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でりへるシリーズです。夫婦の日。

ありがとうを君に。


「今日って、夫婦の日なんだってさ」
弟のタケミナカタと、リビングに広げたブロックで遊びながら、コトシロヌシがいった。

「二人で、ご飯食べに行ってきてもいいよ?」
「いいよー!」
リビングのソファで、オオクニヌシの膝を枕に寝転がってテレビを見ていたスクナヒコが驚いて起き上がる。

「お前たちはどうするんだよ?今日はおばあちゃんとこいけねー日だろ?」
オオクニヌシの母、クシナダヒメは息子の育児に協力的で、なにかにつけコトシロヌシと幼いタケミナカタを家に招いてくれる。しかしそれは、あくまでも夫の、スサノヲがいないときに限られていた。

スサノヲが家にいる日はむしろ、オオクニヌシの方が、実家に息子たちを行かせたがらなかった。オオクニヌシとスサノヲの仲の悪さを考えたら、これはある意味当然の行動ではある。オオクニヌシが言うには、もう軽く、10年以上は父親の顔を見ていないとのことだ。また、自分の感情はさておいて、オオクニヌシは『あんなどうしようもない父でも、母にとっては大事なひとらしい』とも言っている。つまり、スクナヒコがいたところで、どうにもならないややこしい家族関係がそこにある。

「なんか作っといてくれたら、食べて風呂入って寝るし、別に不自由はないけど?」
「うーん」
コトシロヌシとタケミナカタ、それから隣のオオクニヌシの顔を順番に見つめたスクナヒコは。

「それはまた今度にするわ。なぁ、相棒。今日の晩飯、おれが作るぜ」
「どうしたんだ、急に?」
ぽかんとスクナヒコを見つめるオオクニヌシは専業主夫だ。タケミナカタがまだ幼いということもあるが、なにより本人が、かなりの料理好きのおかげで、一緒に住むようになってから、スクナヒコは毎日お弁当を会社に持参している。当然、毎日の晩ご飯も、朝ご飯も休みの日の昼ご飯も、オオクニヌシが全て作っていた。

「スクナヒコ料理できたの?」
「あーのな、これでも、お前らが来る前はひとり暮らしだったんだぜ?最低限はするだろうがよ、いくら嫌いでも」
驚いた声をだすコトシロヌシだったが、スクナヒコの説明に納得はしたようだった。ただ、普段オオクニヌシが作る料理より、上手ではないのだろうということも、同時に理解したのだろう。ひとりで頷いている。

「でも君、家事は嫌いだろう?」
そもそも付き合う前。まだ金で買われて、この部屋に来ていた頃から時々家事をやってあげていたオオクニヌシである。あの頃から、掃除や洗濯や、料理を作ってあげるとスクナヒコはすごく喜んだ。
「そうだけどよ。でも、夫婦の日なんだろ?だったらおれが、相棒に感謝する日でも、いいわけだろ?まぁ、おれ達が、夫婦なのかどうなのかは、わかんねーけどよ」

「……?」
腑に落ちないといった表情のオオクニヌシの手を、息子たちからは見えないところでこっそり握って。

「いつも家事やってくれて、ありがとな。……最近言ってなかったなと、思ってよ」
「いや、待て。その分君は、働いて、俺達を養ってくれているじゃないか……?」
シングルファザーとして、昼も夜も働き、一人で息子2人を育てていたオオクニヌシにとって、子育てと家事だけやっていればいい今の状況は極楽にも近かった。なによりスクナヒコのおかげで金の心配がない。食費や自分の買い物など、好きに使っていいと毎月渡される金は、一緒に住み始める前に宣言されたとおり、かつてオオクニヌシが身体を売って稼いでいた金の倍額だ。だから、使い切れなくて貯まっていく一方だったが、スクナヒコは返さなくていいと言う。将来、息子たちが大きくなったときに、やりたいことが見つかれば、それに使っていいと言う。

「だからよ、お互いに感謝する日で、いいんじゃねぇの?」
ちゅっと、音を立てて2人の唇が一瞬重なったのをコトシロヌシは見逃さなかった。そういうのは部屋で、二人きりのときだけにしろと、何度言っても無駄なのだこの父と相棒は。

「君には、敵わないな」
ふっと笑ったオオクニヌシが、息子たちからは見えないよう、すっぽりとスクナヒコを腕の中に捕まえて、大きな両手で頬を包む。

「俺も毎日、君に感謝して、暮らしてる。俺を選んでくれて、ありがとう」
「それはおれの台詞だ。大事な相棒に、可愛い息子までできて、おれは幸せもんだ」
いくら、コトシロヌシとタケミナカタからは、オオクニヌシの広い背中しか見えなくたって、テレビが付いていたって、唇と唇が触れ合う音は聞こえる。いい加減そこを理解してほしいと思う、コトシロヌシである。

「タケミナカタ、おれの部屋行こっか」
「いくー!くまじろー見るー!」
「そうだね、そうしよっか」

コトシロヌシが、タケミナカタを連れてリビングを出て行くことで、遠慮がなくなった父親達の口付が激しくなることなんて百も承知。
だけど、お陰様で今の生活があるのなら、ある程度は仕方ないと、諦めきっているコトシロヌシだった。

その日の一家の夕食は、結局オオクニヌシとスクナヒコが、二人一緒に仲良く作ったせいで、とんでもない量だったという。






















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