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第18話 理事長


土曜日の夕方。

東青藍学院高校の陸上部の面々は、そろって電車に乗っていた。
一足早く帰った杏奈が、最寄り駅まで迎えに来てくれているはずで、博俊は車だ。

「まさか敦史まで来るなんてね、大丈夫なの?」
「大丈夫だろ?ちゃんと休むって連絡は入れたぜ」
3人掛けの椅子に2人で足を広げて座っている宗則と敦史。

「お前ら、ちゃんと詰めろよ!」
座らないままの将大が注意する。

「大丈夫だよ、混んできたら立つし」
しっしっ、と、犬でも追い払うかのように手で将大を遠ざける敦史。

「お…俺ってそういう扱い?」
ちょっとヘコみながら、2人の前から離れて行く将大。

「アレとお前は本当に血ィ繋がってんのかァ?」
敦史が呆れたように言った。

「たぶんね〜。親父も母親も一緒のはずだけど」
敦史の言おうとしている意味を、きちんと理解している宗則。
女子は女子だけで固まっているものの、将大の方をじっと見つめる視線がひとつ。
たぶん、何気なくて、あまり気付いている人はいないんだけれども。

「敦史の方はどうなんよ?沙羅ちゃんに酷いことしてないだろーね?」
あの日以来、なんとなく気まずくて、挨拶くらいしかしていない宗則。

「俺がいつ女に酷いことしたよ?」
それ以上話すつもりはないと言った態度の敦史。

「いくら敦史でも、沙羅ちゃん泣かしたら許さねェぞ」
「はいはい。お兄ちゃん代わりも大変ね」
「…!」
なんで知ってるんだと言いたげな顔の宗則。

「お前も馬鹿ね〜、無意識でフっちゃって。話聞いてあげちゃったよ、俺」
あんまり性分じゃねェんだよなぁと溜息をつきながら、宗則をいじめる敦史は楽しそうだ。

でも、だ。沙羅が敦史にそんな話までしているのなら、それなりに仲良くやっているということだろう。宗則はそれでヨシとすることにした。

「俺はそれよりも、今日のこの作戦の方が気になるけどな」
「気になるって?」
話題が変わったことに少し安心した宗則。

「センセーは、こんなんで本当に別れて大丈夫なんか?」
その一言は、ものすごく小声で。

「うん…なんか、本当に別れたいみたいだよ。でも、会って話そうとすると…」
宗則が拳を握りしめて頬に当てる。

「マジか?」
博俊が、ここまで怒る理由がわかった敦史である。

「化粧で隠してるけど、こないだ顔に青痣できてたと思うんだ…。もしかしたら腕とかにもあるかも」
「それやべェだろ?なんだってそんな男に騙されてんだ?」

そんな男、そもそも好きになんかなるなという剣幕の敦史。普段のらりくらりしているが、こういう場合は物凄い怒りをあらわにする敦史。

「もし、お前でも勝てないようなヤツだったら、俺も暴れるわなァ」
敦史の目が完全に据わっている。

「まー、俺、お前、将大に久苑、それからお前の嫌いな亮太に都築先生だろ?いくら相手が悪くても負けはしないよな」

「敦史、それってただのリンチじゃん」
俺はサシでやってやるよと強気の宗則。

「お前ら〜、着いたぞぉ」
すっかり話し込んでいた2人を外から呼ぶ将大の声。慌てて電車から降りる2人。
学校のあたりから、電車で約1時間半。ここまで来ると、杏奈が言った通り本当に田舎の風景だ。
改札を抜けると、杏奈が自転車で待っていた。

「みんなごめんねェ、家まで歩いて20分くらいかかるんだよね」
「その辺は大丈夫っすよ!陸上部なんだからっ!」
敦史と共に、ノロノロしていたら、亮太が真っ先に杏奈に駆け寄っていた。

「あンのヤロー」
当然のことながら、杏奈と宗則が先週『お泊まり』してしまったことなど知らない亮太は、今回もいろいろ、近付くために寄っていくに決まっていた。

「怒るな怒るな。別にいーだろうが、話すくらい」
「良くないよ〜!俺まだ、完璧に落とした自信ないンだからさァ」
並んで歩き始めた2人を見て、本気で落ち込む宗則。

「あァら、宗則君にしては随分弱気ねェ」
敦史がわざと、おネエ言葉で冷やかしてくるが、悪ノリで返す余裕はない。

「先生、都築先生は?」
こっちに振り向かせるために、気を使った敦史が声を張り上げた。

「もう着いてるわよ〜。高速乗ったら、早かったみたい」
振り向いて、大きな声で応える杏奈。

「おい、お前」
敦史が落ち込んだままの宗則の腕を引いた。

「お前、亮太よりも都築先生の方が、よっぽど強敵なんじゃねェのかィ?」
「えーッ!?万に一つも勝ち目ないやんかぁ〜」
「なんで関西弁?」
ますます落ち込みながらも、言葉を変える余裕は生まれたのか、宗則は、ノロノロと、みんなの列の後ろを歩き始めた。

「みんな、うちに着いたら、お寿司よぉ!都築先生が買ってきてくれたから」
「まじでか!」
「本当!?」
「やったー」
それぞれの反応を見せる陸上部一行。

「敦史…、一味持ってきた?」
宗則が力のない声で聞く。

「当たりメェだろィ?」
たとえ寿司にワサビをつけようとも、一味は絶対に外さない敦史。

「俺、タルタルソース忘れたァ!寿司ってなんでご飯ついてんだよォ!」
「お前ね…」
寿司飯がなくなったら、ただのお造りだろ、と思いながら、敦史は宗則の肩を、ポンポンと叩いた。

************

電車で来た一行より早く着いていたのは、博俊だけではなかった。

「郁彦兄ちゃん、何してんだよ?また応援来たの?」
リビングの床に座り込み、拗ねたような表情を見せている郁彦。

「俺は来たくなかったんだっ!」
そういえば、外に見慣れた赤い車が停まっていたような。同じ車なんてどこにでもあるだろうと、たいして気にも留めなかったのだが。

「はぁ〜い、みんなぁ!明日頑張ってよねェ」
やはり。キッチンから顔を出したのは伊吹。

「お、一週間ぶり」
冷静な挨拶ができるのは敦史だけである。

「明日休みかぁ?」
美容師の休みは月曜と相場が決まっている。そのほかに数日、時々交代で休みを取るらしいが。

「違うわよ〜、あたしは朝帰るわよ、郁彦置いて」
「なんでなんだよ?伊吹!」
立ち上がり怒りだす郁彦。

「何もわざわざっ…、2人でいいじゃないか…」
怒っている口調のはずなのに、今にも泣きそうな郁彦。その、郁彦の表情を見て、宗則は、すぐにピンときた。たぶん敦史や博俊も。

会えないはずの日曜日、会えると思って喜んだら、こんな所に連れてこられたもんで、郁彦は拗ねているのだ。どうせ会うなら、大勢より2人きりがよかったと。

(兄ちゃん、その拗ね方、犯罪的に可愛いって…)
自分のことは棚に上げて、宗則は心の中でツッコミを入れた。

一般の高校生達は、突然始まった痴話喧嘩に、どこを見たら良いのかわからず、視線を宙に泳がせている。

「あなたを明日、1人にさせておきたくないの」
伊吹が、持ち帰りの寿司を、冷蔵庫から運びながら言い放った。
杏奈は、皆が並んで座れるだけの予備テーブルを探しに、奥の部屋へ行ったまま。

「なんでだよ?いつも通り予備校行って勉強するだけだろ?何か不満なのかよ」
自分達が来る前に喧嘩は終わらせておいてほしかった、仲裁に最適な都築先生もいただろうに…と、誰もが考え始めた頃。

「じゃあ郁彦、どうしてこの季節にずっと長袖なのよ?」
あなただけよ?と伊吹が指摘する。確かに、今日の最高気温は30度近くまで上がっていた。

上着は持っているとは言え、もう半袖の季節といっていい。将大などは、そろそろTシャツ1枚で学校に行きだすだろう。

郁彦が長袖を着ている理由に思いあたるのは、本人と、伊吹と敦史、それに宗則だけだ。もしかしたら、博俊も気付いたかもしれないが。

「兄ちゃん…また?」
つい先日も切ったばかり。あの時は、素早く気付いた敦史の機転と宗則のおかげで大事には至らなかったが。
郁彦が、宗則の言葉を否定しない。目を伏せて、伊吹から視線を外すが、その目は泳いでいる

「まー、やっちまったもんは仕方ないんでねェの?ホラ、お前!愛しの彼女に心配かけたんだから、とりあえず謝っとけ」
敦史が明るく間に挟まって、郁彦の後頭部に手を当て、無理矢理ながらも頭を下げさせる。

「みんな、何立ってるの?」
予備のテーブルを抱えた杏奈が戻り、ようやくその場の空気が変わった。

************

寿司の上に一味をかけて食べる敦史に、宗則以外の面々は驚いて、引き気味だった。

「宗則君、もしかして、お寿司も駄目だった?」
あまり箸の進まない宗則に気付いて、隣に来た杏奈が小声で聞いた。

「ちょっと苦手。でも大丈夫っす!食べれないことはないからねィ」
ご飯嫌いを覚えててもらえたことだけで嬉しい宗則。

「言っとくけど、残すなよ、お前たち」
伊吹にビールをついでもらいながら、博俊が言った。その、穏やかな声で、一瞬にして場が静まり返る。

(ちょっと多いような気がするんですけどっ)
思ったのは、宗則だけではないだろう。

「任せたぜィ兄貴!おメェが食わずに誰が食うッ!」
普段ならここで、喧嘩にでもなるところだが、人の家に来ているせいか、将大は大人しかった。

「俺、けっこー食ってるぞ?お前も食えよ」
残すの嫌いだろ?と言われてしまっては何も言い返せない。

「ぉ、ぉう!大丈夫っすよ!都築先生のおごりですからァ、責任持って食べますよっ!」
苦手なご飯を頑張って食べるハメになった宗則。

「ホレ、お前も呑め」
ビールの入ったコップをぐいっと差し出す博俊。

「いいの?」
嬉しくてついつい声のトーンが上がってしまう。贅沢をいうと、ビールよりは他の酒の方ががよかったな、とは思ったけれど。

「敦史も飲んでおけ。明日暴れられるよりはマシだからな」
伊吹が追加で出してきた缶ビールを開け、自らコップに注いで敦史と郁彦の前に置く。

「都築先生、俺はいらないっすよ」
食べ終わった後で勉強したいから、と差し出されたビールを戻す郁彦。

「じゃあ、ソレあたし貰おう」
まだ横に座っていた杏奈がグラスを持ち、コツンと軽く、宗則のグラスに当てて音を鳴らした。

「都築先生、俺も飲むっ」
その様子を見て、黙っていられないのは、当然亮太。

「お前はやめときなさい」
しかし、亮太の気持ちを知っているはずの博俊が、亮太にはグラスを渡さなかった。

「明日のこと考えろ。お前は絶対飲むな」
博俊の、いつになく厳しい口調。それは、明日試合があるからだけのものではないように思われた。

「あっれェもしかして橘君ってェ、お酒飲めないのォ?」
目敏く宗則がツッコミを入れる。杏奈は今、隣にいて、一緒に飲んでいるのだ、怖いものなんてない。

「宗則、その前にお前高校生…」
「るっせぇんだよッ!!」
もっともなことを、注意しようとした将大の言葉を、誰も聞いていない。

「かわいそー!飲めないんだってェ!ねぇ、敦史」
横を向くと、敦史は2人の言い合いなど、どこ吹く風で、後ろを向いて差し入れのコンビニの袋を漁っていた。

振り返った敦史が嬉しそうだ。
「さっすが都築先生、この差し入れ最高」
上機嫌で敦史が取り出したのはいいちこ2リットルパックとつまみ各種。

「それ、俺じゃないぞ」
博俊が、食事を終えたからか、横を向いて煙草に火をつけながら言った。

「敦史、一緒に飲むかなぁと思って」
焼酎の差し入れの主は伊吹だった。

「そうだったんか!さすが伊吹!サンキュー!こっちで飲みモード入ろうぜィ」
無理矢理、博俊の横に移動する敦史。当然、博俊も飲むものだと決めてかかっているのだ。

「俺もっ!食うケド飲む飲むっ!あ〜橘君、一緒に飲めなくて残念だなァ」
目を細めて、あきらかにニヤついて、心にもないことを言う宗則。

「お前っ!表出ろっ!このやろう!」
「おうおう、いくらでも出てやるわィ」
勢いよく立ち上がる1年生2人。2人の怒鳴り声に、玄関チャイムの音が重なったことに、果たして何人気付いたのだろうか。

「お前はいつもいつも、くだらないことばっかりしやがって…1回決着つけなきゃと思ってたんだよっ!」
「てメェ、そりゃ俺のセリフでィ」
回りの声も音も、聞こえなくなっている2人は、玄関から入ってくる男の姿も、目に入らない。

「なんだてめぇら」
杏奈が小さく震えている。今入って来た男こそ、杏奈の暴力彼氏(命名宗則)であった。

「なンだてメェ、邪魔なンだよ、コノヤロー」
ばこっと、宗則が男の顔を掴み壁に叩きつける。

「邪魔だぁっ!どけぃ」
そこを、亮太が蹴り上げる。
2人は殺気だったまま、本当に外に出て行ってしまった。

「いてててて…杏奈!なんなんだよアイツらは!」
いかにもまだ学生、といった顔が、ずらりと並んだリビングをみて、男が怒鳴った。

「週末は俺が来るってわかってんだろぉ?何だってこんな奴ら呼んでんだよっ!」
ずかずかと部屋の中へ進んだ男は、杏奈の姿を見つけるなり、髪の毛を掴んで引っ張り上げ、立たせる。

「んくっ…」
苦しそうに顔をしかめる杏奈。

『この大事な時にあの馬鹿』
敦史は、博俊の声を聞いたような気がした。
今時の言葉で言うならば、まさに『チャラ男』ってやつだ。そんな男が杏奈の彼氏だなんて、思いたくはなかったが。

『サシでやってやる』と、豪語していた宗則がいない以上、俺の出番かなと、敦史が立ち上がりかけた時だ。

「いい加減にしなよ、この馬鹿男っ!」
怒気を含んだ声と共に、男が後方へふっ飛んだ。

博俊が立ち上がり、こういう荒事には慣れていない部員達を、奥の部屋へと押しやり、扉を閉めた。

「伊吹、あんたもあっち行っとけよ」
敦史の言葉は聞こえなかったらしい。

「悪いけどねぇ、あたし、あんたみたいな馬鹿男が一番嫌いなんだよっ!」
男を蹴り飛ばした久苑が怒鳴っている。3年間、クラスは一緒だが、ここまで本気でキレている久苑を見たのは、敦史は始めてだった。

「そうよ、本当にムカつくチャラ男ね!イマドキ、モヒカンにでもしてやろうかしら!」
仕事用の、ハサミを取り出した伊吹が久苑に続く。

「それとも、五厘刈りの方がいいかしらっ」
五分ではなく五厘。丸坊主に等しい。
染めた長めの髪にオレンジ色のメッシュを入れ、Tシャツに膝丈のパンツをはいた男は、立ちはだかった2人の女に、正直ビビっていた。

たった蹴り一発で、男を3メートルもふっ飛ばした久苑。美容師用のハサミと、バリカンを構えた伊吹。腰を浮かせて、いつでも出て行ける体勢になっていた敦史は、そのまま座り直した。隣には、涼しい顔で煙草に火をつける博俊。

「久苑がここまでキレたの、久しぶりに見たなぁ」
なんて、のん気に呟いている。『そこいらの男なんかよりずっと強い、久苑は怖い』とは、よく耳にする話ではあるが、実際見るのは始めての敦史。

「杏奈先生、コイツに言いたいことあるなら、言っていいっスよ」
久苑が、まだ怒気を含んだ声で言い放つ。

「杏奈ぁ、わかってんだろ?俺はお前がいないと…」
バコッ

「勝手にしゃべんじゃねェよ、蹴んぞ、コノヤロー!」
男の言葉は途中で途切れた。久苑の蹴りが顎に入ったからだ。蹴ってから警告しても意味ないじゃん!とツッコミたくなったのは敦史だけではないはずだ。

敦史は何か、面白いものでも見ているような気がして、煙草に火をつけた。

「あたしたち、もう、終わりにしたいの」
久苑の蹴りによって開放されてから、ずっとへたりこんだままだった杏奈が、ようやく口を開いた。

「俺は杏奈が好きなんだよ?お前がいないと駄目なんだよ」
「あたしはもう、疲れたの」
恐る恐る、といった口調で、男に言う杏奈。きっと、普段はそこまで言い切る前に殴られているのだろう、身体が震えている。

「なんだとこのっ…」
ジャキ。

「誰が動いていいって言ったのかしら?前髪切っちゃうわよ」
言葉とともに、はらはらと落ちていく男の前髪。眉毛の上3センチの長さというところだろうか。しかも、左だけ。

「合鍵出しなさいよ」
ブチ切れたままの久苑が、男の肩に足を乗せて言い放つ。

「え…?」
「持ってんだろ?この部屋の合鍵。さっさと出せコラ」
男は、慌てて、ポケットの財布の中から合鍵を出し、前に置いた。

「杏奈先生に謝りな。もう2度と関わりませんってな」
足を肩から離した久苑が、今度は後ろに回る。

「このガキっ!好き勝手しやが…」
その隙にと、反撃を試みた男の拳は、久苑の髪をかすっただけだった。

「てめェ、人が大人しくしてりゃー調子乗りやがってコラァ!!」
罵声と同時に、男のみぞおち深く入った久苑の拳。

「女子高生にやられるなんて、情けない馬鹿男」
容赦のない久苑の声が、意識を手放す寸前、男の耳に届いて、残った。

(女子高生…?)
バタンと倒れる馬鹿男。杏奈は、呆気に取られて、ことの成り行きを見つめていた。

「あ〜なんか腹立だしい!本当に五厘刈りにしてやりましょ」
バリカンのスイッチを入れて、髪の毛を刈りだす伊吹。なにやら、剃刀も持っている。

「杏奈先生、こんな馬鹿に負けてちゃ駄目っすよ!大丈夫ですか?」
掴まれていた髪の毛を心配し、杏奈を覗き込む久苑の顔は、穏やかなものに、戻っていた。

「は〜い、できたァ、カワイクない〜?」
楽しそうな声を上げたのは伊吹。確かに五厘…というか、髪の毛は、切られた後から剃られて、坊主になっていた。それも、左だけ。

「ふふっ、さすがに懲りたでしょうね、このチャラ男も」
久苑が笑っている。

「敦史、コレ、外に捨てて来てよ」
名指しされた敦史は、素直に久苑の言葉に従った。

(女って怖いですねィ)
思っても、声はもちろん顔にも出さない敦史は、男を引きずって外に出た。

「てメェ、なかなかやるじゃねィかコノヤロー」
「お前こそ!ただのガリガリの貧弱男じゃなかったんだな!」
「貧弱じゃねェっ!」

外では、まだ、宗則と亮太の殴り合いが続いていた。

「アイツら、馬鹿ですか?」
男を引きずったまま、呆れたように呟く敦史。

「うーん、いいんじゃないのかな」
応えたのは、敦史を追って来た杏奈だった。

「それは?自分が取り合いされてるからって意味かィ?先生」
皮肉を込めて敦史は言う。これで男の問題は片付いたはずだ。あとはこの人が、宗則に対して、どう思っているのかが知りたかった。

「仲が良いほど喧嘩するってやつだろ、あいつらは」
博俊も、玄関から出てきて口を挟んだ。

久苑と伊吹の2人が、切った男の髪の毛を掃除しているらしい。
「仲がいいって言うんスか、あいつらの場合?」
呆れた敦史の問いに、博俊は微笑みで応えた。博俊は、2人共、お気に入りらしかった。

「杏奈、お前、ちゃんと教員免許取れよ」
博俊が話題を変えるが、視線は駐車場で殴り合う2人に向けたままだ。

「もちろんですよ!それは大丈夫と思うんですが…、今、なかなか採用がなくて」
杏奈の声が少し沈んだ。1人か2人の募集に、応募が何十人、それが現実。

「アイツの親父、誰だと思ってるんだ?」
ニヤリと笑いながら、博俊が言った。顎を僅かに動かした先には、跳び膝蹴りを決める宗則。

「都築先生…」
採用してやるから、ちゃんと資格取って受けに来いと、博俊はそう言っているのか。

「さーすが。言うことが違いますよね、リジチョー」
敢えてそっぽを向いたまま、言ったのは敦史だ。まさかと言った表情で博俊と敦史を交互に見つめる杏奈。

「おや…どうしてそれを?」
博俊は否定しなかった。信じられないといった顔の杏奈。

「こー見えても情報通なんだよな、俺。今の理事長って、アンタの弟で、名前貸してもらってるだけだろ?ちゃんと、役員名簿調べたら、あんたの名前出てくるもんな」

敦史の言葉に博俊は目を細めた。
「現場主義と言ってくれ。まぁ、あと数年だな。そのうち俺が、本当に理事長になってしまう」
まるで、理事長になるのが嫌であるかのような博俊の言い方だった。

「いいんじゃねェ?教壇に立ってるの、似合ってるぜィ、都築先生」
それだけ言うと、敦史は気絶したままの男を引きずって、その場を離れた。自分みたいな半端な不良に、初めてマトモに向き合った博俊。自分の生まれや家庭の事情を知っても、それがどうしたと、誰だって人とは違う人生を歩んでいると言い切った博俊。彼が担任だったからこそ、サボりまくりながらも、自分は学校を辞めなかったのだ。

男を、マンションの敷地から出し、近くの道路脇に置き去りにして、敦史は戻った。さすがに、宗則と亮太の喧嘩は、博俊によって中止され、2人共部屋に戻って、残った寿司を食べさせられていた。

久苑と伊吹と杏奈の3人は、女だけで飲み、奥の部屋では郁彦が勉強する横のベランダで、将大と絵理奈が、2人でくっついて星を眺めている。

(なんだおメェらよかったじゃん)
声には出さない敦史は、博俊の隣に座り、再び酒を飲み始める。さっきの話は秘密。この場では一切口には出さない。

翌日に競技を控えた3人から、風呂に入り先に寝た。
朝方、最初に伊吹が仕事のために出ていき、残りはみんな、都大会へと向かったのだった。


終わり













自分ツッコミ

なんとか完結しましたぁ!!
こんなところで終わっていいのかという気もしなくもないですが…
書けば書くだけ、永遠に続いてしまいそうな気がするので、ここで終わりにします。
書きたかった部分はほとんど書きましたからね。
心残りは郁彦&伊吹のラブシーンさ。
本編でも書かないのにィ…(泣)

でも、高校編、かなり気に入ってますので、この先、短編は書くと思います。
たぶんキャスト偏るだろうけど…、楽しみに…しててもらって、いいんだろうか…(((^_^;)

実は高階は、タイトルを考えるのが、凄く苦手です。まだ、高校編は『お遊び』だからいいんだけど、死にそうになってるのが、本編…(号泣)
誰か助けて…

とにかく、こんなところまで、読んで下さったあなたに感謝!ありがとう!!


高階千鶴(2006/08/18)


























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