
俯いてそう話す郁彦の声が震えていた。

そのとき、俺はようやく、『ヤンデレ』って言葉の意味を真に理解した。
『ヤンデレ』で検索すると、包帯の女の子のイラストがいっぱい出てくる。俺は、単に好きな人の気を引きたくてやってるだけなんじゃねーの?って思ってたんだ。でも、郁彦はそうじゃない。多分、ヤンデレって、そういうものじゃないんだ。
そして、郁彦がそんな自分自身に、苦しんでいるんだってことも。

「座れよ」
俺は膝で歩いて、ソファの郁彦に近づいた。郁彦は、黙って力なく、最初と同じようにソファに座った。俯いたまま。
それにしても細い身体だ。腕とか、俺の半分くらい?いや、それは言い過ぎだけど、言いたくもなるような細さだぜ。

小さくなっている郁彦の、右腕をそっと触ってみる。白い線が、右半身にばかり多いのは、やっぱり左利きだからなんだと思った。それと同時に、切るのが無意識だからなんだってことも示している。
手首のあたりはキレイなまんまで、長袖さえ着てれば、これなら多少袖をまくってても絶対にわからない。このくそ暑い日が続いてるのに、郁彦が半袖を着ない理由はこれだったんだ。

「俺は、郁彦になら、なにされてもいいんだぜ」
まだ赤い、肘のところの筋をそっとなぞりながら、俺は本心を告げた。
もう、傷は塞がってるけど、表皮だけ切れたって感じじゃない。それなりに血は出たんだろうな。痛かったろうに。
はっとなって顔を上げた郁彦の、目にはいっぱい、涙が溜まってた。

「つーか、お前一人でこんなに苦しむの、嫌だなぁ。俺にも半分、分けてよ」
1日2日でできた傷の数じゃないと思った。なにがあったんだか知らないけど、きっとこれの大半は、大学に来る前のものだろう。悔しいけど、きっと宗則はいろいろ知ってるんだろう。

指を絡めて、郁彦と手を繋いでみたけど、嫌がられなかった。
「俺じゃー足りないかもしれないけど、さ。…俺、郁彦の側に、いたいんだ。そりゃ俺、宗則みたいに、お前の表情だけで、お前が何考えてるかなんて、わかんないけど。俺、郁彦が、好きなんだ」

郁彦の右手と俺の左手を繋いで、右手で郁彦の腕のあたりを見つめながら撫でていたら、ポタッ、ポタッと雫が落ちてきて、慌てて顔を上げたら、郁彦が声も出さずに泣いていた。
「わ、わわ、あわ、ごめ、ごめんっ!そ、そんな、泣くほど、嫌だった?ごめん、うわ、どうしよ俺」

慌てて手を離して、とりあえずタオルかなんか持ってこよう、その前にいつまで上半身裸のままでいさせるんだよって思って、とりあえず、落ちてたシャツを肩にかけてやった。
「ちょ、ちょ、今、タオルかなんか持ってくるから、ごめん…………!?」

立ち上がって、脱衣所に向かおうとした俺のジャージの端を、郁彦が掴んだ。俯いたまま。
「行か、ないで」
「で、でも……」
おお、テーブルの下に箱ティッシュ発見したぜ。偉い俺。なんとか手を伸ばして、ティッシュを郁彦の前のテーブルの上に置いてやった。

でも、郁彦はティッシュを使わないで、そのまま、俺のジャージを掴んで俯いていて。
「なぁ、郁彦。…隣、座ってもいい?」
こくんと、無言のまま郁彦は頷いて、それでようやくジャージを掴んでいた手を話した。

「なんか、して欲しいこと、ある?」
「…………ぃで」
「え?」
ご、ごめん、聞こえなかった。

「手、つないで」
「!!!!」

まさかそんなこと言われるとは思ってなくて、びっくりしたけどすぐに、また指と指を絡めて郁彦の左手を、右手で握った。曰く、『コイビト繋ぎ』ってやつな。あれ?コイビト繋ぎのリクエスト?…これってもしかして俺、脈あるんじゃないの?

いやいやいいや、待て待て待て待て俺、そんな世の中上手くいかねーよ?とりあえず落ち着こうや俺。
こういう時ってどうしたらいいんだ?…そう言えば、こないだ郁彦が泣いた時って、トシが抱いてやってたっけ。あれって、俺でもいけるかな。
ええい、イチかバチか、賭けてみよう。

俺は、空いていた左手を郁彦の背中に回して、ぐっと力を入れて抱き寄せてみた。郁彦の方が背が高いけど、真ん中になってる手を繋いでるから、抱き合う形にはならなくて、郁彦は俺に体重を預けるみたいにナナメになって。
一瞬驚いたみたいで身体が強張ったけど、すぐに俺の腰のあたりに郁彦の右腕が回ってきて、そして。
いままで我慢していたものが堰を切って一気に溢れたみたいに、郁彦は声を上げて泣き出した。

しばらくそのまま、左手で郁彦の背中を撫でてやっていた。だけどやっぱり繋いだ手がなんか変な感じがして。
俺は右手を離して両腕で郁彦の肩を抱いて、頭も撫でてやった。郁彦は、両手で、俺にしがみついてきた。

あ、あの、お願いします神様。いるんだったら、すいません、このまま時間、止めてくれませんかね?
だけど、当然のことながら時間なんて止まらない。やっぱり神様なんていねーんだな。

10分くらい、郁彦は俺にしがみついてずっと泣いていて。
「ごめ、っ、っく、ごめん…、っ、僕」
「いいよ、喋るのは落ち着いてからで」

しゃくりあげた郁彦が落ち着くまで、また俺は郁彦の肩と頭を抱いてやっていた。
眼鏡に涙が付いてぐちゃぐちゃになっていたから、ティッシュを取って拭いてやるって言ったら、郁彦は素直に差し出した。俺は、はーっって、何度か息を吹きかけて、郁彦の眼鏡を拭いてやった。うわー、郁彦、もんのすごい目悪いのな。

「ありがとう。…笠原、あのね、僕ね」
俺は、その次に、信じられない言葉を聞いた。思わず自分で自分の頬を叩いたり抓ったらりしてしまったくらいだ。

「な、なにやってんの!」
「いや、これ絶対夢だ。都合のいい夢に決まってら」
「ど、どうしてそんな!せ、せっかく頑張って言ったのに!もう二度と言わない!」

「えええええええっ、ちょ、ごめんなさい!嘘ですほんとに!え、あの、土下座しますんで、もう一回言ってください、お願いします」
ホントに土下座しようとして立ち上がった俺の腕を郁彦が掴んで、座るように促された。そして。

「………僕は、笠原が好きです。友達としてって意味じゃなくて、恋人になりたいっていう意味で。……笠原のこと、考えると、此処が痛い。こんな傷より、ずっとずっとずっと、痛い。痛くて、苦しい。笠原のせいで」
『此処』って言いながら郁彦が自ら示したのは自分の胸。
…もしかして、俺って、そんなに愛されてたの?

「ごめんね、言うの遅くなって。…でも、むね君から聞いて、知ってたよね。僕達が、女ダメだって」
「う、うん。…俺も、ごめん。宗則にだけ、話して、お前に、直接、言わなくて。……アイツから、聞いてた?」
「むね君は、何回も話そうとしてくれてたんだけど、僕が、無理矢理話逸らしたりしてて。ちゃんと聞いて、ちゃんと話したの、実は昨夜」

さ、昨夜ってなんぞ。宗則と俺がお互いにカミングアウトしてメール交換したあの日から、1ヶ月経ってるんですけど。
まぁ、いいや、そんなことどうでも。結果良ければってやつだ。

「郁彦。……キス、していい?」
「ちょ!…その前に、ちゃんと、返事聞かせて!僕、せっかく頑張って言ったんだから!」
「…なにが?」
「なにがって、だから、僕、恋人になって欲しいって、言ったんだけど…」
最後の方は、消え入りそうな程小さい声になっていた。

「ばーか。嫌だなんて言うわけねーだろ!だいたい、お前は2回も、俺に好きだって言わせてんだろうが!」
「僕だって2回………」
不満を言いたそうな郁彦の顎を捕まえて、そのまま唇を重ねてやった。今度こそ間違いなく唇と唇だ。

一瞬、びっくりしたみたいに身体を固くしていたけど、すぐに背中に腕を回してきたから、舌を入れた。いつの間にか、郁彦の身体から力が抜けていって、唇がくっついたままずるずる移動していって、俺はソファに郁彦を押し倒すような格好になっていた。

「ちょ、あの、これは、あの、意図的にこうなったわけではなくて、狙って押し倒したとか、決してそういうわけでは…」
「僕、タチやったこと、ないんだけど、それでもいい?」
「あ、ああ、あう、うん!もちろん、うん、あの、俺、頑張る」
「良かった」

もう一度、今度は郁彦の腕に引き寄せられるようにして、俺達は唇を重ねた。長い長い、キスだった。
お互いの細胞を、ありったけ交換して、交換して、ようやく腕と首が痺れてきて離れる頃には、お互いの硬くなったものが、お互いの太腿あたりに当たっていた。早く早くって、せがむみたいに。

「シャワー、入ってもいい?」
「あ、ぁあ、いいけど。…入ってきたんじゃねーの?」
「そうだけど、なんか、いっぱい泣いちゃったから、顔も、洗いたいし…」

「俺、さっき入ったばっかりだから、待ってます!」
郁彦を脱衣所に案内して、タオルはここで、お湯はいつでも出るようになってますっていう説明をして。
ベッドルームでおとなしく待ってようと思ったのに、緊張でガチガチになって、なんかしないと平静を保っていられなくなって、とりあえず、宗則にメールを送った。
『おかげ様で付き合うことになりました』って。

宗則からは、すぐに『おめでとうだけど、テメー僕にメールしてる暇あったらその分1回でも多くふみ兄にちゅーしてやれー!こんちくしょー!』って、やっぱり可愛くない返信が来た。
『郁彦シャワーなんだよばーか!』ってもう一度送ったら、それっきり宗則からの返信はなかった。このっ、くそマセガキめ、シャワーだけでなに想像しやがった!…いや、多分、今から想像された通りのこと、するんだけどさ。
先に脱いで裸になってるっていうのもなんだか変な気がするから、本気で悶々とする以外にやることがない。

「あ、あの、遅く、なりました」
元素記号を順番に暗唱しながら、それでも一人で悶々と待っていたら、女の子みたいに身体にバスタオルだけ巻いた郁彦が、ベッドルームに入ってきた。
目の下が真っ赤。洗ったはずなのに。今日も泣いたもんな。できればもう、泣かせたくないと、思った。

あれだけ悶々としてたのに、さぁいざ!ってなると、なんだか緊張してしまって。隣に座った郁彦に、野獣のようにいきなり襲い掛かるのもなんだか変な気がして。
「あ、あの」
郁彦がベッドの上に正座したから、慌てて俺も、向い合って正座した。
「よろしくお願いします」
ペコって頭を下げた郁彦が可愛くてしょうがなくて、俺も『お願いします』って頭を下げたんだ。そうしたら、おもいきり、2人の頭がゴツンってぶつかった。

「イテっ!!…あわわ、郁彦、ごめん」
「っつ…………くすっ」
は?くすっ???
ぶつかった頭を撫でながら、不思議な音が聞こえたと思って郁彦を見たら。

郁彦は、今までに一度も見たことがないくらい、はっきりと、笑っていた。誰でもその表情の変化がわかるくらいに、顔全体で、すっごく綺麗な顔で。
「わ、わわ、わら……った」
くすっ、ってのは、郁彦が笑って、息を吐き出した音だったんだ。

郁彦の笑顔は、俺の心臓を鷲掴みして、二度と離してはくれなかった。
ええい、うるさい、静まれ俺の心臓!

「合うんだか合わないんだか、わかんないね、僕と笠原」
「な、何言ってんだよ!」
合うに決まってんだろ!って言いながら、俺は、郁彦に唇を重ねて、押し倒した。郁彦は、ぎゅうっと俺の背中に腕を回してくれた。

「なぁ、一個お願いしていい?」
「ん?」
「名前で呼んで。だーって、おかしくなーい?俺、あのマセガキ中学生にまで『敦史』って呼び捨てされてるのに、恋人が『笠原』じゃ」
「あ、う、うん。……敦史?」

あー、きた。股間にズシンときたんだぜ。やっと名前で呼んでもらえて嬉しい以外の言葉が出てこねえ!泣いてもいいかなぁ!
「愛してる」
郁彦の首筋に唇を押し当てながら、バスタオルを奪った。
細い身体が、ピクンと跳ねた。

「か…敦史、ゃだ、お願い、電気消して!」
「……なんで?」
郁彦の顔が見えないんじゃヤる意味ねーじゃねーか!…くらいに思ってる俺は、簡単には賛同しかねた。
「だ、だって…。さっきは上半身だけだったけど…」

身体を捩って、何かを隠そうとしている郁彦の言いたいことはすぐにわかった。太腿にあったのは、右腕のよりももっと新しい、触ったらそのまま開いてしまいそうなくらい、生々しい傷だった。
「安心しろ、俺たち医者になるんだぜ?傷痕や血くらい平気だ!」
「そ、そうじゃなくてー!」
「傷も、お前の悩みも苦しみも、過去も、ぜーんぶまとめて、愛してやるから、安心しろ!」

「そ、そんなの、困るよ…」
「困んねぇ。だいたい、お前の顔、見えなきゃやだもん。ヤる意味ねーじゃねーか」
「そ、そんなの、見なくていいよ!恥ずかしい!」
「だーめ。郁彦の全部、見たいから。…見せて」
「うー」

おっ、明らかにこれは困ってるんじゃないのか?郁彦の表情が読めます検定5級くらいにはなったか俺?
しばらく、何かを言いたそうにしていた郁彦だったけど、観念したみたいだった。
ぎゅうっと抱きついてきて、俺の耳元で、小さな声で。
「もう、好きにして」

「お、おう」
俺、頑張ります!
ちくしょー、それは反則だお前っ!可愛すぎんだろ!!!

俺たちは、何回も何回も、互いの身体を貪るように一晩中、愛しあった。
世界一幸せな、夜だった。






















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