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第11話 第2週月曜日


2人一緒に登校するのはマズイだろうということで、杏奈を駅まで送り届けた後、宗則は一旦家に帰った。
父も兄ももう出かけた後で、誰もいない家で、洗濯機の中に、昨日の汗まみれのジャージを放り込む。

携帯で、セットしておいたアラームより先に起きた宗則は、宣言どおり、朝から杏奈をもう一回襲った。
できることなら、このままずっと、繋がっていたいなんて思ったのは初めてで。
宗則はしばらく、自分の部屋で、余韻にひたっていた。

お昼近くなってから、ようやく学校へ向かう宗則。
真っ直ぐ、屋上へ向かった。

「あ、おはよう、敦史」
だいたいいつも、月曜は来るのが早い敦史の姿を見つけ、隣に座った。

「俺さァ、電話かメールしろって、言ったよなァ」
ふぅ、と煙を吐き出しながら、敦史の低い声。

「あっ…あのっ、ごめん」
そんなこと、すっかり忘れていた。それどころじゃなくて、そこまで気が回らなくて。

「俺はいいんだけどよォ、先週の先生の飲み代、お前についてるぜ」
「…?んなぁっ!」
寝てしまった杏奈が支払えるわけもなく、宗則のバイト代でツケた状態だ。

「…まぁ、いいや。彼女に、おごったと思うことにしておくよ」
杏奈は昨夜のバーでの飲み代と、ホテル代を出してくれていた、だから。

「んで。…ヤったんか?」
「は、はいいっ?」
突然話題が変わって過剰に反応し、間抜けな声を上げてしまう宗則。

「おメェ、わかりやすいんだよ」
火を消しながら、ニヤニヤ笑う敦史。

「そんなんじゃ、あの、顔はやたら綺麗なくせに腹黒い大人に、バレバレだぜィ」
俺でもわかるんだから、と。それが、誰を指すことなのか、確認するまでもなくて。

「うわぁ、俺5限目会う〜」
いくら、あの、何を考えているかわからない先生に会いたくないとしても、杏奈の授業はサボりたくない。

「まァ、せいぜい頑張って、イビられなせェ」
はっはっは、と声をあげて笑う敦史。

「きっとなぁ、先生もさらっと何か、言われてると思うぜ。あの人、気に入った人間は逃がさないからなぁ」
おかげで俺なんか、3年間アイツのクラスだぜ。
そのおかげで、こうやってサボれるってのもあるんだけど。

「敦史は、昨日どうしたの?」
キャバクラに行こうとか、風俗に行こうとか、さんざん言ってたけど、宗則はそれどころじゃなくて。

「ぁあ、あの銀髪、俺の家の前まで送りやがってよォ、アイツ絶対わざとだぜ?」
喫煙OKな博俊号で帰った敦史。
途中で降ろしてはもらえなかったらしい。

「しゃーないから、留理香(るりか)呼んだぜ」
「なんだ、人のこと言えねェじゃん!することしてんじゃねェか」
「お前とは大違いだわィ」

敦史の最近一番のお気に入りじゃなかったかな、と記憶を辿る宗則。

「そろそろ合鍵欲しいとか、今度の日曜は一緒に買い物行こうだとか、女ってどうしてあーなんでィ!」
1人の女に縛られたくない、それは、宗則も思っていることで、気持ちは、なんとなくわからなくもない。

第一、敦史をよく知る宗則にしてみれば、暇さえあれば、バイトに行ってる人間と、デートの約束をしようと考えるのが無謀な話だ。

「俺はもうアイツは呼ばん!」
敦史は、相当、ご立腹のようだ。

「宗則、お前、沙羅ちゃん紹介しろよ」
「はイぃっ?」
声が裏返ってしまう宗則。

「おメェがなんにもしないんなら、いいじゃねぇかィ」
「沙羅ちゃんって、敦史のタイプじゃないよっ?」
「おーお、そういうのもたまにはいいかもねィ」
指で、唇を触りながら、遠くを見つめている敦史。きっと、沙羅の容姿を想像しているのだろう。

「沙羅ちゃんは、そういう子じゃないから駄目っ!第一あの子さァ…」
もごもごと口ごもる宗則。

「なんだよ?」
「い…いやァ」
「おメェらしくもないねィ」
新しい煙草を取り出し、火をつける敦史。宗則も、それにならう。

「沙羅ちゃんさぁ…経験ないよ?俺らみたいのが初めてって、可哀想じゃん?」
ぶっ、と敦史が吹き出した。

「処女か?」
「うん、間違いないと思うよ」
小学校からずっとクラスが一緒の宗則と沙羅。
その間、一度も男の影がないことを知っている。

「大丈夫だ!目ェいっぱい優しくする!」
くわえ煙草で宗則の両肩に手を置き、がしっとつかむ敦史。

「そういう問題じゃねェだろィ」
肩から無理矢理手を降ろす。

「紹介してくンねェなら、自分から口説きに行くわァ」
「…やめてあげようよ…」
おもいきり、溜め息をつく、宗則だった。

************

5限目。化学の授業が始まった。
指導担当の都築は、必ず毎回一緒に来て、教室の後ろで授業をみつめている。

宗則の席も、一番後ろ。敦史に注意はされていたけど、いざ、杏奈の姿を見たら、そんなもの忘れてしまっていて。

彼女も、チラっとこっちは見たけれど、それ以降は目を合わせないようにしてる。
宗則は、もちろんそれでかまわなかった。

こんな教室で、2人の関係を公になんてしたくない。ただ、唯一の問題は、都築だった。
授業が中盤に差し掛かった頃。

「よかったみたいだなぁ」
宗則の椅子の背に両腕を乗せて、他には聞こえないような、小さな声で、ボソっと言われた。

「先生っ!!」
飛び上がってしまう程、驚いた宗則。

「どうしましたか?佐々木君?」
怪訝そうに授業を中断する杏奈。

「なんでもないから、気にしないで続けて」
答えたのは、まだ宗則の後ろに張り付いていた博俊。
ちょっと不安そうに、でも授業を再開する杏奈。

「学内ではなんにもするなよ。わかってるなぁ?」
更に小声で続ける博俊。教科書で口元を隠しながら、宗則も答える。

「わかってますよ!そこまで馬鹿じゃないやィ」
「どーだか。体育館倉庫とか、保健室とか、放課後の屋上とか、美術室とか、放送室とか、ずいぶん好きみたいだけどなぁ」
「ぶっ…」

やっぱり、この人だけは怖いと思った。言われた場所は全て、かつて宗則が『した』ことのある場所ばかり。

「どうせ俺は、顔が綺麗なくせに腹黒いから、そう簡単にこんなオイシイ事実を公にはしないけどなァ」
「…!!」
ニヤリと笑う、博俊の細い目が光っている。

「せ…せんせー」
それを言ったのは俺じゃないっす。怖いから止めて下さい…
宗則は、目を合わせることができなかった。










自分ツッコミ

一番短いですね〜
いや、この後が長いんで、分けたんですよねぇ。

相変わらず博俊先生は…
なんでもお見通し(苦笑)



























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