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第8話 禁煙車


敦史と入れ代わるように、走ってきた杏奈。
「宗則君、表彰式行こう」
まだ座ったままだった宗則の横にしゃがみ込む杏奈。

「将大君よかったね、優勝で」
今は、兄貴のことなんか、どうでもよくて。
みんなが、表彰式に注目してる、このスキに、この、グラウンドの端で。

「…んせー」
「ん?」
杏奈は、表彰式の方から、目を向けた。宗則に。

「先生、この後なんか用事ある?」
勢いに任せて、杏奈の手をにぎった。

「…ないけど…」
「じゃあ…」
宗則は息を飲む。兄貴のこと、馬鹿にできないくらい、緊張してる、この俺が。

『この後、俺と、どっか行きませんか?』
喉まで出かかった言葉は、なかなか声にはならなくて。

「表彰式行こう」
そのまま手を引かれ、立たされた宗則。表彰式に行ってしまえば、2人きりではなくなってしまう。

「メールして」
小さく、囁く声が、聞こえた気がした。
ハッとなって顔を上げる宗則に、もう杏奈は普通の表情で。

「わかった?」
と微笑んだ。

「はいっ!」
みんなと一緒にスタンドに置きっぱなしの荷物。
携帯に、新着メッセージが来ていることに、宗則はまだ、気付いていなかった。

************

「あ、親父ィ」
表彰式の列の中に、校長の姿を見つけた宗則。

「兄貴の走ってるとこには間に合ったのかよ?」
小声で話す父と子。

「ギリギリな。残り3周だったぞ。宗則が走ってるところも見たかったなぁ」
「んなモン見なくていいわィ」
この日、全ての日程が終わり、とりあえず集まる一同。

「みんな、今日は頑張ったから、車で送ってあげよう」
ニコニコ笑う篤良。校長と博俊、2人共ワンボックスだから、全員が乗れた。

「杏奈ちゃ〜ん、そういうことなら送ってあげるわよん」
少し離れたところから、声をかけたのは伊吹。どうやら2人、年が近いせいでずいぶん仲良くなったらしい。

「先生たち、こっちにもう1人乗れるわよ?」
「俺が乗りますっ!!」
と、同時に手を挙げたのは、やはり宗則と亮太だ。

「なんでだよ、お前は校長先生の車で帰れよ!どうせ家帰るんだろ?」
「おメェこそ都築先生んちの隣に住んでんじゃねぇかっ!!」
お互いが、お互いの胸ぐらを掴んで、一歩も譲ろうとはしない。

「宗則」
割って入ったのは篤良だ。

「お父さんの車は禁煙車だからね!向こうに乗りたいなら、遠慮せず乗っていいからねっ!」
(おいおい親父…)

車で吸って欲しくないから乗るな、とはひどい話である。それに、陸上部の顧問が、ちょっとブっ飛んだ都築じゃなく、頭の固い生活指導の先生なんかだったらどうすんだ、と思いながら、それでも今は、この父親の天然ぶりに助けられた。

「そゆワケなんで〜、みんなお疲れ〜!」
らったった、とスキップする勢いで赤い車に走り寄る宗則。

「おーい、宗則、ちょっと待て」
博俊が呼んだ。

「なんですかぁ!」
もう、早く行きたいのにっ!という顔で戻ってくる宗則。

「お前、頑張ったからいいこと教えてやるよ」
ヒソヒソと耳打ちする博俊。

「!?…お疲れ様でしたぁ〜!」
宗則は走って行く。耳が赤くなっていたような気がするのは気のせいか。

「先生、アタシ、約束あるから電車で帰ります」
ペコっと頭を下げたのは久苑。

「ああ、お疲れ様」
特に理由も聞かず行かせる博俊。
残りは、2台の車に分乗して、それぞれ競技場を後にした。

************

「彼氏持ちだぞ」
博俊に囁かれた、最初の言葉。

「せんせ…」
『それのどこがいいことなんでィ!』
と言いかけた。

「どうも上手くいってないらしい。今日も喧嘩して、約束ほったらかしてこっち来てる」
「!?」
宗則は、顔が赤くなるのが、自分でわかった。

「…お疲れ様でしたぁ〜!」
誰の顔も、マトモには見れなかった。走って、3人が待つ方へ。

なんで博俊がそんなことを教えてくれるのかは、わからなかったが。
「どーしたんだ?お前」
郁彦が不思議そうに助手席から振り返る。

「なんでもないやィ」
恥ずかしくて、隣が見れない。窓の外ばかりを見てしまう。と、そこへ、見慣れた色のジャージが目に入った。

『え…』
郁彦が何か言って、車は歩いている2人の横に停まる。

「よォ、お疲れさん!」
窓から身を乗り出して、2人を呼ぶ郁彦。

「郁彦!来てたのか!」
手を上げ、近づいてくる他校のジャージの男と、久苑。

「久しぶりだなァ!元気してっか?」
他愛ない会話を交わす2人。一歩引いたところで、知らん顔をしている久苑。

「また飲みにでも行こうぜ」
「よく言うわ、デートで忙しいんだろ」
「お互い様だろ!」
「お前の奢りなら大歓迎だけどな」
「考えとくわ!じゃあな!また電話するわァ」
郁彦は窓を閉め、車が発車する。

「ちょっ…ちょっと、郁彦兄ちゃん!」
確かに見た。あの、中身は男の性格の久苑が、手を繋いで、歩いて…。

「なんだお前、敏成知らねぇのか?」
助手席に身を乗り出して、ぶんぶんと首を横に振る宗則。

「俺の中学の同級生だぜ?あー、ついでに、悦哉んちの近所」
「へぇ…知らなかった…じゃなくて、久苑がっ!」
「あいつら長いぜ〜?なんで別々の高校受けたんかなぁ?」

(知らなかった…)
久苑の女の部分を見てしまって、ちょっとショックのような気がする、宗則だった。

************

>宗則です。先生ごめん!
>都築先生がなかなかメモ渡してくれなくて。やっとメールできました!

>そうだったんだぁ!嫌われたのかと思ってましたぁ(T_T)
>宗則君、この前はありがとう!でも、せっかく学校に行ったのに、保健室で寝かせてもらっちゃいました(((^_^;)
>今度、お礼するね(^^)v

『今度っていつかなぁ…』
気になって気になって、おまけに博俊にあんな情報をもらったせいで、余計に…。
まだ、マトモに、右を向けない宗則だった。

************

「宗則君〜吸うなら吸っていいわよぉ!灰皿あるでしょお」
伊吹に言われ、ありがとうございます、と1日ぶりの煙草を取り出す宗則。

「で〜、2人はどこで下ろして欲しいんだァ?」
郁彦の言葉に、過剰反応をしてしまった。
郁彦が、わざと、2人一緒に下ろすような言い方をしたことにも気付かない。何も言えない。

「宗則君は…真っ直ぐ帰るの?」
尋ねたのは杏奈だった。

「お…俺ワァ、親父があんなん言ったってことは、遊んで来ていいってことだと思うんだけど…」
「じゃあ、ご飯でも食べて帰る?」
『…っ!?…』
何気なく振り返ると、上目使いの杏奈と目が合った。上目使いのつもりはないのかもしれないが。

「あ…あのっ…」
「ハイハイ、続きは2人でやってちょうだいねぇ!アタシ達が邪魔みたいじゃないのよ〜!」
伊吹が茶化す。だいたいの話は、郁彦から聞いているらしい。

「どっか適当に下ろすわね〜」
伊吹がアクセルを踏み込んだ。










自分ツッコミ

本編より早く出てしまった敏成君…いいんですかね…(^-^;
本編でも、まだそこまで行ってないのに…(まだまだ書く予定ナシ)

まぁいいや。お遊び小説ですからねっ!

郁彦と伊吹のこの後!も書きたかったけど、涙を飲んで省略です…





















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