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scen1-14 救出作戦


ユスティーナの話によると、オルヴァーが連れて行かれた14年前から、迎賓館の間取りは変わっていないという。そもそも、古いダンスホールか何かを改装した建物らしいから、そうそう簡単に中を弄れないらしい。

「爆弾で建物ごとふっ飛ばしてやりてーわぁ」
「そんなことしたら、新しい迎賓館が建つだけじゃないか。…今度は、隠し部屋の数が増えるんじゃないかな」
「俺もそう思うからやってねーんだけどよ」
迎賓館まで向かう馬車の中で、オルヴァーは、ユスティーナに見せられたことをかいつまんで話した。

「ヘンリク様は、確かに火属性だったと思うよ」
「間違いない、か」
公爵家の長男ヘンリクも、悪い噂には事欠かない人物である。が、家柄のせいで、彼の横暴が訴えられたり、明るみに出たことはない。

「これは俺の想像でしかないが、今の話だと、ヘンリク様は催眠術を使えるのか?それも精霊の力なのか?手強いな」
「多分だけど、目を合わせなければ、催眠術にかかることもないような気がするんだ」
だから今回持ってきた爆弾は、爆発の威力より、爆発後に煙が大量に出るタイプのものを持ってきたのだった。

「お前んちって、何代か遡れば王族いるんじゃなかったかよ?なんでお前精霊使いじゃねーの?」
「今更そこかっ!」
ヘルゲは呆れて目の前の友人を見たが、案外オルヴァーは真面目な表情をしていた。

「だって、今更とか言われても、俺には縁が無さすぎて知らねーし。マルティアス様のお陰で、見えるよーにはなったけどさ」
何度もマルティアスと身体を重ねているうちに、力が移ったのだ。それは、マルティアスとそういう関係になる前に聞かされていた。力が移って、精霊が見えるようになるかもしれないと。

「実は、あまり血筋は関係ないらしいよ」
「はぁ?」
いやいやちょっと待て。リベラメンテの精霊使いって言ったら、イコール王族の代名詞じゃねーのか。王族が否定したって、世間はみんな、そう思ってる。

「必要なのは血筋より、相性とか、素質らしい。だからオルヴァー、君にだって十分可能性はあると思う」
「相性?素質?なんだそりゃ」
血筋と言われれば素直に諦めもつこう。努力と根性だと言われれば、なんとかやってやるしかない。しかしその、得たいのしれない相性とか素質とはなんなのだ。
自分の力でどうにかなるのか、ならないのか予測すらできない不可解なもの。それはオルヴァーが一番苦手なものだった。

「簡単に言うと、森で死にかけさえすれば、オルヴァーにだって精霊の力が宿るかもしれないらしいんだよ。俺も、森で死にかけた経験はない、そういうことさ」

森で行方不明になった人間が、無事に帰って来たら精霊使いになっていた…というのは、確かによく聞く話ではあるが、都市伝説のようなものかもしれない。

「森で死にかけさえすればって、本当にそんな単純なものなのかよ?」
死にかけただけで帰って来れればいいが、そのまま命を落としてしまっては全く意味がない。普通に考えて、死にかけから帰ってくるより、そのまま死ぬ確率の方が格段に高いはずだ、あの森は。

「さぁ。俺も経験ないから知らないよ。…さて、着いたみたいだ」
2人は話を切り上げ、目的地の少し前で馬車を降りた。

「どうやって中に入る…?」
当然のことながら、迎賓館の入り口には警備兵が2人立っている。
「何を言ってるんだ。貴族の会議やパーティのために、開かれた施設、なんだろう?」
ヘルゲは堂々と胸を張って、門番の前に歩いていった。

「何者だ!」
当然、止められてしまう2人である。

「ヴェスティン州アグレル領主、ダールクヴィスト伯が嫡男、ヘルゲ・ユハ・ダールクヴィストだ。これは私の従者である」
言って、ヘルゲは首元から自分の家の紋章の形をしたペンダントを取り出して見せた。由緒正しき、最も古くからの一族しか使うことを許されない、百合の花と港町アグレルを現す船が刻まれた紋章に、門番達はハッとなる。

「失礼致しました!」
門番達は慌てて槍を引き、2人は堂々と中へ入ることに成功したのである。
「本物のお坊っちゃんはすごいねぇ」
「初めてこいつが役に立ったよ」

自分の家の印を数秒間まじまじと見つめた後。
「この先は君しか知らないんだ、頼むよ、オルヴァー」
「任せとけ」
再び、服の下にそれを隠し、気を引き締めた。

************

目が覚めた時、身体が動かなかった。縛られているのだと理解するのに、さほど時間を要しなかったのは、視界に最初に飛び込んできた人物が、よく知った人物だったからである。

「久しぶりだね、ムネレイサス様」
「パートリク先生」
「君がいなくなってから研究所への寄付金が減ってねぇ。それじゃあ困るんだよ。君も、わかるだろう?」

手足を縛られて、寝かされているこのベッドから判断すれば、ここは間違いなく迎賓館の隠し部屋である。もう1人、誰かが部屋の隅にいるのはわかるが、わずかに視界の外で顔が見えない。でもきっと、自分の部屋の暖炉の炎の中から突然現れた、ヘンリクじゃないだろうか。ヘンリクが突然現れた、その後の記憶はない。現在の状態から、攫われたんだろうということは嫌でもわかるけれども。

寒冷地に位置するこの国で、寒さに強い食物の開発は死活問題であった。10年以上かけて、この分野の研究をしてきたのが植物学研究所のパートリクであり、第一人者と呼ばれていたが、あまりめざましい成果はなかったらしい。その彼の、10年に及ぶ研究の成果を、あっという間に追い抜いて、栽培技術を完成させてしまった12歳の天才、それがムネレイサスだった。

怨まれたり妬まれたりするのは仕方ないのかな、と思う。第1王子の側近に抜擢されただけで、未だに妬まれてるって、オルヴァーも言ってたし。

『大人を馬鹿にするからこういう目に遭うんだよ!』
馬鹿にしたことなんて一度もない。けれど、口の中に布を突っ込まれていたから何も言えなかった。
「んー、うー、んんー!」
先生は、何度も何度も力ずくで自分を押さえ付け、無理矢理身体を押し開いた。力に劣る子どもの身体を捕まえるのは簡単だっただろう。

そして、そのうち、研究所の資金集めのためのパーティに参加させられるようになった。パーティ会場は、迎賓館という建物で、そこで、主に自分と同じくらいの時期に研究所に入った、若い研究者が、身体を弄ばれていた。研究費を得るためという名目で、研究所ができた時からの伝統だなんて言われたら、抵抗することは許されなかった。

「どうやら到着された、ようですね」
視界のぎりぎり外、部屋の隅にいた人物が言葉を発した。

「君の頑張り次第で寄付金の金額が決まるって言うんだ、しっかり頼むよ?」
口元を醜く歪ませて、先生は笑っていた。お陰で、到着した人物が誰なのか、言われなくてもわかった。

未成年、それも成人直前期の10歳から14歳の少年を特に愛するという性癖を持つ、法務大臣に間違いない。法の番人であるはずの人物が、進んで法を冒す。これほどおかしい笑い話もないだろう。
「久しぶりだね、会いたかったよ」
太った身体と白い髭を揺らして大臣が現れた。

************

迎賓館の主の部屋で、ソファに横たわりながら女を侍らせ、ヘンリクはお酒を飲んでいた。
本来なら、今後の弱味を握るためにも客の痴態を見届けねばならないのだが、すでに飽き飽きして、代わりを呼んだところだった。

「なにをしているのだ、ヘンリク」
「案外早かったですね、父上」
床から姿を現したことに対する驚きはない。

「毛も生え揃わないようなガキがいいっていう嗜好がどうしても理解できませんよ。気持ち悪くなってしまいまして」
ヘンリクが代わりに呼んだ人物こそ、迎賓館の真の主、グランクヴィスト公爵であった。

「まぁそう言うな。大臣は上客じゃないか。…私も、少年嗜好は全く理解できないがね」
ヘンリクはどうせなら女が良かったし、ステーンの方は、もし男でと言われたならば、多少無茶をしても壊れない、頑丈な身体つきの青年が良かった。

「そうそう、父上、お呼びしたのはそれだけではないのです。先ほど、ダールクヴィスト伯爵の息子が訪ねて参りました」
「ほう、珍しいな。初めてか?」
ダールクヴィスト家は、建国の歴史に関わるとまで言われる、由緒正しき名門の旧家である。一都市の領主でありながら、その貢献度から各州の代表と同じくらいの強い権限を特別に与えられているような家だ。貢献度というのは、人口リベラメンテ国第2位の街であるという実績、港町であるがゆえめざましく発展した経済。常に最先端の技術と流行はアグレルから生まれると言っても過言ではない。しかし、そのような境遇でありながらダールクヴィスト伯本人に、あまり中央の政治に進出しようという気はないらしい。

「従者を一人連れていたそうです。従者の名はわかりませんが、身長約2mでガッシリした体型、髪の毛は俺と同じくらい。門番が言うには年の頃は20代後半かと」
「ほう」

ステーンは興味深そうな顔をしながら、息子の前のソファに座った。
「ダールクヴィスト伯爵の息子が、何をしに来たかは知りません。彼には第4王子を助けに来る理由がない。彼と第4王子には接点がない。ただ、彼が連れていた従者というのが」
「オルヴァー・ライルならば話は別、か」

「彼なら、隠し部屋も覚えているでしょうからね」
ヘンリクはオルヴァーやヘルゲの一つ年下だったが、ここでなにがあったかは知っていた。
というのも、オルヴァー・ライルは、この、今目の前にいる父が、随分気に入って何度も呼んだ挙句、自分のところの従者にしようと画策までした人物と聞かされていたからである。

「そうそう、今回の依頼主のあの学者ですが、よっぽど焦っていたのかなんだか知りませんが、第4王子をここに連れてきて欲しいという内容でしか契約してません。ガキ相手で俺もさすがに気が引けて助言する気もありませんでした」
「なるほど。…では、途中で誰かに攫われても、我らに責任はないということだな」
「その通りです」
2人がそこまで話した時、明らかに2階の、隠し部屋のあたりから爆発音が響いた。

「…お前、助けが来るように、攫った証拠をわざと残したんじゃないだろうな」
「まさかまさか。公爵家の建物に侵入者だなんて一大事だなぁ」
棒読みのヘンリクは立ち上がろうともしない。

「…まぁいい」
侵入者の顔を見てこようと言い残して、ステーンは部屋を出て行った。

************

薬を飲まされてから30分、身体を戒めていたロープはほどかれたが動けない。そのくせ、感覚だけはしっかりと残っている。

「相変わらず美しい絹のような肌だ、たまらないね」
舐め回される。気持ち悪い。無理矢理指で押し開かれた後は、もちろん大臣の中心が入ってきた。

「ぁっ、いや、んんっ、あ、いやっ」
薬のせいか痛みはない。すっかり抱かれることに慣れてしまったせいかもしれない。だけど、そこにあるのは嫌悪感だけだった。喘ぎ声のようなものは出るが気持ちいいわけじゃない。むしろ気持ち悪い。

最初の頃は、ずっと泣いていたが、今はもう、涙なんて枯れ果てた。

3回ほど、大臣に注がれた後は先生の番だった。抵抗する気力もなくてされるがままになっていると、不満なのか思いきりひっぱたかれた。口の中に血の味が広がる。

先生はいつも、たいして上手くもないくせに、僕をイカせたがった。
「いや、あ、ああっ!」
うつ伏せで、頭を押さえ付けられて呼吸が苦しくなる。頭が酸欠で真っ白になって、前と後ろを同時に刺激されて、わけもわからないまま、僕は達していたみたいだ。

いつの間にか、さっき部屋の隅にいた人物はいなくなっていて、今ここには3人だけ。見張りもいないなんて珍しいな。僕の後ろでは、先生が狂ったように罵りながら僕を犯してる。時々尻をひっぱたかれて僕が悲鳴を挙げるのが、楽しくてたまらないらしい。

年のせいか身体が重たいのか両方なのか知らないが、ふーふー荒い息を上げて休憩していた大臣が再びやってきて、僕の前に座った。

「上の口にも挨拶しておかなくてはね」
「んふうっ…!!」
再び上を向いていた大臣の中心を、喉の奥深くまで突っ込まれた。苦しくて苦しくて、涙が溢れてくる。

「大臣、凄いです。こいつ、中が、痙攣して…んくっ!」
「まったくなぁ。王子なんかじゃなければ、私の屋敷で、毎晩でも可愛がってあげたものを」
冗談じゃない。できれば一生、こんなこと知りたくなかった。

喉の奥にも熱いものが注がれた。ただ、量はさすがに少なかったが。
2人がほぼ同時に達して、これで終わりなんて甘い考えは持っていない。多分、いつも通り朝まで解放してもらえないんだろう。
誰も助けになんて来ない。行為が早く終わることを祈るくらいしか、自分にはできない。

それが、この日は違っていた。
突然、扉が開け放たれたかと思った瞬間の爆発と閃光、そして煙。
(なんだろう…?)
予想外の出来事が起きたって、指1本、自力で動かすことはできなかった。

「大丈夫ですか?しっかりしてください」
大臣を張り倒してから、声をかけてくれた人は知らない人だった。なぜ?誰?どうして?と思ったけれど、声も出ない。ただ、その人の向こうにうっすら見えた、煙の中で先生を蹴り倒したのは間違いなくオルヴァーだった。

「…助けって、来るものだったんだ」
安心してしまった。こんなことがあるんだって。張り詰めていた気持ちが、切れて、僕は意識を失った。


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