とめどない、とめどない、とめどないおもいを
-だれかが あなたを おもってる-教室の一番後ろの窓枠に、片膝立てて座ってた。もちろん腕組みで。
act.04 》笠原敦史
『失くした宝物を探してる』
休み時間だっていうのにクラスメートは誰1人話しかけてこない。ま、1人が気楽で、つるんだりするのが嫌いな俺にはちょうどいいんだけど。
いつもは学校に来たって適当に校内でサボってるだけの俺が、なんでまた午前中から教室なんかにいるかって?
そりゃアレだ。次の授業が担任の都築の授業だからだ。アイツ、普段は放ったらかしで、サボったって何にも言わない変わり者の教師なんだけどさ、小テストだとか、本当に大事な授業の時は出ろってうるさいんだよな。しかも、俺が出なきゃならないように脅しもアリときたもんだ。
『お前、次の俺の授業出なきゃ数学と英語の単位ないからな』
『あんたは物理の担当だろぅがァっ!!』
全く、いい根性してるぜ、あの先生。
お、沙羅ちゃんだ。1年A組は外で体育らしい。
「珍しいわねぇ、あんたが午前中に教室にいるなんて」
話しかけてきたクラスメートがいた。物好きなヤツだ、と思ったら、久苑だった。コイツ、思いっきり常識人のくせに、平然と俺に話しかけてくるんだよな、それもタメ口で。
「気にすんな、気分だ」
まさか都築先生に脅されましたとは言えずに、曖昧な言葉で返す。別に、1人が好きだからと言って、何も俺は、人と話すのが苦手だとか、嫌いだとか、そういうわけじゃないからな。
「珍しくあんたがいる代わりに、将大が朝からいないのよねェ…。どこ行ったんだろ」
久苑と将大の仲の良さは異常だ、と俺は思う。いくら幼なじみだからって言っても、毎日ほとんど一緒にいるんだから。そして、それで実は付き合ってなかったりなんかするもんだから、全く驚きだ。
「アイツもサボりたい年頃なんでねェのかィ?なんたって、宗則の兄貴だからなァ」
言われるまで気付かなかったあんまり似てない兄弟。いや、見た目だけの話じゃなくて(見た目もそんなに似てないけどさ)、真面目一徹の生徒会長の弟が、俺と同じ屋上常連の問題児なんだからな。ビックリなんてもんじゃねぇだろィ?俺と宗則は、つるんでるつもりは、たぶんお互いにないんだけど、どーにも気が合って、よく一緒にいる仲だからな。
「あれでも宗則だって、昔は真面目な子だったのよぉ。どこでヒン曲がったかなぁ」
「ああ、なんかいじめられっ子だったらしいなァ」
チラっと聞いたことあるけど。反撃の仕方がわかんなくて。たまたま手出したら、いじめてた奴らがみんな、兄貴より弱くてびっくりしたって、確かそんな笑い話のはずだ。
いや、そんな、いつでも話ができるやつのことは、今はどうでもいいんだ。俺は、アンタのことが気になるよ。
「久苑、アンタはあの兄弟、どう思ってんだァ?」
一応男と女なわけじゃないですか。しかも、それだけ一緒にいるわけじゃないですか?
「はぁ?変なこと聞くわねぇ…。うーん、宗則は弟みたいなモンかなぁ」
眉間にシワを寄せながらも久苑は応えた。
いや、いいんだそっちは。宗則もつけて『兄弟』って聞いたのはカモフラージュだから。本当に聞きたいのはそっちじゃねぇんだよ。
「将大はねぇ…」
暫く悩んで、漸く久苑は一つの言葉を口にした。
「連れ?」
「連れ、かよっ」
そんな軽いもんなんですか?
「そんなもんかなぁ?だって、アタシ、将大を男だと思ったことないし」
え?そうなんですか?
「男だと思ったことないって言うかァ、異性だと思ったことはない。そりゃーあんなデカくて力もある奴、男には決まってるんだけどさ」
それは、異性としての魅力は感じないって言われてるんですか?こんな言われ方でいいんですか、将大君!!
「でもさぁ、将大の方が、アタシを女だなんて思ったことないハズだけど?どうしたのよ急にこんなこと聞いて」
あー、そうなんですか?天然純情鈍感星人の将大君らしい話ですねィ。性格にはちょっと難アリだとしても、絶対いい女だと思うんだけどな、久苑って。隠れ巨乳だし。
「あーいや、男女の友情は成立するのかと思いまして」
適当な言い訳をつけると、久苑は声を上げて笑った。
「アンタには無理なんじゃないのォ?絶対、ヤルことヤラずにはいられないでショ」
「おいおい」
なんかちょっと、ほとんどその通りなんだけど、そういう言い方って酷くありません?って言うか、こういうこと、平気で話せちゃう久苑って、ホント中身が男。そうか、久苑の性格が男だから、コイツらの関係は成り立ってるのかもしれない。だとしたら…勿体ないんだよな、ソコが。
「わかってんだったら、1回ヤラせてくれよ」
「アンタだけは絶対イヤ」
「いいじゃねェかよ、俺、アンタの胸好きだぜ」
「デカくて悪かったわね!悩んでんだから放っといてちょうだい」
久苑が軽く怒りながら行ってしまった。
そりゃアンタ、男に揉まれすぎなんじゃないのかィ?
久苑が中身ごと、女に変わる瞬間。それは敦史には想像できなかった。
うん、アレを落とした男って、スゴイと思うよ俺は。他校にいるって話だけどさ、校内にいたら、マジで連れになりたいよ、俺。
授業の開始を告げるチャイムが鳴り響き、俺は仕方なく席についた。都築が教室にやってくる、その一瞬前に、ようやくどこかへ消えていた将大が教室に駆け込んできた。
タルい授業だけど、仕方ないから真面目に聞きますか。
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