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目が覚めて、隣を見ると、いつもそこで寝ているはずの彼氏の姿が見えなかった。

眠れない夜


2人共低血圧。どっちも朝が弱くて起きられない。だけど、意識がはっきりしないそんな朝に、イチャイチャイチャイチャ銀時の腕に抱かれるのが大好きだったのに。

トイレか何かだろうか?そう思ったけれど、隣はもうずっと前から銀時がいないことを示す冷たさで。ボーっとする頭のままようやく起き上がると、テーブルの上にメモが残っていた。

『ごめんね、晋ちゃん。浮気なんだ』
メモの、文字の意味がよくわからない。何が一体どうなっている?

俺は部屋の中を見回した。紛れも無く俺が1人暮らしをしているワンルーム。だけど、昨日までは、ほとんど毎日銀時が泊まりに来てて、半同棲状態になっていて。窓際に干してあった銀時の下着や着替えなんかがきれいになくなっている。残されたのは、テーブルのメモ1枚と、冷蔵庫の中の賞味期限が今日までのプリン1個。俺は甘いものは食べないから。

「俺、ふられたんだ」

口に出して言ってしまってから。俺の右目からはぼろぼろ涙が零れ落ちてきた。どうしてだ?昨夜の寝る前だって、あんなに『好き好き』って言いながら抱いてくれたじゃないか?いつものように俺を抱いて、いつものように俺が疲れて眠ってしまってから、銀時は荷物をまとめて出て行ったというのか。

「うっ…ふっ…」
鳴咽が止まらない。一緒に暮らした3ヶ月が頭の中をぐるぐる回ってる。

銀時とはハッテン場で知り合った。知り合って20分後にはもうセックスしてた。終わってから、同じ大学に行っていることが判明して、翌日にはもう銀時はウチに、この部屋に転がり込んできた。『俺実家なんだよね』なんて言いながら。

食事の用意も掃除も洗濯も、全部俺がやっていたし、ほとんどわがままだって言ったことないし。浮気しただなんて、銀時は一体俺の何が不満だったんだろう。

ぐしゃぐしゃ泣いたまま、狭いユニットバスに駆け込んで頭から水を浴びた。この狭いユニットバスに無理矢理2人で入ったこともあったよなァ、なんて思い出したら、余計に涙が溢れてくる。

駄目だもう。今日は学校行けない。

***

1日中なんにも手がつけられなくて。ボーっとしたまま、時間だけが過ぎていく。暗くなってきても、電気をつける気力さえ出なかった。何でもするから、帰ってきて欲しい。いつもみたいに『晋ちゃんカワイイね』って言ってほしかった。俺はいつも『誰が晋ちゃんだ!』って言い返してしまうのだけれど。

プロ野球のナイトゲームも終わったくらいの時間になって、不意に玄関のチャイムが鳴った。一瞬期待したけれど、銀時ならチャイムは鳴らさないはずだった。合鍵で開けて、勝手に入ってくる。あ、出て行ったなら合鍵は返してもらわなきゃならないのかな?

何回も鳴り続ける玄関チャイム。俺は仕方なしに玄関の鍵を開けた。

訪ねて来たのは、同じ学部の坂本だった。コイツがうちに来ることなんて滅多になかったのに。

「目、腫れちょるぜよ」
坂本のデカい手で頬を触られて。いい加減止まっていたはずの涙がまた溢れてくる。俺は、狭い玄関にへたり込んでわんわん泣いた。その間、横に座った坂本は、ずっと俺の頭や背中を撫でてくれていた。

坂本は、俺がゲイだって知ってるほとんど唯一の人間で。だけどそれは、コイツも一緒だからであって、知り合ったのは新宿二丁目だった。見たことあるヤツがたまたま入ったゲイバーで働いてて。周りには隠してる俺だから『嘘だろ?どうしよう?』と思ったけど、もう遅かった。でも坂本は、それからも普通に接してきたし、それで周りにバレたりするようなこともなかった。

「とりあえず、部屋入っていいかの?」
俺の鳴咽が治まってきたのを見計らって、坂本に促されて真っ暗にしたまんまだった部屋に入る。

「坂本、なんで知ってんだ?」

わざわざ訪ねて来たからには、きっと坂本は、銀時が出て行ったことや俺が結果的にふられたことは知っているはずだった。もちろん、銀時と付き合うことになった3ヶ月前、俺はそれを坂本に話している。

「今日、学校で、たまたま銀時に会ったからの」
昼休みに偶然食堂で、と坂本は言った。毎日一緒に昼食を食べているはずの俺がいなかったのが気になったのだと坂本は言った。

「銀時は、俺の何が不満だったんだろう」
坂本に聞いてみたって仕方ないことなのに。それでも俺は口に出さずにはいられなかった。

「あんな、高杉」

わしが言うことじゃないんじゃけど、なんて前置きをつける坂本。こんなにハッキリ物を言わない坂本は初めてかもしれなかった。

「ほんに、わしの口から話すんは間違っとる思うんじゃけど」
なんだろう。なんだかわからないけれど、確実に坂本は、銀時の何かを知っているのだと思った。

「銀時には、前から男がおったんじゃよ」
「え…?」
坂本の言っている意味が全くわからなかった。

「銀時には、前から彼氏がおっての。ふられたり、喧嘩別れしたり。でも、その度に銀時が追い掛けてヨリを戻して…なんてのを、もう2年くらいやっちょる」
「ちよっと待て、それって」

俺と坂本が知り合うより前から、坂本は銀時を知っていたらしい。一緒に二丁目で飲むような仲だったという。お互い高校生でありながら。俺が二丁目に出だしたのは大学生になってからだから。

「じゃあさ、もしかしてさ」
俺は、捨てられずにテーブルの上に残っていた銀時のメモを坂本に見せた。

「俺が、浮気って、コト?」
坂本は、ちょっと苦しそうな表情を見せながら、こくんと頷いた。

最初から、坂本は全部知っていたらしい。だけど、嬉しそうに銀時のことを話す俺を見ていたら、何も言えなかったのだと、だからごめんと坂本は言った。

「そう、だったんだ」
この3ヶ月。俺と半同棲状態で、毎日一緒にいながらも、銀時は彼氏とヨリを戻そうとしていたらしい。電話したりメールしたり、もちろん会いにも行ったり。だけど、俺は全然そんなこと気付かなかった。気付かなかった俺が悪いのだろうか。

「馬鹿だな、俺」
何にも知らずに彼氏ができたと喜んでいた俺は、さぞかし滑稽だっただろう。

それでも、やっぱりまだ、少しだけ『なんでもするから戻って来て欲しい』って、銀時に対して思うのは事実で。さすがにそれは坂本には言えなかったけど。だって、本当に好きだったんだ、俺。

「高杉、飲みにでも行かんかの?」

まだ電車はギリギリ走っている時間。坂本が気を遣ってくれているのが痛いほど伝わってきたけれど、目は腫れてるし、顔はパンパンだし、今日は外になんか出たくなかった。

「今日は嫌」
「ほうか。今日わし、泊めてもらってもえいかのう?」

うちの沿線はもう電車が終わっていると坂本は言った。それが本当か嘘かはわからなかったけれど。

***

銀時より更にデカイ坂本と、シングルサイズの俺のベッドに2人で潜り込むのは少し窮屈だった。坂本は、自分の左腕を枕代わりにして横を向き、俺の右手に指を絡めてくる。嫌な気はしなかったから、黙ってそのまま、俺は坂本に手を繋がれていた。

「なァ、銀時の彼氏って、どんなヤツ?」
きっと、聞いてから後悔するんだろうってことがわかっていながら、俺は坂本に尋ねてしまう。

「わしも2、3回しか会ったことないけどのー。性格は、きっと高杉によう似とるぜよ」
「ふーん」
「素直じゃないところとか、雰囲気なんかはよう似とる感じじゃのう」
「なんだソレ?」

なんだか複雑な心境だった。全然違うタイプだったら諦めもついて良かったのか、それとも、俺は似ているタイプだったから良かったのか。どっちにせよ、きっと銀時は、俺だから好きになってくれたのかな、とは思うことができた。たった3ヶ月だったけど。

「坂本は?…誰かいねェの?」
「うーん、わしなァ…」
恥ずかしそうに俺から視線を外す坂本。

「ずーっと、好きな子はおるんじゃけど。でもきっと、その子は全然わしの気持ちには気付いてくれとらんのじゃよ」
「へェ…。なんか、お前なら、もっとイケイケで迫るのかと思ってた」
「アッハッハー、そんなイメージじゃった?」

俺が天井を見上げながら口にした素直な感想に、坂本が笑って。突然、俺の視界に坂本の顔が入ってくる。

「イケイケで迫ってもえいかの?」
「えっ?」

何があったのかを俺が把握するより早く、唇が塞がれていた。硬直したまま動けない俺の目の前にある坂本の顔。口腔内に舌が入ってきて絡め取られる。ヤバイ、こいつキス上手い。気持ちいい。

「んっ、んん…」
俺の寝巻代わりのTシャツの裾から、坂本の手が入ってきて、肌の上を撫でてゆく。

「ちょっ、待っ、坂本っ!!」
「うん」
坂本は、あっさりと行為を中断してくれた。

「もしかして、坂本って…」
坂本の好きな子って、全然気持ちに気付いてくれてない子って、もしかして、俺?

「高杉が、新しい恋を探そうっちゅー気になるまで待っとるからの」
今から立候補しとくぜよ!と坂本はいつものように笑いながら、また俺の横に移動して、指を絡めて手を繋ぐ。

今日失恋したばっかりで、まだまだ全然銀時を引きずってる俺だけど。

なぜか心臓の音はばくばく言ってて煩くて、この音が坂本に聞こえてしまったらどうしようって。そればかりが気になってこの日は全然眠れなかった。


END



銀さんちょっとヒドイ人ですが、現実世界にはよくある話。銀時の彼氏は土方君で






















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