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「泣かない空」の続き。国造り初期。コトシロヌシがまだショタ。
八十神に輪姦されてるオオクニヌシと、八十神ぬっころしに行くスクナヒコ
過去捏造楽しいなぁ。次で終わります

泣けない空


目が覚めたとき、最初に視界に入ったのは、心配そうに枕元に座る最愛の息子と、母だった。
過労で倒れたと聞かされ、甲斐甲斐しく世話をしてくれる母には、なにも言えなかったが、どうもすっきりしない。
倒れる前後の記憶が曖昧なのはともかく、誰に聞いてもいまいち、状況を思い出せない。というのも、それぞれが微妙に証言が食い違っている気がするのだ。

ある者は、倒れたオオクニヌシをスクナヒコが見つけたと言い、ある者はコトシロヌシが伝えたと言う。
それに加えて、下腹部の鈍痛。2、3日ですっかり引いたとはいえ、その鈍痛を、オオクニヌシは知っているような気がしていた。

「大丈夫か?無理すんな」
いつになく優しい態度(のような気がする)相棒に真相を尋ねたところで、はぐらかされるだろう。恐らく、自分になにかを隠しているのはこの相棒で間違いない。

もやもやした気持ちのまま、何日も休んでいるわけにいかないからと、仕事に出て、東の村を訪れた瞬間だった。
村人たちが『先日は助けてくれてありがとう』と集まってくる。何の話だ、先日っていつだ?考えても考えても思い出せないオオクニヌシに、村人が言った。

「あれは、あなた様の兄だと伺いました」
「ほんとうですか?」
寸刻、押し寄せてくる記憶の洪水。
オオクニヌシの脳内で、消されていた記憶が映像となって溢れてくる。

「大丈夫ですか?オオクニヌシ様」
「ああ、なんでもない」
なんとか取り繕ってその場を離れたが身体の震えと吐き気が止まらない。でも、残念なことに、スクナヒコが自分の記憶を消した理由はわかる。

もっと言うなら、自分が、もしも逆の立場だったら。
スクナヒコ同様、記憶を消すことを選ぶだろう。

成人する前から何度も何度も繰り返された行為。嫌がっても泣き叫んでも許されなかったどころか面白がってエスカレートした性行為。いつしかやられることに慣れ、ただ終わるまで耐えることを覚えた自分の身体。

大切な相棒だからこそ、スクナヒコには知られたくなかった。でも、もう遅い。なにも言わないことが彼の優しさなのはわかる。それほど浅い付き合いではないつもりだ。
しかし、なにも言われないことで、スクナヒコがどう思っているのかなにを考えているのかもわからなかった。

もしかしたら、軽蔑されているかもしれない。自分がこんなに汚れていると知って、失望したかもしれない。
あまり考えたくはなかったけれど、スクナヒコが記憶を消した真意をはかりかねていた。

************

明らかにオオクニヌシの様子がおかしいと気づいたこと自体は早かった。ただ、悩んでいる理由も思い当たらなかったし、尋ねたところで正直に話してくれる気もしなかった。なぜなら、相談できるようなことであれば、さっさと相談してくれるだろうと、思っていたからだ。
それでも、日々やつれていくオオクニヌシを見ていられなくて、ようやく口に出す。

「なぁ、相棒。なにか、隠してないか?悩んでいるんじゃねぇのか?」
返ってきた答えは予想外のものだった。
「隠しているのは、むしろ君だろう?」
「……はぁ?」

一瞬なにを言われているのかわからなかったほどだ。ポカンと口を開けて瞬きを繰り返すスクナヒコを見たオオクニヌシはあからさまに『しまった!』という表情を作って。
「すまない、一人にさせてくれ」
そのままどこかへ行ってしまった。

「いったい、なんなんだ……」
すぐに相棒を追いかけなかったことを、スクナヒコは後に後悔する。

************

記憶の中の洞窟は、すっかり形を変えていた。山が崩れたらしく、入口が完全に塞がっている。ただ、入口があっただろう場所の前に、隠しきれない跡がある。争った跡が。
焼け焦げた木の枝や、血で黒く染まっていたのだろう大地。恐らくここで、スクナヒコは八十神と戦ったはずだ。

その後どうしたかはわからない。
スクナヒコが、いつもと変わらずピンピンしているのだから、負けてはいないのだろう。そもそもスクナヒコは八十神なんかに負けるような器じゃない。

洞窟の入口があっただろう場所を見つめて、過去に耽っていたオオクニヌシは、だから気づくのが遅くなった。後ろから近づいてきた八十神に、身体を拘束されるまでその気配に。

「うっ!!な、っ」
「わかってるんだろう?酷い目に遭いたくなければ黙って付いてこい」
黙って付いていったところで、酷い目に遭うのは確定じゃないか。
オオクニヌシは心の中だけで、そうぼやいた。

************

一人にさせてくれと言われ、肩を落としたまま屋敷に戻ったスクナヒコを待っていたのほクシナダヒメだった。相談があると言う。
クシナダヒメの相談は、『コトシロヌシが託宣の能力に目覚め始めている』というものだった。

スクナヒコがオオクニヌシを連れ帰った日の言葉に加えて、今日突然、『親父はスクナヒコを恨んでないから大丈夫』などと言い出したらしい。
コトシロヌシ本人が、口から出てしまった言葉の意味もわからずにいるから困ったものだ。クシナダヒメから見ても、オオクニヌシとスクナヒコの間に、恨むとか恨まないなどといった感情があるとは思えなかった。ましてやそれを、まだ幼いコトシロヌシが言い当てるというのが、更に不気味だった。

クシナダヒメに乞われてスクナヒコはコトシロヌシの前に座る。自分がどうやって、今ある能力、つまり、常世の神、医薬・温泉・禁厭・穀物・知識・酒造・石の神としての力を手に入れたのか……。遠い昔のことすぎて、すっかり忘れてしまった。なんせ少年のような見た目をしていてもスクナヒコはこの出雲で一番の年上なのである。それこそ、オオクニヌシの父親のスサノヲよりもずっとずっと上なのだ。だから、相談に乗ってやれるとも思わないのだが。

「さぁて託宣神、今のおれになにか言いたいことはあるか?」
「……記憶を消すって判断は、間違ってないと思うけど、された方が納得してないよ」
「おい、どういう意味だそれは」
部屋の入り口近くに控えている祖母を見てから、じいっとスクナヒコを見上げた幼いコトシロヌシの口から、彼が知らないはずの事実が出てきてついつい、詰め寄ってしまった。

「知らないよ。……そもそも、スクナヒコって、記憶消したりできるの?」
コトシロヌシは、心に浮かんだ言葉をそのまま口に出しただけらしい。本人も、その内容だったり、その言葉が何を意味するのかわかっていないようだ。

「なるほどなぁ、お前が託宣神になるっていうのはわかってはいたが、ついにその能力に目覚めるって感じなんだろうな」
スクナヒコは深く息を吐き出して諦めの表情を見せる。コトシロヌシに聞いたところでわからないのであればどうしようもないといった、そんな表情だった。

「おれもよくわからないんだけど。……そもそも、託宣ってなに?」
「簡単に言えば神のお告げだろ?そうだなぁ、お前の言う通りにしておけば間違いねえみたいな、そんな能力じゃないか?」
「……なんか、面倒くさい予感しかしないんだけど?」
自分を頼って沢山の人が押しかけてくる。そんなところを想像したのか、それとも、その想像すら託宣なのか。わからないが、とにかく、コトシロヌシはうんざりしたようは表情を見せた。

「そうだな。しばらくこのことは、身内だけの内緒にしておこうぜ」
「そうですね」
それまで黙っていたクシナダヒメも頷いた。 その『身内だけ』にスサノヲが含まれるかどうかは、クシナダヒメに掛かっている。だが、スクナヒコはどっちでもいいと思っていた。

そんなことよりも、思い悩む者に適切な助言を与える能力。それが悪用されることがあってはならない。もう少し、コトシロヌシが大きくなって、自分の身を自分で守れるようになれば問題はないだろうが、それまでの間は大人が護るしかない。悪いことを考えるやつなんて、いくらでもいるものだ。

「おい、スクナヒコ!」
ときが来るまで様子見だと、結論が出たところで、誰かがスクナヒコを呼んだ。呼ばれた声はしたが、その声の主が見当たらず、スクナヒコは襖を開けて外を見るが、誰もいない。
「俺だよ俺!!」
ぴょこんと、縁側の下から飛び上がって来たのはカエルのタニグクだった。穀物の神であるスクナヒコと害虫を食べるヒキガエル。この出雲に来たときからの、国造りには欠かせない仲間である。

「おう、どうした?」
「大変だ、オオクニヌシが攫われた」
「……は?」
旧知の友を見るような表情をしていたスクナヒコの顔が一瞬で変わる。
「北の山だ。クエビコが見てたって」
クエビコはカカシである。カカシであるが故に歩くことはできないが、四六時中世界を見ているために物知りである。天から落っこちて、船に乗ってやってきたスクナヒコを、この出雲で唯一、最初から知っていた神でもある。

「行ってくる。……ここは、頼んだ」
「はい」
スクナヒコの金色の瞳が怒りに染まっているのを見たクシナダヒメがスサノヲと暮らす館に帰れるのまだ先になりそうだ。

************

珍しく、その日連れて行かれたのは、山の中にある、一軒の民家だった。
どうやら長年誰も住んではいないならしい。命じられたまま全裸になって座ると、オオクニヌシの上半身に縄が回された。

「お前、最近泣かねぇから面白くないんだよな」
八十神が小さな陶器の徳利のようなものを持っている。その中身を察したオオクニヌシはきつく、唇を噛んだ。
「バァカ、誰が上から飲ませるって言ったんだよ?そんなことしても無駄だ無駄」
縛られたオオクニヌシの身体は、押されると簡単に横に転がった。

「い、嫌だ!」
「誰がそんな……いいね、その怯えた目」
「おいおい、久しぶりにゾクゾクしてきたなあ」
ぐちゅり。とやや粘着性のある液体がオオクニヌシの後孔に掛けられ、今まで一度もされたことがない丁寧さで入り口を解していく。
「嫌だ、やめろ、それだけはやめてくれ」
いくら言っても聞き入れてもらえるわけがないのはわかっていた。それでも言わずにいられなかった。

「そろそろいいか?」
後孔を解していた八十神の太い指が2本、自由に動く程度になったところで、先程の陶器からの液体が体内に流し込まれる。
冷たい液体が身体の中に入ってくる感覚にオオクニヌシは身震いした。

「さて、どうなるかな?」
オオクニヌシから離れた八十神が、輪を作って自分を見下ろしている。突き刺さる視線と、じわりじわりと身体の内側から侵食されていく感覚。身体が熱いと感じるまでに、そう時間はかからなかった。
息が上がる。身体の内側が熱い。縛られた両腕ではなにをすることもできないが、触りたい。とにかくこの熱を解放したい。一度や二度の解放で収まるとは思えないが、このままでは狂ってしまいそうだ。

「そろそろか?」
八十神の手のひらがオオクニヌシのふくらはぎを撫でる。それだけで、びくんと反応してしまった。
「もう少しだな。今日はいい声聞かせろよ?」
別の八十神は唇を噛んで震えるオオクニヌシの首筋を指でなぞった。
「ぅっ、ふ、……ん」
もっと全身触って欲しくてたまらない。はしたなく足を開いて奥まで突っ込んで欲しいと叫びたい。
弄ばれることに慣れた身体は、痛みすら快感に変えて際限なく刺激を求める。意志の力なんてあまりにも弱い。

「さぁ、どうして欲しいんだ?」
「……俺を、犯して、ください」
口にだした屈辱の言葉に、瞳から一筋の涙が零れた。

************

ほぼずうっとイキっぱなし。なのに中心が萎えることはなかった。
乱暴に奥まで突かれ、下腹に激痛が走る。が、その激痛すらも快感でしかない。膝で立たされ、後ろから激しく犯されたまま喉奥にも突っ込まれる。乳首には重りをぶら下げられ、激痛がまた、頭を真っ白にするほどの快感を生む。

「やりすぎだったんじゃねーか?」
「まぁ、いいだろ。別に死ぬわけじゃない」
全員数回ずつは出した。オオクニヌシの腹はパンパンで、溢れた白濁液が太ももを伝って床に液たまりを作っている。それでもまだ、媚薬の効果が収まらないらしく、オオクニヌシは震えながら肩で呼吸を繰り返していた。

回復するまで張型でも入れておこうかと盛り上がる八十神の目の前で、ガタン、バタンと、盛大な音を立てて、民家の扉が内側に倒れた。外から開けないように、つっかえ棒をしていたのだが、全く意味を成さなかった。

「なんだ、どういうことだ?」
「死にてぇやつから前に出な」
八十神が根城にしているこの民家に、たった一人で殴り込んで来たのが子どものような小さい神だったことに一瞬驚くが、どっと笑いが起こる。
「なんだよ、そういうお前こそ殺され……」
暇を持て余して、最初に前に出た八十神は、言葉を言い終わる前にどうっと大きな音を立てて倒れる。身体の小さいスクナヒコには、もちろん一撃必殺の大技はない。しかし、俊敏な彼の動きを、目で捉えられる八十神はいなかった。

「ふざけるな!」
倒れたはずの八十神がスクナヒコの後ろでよろよろと立ち上がる。肩から脇腹に掛けて、一刀両断に斬られて血が吹き出ていたが、まだ死んではいなかったらしい。
「そういえば無駄に頑丈だったんだよな」
言い終わるやいなや。キラリと刀が光ったような気がしたのは一瞬だった。しかしその一瞬で、せっかく立ち上がった八十神の首は、胴体と離れていた。

「表に出ろ!」
身体の小さいスクナヒコにとっては、室内で剣を振るったところでさほどの影響はない。しかし、身体の大きい八十神が、ましてや大剣を振り回すには、外でなければならなかった。それはわかる。八十神が自分たちに有利なように外に出たことは百も承知しているが、スクナヒコは黙ってその誘いに乗った。
心臓を抉り出す、もしくは胴体と首を切り離す。そのどちらかでなければ死なない八十神を、スクナヒコは確実に一人ずつ殺していった。

「くそ、すばしっこい野郎だ」
「こうなったら一気に襲い掛かれ!」
周囲を囲んでしまえばいいと思ったのだろう。しかし、それこそがスクナヒコの策である。
おそらくスクナヒコのことを、剣士かなにかだと、誤解しているだろう八十神の背後で宝珠が光る。
血に塗れて、切れ味の悪くなった刀を捨てたスクナヒコの口角がにやりと上がった。

「これで最後だ」

天から降り注ぐ無数の重力の矢。周囲に悲鳴が鳴り響いてもなお止まぬ矢が、八十神の五体をバラバラに引き裂いた
「……何人か、取りこぼしたな」
追いかけるのは後でいいだろう。それより、さっさと相棒を助けなければ。
スクナヒコは肉片となった八十神をまとめて火を付けてから民家に戻った。

************

縄を切ってお湯に浸した手ぬぐいで身体を拭いてやるが様子がおかしい。呼吸が荒く、体温が高い気がする。そして、どうやらスクナヒコだと認識できていないようだ。
「抱いて、下さい……はぁ、イカせて、苦しい、なんでもするから……」
すぐに媚薬を使われていると気づいたスクナヒコが解毒剤を用意するが、目の焦点すら合っていない。 どうやら、身体だけではなく精神にも作用する厄介な薬を使われているようだ。
とは言え、スクナヒコは医療神である。だいたいの成分に検討をつけ、解毒剤を飲ませようとしたが、こちらの声は聞こえていないようだ。仕方なく、スクナヒコは自身で解毒剤を煽り、オオクニヌシの頬を両手で覆って、口移しで飲ませてやった。

こくんこくんと喉が鳴る。とろんとした表情のまま黙って口吻を受け入れていたオオクニヌシは、ようやくそれで、目の前にいるのが誰かわかったらしい。
「……スクナヒコ」
「悪ィ、遅くなった」

そっと頬を撫でていたスクナヒコの腕をオオクニヌシが引く。そして、スクナヒコはころんと床に転がされ、え?と思ったときにはもう、オオクニヌシが覆い被さっていた。
「すまない、スクナヒコ。抱いてくれ」
「今解毒剤飲ませたから……」
「身体が熱くて、死にそうなんだ」
一気に帯を解いて袴を引き下ろされる。そんなつもりなくたって、唇と舌でねっとり舐められたら反応しない、わけがない。

「ふふ、君、身体の割に大きいな」
「一言余計だ」
「ああ、すまない。褒めたつもりだった。……んんっ」
上を向いたスクナヒコ自身を宛てがって、オオクニヌシはゆっくりと腰を下ろした。

************

「んぁっ、あ、は、っく、んうっ、きも、ち、いい」
既に2回ほど、中に出しているが解放してもらえない。頭一つ以上の体格差があることをわかっていて上に乗って腰を振っているオオクニヌシを、スクナヒコは下から見上げることしかできなかった。下手に動いてオオクニヌシのバランスが崩れようものなら、潰されるのはスクナヒコである。

気持ちいい気持ちいいと喘ぎながら、オオクニヌシの頬を涙が伝っていることにスクナヒコは気づいていたが、手を差し伸べることもできなかった。差し伸べたところで届かなかった。
恐らく後孔から直接媚薬を入れられたのだろう、スクナヒコ自身も影響を受け、さっきからさっぱり、萎える気配がない。

「は、ァ、いく……」
ぎゅうっと中を締め付けられて、スクナヒコも3度目の絶頂を迎えた。さすがにさっき飲ませた解毒剤が効いてきたのか、がっくりと倒れ込んできたオオクニヌシは自分の腕で体重を支えた後、スクナヒコの横に背中を向けて倒れ込む。

「……相棒」
後ろから、好き勝手な方向に跳ねた赤い髪を撫でて、大きな背中を抱いた。
「……すまない、スクナヒコ」
「なんで謝るんだよ?一番辛いのはお前だろーが」
「だからって、また俺の記憶を消すのか?」
なにも、言い返せなかった。コトシロヌシの言葉から、記憶が戻っているかもしれないという、想像はついていたが、現実であってほしくなかった。

「すまない。いや、俺も多分、君と立場が逆ならそうする」
小刻みに震える肩に、額を押し付けることしかできないのがもどかしかった。
「守ってやれなくてすまねぇ。……来るのも、遅くなった」
ふるふると、赤い頭が左右に動いて。続いて聞こえてきた嗚咽が収まるまで、スクナヒコはそうやって、ただ相棒にくっついていた。
一番辛いのは本人なんだから。そう思うと、一滴も涙は出なかった。

************

再度お湯を用意して、簡単に身体を拭いてやった後は風呂に入ることにした。この民家の風呂ではなく、スクナヒコの隠れ家の温泉に。近くにあるからと、足元が覚束ないオオクニヌシを支えて外に出ると、スクナヒコが放った火は、ほぼほぼ消えていた。
燃え尽きて灰になったモノが元はなんだったのかオオクニヌシは尋ねない。しかし、立ち昇る煙を見て、場所を知ったカエルが2人を心配して、近くまで来てくれていた。

「無事だったか、ふたりとも!」
「おう、タニグクか。ちょうどいいや、ひとっ風呂浴びてから帰るから遅くなるって伝えてくれねーか?」
「わかった!任せとけ!」
ぴょんぴょん跳ねて行くカエルを見送って、2人は、スクナヒコの隠れ家まで移動した。

源泉掛け流しの豊富な湯量が吹き出す温泉口は、スクナヒコが見つけたものだった。そこにこっそりと湯船を作り、東屋を建て、小さな家を建て、酒造庫を作り隠れ家にしていた。スクナヒコサイズなのにさほど、天井の低さを感じないのは、いずれオオクニヌシを呼ぶつもりだったかららしい。無味無臭でありながら、少しとろみのある泉質が、疲れた身体に優しく染み渡るようだった。

ゆっくりと湯に浸かって、着物1枚で布団に横になっていると、なにやら箱を持ってきたスクナヒコが隣に座って、黙って手当てを始める。オオクニヌシ自身が全く気づいていなかったが、乱暴に扱われた身体は、ところどころ擦り傷ができて、血が滲んでいた。

「そこまでしてくれなくていいぞ?」
「おれがしたいんだよ、黙ってされるがままになっとけ」
言いながら膝に薬を塗り込めるスクナヒコだが、顔は上げない。オオクニヌシの視線も、外に向けられている。

「なにも初めてじゃないんだ。……君が記憶を消した、あれだって初めてじゃない。最初はもっと昔で、君と出会うよりもっとずっと前で」
もう、何度めかもわからないほど、繰り返されてきた行為である。むしろこうやって、助けてもらえることに違和感を感じるほど。

「軽蔑したか?俺は、本当は、こんなにも汚れているんだ」
スクナヒコにだけは知られたくなかった。と、同時に、スクナヒコにだけは知っていてほしかった。それが複雑な、素直な気持ちだった。
バキッと、膝のあたりからなにかが折れた音が聞こえてオオクニヌシは思わず起き上がり、視線を移す。

「相棒は汚れてなんかいない」
スクナヒコの手の中で折れたのは、どうやら匙のようなものらしい。そう簡単に折れるような細さには見えないが、スクナヒコの手のひらの中で、あらぬ方向に曲がっているのが見える。

「おれは、そんなふうに思ったことは一度もねぇ」
ずいっと迫ってきたスクナヒコが膝の上に乗るがたいした重みじゃない。そのまま、首に腕を回したスクナヒコに、オオクニヌシは口づけられていた。
小さい背と腰に腕を回してやると身体が密着して相棒の体温を感じる。まぶたを下ろし、僅かに唇を開くと小さな舌が差し込まれた。

随分甘いキスだと思った。甘い雫を飲み干しながら、肩で切りそろえられたスクナヒコの黒髪に指を通す。
「相棒、好きだ」
過去を知ってもなお、そう言ってくれる小さな巨人の身体を抱いて、オオクニヌシは泣いた。






















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