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目覚めたら、隣の布団は綺麗に畳んであって、十四郎は横で死んだように眠ってて。

AURORA PINK


俺は先に寝たから、みんなはもっと遅くまで宴会してたはずだってのに、もう坂本と高杉の2人しか俺達以外には部屋に残っていなかった。

「しーん、お願いじゃから起きて!」
揺さ振られるがままに揺さ振られて、坂本が手を離すとコテンと倒れてしまう、あの、いつもの高杉の寝起きだった。

「わし、もう時間ないんじゃあ、晋ーっ」
どうせしばらく高杉なんか起きないんだから、だったら先に…と言いかけて、俺は高杉が1人で電車に乗れないことを思い出した。

「坂本ォ、俺が連れてってあげやしょーかい?」
ソファに横になったまま寝続ける高杉に、半泣きでお手上げ状態の坂本。俺は寄って行って提案したんでさァ。

「きっと土方もまだ起きねェから。3人で行きまさァ」
いつもの状態の十四郎なら、一番最初に誰よりも早く起きて『お前ら起きろー!』って、起こして回るタイプだってんだが、身動き一つしねェで寝てたってのは、それだけ昨日のお仕置きが身体に堪えてるんだろう。

「沖田君、晋の寝起き、大丈夫かのう?」
殴られるぜよって心配してるから、俺は慣れてるって返してやった。そりゃ最初はドン引きだったんですけどねィ。あれはいつだったか…、とにかく、初めて高杉とラブホに泊まった時でさァ。

「なんか慣れちょるってのが引っ掛かるんじゃけど…」
ブツブツ言ってたけど、結局そうするのが一番いいと判断したのか、坂本はジャケットに腕を通して立ち上がった。

「そうそう、近藤が、土方君の体調が悪ければ、昼過ぎまでに来ればいいって言っちょったからのう」
「来なくていい、休んでいいって言わねェところが近藤さんでさァ」
俺が肩を竦めると坂本は笑い出して玄関へ向かう歩みを一旦止めた。

「アッハッハ、ほりゃ、今日は無理じゃろー。正確には2時までに来てくれりゃーいいはずじゃき」
「2時からなんかあるんですかィ?」
来てのお楽しみじゃ、と言い残して坂本は先に出て行った。

十四郎は、後で起こすとして問題は高杉だ。今から頑張ったところで、きちんと目覚めるには、あと1時間はかかるだろうから。
それにしても、高杉は。昨夜は相当早く寝室に向かったはずなのに。眠れなかったのだろうか?

***

お湯が跳ねる度、背中の傷はズキズキと滲みて痛んだ。

ようやく目覚めた高杉に、総悟は朝ご飯を作ってもらっている。それを食べたら、3人で大学に向かうからって聞かされて、俺はその前にシャワーを浴びているんだけれども。

駄目だという気持ちとは裏腹に、どうしようもない俺の身体は痛みに反応しちまってた。お仕置きされるのが幸せだなんて、今更だけど終わってやがる。だけど、俺にお仕置きしてる時だけは、総悟は俺のことしか考えてないからな、そう思うと。辛いはずの責めで、これ以上ないくらい心が満たされる。

どうにもなんねェ、と思う。

(ぁっ、そう、ご…っ)
立っていられなくなってバスルームの床に膝を着いてへたり込んだ。

あんまりシャワーが長すぎて、不審がられたりしねェかなとか、いろいろ考えたけど、とにかく俺は、おっ勃っちまったモノを収めなきゃならないわけで。結局自分にそうやって言い訳しながら、俺は下半身に手を伸ばしていた。

人様のうちのシャワーでこんなことしてごめんなさい。

昨日あれだけ無茶苦茶にヤラれたってのに、まだ総悟のこと考えるだけで疼いてくるだなんて、本当にどうしようもねェ、ひでェ身体だな、俺は…。

***

辰馬が、2時までに俺らは行けばいいはずだ、って沖田に言い残して行ったらしくて。2時から何があるんだろう?って、俺が持ってた学祭のプログラムを3人で開いて見たんだけどさ。

「いや、まさか…」
「でも能楽研究会じゃねェだろう?」
「じゃあフォークソング同好会のライブですかねィ?」
「いや、それ明日だぜ?」
「ってことはやっぱり…?」

怖いもの見たさってわけじゃねェんだけど、俺らは用意ができてすぐに大学に向かったんだ。土方が体調悪そうにしてたから、それでもゆっくりだとは言え、まだ午前中で11時。真っ先に剣道部の模擬店スペースに向かった俺達は、開いた口が塞がらなかった。

「いらっしゃいませぇん」
そこには、見事にドレスなんか着ちまった、近藤が立っていたからだ。しかもピンク色。

「やっぱりそうか…」
今日の2時からの催し事と言えば、能楽研究会の発表と、女装コンテストだったんだ。まさかあの近藤が女装かよ?って思ったんだけど、どうやら本気だったらしい。

「おー、早かったなァ!トシ、大丈夫かァ?」
近藤のインパクトに押されて、OL風にキメた銀時なんか霞んじまってるぜ。ってか、銀時がスゲェ可愛い女の子に見えちまう。

「近藤さん…。せめて、髭くらい剃れよ!」
笑っていいのか呆れていいのかどうなんだか。対応に困っていたんだけど、とにかく、それだけでも言葉にできた土方、エライ!

「ああ、それもそうだったなァ…」
「どーせならすね毛も脇毛も剃れっての」
髭すら剃ってないってことは、絶対そうだろうと思って、勘で言ったんだけど『それもそうだったなァ』って。スカートめくって脚出さんでいいっての!!

「でも、今からすね毛まで剃るのは厳しいぞォ」
髭剃りくらいなら、電動のを1人くらいは持ってるだろうけど、脚まで剃る用意はしてきてないって近藤。今年で3回目だけど、今まで誰も言ってくれなかったからって、その汚い女装、3回目なのかよ。

「そりゃー近藤さん」
沖田が近藤に近寄って行って、こっそりと何かを言っていた。俺と土方の方向いてるから、どーせ俺らのこと言ってるんだとは思うけど。 後から沖田に聞いた話では、俺と土方はネコなんだから、どっちかっつーとオカマに近いんだから、そりゃただの男とは気付くところが違うって話だったらしい。悪かったなオカマでよォ。

「近藤さん、どうせなら、その汚いままでいきやしょーや!」
髭なんか剃ったら駄目ですぜィ、近藤さんらしくねェや、って言い張る沖田。お前それ、褒めてんのかけなしてんのか。いや、両方か?

とにかく、俺と土方は、模擬店の中に入って手伝いをするために剣道場で着替えた。せっかく2人揃ったんだからって、今日はゴスロリ姉妹指定。着替え終わったら、幾松さんを手伝っている東城にも見せて来いって近藤が言うからさ、俺と土方は2人で、構内をあちこち歩くハメになっちまった。

着替えてる途中でチラっと見えた土方の背中がさ、傷だらけでズタズタになっててさ。血は出てねェみたいなんだけど真っ赤に腫れ上がってて。沖田のお仕置きの跡なんだってのはすぐわかったんだけど、さすがの俺でもちょっとだけ引いちまった。そんなんでよく起きれたな、お前。

「土方、あんま、無理すんじゃねェぞ」
「ん?…ァあ、大丈夫だ」
総悟がしてくれたことだからって。

多分、俺も、どっちかっちゃーMだとは思うんだけど。辰馬は絶対、俺が痛がることなんかしねェからわかんねェけどさ(万斉になら目隠しつけられたことはあるけどよ)。土方には絶対勝てねェって、思い知ってしまった。

幾松さんのラーメン屋に向かう途中で、小太郎が司会をやってるミスコンが行われているステージの近くを通ったんだけど。ステージ前に設置されていたたくさんのベンチの中の一つに、岡田と武市の姿を発見してしまった。2人並んで座って、タコ焼きと焼きそばを食べている。相変わらず2人だけの世界になってんだよなァ。

「あ…」
「どしたァ?」
土方は2人に気付いてなかったみたいだから、視線と顎を上げただけでそっちを示してやった。

武市が持ってたタコ焼きをふーふーして岡田に食べさせてやってるとこ。きっと『熱いから気をつけて下さいね』とか言ってるに決まってる。

「なんか、いっつもアイツら羨ましい…って思うの俺だけか?」
「いや、高杉だけじゃねーだろ」
溜息をつきながら、2人の様子を遠巻きに見ていたら、武市と目が合った。手を振ってきたから、俺と土方は2人の元へ歩み寄る。

「なんだ、誰かと思ったよォ」
視力の弱い岡田は、俺達には気付いてなかったらしい。いや、こんな格好のせいか。それともただ単に、武市しか目に入ってませんってか。

「2人共、ずいぶんカワイイですね」
あんまり嬉しくはないけどさ。ってか、誉めるんなら笑うんじゃねェよ武市っ!俺だって好きでやってんじゃねェっ!

「もしかして、あなたたちもコンテストに出るんですか?」
「ハァ?まさかっ!」
『あなたたちも』の『も』が、近藤のことを言ってるんだってのはすぐにわかったんだけどさ。

「どっちかってェと、ミスコンの方が良さそうだねェあんたらは」
ステージの上を見て溜息を零す岡田。それはお前が女に興味ないだけだろ…と言いかけて、俺も同意してしまった。
ぶっちゃけ、司会の小太郎の方がキレイじゃねェか。贔屓目なんかじゃないはずだ。

「東城さんには見せたんですか?」
ゴスロリといえば東城。それは武市も岡田もよくわかってることで。

「いや、今向かってたとこだァ」
「そうですか。私達は、近藤さんの晴れ姿を見るまではまでここにいますから、行ってきて下さいね」

まぁ、そんなに深い意味はないんだろうけど、せっかく2人でいるんだから邪魔するなってことなんだろうなと思ってさ。土方も同じ様に捉らえたみたいで、2人でさっさとその場を後にしたんだ。

「あいつらってさァ、絶対喧嘩なんかしなそうだよなァ…」
「ってかまず、武市さんが怒るとこってのが想像できねェよ、俺は」

喧嘩もできないような仲じゃーどうしようもねェけどさ、喧嘩なんてしなくて済むならしないに越したことはないんだよな。

俺の中では、昨日辰馬の首筋に残ってた香水の匂いと、小太郎までがファブリーズだなんて言ったせいで問い詰められなかったモヤモヤが残ってる。

で、そうこうしている間に、幾松さんのラーメン屋に到着してしまった。

「ああ、2人共おはよう!土方君体調大丈夫?東城君!」
にこやかに迎えてくれた幾松さんに呼ばれて、後ろで野菜を切っていた東城が表に顔を出す。

「はぅあっ!!!」
あの、細い目を限界まで見開いて、包丁を持ったまま固まった東城。あのな、お前、怖いぞ、その姿。

「ちょ、ちょっと失礼」
慌ててまた後ろに下がって行って、しゃがみ込んでなんかゴソゴソやってる東城を、幾松さんは不思議そうに見てたけど、俺達にはすぐわかっちまった。だって、男だから。

「東城よォ、お前、ノンケだろうがァ」
呆れた顔で、煙草に火を点けながら土方がぼやく。

「と、東城歩、一生の不覚!かくなる上はこのまま潔く…」
って、わけのわからんことを言いながら包丁を腹に向けた東城。『おい、危ねェっ!』って、俺らが口に出すより早く、幾松さんが後ろから東城の頭をひっぱたいていた。

「くだらないことしてないで、さっさとキャベツ切るっ!」
「あ、すいません」

さすが幾松さんだ。たった一言で東城の自殺未遂(しかも今時切腹)を止めちまった。…まァ、本気じゃなかっただろうけど。

「はい2人共、食べて行きな!」
幾松さんがラーメンを出してくれて、俺達は端の方に寄って立ったまんまそれをすする。時間はまだあるから大丈夫だろう。

「2人共、女装コンテスト出たらいいんじゃないのォ?」
次は東城にネギを切るよう指示しながら、幾松さんは俺達に話しかけてくる。しっかり食わせてもらう分東城は働かされてるみたいだった。

「俺は絶対イヤ」
即答した俺に、幾松さんは不思議そうな表情を浮かべた。

「でもォ、さっき坂本君が、人数少ないからって飛び入り参加する子探してたわよ?」
東城に出ないかという打診に来たらしい。東城自身は、優勝商品が米10キロだったら出てもいいと言ったらしいが、ビール1年分だと聞いてやる気をなくしたらしい。米10キロなら、ってところが、あまりにも東城らしい。

「たぶん、銀時君は強制出場じゃないかなァ?せっかく女装してるしね」
アイツまで出んのかよ、ご愁傷様だな、ホントに。

「商品は本当にビール1年分なのか?」
興味津々で幾松さんの話に食いついたのは土方だった。

「お前、酒飲めねェだろ、一滴も」
「いや、総悟が飲むかなーと思って」
沖田って高校生だろーが。いや、その高校生に飲みに連れて行ってもらったのは俺だけど。

「総悟がいいって言うんなら、出てもいいかなァ」
「お前な…」
判断規準が沖田ってのがなァ、こいつは。いいんだけど、どーしょもねェな。

「総悟君って、あの子だよねェ?昨日来てた沖田君?」
ああ、そういえば昨日ちゃんと紹介してなかったんだっけ。幾松さんと土方が同じ俺の部屋で寝ることになって、沖田は土方と一緒の布団に入るだろうからって、紹介した気になっていた。

「そうそう、ゴメン幾松さん。こいつらも、俺らと一緒」
だから同じ部屋で寝ても安全パイだったって、今更そこまでは言わなくてもわかってるか。

「やっぱりねェ。納得」
何が納得なのかと思ったら、今朝、幾松さんが目覚めた時、沖田は土方に腕枕でさ、しっかり肩を抱いて寝てたんだって。

「土方君、愛されてるなァ…って」
「そ、それはっ…」

耳まで真っ赤になって視線を逸らし、一気にラーメンの汁を飲み干して容器を捨てに行く土方。あー、今の顔、沖田に見せてやりてェ。

「高杉君達に負けてないわね、あの2人」
「…うん。…どうかな?」
幾松さんに、自信を持って『そうです』って言えなかったのが、なんだか苦しかった。

もしも、だけどさ。俺が浮気したら、辰馬は沖田みたいに泣いたり怒ったり、してくれんのかなァって。浮気するような相手もいないけどさ。どうなんだろう。辰馬は、自分が浮気するからって、俺の浮気も笑って許してくれたりするのかな。それって、無関心の裏返しじゃねェのか?

多分そういう態度って。嫌われるより辛いかもしれない。

「引き止めてごめんね。そろそろ剣道部のところに戻った方がいいんじゃない?」

容器を捨てに行った土方が戻ってきて、俺らは幾松さんに御礼を言ってその場から離れた。『東城君、サボったら昼ご飯抜きよ!』って、東城をしっかり働かせてる幾松さんの声が後ろから聞こえていた。

***

「頑張ってきなせェ」
沖田の返答は明確だった。

「おっ、トシも出るのかァっ!ライバルだなァ」
がははと大口を開けて笑う近藤だけど、ライバルってお前な。でも、近藤は本気でそう思ってるみたいだし。

「どうせなら晋ちゃんも出ようよォ〜」
辰馬が司会なんだよぅ?審査員の中にヅラと陸奥入ってんだよォ?みんなで協力してビールゲットしようよぅ!って銀時があんまりにもしつこくて。絶対嫌だって言ってるのに、結局会場の裏まで引っ張られて来てしまった。

剣道部から4人も出るなんてどんなだよ?まァ、俺と銀時はにわか部員だけどさ。俺達がいない間、模擬店の方は2回生のやつらがなんとかしてくれることになった。

辰馬が快調な喋りで場を盛り上げている。アイツは本当に、人前で何かするのが得意だよなァ。今出てるのが土方だからかな。

『文学部1回の坂田銀時でぃーっす』
銀時の番になった。なんか、サービス過剰に踊ってやがる。いや、アイツもパー子なんだから、こういうのは得意か。拍手喝采を浴びて銀時が戻ってきて、次は俺の番。

「高杉君、ガンバレ!」
後に控えてる近藤が肩を叩いてくれて、なんだかもう、開き直りの気分。

「次は…、なんで晋なんじゃあっ!!」
マイクを通した辰馬の絶叫がステージに響き渡る。ああ、もう最低。

「陸奥っ!わし、晋が出るなんて聞いてないぜよ!」
「黙れ、とっとと司会せぃっ!」

何、コレ。司会と審査員で漫才?ってか、この後に出なきゃならない俺のこと考えろよ!

「文学部1回の高杉晋助デス…」
騒ぎがあった後だから、観客のみんなのステージへの注目度が、さっきまでとは比べものにならないくらいキツイ。俺に注目する視線視線視線視線視線。

(うっ、やべ…)
吐き気が込み上げてきた。電車よりキツイ、この状況。

「えっと、何か特技でも披露してもらえると…」
マイクを通してるはずの辰馬の声がやたら遠く聞こえる。

(ごめん、辰馬…)
コンテスト台なしにするわ、俺。

「高杉君?…晋っ!」
異常を感じ取ったのか、マイクを投げ捨てた辰馬がこっちに向かってくる。

そこで、俺の意識はふっつりと途絶えた。

***

目覚めた時は、もう外は真っ暗で。学祭期間中に2回も救護室に運ばれちまった俺の横に座ってたのは、沖田だった。

「さっきまで坂本がいたんですけどねィ」
さすがに片付けに行かなきゃならない時間で、どうにもならなくなって、仕方なく辰馬は行ったのだという。

「コンテストは…?」
「陸奥にひっぱたかれて、坂本は結局最後まで司会やり遂げやしたぜィ」
「そ、か…」

俺をここまで運んでくれたのは土方と銀時らしい。その2人も、今は模擬店の片付けに行っている。コンテストは結局、最後に出た近藤が会場の笑いを、いろんな意味で全部持って行って、優勝してしまったらしい。

「マジで近藤優勝したのかよ?」
いろんな意味で笑いを取った、ってのは、想像できなくもねェけどさ。

「近藤さんはやればできる人なんでさァ」
「やればできるって、お前ね…」

間違ってはいないんだと思うけど。辰馬も普段馬鹿だけど、やればできるタイプだし。あいつら仲いいだけあって、本当似てるよな。ただ、その『やってやった』のが女装コンテストってどーなんだよ?

「起きれるんなら帰りやしょーかい」
「大丈夫だ」

帰る前に着替えなきゃな。いつまでもゴスロリの格好でいられるかよ。
沖田と一緒に剣道場に戻ったら、みんなが片付けの手を止めて集まってきた。かなり長いこと寝てたせいで、相当心配されてたみたいだ。

「晋ちゃんごめんねーっ!!」
ごめんねごめんねごめんねって、半泣きで抱き着いてきたのは銀時。『晋ちゃん駄目なの電車だけだと思ってたァ』って。

「いいって。もう大丈夫だし」
俺自身だって、まさかあんなことになるとは思わなかったんだからさ。あんなに、人の視線が駄目だとは、自分でもわからなかった。

「晋ちゃん、辰馬に連絡した?」
「着替えてからする」

辰馬なら、俺が目覚めたって聞いたら飛んで来そうだからな。いくら『もう大丈夫だ』って言ったって、離してくれなくて、着替えさせてもらえないかも。

っていうか、それは俺にとっての『そうあって欲しい』って願望だったんだけど。どうやら現実は違ったみたいだ。

『よかった、晋…』

電話の向こうで、辰馬は明らかに俺が無事に目覚めたことを喜んで泣いてるんだけどさ。『まだそっちには行けんきに、近藤に送ってもらって』って。辰馬に言われる前から、近藤には送るからって言われてたんだけど。

今日も一緒には帰れないのかって、辰馬と一緒だったら電車でも平気なのにって。結局言えなかった言葉を飲み込んで、俺の中にはモヤモヤが残る。

すっかりいつも通りに戻った沖田と土方が、車の中でイチャついててさ。いや、本人らにそんなつもりはないんだろうけど、沖田の脚のマッサージしてる土方って、やっぱイチャついてんだろ?

なんか俺1人、取り残されてるような気がしたまま、大学祭の2日目は終わりを迎えた。

明日はいよいよ、最終日。


END



2日目は短いですが、3日目は、こうはいきませんよ…ふふふ。






















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