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今度は、「愛されてるなぁ」ってしみじみしちゃうスクナヒコを書けって診断メーカーが言ったんだ!!
今日の国造組のお題は「宛名のないラブレター」#創作のお題を決めましょう
https://shindanmaker.com/804823

宛名のないラブレター


――仕事、お疲れ様。いつも、俺や息子たちのために頑張ってくれている君が好きだ――
「あーーーなんか違うなーーーー」
もう何度目かわからない。ビリビリと破いた便箋をぐしゃっと丸めて、オオクニヌシはゴミ箱に捨てた。

「そんなに難しい?」
「改めて文章にするというのが……な」
一家の大黒柱であるスクナヒコに、『新年会で遅くなるから、先に寝ていてくれ』と言われた日の夜。
午前様になるだろうスクナヒコに手紙を書こうと発案したのはコトシロヌシだった。

「コトシロヌシはもう書けたのか?」
「とっくにできたけど?」
ぴらっとコトシロヌシが見せてくれた便箋には、しっかりとスクナヒコへのメッセージが詰まっていた。

――いつもおれたちのために仕事してくれてありがとう
でもお前、酒飲みすぎだからね
医者の不養生って言葉知ってる?
お前がどっか病気したら、ほら見たことか!って
笑ってやるつもりでいるんだからさ
そうならないように、たまには休肝日作って
健康にも気をつけてよ!
それでストレスがたまるっていうなら、
親父を好きにしてくれていいからさ
コトシロヌシ――

「好きにしてくれていいとはどういうことだ……」
「文字通りだけど?ねぇ、タケミナカタ」
「ねー!」
全部ひらがなで、コトシロヌシに習って『すくなひこ、ありがとう』とだけ書いたタケミナカタはご機嫌だ。

息子たちからのこんな手紙をもらっただけで、スクナヒコがうるっと来ている姿は容易に想像できるんだが。
問題は俺だ。

「親父、まだ終わらなそうだから、おれとタケミナカタ先に風呂入って寝るよ」
「えっ?もうそんな時間か?」
「そんな時間だよ、ばか」
三人で夕食を食べている最中にコトシロヌシが発案して、食べ終わってからずっとこの作業をしていたはずなのに、もう9時を過ぎていて驚いた。

「タケミナカタ、お兄ちゃんと一緒にお風呂入ってねんねしようねー」
「はいるー!」

息子たち二人が行ってしまって、リビングに一人取り残されたオオクニヌシ。
改めて気持ちを手紙にするとなると、どうしてこんなに恥ずかしいのだろう。

好きだ、愛してる、ずっと一緒に居て欲しい。
そんな言葉は、毎日のように交わしているというのにだ。

『毎日好き好き言い合ってるのは知ってるよ。知ってるけど、敢えて手紙もらったらきっと喜ぶんじゃないの?』
言い出しっぺの長男の言葉が脳内にこだまする。苦労を掛けた分、『お前が振られたら、また貧乏に逆戻りなんだぞ』という強迫観念が、もしかしたら俺より強いのかもしれない、コトシロヌシは。自分は、万が一スクナヒコと別れてここを追い出されたって、息子たちのために働くだけだ、今までもそうしてきたとしか思わないのだが、コトシロヌシは違うのかもしれない。中学生になったら新聞配達はできるんだったっけ?と聞いてきたのはいつだっただろう。もちろん、ここにいる限り、そんなことはスクナヒコが許さないだろうから、必要ないわけだが。

相棒はきっと酔っ払って帰ってくる。だったら、ストレートな言葉が一番、伝わるんじゃないかと思い直して、オオクニヌシはペンを取った。

――お疲れ様
きっと君は酔っ払って帰って来るんだろうな
あまり飲み過ぎないでくれよ?と言っても、無駄かもしれない
でもこれだけは言わせてくれ

俺や息子たちの分までいつも働いてくれてありがとう
君のおかげで俺たちは何不自由なく暮らしている。
こないだまでの苦しい日々が嘘のようだ
本当に君には感謝している

改めてこうやって、伝えるとなんだか照れるが
俺は君が好きだ。俺を選んでくれてありがとう
俺や、息子たちにできることがあったらなんでも言って欲しい
愛している――

改めて文字にするとなんだか照れくさくて、恥ずかしくて。息子たちが書いた手紙と一緒に、ダイニングのテーブルの上に置いてオオクニヌシは自室のベッドに潜り込んだ。
きっとまだまだスクナヒコは帰ってこない。けれど、眠れる気も、しなかった。


************


べろんべろん……というほどでもないが、いい気分で酔っ払って帰ってきて、キッチンで水を飲もうとしたスクナヒコが目にしたのは、テーブルの上の手紙だった。
へったくそな字で「すくなひこ、ありがとう」とだけ書いてあるのはタケミナカタだろう。3歳児が一生懸命書いてくれたのかと思うと、それだけで涙腺にくる。
ダメだ、飲んでるせいで弱い。

ずびっと、鼻水をすすりながら、続いて手にした手紙はコトシロヌシから。好きにしていいって、お前に言われなくてもしてるけどな!と思いながら、最後の一つ。相棒からのだろう手紙を手にする。ある意味覚悟を決めて。

愛していると。文字になって改めて言われると感動がこみ上げてくるようだった。
じんわりと身体の隅々にまで、相棒の言葉が染み渡っていくような気がする。

酒と仕事にしか興味のなかったおれの人生に生きてる実感を与えてくれたのは相棒だ。
ちょっとでも目を離すと本棚ですら倒しかねない体力オバケのタケミナカタに、小学生の割には物分りのいいコトシロヌシ。この歳で、公園で走り回って息切れして、ベンチに倒れ込むだなんて想像すらしていなかった。夜中に寝苦しいと思ったら、タケミナカタに乗っかられていたとか蹴られたとかコトシロヌシに潰されたとか。
一人で暮らしていた頃には、想像もできなかった生きてる実感が今の生活にはある。

「全部、お前がくれたんだぜ、相棒」
息子たちまで養ってもらってと。オオクニヌシは思っているのかもしれない。けれど、待つ人もいない家に帰る日々にはもう戻れないのはスクナヒコの方だった。
朝目が覚めると、『おはよう』と笑いながら、卵焼きを焼いてくれるオオクニヌシがいて、日課のように悪態をつくコトシロヌシがいて、いちゃいちゃしようとしたら、タケミナカタに邪魔される。

それぞれの手紙の下の余白に短い返信を書いて。軽くシャワーを浴びてから、スクナヒコは自身のベッドに潜り込んだ。
もちろん、オオクニヌシが寝たフリをしていることに気づいていながら、その広い背中を抱きしめて。
「愛してるぜ、オオクニヌシ」
ぴくんと小さく、反応した背中に充実感を感じながら、スクナヒコは気持ちよく酔ったそのまま、眠りの中に落ちていった。

翌朝、オオクニヌシが作った朝食の卵焼きは、少しだけ、いつもより焦げていたという。






















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