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笑顔の空模様


金曜日の放課後。よく晴れた空を仰ぎながら、宗則と敦史は、駅までの道を歩いていた。

「なんか食うかァ?」
「俺まだあんまり空いてないやァ」
特別に何かあるというわけではないこんな日は、2人で街をブラブラして、そのままバイトに行ってしまう。

ドンっ!!

だるそうにタラタラ歩いていた2人に、思いきり後ろから、誰かがぶつかった。

「あ、ごめんなさ〜い!」
一瞬振り向いたものの、そのまま走り去ってしまう女の子。きっとうちの生徒だろう。

「痛ェ…なんでィ今の」
「あれ…和花じゃん」
はずみで転んでしまった敦史を引っ張り起こす宗則。

「おメェのクラスか?」
「そ。アイツ面白いヤツだぜー、しょっちゅう野球見に行ってんの」
「はぁ?野球?」

意味がわからないと言った風に肩をすくめた敦史。そんなもの、見に行って何が楽しいのかと。
気にせず歩き始めた敦史の服から、なにかが落ちた。

「おい、…これ、今の子のじゃねぇのか?」
明らかに女物の定期入れ。そこに挟まっている新幹線のチケット。
行き先は、新大阪。

「ホントだ…まだ駅にいるんじゃない?」
どうせ走る気なんてない敦史から定期入れを奪って、走り始める宗則。

「お、おい!宗則っ!」
どうせ行き先は駅なんだからまぁいいかと、敦史はのんびり、やっぱり怠そうに歩いて行った。

************

「ない…ないーっ!!」
駅の改札前で、案の定荷物をひっくり返している和花を発見した。

「和花ちゃん、落としモン」
走って追い掛けて来た宗則が定期入れを放り投げた。

「あ、宗則!」
投げられた定期入れを受け取りながら和花は、ようやく宗則に気がついた。

「アンタも好きねェ、今度は大阪?」
ひっくり返していた荷物の片付けを手伝いながら宗則は笑った。

「そーよぉ、ドームでオリックス戦」
大きめの鞄の中には、しっかりと入っているメガホンと背番号入りのTシャツ。

「まぁ、趣味があるって、いいことなんじゃないのォ?」
「アタシもそう思ってるけどね」
とりあえず鞄に全部の荷物を詰め込んだところに、ようやく敦史が歩いてきた。

「おメェら、まだいたんか。急いでたんじゃねェのかィ?」
一匹狼で有名な不良の敦史に、軽く声をかけられて和花は少し、驚いて怯えたような表情を見せた。

「ああ、和花ちゃん、このお兄さんが定期入れ拾ってくれたから」
「そうなんですか?ありがとうございます」
ペコッと頭を下げる和花。

「別にいいんだけどよォ」
敦史は、和花が自分よりかなり背が高いことに気付いて、横を向いた。

「あ…あの…」
「和花ちゃん電車来たよ!早く乗りなィ」
宗則の声で、何かを言おうとした和花は、慌てて踵を返す。

「ごめん宗則!後でメールする!」
荷物を抱えると、そのまま和花は走って電車に飛び乗った。

「後でメールするって、お前、ただのクラスメートじゃねェのかィ?」
急いでない2人。次の電車に乗ることにして、ホームの喫煙所に行くと、敦史の鋭い突っ込みが入った。

「うーん、あの子も結構はみ出してる感じだからさァ…なんか仲良くなっちゃって。俺も野球嫌いじゃないし」
煙草に火をつけながら、歯切れの悪い口調で答える宗則。

「ヤったか?」
「何回か2人で遊びに行ったからねェ…あの子、ソフトバンクのファンなんだぜ?パ・リーグだぜ?」
無駄に口数が多い割に明確には答えないことで、敦史は余計確信を持った。

「相変わらずだなオイ」
「敦史に言われたくないよォ!!」
女遊びならば、敦史の方がよっぽどヒドいではないか。

「あ、でもさ、敦史って絶対和花ちゃんのタイプだよ」
「はぁ?」
一瞬しか見てないが、少なくとも和花は、敦史よりは10センチ位は背が高かったように思う。

「あの子、筋肉質な男って、無条件に好きだから」
宗則は笑った。むしろ俺みたいなガリガリは駄目だってさぁ、と。

「それで野球選手ね」
「そうかもしれないけど…。でも、野球選手なんて、アイドルみたいなモンなんじゃないのォ」
一度だけ、わざわざ千葉まで一緒に野球を見に行った。けれど、自分の贔屓とはリーグが違い知らない選手ばっかりのせいか野球の試合より、応援に熱中する観客を見ている方が楽しかった宗則である。

「じゃあ今度紹介しろや」
「うん、言っとくよ」
次の電車がホームに滑り込んで来て、2人は煙草を消すと、電車に乗り込んだ。

************

月曜日の昼休み。いつも通り3Aの教室でお腹いっぱいになった宗則は、教室に戻って来た。そこを、背の高い女子に捕まった。

「宗則!」
「おぅ和花かィ」
ダラダラと席に着くと、和花は後を追い掛けて来て、目の前に教科書程の箱をぐいっと差し出した。

「土産。…定期入れ拾ってもらったし」
「まーじー?京の抹茶プリンじゃん!俺好きなんだよねェ!…でも、拾ったの俺じゃないぜ?」
自分は走って持って行っただけだ。

「それでさ…あの人にも渡してほしいんだけど」
「アイツ甘い物食べねェぜ…って、わかってんのね」
和花が持っていたもう1箱は、タコ焼き味のプリッツ。ベタベタだが、甘くないお菓子がそうそうあるわけでもなく。

「俺の分なんてよかったのにさ。今度から無駄遣いすんじゃないのョ。来な」
宗則は、抹茶プリンを鞄にしまうと、立ち上がって和花を呼んだ。

「そーゆぅモンは自分で渡しなせェ」
言いながら和花を連れて行ったのは校舎の屋上。鉄柵に寄り掛かり、空を見上げたまま、敦史は煙草をふかしていた。

「あつしー!」
「なんでィ」
月曜日の5限目はサボりたくない宗則は、屋上の入り口から敦史を呼んだ。

「敦史に用があるってさァ」
「む、宗則っ!」
明らかに怯えている和花。

「大丈夫だよ、アイツ、みんなが言ってる程、怖いヤツじゃないからさ。じゃあ頑張ってェ」
ひらひらと手を振って、宗則は階段を降りて行ってしまう。

意を決して、和花は敦史に近づいて行った。
「あ…あの、こないだはありがとうございました」

「んぁ?…ああ、アンタか」
見下ろされて、視線だけを向ける敦史。

「これ、お土産なんですけどっ」
「悪ィな、気ィ使わせたか?」
敦史は煙草を靴の裏でもみ消して、プリッツを受け取った。

「食っていい?」
「あ、はい」
返事を聞き終わるより早く、座り込んで箱を開けて食べ始める敦史。

「けっこー旨ェぞ、コレ。アンタも食うか?」
隣に座って頷いた和花の口に入れられるプリッツが1本。

「本当ですね!結構アタリ!」
プリッツと言っても、お土産用のものはかなりデカイ。緊張のあまり、一気に1本食べ切ってしまった和花の口に、不意に柔らかい感触があった。

驚いて離れようとすると、両肩を掴まれる。すぐに舌が入ってきて、むさぼるような激しいキス。息もできないくらいに吸いつかれて。

いつの間にか授業が始まっていることになんて気付かなくて。
敦史のキスは、タコ焼き味のプリッツと、煙草の苦い味がした。

「アンタ、デカイけどかわいいな」
ようやく開放されて、呼吸を整えていると、敦史の笑顔が目の前にあった。

「ハァっ…デカイ…はっ、ハァ…余計ですっ、よ。169しかありませんからっ!」
「デカイだろ十分」
言ってもう一度、今度は唇が触れるだけのキス。

「月曜って野球ないんだろ?…アンタ、今日ウチ来るか?」
こくんと、和花は頷いた。

「俺1人暮らしだから遠慮すんなよな」
噂で怖い人だと聞いていたけど、こんなに笑顔が綺麗な人だなんて知らなかった。
キスしたら…好きになっちゃったかもしれない。

きっかけは落とした定期入れ。

和花は、再び煙草を吸い始めた敦史の、真っ黒い髪の毛に、そっと触れてみた。想像以上に、柔らかい猫っ毛だった。



2人の距離は、プリッツ1本分。


終わり




自分ツッコミ

だぁー、何が書きたかったんですかねぇッ(汗)
全然ヒロインと敦史の話になってないし(爆)本当はこれに続きがあって、宗則も入れて3P…とかも思ったんだけど…恥ずかしすぎて書けませんでした(泣)

とりあえず、書きたかったのは、敦史の手の早さ(爆)沙羅ちゃん相手には、あんまり早くなかったですからねっ(そうか?)
あと、野球好きの女の子出したかったんですっ(爆)
すんません、趣味モロ出しで…
でもだって、本当に野球行く時に、定期入れ落としかけて思い付いた話ですから、コレ(爆)
和花ちゃんの持ってたTシャツに入ってた背番号は…きっと47だと思います。ハイ、馬鹿ですからぁっ!!(なんて言ってたら47番投げてるよ!しかも打たれてるよ!)
『和花』って、陸上競技会の時に郁彦が宗則に言ってる「かわいそー、泣いてるぜ」のうちの1人です。
ってことは、あと4人バンド好きとか漫画好きとか博物館好きとかカラオケのある飲み屋好きとか、設定作ったら、あと4つ話書けますねぇ

それにしてもタイトルが決まらない、タイトル考えられない(泣)
今回も散々変え倒しました。

これからの高校編は、こんな感じの短編を書いて行こうと思ってます。

ああ〜!!負けたじゃん!首位攻防戦(泣←06/8/27)


オマケ(ヤってるだけ)


「…んァっ…はぁ…ああッ…」
明るいままの、静かな部屋に響くのは、和花の喘ぐ声と、身体のぶつかり合う音だけ。

「…あんた、すっげェエロい顔すんなァ」
汗で張り付いた前髪をかきあげながら敦史が見下ろした。

「へへ…宗則にも言われた」
余裕なんてない表情で和花も応える。

「いくらアイツでも、他の男の話なんかすんなよ」
ちょっと拗ねたように、腰の動きを止める敦史。

「じゃあ…ちゃんと名前で呼んで」
「ああ…ごめん…」
そういえば、まだ一度も名前で呼んでない気がする。気がするんじゃなくて、そうなんだろな、きっと。

「そろそろイってもいいか?和花」
腰の動きを再開し、激しく打ちつけていると、快感が競り上がってくる。もうそろそろ限界だ。
こくこくと首を縦に振ったまま、身体に腕を回してしがみついてくる和花。
もう、彼女の口からは、熱い吐息しか漏れてこない。

「一緒にイクか…」
いっそう激しく腰を打ちつけた。

「ああっ…あああっ…」
「んくっ…」
ぎゅっと目を閉じて、倒れ込むように、敦史は和花のお腹の上に、自らの欲望を溶き放った。

「はぁ…はぁ…はぁ…」
荒い息づかいだけが響いている。

「敦史…って呼び捨てしていい?」
抱き合ったままの和花が言った。

「かまわねぇよ」
汗びっしょりの身体で、敦史の身体の下で嬉しそうに微笑む和花。
身体をティッシュで拭いてやると、起き上がった和花が言った。

「好きだから。好きだから、敦史」
「馬ァ鹿、俺になんか惚れんじゃねェ」
「イーヤ」
いいじゃない?こんな…キスから始まる関係があったって。


(オマケ・終わり)




























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