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そもそも冬コミのペーパーになにか小話を書こうとしていて、「嫉妬するパパって美味しいな!2000文字くらいでなんか書くか!」と言っていたはずなのに、気がついたらえっちの手前で7千文字でした
どういうことなんだぜ
書き始めはクリスマス宴会だったのに、「あ、これ終わんねーわ」ってなって、正月に変えたのに結局まだ終わってない。もう1月終わりそうですよ紐さん。
とりあえずピコ液舌の上に乗せて口開けるパパとかエロすぎると思うから見てくれ!
コトミナのえっちは後からちゃんと書きます、すいません

酒と家族とちいさな嫉妬


本殿の大広間では、独神主催の宴会が開かれていた。
元旦こそ、皆厳かに過ごしていたが、二日目には一人、また一人と酒を飲み始めた。神族はそれなりに忙しそうではあったが、夜になると彼らも集まってきて、飲めや歌えやの大騒ぎになっていた。

もちろん、オオクニヌシもその宴会に参加するつもりでいたのだが、用意を手伝っていたところ、誰かの不注意で書き初め用の墨汁を被ってしまい、独神の勧めもあって風呂に入っていた。出遅れて広間にやってきたオオクニヌシは、まず、広間のほぼ中心で、楽しそうにワイワイ騒ぎながらすっかり出来上がっている相棒を見つける。それから、少し離れたところで二人で静かに盃を交わしている息子達を探し当てた。

「ほーら、飲め飲め!」
「わかりました、俺も男です!いきます!!」
「無理しないでくださいよ〜?」
スクナヒコの両隣にいるのは、イッスンボウシとコロポックルだ。スクナヒコに『飲め飲め』と煽られて、これからどうやら、イッスンボウシが酒を口にするところらしい。

「あれ?……甘い!美味しい!」
「だろ〜?酒のことならおれに任せとけって」
スクナヒコは酒の神なのだから、お酒に詳しいのは当たり前だ。なにを食べるときにどの酒を飲むのが合うかなんて、いくらでも教えてくれる……と、その輪の中に入っていけばよかったのだろうが、なんとなく、オオクニヌシはできなかった。

小さい三人が楽しそうに騒いでいるものだから、コノハナサクヤや、オトヒメサマなど、酒好きの英傑が集まって三人を囲んでいたこともあるかもしれない。
そう、スクナヒコが誰かに囲まれていて、自分がそれを輪の外から見ているという、現在、とても稀有な状況だった。

結局オオクニヌシは、少し離れたところで、相変わらず二人きりで静かに過ごす息子たちの元へ向かう。
「大変だったそうだな、聞いたよ」
無言で隣に座ることを許してくれるのは次男のタケミナカタだ。コトシロヌシは、いつもどおり、面倒臭そうな視線を向けてきて。

「なんでこっち来るんだよ?」
いつもどおりの言葉を投げられた。
「いいじゃないか、兄上。正月は本来は、家族で過ごすものだ」
「家族……ね」
含みの在る言い方をしながらも、コトシロヌシはオオクニヌシに盃を手渡し、酒を注ぐ。

「家族って言うなら、あの酔っぱらいは呼んでこなくていいの?おれの中では、一応あいつも、家族なんだけど」
それを言うのが、ほぼスクナヒコに育てられたようなものであるタケミナカタではなく、コトシロヌシだから驚く。とはいえ、口や態度が悪いだけで、実際コトシロヌシは相当スクナヒコを信頼しているのも知ってはいるが。

「父上が呼んできてくれるかなと思ったんだ。なんせ、彼らは明るいうちから飲んでいたらしいからな」
タケミナカタとコトシロヌシが言うには、やはりあの中心の輪はだいぶ前から楽しそう(コトシロヌシ的には煩い)で、なかなかスクナヒコに声を掛けることができなかったと。ただ、オオクニヌシなら呼ぶだけでスクナヒコはあの輪から出てくるんじゃないかと、だから父が来るまで待って任せよう、そう思ったのだという。

「もちろんそのつもりだったんだが……」
いつも大きな声で明るくはっきりとモノを言うはずのオオクニヌシの声が重い。
「なんとなく、邪魔をしてはいけないような気がしてな……」
「は?」
信じられないものを聞いたとでも言いたげに、目を丸くした二人の息子が、酒やおせち料理を口に運ぶのも忘れてオオクニヌシを見つめている。

「本当になんとなく、なんだが、声が、掛けづらくてな」
答えたオオクニヌシの声がいつもより数段、小さいことに兄弟は気づいている。

「親父、熱でもあるの?」
「……熱はないようだ。だとすると、なんだろう、スクナヒ……」
スクナヒコは酒の神であるが、医療の神でもある。家族の誰かが体調が悪いとなると、とにかくスクナヒコに真っ先に診てもらうのがもう、くせになっていた。しかし、結局今その、スクナヒコがこの場にいないのである。オオクニヌシの額に手のひらを当てたままのタケミナカタが困った表情を浮かべていた。額に手を当てられた方のオオクニヌシも困ったような顔をしているのだから、血は争えないとコトシロヌシは思う。

「ねぇ、ちょっと気持ち悪いから止めてくれない?なに遠慮してんの?ぶっちゃけ、スクナヒコなんて、その場所から呼んだって、親父の声なら飛んでくるでしょ?」
宙に浮いたままだったタケミナカタの腕を戻してあげながら、静かにコトシロヌシは話すが、内容はそれなりに辛辣だ。その場所というのはもちろん、今オオクニヌシが座っているこの場所である。むしろこんな同じ空間じゃなくたって、千里の距離を隔てていたって、スクナヒコなら文字通り飛んで来る気がしなくもない。だが、そう思っているのはどうやら、兄弟だけのようである。

「そうだといいんだが。……イッスンボウシとコロポックルだったか?あの3人の仲には、少し、入りにくい気がしてな」
言ってから盃の酒を煽る父を、二人の息子はやっぱりポカンとした表情でしばらく見つめて、それから。

「それなんて言うか、知ってる?」
「兄上はわかるのか?さすがだな。父上を悩ませているものがなんなのか、僕にはわからない」
空になった父の盃に酒を注ぐタケミナカタ。

「俺は知ってるし、タケミナカタも多分知ってるよ。……でも正直今、おれは呆れてる」
呆れられるようなものなのだろうかと、オオクニヌシは肩を落として酒を口に運んだ。正直、こんなオオクニヌシは珍しいからもう少し見ていたい気もしなくもないのだが、それよりも、うっとおしいという方が勝ってしまった。コトシロヌシの中で。

「わかったよ、おれが行ってくる。タケミナカタ、少し、親父の相手してあげてて」
すっと立ち上がった長男を、タケミナカタとオオクニヌシは見送ることしかできなかった。

「兄上はさすがだな。……父上が悩んでいるものがなんなのか、もうわかっているのだろうな」
「ああ、本当に。いつも頼ってばかりで申し訳ないくらい、しっかりしたいい子に育ってくれた」
タケミナカタの空になった盃に、オオクニヌシが酒を注ぎ、二人は静かに、祝い酒を口にした。


************


「はいはい、ごめんなさいよ。ちょっと、スクナヒコ!急用だから来て」
ずかずかと中心の輪の中に入っていったコトシロヌシは、今にも踊りだしそうなほど出来上がっているスクナヒコの腕を掴んだ。託宣神が『急用』というのだ、よっぽどのことなのだろうと、酒に酔った英傑達もフラフラしながらコトシロヌシの道を空けてくれる。タケミナカタではなく、自分が彼を呼びに来たのはそこの計算ももちろんあってのことだった。

「なんだよ、どうしたってんだよ?」
「いいから来て。一大事」
コトシロヌシの強い口調に、酔いも引いたのかスクナヒコは黙って言われるがままに腕を引かれ、コトシロヌシと共に広間を出る。スクナヒコとコトシロヌシが去ったとて、既に相当量の酒が入った英傑たちは、また、話に花が咲いて、どっと盛り上がったようだ。そんなことで飲むのをやめるような連中ではないし、また、正月はそういう日でもある。

「なんなんだよ?」
「親父がお前の周りに嫉妬してる」
「……は?」
今度こそ、スクナヒコの酔いは完全に覚めた。

「遅れて来たでしょ、親父。で、お前の周り見て、楽しそうだから邪魔したくないなって。特に、イッスンボウシとコロポックルとお前の仲には入れない、だって」
「おいそれ、マジで言ってんのかよ?」
スクナヒコは、今にもコトシロヌシに掴みかかりそうな勢いだ。

「嘘言ってどうするんだよ、こんなこと。しかもさ、親父、嫉妬してる自覚ないから。あんな親父うっとおしいだけだから、さっさと部屋に連れて帰ってヤルことやって、いつもの親父に戻してやってくれない?」
やることをやれば治ると決めつけているあたり、なかなかコトシロヌシも手厳しい。だが、本当にオオクニヌシが嫉妬して拗ねているのであれば、それは正解だろう。

「なぁ、おい、今相棒どんな顔してるんだ?どんな感じなんだ?見てからでいいか?だって滅多にないじゃねぇかよ、そんなこと!」
「うるさい!」
こそこそと、少しだけ襖を開いてオオクニヌシを探し始めたスクナヒコの尻をコトシロヌシは遠慮なく蹴った。

「いってぇ!」
「そういうのいいから!二人切りで好きなだけやって!とりあえずあんな陰気なの親父じゃないから、なんとかしてよ気持ち悪い」
口も悪いし態度も悪い。おまけに容赦なく蹴られたが、要するにコトシロヌシはいつもと違う父親を心配しているだけだ。いつもどおりの元気を取り戻す方法を知っているから、早く実践して欲しいだけだ。そう考えると、蹴られても腹が立たないのが不思議だが、相棒のことだからだろうか。

「わかったよ!とりあえず、教えてくれて、ありがとな」
ひらひらと腕を振りながら、スクナヒコは広間に戻り、まっすぐにオオクニヌシとタケミナカタの元へ向かった。

「おい、相棒」
「スクナヒコか」
「ちょっと来いよ」
「しかし、今……」
「いいから、来いってんだよ」
ポカンと見上げるタケミナカタと、少し遅れて広間に入ったコトシロヌシの前で、オオクニヌシはスクナヒコに引っ張られて宴会の場を後にした。

「はぁ、面倒臭かった」
元いた位置に、腰を下ろしたコトシロヌシの盃に、タケミナカタが酒を注ぐ。
「どうなったんだ?」
「どうもこうもないよ。明日にはいつもどおりになってるから気にしないで」
そんなに強くないはずのコトシロヌシが一気に盃の酒を煽る。

「兄上は、さすがだな」
「……お前だってわかってるはずだよ?もし、親父の立場が自分で、スクナヒコの立場がおれだったら、どう思う?」
ふうと、大きく息を吐き出して、だし巻き卵を口に運んでから、コトシロヌシは問うた。

「……気が、狂いそうになる」
「だろ?……そういうこと。ほんとお前、中身は親父に似たよね」
親父と違って自覚があるだけマシかな?と言われてタケミナカタはようやく言われている意味も、父親が肩を落としていた理由も理解した。

「え?……まさか、そういうことなのか?」
「そのまさかだと思うよ。くどいようだけど、親父には自覚ないけどね」
ある意味、普段から全く自覚がないからこそ、結婚も子作りもできるんだろうとコトシロヌシはむしろ思っている。他にこれといって仲のいい誰かがいるわけでもないスクナヒコに対して父親が無神経だとは思わないし、そこは本人達の問題だからどうでもいい。

「僕は、けっこう、独占欲は強い方だと、思っている。しかし、まさか父上もだなんて……」
まさかもなにも、本当似てないのは見た目だけで、父と弟の中身はそっくりだとコトシロヌシは思っている。三つ子の魂百までというなら幼い頃、より側にいた自分の方が父親に似てもおかしくなかったような気がするが、どうしてこうなったのか。
「……おれは、お前が嫉妬深いこと、誰よりも一番知ってるつもり」

だから、おれは、どこにも行かないでしょ?と真摯な瞳で見つめられてタケミナカタは、頬が赤くなるのを止められはしなかった。
「スクナヒコが、父上のことを、本当に好きだっていうのは、わかっていた、つもりだったんだが」
話題を父たちのことに変えることで、なんとか平静を保とうとするが、頬の熱さは治まらない。いっそ酒のせいにしてしまおうかと、タケミナカタは盃の酒を飲み干す。コトシロヌシは黙って空の盃に、酒を注いだ。

「それも間違いないけど。実際は相棒がいなくなったら駄目になるのは親父の方なんじゃないかな」
息子たちの前ではちゃんとした父親をしているし、他の英傑達の前では頼れる神の顔をしているオオクニヌシが、スクナヒコと二人きりのときだけ相棒に甘えていることを、コトシロヌシは知っている。スクナヒコがぺろっと口を滑らせたこともあるし、寝ぼけていたのかなんなのか知らないが、油断したのだろう父親の、いつもと違う姿を垣間見たことも、少しだけある。だが、きっとタケミナカタは知らないだろう。父のそんな姿。

「やはり僕は、兄上に散々言われているように、性格は父に似たのだろうか」
「どーしたのさ、今更」
盃を置いたタケミナカタがポツリと呟くように言った。たぶんタケミナカタは少し酔ってる。そんな気がする。

「僕も、兄上がいなくなったら、駄目になる自信があるんだが」
「……なにそれ、誘ってんの?」
「どうだろう?」
ああ、もう。そんな顔されたら我慢できないじゃないか。コトシロヌシとタケミナカタも、こっそりと宴会で盛り上がる広間を後にした。


************


無言のままオオクニヌシの手を引き、足早に歩くスクナヒコが向かったのは自分たちの部屋だった。皆宴会場にいるのだから、このあたりの一角は、いつも以上にひとけがない。
部屋に入るなり、座るよう言われて、オオクニヌシは黙っていつもの、自分の座布団の上に腰を降ろした。すぐに、スクナヒコが膝の上に正面から乗ってきて、両頬を手のひらで包まれる。
なにをされるのか、察したオオクニヌシは黙って瞼を降ろし、口づけを受け入れた。
酒の味しかしないはずの唇が甘いと思う。スクナヒコの細い腰に腕を回し、お互いの細胞が混じりあった雫で喉を鳴らす。唇を重ねるだけで満たされるものがあるのはなんなのだろう。

「なぁ、相棒。知ってるか?おれがこういうことしてぇって思うのは、あんただけなんだぜ?」
唇と唇がくっついたままの距離で言われた言葉に、オオクニヌシは目を見開いた。
「あんた、おれが他のやつと飲んでるのが気に食わなかったんだろ?嫉妬してくれるってのは、まぁ、嬉しいけどな」
むにむにと、スクナヒコの小さい手のひらがオオクニヌシの頬を撫でる。そのままその手は、好き勝手な方向に跳ねた髪に触れ、後頭部や首筋をも撫でた。

「触りてえって思うのも、接吻してえって思うのも、あんただけだ」
スクナヒコの金色の瞳の中には、今自分しか映っていなかった。
「そこは、信じてくれよ?」
「そうだったのか。……これが、嫉妬、なのか?」
オオクニヌシはようやく、さっきまでのもやもやした気持ちの正体を理解した。まさか嫉妬だなんて。この自分が。

「なんだよ、やっと自覚したのか?しょーがねぇな、今日はもう嫌だって言うまで、甘やかしてやるよ」
膝を立てて、スクナヒコがオオクニヌシの頭を胸に抱く。相棒の匂いに包まれて、ますます満たされていく心。
スクナヒコの薄い胸板が、落ち着くと、ここに甘えるのが一番幸せだと気づいたのはいつだっただろう。

「それは楽しみだな」
オオクニヌシはスクナヒコの腰を抱く腕に力を込め、それから一旦離れると今度はこちらから、唇を落とした。


************


布団の上に座らせたスクナヒコの脚の間に跪き、中心を味わう。
「甘やかしてやるって言ったのによ」
「いいじゃないか。したいんだから、させてくれ」
体格の割にでかいものを口全体で頬張り、先端をじっくり舌で刺激する。もちろん裏筋も。お互い長い付き合いだ、相手の好きなところはわかっている。だが、たまにオオクニヌシは不安になるときがある。

いつもいつも、自分が受ける時は、満足するまで抱いてくれるこの相棒が、本当に気持ちいいと思ってくれているのだろうかと。自分の気持ちよさより、オオクニヌシが感じているかどうかを優先させるスクナヒコが、本当に自分との行為に満足しているのだろうかと。

ちらりと、上目遣いでスクナヒコを見上げると、両瞼を下ろして少し口を開き熱い吐息を漏らしていた。
「ん、……相棒」
じゅるっと、わざと音を立てて先端を吸ってやると、スクナヒコは嬉しそうに身体を震わせる。
「それ以上されたら、出る」
頭を撫でてくれながら、ふにゃっと笑うスクナヒコを見て、オオクニヌシは嬉しくなった。ちゃんと感じてくれていることを、こうやってたまに、確かめたくなるのは仕方がないことだと思う。

「出してもいいぞ?」
「なに言ってんだよ。口吻がまずくなるから嫌だって」
いつもいつも、飲むなと怒るスクナヒコだが、そういう自分だって、オオクニヌシの出したものをだいたい飲んでくれるのだ。相棒の出したものだからこそ欲しい。それはきっとお互い同じ想いだというのに。

オオクニヌシは、いい加減挿れたいとスクナヒコが言っても口を離さなかった。むしろ、嘔吐くのを我慢して、喉の奥までスクナヒコをぐっと押し込む。
「馬鹿、やめろ……っ」
オオクニヌシの頭を引き剥がそうとスクナヒコは肩を押す腕に力を込める。が間に合わなかった。

どくんとスクナヒコの中心が脈を打ち、オオクニヌシの口の中にどろりと熱い飛沫が吐き出される。ちゃんと感じてくれたという満足感と充足感が込み上げ、それから、ちょっとしたイタズラ心がオオクニヌシに芽生える。
「ほら、飲むなよ!そんな不味いもの!」
不味いものを出したのは誰なんだと言ってやりたいが今は喋ることができない。ひっぱり出してきた手ぬぐいを口許に当ててくれるスクナヒコに見えるように、オオクニヌシは口を開けた。
いつもいつも飲むなと言われるから、今日はなんとなく、口の中にそのまま残しておいたのだ。スクナヒコが出した精液を。

「えっろ」
口の中で、舌の上に乗った白い液体。オオクニヌシがそんなことをすると思ってなかったのだろうスクナヒコが固まっている。だがそれは数秒で、すぐに手ぬぐいで、口の中に残っていたものを拭われた。それこそちょっと乱雑に。
「甘やかしてやるって言ったのに、我慢できなくなるだろうが」
気づけばオオクニヌシは、布団の上に押し倒されていて、見下ろすスクナヒコの向こうに天井が見える。

「君のやりたいように、抱けばいい」
「おれは、お前に感じて欲しいんだよ、相棒」
「それなら、心配はいらないぞ」
いつも満足しているからな、と告げると、のしかかってきたスクナヒコが、苦い口づけをくれた。


************


「ん……ぁ、っ」
甘やかすと宣言されたとおり、その日のスクナヒコはオオクニヌシの中を奥まで激しく攻め立てたりはしなかった。
それでも、スクナヒコの形をすっかり覚えてしまった身体は歓喜に震え、浅い部分を刺激されるだけで快感を拾い、否が応でも高められてゆく。

酒が入った上で体温の上がった身体は赤く染まり、時折胸の真ん中で主張をする飾りに歯を立てられるが、それすら気持ちよくて身体が跳ねる。
スクナヒコはオオクニヌシの顔が好きだった。

初めて会ったときに一目惚れしたと言われても否定できない。端正と言っても差し支えないような美形のなかに、天性の可愛さが潜んでいる。あれは生まれ持ったものだろう。だが、まだあの頃はまだ目元に引っ込み思案が踊っていた。気が小さくて、すぐに一人で考え込んで、誰にも相談できなくて。そんな自信のない性格が全てににじみ出ていた。

それでも、スクナヒコは、その水色の瞳を見た瞬間に、こいつは磨けば光ると確信した。なにかを成し遂げる度に、自負を持って強くなる視線が誇らしかった。その彼が今、自分にしか見せない表情でとろけているのがたまらなかった。額ににじむ汗も目尻の涙も口の端から溢れる雫も、全部全部、押し殺そうにも隠しようがないほど、大切なものだった。

「スクナ、ひ……ああっ、もっと、きつくしてほしい」
「だから今日は甘やかすって言っただろ?……それは今度な」
今日はきつく責めると宣言された日に、胸の蕾に与えられる痛みと苦痛を思い出して身体が震えた。もちろん、そうして欲しいと懇願したのは自分だ。

まだ成人もしない頃から、腹違いの兄達に陵辱の限りを尽くされた身体は、酷く扱われることによる快感を覚えてしまっていた。
なにかのきっかけで、普段はこころの奥底に塞いでいるはずのそんな醜い感情が出てきてしまったとき、理由も聞かず、自分が望むがままに朝まで激しく抱いてくれるのはスクナヒコだけだった。

自分の中の闇も光も、全てを知って、全てを理解して、全て受け入れてくれるのはスクナヒコしかいないのだと、オオクニヌシは思い知っていた。
だからこそ、自分にはもう、スクナヒコしかいないのだということも、理解していた。恋とか愛とか、そんな単純な言葉で表現できるような感情では、とっくになくなっていた。

「スクナ、ヒコ……」
枕を掴んでいたオオクニヌシの手がスクナヒコに伸ばされる。肘を着いて、上体を起こしたオオクニヌシが欲しいものを察して、スクナヒコはぐいっと相棒の片足を抱え上げた。
二人の体格差ゆえに、挿入中に口吻をしたいときは、お互いがそれなりに無理な体勢を取らねばならぬ。しかし、それでも交わしたいものがそこにはあった。
じっくりと、深く舌を絡める余裕はない。それでも、互いの『今』という時間を共有するかのように重ねられた唇は、簡単に離れることはなかった。

「ん、は、ァ、っ、スクナヒコ」
もう一度、背中を丸めて相棒の顔を捉える。
小さな舌が唇をなぞり、混じり合った互いの細胞で互いの口腔内を満たし、飲み込む。

このまま、溶けてしまえばいいのにとさえ、思った。
身体がもしかして、お互いの境界線なのだとしたらそんなものはいらないから、深く混ざり合いたいと思った。
なにもかも溶けてしまって、世界に自分と相棒だけいればいいだなんて、神にあるまじき思考を持つことすら、今のこの時間だけは許される気がした。

「愛してるぜ、オオクニヌシ」
「好きだ、あい、ぼう……!」

スクナヒコに比べて、オオクニヌシが相棒と呼ぶ頻度は明らかに低い。だが、それは別に、オオクニヌシがスクナヒコのことを相棒だと思っていないからではない。理由は知らないが、その点についてスクナヒコは全く気にもしてなかった。ただ、それ故に、時々苦しそうに『相棒』と呼ばれれるとくるものがあるとさえ思っていた。

言い換えれば、普段『相棒』と呼んでいるオオクニヌシを、スクナヒコが名前で呼ぶことも、おそらく同じ効果を発揮するということである。
事実オオクニヌシはスクナヒコの声が好きだった。
セックスの時じゃなくても、耳元で、そうっと名前を呼ばれるのが好きだった。

スクナヒコの声で呼ばれると、自分の名前のはずなのに、なにか特別な、尊いもののような気さえするのだった。

「悪ィ、そろそろ出るわ」
「いい、ぞ、……中にたくさん、だしてくれ」
「なんだよそれ。なんか余裕だな」
「そんなことは、アッ、ない、っ!」
上半身を起こしていたオオクニヌシを押し倒して、スクナヒコはその日初めてオオクニヌシの中の奥を突いた。

「あぁ、ァアあ、ああ、や、ああああ」
おおきく背中を仰け反らせたオオクニヌシの中心から、どろりとした白濁が飛び出して引き締まった腹筋を汚す。同時にオオクニヌシの中は激しく収縮し痙攣して、スクナヒコを締め上げた。

「ぁ、ん、くうっ」
望まれた通り。オオクニヌシの中に熱い飛沫を吐き出したスクナヒコが数秒止まって、それから、どさりと倒れ込んだ。

「相棒、お前、締め付けすぎ」
「違うぞ。……君のがデカんだ」
倒れ込んできた相棒の身体をしっかりと受け止める。小柄なせいでたいして重たくはないが、確かに愛するものの手応えをこの腕の中に感じている。

「それは褒めてんのかよ?」
しっとりと汗に濡れて見上げたスクナヒコの背を撫でながらオオクニヌシが笑う。さっきまで自分も知らない自分の中のイイところを余すところなく蹂躙していたくせに、今はすっかり気を抜いて体重を預けてくれるこの相棒が愛おしかった。

「さぁ、どうだろうな?」
茶化してやると、小柄なスクナヒコらしい、可愛いふてくされた笑顔が見れるのも、オオクニヌシの密かな楽しみであったが、それを本人に教えてやるつもりはない。また、彼が最初にこの部屋に戻ってきたときに言った言葉を信じるならば、この少年のような笑顔が自分を抱くときだけ、欲を孕んだ大人の顔になることも、多分知っているのは自分だけなのだろう。

「なんでもいいか。……なんか相棒が、嬉しそうだから、おれはそれでいい」
「なんだそれ……んっ、ぁっ」

ずるりと通常を取り戻したスクナヒコがオオクニヌシの後孔から抜けて、這うように身体の上へと上がってきた相棒に口付けられた。スクナヒコの舌は柔らかくオオクニヌシのそれに絡みついて、唾液とともに安心感が全身を巡る。
医療神たる彼の身体から出るものにはすべて、薬の効果があるのではないかと思ったこともあるし、それもあながち間違いではないらしいのだが、きっと今は違うといい切れる。
今自分が感じているものは、スクナヒコの心であり、それを受け入れて、愛されて満たされる自分の心でもあると思う。

「なあ、相棒」
「ど、どうしたんだよ、急に?」
普段呼んでいる名前ではなく、たまに『相棒』と呼んでやると、この小さな神はあからさまに動揺して、頬を赤く染める。それが嬉しくて、『相棒』と呼ぶのはとっておきの時だけで、普段は名前でばかり呼ぶようになっていた。彼の、嬉しそうな顔を見るのが好きだった。

「君が好きだ。……こうやって、ずっと側にいてくれて、俺は嬉しい。今年もよろしく頼む」
「なーに言ってんだ、ばぁーか」
それはおれの台詞だと言われて、紡がれた口付けは世界で一番甘いものだった。






















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