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szene2-20 あまいものが食べたい


ここ数日、目立って郁彦の元気がない。雨続きのせいだけじゃないと思う。

「郁彦、なんかあったの?最近元気ないよ?」
聞いてもいいものかどうか、俺が散々悩んでたっていうのに、あっさりトシが直球投げやがった。

「うん、なんでもないよ」
「なにか、僕達で力になれることがあるかもしれないじゃない。話してよ」

俺なら引き下がってたところだけど、トシはナチュラルに食い下がった。恋愛感情がないせいか?いや、こいつの性格だよな。
「うん。……ありがとう」

とは言え、なかなか心を開いてくれないのが郁彦なんだよな。
そういうところも好きなんだぜ!っていうか、ほら、秘密があると知りたくなっちゃうじゃん。あんな感じ。

「あー終わった終わった!トシ、今日もバイトか?」
「そうだよ!なんか日数増やしてくれって言われちゃってさー!テストの成績良かったんだって!おかげで時給もあっぷあっぷ!超ウレシイ!」
「良かったじゃねーか!評判になればもちろん時給もどんどん上がんだろ?」
「だと、思うよー!」

郁彦が持ってきてくれる佐々木のおじさんのおかずと、俺んちの家事のバイトのおかげで生活楽だー!ってトシが喜ぶから俺も嬉しい。ま、うちは、毎日とか呼んであげられるわけじゃないけどさ。
「郁彦今日なんかあんの?」
「……うん」
うわ、なんかさっきまでより遥かに暗い顔になったんですけど。

「じゃーねー、敦史、郁彦、俺帰るねー!また明日ー!」
「おー!じゃーな、トシ!」

さて。
2人きりになったことだし、じっくり聞き出すとしますか。聞きだせるかどうかは別問題だけどよ。

「郁彦、話せよ」
「…なにが?」
なにがじゃねーだろ、そんな、今にも自殺しようかみたいな顔して。

「お前がそんな顔してると、気になるだろ」
「どうして?…って言うか、笠原。僕に優しくしないでって言ったじゃない」
うっ、やばい、負けそうになる。けど、これは、宗則曰く『それ以上優しくされたら、好きになっちゃうからやめて』なんだよな、そうなんだよな、うん。頑張れ俺!

「それができるなら、とっくにそうしてんだろ?」
「どうして?友達だろ?…僕が嫌がってること、しないでよ」
正論だ。うわぁ、どうしよう、困った。
顔は表情ひとつ変えないように頑張ってたけど、本当は、頭の中ではぐるんぐるん回ってて大量に冷や汗を流してた。

「友達だから、心配してんだろ?」
「必要ないって言ってるじゃないか」
吐き捨てるように言って、そのまま郁彦は校舎を出ていってしまった。

あー、完敗だー。
まったく、素直じゃないなー。甘えてくれればいいのになー郁彦。切ねー。

仕方ない、あんまり乗り気じゃないが、やっぱりこの手しかないか。
俺は、クソ生意気な中学生に電話をかけることにした。今度は何オゴレって脅されるのかなー。

宗則は、コール5回で、俺からの電話に出た。

『はいはい?』
「あ、あのさ、宗則。最近郁彦が元気ないんだけど、知ってる?」

『ふみ兄が元気ない理由?…知ってるけど、なに買ってくれんの?』
ほらな。このガキー!この平然とおごってもらおうっていう態度をだな、少しトシと足して半分に割ってだな、それで人並みだっつーの!
携帯を握りつぶしそうになるけど、郁彦のためだと思ってなんとか耐える。

『っていうかなー、今欲しいもの特にないんだよなー』
「ちょ、お前!なんか食べたいものとか!ないのかよ!」
こんな中学生に頭を下げるのが悔しいけど、コイツしか頼れないし。

『ねー、英輔君、なんか欲しいものあるー?……バイクだってー』
「ふざけんなコノヤロー!!」
つか、なんだってお前、あの変態外人と一緒にいるんだよ?そんな一緒にいるんだったら、お前がそいつと付き合えよ!

公衆の面前、学食で俺に告った高校生。郁彦いなくてホント良かったぜ。
おかげで俺は女駄目だって噂がまた、高校の時みたいに広まるかと思ったんだけど、英輔の見た目が完全に外人だったおかげで、なんか超曲解されて、『俺が外人の女の子に告白した』とかっていう噂が広まった。

その噂を耳にした郁彦が遠慮がちに、『こんなの聞いたんだけど』って、俺に言う前にトシに相談したらしくて、トシはあの現場にいたから、上手いことごまかしてくれたみたいだ。本当は、外人さんにいきなり告白されたのは敦史なんだよ、って。
それにしたって『外人さんは、敦史があんまり小さいから女の子だと思ったみたいだよ』って説明はどうなのよトシっ!くそ、人間身長じゃねーやい。郁彦も、それで納得すんじゃねぇ。泣くぞ、俺。

『ねぇ敦史、ライブメッセンジャーのアカウント持ってる?』
「ぁあ?…ねぇけど」
『アカウント後でメールで送っとくから、後で繋いで。僕今、忙しいから。じゃーねー』
「おいいいいいいっ!!!」

アカウント持ってねぇって言ってるのに、通話は一方的に切れた。1分後に、メールが届いたけど、本文に宗則のアカウントらしきメールアドレスしか書いてねえ。
帰って調べて、アカウント取るか…。

************

「いいなー宗則君。今の、敦史さんからの電話でしょー?」
文応大学の学食での再会以来、僕と英輔君は時々、会っていた。
「しょっちゅう電話とか、来るの?」

「いや、そんなことないよ。多分、ふみ兄になんか言われて、へこんでんだよ」
「でも、付き合ってるわけじゃないんでしょー?宗則君のお兄さんと、敦史さん」
「うん、絶賛敦史の片思い進行中!……だけど、多分、ふみ兄も、敦史のこと、好きだと思う」
「なんだよそれー」

目の前で、イケメンがテーブルに突っ伏してぐちゃぐちゃいじけていた。
近くを通る女の人がみんな、面白いくらい足を止める。2人以上いる場合はヒソヒソ話つきで。なんか超いい気分。
おまけに、沙羅ちゃんに聞いたんだけど、英輔君の制服って弘和学園なんだってさ。お坊ちゃんじゃん、英輔君。
ま、夏服になっちゃったから、僕も英輔君も、今はただの白シャツで、ネクタイがあるかないかしか上半身は変わらないけど。

「英輔くん、ポテト食べないの?もらっちゃうよ」
「いいよ、食べなよ」
「わーい」
中学生と高校生らしく、今日はファーストフードでダラダラ喋ってた。

「英輔君も、文応の医学部受験したら?」
「あそこの偏差値いくつか知ってる?」
「シラナイ」
「だよねー、まだ中学生だもんねー」
英輔君は、ため息をついて、またテーブルに突っ伏してしまった。

「だいたい俺、芸術学科なんだけどー」
「え?ホントに?じゃあ絵とか上手いの?」
「上手いかどうか決めるのは俺じゃないけど、描くのは好きー」
「まじー!じゃー今度、めーちゃん描いて!」
「いいよー」

やったぜ!っていうか、芸術学科とかなにそれ、英輔くん超カッコイイんですけど。ホントに同じ人間なの?
…まぁ、この、ぐちゃぐちゃ拗ねてる姿を見ると、やっぱり同じ人間なのかなって気はするんだけど。

「ねー、英輔くーん」
「なにー?」
「敦史に好きな人いるからって、敦史諦めるのー?」
「…だってー、仕方ないだろー?」

仕方ないで済む問題なのかな?少なくとも、僕は島本がどんだけ兄ちゃんに付きまとおうとも、兄ちゃん好きなの変わりないんだけど。兄ちゃんが僕より島本がいいって言うかもしれないけど、将来そんな可能性、絶対ないとは言い切れないけど、たぶん僕は諦められない。
「ふみ兄はー、元彼のこと、絶対忘れないよって言ったけど、敦史は諦めなかったよ?」
「宗則、くん?」

「諦めるのは簡単だけど、英輔君はそれでいいの?」
それでいいって言うんだったら、僕はこれ以上なんにも言わないんだけどさ。
「僕、そんなのやだな。…そりゃあ僕は、今まで、外で遊んじゃ駄目とか、プールも駄目とか。小学校の卒業式も中学の入学式も入院してて出てないし、いろんなもの諦めて生きてきたけど」

「宗則君?」
そうか、英輔君、僕の病気のこと、ほとんど知らないんだった。知り合ったのが暖かくなってからだから、英輔君は僕が発作起こしたところもなんにも見てないし。でもいいや、説明するの面倒だし。
「でも、自分の、好きだって気持ちくらいは、諦めたくないな」

「宗則君。……マセガキって、言われたこと、ない?」
「しょっちゅう言われる」
「だよねー」

なにが言いたかったのかは知らないけど、僕のおでこをツンツンしながら笑った英輔君は元気になったみたいだった。
「俺も敦史さん諦めんのやめる。ありがとね、宗則君」
そうこなくちゃ面白く無いよね。敦史とふみ兄がくっつくかくっつかないか、それ抜きにしても僕は英輔君と仲良くしたいし。せっかく見つけたゲイ友達かつボカロ仲間なんだから。

「ところで宗則君、聞いてもいい?」
「なぁに?」
「お兄さん元気ない理由って、なんなの?……それで敦史さん、電話してきたんでしょ?」
「ああ、それね」

先月からふみ兄は、車の免許を取りに行くよう言われて、自動車学校に通っていた。
それが、うちの父さんの車が、今時マニュアル車なもんで、マニュアル免許取りに行ったわけだけど、多分、上手くいかないんだと思う。
頭はいいからさ、学科はあっさり取ったんだけど、その後つまづいてるみたいだ。

「へぇ。…宗則君のお父さんの車って、なに?」
「インプレッサ。WRX STI スポーツワゴン」
「まーじー!!!!!色もちろん青?ほんとに?ねぇねぇ、それ、俺が免許取ったら、運転させてもらってもいい?」
英輔君の青い目がキラキラ輝いてる。さっきもバイクとか言ってたもんな、英輔君、車とかバイク、好きなんだ。ま、男なんだから珍しくないか。

「目の形って言ってわかる?どれか?ライトの形状なんだけどさ。もしくは年式とか…?」
「ああ、えっとね、タカ目」

「まーじー!いっこ前のじゃーん!まだ中古でも高いんだよねー!ってまだ俺、免許取れないけどさー」
「まぁ、車買い換えない限りは、大丈夫だと思うけど…。でもあれ、なんか運転するの大変みたいだよ?おじいちゃんなんか、絶対運転しないもん」

おかげで、ふみ兄はマニュアル免許を取りに行かされてるんだけどね。兄ちゃんじゃすぐ酒飲んじゃうし。
うちではおじいちゃんとおばあちゃん用に、プリウスでも買うかって話が最近良く出るようになった。じーちゃんとばーちゃんがふみ兄の学費用に貯めてたお金って、いったい全部でいくらあったんだろう。

「大丈夫、俺、免許取ったら、気合で慣れるから!」
「なんか、マフラーこんな太いのついてけっこうデカイ音鳴ってるよ。それ以外は弄ってないみたいだけど」
「おじさんと朝まで車の話してみたいなー」

それから、外が暗くなるまで、僕たちはファーストフード店に居座って、ボカロの話ばっかりしてた。
僕は、自分ちの車のこと以外はわかんなかったから、英輔君車の話は諦めてくれたみたい。
あとは、『もしかして宗則君って病弱なの?』って、ただそれだけ聞かれたから、僕はただ頷いただけ。英輔君は、微笑んで頭を撫でてくれた。

僕は歩いて帰るけど、英輔君は地下鉄乗るって言って、駅の階段前まで一緒にきて、またねって言って、英輔君はキスしてくれた。
なんか、最初が最初だっただけに、しないと僕が帰らないと思ってるみたい。いいけど。
だけど、今日はいつものと違った。

正直、唇と唇が触れ合うだけのやつ、要するにフレンチ・キスってやつなら、どこでしようと相手が誰だろうと全然平気なんだけど。
「てへっ、ごちそうさま、宗則君」
顔が熱い。らしくないってわかってるけど、止まらない。
BL漫画でよく、糸引いてるけど本当だったんだ。

「またメールするね。バイバーイ」
僕が何も言えずにいる間に、英輔君は地下鉄の階段を降りて行ってしまった。

な、なんだよ、たかがキスじゃないかっ!えっちしたわけじゃないんだから!

「で、でも、どうしようどうしようどうしようー!!」
なんだか急に恥ずかしくなって走った。喘息出ちゃうからちょっとだけど。この季節なら大丈夫かな。
苦しいのは喘息の発作じゃない、そうじゃない。

あんな超絶イケメンに唇奪われちゃった。知らなかった、キスってこういうものだったんだ。
よしっ、決めた!僕、英輔君にえっちしてもらえるようになるまで、頑張って誘惑しよう!

************

ふみ兄は、今にも首をくくりそうな暗い顔で帰ってきた。『ごはんいらないから』って、リビングに一言だけ、言い残した後は、部屋に引きこもっちゃった。
じーちゃんとばーちゃんは、北海道行っちゃったから、今僕しかいないんだよね。父さんと兄ちゃんまだ帰ってこないし。

父さんが帰ってきて、2人で晩ごはん食べる時に『ふみ兄ごはんいらないって言ってた』とだけ、父さんには伝えた。
僕は、なにも知らないふりして、お風呂入って部屋に戻って、それから、敦史にメールした。
『今なら繋いできてくれていーよ』って。

何も知らないふりっていうか、そもそも僕だってふみ兄本人になにか聞いたわけじゃないし。
むしろ一緒に住んでて、どうしてみんなわかんないんだろうって感じ。

すぐに、『お前オフラインになってんだけどー!』って返信があった。『ああ、他の人に割り込まれたくないからオフラインにしてあるだけー。繋がってるよ』って返したら、明らかに敦史だろっていうアカウントに話しかけられた。

「なんの話だったっけ」
『コラお前、忘れたとは言わせねーよ?』
「で、情報提供代金になにくれんの?」
『だからなにが欲しいんだよ!』

なにが欲しいって言われても困るんだよねー?
「とりあえずこれでも見なさい→http://www.nicovideo.jp/watch/sm3504435
『なんだコレ?』
「ミクさんだよーん」

4分ちょっと、敦史からは返信がなかったから、僕も動画巡りを始めてた。
『わかった!甘いものが食べたいんだな!!』
「あ、そうくるwww」

『甘いものでもなんでもわかったから、さっさと教えろよ!ふみひこ、なんであんな凹んでんだよ!』
「………あつし、車の免許、持ってる?」
『免許?…あるぜ?取ってから一回も乗ってないけどなー!』
「そーなんだー。ふみ兄、2月生まれだからさー、こないだ18になったばっかりでしょ?だから、今行ってるんだよー」

敦史からは、なかなか返信が入らなかった。

『2月の、なんにち?』
「24」
『ふみひこの誕生日GETだぜーーーーー!!』

それを、僕に聞くかどうかで悩んでたわけね、この馬鹿。
「敦史は?」
『俺?4/3。だからもう19歳だぜ』
早っ!入学式の前に19歳かよ、こいつ。つうか、ふみ兄と、まるまる1年近く歳違うんだ、学年一緒なのに。

『で、車の免許がどうしたんだよ?』
「あ、覚えてたの」
『一瞬忘れかけたわ!でも便利だな、ログ遡ればいいんだもんな!』
確かにそれもそうね、敦史に向いてるかも、このツール。

「マニュアル免許?それともオートマ専用?」
『ん?俺か?ミッションで取ったけど』
「難しいの?」
『うーん、不器用な奴は難しいかもー。つか、どうせ今時、ミッションの車の方が少ないんだから、オートマ免許でもいいんじゃね?』
そうか、ふみ兄、不器用なんだ。そういうことか。
そうだよな。将大なんか一発で取ってきたもんな。まぁ、兄ちゃんは運動神経も反射神経もいいんだけどさ。

「その、今時めずらしいマニュアルの車がうちにあって、それのせいで、マニュアル免許取れって言われてるんだけど、多分今日、仮免落ちたんだと思う>ふみにー」
『……凹んでた理由って、もしかして、それ?』
「そう。だから、ちょっと待てろ」

いきなり僕の部屋の扉がノックされて、一応僕は敦史との会話ウインドウを最小化した。
「宗則、入ってもいいか?」
部屋に入ってきたのは、お父さんだった。

「父さん、どうしたの?」
「うん。…宗則、郁彦君が落ち込んでる理由、なにか聞いてるか?」
父さんは、『ふみ兄がごはんいらないって言ってる』って、ばあちゃんに電話したんだってさ。

それで、『そんなのおかしい、心配だ、放っておけないから様子見てこい!』ってばあちゃんに言われて上がってきたらしい。
でも、直接ふみ兄の部屋の扉開ける勇気はなくて、とりあえず僕のところに来たんだって。

ていうか、どうしてみんな、僕なら知ってると思うわけ?
僕だって、直接ふみ兄に聞いたわけじゃないんだけど。

「直接はなんにも聞いてないから僕の推測だけど、ふみ兄、多分仮免落ちたんだと思うよ」
「ええ?なんで?」
「なんでって僕に言われたって、僕まだ免許取れる年齢じゃないから知らないよ。…オートマの免許じゃ駄目なの?」
父さんは、そこでようやく気づいたみたいだった。そういうものがあるってことに。駄目だこの人。

「でも、将大は簡単に取ってきたぞ?」
「父さん。誰だって、得意なものと、不得意なものがあるでしょ?僕も運動苦手だから、多分不得意な方だと思うよ、今から言っとくけど」
「…そうだったのか」
そうだったのかじゃないよ、まったくもー。

「どうせさー、ふみ兄がマニュアル免許取ったって、みんなで旅行行くならレンタカーでしょ?だって父さんの車5人乗りでしょ?だったらいいじゃん、オートマで」
「宗則、ありがと!郁彦君に謝ってくる!………………から、宗則、ドア、開けてもらってくれる?」
「…………とーさん」
別にふみ兄怖くないのに。最悪モノが飛んでくるだけじゃないか。何が飛んでくるかわかんないから、ばあちゃんはやめたほうがいいけどさ。
僕は仕方なく、重い腰を上げた。

「ふみ兄、入るよ〜?」
返事はなかったけど、勝手に扉を開けた。モノは飛んで来なかった。

部屋の電気も点けずに、ふみ兄は膝を抱えて泣いていた。
一体、いつからそうしてたって言うんだろう。きっと、帰ってきてからずっとだよな。

「郁彦君!…ごめんな、おじさん気づかなくて!」
「おじ、さん!…僕、こそ、ごめん、なさい、お金、出して、もらったのに」
しゃくりあげる程泣いて、ふみ兄は目が真っ赤だった。

「そんなのいいんだよ!もっと早く言ってくれれば良かったのに!」
「ごめ、なさ、い、っく」

あとはもう、放っておいても大丈夫だよね、たぶん。
………あ、敦史忘れてた。

慌てて自分の部屋に戻ってメッセンジャー最大化。
「ごめん。でも、終わったよー!」
『むねのりくんまってた!!なにがあったのよ!!』

すぐに返事が飛んできたってことは、敦史ずっと待ってたんだ、意外と健気なヤツ。
「父さん来て話したからー、多分ふみ兄はオートマで免許取ることになると思うー。すっげー泣いてたから、慰めてあげて。多分目真っ赤だから、明日」
『お、おおおおおおお、おれでいいのか?俺、今日も、優しくしないでって言われたんだけど?友達なら、友達が嫌がってることするな、とも』

ふみ兄頑なだなー。もう素直になっちゃえばいいのに。深谷君と敦史なら甘えちゃっても大丈夫だっての。
「敦史が心配してたから、ちょっとだけ僕から話したよって、言っといてやるよ」
『神様仏様宗則さまーーー!ありがとう、あいしてる!』
「敦史の愛なんていらないよ馬鹿ー!」

『あとで!後悔するわよ!』
お?このフレーズは!
「当然です、だって私は!」
『せかーいで一番おひめさま!』

ちゃっかりハマってやんの。やっぱ頭いいやつは歌詞覚えるのも早いんだな、サイコーだよ敦史!
敦史とのチャットは、そこで終わりにした。さて、隣の部屋か、1階か。ふみ兄のとこ行って、僕はもう一仕事かな。
感謝しろよ、敦史ー!








sm3504435もタイトルも、「世界で一番おひめさま」ですぜ。













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