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scen1-25 カワイイが止まらない


「別にね、お似合いだから、いいと思うんだ。…でも、なんか、つらいんだ」
エーベリトのぶかぶかの寝間着を借り、ムネレイサスはベッドの上に座ってぽつりぽつりと語り始めた。エーベリトから、アレクシがいかにカッコイイか!を延々と聞かされ、黙って聞いていたら唐突に、『次はムネレイサス様の番ー!』と言われ、話さざるを得なくなったのだ。

「そりゃ、僕みたいなガキに好きって言われても困ると思うし、どうこうしたいとか、そういうのも、考えたことはなかったんだけどね」
「そんな、ガキだなんて、今小さいだけじゃないのー?だって、13歳と18歳だから、歳の差感じるんでしょ?これ、50歳と55歳だったらなんにも感じないよ?」

「そうかもしれないけど…」
そんなふうに言われたのは初めてだった。

これまで、誰にも言ったことはなかった。
初めてあの人に会ったのは、3歳か4歳だったと思う。
不思議と、あの人だけは、怖くなかった。だから、自分から話しかけることができた。『遊ぼう』って。

それからずうっと、密かに憧れつづけてきた。どうこうしたいとか思ったことがないのは本当だ。だって多分、まだ自分は、男としても、見てもらえていないだろうから。

エーベリトなら知られてもいいような気がして、相手の名前まで言ってしまった。シャンナ王女、アンティアナ様。
「俺、シャンナ行ったことあるよ。あそこは暖かいよねー」
「うん。ほとんど雪なんて降らないんだって。いつ、行ったの?」
そりゃ自分も、何度か行ったことはあるが。国王の公務にくっついて。いや、むしろ、お祖母様に連れられて、というべきか。

「俺の母さん、シャンナ人なんだー。だからねー、実は何回も行ってる。こんな髪の色で生まれてきたのも、母さんに似たからみたいー」
純粋なリベラ人にはあまりいない色だと思ったが、やっぱりそうだったんだ。

「でもさぁ、アンティアナ様って、第1王女じゃなかったっけー?マルティアス様はぁ第1王子でしょー?結婚できなくなーい?」
「…え?」
「シャンナは、お母さんから娘に王権が継承されるのー。だから、シャンナの女ってすっごく強いんだよ?うちの父さんはリベラ人だけどね、うちの親は喧嘩したら、父さんがいっつも謝ってるー。そういう意味じゃー、うちの父さんはあんまりリベラ人っぽくないかもー。でも、次男だから仕方ないのかなー?」

エーベリトの父親が次男だからなのかどうかは置いといて、なんとなくわかるような気がした。アンティアナも、『凛とした』なんて言葉が似合うような、そんな雰囲気を醸し出している。

「第1王女だからアンティアナ様、次の女王じゃーん。なーに、マルティアス様は、王位継承権放棄して、お婿に行くつもりなのー?それともアンティアナ様がお嫁に来るのー?確か妹はいた気がするけどー、まだ小さかったような…」
「そ、そんなの、駄目だよ!!」
つい、言葉尻に力が入ってしまったムネレイサス。

「ぼ、僕もどっちかって言うと放棄したいって思ってて、エルメル兄上もいらないって、暴れた末に王宮警備隊に入って。フレデリク兄上は僕よりずっと頭いいんだから、フレデリク兄上こそ、医者とか研究者とかになった方がいいよ。だいたい、マルティアス兄上は、将来国王になるために、法律の専門家になったんじゃないの?国を治めるために、法律、専攻したんじゃないの?」

ムネレイサスは、次の王太子、つまり、次の次の国王はマルティアスしかないと、無条件でそう信じていた。だから以前、『誰がなろうと、自分には関係ない』なんて言った兄の言葉が信じられなくて、覚えていたのだ。

「俺、そこまでは知らないよ。でもね」
それまで床に座っていたエーベリトがムネレイサスの隣にきて、肩を抱いた。

「ムネレイサス様、粘れば勝てるんじゃない?だって、あなたは4番目でしょ?あなたがシャンナに婿に行くって言っても、多分誰も反対しない。俺が寂しいからヤダーって泣くくらいかなー」

「エーベリ………」
顔を上げたところで、下顎を掴まれて唇を重ねられていた。
深く、舌を絡め取られる長い口付け。

「んっ、ふ、…ぁ」
唇がようやく離れたとき、かくんと力が抜けて慌ててエーベリトに支えられた。なにかが、とろけたような気がした。
「ごめーん。あんまり可愛いから、我慢できなくなっちゃった」
「か、可愛いとか、言われても、僕だって、男なんだから、嬉しく、ないもん」
「えーっ、どうしてぇー?俺、アレクシ様も可愛いと思うしー、男だって可愛いってありだよー!」

アレクシって、僕の見た感じ、相当筋肉質で頑丈そうな身体だったけどなぁ…。身長は低いかもしれないけど、少なくとも、『可愛い』カテゴリに入る人じゃなかったような…?いや、エーベリトにしか知らないアレクシの可愛いところがあるのかもしれないけれど。

「あと、そうそう、あの人!オルヴァーさんだっけ。あの人も可愛いよねー」
「……女子力高すぎて嫁が来ない、マルティアス兄上大好きなドMの29歳が?」
エーベリトの『可愛い』の根拠がいまいちよくわからない。

「ムネレイサス様、ここだけの話ねー。あの人さー、俺のこと見たことあるとか言ってたでしょー?実はねー、ホントに1回俺たち会ったことあったりするんだー。俺も気づいてたけど、知らないフリしたのー」

「……へっ?…どこで?」
口説かれたとか新手のナンパ?なんて、あんなに嫌がってたのに。
「それはナーイショ。でも、多分そのうちバレちゃうけどー」
じいっと、ムネレイサスはエーベリトを見つめた。そう、可愛かっただなんて、自分にいとも簡単にキスしてくるようなエーベリトなら、有り得るかもしれない。

「…まさか、縛って、踏んだ?」
「えー?なにそれー!」
「いや、えっちしたのかと思って。…けっこうオルヴァーもエーベリトも軽そうだし」
好き嫌いの境界線ははっきりしているけれど、その線の此方側、『好き』に入る人だったら、案外簡単に身体を許しそうな雰囲気が2人に共通しているような。勝手なイメージだけど。

「ひどーい!!……でもね、裸は見た。えっちはしてないけど、全部見ちゃったよー」
「ますますわかんないっ!!」
「言っとくけど俺、そんなに軽くないからねー」
言いながら、ムネレイサスを自分の膝の上に乗せ、再びエーベリトは唇を重ねてきた。

(言ってることとやってることが違うんですけど…)
でも、さっきもそうだったけど、嫌じゃない自分が不思議だった。
いつも無理矢理されている時は、気持ち悪くて気持ち悪くて、早く終われとしか思わないのに。キスされて力が抜けてしまうなんて、初めてだった。

「ムネレイサス様。…俺、ムラムラしてきたー」
「へっ?」
気がついた時にはもう、ムネレイサスはエーベリトに押し倒されていた。
「ねぇ、えっちしよー?」
「ちょ、やだ、そんな…」
覆いかぶさられるのが怖い。エーベリトだって、わかってるけど怖い。やめて、離して、変な薬使わないで。

「でもー、ムネレイサス様に無理させるわけにいかないからー、俺が下でいいからー」
覆いかぶさってきたエーベリトに、そのまま抱かれるんだと思った。だけど、あっさりエーベリトは両手を離し、ムネレイサスからも離れて、照れくさそうに言った。

「上の方が好きって、こないだ、言ってたよね?」
「あ、覚えててくれた?でもー、ムネレイサス様に無理はさせられないもーん。お兄さんみたいな体型になったら、容赦しないけどー。ガッチリ筋肉質を抱くのはだーいすき」
「まぁ、確かに。僕、筋肉質じゃないから、どっちでもいいんだ」
「そういう意味じゃないよー!」
だから俺が下でいいよと言われても、何をしたらいいのかわからないムネレイサスである。

「……てゆーか、ムネレイサス様、したことある?」
「一応…。ないことはない。下、ばっかり」
だったら下でって言われるかなと思ったけど、正直に答えた。
「じゃあ、上は俺が初めて?よっしゃやろう!寝てていいよ!俺が動くからっ!」

「…は?」
「もう俺、駄目っ!破裂しそう!気が向いたら触ってくれるとかでいいからっ!」
呆気にとられている間に、エーベリトは全裸になり、ムネレイサスの寝間着を下ろして中心に唇を這わせた。さっきからの濃厚なキスで、しっかりとそこは、大きくなってしまっていた。

「なんだー、ちゃんと反応してたー!嬉しいー!ちょっと待ってねー、慣らすから」
謎のクリームを取り出したエーベリトは、自分で後ろを解し始める。ベッドの下半分でそんなことをしているものだから、押し倒された体勢のままだったムネレイサスから、その行為は丸見えだった。

「ぁ、は…っ、んっ、ふっ」
「エーベリト。……エロいよ。けっこういい身体してるし」
「えへっ。ちょっとはムネレイサス様も、ムラムラしてくれた?」
「……うん」
上体を起こしてエーベリトに、今度はこちらから唇を重ねた。
彼となら、してもいいと、多分怖くないと。ムネレイサスは、そんな気がしていた。

「もう我慢できないから入れちゃうよ?」
ぬるぬるのクリームを塗られて、そのまま、エーベリトがのし掛かってきた。
「ぁっ、はっ、やぁん、んぁっ、気持ちいいっ」

「きっつ…!」
やっぱり慣らし足りなかったんじゃないの?と思いながら、自分の上で腰を振るエーベリトを見上げていた。
唐突に、さっきの女の子達が見たらどう思うんだろう、なんて考えがよぎる。あなた達が大好きなイケメンが、真っ赤な顔で、汗いっぱいかいて、僕の上で腰振って喘いでますけどっていう。

「ねぇ、エーベリト」
「ふえ?」
少し余裕が出てきて、思い切り下から突いてみた。

「やぁあああん、だめええ」
「可愛いのはどっちだよー」
どうしたらいいのかな。そうか、腰を掴んで、抱っこするみたいにして、そうそう、これで下から突いてあげればいいのかな?

「やだやだ、だめぇえっ、出ちゃうよ出ちゃう―!ばかばかー!」
ベッドの弾みを利用して、下からずんずん突き上げていたら、エーベリトが泣き声を上げた。
(そういえば、前触ってもらった方がイキやすかったような気がする)
自分の腹の前で、痛いくらい張り詰めたエーベリトの中心を掴んで、上下に扱き上げると。

「ぁあああああん」
ぶるぶる身体を震わせて、エーベリトは達していた。がっくりと力の抜けた身体がのし掛かってくる。
「お、重たい…、潰れる…」
そこはさすがに、体格差があるところだった。

「ごめんね、重いよね」
はぁはぁ荒い息で、エーベリトはなんとか、ムネレイサスの横にずれて、倒れこんだ。
「ってゆーかー、ムネレイサス様イってないでしょー!」
「あ、うん。…なんか、ビックリしてるうちに、忘れちゃった」
「俺ー、最近後ろ使ってなかったからなー。ホントはこんな早くないんだからー」

なんか、怒ってるみたいだけど、すっごく可愛いと思う。そうか、男にも可愛いはアリって、こういうことなのかもしれない。
「…逆、する?それとも、もう一回?」
2人並んで横になって、身体をくっつけながら言ってみた。

「両方!!」
エーベリトが覆いかぶさってきて、また深い口付けをくれた。
全然怖くなかったし、嫌じゃなかったし。それになにより。初めて、気持よかった。


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