□title list□
 ※水色部分にカーソルを合わせると
 メニューが出ます

診断メーカーさんがまたやらかしてくれたので。

オオクニヌシが恋だと気付いたのはどうでもいいことで嫉妬したとき です。
https://shindanmaker.com/558753

国造り初期、まだ清い関係のオオクニヌシとスクナヒコ。コトシロヌシがまだ生まれたばっかりの時代捏造です

好きだなんて言えない


因幡からの帰り道だった。突然の大雨に降られてオオクニヌシとスクナヒコは、山道を走っている最中に見つけた山小屋になんとか駆け込んだ。

「ひっでぇ雨だな。こりゃーやむまで大人しくしてた方が良さそうだ」
脱いだ上衣と袴を玄関口で絞りながらスクナヒコがぼやく。躊躇なく体にぴったりとしたインナー1枚になったスクナヒコを見て、オオクニヌシは一瞬、上着を脱ぐ手が止まった。

一緒に風呂に入ったことがあるのだから、スクナヒコの細くて小さい身体は知っている。そもそも、普段から露出が多い服装を好んでいるのだから、今更気にするようなことでもないのだって、わかりきっている。もやもやした感情を悟られないように、オオクニヌシもすっかり水気を吸って重たくなってしまった上着を絞った。

「長引きそうだな」
「そうだなぁ。……非常食足りるか?酒ならあるんだけどよ」
こんなときまで酒の心配をするスクナヒコがあまりにもらしくて、オオクニヌシはついつい口許が緩む。

「食べ物の心配はいらない。だから、今夜はここに泊まることも考えた方がいいだろうな」
「そっか。……コトシロヌシ大丈夫か?」
真っ黒い雲に覆われた空を見上げながら、スクナヒコがぼやいた。雲の流れが早い。今にも雷が落ちてきそうな、そんな雲だった。

「母上にお願いしてきたから、大丈夫だと思うが」
「それはそーなんだけどよ、おれたちの帰りが遅くなると、つまり、クシナダヒメが帰るのも遅くなるだろ?」
スクナヒコが言わんとしていることがわからずに、黙って首を傾げる。

「そうなると、心配したお前の親父が迎えに来るんじゃないかと思ってな」
「それは確かに……」

過去の行いが悪すぎて、未だに孫を抱っこさせてもらえていないのがスサノヲなのである。時々隠れてこっそり、コトシロヌシを抱こうと近づいているが、ことごとく誰かに発見されて、機会を逃している。オオクニヌシとスクナヒコがいない今は、クシナダヒメが諌めてくれると信じるしかない。かつて、アマテラスが岩屋に隠れるほどの暴れん坊だったスサノヲも、クシナダヒメの言うことなら大人しく聞くというのだから面白い。

「帰ったらいっぱい遊んでやらなきゃな」
雨宿りは出来たものの、自分達も大変な状況だというのに、出雲に残してきたコトシロヌシの心配をするスクナヒコにちょっとだけ腹がたった。いや、スクナヒコが心配しているのは自分の息子なのだが。

今夜の衣食住はとりあえず確保できたとは言え、いつやむかわからない激しい雨。風も吹き荒れている。そしてなにより、せっかく今二人きりなのだから、もう少し自分の心配をしてくれてもいいのにと思ったところでオオクニヌシは、はたと思考を止めた。

(なんだこれは……これじゃまるで、心配してもらえるコトシロヌシに嫉妬したみたいじゃないか)
突然口許を抑えて黙ったオオクニヌシを、スクナヒコが下から見上げてくる。

「どーしたんだよ?具合でも悪いのか?」
「……いや、なんでもない」
下から上目遣いで覗き込まないで欲しい。ただでさえきれいな顔が今は凶器にしかならない。
「なんか顔が赤ぇぞ?熱でもあるんじゃね?心配するな、おれは医療の神でもあるんだからな」
どれ、見せてみろと、窓際から部屋の真ん中に引っ張られる。小さな手のひらが、額や頬に触れて様子を伺うように顔と顔が近づいた。

意識しているのは自分だけなのだろう。不思議そうな金色の瞳に映っているのは今は自分だけだ。
このまま抱きしめてしまいたい。抱きしめて、好きだと言って、口づけてしまいたい。でも、そんなことはできない。行きずりの女神相手ならいくらでも、気の利いた台詞が出てくるのに。

「風邪でもひいたかな、これだけ濡れたしな」
ふっと微笑んだスクナヒコがオオクニヌシから離れていく。オオクニヌシはふうっと深い溜息を吐いた。あれ以上、近くにいたら、なにをしでかしていたか、わからなかった。

「一応布団はあるみてぇだな。よし、今日はもう、酒飲んでさっさと寝ようぜ」
おそらく、定期的に誰か、山の神が来て手入れしているのだろう。無人の山小屋にしては上等な布団が、押入れの中に積まれていた。

「俺がやろうか?」
「ああん?チビだからって馬鹿にすんじゃねーぞ?」
「そういうつもりじゃないぞ」
とは言っても、押入れの上段に入っている布団は、スクナヒコの身長より上まで積んである。

「ここは役割分担だ。俺が布団を用意するから、君は晩酌の準備をしてくれないか?酒なら、あるんだろう?」
「しょーがねぇな」
口ではそんなことを言いながらも、スクナヒコは厨房から見つけてきたちゃぶ台に、いそいそとつまみや酒を並べ始める。スクナヒコが好む、上等できつい酒の香りが、湿った部屋に広がった。

「案外ちゃんと生活できそうだな、ここ。万が一この天気が長引いたら、籠城だな」
「君の酒がなくなる前に晴れてもらわないと困るやつだな」

目の前に座って盃を交わしながら、オオクニヌシは、そもそもなぜ今になって気づいたのだろうと、自分で自分を責めたくなった。生大刀、生弓矢、天詔琴の3つをスサノヲに与えられ、国造りをしろと言われて出雲に帰ったものの、なにから始めたらよいかわからずにいた自分にずっと寄り添ってくれたのは紛れもないスクナヒコだったではないか。頼りないやつだと言いながら、いつも助けてくれたのはスクナヒコだった。

「どーしたんだよ?おれの顔になにかついてるか?」
首を傾げるスクナヒコの顔の横で、肩で切りそろえられた髪の毛がふわっと舞った。そんなことすら、いいなと思ってしまう自分がいる。すっかり濡れていたはずの髪の毛が乾く程の時間が過ぎているらしいが、まだまだ話し足りない。

「いや。……俺と君は、相棒っていうやつなのかなと、思っていたところだ」
「相棒か。悪くねぇな」
ぐいっと盃の酒を煽ったスクナヒコが笑う。

「いいんじゃねーの。よろしくな、相棒」
「ああ、これからも頼む、相棒」

翌日二人が目覚めると、前日の集中豪雨が嘘のような晴天だった。






















このページの文章・画像は引用を含んでおり、著作権はDMM.com及びrejetに帰属します。 文章・画像の無断転載は固くお断りします。
All fanfiction and fanart is not to be used without permission from the artist or author.